説明

トルク検知装置

【課題】工作機械のラムや工具に加わるトルクが適正なものであるか否かを判断し、過剰なトルクによってラムや工具が損傷してしまう事態を防止することが可能な門形構造を有する工作機械用のトルク検知装置を提供する。
【解決手段】トルク検知装置41は、立形旋盤の状態に応じて許容される切削力を記憶するための許容切削力記憶部26と、現在の立形旋盤の状態より切削力を求め、許容切削力記憶部26の情報と比較し、現状の切削力が許容値を超えているか否かを判定する判定部27と、判定部27による判定の結果、許容切削力を超えていると判定された場合にその事態を報知する報知手段である表示部33とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、門形構造を有する立形旋盤等の工作機械において主軸に加わるトルクを検知するためのトルク検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークの大型化に伴って立形旋盤等の門形構造を有する工作機械が増加してきている。門形構造を有する工作機械は、ベッド上にターンテーブルが主軸を中心として回転可能に設けられているとともに、そのターンテーブルの左右に立設されたコラムの前面に、クロスレールが水平状態を保ったまま上下動可能に設けられている。さらに、クロスレールの前面には、刃物台が左右方向へ移動可能に設けられており、その刃物台には、長尺なラムが、上下動可能に設けられている。そして、ラムの下端に装着される工具によって、ターンテーブル上のワークに加工を施すことができるようになっている。かかる門形構造を有する工作機械によれば、刃物台を左右に移動させたり、ラムを上下させたりすることによって、大型ワークに加工を施すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−183666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した門形構造を有する工作機械においては、大型ワークに深穴加工を施す場合には、ラムを長く突き出す必要があるため、加工時のトルクによって、ラムが損傷する可能性もある。そのような弊害を防止するために、ラムの径を大きくしたり、ターンテーブルの耐用トルクを小さくしたりすることも可能であるが、ラムのサイズを大きくすると、小さな内径の加工が困難となるし、ターンテーブルの耐用トルクを小さくすると、重切削の際にトルク不足となってしまう。
【0005】
本発明の目的は、ラムを大径化したりターンテーブルの耐用トルクを低減したりすることなく従来の門形構造を有する工作機械における問題点を解消するために、過剰なトルクによってラムや工具が損傷してしまう事態を防止することが可能な門形構造を有する工作機械用のトルク検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、ベッド上にターンテーブルが主軸を中心として回転可能に設けられているとともに、そのターンテーブルの側方に立設されたコラムの上部側面にクロスレールが設けられており、そのクロスレールの一側面に、サドルが左右方向へ移動可能に設けられており、サドルに工具を保持するラムが上下動可能に設けられた工作機械において、工具に加わるトルクを検知するためのトルク検知装置であって、工作機械のサドル及びラムの位置に応じて許容される切削力を記憶するための許容切削力記憶部と、現在の工作機械の状態より切削力を求め、前記許容切削力記憶部の情報と比較し、現状の切削力が許容値を超えているか否かを判定する判定部と、前記判定部による判定の結果、許容切削力を超えていると判定された場合にその事態を報知する報知手段とを有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記クロスレールが水平状態を保ったまま上下動可能に設けられており、前記許容切削力記憶部が、工作機械のクロスレール・サドル・ラムの位置に対応した許容切削力を記憶したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載のトルク検知装置によれば、門形構造を有する工作機械のラムや工具に加わるトルクが適正なものであるか否かを判断し、過剰なトルクによってラムや工具が損傷してしまう事態を効果的に防止することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載のトルク検知装置によれば、サドルの位置やラムのサドルからの突き出し量に加えてベッドに対してコラムに発生するモーメントも加味して許容切削力を決定するので、ラムや工具に加わるトルクが適正なものであるか否かをより正確に判断することが可能となり、過剰なトルクによってラムや工具が損傷してしまう事態を非常に効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】トルク検知装置を搭載した立形旋盤の正面図である。
【図2】トルク検知装置を搭載した立形旋盤の右側面図である。
【図3】トルク検知装置の構成を示すブロック図である。
【図4】許容切削力記憶部に記憶されているデータ(ラムのZ軸への突出量に対応した許容切削力)を示す説明図である。
【図5】トルク検知装置による過剰トルクの報知処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る工作機械用のトルク検知装置の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
<トルク検知装置を搭載した工作機械の構造>
図1、図2は、本発明に係るトルク検知装置を搭載した工作機械である立形旋盤を示したものであり、立形旋盤Mは、ベッド1の中央上部に、円盤状のターンテーブル4が設けられており、図示しない駆動装置(モータ)によって、主軸3を中心として回転可能(C軸方向)になっている。また、ベッド1の左右には、一対のコラム7,7を立設されており、それらのコラム7,7の前面に、水平な棒状のクロスレール9が、図示しない駆動装置によって、水平状態を保持したまま上下方向(Z軸方向)へ移動可能に架設されている。さらに、クロスレール9の前面には、刃物台として機能するサドル12が、図示しない駆動装置によって、左右方向(X軸方向)へ移動可能に設けられている。そして、サドル12の下方には、略四角柱状のラム13が、図示しない駆動装置によって、上下方向(Z軸方向)へ移動可能に設けられており、当該ラム13の先端には、工具を装着するためのチャック14が設けられている。
【0013】
上記した主軸3、X・Y軸の送り軸等を駆動させるための駆動装置であるモータは、後述する制御装置によって駆動制御されるようになっている(図3参照)。また、それらの各モータには、回転数や回転時のトルクを検出するための検出部(センサ等)が接続されている(図3参照)。
【0014】
<トルク検知装置の構成>
図3は、上記した立形旋盤Mの制御機構を示すブロック図であり、立形旋盤Mの作動を制御する制御装置21は、加工プログラム、工具マガジンやタレット、ラム13に取り付けられる工具等に関する情報(突出量等)を入力するための入力部22、入力部22より入力された情報を記憶保持するための記憶部23、加工の際に加工プログラムを読み込んで解釈し指令するためのプログラム解釈部24、プログラム解釈部24より出された指令に基づいてモータへ電力を供給するための制御部25、立形旋盤Mの状態に応じて許容される切削力を記憶させるための許容切削力記憶部26、現在の立形旋盤Mの状態より切削力を求めて許容切削力記憶部26の情報と比較し、現状の切削力が許容値を超えているか否かを判定する判定部27等によって構成されている。加えて、許容切削力記憶部26には、予め、図4の如き、ラム13のZ軸への突出量に対応した許容切削力(N)のデータ(実験により求められたもの)が記憶されている。
【0015】
また、制御装置21は、図示しないインターフェイスを介して、主軸3、X・Y軸の送り軸等を駆動させるためのモータ31,31・・、それらの各モータ31,31・・の回転数やトルクを検出するための検出部32,32・・、許容切削力を超えていると判定された場合にその事態を作業者に報知するための報知手段である表示部(モニタ)33等と接続されている。そして、制御装置21の入力部22、記憶部23、プログラム解釈部24、制御部25、許容切削力記憶部26、判定部27、モータ31,31・・、検出部32,32・・、表示部(モニタ)33によって、トルク検知装置41が構成された状態になっている。
【0016】
<トルク検知装置の作動内容>
上記の如く構成されたトルク検知装置41によるワーク加工(数値制御による加工)時のトルク制御(過剰トルクの報知処理)の内容について、図5のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0017】
過剰トルクの報知処理においては、入力手段2を利用して、作業者によって、加工プログラム、工具マガジンやタレット、主軸3に取り付けられている工具等に関連した情報(突出量等)が入力されると、まず、ステップ(以下、単にSで示す)1で、それらの入力された情報が、記憶部23に記憶保持される。また、S2で、プログラム解釈部24が、記憶部23に記憶された加工プログラムを読み込んで、その内容を解釈し、S3で、各種のモータを駆動させるための「駆動信号」を制御部25へ送信する。そのようにS3で制御部25に「駆動信号」が送信されると、制御部25は、「駆動信号」に基づいて、モータの駆動を制御する。
【0018】
上記の如くモータが駆動すると、S4で、検出部32によってモータの駆動に伴ってターンテーブル4に発生しているトルクが検出される。さらに、S5で、モータの駆動の結果としてのラム13、クロスレール9、サドル12の位置が検出される。そして、S6で、それらのトルクの値、各部材の位置に関する情報が、判定部27に送信される。そのようにトルクの値、各部材の位置に関する情報が判定部27に送信されると、S7で、判定部27によって、送信されたトルクの値、各部材の位置に関する情報に基づいて、実際に工具に加わっている切削力が算出される。
【0019】
一方、S5でラム13の位置(すなわち、突出量)等が検出されると、S8で、許容切削力記憶部26に記憶されている「ラムのZ軸への突出量に対応した許容切削力(N)のデータ」が呼び出され、S9で、当該データから、検出部32から送信されたラム13の突出量(実際の突出量)と対応した許容切削力が算出される。
【0020】
上記の如く、S9で許容切削力が算出されると、S10において、算出された許容切削力と、S7で算出された切削力(すなわち、実際に工具に加わっている切削力)の大小が比較される。そして、S10で“YES”と判断された場合には、S11で、表示部33が所定の態様の表示を実行することにより、実際に工具に加わっている切削力が理論上の許容切削力を上回っている事態を報知する。かかる報知により、作業者は、ラム13の突出量の低減や工具の回転数の低減等の適当な措置を講ずることが可能となる。
【0021】
<トルク検知装置による効果>
トルク検知装置41は、上記の如く、立形旋盤Mの状態に応じて許容される切削力を記憶するための許容切削力記憶部26と、現在の立形旋盤Mの状態より切削力を求め、許容切削力記憶部26の情報と比較し、現状の切削力が許容値を超えているか否かを判定する判定部27と、判定部27による判定の結果、許容切削力を超えていると判定された場合にその事態を報知する報知手段である表示部33とを有しているため、ラム13や工具に加わるトルクが適正なものであるか否かを判断し、過剰なトルクによってラム13や工具が損傷してしまう事態を効果的に防止することができる。
【0022】
また、トルク検知装置41は、許容切削力記憶部26が、立形旋盤Mのラム13・クロスレール9・サドル12の位置に対応した許容切削力を記憶したものであるため、ラム13や工具に加わるトルクが適正なものであるか否かをよりきわめて正確に判断することができるので、過剰なトルクによってラム13や工具が損傷してしまう事態を非常に効果的に防止することができる。
【0023】
<トルク検知装置の変更例>
なお、本発明に係るトルク検知装置の構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、制御装置、駆動装置、検出部、表示部等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて適宜変更することができる。また、トルク検知装置を設置する門形構造を有する工作機械の構成も、上記実施形態の態様に限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。
【0024】
たとえば、本発明に係るトルク検知装置は、上記実施形態の如く、トルクが過剰になった場合(すなわち、実測値が予め設定された許容値を上回った場合)に、その事態をモニタに表示するものに限定されず、報知ランプを所定の態様で点灯・点滅させるものや、所定の警報音を発するもの等に変更することも可能である。また、トルクが所定の閾値を上回った場合に、加工動作を一時的に停止するもの等に変更することも可能である。更に、上記実施形態ではサドルやラム、クロスレールの位置のみで許容切削力を求めているが、ラムの中心に対する工具の径方向刃先位置やラム先端面から工具先端までの長さを加味して許容切削力を求めるようにしても良い。更にまた、機械の構成としては門形構造に限らずコラムが1つの所謂シングルコラムの工作機械に適用可能である他、クロスレールがコラムに対し固着され上下動しない形式の工作機械にも適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のトルク検知装置は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、門形構造を有する各種の工作機械用のトルク検知装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
1・・ベッド
3・・主軸
4・・ターンテーブル
7・・コラム
9・・クロスレール
12・・サドル
13・・ラム
22・・入力部
23・・記憶部
24・・プルグラム解釈部
25・・制御部
26・・許容切削力記憶部
27・・判定部
31・・モータ
32・・検出部
33・・記憶部
M・・立形旋盤
41・・トルク検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上にターンテーブルが主軸を中心として回転可能に設けられているとともに、そのターンテーブルの側方に立設されたコラムの上部側面にクロスレールが設けられており、そのクロスレールの一側面に、サドルが左右方向へ移動可能に設けられており、サドルに工具を保持するラムが上下動可能に設けられた工作機械において、工具に加わるトルクを検知するためのトルク検知装置であって、
工作機械のサドル及びラムの位置に応じて許容される切削力を記憶するための許容切削力記憶部と、
現在の工作機械の状態より切削力を求め、前記許容切削力記憶部の情報と比較し、現状の切削力が許容値を超えているか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定の結果、許容切削力を超えていると判定された場合にその事態を報知する報知手段とを有することを特徴とするトルク検知装置。
【請求項2】
前記クロスレールが水平状態を保ったまま上下動可能に設けられており、前記許容切削力記憶部が、工作機械のクロスレール・サドル・ラムの位置に対応した許容切削力を記憶したものであることを特徴とする請求項1に記載のトルク検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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