説明

トルクレンチ及びこれを備えた締め付け装置

【目的】 本発明の目的は、締め付け作業時に締め付けトルク値を得ることが可能なトルクレンチ及びこれを備えた締め付け装置を提供する。
【構成】 トルクレンチWは、締め付け部10が着脱自在であるヘッド部21を有するレンチボディと、前記レンチボディ内に設けられており且つ締め付け部10に係合可能な第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有するトルク伝達部と、前記トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能なロードセルとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクレンチ及びこれを備えた締め付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小型のトルクレンチとしてはプレート型のトルクレンチがある。このトルクレンチは、インジケータの曲げロッドの自由端を操作し、当該自由端を目盛りに記された所定の締め付けトルク値に合わせつつ、当該トルクレンチを操作することにより、前記締め付けトルク値で締め付け作業を行うことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−182691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記トルクレンチは、作業者が曲げロッドの自由端が目盛り上の締め付けトルク値に合致した状態を目視でしつつ、締め付け作業を行うことから、角度によっては目盛りの読みに誤差が生じることがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、締め付け作業時に締め付けトルク値を得ることが可能なトルクレンチ及びこれを備えた締め付け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1トルクレンチは、締め付け部が着脱自在であるヘッド部を有するレンチボディと、前記レンチボディ内に設けられており且つ前記締め付け部に係合可能な第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有するトルク伝達部と、前記トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能なロードセルとを備えている。
【0007】
このような発明の態様による場合、トルク伝達部の第1端部が締め付け部に係合可能であり、当該トルク伝達部の第2端部がロードセルに当接している。よって、レンチボディのヘッド部に締め付け部が取り付けられ、トルク伝達部の第1端部が締め付け部に係合した状態で、締め付け作業が行われると、締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重がトルク伝達部を介してロードセルに伝わり、当該ロードセルにより前記荷重が電気信号に変換され出力される。このロードセルの電気信号に基づいて締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重(締め付けトルク)を得ることが可能になるので、締め付けトルク値を参照しつつ締め付け作業を行うことができる。
【0008】
本発明の第2トルクレンチは、締め付け部と、前記締め付け部が設けられたヘッド部を有するレンチボディと、前記レンチボディ内に設けられており且つ前記締め付け部に係合した第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有するトルク伝達部と、前記トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能なロードセルとを備えている。
【0009】
このような発明の態様による場合、トルク伝達部の第1端部が締め付け部に係合し、当該トルク伝達部の第2端部がロードセルに当接している。よって、締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重がトルク伝達部を介してロードセルに伝わり、当該ロードセルにより前記荷重が電気信号に変換され出力される。このロードセルの電気信号に基づいて締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重(締め付けトルク)を得ることが可能になるので、締め付けトルク値を参照しつつ締め付け作業を行うことができる。
【0010】
前記ロードセルは、凸状のロード部を有する構成とすることが可能である。前記トルク伝達部の第2端部には、前記ロードセルのロード部が挿入された凹部が設けられた態様とすることが可能である。前記ロード部の高さ寸法が前記凹部の深さ寸法よりも大きい。このような発明の態様による場合、ロードセルの凸状のロード部が、トルク伝達部の凹部に挿入され、トルク伝達部の第2端部に当接している。このため、締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重がトルク伝達部を介してロードセルのロード部に伝わる精度が向上する。
【0011】
或いは、前記ロードセルは、凹状のロード部を有する構成とすることが可能である。前記トルク伝達部の第2端部には、前記ロードセルのロード部に挿入された凸部が設けられている。前記凸部の高さ寸法が前記ロード部の深さ寸法よりも大きい。このような発明の態様による場合、トルク伝達部の凸部がロードセルの凹状のロード部に挿入され、当該ロード部に当接している。このため、締め付け作業時に締め付け部にかかる荷重がトルク伝達部を介してロードセルのロード部に伝わる精度が向上する。
【0012】
前記レンチボディは、前記ヘッド部が設けられた先端部と、後端部とを有する構成とすることが可能である。前記トルク伝達部の第2端部は、前記レンチボディの後端部から突出する構成とすることが可能である。前記ロードセルは、前記レンチボディの後方に配置され、前記第2端部に当接している。このような発明の態様による場合、ロードセルが、レンチボディの後方に配置されているので、レンチボディの小型化を図ることができる。
【0013】
前記締め付け部の外周面にはラチェット溝が設けられた態様とすることが可能である。前記トルク伝達部は、前記第1端部に設けられ、前記ラチェット溝に係合可能な爪部を更に有する構成とすることが可能である。このような発明の態様による場合、爪部がラチェット溝の壁に押圧されることにより、締め付け部の回転トルクがトルク伝達部に伝わる。
【0014】
前記第1、第2トルクレンチは、前記レンチボディに前記長さ方向に移動自在に外嵌しており且つ前記ロードセルに取り付けられたスリーブと、前記レンチボディに設けられた第1当て止め部と前記スリーブの間に設けられた第1付勢部とを更に備えた構成とすることが可能である。この場合、前記締め付け部は前記ヘッド部に対して回転自在になっている。前記トルク伝達部は、前記レンチボディ内に長さ方向に移動自在に収容されている。
【0015】
前記ラチェット溝は、第1、第2壁を有する構成とすることが可能である。前記爪部は、前記第1壁に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転を規制する当て止め面と、前記第2壁を押圧し、前記レンチボディを先端側に移動させる傾斜面とを有する構成とすることが可能である。
【0016】
このような発明の態様による場合、爪部の当て止め面が前記第1壁に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転が規制される。また、締め付け作業時に、爪部の当て止め面が前記第1壁に押圧され、締め付け部の回転トルクがトルク伝達部に伝わる。一方、爪部の傾斜面が前記第2壁に押圧されると、前記レンチボディを先端側に移動させる。これにより、爪部がラチェット溝から脱し、締め付け部のヘッド部に対する第1方向の反対の第2方向の回転が許容される。
【0017】
或いは、前記ラチェット溝は、第1、第2壁を有する構成とすることが可能である。前記第1壁は、前記爪部に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転を規制する当て止め面を有している。前記第2壁は、前記爪部に押圧され、前記レンチボディを先端側に移動させる傾斜面を有している。
【0018】
このような発明の態様による場合、爪部が第1壁の当て止め面に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転が規制される。また、締め付け作業時に、第1壁の当て止め面が爪部を押圧し、締め付け部の回転トルクがトルク伝達部に伝わる。一方、第2壁の傾斜面が爪部に押圧されると、前記レンチボディが先端側に移動する。これにより、爪部がラチェット溝から脱し、締め付け部のヘッド部に対する第1方向の反対の第2方向の回転が許容される。
【0019】
前記トルク伝達部は、第2当て止め部を更に有する構成とすることが可能である。前記第1、第2トルクレンチは、第3当て止め部と、前記第2、第3当て止め部間に設けられた第2付勢部とを更に備えた構成とすることが可能である。このような発明の態様による場合、第2付勢部の付勢力により、トルク伝達部が先端側に付勢される。
【0020】
前記ロードセルは、前記ロード部の周りに立設されており且つ当該ロード部よりも高さ寸法が大きい保護壁を更に有する構成とすることが可能である。このような発明の態様による場合、ロード部の周りに、当該ロード部よりも高さ寸法が大きい保護壁が設けられているので、ロード部が他の部材に当接することにより、ロード部に不要な負荷がかかるのを抑止することができる。
【0021】
本発明の締め付け装置は、上述した何れかの態様の第1又は第2トルクレンチと、トルク演算装置とを備えている。前記トルク演算装置は、前記第1又は第2トルクレンチのロードセルの出力信号に基づいて前記締め付け部の締め付けトルクを演算するトルク演算部を備えている。
【0022】
このような発明の態様による場合、トルク演算部がロードセルの電気信号に基づいて締め付け部の締め付けトルクを演算することにより、締め付け部の締め付けトルク値が得られる。よって、締め付けトルク値を参照しつつ締め付け作業を行うことができる。
【0023】
前記トルク演算装置は、すべり判定部と、報知部とを更に備えた構成とすることが可能である。前記すべり判定部は、前記締め付けトルクの変化量又は変化率を所定時間t毎にサンプリングし、先の所定期間tの締め付けトルクの変化量又は変化率と、当該先の所定期間tの直後の所定期間tの締め付けトルクの変化量又は変化率とを順次比較し、後者の変化量又は変化率が前者の変化量又は変化率よりも小さいか否かを判定する内容とすることが可能である。前記報知部は、前記すべり判定部により後者の変化量又は変化率が前者の変化量又は変化率よりも小さいと判定されたときに、前記締め付け部の締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを報知する内容とすることが可能である。
【0024】
トルクレンチの締め付け部にナット等の固着部材を係合させ、レンチ本体のハンドル部を手動操作して固着部材をボルト等の固着対象に螺着させる締め付け作業時において、固着部材が固着対象に対して回転し、その抵抗が向上しているときは、所定期間tにおける締め付けトルクの変化量又は変化率(すなわち、前者の変化量又は変化率)が大きく変化する。これに対し、固着部材が固着対象に対して螺着し、その抵抗の変化が小さくなるときには、所定期間tにおける締め付けトルクの変化量又は変化率(すなわち、後者の変化量又は変化率)が小さくなる。本願発明の発明者らは、後者の変化が前者の変化の直後に発生することに着目して上述の態様の締め付け装置を発明した。この締め付け装置は、すべり判定部が所定時間t毎に締め付けトルクの変化量又は変化率をサンプリングし、後者の変化量又は変化率が前者の変化量又は変化率よりも小さいと判定したときに、報知部が、締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを作業者に報知させる構成となっている。このため、作業者は、すべり現象が起こる直前の限界トルク値で固着部材を固着対象に対して締め付けを止めることが可能になるので、すべり現象の発生を抑制することができる。
【0025】
或いは、前記すべり判定部は、前記締め付けトルクの変化量又は変化率を所定時間t毎にサンプリングし、所定時間tの締め付けトルクの変化量又は変化率が所定範囲内であるか否かを判定する内容とすることが可能である。前記報知部は、前記すべり判定部により所定時間tの締め付けトルクの変化量又は変化率が所定範囲内であると判定されたときに、前記締め付け部の締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを報知する内容とすることが可能である。
【0026】
このような発明の態様による場合、すべり判定部が所定時間t毎に締め付けトルクの変化量又は変化率をサンプリングし、所定時間tの締め付けトルクの変化量又は変化率が所定範囲内であると判定したときに、報知部が、締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを作業者に報知させる構成となっている。このため、作業者は、すべり現象が起こる直前の限界トルク値で固着部材を固着対象に対して締め付けを止めることが可能になるので、すべり現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1に係る締め付け装置のブロック図である。
【図2A】前記締め付け装置のトルクレンチの部分断面を含む概略的平面図である。
【図2B】締め付け部が分離した前記トルクレンチ、固着部材及び固着対象を示す概略的正面図である。
【図2C】前記トルクレンチの締め付け部とトルク伝達部の第1端部との関係を示す模式的説明図である。
【図3】前記トルクレンチの部分断面を含む概略的分解平面図である。
【図4】前記締め付け装置のトルク演算装置の操作パネルの概略的正面図である。
【図5】前記締トルク演算装置のマイコンにより処理されるフローチャートである。
【図6】前記締め付け装置の締め付け作業時の締め付けトルクの変化を時間軸上に示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例1について図1〜図6を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0029】
図1、図2A及び図2Bに示す締め付け装置は、固着部材1を固着対象2に螺着させる締め付け装置である。前記締め付け装置はトルクレンチW及びトルク演算装置Dを備えている。以下、トルクレンチW及びトルク演算装置Dについて詳しく説明する。
【0030】
トルクレンチWは、図2A、図2B及び図3に示すように、締め付け部10と、レンチ本体20と、ロードセル30と、スリーブ41と、コイルスプリング42(第1付勢部)とを備えている。締め付け部10は係合部11及び取付部12を有している。係合部11は固着部材1に係合可能な部位である。係合部11の形状は、固着部材1の被係合部の形状に応じて適宜変更可能である。本実施例1では、固着部材1の被係合部(図示せず)が六角柱状の凸部であるので、係合部11に前記凸部が嵌合可能な六角形の凹部が設けられている。取付部12は係合部11に連設された円柱である。この取付部12の外周面には、図2B及び図2Cに示すように複数のラチェット溝121が周方向αに間隔をあけて形成されている。ラチェット溝121は図2Bに示すように円弧状の凹部である。ラチェット溝121は、図2Cに示すように周方向α側の第1壁122aと、周方向β側の第2壁122bとを有している。
【0031】
レンチ本体20は、図2A、図2B及び図3に示すように、レンチボディと、トルク伝達部23と、固定部24と、コイルスプリング25(第2付勢部)とを有している。レンチボディは、ハンドル部22と、ハンドル部22の先端部に連設されたヘッド部21とを有している。このヘッド部21には、当該ヘッド部21を厚み方向に貫通する円柱状の取付孔21aが開設されている。この取付孔21aの外径は、締め付け部10の取付部12の外径よりも若干大きい。すなわち、締め付け部10の取付部12が取付孔21aに着脱自在に嵌合している。この嵌合状態で、取付部12はヘッド部21に対して回転軸Pで周方向α、βに回転自在となっている。
【0032】
ハンドル部22は図2A及び図3に示すように長尺状の円筒体である。ハンドル部22は、前記先端部と、手動操作される後端部とを有している。このハンドル部22の内部には、長さ方向に延び且つ取付孔21aに連通する収容孔22aが設けられている。ハンドル部22の収容孔22aの後端部の内周面にはネジ溝が形成されている。なお、ヘッド部21がレンチボディの先端部に、ハンドル部22の後端部がレンチボディの後端部に相当する。
【0033】
トルク伝達部23は、図3に示すように、レンチボディの長さ方向に延びたロッドであって、レンチボディの収容孔22aに前記長さ方向に移動自在に収容されている。このトルク伝達部23の長さ寸法は、収容孔22aの長さ寸法よりも大きい。トルク伝達部23は、第1端部23aと、第2端部23bと、第1端部23aと第2端部23bとの間に設けられた中間部23cとを有している。中間部23cは、収容孔22aの径よりも外径が小さい円柱である。中間部23cの第1端部23a側の上下端部には、第1、第2カット部23c1(図示一つ)が設けられている。第1端部23aは中間部23cよりも外径が小さい円柱である。第1端部23a及び中間部23cは、収容孔22aに収容されている。第1端部23aの先端には、図2Cに示すように三角形状の爪部23a1が設けられている。爪部23a1は、当て止め面23a11と、傾斜面23a12とを有している。第1カット部23c1にレンチボディの収容孔22a内の上側の内壁に設けられた図示しない第1突起が嵌合し、第2カット部23c1にレンチボディの収容孔22a内の下側の内壁に設けられた図示しない第2突起が嵌合する。これにより、図2Cに示すように、爪部23a1の当て止め面23a11が周方向α側に向き、傾斜面23a12が周方向β側に向いた状態が維持される。
【0034】
爪部23a1は、ハンドル部22の収容孔22aからヘッド部21の取付孔21aに突出し、締め付け部10の取付部12の複数のラチェット溝121のうちの一のラチェット溝121に係合される。爪部23a1がラチェット溝121に係合された状態で、爪部23a1の当て止め面23a11がラチェット溝121の第1壁122aに当接している。これにより、取付部12のヘッド部21に対する周方向β(第1方向)への回転が規制されている。よって、後述する締め付け作業時において、レンチ本体20が周方向αに操作されると、ラチェット溝121の第1壁122aが爪部23a1の当て止め面23a11を押圧する。これにより、トルク伝達部23がロードセル30側に移動しようとし(現実には移動はしない。)、ロードセル30の後述するロード部31aに荷重をかける。このように締め付け部10の回転トルクがトルク伝達部23を介してロードセル30に伝わる。
【0035】
一方、締め付け部10は、ヘッド部21に対する周方向α(第2方向)への回転が許容されている。具体的には、後述するようにスリーブ41がロードセル30に取り付けられた状態で、締め付け部10がヘッド部21に対して周方向αに回転すると、締め付け部10のラチェット溝121の第2壁122bが爪部23a1の傾斜面23a12を押圧する。これにより、レンチボディがコイルスプリング42及びコイルスプリング25の付勢力に抗して先端側に移動し、爪部23a1が当該ラチェット溝121から脱する。その後、爪部23a1が次のラチェット溝121に挿入されると、コイルスプリング42及びコイルスプリング25の付勢力により、レンチボディが後端側に移動する。これを繰り返す(すなわち、トルク伝達部23の爪部23a1が締め付け部10のラチェット溝121に出入りを繰り返す)ことにより、締め付け部10のヘッド部21に対する周方向αへの回転が許容されている。
【0036】
なお、締め付け部10は、図2Bの図示下側からだけでなく図示上側からも取り付けることができる。このように締め付け部10をヘッド部21に対して図示上側(すなわち、逆方向)から取り付けることにより、当該締め付け部10の回転の規制方向及び許容方向を反転することができる。このとき、レンチボディの収容孔22a内の第2、第1突起が、トルク伝達部23の第1、第2カット部23c1に嵌合する。これにより、爪部23a1の当て止め面23a11が周方向β側に向き、傾斜面23a12が周方向α側に向く。
【0037】
第2端部23bは、図2A及び図3に示すように、第1端部23a及び中間部23cよりも外径が小さい円柱である。第2端部23bは、図示しないネジ部を有している。このネジ部が中間部23cの図示しないネジ穴に螺着されている。第2端部23bは、ハンドル部22の収容孔22aに収容された先端部と、収容孔22a(すなわち、レンチボディの後端部)から後方に突出した後端部とを有している。第2端部23bの後端部には、円錐台状のストッパ23b1が設けられている。第2端部23bの後端面には、円形の凹部23b2が設けられている。
【0038】
固定部24は、図2A及び図3に示すように、トルク伝達部23の第2端部23bのストッパ23b1の先端側部分に前記長さ方向に移動自在に外嵌している。固定部24は、円筒24aと、蓋24bとを有している。円筒24aの内径が第2端部23bの外径よりも大きい。円筒24aがトルク伝達部23の第2端部23bに前記長さ方向に移動自在に外嵌している。円筒24aの後端側への所定以上の移動がストッパ23b1により規制されている。円筒24aは、先端部と、後端部と、その間の中間部とを有している。円筒24aの先端部の外周面にはネジ溝が形成されている。この円筒24aのネジ溝がハンドル部22の収容孔22aの後端部の内周面のネジ溝に螺着されている。蓋24bは円筒24aの中間部に設けられた円板である。蓋24bの外径は、レンチボディのハンドル部22の外径よりも大きい。円筒24aがハンドル部22の収容孔22aの後端部に螺着された状態で、蓋24bがハンドル部22の収容孔22aの後端側を閉塞している。
【0039】
コイルスプリング25は、図2A及び図3に示すように、トルク伝達部23の第2端部23bの先端部に前記長さ方向に移動自在に外嵌し且つ固定部24とトルク伝達部23の中間部23cとの間に圧縮状態で介在している。コイルスプリング25は、トルク伝達部23と共にハンドル部22の収容孔22a内に収容され、当該トルク伝達部23を先端側(ヘッド部21側)に付勢している。なお、トルク伝達部23の中間部23cが、特許請求の範囲の第2当て止め部、固定部24が第3当て止め部に相当している。
【0040】
ロードセル30は、図2A及び図3に示すように、レンチボディの後方に配置され、トルク伝達部23の第2端部23bに当接している。このロードセル30は、ロードセル部31と、電源/出力ケーブル32と、ボディ33とを有している。ボディ33は円筒状であって、先端にロードセル部31が設けられている。ボディ33内には電源/出力ケーブル32の端部が挿入され、ロードセル部31に接続されている。また、ボディ33の先端部の外周面にはネジ溝が形成されている。このネジ溝がスリーブ41の内周面のネジ溝に螺着されている。このようにボディ33がスリーブ41に取り付けられることにより、ロードセル30がレンチボディの後方に固着されている。
【0041】
ロードセル部31は円板状の圧縮型ロードセルである。ロードセル部31は、ロード部31aと、保護壁31bとを有している。ロード部31aは、円形凸状のロードボタンであって、ロードセル部31の天面の中心部に設けられている。ロード部31aの外径は、トルク伝達部23の凹部23b2の内径よりも若干小さい。ロード部31aの高さ寸法は、トルク伝達部23の凹部23b2の深さ寸法よりも大きい。ボディ33がスリーブ41に取り付けられた状態で、ロード部31aがトルク伝達部23の凹部23b2に嵌合し、トルク伝達部23の第2端部23bに当接している。ロードセル部31は、ロード部31aがトルク伝達部23の第2端部23bから荷重を受けると、その荷重を電気信号に変換して電源/出力ケーブル32を通じてトルク演算装置Dに出力可能となっている。
【0042】
保護壁31bは、ロードセル部31の天面上のロード部31a周りに設けられた円筒状の壁である。保護壁31bの高さ寸法は、ロード部31aの高さ寸法よりも大きい。よって、ロードセル30のボディ33がスリーブ41から取り外された状態で、保護壁31bが、ロード部31aが他の部材(例えば、作業机等)に当接することを防止している。これにより、前述の取り外し状態で、ロード部31aに不要な負荷がかかるのを抑止している。
【0043】
スリーブ41は、図2A及び図3に示すように、レンチボディのハンドル部22に前記長さ方向に移動自在に外嵌した円筒である。スリーブ41の前記長さ方向の一端部には、円板状のフランジ41aが設けられている。フランジ41aの内径はハンドル部22の外径より大きく且つ固定部24の蓋24bの外径よりも小さい。スリーブ41のフランジ41a以外の内径は、蓋24bの外径よりも若干大きく且つロードセル30のボディ33の先端部の外径と略同じである。また、スリーブ41の前記長さ方向の他端部の内周面には、ネジ溝が形成されている。スリーブ41のネジ溝にロードセル30のボディ33のネジ溝が螺着されている。このようにスリーブ41がロードセル30のボディ33に取り付けられた状態で、トルク伝達部23の第2端部23bの後端部、固定部24の後端部、固定部24の蓋24b及びロードセル30のロードセル部31がスリーブ41内に収容され、トルク伝達部23の第2端部23bがロードセル部31のロード部31aに当接した状態で維持される。
【0044】
コイルスプリング42は、レンチボディのハンドル部22に長さ方向に移動自在に外嵌し且つスリーブ41内に収容されている。コイルスプリング42は、スリーブ41のフランジ41aと固定部24の蓋24bとの間に圧縮状態で介在し、蓋24bを後端側に付勢している。これにより、トルク伝達部23の第2端部23bがロードセル部31に押し当てられる(すなわち、ロードセル部31にプリロードがかけられる。)。
【0045】
トルク演算装置Dは、アンプAと、A/D変換部Cと、マイコン50と、メモリ部60と、設定入力部70と、外部出力部80と、液晶表示部91(表示部)と、7セグ表示部92(表示部)と、ブザー93(報知部)とを備えている。アンプAはロードセル30の電源/出力ケーブル32が接続されており、当該ロードセル30の電気信号を増幅し、A/D変換部Cに出力している。A/D変換部Cは、増幅された電気信号をA/D変換し、マイコン50に出力している。
【0046】
設定入力部70は、トルク基準値の設定入力及び電源オンオフ等を行うことが可能になっており、これらの入力データをマイコン50に出力するようになっている。メモリ部60には、複数の締め付けトルク基準値が予め記録されている。メモリ部60は不揮発性メモリであって、マイコン50のバスラインに相互接続されている。
【0047】
マイコン50は、入力ポート、出力ポート及び内部メモリを有している。マイコン50の入力ポートにはA/D変換部C及び設定入力部70等が接続されている。マイコン50の出力ポートには外部出力部80、液晶表示部91、7セグ表示部92及びブザー93等が接続されている。マイコン50の内部メモリには後述するすべり判定プログラムが記録されている。マイコン50はすべり判定プログラムを逐次処理することにより、トルク演算部51及びすべり判定部52としての機能を発揮するようになっている。液晶表示部91は、図4に示す操作パネルの液晶ディスプレイに締め付けトルクの変化をトルク曲線として時間軸上に表示させるようになっている。7セグ表示部92は、前記操作パネルの7セグメントディスプレイに締め付けトルクのリアル値及びピークホールド値を数値表示させるようになっている。
【0048】
以下、上記のように構成された締め付け装置のトルクレンチWの組み立て手順について詳しく説明する。まず、レンチボディと、スリーブ41とを用意する。その後、レンチボディのハンドル部22をスリーブ41に挿入する。その後、コイルスプリング42を用意する。その後、レンチボディのハンドル部22をコイルスプリング42に挿入する。すると、コイルスプリング42がスリーブ41に挿入され、コイルスプリング42の長さ方向の一端がスリーブ41のフランジ41aに当接する。
【0049】
その一方で、トルク伝達部23の第2端部23b、固定部24及びコイルスプリング25を用意する。その後、第2端部23bを固定部24及びコイルスプリング25内に挿入する。すると、固定部24が第2端部23bのストッパ23b1に当接する。その後、トルク伝達部23の第1端部23a及び中間部23cを用意する。その後、第2端部23bのネジ部を中間部23cのネジ穴に螺着させる。すると、コイルスプリング25が中間部23cと固定部24との間で圧縮される。
【0050】
その後、トルク伝達部23、コイルスプリング25及び固定部24の先端部をレンチボディの収容孔22aに挿入し、固定部24をレンチボディの収容孔22aの後端部に螺着させる。すると、固定部24の蓋24bがレンチボディの収容孔22aの後端側を塞ぐ。蓋24bは、外径がレンチボディのハンドル部22の外径よりも大きいため、蓋24bの外周縁部(第1当て止め部)がハンドル部22から外周方向に突出する。このとき、コイルスプリング42の長さ方向の他端が蓋24bに当接可能となる。その後、トルク伝達部23をレンチボディの収容孔22a内で回転させ、当該トルク伝達部23の第1、第2カット部23c1に、収容孔22a内の第1、第2突起を嵌合させる。これにより、トルク伝達部23の第1端部23aの爪部23a1がハンドル部22の収容孔22aからヘッド部21の取付孔21aに突出すると共に、爪部23a1の当て止め面23a11が周方向α側に向き、傾斜面23a12が周方向β側に向く。以上のようにレンチ本体20が組み立てられる。
【0051】
その後、ロードセル30を用意する。その後、ロードセル30のロード部31aをトルク伝達部23の第2端部23bの凹部23b2に位置合わせしつつ挿入する。この状態で、スリーブ41及びコイルスプリング42をレンチボディに対して後端側に相対的に移動させ、当該スリーブ41をロードセル30のボディ33に螺着させる。すると、コイルスプリング42がスリーブ41のフランジ41aと固定部24の蓋24bの外周縁部との間で圧縮され、蓋24bを後端側に付勢する。これにより、トルク伝達部23の第2端部23bがロードセル部31に押し当てられ、当該ロードセル部31にプリロードがかけられる。
【0052】
その後、締め付け部10の取付部12をヘッド部21の取付孔21aに嵌合させる。すると、トルク伝達部23の爪部23a1が、締め付け部10の取付部12の複数のラチェット溝121のうちの一のラチェット溝121に挿入され、係合される。その後、ロードセル30の電源/出力ケーブル32をトルク演算装置Dに接続する。
【0053】
以下、上記のように構成された締め付け装置の使用方法及びその動作について説明する。なお、本実施例1においては、説明の便宜上、固着部材1が固着対象2に螺着させるまでに3回の締め付け作業が必要であるとする。ここに記述するすべり現象とは、固着対象2と、当該固着対象2が埋め込まれた筐体(図示せず)とが剥離等し、固着対象2が前記筐体に対して空転する現象のことを言う。
【0054】
まず、作業者が設定入力部70を操作して電源をオンにすると、マイコン50等に電源電圧が供給されてトルク演算装置Dが動作状態になると共に、電源/出力ケーブル32を通じてロードセル30にも電源電圧が供給されてロードセル30が動作状態となる。すると、マイコン50が図5に示すすべり判定プログラムの処理を開始する。その後、作業者が設定入力部70を操作してトルク基準値の設定入力をすると(s1)、マイコン50が前記設定入力の入力指令に対応するトルク基準値をメモリ部60から読み出して前記内部メモリに記録する。
【0055】
その後、作業者がトルクレンチWの締め付け部10に固着部材1を係合させ、その状態で固着部材1を固着対象2に係合させ、トルクレンチWのハンドル部22に手力Rを加えて締め付け作業を開始する。すると、トルクレンチWのレンチ本体20が回転軸Pを中心に周方向αに回転する。このとき、トルク伝達部23の爪部23a1の当て止め面23a11は締め付け部10のラチェット溝121の第1壁122aに当接している(すなわち、周方向βの回転が規制されている)ので、締め付け部10はレンチ本体20及び固着部材1と共に周方向αに回転する。これにより固着部材1が固着対象2に対して締め付けられ、徐々に締め付ける力に対する抗力が大きくなる。この固着部材1を締め付ける締め付け力Rに対して発生する抗力によって、締め付け部10に対してヘッド部21周りに回転するモーメント(回転トルク)Qが発生する。このとき、トルク伝達部23の爪部23a1の当て止め面23a11が締め付け部10のラチェット溝121の第1壁122aに押圧され、当該トルク伝達部23の第2端部23bがロードセル30のロード部31aに荷重をかける。前記荷重がロードセル30により電気信号に変換され、当該電気信号がアンプAにより増幅され、A/D変換部CによりA/D変換される。マイコン50は、A/D変換された電気信号が入力されると(s2)、当該電気信号及び締め付けトルク基準値に基づいて所定の演算をして締め付けトルクを算出し(s3)、当該締め付けトルクをメモリ部60に記録すると共に、当該締め付けトルクのリアル値及びピーク値を7セグ表示部92に、当該締め付けトルクを液晶表示部91に各々出力する。これにより、締め付けトルクのリアル値及びピーク値が7セグ表示部92に数値表示され(s4、s5)、締め付けトルクの変化が液晶表示部91によりトルク曲線としてグラフ表示される(s6)。
【0056】
その後、トルクレンチWのハンドル部22に手力Rの反対方向に力が加えられる。すると、トルクレンチWのレンチ本体20が回転軸Pを中心に周方向βに回転する。このとき、締め付け部10のラチェット溝121の第2壁122bが爪部23a1の傾斜面23a12を押圧する。これにより、レンチボディがコイルスプリング42及びコイルスプリング25の付勢力に抗して先端側に移動し、爪部23a1が当該ラチェット溝121から脱する。コイルスプリング42はスリーブ41のフランジ41aと固定部24の蓋24bとの間に圧縮され、コイルスプリング25は固定部24とトルク伝達部23の中間部23cとの間で圧縮される。その後、爪部23a1が次のラチェット溝121に挿入されると、コイルスプリング42及びコイルスプリング25の付勢力により、レンチボディが後端側に移動する。これを繰り返す(すなわち、トルク伝達部23の爪部23a1が締め付け部10のラチェット溝121に出入りを繰り返す)ことにより、締め付け部10及び固着部材1は、レンチ本体20ヘッド部21に対して相対的に周方向αに回転する。以上のような締め付け作業を計3回行う。
【0057】
この締め付け作業時において、マイコン50は、前記締め付けトルクの変化量を所定期間t(t1〜tn)毎にサンプリングし、先の所定期間tの締め付けトルクの変化量(上昇量)と、その直後の所定期間tの締め付けトルクの変化量(上昇量)とを順次比較し、後者の変化量が前者の変化量よりも小さいか否かを判定する(s7)。この判定において、後者の変化量が前者の変化量よりも小さいと判定されると、マイコン50がブザー93を鳴らす(s8)。本実施例1では、図6に示すように期間t5の締め付けトルクの変化量が期間t4の締め付けトルクの変化量よりも小さく、期間t10の締め付けトルクの変化量が期間t9の締め付けトルクの変化量よりも小さく、期間t14の締め付けトルクの変化量が期間t13の締め付けトルクの変化量よりも小さくなっている。
【0058】
期間t4、t9、t14では、固着部材1が固着対象2に対して回転し、その抵抗(抗力)が向上するため、トルク曲線が急峻に上昇する(締め付けトルクの変化量が大きい。)。これに対し、期間t5、t10(1及び2回目の締め付け作業終了時)では、固着部材1が固着対象2に対して殆ど回転せず、固着部材1の固着対象2に対する抵抗(抗力)の変化が小さいため、トルク曲線が略水平に移行する(締め付けトルクの変化量が小さい。)。また、期間t14(3回目の締め付け作業終了間際)でも、固着部材1が固着対象2に螺着して殆ど回転せず、固着部材1の固着対象2に対する抵抗(抗力)の変化が小さいため、トルク曲線が略水平に移行する(締め付けトルクの変化量が小さい。)。このように期間t14の締め付けトルクの変化量が期間t13の締め付けトルクの変化量よりも小さくなることをマイコン50が検出することにより、すべり現象が発生する直前でブザー93を鳴らして作業者に知らせている。なお、1及び2回目の締め付け作業終了時(期間t5及びt10)においても、期間t5、t10の締め付けトルクの変化量が期間t4、t9の締め付けトルクの変化量よりも小さくなるため、ブザー93がなる。しかし、作業者は、手にかかる感触や経験則からすべり現象が発生したものでないことが分かるため、ブザー93を無視して締め付け作業を継続し、3回目のブザー93がなった際にすべり警告が発せられたと知ることができる。
【0059】
その後、設定入力部70が操作され、締め付け作業の終了の設定入力がされ(s9)、結果印刷の操作がなされると(s10)、マイコン50がメモリ部60に記録された締め付けトルクを読み出して外部出力部93を通じてプリンタに印刷出力する(s11)。その後、設定入力部70のCSV出力の操作がなされると(s12)、マイコン50がメモリ部60に記録された締め付けトルクを読み出して外部出力部93を通じてUSBメモリ等の記録手段にCSV出力する(s13)。なお、締め付けトルクのデータ出力の形式としては、CSV出力に限定されることはなく、その他の任意のデータ形式で出力することが可能である。また、締め付けトルクの出力対象としても、USBメモリ等の記録手段に限定されるものではなく、PCや電子カルテシステム等の各種の電子機器に出力することが可能である。
【0060】
以上のような締め付け装置による場合、ロッドであるトルク伝達部23の第1端部23aが締め付け部10のラチェット溝121に係合し、当該トルク伝達部23の第2端部23bがロードセル30に当接している。よって、締め付け作業時に、締め付け部10にかかる荷重(回転トルク)がトルク伝達部23を介してロードセル30に伝わり、当該ロードセル30により前記荷重が電気信号に変換され出力される。この電気信号に基づいて締め付けトルクがマイコン50(トルク演算部51)により演算され、締め付けトルクのリアル値及びピーク値が7セグ表示部92に数値表示され、締め付けトルクの変化が液晶表示部91によりトルク曲線としてグラフ表示される。よって、締め付けトルクのリアル値、締め付けトルクのピーク値及び締め付けトルクの変化を参照しつつ適切に締め付け作業を行うことができる。
【0061】
また、ロードセル30の凸状のロード部31aがトルク伝達部23の第2端部23bの凹部23b2に挿入され、第2端部23bに当接している。よって、トルク伝達部23を介して受ける締め付け部10の荷重の精度を向上させることができるので、締め付け部10の締め付けトルクの検出精度を向上させることができる。また、ロードセル30が、スリーブ41によりレンチボディの後方に固着されているので、レンチボディの小型化を図ることができる。
【0062】
更に、マイコン50(すべり判定部52)が先の所定期間tの締め付けトルクの変化量がその直後の所定期間tの締め付けトルクの変化量よりも小さいことを検出することにより、固着部材1の固着対象2に対する締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを検出している。よって、すべり現象発生の直前の限界トルク値で固着部材1を固着対象2に螺着させることができるので、すべり現象の発生を抑制することができる。
【0063】
なお、上述した締め付け装置は、上記実施例1に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載範囲において任意に設計変更することが可能である。以下、詳しく述べる。
【0064】
実施例1では、締め付け部10はヘッド部21に対して着脱自在且つ回転自在であるとしたが、これに限定されるものではない。例えば、締め付け部がヘッド部に一体的に設けられた構成とすることが可能である。締め付け部がヘッド部に回転自在に設けられた構成とすることも可能である。また、実施例1では、一つの締め付け部10がヘッド部21に着脱自在であるとしたが、複数種類の固着部材に各々対応する複数種類の締め付け部がヘッド部に着脱自在とすることも可能である。この場合、前記固着部材に応じて締め付け部を取り替えるだけで、本締め付け装置は複数種類の固着部材の締め付け操作を行うことができる。
【0065】
実施例1では、トルク伝達部23は、締め付け部10のラチェット溝121に係合される第1端部23aと、ロードセル30に当接する第2端部23bとを有し、且つトルク伝達部23の長さ寸法がレンチボディの収容孔22aの長さ寸法よりも大きいロッドであるとした。しかし、トルク伝達部は、前記レンチボディ内に設けられており且つ前記締め付け部に係合可能な第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有する限り任意に設計変更することが可能である。トルク伝達部の形状はロッド以外の形状とすることが可能である。また、トルク伝達部の長さ寸法がレンチボディの収容孔の長さ寸法よりも小さくすることが可能である。すなわち、トルク伝達部全体がレンチボディの収容孔に収容されるように設計変更することが可能である。
【0066】
実施例1では、トルク伝達部23の第1端部23aの爪部23a1が当て止め面23a11と、傾斜面23a12とを有するとした。しかし、これに限定されるものではない。例えば、ラチェット溝121の第1壁122aに当て止め面が、第2壁122bに傾斜面が設けられた構成とすることが可能である。この場合、爪部は三角形状の突起である必要はなく、例えば、矩形状の突起等とすることが可能である。第1壁122aの当て止め面が爪部に当接することにより、締め付け部10の周方向βの回転が規制される。また、締め付け作業時に、第1壁122aの当て止め面が爪部を押圧し、締め付け部の回転トルクがトルク伝達部23に伝わる。一方、第2壁122bの傾斜面が爪部に押圧され、レンチボディが先端側に移動する。これにより、爪部がラチェット溝121から脱し、締め付け部10のヘッド部21に対する第1方向の反対の第2方向の回転が許容される。なお、前述した当接面及び傾斜面を省略し、単に爪部がラチェット溝に係合される構成とすることが可能である。ラチェット溝は、締め付け部の外周面に少なくとも一つ設けられていれば良い。また、トルク伝達部とロードセルのロード部とを一体化することも可能である。
【0067】
実施例1では、ロードセル30は、ロードセル部31と、電源/出力ケーブル32と、ボディ33とを有しているとした。しかし、ロードセルは、トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能である限り任意に設計変更することが可能である。
【0068】
実施例1では、ロードセル30は、スリーブ41を用いてレンチボディの後方に固着されているとした。しかし、ロードセルのレンチボディに対する取り付け機構は、任意に設計変更することが可能である。例えば、前述の通りトルク伝達部全体がレンチボディの収容孔に収容される場合、ロードセル30はレンチボディの収容孔内に収容されるように設計変更することが可能である。また、ロードセルをレンチボディの後端部に固着させるように設計変更することが可能である。これらの場合、スリーブ41及びコイルスプリング42は省略することができる。
【0069】
実施例1では、ロードセル30の凸状のロード部31aがトルク伝達部23の第2端部23bの凹部23b2に挿入され、当該第2端部23bに当接しているとした。しかし、これに限定されるものではない。例えば、ロードセルが凹状のロード部を有している場合、トルク伝達部の第2端部に設けられた凸部が前記ロード部に挿入されるように設計変更することが可能である。前記凸部の高さ寸法は前記ロード部の深さ寸法よりも大きい。この場合であっても、第2端部の凸部がロードセルの凹状のロード部に当接することにより、トルク伝達部を介して受ける締め付け部の荷重の精度を向上させることができる。
【0070】
実施例1では、ロードセル30は保護壁31bを有しているとした。しかし、保護壁31bは省略可能である。また、複数の保護壁が、ロードセルの凸状のロード部の周りに設けられた構成とすることが可能である。
【0071】
実施例1では、コイルスプリング42は、スリーブ41のフランジ41aと固定部24の蓋24bとの間に圧縮状態で介在しているとした。しかし、コイルスプリング42等の第1付勢部は、スリーブとレンチボディに設けられた第1当て止め部との間に設けられるものである限り任意に設計変更することが可能である。例えば、第1付勢部がレンチボディの外周面に設けられたリング等の第1当て止め部と、スリーブとの間に介在するように設計変更することが可能である。
【0072】
実施例1では、コイルスプリング25は、固定部24とトルク伝達部23の中間部23cとの間に圧縮状態で介在しているとした。しかし、コイルスプリング25は省略可能である。この場合であっても、コイルスプリング42が固定部24の蓋24bを後方に付勢し、固定部24がトルク伝達部23の第2端部23bのストッパ23b1に当接することにより、第2端部23bがロードセル30に押し付けられる。このコイルスプリング42の付勢力により、トルク伝達部23の第1端部23aの爪部23a1が、ハンドル部22の収容孔22aからヘッド部21の取付孔21aに突出する。なお、コイルスプリング25及びコイルスプリング42は、円筒状のゴム、板バネ等のその他の周知の付勢手段に置換可能である。
【0073】
実施例1では、マイコン50は、後者の変化量が前者の変化量よりも小さいときに、ブザー93を鳴らす構成であるとしたが、これに限定されるものではない。例えば、マイコン50は、内部のカウンターにより後者の変化量が前者の変化量よりも小さいか否かを判定した回数をカウントし、当該カウンターが所定回数(本実施例1では、3回)に達したときに、ブザー93等の報知部を作動させるように設計変更することが可能である。この場合、作業者は、締め付け作業終了時毎に作動する報知部の報知の真偽を確認する必要がなくなるので、本締め付け装置の利便性が向上する。
【0074】
実施例1では、マイコン50が締め付けトルクの変化量を所定期間t(t1〜tn)毎にサンプリングし、当該先の所定期間tの締め付けトルクの変化量と、その直後の所定期間tの締め付けトルクの変化量とを順次比較し、後者の変化量が前者の変化量よりも小さいか否かを判定するとした。しかし、これに限定されるものではない。例えば、マイコン50は、締め付けトルクの変化率を所定期間t(t1〜tn)毎にサンプリングし、当該先の所定期間tの締め付けトルクの変化率(上昇率)と、その直後の所定期間tの締め付けトルクの変化率(上昇率)とを順次比較し、後者の変化率が前者の変化率よりも小さいか否かを判定するように設計変更することが可能である。また、マイコン50は、締め付けトルクの変化量又は変化率を所定時間t毎にサンプリングし、所定時間tの締め付けトルク値の変化量(上昇量)又は変化率(上昇率)が所定範囲内の変化量(上昇量)又は変化率(上昇率)であるか否かを判定する構成に設計変更することが可能である。この場合、ブザー93等の報知部は、マイコン50が所定時間tの締め付けトルク値の変化量又は変化率が所定範囲内(例えば、図6のt5、t10、t14のように締め付けトルクの変化量が所定範囲内)であると判定されたときに、固着部材の固着対象に対する締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを報知するように設計変更することが可能である。この場合であっても、所定時間tの締め付けトルク値の変化量又は変化率が所定範囲内であると所定回数判定したときに、報知部が動作するように設計変更することが可能である。なお、締め付けトルクの変化量又は変化率の前記所定範囲の値は、マイコン50の内部メモリ又はメモリ部60に予め記録されている。
【0075】
上述した締め付け装置は、トルクレンチWと、トルク演算装置Dとを備えているとした。しかし、締め付け装置は、上記トルクレンチと、トルク演算部とを備えた構成とすることが可能である。また、締め付け装置は、上記トルクレンチと、トルク演算部と、このトルク演算部により演算された締め付けトルクを表示可能な表示部とを備えた構成とすることが可能である。すなわち、すべり判定部52は省略可能である。また、マイコンを用いずトルク演算部及び/又はすべり判定部と同様の機能を電子回路により発揮するように構成することも可能である。更に、上述したようにマイコン50が所定時間tの締め付けトルク値の変化量が所定範囲内であるか否かを判定する場合も、マイコンを用いず同様の機能を電子回路により発揮するように構成することも可能である。
【0076】
上述したトルク演算部51は、トルク基準値をメモリ部60から読み出し、当該締め付けトルク基準値及びトルク検出部であるロードセルの出力信号に基づいて締め付けトルクを演算するとした。しかし、トルク演算部は、上記ロードセルの出力信号に基づいて締め付け部の締め付けトルクを演算するものである限り任意に設計変更することが可能である。なお、トルク演算部はトルクレンチに設けられた構成とすることが可能である。
【0077】
実施例1では、報知部としてブザー93を用いるとしたが、これに限定されるものではない。例えば、作業者が、液晶表示部91に表示されたトルク曲線を見て上記すべり検出時であると判断するように設計変更することが可能である。また、マイコン50により、上記後者の変化量又は変化率が上記前者の変化量又は変化率よりも小さいと判定されたとき又は所定時間tの締め付けトルク値の変化量又は変化率が所定範囲内であると判定されときに、液晶表示部91にエラー表示させたり、7セグ表示部93に数値表示すると共に点滅させる等することによりエラー表示させたりするように設計変更することが可能である。また、報知部としてLEDランプ等の発光装置を用いることも可能である。更に、報知部として、ブザー、発光装置、グラフ表示装置及び数値表示装置を選択的に組み合わせた構成とすることも可能である。なお、トルク演算部により得られた締め付けトルクは、液晶表示部91及び7セグ表示部93以外の表示部に表示させることが可能である。表示部がトルクレンチに設けられた構成とすることが可能である。
【0078】
なお、実施例1では、上記締め付け装置の各部を構成する素材、形状、寸法及び配置等はその一例を説明したものであって、同様の機能を実現し得る限り任意に設計変更することが可能である。また、実施例1では、トルクレンチとトルク演算装置とは別体であるとしたが、トルクレンチとトルク演算装置とを一体的に構成することも可能である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・・固着部材
2・・・・固着対象
W・・・・トルクレンチ
10・・・締め付け部
11・・係合部
12・・取付部
20・・・レンチ本体
21・・ヘッド部
22・・ハンドル部
23・・トルク伝達部
23a・・第1端部
23a1・・爪部
23a11・・当て止め面
23a12・・傾斜面
23b・・第2端部
23b1・・ストッパ
23b2・・凹部
23c・・中間部(第2当て止め部)
24・・固定部(第3当て止め部)
25・・コイルスプリング(第2付勢部)
30・・・ロードセル(トルク検出部)
31・・ロードセル部
31a・・ロード部
32・・電源/出力ケーブル
33・・ボディ
41・・・スリーブ
42・・・コイルスプリング(第1付勢部)
D・・・・トルク演算装置
A・・・アンプ
C・・・A/D変換部
50・・マイコン
51・トルク演算部
52・すべり判定部
60・・メモリ部
70・・設定入力部
80・・外部出力部
91・・液晶表示回部
92・・7セグ表示部
93・・ブザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締め付け部が着脱自在であるヘッド部を有するレンチボディと、
前記レンチボディ内に設けられており且つ前記締め付け部に係合可能な第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有するトルク伝達部と、
前記トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能なロードセルとを備えているトルクレンチ。
【請求項2】
締め付け部と、
前記締め付け部が設けられたヘッド部を有するレンチボディと、
前記レンチボディ内に設けられており且つ前記締め付け部に係合した第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有するトルク伝達部と、
前記トルク伝達部の第2端部に当接しており且つ当該トルク伝達部を通じて前記締め付け部にかかる荷重を受け、電気信号に変換して出力可能なロードセルとを備えているトルクレンチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のトルクレンチにおいて、
前記ロードセルは、凸状のロード部を有しており、
前記トルク伝達部の第2端部には、前記ロードセルのロード部が挿入された凹部が設けられており、
前記ロード部の高さ寸法が前記凹部の深さ寸法よりも大きいトルクレンチ。
【請求項4】
請求項1又は2記載のトルクレンチにおいて、
前記ロードセルは、凹状のロード部を有しており、
前記トルク伝達部の第2端部には、前記ロードセルのロード部に挿入された凸部が設けられており、
前記凸部の高さ寸法が前記ロード部の深さ寸法よりも大きいトルクレンチ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のトルクレンチにおいて、
前記レンチボディは、前記ヘッド部が設けられた先端部と、後端部とを有しており、
前記トルク伝達部の第2端部は、前記レンチボディの後端部から突出しており、
前記ロードセルは、前記レンチボディの後方に配置され、前記第2端部に当接しているトルクレンチ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のトルクレンチにおいて、
前記締め付け部の外周面にはラチェット溝が設けられており、
前記トルク伝達部は、前記第1端部に設けられ、前記ラチェット溝に係合可能な爪部を更に有しているトルクレンチ。
【請求項7】
請求項6記載のトルクレンチにおいて、
前記トルクレンチは、前記レンチボディに前記長さ方向に移動自在に外嵌しており且つ前記ロードセルに取り付けられたスリーブと、
前記レンチボディに設けられた第1当て止め部と前記スリーブの間に設けられた第1付勢部とを更に備えており、
前記締め付け部は前記ヘッド部に対して回転自在になっており、
前記トルク伝達部は、前記レンチボディ内に長さ方向に移動自在に収容されており、
前記ラチェット溝は、第1、第2壁を有しており、
前記爪部は、前記第1壁に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転を規制する当て止め面と、
前記第2壁を押圧し、前記レンチボディを先端側に移動させる傾斜面とを有しているトルクレンチ。
【請求項8】
請求項6記載のトルクレンチにおいて、
前記トルクレンチは、前記レンチボディに前記長さ方向に移動自在に外嵌しており且つ前記ロードセルに取り付けられたスリーブと、
前記レンチボディに設けられた第1当て止め部と前記スリーブの間に設けられた第1付勢部とを更に備えており、
前記締め付け部は前記ヘッド部に対して回転自在になっており、
前記トルク伝達部は、前記レンチボディ内に長さ方向に移動自在に収容されており、
前記ラチェット溝は、第1、第2壁を有しており、
前記第1壁は、前記爪部に当接し、前記締め付け部の第1方向の回転を規制する当て止め面を有し、
前記第2壁は、前記爪部に押圧され、前記レンチボディを先端側に移動させる傾斜面を有しているトルクレンチ。
【請求項9】
請求項7又は8記載のトルクレンチにおいて、
前記トルク伝達部は、第2当て止め部を更に有し、
前記トルクレンチは、第3当て止め部と、
前記第1、第3当て止め部間に設けられた第2付勢部とを更に備えているトルクレンチ。
【請求項10】
請求項3記載のトルクレンチにおいて、
前記ロードセルは、前記ロード部の周りに立設され且つ当該ロード部よりも高さ寸法が大きい保護壁を更に有しているトルクレンチ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のトルクレンチと、
トルク演算装置とを備えており、
前記トルク演算装置は、前記トルクレンチのロードセルの出力信号に基づいて前記締め付け部の締め付けトルクを演算するトルク演算部を備えている締め付け装置。
【請求項12】
請求項11記載の締め付け装置において、
前記トルク演算装置は、前記締め付けトルクの変化量又は変化率を所定時間t毎にサンプリングし、先の所定期間tの締め付けトルクの変化量又は変化率と、当該先の所定期間tの直後の所定期間tの締め付けトルクの変化量又は変化率とを順次比較し、後者の変化量又は変化率が前者の変化量又は変化率よりも小さいか否かを判定するすべり判定部と、
前記すべり判定部により後者の変化量又は変化率が前者の変化量又は変化率よりも小さいと判定されたときに、前記締め付け部の締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを報知する報知部とを更に備えている締め付け装置。
【請求項13】
請求項11記載の締め付け装置において、
前記トルク演算装置は、前記締め付けトルクの変化量又は変化率を所定時間t毎にサンプリングし、所定時間tの締め付けトルクの変化量又は変化率が所定範囲内であるか否かを判定するすべり判定部と、
前記すべり判定部により所定時間tの締め付けトルクの変化量又は変化率が所定範囲内であると判定されたときに、前記締め付け部の締め付け状態がすべり現象発生の直前であることを報知する報知部とを備えている締め付け装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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