説明

トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できるトレッド用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるウェットマスターバッチを含むトレッド用ゴム組成物であり、ウェットマスターバッチにおいて、充填剤分散液が充填剤を水性媒体中に分散させたものであり、液状ジエン系重合体エマルジョンが界面活性剤を用いて液状ジエン系重合体を乳化させた水中油滴型エマルジョンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用タイヤには、グリップ性能や、低燃費性、耐摩耗性などの諸性能が要求される。たとえば、グリップ性能を向上させる手法として、架橋剤である硫黄をなくして、加硫促進剤を多く配合する、いわゆるセミEV架橋系を用いる手法が知られている。
【0003】
しかし、かかる手法では、耐摩耗性や耐熱性が低下してしまう。また、オイルを多量に配合してグリップ性能を向上させる手法も知られているが、この場合も耐摩耗性、低燃費性が低下してしまう。
【0004】
一方、乗用車用タイヤのグリップ性能を向上させるために、オイルの代わりとして、ゴム成分に比べて重量平均分子量が小さく、常温で液体の液状ポリマーを配合する手法も知られているが、かかる手法によっても、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善することは困難であった。
【0005】
特許文献1には、水素添加した液状ポリマーを使用することが記載されているが、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善する点については改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−225946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できるトレッド用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性を向上させるために、様々な試みを行った結果、ゴム成分と骨格成分の異なる液状ポリマーを使用すると、耐摩耗性、グリップ性能が低下することが分かった。この原因について検討した結果、ゴム成分と骨格成分の異なる液状ポリマーを使用すると、液状ポリマーとゴム成分との相溶性が低下し、液状ポリマーが充分に分散せずにブリードが生じるためであるとの仮説に想到した。
そして、液状ポリマーとゴム成分との相溶性を向上させるために鋭意検討した結果、ゴム成分と、液状ポリマーと、充填剤とを含むウェットマスターバッチを調製し、該ウェットマスターバッチをトレッド用ゴム組成物に使用することにより、液状ポリマーの分散性を向上でき、ブリードの発生を抑制でき、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく向上できることを見出した。さらに、該ウェットマスターバッチと共に、特定の成分を併用することにより、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をより向上できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるウェットマスターバッチを含むトレッド用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記ウェットマスターバッチにおいて、上記充填剤分散液が充填剤を水性媒体中に分散させたものであり、上記液状ジエン系重合体エマルジョンが界面活性剤を用いて液状ジエン系重合体を乳化させた水中油滴型エマルジョンであることが好ましい。
【0010】
上記ウェットマスターバッチが、ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対して、上記液状ジエン系重合体を10〜100質量部、上記充填剤を40〜150質量部含むことが好ましい。
【0011】
上記ウェットマスターバッチにおいて、上記液状ジエン系重合体が液状スチレンブタジエン共重合体、液状ブタジエン重合体及び液状イソプレン重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
上記ウェットマスターバッチにおいて、上記ゴムラテックスがスチレンブタジエンゴムラテックスであることが好ましい。
上記ウェットマスターバッチにおいて、上記充填剤がシリカであることが好ましい。
【0013】
上記ウェットマスターバッチにおいて、上記液状ジエン系重合体の重量平均分子量が1000〜60000であることが好ましい。
【0014】
下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0015】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるウェットマスターバッチを含むトレッド用ゴム組成物であるので、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できる。よって、該ゴム組成物をタイヤのトレッドに使用することにより、これらの性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるウェットマスターバッチを含む。
【0018】
従来では、例えば、トレッド用ゴム組成物のゴム成分に骨格成分の異なる液状ジエン系重合体を配合した場合、耐摩耗性の低下やトレッド欠けの問題が生じていたが、本発明では上記ウェットマスターバッチが使用される。これにより、ゴム成分と液状ポリマー(液状ジエン系重合体)との相溶性が向上し、ゴム成分中への液状ジエン系重合体の分散性を向上できる。そのため、上記ウェットマスターバッチをトレッドに使用した場合に、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できるとともに、液状ポリマーのブリードも抑制できる。
【0019】
さらに、上記ウェットマスターバッチと共に、化合物1、化合物2、化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を併用することにより、前述の効果がより高い次元で得られる。
【0020】
〔ウェットマスターバッチ〕
上記ウェットマスターバッチ(WMB)は、(A)ゴムラテックスと、(B)充填剤分散液と、(C)液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られたものである。
【0021】
上記WMBは、例えば、(A)〜(C)を混合し、その後、凝固、乾燥することにより調製できる。
【0022】
((A)ゴムラテックス)
ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス、合成ジエン系ゴムラテックス(ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどのラテックス)などが挙げられる。なかでも、グリップ性能に優れるという理由から、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)が好ましい。
【0023】
ゴムラテックス中のゴム成分(ゴム固形分)の濃度は特に限定されないが、ゴムラテックス(100質量%)中での均一分散性の点から、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%である。
【0024】
SBRラテックスにおけるSBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、グリップ性能に優れるという理由から、E−SBRが好ましい。
【0025】
上記SBRのビニル含量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。ビニル含量が5質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該ビニル含量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。ビニル含量が50質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0026】
上記SBRのスチレン含量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。スチレン含量が20質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該スチレン含量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。スチレン含量が50質量%を超えると低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、SBRのスチレン含量は、H−NMR測定により算出される。
【0027】
WMBに用いられるゴムラテックスに含まれるゴム固形分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。80質量%未満であると、グリップ性能が充分に得られない傾向がある。
【0028】
((B)充填剤分散液)
充填剤分散液としては、充填剤を水性媒体中に分散させたものが挙げられる。充填剤分散液を使用することにより、ポリマー(ゴム分子)と充填剤を液体状態で混合することができ、充填剤を良分散させることができる。
【0029】
充填剤分散液は、公知の方法で製造でき、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を用いて調製できる。具体的には、コロイドミルに水性媒体を入れ、攪拌しながら充填剤、必要に応じてシランカップリング剤を添加し、次いでホモジナイザーを用いて更に必要に応じて界面活性剤とともに循環することにより、上記分散液を調製できる。なお、上記分散液中の充填剤の濃度は特に限定されないが、分散液(100質量%)中での均一分散性の点から、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは3〜7質量%である。
【0030】
前述の分散液の製法のとおり、充填剤分散液には、分散性の点から、適宜界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、公知の陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを適宜使用できる。なお、上記分散液において、界面活性剤の添加量は特に限定されないが、分散液(100質量%)中の充填剤の均一分散性の点から、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。
【0031】
充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなど、従来タイヤ用ゴム組成物において慣用されるもののなかから任意に選択して用いることができるが、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性のバランスに優れるという理由から、シリカが好ましい。
【0032】
シリカとしては、例えば、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカなどが挙げられるが、特に制限はない。
【0033】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは30m/g以上、より好ましくは50m/g以上、更に好ましくは100m/g以上である。30m/g未満であると、補強効果が小さく、耐摩耗性能が確保できないおそれがある。また、シリカのNSAは、好ましくは500m/g以下、より好ましくは400m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。500m/gを超えると、分散性が低下し、発熱性が増大する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM−D−4820−93に準拠した方法により測定することができる。
【0034】
前記のとおり、充填剤分散液には、シランカップリング剤を添加してもよい。これにより、シリカの分散性を向上でき、補強性を向上できるとともに、本発明の改善効果をより高い次元で得ることができる。
【0035】
シランカップリング剤としては特に限定されず、従来からタイヤ分野において汎用されているものを使用でき、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系を好適に使用できる。
【0036】
また、水性媒体としては、水、アルコールなどが挙げられ、なかでも、水を使用することが好ましい。
【0037】
((C)液状ジエン系重合体エマルジョン)
液状ジエン系重合体エマルジョンは、例えば、界面活性剤を用いて液状ジエン系重合体を乳化させたものが挙げられ、ゴム成分と液状ジエン系重合体との相溶性をより向上できるという理由から、水中油滴型エマルジョンであることが好ましい。
【0038】
液状ジエン系重合体エマルジョンは、公知の乳化方法にて調製でき、液状ジエン系重合体に所定量の界面活性剤及び水を加え、ホモミキサー、コロイドミル、ラインミル、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、トリミックスミキサー等の乳化機又は混合機を用いてせん断応力を加えることにより、水中油滴型エマルジョンを調製できる。
【0039】
本発明において、液状ジエン系重合体とは液体状態のジエン系重合体である。
液状ジエン系重合体としては、液体状態のジエン系重合体であれば特に限定されず、例えば、液状のスチレンブタジエン共重合体(ゴム)、ブタジエン重合体(ゴム)、イソプレン重合体(ゴム)、アクリロニトリルブタジエン共重合体(ゴム)等が挙げられる。液状ジエン系重合体のなかでも、グリップ性能の向上効果が大きいことから、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)が好ましい。また、低燃費性の向上効果が大きいことから、液状イソプレン重合体(液状IR)が好ましい。また、耐摩耗性の向上効果が大きいことから、液状ブタジエン重合体(液状BR)が好ましい。
【0040】
液状ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上である。Mwが1000未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、液状ジエン系重合体のMwは好ましくは60000以下、より好ましくは20000以下、更に好ましくは15000以下である。Mwが60000を超えると、低温条件下でのグリップ性能が低下する傾向がある。また、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、可塑剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0041】
液状SBRの重量平均分子量(Mw)は好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上である。Mwが2000未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、液状SBRのMwは好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下、更に好ましくは15000以下である。Mwが50000を超えると、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、可塑剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。
【0042】
液状IRの重量平均分子量(Mw)は好ましくは10000以上、より好ましくは15000以上である。Mwが10000未満では、液状IRがゴム中で動き易いために、低転がり性の改善効果が少ない。また、液状IRのMwは好ましくは60000以下、より好ましくは55000以下である、液状IRのMwが60000をこえると、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、可塑剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。
【0043】
液状BRの重量平均分子量(Mw)は好ましくは5000以上、より好ましくは6000以上である。Mwが5000未満では、液状BRがゴム組成物中を移行しやすく、オイルと同様の性質を示し、耐摩耗性の改善効果が低下する傾向がある。また、液状BRのMwは好ましくは50000以下、より好ましくは30000以下、更に好ましくは20000以下である。Mwが50000を超えると、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、可塑剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。
【0044】
液状ジエン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、−90℃以上が好ましく、−60℃以上がより好ましく、−50℃以上が更に好ましい。Tgが−90℃未満では、エネルギーロスが低く、所望のグリップ性能が得られない傾向がある。また、Tgは、−10℃以下が好ましく、−15℃以下がより好ましい。Tgが−10℃を超えると、低温で硬くなり、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
液状SBRのビニル含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。ビニル含量が10質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該ビニル含量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。ビニル含量が90質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、液状SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0046】
液状SBRのスチレン含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。スチレン含量が10質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。該スチレン含量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。スチレン含量が60質量%を超えると、軟化点が高くなり、ゴムが硬くなり、グリップ性能が悪化するおそれがある。
なお、液状SBRのスチレン含量は、H−NMR測定により算出される。
【0047】
上記エマルジョン中の液状ジエン系重合体の濃度は特に限定されない。
【0048】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤を使用できるが、液状ジエン系重合体を良好に分散できる点から、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。なかでも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが好ましい。
【0049】
また、非イオン性界面活性剤は、親水性部分がオキシエチレンの繰り返し単位を2〜40個有することが好ましく、親油性部分がアルキルエーテルまたはアルケニルエーテル構造であることが好ましい。
【0050】
なお、上記エマルジョンにおいて、界面活性剤の添加量は特に限定されないが、該エマルジョン(100質量%)中の液状ジエン系重合体の均一分散性の点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0051】
(混合)
上記ゴムラテックスと、上記充填剤分散液と、上記液状ジエン系重合体エマルジョンとの混合方法としては、特に限定されず、例えば、ブレンダーミル中にゴムラテックスを入れ、撹拌しながら、充填剤分散液と、液状ジエン系重合体エマルジョンとを滴下する方法や、充填剤分散液を撹拌しながら、これにゴムラテックスと、液状ジエン系重合体エマルジョンとを滴下する方法、液状ジエン系重合体エマルジョンを撹拌しながら、これにゴムラテックスと、充填剤分散液とを滴下する方法等が挙げられる。また、一定の流量比のゴムラテックス流と充填剤分散液流と、液状ジエン系重合体エマルジョン流とを激しい水力撹拌条件下で混合する方法等でもよい。
【0052】
(凝固)
上記混合工程の後、通常、凝固させるが、凝固工程は、通常、ギ酸、硫酸等の酸性化合物や、塩化ナトリウム等の塩等の凝固剤を添加して行われる。なお、上記混合によって凝固される場合もあり、この場合は凝固剤を用いなくてもよい。
【0053】
(乾燥)
凝固後、通常、得られた凝固物を回収し、遠心分離等によって脱水し、更に、洗浄、乾燥を行うことにより、上記WMBが得られる。乾燥に使用できる乾燥機としては、例えば、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー、バンドドライヤー、熱風乾燥機、キルン式乾燥機等を使用できる。
【0054】
(WMBの組成)
WMB中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましい。充填剤の含有量が40質量部未満では、グリップ性能及び耐摩耗性が低下する傾向がある。また、充填剤の含有量は、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。150質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0055】
WMB中のシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましい。該含有量は、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。上記範囲外であると、充填剤と同様の傾向がある。
【0056】
WMB中のシランカップリング剤の含有量は、該WMBに含まれるシリカ100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上である。4質量部未満では、シリカと充分に反応せず、補強性が向上しない傾向がある。該含有量は、シリカ100質量部に対し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、シランカップリング剤の配合によるゴム強度及び耐摩耗性などの改善効果がみられず、コストが増大してしまう傾向がある。
【0057】
WMB中の液状ジエン系重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは40質量部以上である。10質量部未満では、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。100質量部を超えると、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、本明細書において、液状ジエン系重合体は、ゴム成分には含まれない。
【0058】
〔他の成分〕
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分(WMBに含まれるゴム成分及び他のゴム成分)の総量100質量%中、上記WMBに含まれるゴム成分(ゴム固形分)の含有量は、多いほうが好ましく、好ましくは20質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。20質量%未満であると、液状ジエン系重合体の分散性を充分に向上できず、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性を充分に向上できないおそれがある。
【0059】
本発明のゴム組成物は、上記WMB以外にも、必要に応じて、他のゴム成分をブレンドして使用することができる。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。なかでも、低燃費性の向上効果が大きいことから、NRが好ましい。また、耐摩耗性の向上効果が大きいことから、BRが好ましい。
なお、耐摩耗性に優れるという点から、BRのシス含量は95質量%以上が好ましい。
【0060】
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分(WMBに含まれるゴム成分及び他のゴム成分)の総量100質量%中、SBRの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。該含有量は、100質量%であってもよく、90質量%以下であってもよい。該含有量が上記範囲内であると、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性が良好である。
【0061】
なお、本発明のゴム組成物に含まれるSBR(WMBに含まれるSBR及び他に使用されたSBR)100質量%中、WMBに含まれるSBRの割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。該割合が上記範囲であると、本発明の効果が良好に得られる。
【0062】
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分の総量100質量%中、NRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0063】
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分の総量100質量%中、BR(ゴム固形分)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
NR、BRの含有量が上記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0064】
本発明のゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記WMB及びこれらの化合物を併用することで、ゴム成分と液状ジエン系重合体の相溶性が向上して該液状ジエン系重合体の分散性を向上するとともに、熱に対して安定な架橋構造が良好に形成されることで、グリップ性能、グリップの持続性、耐摩耗性、低転がり性の性能が相乗的に改善できる。上記化合物1〜3、該化合物3の水和物のなかでも、化合物1が好ましい。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0065】
式(1)中、pは2〜12、好ましくは3〜10、より好ましくは4〜8の整数である。pが1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、13以上では、−S−S−(CH−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0066】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−(CH−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0067】
式(1)中、R及びRとしては、チッ素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から同一であることが好ましい。
たとえば、R、Rとして、下記の構造を有するものを好適に使用できる。
【化1】

【0068】
上記式(1)で表される化合物1としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0069】
式(2)中、mは2〜5、好ましくは2〜4である。mが2未満では、引っ張り特性が悪化する傾向がある(充分な伸びが確保できないおそれがある)。また、mが5をこえると、熱老化後の強度低下が大きくなる傾向がある。
【0070】
式(2)中、xは2〜6、好ましくは3〜5である。xが2未満では、加硫が遅延する。また、xが6をこえると、ゴム組成物の製造が困難となる。
【0071】
式(2)中、nは10〜400、好ましくは50〜300である。nが10未満では、有機加硫剤が揮発しやすく、取り扱いが困難となる。また、nが400をこえると、ゴムとの相溶性が悪化し、性能の改善効果が充分でないおそれがある。
【0072】
このような化合物2としては、たとえば、ポリ−3,6−ジオキサオクタン−テトラスルフィド(川口化学工業(株)製の2OS4など)などが使用できる。
【0073】
式(3)中、qは3〜10、好ましくは3〜6の整数である。3未満では、ゴム強度、耐摩耗性を充分に改善できないおそれがあり、10を超えると、分子量が増大するわりにゴム強度、耐摩耗性の改善効果が小さい傾向がある。
【0074】
式(3)中、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムがより好ましい。また、式(3)で表される化合物の水和物としては、例えば、ナトリウム塩一水和物、ナトリウム塩二水和物などがあげられる。
【0075】
式(3)で表される化合物3及びその水和物としては、化合物として安定性が高いという理由から、チオ硫酸ナトリウム由来の誘導体、例えば、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物が好ましい。
【0076】
本発明のゴム組成物において、化合物1、化合物2、化合物3、及び該化合物3の水和物の合計含有量は、ゴム成分(ゴム固形分)100質量部に対して、好ましくは0.6質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは12質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。下限未満であると、これらの化合物による改善効果が充分でないおそれがあり、上限を超えると、架橋密度が高くなりすぎて、破壊特性が悪化する傾向がある。
【0077】
本発明のゴム組成物は、通常、硫黄を含む。上記WMBと、化合物1〜3、該化合物3の水和物と、硫黄とを併用すると、前述の作用効果が発揮されるとともに、異なる架橋形態が導入されることによる作用効果も発揮され、グリップ性能、グリップの持続性、耐摩耗性、低転がり性の改善効果が充分に得られる。
【0078】
本発明のゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分(ゴム固形分)100質量部に対して、好ましくは0.5〜6.0質量部、より好ましくは1.0〜3.0質量部である。特に、化合物1〜3、該化合物3の水和物を配合する場合は、該硫黄の含有量は、好ましくは0.5〜3.0質量部、より好ましくは1.0〜2.0質量部である。該含有量が上記範囲内であると、前述の効果が良好に得られる。
【0079】
本発明のゴム組成物には、上記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、樹脂(レジン)等の軟化剤、ワックス、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0080】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。該ゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド、ベーストレッドに好適に使用できる。
【0081】
〔空気入りタイヤ〕
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0082】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等として好適に用いられ、特に乗用車用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0083】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0084】
液状SBR(サートマー社製のRICON100)、液状IR(クラレ(株)製のクラプレンLIR−30)及び液状BR(サートマー社製のRICON142)について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(重量平均分子量(Mw)の測定)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0086】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
ガラス転移温度(Tg)は、JIS−K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定することによリ、ガラス転移開始温度として求めた。
【0087】
【表1】

【0088】
以下、製造例1〜6で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBRラテックス:日本ゼオン(株)製のLX110(E−SBR、スチレン含量:37.5質量%、ビニル含量:18質量%、ゴムラテックス中のゴム成分の濃度:40.5質量%)
シリカ(1):EVONIK−DEGUSSA社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)
シリカ(2):Rhodia社製のPremium200MP(NSA:215m/g)
シランカップリング剤:EVONIK−DEGUSSA社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
液状SBR:サートマー社製のRICON100(スチレン含量:20質量%、ビニル含量:70質量%)
液状IR: クラレ(株)製のクラプレンLIR−30
液状BR:サートマー社製のRICON142
デモールN:花王(株)製の界面活性剤デモールN(β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(陰イオン性界面活性剤))
ニューコールNT−15:日本乳化剤(株)製のニューコールNT−15(非イオン性ポリオキシエチレンアルキルエーテル型の界面活性剤)
【0089】
(製造例1)
(WMB(1)の調製)
(充填剤分散液の調製)
ローター径30mmのコロイドミルに脱イオン水1900gと、シリカ(1)100gと、シランカップリング剤8.3gとを投入し、ローター・ステーター間隔1mm、回転数2000rpmで10分間撹拌した。次いで、デモールNを0.05質量%の濃度となるように加え、圧力式ホモジナイザーを用いて3回循環させ、充填剤分散液を調製した。
【0090】
(液状ジエン系重合体エマルジョンの調製)
液状SBR100gを50℃まで加熱した後、5質量%のニューコールNT−15水溶液300gを加え、撹拌して液状ジエン系重合体エマルジョン(水中油滴型エマルジョン)を調製した。
【0091】
(ゴムラテックス、充填剤分散液、液状ジエン系重合体エマルジョンの混合、凝固、乾燥)
ゴム成分:充填剤成分:液状ジエン系重合体成分の固形分比(質量比)が100:60:50となるように、ゴムラテックス(SBRラテックス)、充填剤分散液、液状ジエン系重合体エマルジョンを混合し、溶液が均一になった後、撹拌を続けながら硫酸を添加し、pH5に調整して凝固した。得られた固形物をろ過してゴム分を回収し、洗浄後の液体(洗浄水)がpH7になるまで純水でゴム分を洗浄し、乾燥し、WMB(1)を得た。
【0092】
(製造例2)
(WMB(2)の調製)
液状SBRを液状IRに変更した以外は製造例1と同様の条件で、WMB(2)を得た。
【0093】
(製造例3)
(WMB(3)の調製)
液状SBRを液状BRに変更した以外は製造例1と同様の条件で、WMB(3)を得た。
【0094】
(製造例4)
(WMB(4)の調製)
シリカ(1)をシリカ(2)に変更した点、及び、ゴム成分:充填剤成分:液状ジエン系重合体成分の固形分比(質量比)が100:70:55となるように変更した点以外は製造例1と同様の条件で、WMB(4)を得た。
【0095】
(製造例5)
(WMB(5)の調製)
液状SBRを液状IRに変更した以外は製造例4と同様の条件で、WMB(5)を得た。
【0096】
(製造例6)
(WMB(6)の調製)
液状SBRを液状BRに変更した以外は製造例4と同様の条件で、WMB(6)を得た。
【0097】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol9548(乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含量:35質量%、ビニル含量:18質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
BR:宇部興産(株)製のBR150B
シリカ(1):EVONIK−DEGUSSA社製のULTRASIL VN3
シリカ(2):Rhodia社製のPremium200MP
シランカップリング剤:EVONIK−DEGUSSA社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
液状SBR:サートマー社製のRICON100
液状IR:クラレ(株)製のクラプレンLIR−30
液状BR:サートマー社製のRICON142
プロセスオイル:出光興産(株)製ダイアナプロセスAH−24
レジン:三井石油化学(株)製ハイレッツG100X
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
架橋剤(1):ランクセス社製のバルクレンVP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
架橋剤(2):川口化学工業(株)製のアクター2OS4(ポリ−3,6−ジオキサオクタン−テトラスルフィド)
[式:−(R−S− (式中、R=−(CH−CH−O)−CH−CH−、m=2、x=4、n=200)]
架橋剤(3):フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物)
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0098】
なお、製造例1〜6により得られたWMB(1)〜(6)の組成は、以下の通りである。
WMB(1):SBR(固形分)100質量部、シリカ(1)60質量部、液状SBR50質量部、シランカップリング剤5質量部
WMB(2):SBR(固形分)100質量部、シリカ(1)60質量部、液状IR50質量部、シランカップリング剤5質量部
WMB(3):SBR(固形分)100質量部、シリカ(1)60質量部、液状BR50質量部、シランカップリング剤5質量部
WMB(4):SBR(固形分)100質量部、シリカ(2)70質量部、液状SBR55質量部、シランカップリング剤5.8質量部
WMB(5):SBR(固形分)100質量部、シリカ(2)70質量部、液状IR55質量部、シランカップリング剤5.8質量部
WMB(6):SBR(固形分)100質量部、シリカ(2)70質量部、液状BR55質量部、シランカップリング剤5.8質量部
【0099】
実施例及び比較例
表2〜4に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤及び架橋剤以外の材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤及び架橋剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
【0100】
得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、試験用タイヤ(サイズ195/65R15)を製造した。
【0101】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表2〜4に示す。
【0102】
(ウェットグリップ性能)
試験用タイヤを用いて、ウェット路面のテストコースにて10周の実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどウェット路面におけるグリップ性能が高いことを示す。
【0103】
(転がり抵抗)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で各配合(加硫物)の損失正接(tanδ)を測定し、比較例1の損失正接tanδを100として、下記計算式により指数表示した(転がり抵抗指数)。指数が大きいほど転がり抵抗特性が優れる。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(実施例、比較例のtanδ)×100
【0104】
(耐摩耗性)
ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下でランボーン摩耗量を測定した。更に、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1のランボーン摩耗指数を100とし、下記計算式により、各配合(加硫物)の容積損失量を指数表示した。なお、ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(実施例、比較例の容積損失量)×100
【0105】
(グリップ持続性)
上記試験用タイヤをドライ路面のテストコースにて10周の実車走行を行い、操舵時のコントロールの安定性について、2〜4周目の性能と8〜10周目の性能の変化代をテストドラバーが評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどドライ路面でのグリップ持続性が高いことを示す。
【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるWMBを使用した実施例は、比較例に比べ、グリップ性能、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できた。また、WMBと特定の架橋剤とを併用した実施例では、これらの性能がより高い次元で得られ、グリップ持続性も改善できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックスと充填剤分散液と液状ジエン系重合体エマルジョンとを混合して得られるウェットマスターバッチを含むトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ウェットマスターバッチにおいて、前記充填剤分散液が充填剤を水性媒体中に分散させたものであり、前記液状ジエン系重合体エマルジョンが界面活性剤を用いて液状ジエン系重合体を乳化させた水中油滴型エマルジョンである請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ウェットマスターバッチが、ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対して、前記液状ジエン系重合体を10〜100質量部、前記充填剤を40〜150質量部含む請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ウェットマスターバッチにおいて、前記液状ジエン系重合体が液状スチレンブタジエン共重合体、液状ブタジエン重合体及び液状イソプレン重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ウェットマスターバッチにおいて、前記ゴムラテックスがスチレンブタジエンゴムラテックスである請求項1〜4のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ウェットマスターバッチにおいて、前記充填剤がシリカである請求項1〜5のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記ウェットマスターバッチにおいて、前記液状ジエン系重合体の重量平均分子量が1000〜60000である請求項1〜6のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
下記式(1)で表される化合物1、下記式(2)で表される構造を有する化合物2、下記式(3)で表される化合物3、及び該化合物3の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1〜7のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
−S−S−(CH−S−S−R (1)
(式(1)中、pは2〜12の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
−(R−S− (2)
(式(2)中、Rは−(CH−CH−O)−CH−CH−を表す。mは2〜5の整数を表す。xは2〜6の整数を表す。nは10〜400の整数を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (3)
(式(3)中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−102238(P2012−102238A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252045(P2010−252045)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】