説明

トリプルバンドアンテナ装置及びこれを用いた無線通信機器

【課題】単一の給電点を有し、各共振周波数の調整が容易である小型のトリプルバンドアンテナ装置を提供する。
【解決手段】給電点32aと、放射導体21,22と、給電点32aと放射導体21との間に設けられたフィルタ回路F1と、給電点32aと放射導体22との間に設けられたフィルタ回路F2とを備える。フィルタ回路F1は、周波数帯域f,fを通過させるとともに周波数帯域fを減衰させ、フィルタ回路F2は周波数帯域fを通過させるとともに周波数帯域f,fを減衰させる。互いに周波数特性が逆であるフィルタ回路F1,F2を用いることにより、給電点を1カ所としつつ、放射導体間の相互干渉を防止することができる。これにより設計が容易となるため、開発のリードタイムを短縮することも可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置及びこれを用いた無線通信機器に関し、特に、3つの周波数帯域をカバーするトリプルバンドアンテナ装置及びこれを用いた無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信機器には、2つの周波数帯域をカバーするデュアルバンドアンテナ装置が用いられることがある。また、近年提案されているLTE(Long Term Evolution)と呼ばれる新たな通信規格においては、多くの周波数帯域を使用するとともに、国ごとに使用する周波数帯域が異なることから、国際ローミングを実現するためにはマルチバンド、例えばトリプルバンドのアンテナ装置が必要となる。
【0003】
トリプルバンドアンテナ装置を構成する最も簡単な方法は、対象となる周波数帯域ごとに給電点及び放射導体をそれぞれ別個に設ける方法である。しかしながら、この方法ではアンテナ装置のサイズが大型化してしまう。これに対し、特許文献1,2には、小型化されたトリプルバンドアンテナ装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載されたトリプルバンドアンテナ装置は、1つの誘電体基体に2つの放射導体を形成し、一方の放射導体を低域用及び高域用に兼用し、他方の放射導体を中域用とすることによって、3つの周波数帯域をカバーするものである。また、特許文献2に記載されたトリプルバンドアンテナ装置は、給電点から放射導体を3分岐させ、これらの放射導体をそれぞれ低域用、中域用及び高域用とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−217026号公報
【特許文献2】特開2007−266669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたトリプルバンドアンテナ装置は、2つの給電点が必要となるため、給電を行う無線回路部の構成が複雑化するという問題が生じる。また、無線回路部のチップセットの仕様によって異なるが、国内向けLTE規格においては給電点が単一であると想定されているため、特許文献1に記載されたトリプルバンドアンテナ装置はLTE規格の携帯電話機に使用することができない。
【0007】
一方、特許文献2に記載されたトリプルバンドアンテナ装置は給電点が単一であるものの、給電点から放射導体が3分岐しているため、各放射導体が3つの周波数帯域の全てに影響を与えてしまう。このため、ある放射導体の長さや形状を変更すると、当該放射導体がカバーする共振周波数だけでなく、他の2つの共振周波数も少なからず変化してしまい、各放射導体の共振周波数を独立して調整することが非常に困難となる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、単一の給電点を有し、各共振周波数の調整が容易である小型のトリプルバンドアンテナ装置及びこれを用いた無線通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるトリプルバンドアンテナ装置は、第1乃至第3の周波数帯域をカバーするトリプルバンドアンテナ装置であって、給電点と、第1及び第2の放射導体と、前記給電点と前記第1の放射導体との間に設けられた第1のフィルタ回路と、前記給電点と前記第2の放射導体との間に設けられた第2のフィルタ回路とを備え、前記第1のフィルタ回路は、前記第1及び第3の周波数帯域を通過させるとともに前記第2の周波数帯域を減衰させ、前記第2のフィルタ回路は、前記第2の周波数帯域を通過させるとともに前記第1及び第3の周波数帯域を減衰させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による無線通信機器は、上記のトリプルバンドアンテナ装置と、前記給電点に接続された無線回路部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、互いに周波数特性が逆である第1及び第2のフィルタ回路を用いていることから、給電点を1カ所としつつ、第1の放射導体と第2の放射導体との相互干渉を防止することができる。これにより設計が容易となるため、開発のリードタイムを短縮することが可能となる。しかも、第1の放射導体がデュアルバンドであることから、3つの放射導体を設ける必要が無くなり、アンテナ装置全体のサイズを小型化することも可能となる。
【0012】
本発明において、前記第1の周波数帯域は前記第2の周波数帯域よりも低い周波数帯域であり、前記第2の周波数帯域は前記第3の周波数帯域よりも低い周波数帯域であることが好ましい。これにより、第1の放射導体によって高域及び低域の放射が行われ、第2の放射導体によって中域の放射が行われることから、周波数帯域の近い共振周波数間における干渉を効果的に防止することが可能となる。
【0013】
本発明において、前記第3の周波数帯域の周波数は前記第1の周波数帯域の周波数の2倍の周波数を含むことが好ましい。この場合、前記第1の放射導体の電気長は、前記第1の周波数帯域の波長をλとし、前記第3の周波数帯域の波長をλとした場合、λ/4且つλ/2を満たしていることが好ましい。これによれば、第1の放射導体を分岐させる必要が無くなることから、第1の放射導体の形状を単純化することでき、設計が容易となる。
【0014】
本発明によるトリプルバンドアンテナ装置は、前記第1のフィルタ回路と前記第1の放射導体との間に設けられた第1のマッチング回路と、前記第2のフィルタ回路と前記第2の放射導体との間に設けられた第2のマッチング回路とをさらに備えることが好ましい。これによれば、各放射導体についてインピーダンスマッチングを図ることが可能となる。
【0015】
本発明によるトリプルバンドアンテナ装置は、プリント基板と、前記プリント基板に搭載され、前記第1及び第2の放射導体が形成された誘電体基体をさらに備え、前記誘電体基体には、前記プリント基板の所定の上面と前記誘電体基体の所定の底面の間に隙間が形成されるよう切り欠き部が設けられており、前記第1及び第2のフィルタ回路は前記隙間に収容されていることが好ましい。これによれば、誘電体基体の搭載領域と同一平面上に第1及び第2のフィルタ回路が搭載されることから、プリント基板上の占有面積を削減することが可能となる。
【0016】
本発明においては、前記誘電体基体の前記所定の底面には、前記第1及び第2のフィルタ回路にそれぞれ接続された第1及び第2の端子が設けられており、前記第1の放射導体は前記第1の端子から第1の方向に延在して設けられ、前記第2の放射導体は前記第2の端子から前記第1の方向とは逆の第2の方向に延在して設けられていることが好ましい。これによれば、一方向に細長い形状を有する誘電体基体を用いることができるため、プリント基板の端部に沿った搭載が容易となる。
【0017】
本発明においては、前記誘電体基体は前記プリント基板の所定の辺に沿って搭載されており、前記第1及び第2の放射導体は、前記誘電体基体の表面であって、前記プリント基板に垂直な前記端部側の表面に形成されていることが好ましい。これによれば、第1及び第2の放射導体とプリント基板上のグランドパターンとの距離を十分に確保することができることから、高い放射効率を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、単一の給電点を有し、各共振周波数の調整が容易である小型のトリプルバンドアンテナ装置を提供することが可能となる。これにより、LTE規格の携帯電話機用のアンテナ装置として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好ましい実施の形態によるトリプルバンドアンテナ装置100の構成を示す略外観斜視図である。
【図2】アンテナブロック10を一方向から見た略斜視図である。
【図3】アンテナブロック10を逆方向から見た略斜視図である。
【図4】アンテナ実装領域31の主要部の構成を示す略斜視図である。
【図5】アンテナ実装領域31の主要部の構成を示す略平面図である。
【図6】トリプルバンドアンテナ装置100の機能ブロック図である。
【図7】フィルタ回路F1,F2及びマッチング回路M1,M2の等価回路図である。
【図8】フィルタ回路F1,F2を抜き出して示す回路図である。
【図9】フィルタ回路F1,F2の通過特性を示すグラフである。
【図10】フィルタ回路F1,F2の反射特性を示すグラフである。
【図11】放射導体21,22の反射特性を示すグラフである。
【図12】放射導体21,22の放射効率を示すグラフである。
【図13】変形例によるトリプルバンドアンテナ装置200の回路図である。
【図14】トリプルバンドアンテナ装置100を用いた無線通信機器300の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施の形態によるトリプルバンドアンテナ装置100の構成を示す略外観斜視図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100は、アンテナブロック10と、アンテナブロック10が実装されたプリント基板30とを備えている。プリント基板30はXY平面を主面とし、Y方向を長手方向とする板状体である。
【0023】
プリント基板30の長手方向の端部には、X方向に延在する短辺に沿ってアンテナ実装領域31が設けられている。アンテナ実装領域31は、アンテナブロック10が搭載された領域である。プリント基板30の上面30aのうち、アンテナ実装領域31においてはグランドパターンが実質的に排除されている。プリント基板30の裏面30bのうち、アンテナ実装領域31と重なる領域においても、一部を除いてグランドパターンが排除されている。これは、アンテナ実装領域31及びその裏面に大面積のグランドパターンが存在すると、アンテナの放射効率が低下するためである。プリント基板30の主回路領域34には、無線回路部、コントローラ、インターフェース回路、ディスプレイ、バッテリー等、無線通信機器を構成するために必要な回路及び部品が実装される。
【0024】
図1に示すように、プリント基板30の上面30aには単一の給電ライン32が設けられている。本実施形態によるアンテナ装置は、3つの周波数帯域をカバーするトリプルバンドのアンテナ装置であり、これら周波数帯域を有する3つの信号は全てこの給電ライン32を介して送受信されることになる。本実施形態においては、給電ライン32がアンテナ実装領域31に入る部分を給電点32aとする。
【0025】
給電点32aは、アンテナ実装領域31に設けられた第1及び第2のフィルタ回路F1,F2に接続される。第1のフィルタ回路F1は、アンテナ実装領域31に設けられた第1のマッチング回路M1を介してアンテナブロック10に接続され、第2のフィルタ回路F2は、アンテナ実装領域31に設けられた第2のマッチング回路M2を介してアンテナブロック10に接続される。これらフィルタ回路F1,F2及びマッチング回路M1,M2の構成については追って詳述する。アンテナブロック10は、誘電体基体の表面に放射導体が形成された構成を有している。
【0026】
図2及び図3はアンテナブロック10の構造を示す略斜視図であり、図2は一方向から見た図、図3は逆方向から見た図である。
【0027】
図2及び図3に示すように、アンテナブロック10は、誘電体基体11とその表面に形成された第1及び第2の放射導体21,22を含んでいる。誘電体基体11はX方向を長手方向とする形状を有しており、実装時においてプリント基板30と対向する底面の一部には、切り欠き部12A〜12Cが設けられている。これにより、プリント基板30に実装されると、プリント基板30の上面30aと誘電体基体11の底面の間には隙間が形成される。後述するように、本実施形態においてはこの隙間にフィルタ回路F1,F2及びマッチング回路M1,M2が収容される。
【0028】
誘電体基体11の構造についてより具体的に説明すると、誘電体基体11は3つのエリアA,B,Cを有する。エリアAはX方向における一方側に位置するエリアであり、エリアBはX方向における他方側に位置するエリアである。エリアCは、エリアAとエリアBとの間に挟まれたエリアである。本実施形態においては、エリアA,B,CのX方向における長さLA,LB,LCの関係がLA>LB>LCである。図1に示すように、誘電体基体11のY方向における幅はLY、Z方向における高さはLZである。
【0029】
エリアAの底面部分には、切り欠き部12Aが設けられている。切り欠き部12AのX方向における長さはLXA、Y方向における幅はLYA、Z方向における高さはLZAである。したがって、エリアAにおいてYZ平面を主面とする側板部11axのX方向における厚みはLA−LXAであり、エリアAにおいてXZ平面を主面とする側板部11ayのY方向における厚みはLY−LYAであり、エリアAにおいてXY平面を構成する上板部11azのZ方向における厚みはLZ−LZAである。図2及び図3に示すように、側板部11axは誘電体基体11のX方向における一方の端面を構成する。側板部11ax,11ayの底面13ax,13ayは略L字型を有しており、実装時においてプリント基板30と接する。これに対し、上板部11azの底面13azは、実装時においてプリント基板30から高さLZAの距離を持って離隔する。
【0030】
エリアBの底面部分には、切り欠き部12Bが設けられている。切り欠き部12BのX方向における長さはLXB、Y方向における幅はLYB、Z方向における高さはLZBである。したがって、エリアBにおいてYZ平面を主面とする側板部11bxのX方向における厚みはLB−LXBであり、エリアBにおいてXZ平面を主面とする側板部11byのY方向における厚みはLY−LYBであり、エリアBにおいてXY平面を構成する上板部11bzのZ方向における厚みはLZ−LZBである。図2及び図3に示すように、側板部11bxは誘電体基体11のX方向における他方の端面を構成する。側板部11bx,11byの底面13bx,13byは略L字型を有しており、実装時においてプリント基板30と接する。これに対し、上板部11bzの底面13bzは、実装時においてプリント基板30から高さLZBの距離を持って離隔する。特に限定されるものではないが、本実施形態では、エリアAの側板部11axとエリアBの側板部11bxの厚みが同一であり、エリアAの側板部11ayとエリアBの側板部11byの厚みが同一であり、エリアAの上板部11azとエリアBの上板部11bzの厚みが同一である。
【0031】
エリアCの底面部分には、切り欠き部12Cが設けられている。切り欠き部12CのX方向における長さはLC、Y方向における幅はLY、Z方向における高さはLZCである。つまり、切り欠き部12CのX方向における長さ及びY方向における幅は、エリアCのX方向における長さ及びY方向における幅と等しい。また、エリアCを構成するブロック11cのZ方向における厚みはLZ−LZCである。図2及び図3に示すように、切り欠き部12CのZ方向における高さLZCは、切り欠き部12A,BのZ方向における高さLZA,LZBよりも小さい。このため、エリアCを構成するブロック11cは、切り欠き部12Aと切り欠き部12Bとの間においてZ方向に突出した形状となる。
【0032】
誘電体基体11は樹脂製であることが好ましい。樹脂を用いた場合は成形や加工が容易であり、上記のように完全な直方体ではない任意の形状を容易に成形することができる。また、放射導体21,22に対して適切な波長短縮効果を付与することができる。
【0033】
次に、放射導体21,22について説明する。
【0034】
図2及び図3に示すように、放射導体21はエリアCに属するブロック11cの底面13c1、側面13c2及び上面13c3と、エリアAに属する側板部11ayの外表面13a1及び上板部11azの外表面13a2に形成されている。ここで、「外表面」とは、切り欠き部によって露出する内表面とは反対側の表面を指す。
【0035】
放射導体21のうち、ブロック11cの底面13c1に設けられた部分は、プリント基板30に設けられた接触ピン(61)に接続される部分である。また、放射導体21のうち、エリアAの外表面13a1,13a2に形成された部分は、側板部11ayと上板部11azの境界となる辺に沿って設けられている。これは、実装時において放射導体21をプリント基板30上のグランドパターンからできる限り離隔させることにより、放射効率を高めるためである。また、本実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100は、3つの周波数帯域f〜fをカバーするアンテナ装置であり、それぞれの周波数帯域の波長をλ〜λとした場合、放射導体21の電気長はλ/4且つλ/2を満たすよう設計される。
【0036】
特に限定されるものではないが、本実施形態においては、f<f<fであり、一例として、f=815〜960MHz、f=1427.9〜1495.9MHz、f=1710〜2170MHzである。この場合、周波数帯域fは周波数帯域fの約2倍の周波数である。換言すれば、周波数帯域fの波長λは周波数帯域fの波長λの約2倍である。
【0037】
一方、放射導体22はエリアCに属するブロック11cの底面13c1及び側面13c2、エリアBに属する側板部11byの外表面13b1及び側板部11bxの外表面13b2に形成されている。
【0038】
放射導体22のうち、ブロック11cの底面13c1に設けられた部分は、プリント基板30に設けられた接触ピン(62)に接続される部分である。また、放射導体22のうち、エリアBの外表面13b1に形成された部分は、側板部11byと上板部11bzの境界となる辺に沿って設けられている。これも、実装時において放射導体22をプリント基板30上のグランドパターンからできる限り離隔させることにより、放射効率を高めるためである。また、放射導体22のうち、エリアBの外表面13b2に形成された部分は、蛇行する形状を有している。これは、誘電体基体11のサイズを抑えつつ、放射導体22の電気長をλ/4とするためである。
【0039】
このように、放射導体21についてはエリアCからエリアA側に延在して設けられ、放射導体22についてはエリアCからエリアB側に延在して設けられる。つまり、これら放射導体21,22が互いに180°異なる方向に延在している。このため、誘電体基体11の形状をX方向に細長い形状とすることができ、プリント基板30の端部に沿って搭載しやすくなる。プリント基板30の端部に沿って搭載すれば、グランドパターンの影響が最小限に抑えられるため、高いアンテナ特性を得ることが可能となる。
【0040】
次に、プリント基板30上のアンテナ実装領域31について説明する。
【0041】
図4及び図5は、アンテナ実装領域31の主要部の構成を示す図であり、図4は略斜視図、図5は略平面図である。
【0042】
図4及び図5に示すように、アンテナ実装領域31には、導体パターン50〜59が設けられている。このうち、導体パターン58,59はグランド電位が与えられるグランドパターンである。これら導体パターン50〜59の大部分は、誘電体基体11のエリアC内に配置されている。
【0043】
導体パターン50は給電点32aを介して給電ライン32に接続されたパターンである。導体パターン50は、導体パターン51〜53を経由して接触ピン61に接続される。接触ピン61は、放射導体21の端部である端子と接触するピンであり、Z方向にバネ性を有している。導体パターン50と導体パターン51との間には、キャパシタC5及びインダクタL4が並列に接続されている。また、導体パターン51と導体パターン52との間にはインダクタL2が接続され、導体パターン52と導体パターン53との間にはキャパシタC1が接続されている。さらに、導体パターン51〜53とグランドパターン58との間には、それぞれキャパシタC3、キャパシタC2及びインダクタL1が接続されている。
【0044】
ここで、キャパシタC1〜C3及びインダクタL1,L2は、放射導体21のマッチング回路M1として機能する。より具体的には、キャパシタC1及びインダクタL1からなる部分は、周波数帯域fにおけるマッチング回路M1として機能し、キャパシタC2,C3及びインダクタL2からなる部分は、周波数帯域fにおけるマッチング回路M1として機能する。
【0045】
さらに、導体パターン51はインダクタL3を介して導体パターン57に接続され、導体パターン57はキャパシタC4を介してグランドパターン59に接続されている。ここで、キャパシタC4,C5及びインダクタL3,L4は、フィルタ回路F1として機能する。
【0046】
また、導体パターン50は、導体パターン54〜56を経由して接触ピン62に接続される。接触ピン62は、放射導体22の端部である端子と接触するピンであり、Z方向にバネ性を有している。導体パターン50と導体パターン54との間には、キャパシタC8が接続され、導体パターン54と導体パターン55との間にはインダクタL7が接続され、導体パターン55と導体パターン56との間にはキャパシタC6が接続されている。さらに、導体パターン55とグランドパターン59との間にはキャパシタC7及びインダクタL6が並列に接続され、導体パターン56とグランドパターン59との間にはインダクタL5が接続されている。
【0047】
ここで、キャパシタC6及びインダクタL5は、放射導体22のマッチング回路M2として機能する。さらに、キャパシタC7,C8及びインダクタL6,L7は、フィルタ回路F2として機能する。
【0048】
グランドパターン58,59は、プリント基板30を貫通して設けられたスルーホール電極THを介して、プリント基板30の裏面30bに設けられたグランドパターン60に接続されている。グランドパターン60の形状やサイズについては特に限定されるものではないが、本実施形態では導体パターン50〜59のほぼ全体を覆うようにレイアウトされている。グランドパターン60の形状やサイズは、アンテナ特性に少なからず影響を与えるため、アンテナ特性を考慮して設計すればよい。
【0049】
図6は、本実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100の機能ブロック図である。
【0050】
図6に示すように、本実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100は、給電点32aと放射導体21との間に挿入されたフィルタ回路F1及びマッチング回路M1と、給電点32aと放射導体22との間に挿入されたフィルタ回路F2及びマッチング回路M2と備える。フィルタ回路F1はいわゆるバンドエリミネーションフィルタであり、周波数帯域f、fを通過させ、周波数帯域fを減衰させる特性を有している。一方、フィルタ回路F2はいわゆるバンドパスフィルタであり、周波数帯域fを通過させ、周波数帯域f、fを減衰させる特性を有している。このように、フィルタ回路F1とフィルタ回路F2は、互いに逆の周波数特性を有している。これにより、給電点32aから入力される信号成分のうち、周波数帯域f、fの信号についてはマッチング回路M1を介して放射導体21に供給され、周波数帯域fの信号についてはマッチング回路M2を介して放射導体22に供給されることになる。
【0051】
図7は、フィルタ回路F1,F2及びマッチング回路M1,M2の等価回路図である。
【0052】
図7に示すように、フィルタ回路F1は、給電点32aとアンテナポートP1との間に並列接続されたキャパシタC5及びインダクタL4と、アンテナポートP1とグランド配線との間に直列接続されたインダクタL3及びキャパシタC4によって構成される。アンテナポートP1とは、マッチング回路M1を介して放射導体21に接続されるポートであり、図4及び図5に示す導体パターン51に相当する。かかる構成により、これらキャパシタC4,C5及びインダクタL3,L4の素子定数を適切に設定すれば、バンドエリミネーションフィルタを構成することが可能となる。一例として、キャパシタC4,C5のキャパシタンスを0.4pF及び10.2pFとし、インダクタL3,L4のインダクタンスを28nH及び1.2nHとすれば、周波数帯域f=815〜960MHz、f=1710〜2170MHzの信号を通過させ、周波数帯域f=1427.9〜1495.9MHzの信号を減衰させることが可能となる。
【0053】
一方、フィルタ回路F2は、給電点32aとアンテナポートP2との間に直列接続されたキャパシタC8及びインダクタL7と、アンテナポートP2とグランド配線との間に並列接続されたキャパシタC7及びインダクタL6によって構成される。アンテナポートP2とは、マッチング回路M2を介して放射導体22に接続されるポートであり、図4及び図5に示す導体パターン55に相当する。かかる構成により、これらキャパシタC7,C8及びインダクタL6,L7の素子定数を適切に設定すれば、バンドパスフィルタを構成することが可能となる。一例として、1GHzの周波数におけるキャパシタC7,C8のキャパシタンスを22.5pF及び0.21pFとし、1GHzの周波数におけるインダクタL6,L7のインダクタンスを0.53nH及び56.3nHとすれば、周波数帯域f=1427.9〜1495.9MHzの信号を通過させ、周波数帯域f=815〜960MHz、f=1710〜2170MHzの信号を減衰させることが可能となる。
【0054】
マッチング回路M1はキャパシタC1〜C3と、インダクタL1,L2からなる。また、マッチング回路M2はキャパシタC6とインダクタL5からなる。これらキャパシタ及びインダクタの接続関係は図4及び図5を用いて説明したとおりである。
【0055】
図8は、フィルタ回路F1,F2を抜き出して示す回路図である。図8に示す回路においてはマッチング回路M1,M2及び放射導体21,22が削除されており、フィルタ回路F1のフィルタ入出力ポートはP3、フィルタ回路F2のフィルタ入出力ポートはP4と表記されている。また、給電点は符号32bと表記されている。
【0056】
図9は、素子定数を上記の通りとした場合に得られるフィルタ回路F1,F2の通過特性を示すグラフである。図9において、特性S1と表記しているのは給電点32bとフィルタ入出力ポートP3との間の通過特性であり、特性S2と表記しているのは給電点32bとフィルタ入出力ポートP4との間の通過特性であり、特性S0と表記しているのはフィルタ入出力ポートP3とフィルタ入出力ポートP4との間の通過特性である。
【0057】
特性S1に示すように、フィルタ回路F1は、1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域における信号を大きく減衰させる一方、815〜960MHzの周波数帯域及び1710〜2170MHzの周波数帯域においては信号をほとんど減衰させない。つまり、フィルタ回路F1は、周波数帯域f、fを通過させ、周波数帯域fを減衰させるバンドエリミネーション特性を有していることが分かる。
【0058】
特性S2に示すように、フィルタ回路F2は、1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域における信号をほとんど減衰させない一方、815〜960MHzの周波数帯域及び1710〜2170MHzの周波数帯域の信号を大きく減衰させる。つまり、フィルタ回路F2は、周波数帯域fを通過させ、周波数帯域f、fを減衰させるバンドパス特性を有していることが分かる。
【0059】
さらに、フィルタ入出力ポートP3,P4間の特性である特性S0は、815〜960MHzの周波数帯域、1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域、1710〜2170MHzの周波数帯域のいずれにおいても高い遮断特性を示している。これにより、フィルタ入出力ポートP3,P4間における信号の回り込みが効果的に防止されていることが分かる。
【0060】
図10は、素子定数を上記の通りとした場合に得られるフィルタ回路F1,F2の反射特性を示すグラフである。図10において、特性R1と表記しているのはフィルタ入出力ポートP3の反射特性であり、特性R2と表記しているのはフィルタ入出力ポートP4の反射特性であり、特性R0と表記しているのは給電点32bの反射特性である。
【0061】
特性R1に示すように、フィルタ入出力ポートP3は815〜960MHzの周波数帯域及び1710〜2170MHzの周波数帯域においては信号をほとんど反射させない。また、特性R2に示すように、フィルタ入出力ポートP4は1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域においては信号をほとんど反射させない。さらに、特性R0に示すように、給電点32bは815〜960MHzの周波数帯域、1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域、1710〜2170MHzの周波数帯域のいずれにおいても信号をほとんど反射させない。このように、各ポートは必要な周波数帯域の信号を反射させることがない。
【0062】
図11はマッチング回路M1,M2を含めた放射導体21,22の反射特性を示すグラフであり、図12はマッチング回路M1,M2を含めた放射導体21,22の放射効率を示すグラフである。
【0063】
図11及び図12に示すように、放射導体21は、815〜960MHzの周波数帯域及び1710〜2170MHzの周波数帯域において信号の反射が小さく、放射効率が高いことが分かる。また、放射導体22は、1427.9〜1495.9MHzの周波数帯域において信号の反射が小さく、放射効率が高いことが分かる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100は、単一の給電点32aに接続することによって3バンドの周波数帯域をカバーすることが可能となる。これにより、LTE規格の携帯電話機用のアンテナ装置として好適に利用することができる。
【0065】
また、2つの放射導体21,22間の相互干渉がほとんど無いことから、放射導体21,22の設計が容易となり、開発のリードタイムを短縮することが可能となる。放射導体21については高域及び低域の両方をカバーするが、本実施形態では分岐構造を有していないことから、この点もリードタイムの短縮に寄与する。
【0066】
さらに、本実施形態では誘電体基体11に切り欠き部が設けられ、これによって形成される隙間にフィルタ回路F1,F2やマッチング回路M1,M2が収容されていることから、プリント基板30上においてこれらフィルタ回路F1,F2やマッチング回路M1,M2を配置するための専用のエリアを設ける必要がない。これにより、アンテナ装置全体のサイズを小型化することも可能となる。
【0067】
図13は、変形例によるトリプルバンドアンテナ装置200の回路図である。
【0068】
図13に示すトリプルバンドアンテナ装置200は、アンテナポートP2とマッチング回路M2との間にフィルタ回路F3を追加し、給電点33とマッチング回路M2との間にフィルタ回路F4を追加した点において、上記実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100と相違している。その他の点については上記実施形態によるトリプルバンドアンテナ装置100と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0069】
給電点33は例えばGPS用の給電点である。GPSに使用する周波数は約1575MHzであり、上述したトリプルバンドアンテナ装置100がカバーする周波数帯域f(1427.9〜1495.9MHz)と近接しているため、同じ放射導体22を使用する一方で、相互干渉を避けるために給電点32aとは別の給電点33を使用している。フィルタ回路F3,F4はいわゆるダイプレクサであり、給電点32a側のフィルタ回路F3はローパスフィルタとして機能し、給電点33側のフィルタ回路F4はハイパスフィルタとして機能する。そして、これらフィルタ回路F3,F4のカットオフ周波数を周波数帯域fとGPSに使用する周波数との中間(例えば1550MHz程度)に設定すれば、各周波数帯域の信号を正しく分離することが可能となる。
【0070】
図14は、トリプルバンドアンテナ装置100を用いた無線通信機器300の構成の一例を示すブロック図である。
【0071】
図14に示すように、無線通信機器300は、トリプルバンドアンテナ装置100と、給電点32aに接続された無線回路部41と、無線回路部41を制御する通信制御部42と、メモリ43及び入出力インターフェース44とを備えている。これらの回路ブロックのうち、無線回路部41、通信制御部42、メモリ43及び入出力インターフェース44については、プリント基板30の主回路領域34に設けられる。このような無線通信機器300は、3つの周波数帯域を使用する機器、例えば、LTE規格に準拠した携帯電話機として好適に使用することが可能である。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0073】
上記実施形態に示したトリプルバンドアンテナ装置100の具体的な形状や構造は好ましい一例であり、本発明がこれに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては複数のディスクーリート部品を接続することによってフィルタ回路F1,F2を構成しているが、1チップのフィルタ部品によってそれぞれフィルタ回路F1,F2を構成しても構わない。さらには、複合フィルタ部品を用いてフィルタ回路F1,F2の両方を1チップに集積しても構わない。
【符号の説明】
【0074】
10 アンテナブロック
11 誘電体基体
11ax,11ay 側板部
11az 上板部
11bx,11by 側板部
11bz 上板部
11c ブロック
12A〜12C 切り欠き部
13a1,13a2 外表面
13ax,13ay,13az 底面
13b1,13b2 外表面
13bx,13by,13bz 底面
13c1 底面
13c2 側面
13c3 上面
21,22 放射導体
30 プリント基板
30a プリント基板の上面
30b プリント基板の裏面
31 アンテナ実装領域
32 給電ライン
32a,32b,33 給電点
34 主回路領域
41 無線回路部
42 通信制御部
43 メモリ
44 入出力インターフェース
50〜59 導体パターン
60 グランドパターン
61,62 接触ピン
100,200 トリプルバンドアンテナ装置
300 無線通信機器
A,B,C エリア
C1〜C8 キャパシタ
F1〜F4 フィルタ回路
L1〜L7 インダクタ
M1,M2 マッチング回路
P1,P2 アンテナポート
P3,P4 フィルタ入出力ポート
TH スルーホール電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1乃至第3の周波数帯域をカバーするトリプルバンドアンテナ装置であって、
給電点と、第1及び第2の放射導体と、前記給電点と前記第1の放射導体との間に設けられた第1のフィルタ回路と、前記給電点と前記第2の放射導体との間に設けられた第2のフィルタ回路とを備え、
前記第1のフィルタ回路は、前記第1及び第3の周波数帯域を通過させるとともに前記第2の周波数帯域を減衰させ、
前記第2のフィルタ回路は、前記第2の周波数帯域を通過させるとともに前記第1及び第3の周波数帯域を減衰させる、ことを特徴とするトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の周波数帯域は前記第2の周波数帯域よりも低い周波数帯域であり、前記第2の周波数帯域は前記第3の周波数帯域よりも低い周波数帯域であることを特徴とする請求項1に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項3】
前記第3の周波数帯域の周波数は、前記第1の周波数帯域の周波数の2倍の周波数を含むことを特徴とする請求項2に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の放射導体の電気長は、前記第1の周波数帯域の波長をλとし、前記第3の周波数帯域の波長をλとした場合、λ/4且つλ/2を満たしていることを特徴とする請求項3に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1のフィルタ回路と前記第1の放射導体との間に設けられた第1のマッチング回路と、前記第2のフィルタ回路と前記第2の放射導体との間に設けられた第2のマッチング回路とをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項6】
プリント基板と、前記プリント基板に搭載され、前記第1及び第2の放射導体が形成された誘電体基体をさらに備え、
前記誘電体基体には、前記プリント基板の所定の上面と前記誘電体基体の所定の底面の間に隙間が形成されるよう切り欠き部が設けられており、前記第1及び第2のフィルタ回路は前記隙間に収容されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項7】
前記誘電体基体の前記所定の底面には、前記第1及び第2のフィルタ回路にそれぞれ接続された第1及び第2の端子が設けられており、
前記第1の放射導体は前記第1の端子から第1の方向に延在して設けられ、前記第2の放射導体は前記第2の端子から前記第1の方向とは逆の第2の方向に延在して設けられていることを特徴とする請求項6に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項8】
前記誘電体基体は前記プリント基板の所定の辺に沿って搭載されており、前記第1及び第2の放射導体は、前記誘電体基体の表面であって、前記プリント基板に垂直な前記端部側の表面に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のトリプルバンドアンテナ装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のトリプルバンドアンテナ装置と、前記給電点に接続された無線回路部とを備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−253436(P2012−253436A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122508(P2011−122508)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】