説明

トリアリールアミン系化合物の精製方法

【課題】高純度のトリアリールアミン系化合物を、効率的に製造することができるトリアリールアミン系化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(b)を含む。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程


(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリールアミン系化合物の精製方法に関し、特に、電子写真感光体の電荷輸送剤に用いられるトリアリールアミン系化合物に適した精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電式複写機、ファクシミリ、レーザビームプリンタなどの画像形成装置には、その画像形成装置に用いられる露光光源の波長領域に感度を有する電子写真感光体が使用されている。このような電子写真感光体は、一般に、電荷輸送剤を含有する感光層が導電性基体上に設けられている。
また、このような電子写真感光体は、感度に優れていることが望まれており、そのため、感度向上を図ることのできる電荷輸送剤として、トリアリールアミン系化合物が多く用いられている。
また、かかるトリアリールアミン系化合物を、効率的に製造する方法として、トリアルキルホスフィンとパラジウム触媒からなる触媒及び塩基の存在下で、一級アミンとアリールハライドとを反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−310561号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法において、合成したトリアリールアミン系化合物(粗製トリアリールアミン系化合物)を精製する際には、再結晶法が用いられていた。例えば、得られた化合物を良溶媒に溶解した後、さらに貧溶媒を加えて、再沈殿させる方法(再沈殿法)である。そのため、結晶の析出に時間がかかり、製造効率が低下するといった問題が見られた。
また、かかる再沈殿法を実施した場合には、得られたトリアリールアミン系化合物が、加えた貧溶媒の影響、あるいはその他の環境因子によって、油状物に変化し、所定粒径を有する結晶として析出させることが困難になりやすいという問題も見られた。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、一旦合成したトリアリールアミン系化合物(粗製トリアリールアミン系化合物)を良溶媒のみに加熱溶解させて、トリアリールアミン系化合物溶液を得た後、かかる溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、その後、再結晶を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、あるいは、貧溶媒を加えない場合であっても、油状物に変化することなく、微粒子状の結晶を効率的に析出させることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、トリアリールアミン系化合物を油状物に変化させることなく、微粒子状の結晶として析出させることによって、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造できるトリアリールアミン系化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(b)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法が提供され、上述した問題点を解決することができる。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【0006】
【化1】

【0007】
(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【0008】
すなわち、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて溶液を得た後、かかる溶液を冷却状態で、撹拌処理することにより、その後、析出を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、あるいは、貧溶媒を加えない場合であっても、長期間にわたって油状物に変化することなく、微粒子状の結晶を効率的に得ることができる。
【0009】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(2)中、R1〜R13は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0012】
【化3】

【0013】
(一般式(3)中、R14〜R30は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0014】
【化4】

【0015】
(一般式(4)中、R31〜R46は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基であり、Rdは、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0016】
このように実施することにより、優れた正孔輸送能を有する所定のトリアリールアミン系化合物であって、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができる。したがって、電子写真感光体における正孔輸送剤として、好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド及びシクロへキサンからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることが好ましい。
このように特定の良溶媒を用いて工程(a)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
【0018】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、30〜100℃の温度に加熱して、粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることが好ましい。
このように加熱温度を規定して工程(a)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
【0019】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を規定して工程(a)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
【0020】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、加熱温度よりも低い温度であって、かつ、0〜70℃の温度に冷却して、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を冷却状態とすることが好ましい。
このように冷却温度を規定して工程(b)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
【0021】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、攪拌装置、例えば、プロペラ付きの攪拌装置を用いて、10〜1000rpmの条件で攪拌することが好ましい。
このように回転数を規定して工程(b)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
但し、攪拌装置として、例えば、高速せん断ミキサーを用いた場合には、1000〜100000rpmの回転数とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の攪拌時間を1〜100時間の範囲内の値とすることが好ましい。
このように攪拌時間を規定して工程(b)を実施することにより、貧溶媒を添加した場合であっても、あるいは貧溶媒を添加しない場合であっても、トリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができる。
【0023】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、トリアリールアミン系化合物の貧溶媒を添加することが好ましい。
このように貧溶媒を用いた精製方法を実施することにより、さらに純度の高いトリアリールアミン系化合物を得ることができる。
【0024】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、貧溶媒として、アルコール化合物または長鎖脂肪族化合物を用いることが好ましい。
このように特定の貧溶媒を用いることにより、さらに純度の高いトリアリールアミン系化合物を安価かつ効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態は、下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(b)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法である。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【0026】
【化5】

【0027】
(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【0028】
以下、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を具体的に説明する。
【0029】
1.トリアリールアミン系化合物
(1)種類
本発明としての精製方法の対象となるトリアリールアミン系化合物は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物であることを特徴とする。
この理由は、かかる特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物であれば、優れた正孔輸送能を有することから、電子写真感光体における正孔輸送剤として、好適に使用することができるためである。
さらに、後の項において詳述する精製方法によって、高純度の結晶として効果的に析出させることができるためである。
【0030】
(2)具体例
また、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
この理由は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の中でも、これらの化合物であれば、特に優れた正孔輸送能を有する正孔輸送剤として用いることができるためである。
【0031】
ここで、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の具体例としては、下記式(5)〜(10)で表される化合物(HTM−1〜6)を挙げることができる。
なお、これらの化合物のうち、式(5)で表される化合物(HTM−1)は、一般式(2)で表される化合物に該当する。
また、式(6)で表される化合物(HTM−2)は、一般式(3)で表される化合物に該当する。
さらに、式(7)で表される化合物(HTM−3)は、一般式(4)で表される化合物に該当する。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
(3)合成方法
また、粗製トリアリールアミン系化合物の合成方法としては、特に限定されるものではなく、一般に実施されている種々の合成方法を採用することができる。
例えば、下記反応式(1)及び(2)に示すように式(11)で表されるアミン化合物(Amine)と、式(12)で表されるアリールハライド(AH)と、を原料として、ホスフィン化合物と、パラジウム化合物と、を含む触媒を用いた合成方法であれば、優れた収率で、例えば、式(5)で表される特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物(HTM−1)を合成することができる。
【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
2.精製方法
(1)工程(a)
まず、精製方法の工程(a)において、上述した合成方法によって得られた粗製トリアリールアミン系化合物を、良溶媒に加熱溶解させて、溶液を得る工程を含むことを特徴とする。
この理由は、合成直後の特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物は、未反応材料や、触媒といった不純物を含んでいるためである。
すなわち、まず工程(a)において、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させ、後の工程(b)において、撹拌しながら効率よく結晶化させることによって、析出を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができるためである。
【0042】
(1)−1 良溶媒
また、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を溶解させるための良溶媒としては、室温における特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物の溶解度が0.1重量%以上のものと定義することができる。
したがって、トリアリールアミン系化合物を溶解させるための良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド及びシクロへキサン等の一種単独または二種以上の組み合わせが好適に用いられる。
【0043】
(1)−2 濃度
また、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、貧溶媒を添加した場合のトリアリールアミン系化合物の油状化を有効に防止し、かつ、トリアリールアミン系化合物の製造効率をさらに高めることができるためである。
より具体的には、粗製トリアリールアミン化合物の濃度が5重量%未満の値となると、精製効率が過度に低下する場合があるためである。一方、粗製トリアリールアミン化合物の濃度が50重量%を超えた値となると、後の工程(b)において、効率的に微粒子状の結晶を析出させることが困難となる場合があるためである。
したがって、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を10〜40重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、15〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を調整するにあたり、良溶媒100重量部に対する粗製トリアリールアミン系化合物の添加量を、通常、100〜500重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0044】
(1)−3 加熱条件
また、工程(a)における加熱温度としては、精製するトリアリールアミン系化合物の種類や、使用する良溶媒の種類等によって適宜調節したり、変更したりすることができるが、通常、30〜100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、加熱温度が30℃未満になると、トリアリールアミン系化合物の溶解性が過度に低下したり、あるいは、精製効率が過度に低下したりする場合があるためである。一方、加熱温度が100℃を超えると、トリアリールアミン系化合物が熱分解したり、使用可能な溶媒の種類が過度に制限されたりする場合あるためである。
したがって、工程(a)における加熱温度を40〜80℃の範囲内の値とすることがより好ましく、45〜60℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、加熱時間については、精製するトリアリールアミン系化合物の種類や、使用する良溶媒の種類、あるいは加熱温度等によって適宜調節したり、変更したりすることができるが、通常、1分〜10時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0045】
(2)工程(b)
次いで、本発明の精製方法における工程(b)として、上述した工程(a)において得られた粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させることを特徴とする。
この理由は、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物溶液を、冷却及び撹拌することで、析出を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、微粒子状の結晶を効率的に析出させることができるためである。
したがって、析出を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、トリアリールアミン系化合物を油状物に変化させることなく、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができるためである。
すなわち、従来においては、再結晶法として、得られた化合物を良溶媒に溶解した後、さらに貧溶媒を加えて、再沈殿させる方法(再沈殿法)が一般的に実施されてきた。
しかしながら、かかる再沈殿法を実施した場合には、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物が、加えた貧溶媒の影響によって油状物に変化し、結果として結晶として析出させることが困難となるという問題が見られた。
一方、本発明においては、撹拌しながら冷却するため、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物が過度に貧溶媒と接触及び相互作用して油状物に変化することを抑制し、微粒子状の結晶として、効率的に析出させることができるためである。
【0046】
(2)−1 冷却条件
また、工程(a)において得られた溶液を冷却する際の冷却温度としては、精製するトリアリールアミン系化合物の種類や、使用する良溶媒の種類等によって適宜調節したり、変更したりすることができるが、通常、冷却温度幅に関して、加熱温度を基準として、30℃程度まで低下させることが好ましい。例えば、加熱温度が100℃の場合には、冷却して、70℃まで低下させれば良く、あるいは加熱温度が30℃の場合には、冷却して、0℃まで低下させれば良い。
この理由は、かかる冷却温度幅が30℃以下になると、精製効率が過度に低下する場合があるためである。したがって、冷却温度幅を35〜55℃の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0047】
また、具体的な冷却温度を、加熱温度未満であって、かつ、0〜70℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、冷却温度が0℃未満になると、使用可能な溶媒の種類が過度に制限されたり、取り扱いが困難になったり、吸水して、トリアリールアミン系化合物の特性が低下したりする場合があるためである。一方、冷却温度が70℃を超えると、精製効率が過度に低下する場合があるためである。
したがって、工程(b)における冷却温度を10〜60℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜50℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、冷却時間については、精製するトリアリールアミン系化合物の種類や、使用する良溶媒の種類、あるいは加熱温度等によって適宜調節したり、変更したりすることができるが、通常、1分〜10時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0048】
(2)−2 撹拌条件
撹拌条件については特に制限されるものではないが、プロペラミキサ、ボールミル、ジェットミル等の攪拌装置を用いて、通常、回転数を10〜1000rpmの範囲内の値とし、かつ、攪拌時間を1〜100時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0049】
(2)−3 貧溶媒
工程(b)において、貧溶媒を使用した処理をすることによって、トリアリールアミン系化合物の純度をさらに高めたり、あるいは、収率を高めたりすることもできる。
ここで、使用される貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール化合物や、ヘキサンなどの長鎖脂肪族化合物などが挙げられる。
また、貧溶媒の配合割合としては、粗製トリアリールアミン系化合物100重量部に対して、50〜1000重量部の範囲内の値とすることが好ましく、100〜500重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、このように貧溶媒を用いて精製されたトリアリールアミン系化合物を、電子写真感光体の感光層に含有させた場合には、感度がさらに向上し、かつ、露光後の残留電位が低減された高品質の電子写真感光体を得ることができる。
【0050】
(3)乾燥工程
得られたトリアリールアミン系化合物の結晶を、良溶媒から濾別した後、減圧乾燥または真空乾燥する。以上の工程により、トリアリールアミン系化合物が精製され、電子写真感光体等の製造に供せられる。
【0051】
3.電子写真感光体
上述した精製方法により得られたトリアリールアミン系化合物は、いずれも電子写真感光体の電荷輸送剤、より詳しくは、正孔輸送剤として好適である。
ここで、適用される電子写真感光体としては、特に限定されるものではなく、例えば、導電性基体上に、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含む感光層を備える、公知の種々の電子写真感光体が挙げられる。
そして、導電性基体、電荷発生剤、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、バインダ樹脂などの種類や態様は、特に制限されるものではなく、従来公知材料の中から適宜選択して用いることができる。
したがって、電子写真感光体の感光層は、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を単一の感光層中に含有する、いわゆる単層型感光層や、電荷発生剤およびバインダ樹脂を含む電荷発生層と、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含む電荷輸送層とを積層してなる、いわゆる積層型感光層のいずれであってもよい。
また、かかる電子写真感光体に用いられる電荷輸送剤としては、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物以外の正孔輸送剤を併用してもよい。さらに、電荷輸送剤として、精製された一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物を併用してもよい。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(5)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−1、純度:86.5%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を収容したまま、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶をろ過した後、減圧乾燥して、83gのトリアリールアミン系化合物(HTM−1)を得た(収率83%、純度:99.0%)。
【0053】
[実施例2]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(6)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−2、純度:88.0%)100gと、トルエン300mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内の粗製トリアリールアミン系化合物溶液に対して、150mlのへキサンを加えた後、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、減圧乾燥して、80gのトリアリールアミン系化合物(HTM−2)を得た(収率80%、純度:99.5%)。
【0054】
[実施例3]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(7)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−3、純度:84.3%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を収容したまま、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶をろ過した後、減圧乾燥して、75gのトリアリールアミン系化合物(HTM−3)を得た(収率75%、純度:99.2%)。
【0055】
[実施例4]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(8)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−4、純度:84.5%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を収容したまま、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、減圧乾燥して、88gのトリアリールアミン系化合物(HTM−4)を得た(収率88%、純度:99.3%)。
【0056】
[実施例5]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(9)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−5、純度:82.8%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を収容したまま、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、減圧乾燥して、82gのトリアリールアミン系化合物(HTM−5)を得た(収率82%、純度:99.7%)。
【0057】
[実施例6]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(10)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−6、純度:82.8%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を収容したまま、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌しながら、2時間かけて、室温に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、減圧乾燥して、85gのトリアリールアミン系化合物(HTM−6)を得た(収率85%、純度:99.7%)。
【0058】
[比較例1]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(5)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−1、純度:86.5%)100gと、トルエン200mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、300mlのメタノールを加えて、24時間、そのまま静置した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が、油状物が一部混ざった状態で得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、油状物が一部含まれた状態でろ過した後、減圧乾燥して、25gのトリアリールアミン系化合物(HTM−1)を得た(収率25%、純度:93.7%)。
【0059】
[比較例2]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(6)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−2、純度:86.5%)100gと、トルエン300mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、500mlのメタノールを加えて、24時間、そのまま静置した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が、油状物が一部混ざった状態で得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、油状物が一部含まれた状態でろ過した後、減圧乾燥して、20gのトリアリールアミン系化合物(HTM−2)を得た(収率20%、純度:95.2%)。
【0060】
[比較例3]
攪拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(8)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−4、純度:84.5%)100gと、トルエン300mlとを収容した後、フラスコ容器内の温度が60℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、攪拌機を用いて、回転数100rpmで攪拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液とした。
次いで、フラスコ容器内に、300mlのメタノールを加えて、24時間、そのまま静置した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が、油状物が一部混ざった状態で得られた。
最後に、得られた微粒子状の結晶を、油状物が一部含まれた状態でろ過した後、減圧乾燥して、18gのトリアリールアミン系化合物(HTM−4)を得た(収率18%、純度:95.8%)。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
以上、詳述してきたように、本発明によれば、合成した粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて溶液を得た後、かかる溶液を冷却状態で、撹拌することにより、析出を促進させるために貧溶媒を加えた場合であっても、貧溶媒を加えない場合であっても、微粒子状の結晶を効率的に析出させることができるようになった。その結果、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができるようになった。
したがって、本発明のトリアリールアミン系化合物の製造方法は、電子写真感光体製造の効率化、及び電子写真感光体、ひいては画像形成装置の低コスト化に寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(b)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、冷却状態で、撹拌することにより、前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【化1】


(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【化2】


(一般式(2)中、R1〜R13は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【化3】


(一般式(3)中、R14〜R30は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【化4】


(一般式(4)中、R31〜R46は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基であり、Rdは、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【請求項3】
前記工程(a)において、良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド及びシクロへキサンからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、30〜100℃の温度に加熱して、前記粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記加熱温度よりも低い温度であって、かつ、0〜70℃の温度に冷却して、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液を冷却状態とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、攪拌装置を用いて、10〜1000rpmの条件で攪拌することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項8】
前記工程(b)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液の攪拌時間を1〜100時間の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記トリアリールアミン系化合物の貧溶媒を添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項10】
前記貧溶媒として、アルコール化合物または長鎖脂肪族化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。

【公開番号】特開2008−201722(P2008−201722A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39856(P2007−39856)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】