説明

トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体及びその製造方法

【課題】睡眠誘発作用を有するトリプトファンの機能を向上させるトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体及びその製造方法、ならびに前記複合体を含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合されていることを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。該トリプトファン−アガロオリゴ糖化合物は、トリプトファン化合物をpH2以下の酸性溶液に溶解する工程、アガロオリゴ糖を添加・混合し、pH3以下の条件下で90℃以上に加熱して、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる発色反応を行う工程を経て製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプトファンがもつ睡眠促進作用を高めた機能性食品素材を生成することに関する。さらに詳しくはトリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる反応を用いてアガロオリゴ糖にトリプトファン化合物を結合させてなる新規なトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体及びその製造方法ならびに前記複合体を含有する飲食品に関する。尚、上記トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は食品で認可された物質のみを使用して生成することが可能である。
【背景技術】
【0002】
トリプトファンは、体内で合成することのできない必須アミノ酸の一つであり、食品から摂取する必要がある。トリプトファンは多くのタンパク質中に見出されるが、含量は低く、生体内において、酸化還元酵素に関与する補酵素をはじめ、セロトニン・メラトニンといったホルモン、キヌレニン等生体色素、また植物において重要な成長ホルモンであるインドール酢酸、などの前駆体として重要である。トリプトファンは、蛋白質生合成の材料として必要なだけでなく、その適量の摂取は神経を落ち着かせ、睡眠をうながす作用があるといわれる。例として、トリプトファンの睡眠誘発作用を利用してヒドロキシトリプトファンを有効成分とする医薬組成物あるいは食品が、時差ぼけ・心理的不眠症等の概日リズムが変調する場合の予防法・治療法として提供されている(特許文献1)。しかしながら、今日までに存在するトリプトファン含有新規合成物質は、有機合成法を用いて合成された薬品に関する事例であり(特許文献2)、食品として機能的に促進した組成物はこれまでにない。従って、食品添加物として認可されている物質を使用してトリプトファンの睡眠誘発作用を向上させるような新規食品素材を作り出すことは非常に有意義である。
【0003】
トリプトファンは、アミノ酸側鎖にインドール環を持ち、芳香族アミノ酸に分類されるが、必須アミノ酸のなかでもπ電子が多く、電子密度が高い性質をもっており、強酸性条件でアルデヒドと発色を伴う選択的反応を起こすことが知られている(非特許文献1,2)。また、繊維産業、特に染色産業の分野では、この選択的発色反応を利用して、合成染色に代わって天然材料、染料を用いた着色に関する技術開発が進んでいる。具体的には、天然から得られる動物繊維(絹・羊毛)に含まれているトリプトファンを発色させ、洗濯、摩擦、汗などの外的因子による移染(汚染)が生じない利点をもつ染色技術が開発されている(非特許文献1)。しかしながら、飲食品の分野において、前記トリプトファンの特異的発色反応を利用した例は見られず、さらにはトリプトファンが有する睡眠誘発機能を向上させるような飲食品用素材の開発をした例も無い。
【0004】
一方、乳酸菌を作用させて発酵させたアガロオリゴ糖は、ガラクトオリゴ糖などよりも少量で高い整腸作用を持つだけでなくコラーゲンの体内摂取の改善による美肌向上作用も認められている(特許文献3)。しかしながら、前記トリプトファンとアガロオリゴ糖とを組み合わせた食品用素材は、今までのところ知られていない。
【特許文献1】特開2003−081829号公報
【特許文献2】特開2006−28141号公報
【特許文献3】特願2007−160486号
【特許文献4】特開平9−28306号公報
【非特許文献1】繊維と工業2002年4月号「トリプトファン発色反応を利用した動物繊維の着色」堂ノ脇保己著
【非特許文献2】BUNSEKI KAGAKU Vol.56, No.7, pp567−572 (2007)「アルデヒドとトリプトファン残基の選択的反応を利用するタンパク質の着色法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、睡眠誘発作用を有するトリプトファンの機能を向上させるトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体及びその製造方法、ならびに前記複合体を含有する飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アガロオリゴ糖の体内吸収性の高さに着目し、トリプトファンあるいはトリプトファン高含有ペプチドを前記アガロオリゴ糖と炭素−炭素結合させることで、トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体を製造し、睡眠誘発作用の向上した新規のトリプトファン化合物として提供することをもって、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
(1)トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合されていることを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体、
(2)前記トリプトファン化合物がトリプトファンまたはトリプトファン高含有ペプチドである前記(1)記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体、
(3)前記トリプトファンのインドール環の2位とアガロオリゴ糖の1位の還元末端が炭素−炭素結合している前記(1)又は(2)記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体、
(4)前記アガロオリゴ糖として、発酵アガロオリゴ糖を含有する前記(1)〜(3)いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体、
(5)前記トリプトファン高含有ペプチドの内、トリプトファン残基を4mg/g以上で含有する前記(2)〜(4)いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体、
(6)トリプトファン化合物をpH2以下の酸性溶液に溶解する工程、
アガロオリゴ糖を添加・混合し、pH3以下の条件下で90℃以上に加熱して、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる発色反応を行う工程を含む前記(1)〜(5)いずれかに記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の製造方法、
(7)前記(1)〜(5)いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体を含有する飲食品
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合体を飲食品に使用することで、食品中には少量しか含まれない必須アミノ酸であるトリプトファンを効率的に摂取することができる。更には発酵アガロオリゴ糖を使用することで、整腸・美容効果も高め、摂取した人の健康状態及び美容を改善するか、あるいは良好な状態を維持することが既に知られている。したがって、トリプトファンのインドール環の2位とアガロオリゴ糖の1位を炭素−炭素結合させた状態で摂取することで、トリプトファンの体内吸収率の向上とアガロオリゴ糖に起因する整腸・美容効果を同時に得られる可能性が示唆される。
但し、トリプトファンとアガロオリゴ糖を混合物として摂取する場合には、腸において独立的に存在する両者は同時に均一に吸収されないため、両者の機能を相乗的効果として期待することは難しいのではないかと考える。
すなわち、本発明の複合体は、トリプトファンの機能性及びアガロオリゴ糖の機能性を相乗的に向上させることによって、睡眠誘発効果の高い食品素材として成り立っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合していることを特徴とし、炭素−炭素結合しているために、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが一体となっているため、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを混合物として摂取する場合に比べると、腸において同時に均一に吸収され易く、しかもトリプトファン化合物とアガロオリゴ糖の両者の機能を発揮し得る。
【0010】
前記トリプトファン化合物としては、トリプトファンまたはトリプトファン高含有ペプチドが挙げられる。
トリプトファンは 肉・ 魚・ 豆・ 種子・ ナッツ・ 豆乳・乳製品などに豊富に含まれるが、例えば、トリプトファンを多く含有すると言われている牛乳の主成分であるカゼインのトリプトファン含量は13mg/gである。また、特許文献4で示されている精製カゼイン加水分解物はトリプトファン含有量が低いものとして規定されており、その際にトリプトファンの含有量は4mg/g以下であることが示されている。さらに、トリプトファン含有量が低いタンパク質として知られているコラーゲンにはトリプトファンがほとんど含まれていない。すなわち、カゼイン加水分解物を例に考えると、本発明におけるトリプトファン高含有ペプチドの基準として少なくともペプチド中のトリプトファンの含有率が4mg/g以上として規定する。すなわち、4mg/g以上のトリプトファン含有ペプチド又はタンパク質であれば、いかなる種類及び化学的修飾物質であっても特に限定されない。
【0011】
アガロオリゴ糖としては、寒天由来のオリゴ糖であればよいが、整腸効果を高めてトリプトファンの体内吸収性を向上させる観点から、発酵アガロオリゴ糖が好ましい。
本発明で使用する発酵アガロオリゴ糖とは、酸分解及び/又は酵素分解と乳酸発酵により製造される寒天を用いることができる。寒天原料としては、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)、オオオゴノリ(Gracilaria gigas)、マクサ(Gelidium amansii)、オバクサ(Pterocladia capillacea)、イタニグサ(Ahnfeltia plicata)等の紅藻類由来の素材が多く用いられるが、特に寒天原料の由来は限定されない。また、加水分解に用いられる酸としては、寒天を部分加水分解できるものであればよく、例えば、塩酸等の強酸及び酢酸・クエン酸・フマル酸等の弱酸及びこれらの酸の混合物が挙げられるが、特に酸の種類については限定されない。
また、前記乳酸発酵に用いられる乳酸菌としては、ガラクトースを資化することができ、かつアガロオリゴ糖及び寒天を実質的に資化できないという資化性を兼ね備えた種あるいは株であればよい。なお、糖の資化とは、菌体が必要な炭素源として前記糖を用いて生育できることをいう。
【0012】
前記アガロオリゴ糖の分子量としては、300〜3500が好ましく、300〜1700がより好ましい。例えば、図1に示す繰り返し単位ではnが9以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0013】
本発明の複合体では、前記トリプトファン化合物と前記アガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合されている。
前記炭素−炭素結合は、強酸性条件でトリプトファン化合物とアルデヒドが反応して発色する選択的反応を利用して形成される。これはアミノ酸側鎖にインドール環を持ち、必須アミノ酸のなかでもπ電子が多く、電子密度が高い性質を持つトリプトファン特有の高い反応性に基づいており、例えば、4−(ジメチルアミノ)ベンズアルデヒドの濃塩酸溶液をトリプトファンと反応させると赤色に発色するノイバウアー・ロード(Neubauer−Rhode)反応が知られている。その他、トリフルオロ酢酸・硝酸などの強酸でも発色するという報告もあり(非特許文献1,2)、本発明ではそれらと同様の反応機構を利用してトリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合している。
【0014】
図1に本発明のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の構造を例を示す。大きく分けて4つの複合体が挙げられるが、全ての構造体はトリプトファン2分子に対して1分子のアガロオリゴ糖が炭素−炭素結合する。図1の1及び2はアガロオリゴ糖とトリプトファンの複合体を示しているが、1ではアガロオリゴ糖の3,6−アンハイドロガラクトースの1位に結合した複合体である。2では、アガロオリゴ糖のD−ガラクトースの1位に結合した複合体である。図1の3は、トリプトファン高含有ペプチド中のトリプトファン残基とアガロオリゴ糖の3,6−アンハイドロガラクトースの1位に結合した場合であり、記載を省略したもう一つの複合体はペプチドとD−ガラクトースの1位に結合した複合体である。全ての複合体はトリプトファンのインドール環の2位とアガロオリゴ糖の1位の還元末端が炭素−炭素結合している複合体である。
【0015】
上述した4種の複合体は、赤褐色の呈色をもって、トリプトファンとアガロオリゴ糖の結合を確認することができる。したがって、上記反応は茶色の呈色を伴うアミノカルボニル反応の一種であるメイラード反応による炭素‐窒素結合とも区別することができる。
【0016】
本発明のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の製造方法は、
トリプトファン化合物をpH2以下の酸性溶液に溶解する工程、
アガロオリゴ糖を添加・混合し、pH3以下の条件下で90℃以上に加熱して、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる発色反応を行う工程を含む。
【0017】
本発明で使用する酸性溶液とは、pH2以下の水溶液として用いることができ、例えば、塩酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、フマル酸、酒石酸、ビタミンC等を用いることができる。また、酸成分の濃度としては、特に限定はない。
【0018】
前記トリプトファンあるいはトリプトファン高含有ペプチドなどのトリプトファン化合物を含有する酸とアガロオリゴ糖との混合は、pH3以下の状態で90℃以上に20分間以上加熱されるが、時間をかけてもよいのであれば、pH3以下の状態で常温下でおこなってもよい。
なお、前記pHは、最終のpHが3以下となるように調整されていればよい。
【0019】
前記アガロオリゴ糖は水溶液にしておく方が取り扱いの観点から好ましい。
【0020】
本発明の製造方法によれば、前記混合液の赤褐色の呈色をもって、トリプトファンとアガロオリゴ糖の結合を確認することができる。
【0021】
得られたトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は、そのまま液体状態で使用することもできるし、必要であれば、重炭酸ナトリウム等により中和した後に脱塩カラムを通し、得られる溶液を凍結乾燥することにより固体状態にして回収することもできる。
【0022】
以上のようにして得られる本発明のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は、トリプトファン化合物として、トリプトファン又はトリプトファン高含有ペプチドのいずれを用いた場合でも、製造時に使用する原料はいずれも食品としても安全なものであるため、飲食品に添加するような食品用素材として好適に使用することができる。
すなわち、本発明の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
(1)トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合されていることを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖食品用素材。
(2)前記トリプトファン化合物がトリプトファンまたはトリプトファン高含有ペプチドであるトリプトファン−アガロオリゴ糖食品用素材。
(3)前記トリプトファンのインドール環の2位とアガロオリゴ糖の1位の還元末端が炭素−炭素結合しているトリプトファン−アガロオリゴ糖食品用素材。
(4)前記アガロオリゴ糖として、発酵アガロオリゴ糖を含有することを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖食品用素材。
(5)前記トリプトファン高含有ペプチドの内、トリプトファン残基を4mg/g以上で含有することを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖食品用素材。
(6)トリプトファン化合物をpH2以下の酸性溶液に溶解する工程、
アガロオリゴ糖を添加・混合し、pH3以下の条件下で90℃以上に加熱して、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる発色反応を行う工程を含む前記トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の製造方法。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお以下の実施例などにおいて、溶液などの濃度を示す%は特にその単位を付記していないかぎり重量%である。
【0024】
製造例1(トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の製造例)
トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は、2gのL−トリプトファンをまず25%のクエン酸溶液(pH2以下)100gに溶解し、10%アガロオリゴ糖100gの水溶液を添加・混合して、pH3以下、90℃で20分間程度加熱を続けて赤褐色の呈色を確認して作製する。
【0025】
製造例2(トリプトファン高含有ペプチド−アガロオリゴ糖複合体の製造例)
トリプトファン高含有ペプチド‐アガロオリゴ糖複合体は、22gのカゼインペプチド(平均分子量600以下)をまず25%のクエン酸溶液(pH2以下)100gに溶解し、10%アガロオリゴ糖20gの水溶液を添加・混合して、pH3以下、90℃で20分間程度加熱を続けて赤褐色の呈色を確認して作製する。
【0026】
実施例1
下記の処方により各成分を混合して、製造例1に準じて、トリプトファン4gとアガロオリゴ糖20gを反応させて得られたトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体24gを含有する飲料を作製した。
【0027】
【表1】

【0028】
試験例1
実施例1で作製した睡眠改善飲料を30人の被試験者に2週間、毎日飲用してもらい、それによる睡眠の変化について、自覚症状のアンケート調査を行った。被試験者を10人ずつA・B・Cの3グループに分けて、各々25cc・50cc・100ccを2週間、毎日飲用してもらった。その結果を表2に示す
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示すように、A・B・Cのどのグループにおいても、睡眠改善効果が見られた。また毎日100ccを飲用したC群において最も睡眠改善効果が見られた。また誰一人として睡眠が悪化したとの報告はなかった。
【0031】
実施例2
実施例1の飲料のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の代わりに、製造例2に準じてトリプトファンを高含有する(12mg/g)ペプチド22gとアガロオリゴ糖2gを反応させて得られるトリプトファン高含有ペプチド‐アガロオリゴ糖複合体24gを含有した飲料を作製した。
【0032】
比較例1
実施例1の飲料のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の代わりに、トリプトファン4gとアガロオリゴ糖20gの混合物を添加した飲料を作製した。
【0033】
比較例2
実施例1の飲料のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の代わりに、トリプトファン4gとアガロオリゴ糖20gを含有する水溶液(pH6)を90℃で20分間加熱してなるメイラード反応由来の産物を添加した飲料を作製した。
【0034】
比較例3
実施例1の飲料のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の代わりに、ブドウ糖24gを添加した飲料を作製した。
【0035】
試験例2
試験例1と同じく、実施例1、2、比較例1〜3で作製した飲料を50人の被試験者に2週間、毎日飲用してもらい、それによる睡眠の変化について、自覚症状のアンケート調査を行った。被試験者を10人ずつ5グループに分けて、それぞれ実施例1、2あるいは比較例1〜3で作製した飲料を100ccずつ2週間、毎日飲用してもらった。その結果を表3に示す。
【0036】
表3に示すように、実施例1、2及び比較例1、2のいずれのグループにおいても睡眠改善効果が見られた。但しプラセボコントロールとした比較例3ではほとんど睡眠改善効果は見られなかった。すなわち、実施例2のトリプトファン高含有ペプチド‐アガロオリゴ糖複合体では、実施例1のトリプトファン−アガロオリゴ糖ほどではないが、過半数の睡眠改善効果が見られた。一方、比較例1のトリプトファンとアガロオリゴ糖の混合物、及び、比較例2のトリプトファンとアガロオリゴ糖のメイラード反応生成物の睡眠改善効果については、改善した者は半数以下であり、実施例1,2に比べて有意に劣るものであった。したがって、トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体は、それらの混合物及びメイラード反応生成物よりも睡眠改善効果が高いことがわかった。
したがって、トリプトファン−アガロオリゴ糖複合体及びトリプトファン高含有ペプチド‐アガロオリゴ糖は、トリプトファンとアガロオリゴ糖の単なる混合物やそれらのメイラード反応生成物よりも睡眠誘導作用に優れる複合体であることが証明された。
【0037】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の例を示す概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とが炭素−炭素結合されていることを特徴とするトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。
【請求項2】
前記トリプトファン化合物がトリプトファンまたはトリプトファン高含有ペプチドである請求項1記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。
【請求項3】
前記トリプトファンのインドール環の2位とアガロオリゴ糖の1位の還元末端が炭素−炭素結合している請求項1又は2記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。
【請求項4】
前記アガロオリゴ糖として、発酵アガロオリゴ糖を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。
【請求項5】
前記トリプトファン高含有ペプチドの内、トリプトファン残基を4mg/g以上で含有することを特徴とする請求項2〜4いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体。
【請求項6】
トリプトファン化合物をpH2以下の酸性溶液に溶解する工程、
アガロオリゴ糖を添加・混合し、pH3以下の条件下で90℃以上に加熱して、トリプトファン化合物とアガロオリゴ糖とを選択的に炭素−炭素結合させる発色反応を行う工程を含む請求項1〜5いずれかに記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか記載のトリプトファン−アガロオリゴ糖複合体を含有する飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−53081(P2010−53081A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220168(P2008−220168)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】