説明

トルク工具

【課題】トルク値の切換え設定が容易かつ迅速に、正確かつ安定に行えると共に、設定状態に変動なく繰り返し使用できるものとする。
【解決手段】ビット1やレンチなどのトルク作業具2またはその装着部3をそれらの回転軸線4上に装備した工具本体5、工具本体5によるトルク作業具2またはその装着部3に対する回転操作をばね6のばね力による設定トルク値となるまで伝達し設定トルク値を超えると伝達を断ち空操作に移行させるトルクリミット機能を有したトルク伝達機構7、を備え、ばね6の一端を受け止めるばね座8の受け止め位置を、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの後端外に手動操作できるように露出した操作部材9による段階的な回転と進退とを伴い複数段階に切り替えて設定トルク値を複数段階に切換えるトルク切換え機構11を設けることにより、上記の目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライバやレンチなどのねじの締結や締結解除といったトルク作業を行うトルク工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなトルク工具はばねの付勢力を利用した設定トルク値未満の範囲でトルクを伝達し、設定トルク値を上回るとトルクの伝達を行わないいわゆるトルクリミッターをトルク伝達機構に装備している。トルクリミッターはトグル機構を利用したもの(例えば、特許文献1、2、4参照。)、カムとボールを利用したもの(例えば、特許文献3参照。)、周面カムとカムフォロアを利用したもの(例えば、特許文献5参照。)、凹部とボールを利用したもの(例えば、特許文献6参照。)などがある。
【0003】
これら特許文献1〜6に記載のものはいずれも、ばねの一端を受けるばね座の位置を連続したねじ方式にて前後に調整することでばねの付勢力、つまり設定トルク値を調整するようにしている。特許文献1は、特に、2値の設定トルク値に調整しやすくした技術を開示しており、ガス管の配管施工において冬季と夏季とで締結トルク値を変更する必要があることに対応しやすくしている。つまり、特許文献2〜6に記載のように無段階の調整範囲にて2値を設定するのでは個人差が出て精度にバラツキが生じやすいのを回避している。
【0004】
本出願人はトルク工具は締結時のトルク値や締結の緩みなどの検査に適用できるようにと、図5に示すようなトルクリミッターを用いたトルクドライバを先に提供している。このものはビットに連結される周面カムaに2値の設定トルク値に対応した深さの凹部b、cを設け、ばねdにて付勢されるカムフォロアeがどの凹部b、cに係合するかで、カムフォロアeが締結操作時の抵抗により係合している凹部b、cを乗り越えて空操作となるときのばねdに対する押戻し量に差を生じさせ、締結作業時の設定トルクを2値に選択できるようにしている。選択した設定トルク値にて締結したねじは同じ設定トルク値にて締結を解除できる。このことは、締結作業を行ったねじにつき同じ設定トルク値で締結解除操作すると設定トルク値になる時点、つまりカムフォロアeが凹部b、cを乗り越えて空操作となる時点までにねじが緩み始めると締結のトルクが設定トルク値に達していなかったことや事後の緩みを検出することになり、作業者はカムフォロアeが凹部b、cを乗り越えて空操作となる感触や音の発生があったかどうかで容易に判断できる。また、締結作業を行ったねじにつき同じ設定トルク値で締結の再操作をするとそれ以上の締結操作はならず、即時にカムフォロアeが凹部b、cを乗り越えて空操作となるので、作業者は締結の再操作できずにカムフォロアeが凹部b、cを乗り越えて空操作となる感触や音の発生があったかどうかで締結が少なくとも設定トルク値以上で行なわれたことを容易に判断できる。
【特許文献1】特開平8−90441号公報
【特許文献2】特開2001−71278号公報
【特許文献3】特開2000−190246号公報
【特許文献4】特開2003−326474号公報
【特許文献5】特開2003−33373号公報
【特許文献6】特開2005−131753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トルク工具を利用して対象物の品質管理や対象物、人および環境の安全管理上このような締結時の設定トルク値を検査するには、トルク工具でのトルク設定が正しく行われることが必須であり、少しでも狂いがあると検査の目的は損なわれる。しかも、2値が混合した締結箇所が多数あるほど、また、作業場所が送電線の鉄塔上や建造物外回りの高所、感電環境など危険や緊張を伴う環境であるほど、トルクの設定作業が簡易でしかも誤差が生じないことが望まれる。
【0006】
しかし、特許文献2〜6に記載の連続したねじ操作で無段階にトルクが設定できるものでは、主目盛りや副目盛りなどを利用することもあり、トルク設定操作が複雑で容易かつ短時間に行いにくいし、特許文献1が指摘しているようにトルクの設定に個人差が生じやすい問題がある。
【0007】
特許文献1に記載のものは連続したねじ操作による2値のトルク値設定を、上位値側への操作を上位規制ピンにより上位値対応位置で受け止めることと、下位値側への操作を下位規制ピンにより下位値対応位置で受け止めることとで行っているが、上位値と下位値との間でのトルク設定となることは規制できず個人差が生じるのを規制し切れない。しかも、トルク値の設定操作は連続したねじ操作であるため、操作部材が他と干渉すると操作位置が簡単にずれるようなことがあるので信頼性に欠ける。これを特許文献1に記載のもののようにねじ操作部を端面板で覆ったりする構成では、トルク値設定の都度端面板を着脱する作業が付帯するのでトルク値の切換えが迅速にできない。これに代えて設定トルク位置へのロック手段を設けるような場合でもロック、ロック解除の手間が要る。
【0008】
図5に示す本出願人による先のものは、特許文献1に記載のもののような問題はない。しかし、締結したねじにつき締結解除側つまり緩み側、または締結側つまり締り側に操作して検査するのに、所定のトルク値を満足していればカムフォロアeは凹部b、cを乗り越えて空操作に移行することになる。従って、同じトルク値での検査を繰り返すには、元のトルク設定状態、つまりカムフォロアeが元の凹部bまたは凹部cに係合する位置に戻してからでないと次の検査が行えず作業性が半減する。
【0009】
本発明の主たる目的は、トルク値の切換え設定が容易かつ迅速に、正確かつ安定に行えると共に、設定状態に変動なく繰り返し使用できるトルク工具を提供することにあり、それ以上の目的は締結のトルク検査において設定トルク値を満足している場合の戻し操作なしでの使用の連続性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のトルク工具は、ビットやレンチなどのトルク作業具またはその装着部をそれらの回転軸線上に装備した工具本体と、工具本体によるトルク作業具またはその装着部に対する回転操作をばね力による設定トルク値となるまで伝達し設定トルク値を超えると伝達を断ち空操作とさせるトルクリミット機能を有したトルク伝達機構と、を備えたトルク工具において、前記ばねの一端を受け止めるばね座の受け止め位置を、工具本体のトルク伝達機構内蔵部の後端外に手動操作できるように露出した操作部材による段階的な回転と進退とを伴い複数段階に切り替えて設定トルク値を複数段階に切換えるトルク切換え機構を設けたことを特徴としている。
【0011】
このような構成では、トルク伝達機構のトルクリミット機能を利用して設定トルク値でのねじやナットによる締結が行えるし、設定トルク値での締結が行われたかどうか、事後的な緩みが無いか検査することができる。トルクの設定が複数段階であるので設定トルク値が特定しているような用途に好適である。特に、設定トルク値は工具本体のトルク伝達機構内蔵部の後端に露出している操作部材を即時に手操作して段階的な回転と進退とを伴う非連続な複数段階での切換え動作にて容易かつ迅速、正確に切り替えられるし、切換え動作には操作部材の回転と進退という異動作を伴なうので他との干渉によっても切換え状態が変動しにくく安定性が確保できる。しかも、切換え状態は工具本体に対する操作部材の回転位置と進退位置との違い、とりわけ進退位置の違いによって簡単に視認でき、切換える設定トルク値が2値と少ないほどその切換えの確認は単純明瞭となる。
【0012】
トルク伝達機構は工具本体内に設けられてトルク作業具またはその装着部と一体回転するカムおよびこのカムにばねの付勢により圧接されたカムフォロアを備え、トルク切換え機構はばね座の後面に切換えるトルク値に応じ深さの違う凹部を周方向に配設して、その回転位置に応じ工具本体のトルク伝達機構内蔵部の後端側の一定位置にある受け止め部に1種の凹部が対向してその種類によって違った進退位置に受け止められるようにし、操作部材はばねの収縮、伸長を伴う進退動作で凹部の受け止め部への出入りを行い、回転動作で受け止め部に対向させる凹部の種類を切換えるようにした、さらなる構成では、
トルク伝達機構はカムがトルク伝達操作に連動したカムフォロアの相対回転に伴いカムフォロアをばねに抗し押し戻してトルク値を上げていき、設定トルク値になると谷を乗り越えさせてトルクの伝達を断ち空操作に移行させるトルクリミット機能を確実に発揮することができ、トルク切換え機構はばね座を操作部材によりばねに抗し進出させることで設定トルクに対応した凹部が受止め部に受止められている嵌まり合いを外すことができ、その進出状態のままで操作部材によりばね座を回転させれば、受け止め部に対向する凹部を別の種類のものに切換え、その切換え位置で操作部材をばね座を伴い後退させると切換え後の凹部が受け止め部と嵌まり合って受け止められその凹部の種類に対応したトルク値に切換えることができ、その設定状態は操作部材に他のものが単に干渉しても凹部と受け止め部との回転方向特定位置でのばねで付勢された嵌まり合いによって容易に変動されない。
【0013】
凹部は2種類であり、周方向に交互に3つずつ配してあり、受け止め部は周方向に3つある、さらなる構成では、
2種類の凹部で2値のトルク値設定に対応でき、周方向に3つずつ配して同種の凹部が周方向に3つある受け止め部と嵌まり合って周方向でのバランスよく安定に受け止められるし、トルク値切換えのための回転角度が60°と小さくなる。
【0014】
凹部はばね座の外周に開放して形成され、受け止め部は工具本体の周壁の内周から内側に張出した爪部である、さらなる構成では、
凹部がばね座の外周に開放していることで、工具本体の周壁の内周から張出す単純な受け止め部と切換え可能に嵌まり合ってトルク値の切換え設定ができる。
【0015】
トルク伝達機構のカムの谷は、締結解除操作側に緩やかに立上がり、締結操作側に急激に立上がる、さらなる構成では、
締結解除側への検査操作においてトルク値を設定トルク値まで徐々に高めながら、どの時点で締結解除が始まるか、つまり緩み始めるかで、締結時のトルク値または緩み具合が判定できるし、締結側への検査操作においては緩みがあれば即時または早期に締結が進み、緩みがなければ締結が進まず即時または早期に設定トルク値に達して空操作となる。
【0016】
カムの谷は、カムの周方向に山を境に同じ深さと形状で複数繰り返し形成されている、さらなる構成では、
検査操作において設定トルク値を満足して空操作に移行するとき、カムフォロアはカムの次の凹部に進入していてばねの付勢力によって谷に落ち込み安定するので、即時に次の検査操作ができる。
【0017】
トルク伝達機構のカムは周面カムであり、カムフォロアおよびばねはトルク作業具またはその装着部の回転軸線に直交する方向から周面カムに働き、工具本体部のトルク伝達機構内蔵部はカム内蔵部から一側へ延びるグリップ部をなし、カム内蔵部から反対の側に延びる補助グリップ部を有している、さらなる構成では、
工具本体のトルク伝達機構内蔵部がトルク工具の回転軸線上に位置する周面カムから側方に延びてグリップ部をなし、反対の側に延びる補助グリップ部と協働して回転軸線とのT字部を把持してトルク作業具がビットであっても回転軸線上での近い距離からの押圧を伴い回転操作することができる。また、トルク伝達機構内蔵部の後端部に露出する操作部材によりトルク切換え機構でのトルク値切換え操作をするにも、操作部材をばねに抗し押し込みばね座を進出させて受け止め部から離してトルク値を切換える回転操作に移行し、続く押し込み解除でトルク値切換え位置のばね座を受け止め部に受け止めさせる一連の操作を、一方の手で把持したT字部と他方の手で操作する操作部材との同軸上の近距離間で行える。
【0018】
カムフォロアが工具本体のトルク伝達機構内蔵部内を進退するスライダの先端部に設けられ、スライダの後部とばね座との間にばねが働かされている、さらなる構成では、
スライダの安定した進退のために確保する長さを利用して長いばねをばね座との間に働かせられ、直線的なばね特性を得やすい。
【0019】
スライダがトルク伝達機構内蔵部の内周に転がり接触部にて接触し進退する、さらなる構成では、
スライダと工具本体のトルク伝達機構内蔵部との摩擦を軽減して長期に安定したトルク性能を発揮することができる。
【0020】
ばねは内外二重に働かせてある、さらなる構成では、
2つのばねのばね特性を異ならせて低トルク値側と高トルク値側とに必要なばね特性の設定幅が大きくなり、設計自由度が高まる。
【0021】
それには、ばね径の小さなばねは、ばね径の大きなばねよりも線径が小さくかつばね長さを大きくするのが好適である。
【0022】
工具本体および操作部材が樹脂製よりなり、トルク作業具またはその装着部とカムとの間は樹脂を介し連結し、トルク作業具のトルク作業部以外は樹脂で覆った絶縁工具をなし、工具本体におけるトルク伝達機構内蔵部のスライダの進退範囲の内周には金属シムを当てがってある、さらなる構成では、
トルク作業具のトルク作業部以外の表面が樹脂で覆っていて電気的な絶縁が図られるし、そのためにトルク伝達機構を内蔵している工具本体を樹脂製としているが、スライダとはその進退範囲の内周に設けた金属シムにて接して摩耗が低減され、長期に安定したトルク特性を確保することができる。
【0023】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。本発明の各特徴は、可能な限りにおいてそれ単独で、あるいは種々な組み合わせで複合して用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のトルク工具によれば、設定トルク値でのねじやナットによる締結を行い、設定トルク値での締結か、事後的な緩みが無いか検査するのに、設定トルク値が複数に特定している用途に向き、設定トルク値はトルク伝達機構内蔵部の後端に露出している操作部材の即時操作によって切換えその時々に対応できるし、切換えは操作部材の段階的な回転と進退とを伴う非連続な操作によるもので、操作部材の他との干渉によっても切換え状態が変動しにくく安定性が確保できる。しかも、切換え状態は操作部材の進退位置の違いなどで直感でき誤使用を防止できる。
【0025】
カムとばねで付勢したカムフォロアとによりトルクリミット機能を確実に発揮させるトルク伝達機構と、ばね座を操作部材で外部操作されることにより、設定トルクに対応した凹部と受止め部との嵌まり合いによる受け止め状態を、他の設定トルク値に対応した凹部と受け止め部とが嵌り合う受止め状態に切換える方式にて、操作部材に他のものが単に干渉しても凹部と受け止め部のばねで付勢された嵌まり合いによって容易に変動されないトルク切換え機構とによって、高いトルク機能を安定して発揮し、作業に必要な配慮を軽減して作業製を高められる。
【0026】
2種類の凹部で2値のトルク値設定に対応するのに、同種の凹部が周方向に3つある受け止め部と嵌まり合うようにして周方向でのバランスよく安定に受け止められるようにしながら、トルク値切換えのための回転角度が60°と小さくなるので切換えに便利である。
【0027】
凹部がばね座の外周に開放していて工具本体の周壁の内周から張出す単純な受け止め部と切換え可能に嵌まり合ってトルク値の切換え設定ができ、構造が簡略化する。
【0028】
凹部の締結解除操作側への緩やかに立上る形状により検査操作でのどの時点で緩み始めるかで締結時のトルク値または緩み具合が判定できるので便利であるし、凹部の締結操作側へ急に立上がる形状によって検査操作で緩みがあれば即時または早期に締結が進み、緩みがなければ締結が進まず即時または早期に設定トルク値に達して空操作となって短時間で判定できる。
【0029】
検査操作において設定トルク値を満足して空操作に移行するとき、カムフォロアがカムの次の凹部に進入していることで即時に次の検査操作ができ、作業性が向上する。
【0030】
工具本体のトルク伝達機構内蔵部がなすグリップ部と補助グリップ部とが協働してトルク作業具またはその装着部の回転軸線とのT字部を把持してトルク作業具がビットであっても回転軸線上での近い距離からの遊びや逃げの無い押圧を伴い振れなく安定して回転操作することができトルク作業が捗る。また、操作部材をばねに抗し押し込みばね座を進出させて受け止め部から離してトルク値を切換える回転操作に移行し、続く押し込み解除でトルク値切換え位置のばね座を受け止め部に受け止めさせる一連の切換え操作が、一方の手で把持したT字部と他方の手で操作する操作部材との同軸上の近距離間で遊びや逃げ振れなどなく容易かつ迅速に行え作業性が向上する。
【0031】
スライダの安定した進退のために確保する長さを有効利用して長いばねをばね座との間に働かせられ、直線的なばね特性を得やすい。
【0032】
スライダと工具本体のトルク伝達機構内蔵部との摩擦を転がり接触により軽減して長期に安定したトルク性能を発揮することができる。
【0033】
2つのばねのばね特性を異ならせて利用することで低トルク値側と高トルク値側とに必要なばね特性の設定幅が大きくなり、設計自由度が高まるし、ばね径の小さなばねは、ばね径の大きなばねよりも線径が小さくかつばね長さを大きくするのが好適である。
【0034】
トルク作業具のトルク作業部以外の表面が樹脂で覆うことで電気的な絶縁が図られるし、そのために樹脂製とした工具本体のトルク伝達機構を内蔵部はスライダとはその進退範囲の内周に設けた金属シムにて接して摩耗が低減され、長期に安定したトルク特性を確保し、寿命および信頼性を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態に係るトルク工具につき図1〜図4を参照しながら詳細に説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の具体例であって、特許請求の範囲の記載内容を限定するものではない。
【0036】
本実施の形態のトルク工具は、図1、図2、図3に示すようにビット1を装着したトルクドライバの場合の一例を示しているが、本発明はこれに限られることはなく、レンチなどトルクリミット機能を有したトルク工具一般に適用でき、ビット1やレンチなどのトルク作業具2またはその装着部3をそれらの回転軸線4上に装備した工具本体5と、工具本体5によるトルク作業具2またはその装着部3に対する回転操作をばね6のばね力による設定トルク値となるまで伝達し設定トルク値を超えると伝達を断ち空操作に移行させるトルクリミット機能を有したトルク伝達機構7とを備え、ばね6の一端を受け止めるばね座8の受け止め位置を、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの後端外に手動操作できるように露出した操作部材9による段階的な回転と進退とを伴い複数段階に切り替えて設定トルク値を複数段階に切換えるトルク切換え機構11を設けている。
【0037】
このようなトルク工具では、トルク伝達機構7のトルクリミット機能を利用して設定トルク値でのねじやナットによる締結が行えるし、設定トルク値での締結が行われたかどうか、事後的な緩みが無いか検査することができる。いずれにしても、トルクの設定が複数段階であるので設定トルク値が特定しているような用途に好適である。特に、設定トルク値は工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの後端に露出している操作部材9を即時に手操作して段階的な回転と進退とを伴う非連続な複数段階での切換え動作にて容易かつ迅速、正確に切り替えられる。要するに、操作部材9が外部に露出していることよって即時操作して設定トルク値を切換えその時々に対応できるので作業性が向上する。また、設定トルク値の切換え動作には操作部材9の回転と進退という非連続な異動作を伴なうので他との干渉によっても切換え状態が変動しにくく安定性が確保でき、作業上に必要な配慮を軽減して作業性を高められる。しかも、設定トルク値の切換え状態は、工具本体5に対する操作部材9の回転位置と進退位置との違い、とりわけ図1(a)に実線と仮想線で示す進退位置の違いによって目盛りは勿論指標などが無くても簡単に視認でき、切換える設定トルク値が本実施の形態のように2値と少ないほどその切換えの確認は単純明瞭となり作業者は直感できる。従って、誤った設定トルク値での締結や検査への使用を防止することができる。工具本体5に対する操作部材9の回転位置の違いは分かり難いが指標などによって明瞭なものとすることができる。
【0038】
トルク伝達機構7は図1(a)、図4に示すように、工具本体5内に設けられてトルク作業具2またはその装着部3と一体回転するカム12およびこのカム12にばね6の付勢により圧接されたカムフォロア13を備え、トルク切換え機構11はばね座8の後面に切換えるトルク値に応じ深さの違う凹部8a、8b・・を周方向に配設して、その回転位置に応じ工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの後端側の一定位置にある受け止め部14に凹部8a、8b・・のうちの一種が図1(a)(b)、図4に示すように対向して、それら凹部8a、8b・・の種類によって違った深さに応じた進退位置に受け止められるようにし、操作部材9はばね6の収縮、伸長を伴う図1(a)に示すA方向での進退動作で凹部8a、8bと受け止め部14との出入りを行わせ、図4に示すB方向での回転動作で受け止め部14に対向させる凹部8a、8bの種類を切換えるようにしている。
【0039】
これによりトルク伝達機構7は、カム12が工具本体5によるトルク伝達操作に連動したカムフォロア13の相対回転に伴いカムフォロア13をばね6に抗し押し戻してトルク値を上げていき、設定トルク値になると谷を乗り越えさせてトルクの伝達を断ち空操作に移行させるトルクリミット機能を確実に発揮する。トルク切換え機構11はばね座8を操作部材9によりばね6に抗し押し込み方向に進出させることで設定トルク値に対応した図示例では凹部8aが受け止め部14に受止められている図1(a)に示す嵌まり合いを図4に示すように外すことができ、その進出状態のままで操作部材9によりばね座8を回転させれば、受け止め部14に対向していた凹部8aを別の種類のもの、図示例では凹部8bに切換え、その切換え位置で操作部材9をばね座8を伴い後退させると切換え後の凹部8bが受け止め部14と前記とは異なった深さで、図示例では前回よりも深く嵌まり合って受け止められ、その凹部8bの種類に対応したトルク値に切換えることができる。また、それらのトルク値設定状態は操作部材9に他のものが単に干渉しても凹部8a、8bと受け止め部14との回転方向特定位置でのばね6に付勢された嵌まり合いによって容易に変動されない。この結果、カム12とばね6で付勢したカムフォロア13とによりトルクリミット機能を確実に発揮させるトルク伝達機構7と、ばね6を受けるばね座8を操作部材9で外部操作されることにより、設定トルク値に対応した凹部8aなどと受け止め部14との嵌まり合いによる受け止め状態を、他の設定トルク値に対応した凹部8bなどと受け止め部14とが嵌り合う受止め状態に切換える方式にて、操作部材9に他のものが単に干渉しても凹部8a、8bと受け止め部14とのばね6で付勢された嵌まり合いによって容易に変動されないトルク切換え機構11とによって、高いトルク機能を安定して発揮し、作業に必要な配慮を軽減して作業性を高められる。
【0040】
本実施の形態では2値のトルク値切換えに対応して2種類の凹部8a、8bを設けているが、図1(b)、図4に示すように周方向に交互に3つずつ配してあり、これに対応して受け止め部14は周方向に3つある構成としている。これにより、2種類の凹部8a、8bで2値のトルク値設定に対応して、しかも、凹部8a、8bを周方向に3つずつ配して図1(b)に凹部8aで代表して示しているように同種の凹部8aまたは8bが周方向に3つある受け止め部14と嵌まり合って周方向3箇所にてバランスよく安定に受け止められるし、トルク値切換えのための回転角度が60°と小さくなる。また、凹部8a、8bは図1(a)(b)に示すようにばね座8の外周に開放して形成され、受け止め部14は工具本体5の周壁の内周から内側に張出した爪部としてある。このように、凹部8a、8bがばね座8の外周に開放していることで、工具本体5の周壁の内周から爪状に張出す単純な受け止め部14と切換え可能に嵌まり合って設定トルク値の切換えができ、構成が簡略化する。切換える設定トルク値は3N・mと16N・mの2値としてあるがこれに限られることはない。
【0041】
トルク伝達機構7のカム12の谷12aは図2(b)、図4に示すように、締結解除操作側Cに緩やかに立上がり、締結操作側Dに急激に立上がる形状としてある。これにより、締結解除側Cへの検査操作においてトルク値を設定トルク値まで徐々に高めながら、どの時点でねじなどが締結解除が始まるか、つまり緩み始めるかで、締結時のトルク値または事後の緩み具合が判定できるので便利である。また、締結側への検査操作においては緩みがあれば即時または早期に締結が進み、緩みがなければ締結が進まず即時または早期に設定トルク値に達して空操作となるので短時間で判定できる。しかも、カム12の谷12aは、カム12の周方向に山12bを境に同じ深さと形状で複数繰り返し形成されている。これにより、1つの谷12aでの検査操作において設定トルク値を満足して1つの山12bを越えて空操作に移行したとき、カムフォロア13はカム12の次の谷12aに進入していてばね6の付勢力によって次の谷12aに落ち込み安定するので、即時に次の検査操作ができ、作業性が向上する。
【0042】
さらに、トルク伝達機構7のカム12は図1(a)、図2(b)、図4に示すように周面カムであり、図1(a)、図2(a)(b)に示すようにカムフォロア13およびばね6はトルク作業具2またはその装着部3の回転軸線4に直交する方向からカム12の外周カム面に働き、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aはカム内蔵部5bから一側へ延びるグリップ部21をなし、カム内蔵部5bから反対の側に延びる補助グリップ部22を有している。このように、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aがトルク作業具2の回転軸線4上に位置するカム12から側方に延びてグリップ部21をなし、反対の側に延びる補助グリップ部22と協働して回転軸線4との図1(a)、図2(a)(b)、図3に示すT字部23を把持してトルク作業具2が図示例のようにビット1であっても回転軸線上での近い距離からの遊びや逃げの無い押圧を伴い回転軸線4上での近い距離からの押圧を伴い振れなく安定して回転操作することができトルク作業が捗る。また、トルク伝達機構内蔵部5aの後端部に露出する操作部材9によりトルク切換え機構7でのトルク値切換え操作をするにも、操作部材9をばね6に抗し押し込みばね座8を進出させて受け止め部14から離してトルク値を切換える回転操作に移行し、続く押し込み解除でトルク値切換え位置のばね座8を受け止め部14に受け止めさせる一連の操作を、一方の手で把持したT字部23と他方の手で操作する操作部材9との図1(a)、図2(a)(b)に示す同一の軸線24上の近距離間で遊びや逃げ振れなどなく容易かつ迅速に行え作業性が向上する。
【0043】
また、カムフォロア13が図1(a)、図4に示すように工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5a内を進退するスライダ25の先端部に軸26で枢支して設けられ、スライダ25の後部とばね座8との間にばね6が働かされている。これにより、スライダ25の安定した進退のために確保する長さを利用して長いばね6をばね座8との間に働かせられるので、直線的なばね特性を得やすいし、コンパクト化ができる。また、スライダ25はトルク伝達機構内蔵部5aの内周に前後の転がり接触部27、28にて接触し進退するようにしている。これにより、スライダ25と工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aとの摩擦を軽減して長期に安定したトルク性能を発揮することができる。前部転がり接触部27は締結解除側Cへの検査操作時にスライダ25がトルク伝達機構内蔵部5aの内周に押し付けられる側に軸29により枢支した図1(a)、(d)、図4に示すようなコロとしてあり、前記締結解除側Cへの検査操作でカムフォロア13に働く反力をトルク伝達機構内蔵部5a内周との転がり接触により受け止めるようにしている。後部の転がり接触部28は図1(a)(c)、図4に示すようにスライダ25の後部外周に形成した溝31内に周方向に隙間無く嵌め入れた簡易なボール群としてあり、スライダ25の後部全周においてトルク伝達機構内蔵部5aの内周に転がり接触するようにしてある。これら転がり接触部27、28はどのように構成されてもよいし、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの側に設けることもできるが、スライダ25の側の方が設けやすい。
【0044】
また、ばね6は図1(a)に示すように内外二重のばね6a、6bの2つを働かせてあるので、2つのばね6a、6bのばね特性を異ならせて低トルク値側と高トルク値側とに必要なばね特性の設定幅が大きくなり、設計自由度が高まる。それには図1(a)、図4に示すようにばね径の小さなばね6aは、ばね径の大きなばね6bよりも線径が小さくかつばね長さを大きくするのが好適であり、ばね6aはスライダ25の凹部32とばね座8の凹部33との間に働かせ、ばね6bはスライダ25の後端面とばね座8の前端面との間に働かせることで、長さの違いにかかわらず終始遊びなく、かつ、設定したばね特性通りに働くようにしてある。スライダ25は図1(a)、図4に示すキー溝25aを有し、このキー溝25aはトルク伝達機構内蔵部5a内周のキー部5dと嵌まり合って直進できるように案内している。
【0045】
最後に、本実施の形態におけるトルク工具は、工具本体5および操作部材9が樹脂製よりなり、トルク作業具2またはその装着部3とカム12との間は樹脂を介し連結し、トルク作業具2のトルク作業部2a以外は樹脂で覆った絶縁工具をなし、工具本体5におけるトルク伝達機構内蔵部5aのスライダ25の進退範囲の内周には金属製シム34を当てがってある。このようにトルク作業具2のトルク作業部2a以外の表面を樹脂で覆っていると電気的な絶縁が図られて感電の恐れのあるトルク作業の安全が確保できるし、そのためにトルク伝達機構7を内蔵しているにもかかわらず工具本体5を樹脂製としているが、スライダ25とはその進退範囲の内周に設けた金属製シム34にて接して摩耗が低減され、長期に安定したトルク特性を確保することができ、寿命および信頼性を高められる。特に、双方の接触が既述した転がり接触であるためにその効果は大きい。
【0046】
さらに詳述すると、工具本体5はジュラコン樹脂(POM)よりなり、操作部材9およびカム12と装着部3との連結部材35をMCナイロン製としてあり、操作部材9はばね座8の背部に突出した軸部36に非貫通穴に嵌め合せて金属製の止めねじ37により締結し、止めねじ37による取り付け穴の背部はMC樹脂製のキャップ38により埋めている。連結部材35はカム12の下向きの軸39に嵌め合せて金属製の軸41により連結し、軸41による連結穴の両端開口は絶縁性のコーキングを施して面一に仕上ている。また、装着部3は図示しないばねで付勢したボールによるクリックストッパを内蔵した金属製のワンタッチホルダよりなり、金属製の軸43により連結部材35の下端に連結して軸43による連結穴は絶縁性のコーキングを施して面一に仕上げた状態で、装着部3の装着解除スリーブ42の外回りを装着解除スリーブ42と一体にしたMC樹脂製のカバー筒44により覆い、上端では連結部材35との嵌め合いにより、下端では装着部3よりも下方に延びて装着部3を外部に露出させないようにしている。また、ビット1もトルク作業部2aおよび装着部3へのクリック係合部を除く部分をウレタン樹脂製のカバー45により覆ってトルク作業部2a以外が露出しないようにしている。
【0047】
また、トルク切換え機構11における凹部8a、8bを持ったばね座8と受け止め部14とは軸線24の方向に大きな段差のある軸24の方向での嵌め合いをばね6の付勢の下に軸線24回りの相対回転を伴い切換える関係上大きな摩擦や衝撃が生じることから、これらにも焼き入れ鋼を採用して耐摩耗性、耐衝撃性を高めている。そのために、受け止め部14は特に工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの後端外周に嵌り合う焼き入れ鋼製の受け止めリング46としてスリーブ部46aを嵌め付け、ばね座8の軸部36が貫通するリング壁46bの内周の周方向3箇所に前記受け止め部14を形成している。受け止めリング46はMC樹脂製のカバーリング51の後半部内周とのねじ合わせ部52によって遊びなくねじ込んだ状態で、金属製の止めねじ53によりねじ止めしてそのねじ止め穴の背部絶縁性のコーキングを施して面一に仕上げ、受け止めリング46の外周および背部を覆って外部に露出しないようにしている。カバーリング51の前半部内周は工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aの途中部分外周に嵌め合わせたMC樹脂製の係止リング54の後半部外周とのねじ嵌め部55でのねじ合わせによって、工具本体5上の所定位置に係止したサークリップ56にてスライドリング57を介し係止される係止リング54に対する受け止め部14の引き付け位置を調整し、この調整によって受け止め部14と凹部8a、8bとの各嵌まり合い位置に応じたトルク値をトルク伝達機構7が発揮できるようにする。その調節位置は金属製の止めねじ58によってねじ止めて、そのねじ止め穴の背部は絶縁性のコーキングを施して面一に仕上てある。
【0048】
なお、爪状の受け止め部14は凹部8a、8bから脱却するのに、軸線24の方向の移動を伴うものの、回転による脱却もある程度可能で、適度な係合性と切換えの軽快性とを満足するために回転方向両側に凹部8a、8bを回転方向に乗り越えやすくする斜面14aを有し、深い方の凹部8bは特に、前記斜面14aと協働する皿形の座ぐり面8dを有したものとしている。また、トルク切換え機構11でのトルク切換え状態を明示するのに、工具本体5および操作部材9外周に凹部8aと受け止め部14とが係合し合う3N・mの際対向し合う白色などとした図1(a)、図2(b)に示すようなマーカー59a、59bを設けてある。これによってマーカー59a、59bどうしが対向した切換え状態では設定トルク値が3N・mでありそれ以外では16N・mであることが作業者によって直感される。
【0049】
また、工具本体5のトルク伝達機構内蔵部5aにおけるカム内蔵部5bの上面には図1(a)、図2(b)に示すように、このカム12とその上に貼り合せた表示板61を透視できる透明樹脂よりなるレンズカバー62をねじ込み部63でのねじ合わせによって固着してあり、このレンズカバー62とトルク伝達機構内蔵部5aの下部壁とでカム12の上向きの軸39aおよび前記下向きの軸39を金属製のオイレスなブッシュ64、65を介し軸受し、かつ、トルク伝達機構内蔵部5aの下部壁とカム12の下面との間、およびトルク伝達機構内蔵部5aの下部壁と連結部材35との間の双方には金属製のオイレスなワッシャ66、67を嵌め合せて、樹脂部材どうしが摺動し合わないようにして耐摩耗性を高めている。これらによって、本実施の形態のトルク工具は発明者らがした実験結果から8万回程度の繰り返し使用に十分耐えるものとなっている。トルク伝達機構内蔵部5aの下部壁と連結部材35との間のワッシャ67は連結部材35の上端がトルク伝達機構内蔵部5aの下部壁から下方に延びた筒壁5cの内周に嵌まり合っていることで外部に露出しない構造としている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
各種トルク工具に実用して、トルク値を容易かつ迅速に切換え、正確に行え、設定状態が変動しない安定性がある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施の形態のトルクドライバを示し、(a)は断面図、(b)はトルク切換え機構部の横断面図、(c)はカムフォロアを持ったスライダの後部転がり接触部の横断面図、(d)はカムフォロアを持ったスライダの前部転がり接触部の横断面図である。
【図2】図1のトルクドライバを示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】図1のトルクドライバの側面図である。
【図4】図1のトルクドライバのトルク伝達機構およびトルク切換え機構の分解斜視図である。
【図5】従来のトルクドライバのトルク伝達機構の要部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ビット
2 トルク作業具
2a トルク作業部
3 装着部
4 回転軸線
5 工具本体
5a トルク伝達機構内蔵部
5b カム内蔵部
6、6a、6b ばね
7 トルク伝達機構
8 ばね座
8a、8b 凹部
9 操作部材
11 トルク切換え機構
12 カム
13 カムフォロア
14 受け止め部
21 グリップ部
22 補助グリップ部
23 T字部
24 軸線
25 スライダ
27、28 転がり接触部
32、33 凹部
34 金属製シム
35 連結部材
44 カバー筒
45 カバー
46 受け止めリング
51 カバーリング
54 係止リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビットやレンチなどのトルク作業具またはその装着部をそれらの回転軸線上に装備した工具本体と、工具本体によるトルク作業具またはその装着部に対する回転操作をばね力による設定トルク値となるまで伝達し設定トルク値を超えると伝達を断ち空操作に移行させるトルクリミット機能を有したトルク伝達機構と、を備えたトルク工具において、
前記ばねの一端を受け止めるばね座の受け止め位置を、工具本体のトルク伝達機構内蔵部の後端外に手動操作できるように露出した操作部材による段階的な回転と進退とを伴い複数段階に切り替えて設定トルク値を複数段階に切換えるトルク切換え機構を設けたことを特徴とするトルク工具。
【請求項2】
トルク切換え機構は、設定トルク値を2段階に切換える請求項1に記載のトルク工具。
【請求項3】
トルク伝達機構は工具本体内に設けられてトルク作業具またはその装着部と一体回転するカムおよびこのカムにばねの付勢により圧接されたカムフォロアを備え、トルク切換え機構はばね座の後面に切換えるトルク値に応じ深さの違う凹部を周方向に配設して、その回転位置に応じ工具本体のトルク伝達機構内蔵部の後端側の一定位置にある受け止め部に1種の凹部が対向してその種類によって違った進退位置に受け止められるようにし、操作部材は進退動作で凹部の受け止め部への出入りを行い、回転動作で受け止め部に対向させる凹部の種類を切換えるようにした請求項1、2のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項4】
凹部は2種類であり、周方向に交互に3つずつ配してあり、受け止め部は周方向に3つある請求項3に記載のトルク工具。
【請求項5】
凹部はばね座の外周に開放して形成され、受け止め部は工具本体の周壁の内周から内側に張出した爪部である請求項3、4のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項6】
トルク伝達機構のカムの谷は、締結解除操作側に緩やかに立上がり、締結操作側に急激に立上がる請求項1〜5のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項7】
カムの谷は、カムの周方向に山を境に同じ深さと形状で複数繰り返し形成されている請求項6に記載のトルク工具。
【請求項8】
トルク伝達機構のカムは周面カムであり、カムフォロアおよびばねはトルク作業具またはその装着部の回転軸線に直交する方向から周面カムに働き、工具本体部のトルク伝達機構内蔵部はカム内蔵部から一側へ延びるグリップ部をなし、カム内蔵部から反対の側に延びる補助グリップ部を有している請求項1〜7のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項9】
カムフォロアは工具本体のトルク伝達機構内蔵部内を進退するスライダの先端部に設けられ、スライダの後部とばね座との間にばねが働かされている請求項1〜8のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項10】
スライダはトルク伝達機構内蔵部の内周に転がり接触部にて接触し進退する請求項9に記載のトルク工具。
【請求項11】
ばねは内外二重に働かせてある請求項1〜10のいずれか1項に記載のトルク工具。
【請求項12】
ばね径の小さなばねは、ばね径の大きなばねよりも線径が小さくかつばね長さが大きい請求項11に記載のトルク工具。
【請求項13】
工具本体および操作部材が樹脂製よりなり、トルク作業具またはその装着部とカムとの間は樹脂を介し連結し、トルク作業具のトルク作業部以外は樹脂で覆った絶縁工具をなし、工具本体におけるトルク伝達機構内蔵部のスライダの進退範囲の内周には金属シムを当てがってある請求項1〜12のいずれか1項に記載のトルク工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−160476(P2007−160476A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361771(P2005−361771)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(592208806)財団法人関東電気保安協会 (14)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】