説明

トリチオカーボネート類の合成

【課題】RAFT剤として有用なトリチオカーボネート類の効率的かつ規模拡大が可能な方法の提供。
【解決手段】水/アルコール溶媒媒質中で、式RSHを有するチオールを、水性塩基、二硫化炭素、および式R’X(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)を有するアルキル化剤と、順次的に反応させて、生成物RSC(S)SR’および副生成物である塩素、臭素またはヨウ素の塩を含む混合物が形成する工程を含む、トリチオカーボネートを調製するための方法。副生成物の塩は濾過によって除去することができる。生成物は、結晶化によって回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチオカーボネート類RSC(S)SR’を合成するための効率的方法を提供する。該化合物は、たとえば、スチレン類(styrenics)、アクリレート類および他のオレフィン性モノマーのリビング重合におけるRAFT剤として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
スチレン類(styrenics)、アクリレート類、メタクリレート類からの低多分散性ポリマー、およびそれらの共重合体の調製に関して、RAFT(可逆付加開裂連鎖移動)プロセスが開示されてきた(たとえば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
トリチオカーボネート類は、適当なRAFT剤であると認識されていたが、その調製に関して商業的に魅力的な方法が欠けていた。たとえば、チオールを対応するナトリウム塩へと変換する方法は、しばしば、大スケールで取り扱う際に潜在的に有害な化学物質である水素化ナトリウムの使用を伴う。従来の方法は、より大きなスケールで実施することが困難な単離および精製工程を含む多段階反応を用いてきた。また、従来の方法は、低収率であることが報告されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/05099号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/31144号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第0910587号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RAFT剤の効率的かつ規模拡大が可能な方法に関する継続的要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施形態は、式RSC(S)SR’を有するトリチオカーボネートを調製する方法を提供する。式中、Rは、置換または無置換のC−C20の直鎖または分枝アルキル基、置換または無置換のC−Cの環状アルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいはヘテロ環基であり;および、R’は、置換または無置換のC−C10の直鎖または分枝アルキル基、あるいは置換または無置換のC−C環状アルキル基である。本発明の方法は、水/アルコール溶媒媒質中で、式RSHを有するチオールを、水性塩基、二硫化炭素、および式R’X(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)と順次的に反応させる工程を含み、それによって、溶媒媒質中に生成物であるRSC(S)SR’および副生生物である塩素、臭素またはヨウ素の塩を含む混合物を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法は、式RSC(S)SR’を有する広範な種類の有用なトリチオカーボネート類の調製のための、実用的で、単一工程であり、高収率の手順を提供する。本発明の1つの実施形態において、約1〜20体積%の水および約80〜99体積%のアルコールを含む溶媒混合物中で、チオール(RSH)を、水性塩基、および二硫化炭素、および式R’Xを有するアルキル化剤と順次的に反応させる。
【0008】
適当なアルキルチオール類RSHは、Rが置換または無置換のC−C20の直鎖または分枝アルキル基、置換または無置換のC−Cの環状アルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいはヘテロ環基であるようなものである。適当な置換基は、アルキル、ハロ、シアノ、アリールおよびアルコキシ基を含む。適当はR’基は、置換または無置換のC−C10の直鎖または分枝アルキル基、あるいは置換または無置換のC−C環状アルキル基を含む。適当な置換基は、アルキル、ハロ、シアノ、アリール、アルコキシおよびカルボキシレート基を含む。Xは、塩素、臭素またはヨウ素である。
【0009】
反応の進行中に、R’Xに由来するハライドは、副生成物であるハライド塩に変換される。1つの実施形態において、トリチオカーボネート生成物は、反応混合物を濾過して、副生成物のハライド塩を除去し、そして濾液から生成物を回収して、生成物の純粋な結晶(たとえば、純度>98%)を提供することができる。
【0010】
生成物RSC(S)SR’の溶解度は、RおよびR’の選択、水性アルコール媒質の温度および組成によって影響される。本発明のいくつかの実施形態において、RおよびR’を選択して、生成物を初期の水性アルコール媒質に可溶性として濾過による副生生物塩からの分離を可能とするが、しかしながら生成物が変化させた溶媒媒質に不溶性であるようにすることが便利である。実施例中に例示されるように、溶媒の水含有量を増大させ、かつ温度を低下させることによって、水性アルコールからの所望される生成物の結晶化を誘導することができる。
【0011】
水性塩基は、任意のアルカリ金属水酸化物であることができるが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、以下の反応に示すように、水性塩基は水酸化ナトリウムであり、RSHはドデカンチオールであり、およびR’Xはクロロアセトニトリルである。本反応に好ましいアルコールはイソプロパノールである。以下に示すように、該反応は、中間体であるRSC(S)SNaを与え、次いで、該中間体をクロロアセトニトリルで処理してトリチオカーボネートRAFT剤を形成する。
【0013】
1225SH + NaOH +CS
→ [C1225SCSNa] + ClCHCN
→ C1225SC(S)SCHCN + NaCl
【0014】
上記の反応に続いて、ハライド塩NaClを濾過によって除去する。生成物C1225SC(S)SCHCNを、水による希釈によって、低下させた温度において、濾液媒体から結晶性物質として回収する。この実施形態の1つの利点は、濾過によるハライド塩の容易な除去、および水含有量の適度な増加後の同一の媒質からの生成物の結晶化であり、高収率および高度に純粋な生成物を与える。RおよびR’の異なる組み合わせを有するトリチオカーボネート生成物が結晶性でない場合、生成物は、水の添加時の相分離によって回収することができる。
【0015】
上記の反応は、約−10℃から約40℃までの温度において実施することができる。好ましくは、温度は、約−5℃から約15℃である。最も好ましくは、温度は約0℃から約5℃である。
【0016】
1つの実施形態において、水性アルコールは、1〜20体積%の水および80〜99体積%のアルコールの比を有する水/アルコール混合物である。好ましくは、その範囲は、3〜10体積%の水および90〜97体積%のアルコールである。より好ましくは、その範囲は、4〜6体積%の水および94〜96体積%のアルコールである。
【0017】
アルコールは、水溶性アルコール、あるいは水溶性アルコールの混合物である。1つの実施形態において、アルコールはイソプロパノールである。
【0018】
本発明において有用である、多くのチオールRSHおよびハロ化合物R’Xは、商業的に入手可能である。商業的に入手可能でないものは、当該技術において知られている技術によって容易に合成することができる。
【実施例】
【0019】
本実施例は、S−シアノメチル−S−ドデシルトリチオカーボネートRAFT剤の調製を例示する。1000mLの三ツ口フラスコ(Nバブラーとともに、メカニカルスターラ、セプタム、熱電対鞘、および還流凝縮器が取り付けられている)に、水酸化ナトリウム(12.18g、304.5ミリモル)、および水(30mL)を装填した。水酸化ナトリウムの溶液に対して、イソプロパノール(500mL)を添加し、そして反応混合物を約5℃に冷却した。冷却した反応混合物を、ドデカンチオール(60.6g、300ミリモル)を滴下して処理した。
【0020】
反応混合物を、5℃において30分間にわたって攪拌し、0℃に冷却し、約10分の期間をかけてシリンジによって二硫化炭素(24.0g、315ミリモル)を添加して処理し、黄色溶液を生成させた。該溶液を、0.5時間にわたって約0〜5℃において攪拌した。
【0021】
反応混合物を、温度を0℃と5℃との間に維持しながら、約20分の期間をかけてシリンジによってクロロアセトニトリル(23.8g、315ミリモル)を滴下して処理した。反応混合物を、2時間にわたって0℃で撹拌した。
【0022】
反応混合物を約30℃まで暖め、そして濾過して塩化ナトリウムを除去した。固体残渣を5mLのイソプロパノールで洗浄した。一緒にした濾液を水(50mL)を添加して処理した。温度が低下するにつれて、S−シアノメチル−S−ドデシルトリチオカーボネートの生成物結晶が形成された。室温において大部分の結晶が形成された後に、混合物を1.5時間にわたって0℃に冷却し、第1晶を収集した。乾燥後に、明るい黄色のフレーク82.3gが得られた。さらなる50mLの水を添加して濾液を処理し、冷却して、第2晶として8.5gの生成物を与えた。H NMR分析は、第1晶および第2晶ともに約98%の純度(93%の単離収率)を有することを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式RSC(S)SR’ (式中、Rは、置換または無置換のC−C20の直鎖または分枝アルキル基、置換または無置換のC−Cの環状アルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいはヘテロ環基であり;および、R’は、置換または無置換のC−C10の直鎖または分枝アルキル基、あるいは置換または無置換のC−C環状アルキル基である)を有するトリチオカーボネートを調製するための方法であって、該方法は、水/アルコール溶媒媒質中で、式RSHを有するチオールを、水性塩基、二硫化炭素、および式R’X(式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)を有するアルキル化剤と、順次的に反応させる工程を含み、それによって、溶媒媒質中に、生成物RSC(S)SR’および副生成物である塩素、臭素またはヨウ素の塩を含む混合物が形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
Rの置換アルキル基または置換アリール基中の置換基が、アルキル、ハロ、シアノ、アリールおよびアルコキシ基からなる群から選択され、およびR’の置換アルキル基中の置換基が、アルキル、ハロ、シアノ、アリール、アルコキシおよびカルボキシレート基からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性塩基が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Xが塩素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水/アルコール溶媒媒質が1〜20体積%の水および80〜99体積%のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
水/アルコール溶媒媒質が3〜10体積%の水および90〜97体積%のアルコールであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルコールがイソプロパノールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルコールがイソプロパノールであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
反応の温度が約−10℃から約40℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
反応の温度が約−5℃から約15℃であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物を濾過して、副生成物の塩を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒媒質からトリチオカーボネートRSC(S)SR’生成物を回収する工程をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生成物RSC(S)SR’は、前記溶媒媒質からの結晶化によって回収されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水性塩基が水酸化ナトリウムであり、RがC1225であり、R’Xがクロロアセトニトリルであり、アルコールがイソプロパノールであり、および生成物がS−シアノメチル−S−ドデシルトリチオカーボネートであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物を濾過して副生成物の塩を除去する工程と、前記溶媒媒質からの結晶化によって、生成物S−シアノメチル−S−ドデシルトリチオカーボネートを回収する工程とをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。

【公開番号】特開2007−145841(P2007−145841A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314227(P2006−314227)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】