説明

トレハロース含有シラップ

【課題】 室温下で難晶出性乃至非晶出性であって、かつ、微生物汚染を受けにくい安定なトレハロース高含有シラップとその用途を確立する。
【解決手段】 α,α−トレハロースを、室温下におけるα,α−トレハロースの水分当たりの溶解度量を越えて、その溶解度量に対応する温度において溶解含有するシラップであって、シラップ当たりα,α−トレハロースを18.5乃至25.0w/w%溶解含有するとともに、他の糖質をトレハロース量以上の量を溶解含有している水分25乃至35w/w%のα,α−トレハロース含有シラップ、これを含有せしめた飲食物及びその製造方法を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレハロース含量をできるだけ高めた安定なシラップに関し、詳細には、α,α−トレハロースを、室温下におけるα,α−トレハロースの水分当たりの溶解度量を越えて、その溶解度量に対応する温度において溶解含有するシラップであって、シラップ当たりα,α−トレハロースを18.5乃至25.0w/w%溶解含有するとともに、他の糖質をトレハロース量以上の量を溶解含有している水分25乃至35w/w%のα,α−トレハロース含有シラップ、これを含有せしめた飲食物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレハロース(α,α−トレハロース)は、グルコースを構成糖とする非還元性糖質として古くから知られており、その存在は、非特許文献1及び非特許文献2などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースのような非還元性糖質は、アミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、含アミノ酸物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
【0003】
トレハロースの製造方法としては、例えば、特許文献1で報告されている微生物菌体を用いる方法や、特許文献2で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合せでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物菌体を用いる方法は、該菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当たり15w/w%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、w/w%を単に%と略称する。)未満と低く、その上、これを抽出、精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコース−1リン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、両酵素の反応系が可逆反応で目的物の生成率が低く、更には、両酵素の反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
【0004】
これに関係して、非特許文献3の「澱粉利用開発の現状と課題」の「オリゴ糖」の項において、「トレハロースについては著しく広い応用範囲が考えられるが、本糖の澱粉糖質からの直接糖転移、加水分解反応を用いた酵素的生産は、現在のところ学術的には不可能であるといわれている。」と記載されているように、澱粉を原料とし、酵素反応によってトレハロースを製造することは、従来、学術的にも不可能であると考えられてきた。
【0005】
一方、澱粉を原料として製造させる澱粉部分分解物、例えば、澱粉液化物、各種デキストリン、各種マルトオリゴ糖などは、通常、その分子の末端に還元基を有し還元性を示すことが知られている。このような澱粉部分分解物を、本明細書では、還元性澱粉部分分解物と称する。一般に、還元性澱粉部分分解物は、固形物当たりの還元力の大きさをデキストロース・エクイバレント(Dextrose Equivalent,DE)として表している。この値の大きいものは、通常、分子が小さく低粘度で、甘味が強いものの、反応性が強く、アミノ酸や蛋白質などのアミノ基を持つ物質とアミノカルボニル反応を起こし易く、褐変し、悪臭を発生して、品質を劣化し易い性質のあることが知られている。
【0006】
このような還元性澱粉部分分解物の種々の特性は、DEの大小に依存しており、還元性澱粉部分分解物とDEとの関係はきわめて重要である。従来、当業界では、この関係を断ち切ることは不可能とさえ信じられてきた。
【0007】
これを解決するために、本出願人は、先に、特許文献3で、グルコース重合度3以上から選ばれる1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から分子の末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成する新規非還元性糖質生成酵素(本酵素を、本明細書を通じて、非還元性糖質生成酵素と称する。)を開示し、本非還元性糖質生成酵素を利用して、還元性澱粉部分分解物から分子の末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質並びにこれら糖質からのトレハロース製造方法を確立した。
【0008】
また、本出願人は、特許文献4で、分子の末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外の部分との間の結合を特異的に加水分解する新規トレハロース遊離酵素(本酵素を、本明細書を通じて、トレハロース遊離酵素と称する。)を開示し、前述の非還元性糖質生成酵素と本トレハロース遊離酵素とを併用して還元性澱粉部分分解物から比較的高収量のトレハロースの製造方法を確立した。更に、本出願人は、特許文献5でマルトースをトレハロースに直接変換するマルトース・トレハロース変換酵素を開示し、マルトースから又は還元性澱粉部分分解物から調製したマルトースから比較的高収量のトレハロースの製造方法を確立した。
【0009】
その後、トレハロースの用途を種々検討している過程で、トレハロース含水結晶、トレハロース無水結晶などの結晶性粉末製品だけでなく、タンク貯蔵、ポンプ輸送、タンクローリー輸送が可能で、取扱いに便利なトレハロース高含有シラップの必要性の高いことが判明した。しかしながら、トレハロースは、水に対する溶解度が比較的低く、飽和に達しない程度の溶液は濃度も低く、容易に微生物が繁殖して汚染を受けることが判明し、また、逆に、トレハロースの過飽和溶液は室温下できわめて不安定で容易にトレハロース含水結晶の析出を起こし、沈澱を生じてシラップの特長である均質流動性を失い易く、タンク貯蔵、ポンプ輸送などに重大な支障をきたすことが判明した。そこで、トレハロース含量をできるだけ高めた安定なシラップの確立が望まれる。
【0010】
【特許文献1】特開昭50−154485号公報
【特許文献2】特開昭58−216695号公報
【特許文献3】特願平5−349216号明細書
【特許文献4】特願平6−79291号明細書
【特許文献5】特願平6−144092号明細書
【非特許文献1】『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Ad vances in Carbohydrate Chemistry)』、第18 巻、201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国)
【非特許文献2】『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー (Applied and Environmental Microbiolog y)』、第56巻、3213乃至3215頁(1990年)
【非特許文献3】『月刊フードケミカル』、8月号、67乃至72頁(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、トレハロース含量をできるだけ高めるとともに、室温下で難晶出性乃至非晶出性であって、かつ、微生物汚染を受けにくい安定なトレハロース高含有シラップとその用途を提供するものであり、更に、トレハロース高含有シラップからのトレハロースの晶出抑制方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するためにトレハロースの晶出抑制方法に着目し、できるだけ高濃度にトレハロースを溶解含有させ、室温下で安定なシラップを確立することを目的に鋭意研究した。その結果、トレハロースを水分当たり溶解度量を越えて溶解含有させるとともに他の糖質を溶解させたシラップが、望ましくは、トレハロースを溶解度量を越えて溶解含有させるとともに、他の糖質をトレハロース量以上の量を溶解含有させたシラップが、更に望ましくは、シラップ当たりトレハロースを18.5乃至25.0%溶解含有するとともに、他の糖質をトレハロース量以上の量を溶解含有している水分25乃至35%のトレハロース高含有シラップが室温下で安定であり、本目的に合致することを見出し本発明を完成した。
【発明の効果】
【0013】
上記から明らかなように、本発明は、室温で難晶出性乃至非晶出性であって、かつ、微生物汚染を受けにくい安定なトレハロース高含有シラップを提供するものであり、本シラップは、従来のトレハロース結晶性粉末製品とは違って、溶解させる操作も不要であり、タンク貯蔵、ポンプ輸送、タンクローリー輸送でき、その取扱いも容易である。また、従来の澱粉糖と比較して、低DE、低粘度、高甘味の全く新しいタイプのシラップであって、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物の製造に有利に利用できる。したがって、本発明の確立は、従来望むべくして得られなかった室温下で安定なトレハロース高含有シラップを提供するものであり、食品、化粧品、医薬品などの関係産業界に与える影響は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明でいう、トレハロースを水分当たり溶解度量を越えて溶解含有しているとともに、他の糖質を溶解含有しているトレハロース高含有シラップとしては、望ましくは、トレハロースがシラップ当たり18.5乃至25.0%の範囲の量で含まれている溶液であって、これに他の糖質をトレハロース量以上共存して溶解含有しており、室温下で難晶出性乃至非晶出性のシラップであればよく、その製造方法は問わない。例えば、予め、水にトレハロースを所定量を加えて加熱溶解させ、次いで、これに他の糖質をトレハロース量以上溶解含有させてもよいし、また、トレハロースを加熱溶解して調製した高濃度溶液と別に調製した他の糖質の高濃度溶液とを目的に適うように混合して製造してもよい。
【0015】
また、本発明で用いるトレハロースもその製造方法は問わない。一般的には、高純度で高価なトレハロース原料を用いるよりもトレハロースとともに他の糖質を随伴している比較的純度の低い安価な原料が有利に用いられる。他の糖質を随伴しているトレハロース原料としては、例えば、本出願人が特許文献3、特許文献4、特願平6−165815号明細書などで開示した還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素やトレハロース遊離酵素を作用させるか、又は、特許文献5で開示したマルトース・トレハロース変換酵素を作用させるなどして得られるトレハロース含有シラップや、それを濃縮、晶出させたトレハロース含水結晶含有マスキットを分蜜して得られる母液などがある。このようなトレハロース含有溶液は、通常、固形物当たり40乃至80%程度含有しており、本発明のシラップ原料として有利に用いられる。
【0016】
他の糖質としては、水に易溶性であって、トレハロースの晶出を抑制しうる糖質が望ましい。一般的には、例えば、グルコース、フラクトース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、マルトテトラオース、マルトペンタオースなどの還元性単糖類やオリゴ糖、更には、ソルビトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、パニトール、ネオトレハロース、蔗糖、ラフィノース、エルロース、ラクトスクロース、α−グリコシルトレハロース、α−グリコシル α−グリコシド、α−グリコシルスクロースなどの非還元性の単糖類やオリゴ糖などが用いられる。また、これら糖質は、トレハロースの晶出抑制剤の有効成分として用いることも有利に実施され、とりわけ、2種以上の還元性及び/又は非還元性の糖質であって、かつ五糖類以下の糖質が好適である。
【0017】
本発明のトレハロース高含有シラップを甘味料として用いる場合には、トレハロースに共存させるトレハロース晶出抑制剤として、五糖類以下、望ましくは四糖類以下の比較的分子量が小さく甘味度の高い糖質を有効成分として用いるのが望ましく、市販の混合糖質含有シラップを用いる場合には、例えば、マルトース高含有シラップ、マルトテトラオース高含有シラップ、パノース高含有シラップ、砂糖結合水飴、ラクトスクロース高含有シラップ、マルチトール高含有シラップなどを用いることが有利に実施できる。また、トレハロースの晶出抑制効果を高めるには、共存する他の糖質をトレハロース量と等量以上、望ましくは1.5倍量以上に高め、その種類を1種よりも2種以上に増すのが望ましい。また、必要ならば、本発明のトレハロース晶出抑制剤とともに、例えば、有機酸、ミネラル、アミノ酸、ペプチドなどの1種又は2種以上を含有させてトレハロースの晶出抑制効果を増強することも随意である。
【0018】
更に、所定量のトレハロースを溶解含有するとともに、他の糖質を溶解含有させた本発明のトレハロース高含有シラップを、直接、澱粉から、又はマルトースから製造することも有利に実施できる。澱粉から直接製造する場合には、例えば、本出願人が、先に、特願平6−165815号明細書で開示した方法に準じて、濃度10%以上の澱粉乳に酸又はα−アミラーゼを作用させてDE15以上の液化溶液とし、これに澱粉枝切酵素、非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素を作用させて、トレハロースを固形物当たり28乃至33%程度生成させ、次いで、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼから選ばれる酵素を1種又は2種以上作用させ、これを常法にしたがって、加熱失活し、活性炭で脱色、イオン交換樹脂(H型、OH型)で脱塩精製し、濃縮して、シラップ当たりトレハロースを18.5乃至25.0%とともに、マルトース、グルコースなどの他の糖質を含有させた水分25乃至35%のトレハロース高含有シラップを採取すればよい。
【0019】
また、マルトースから直接製造する場合には、例えば、本出願人が、先に、特許文献5で開示した方法に準じて、マルトース高含有糖液にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させてトレハロースを固形物当たり、28乃至33%程度生成させ、これを常法にしたがって、精製し濃縮して、シラップ当たりトレハロースを18.5乃至25.0%とともにマルトースなどの他の糖質を含有させた水分25乃至35%のトレハロース高含有シラップを採取すればよい。
【0020】
このようにして得られるトレハロース高含有シラップは、冬場の10℃以下の温度においても難晶出性乃至非晶出性で、取扱い容易であり、従来の澱粉糖と比較して、低DE、望ましくは、DE50未満で、低粘度、高甘味シラップとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種用途に有利に利用できる。本発明のトレハロース高含有シラップは、これを煮詰めれば、トレハロースの晶出も見られず、高品質のハードキャンディーが得られる。また、本発明のトレハロース高含有シラップは、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他の糖の晶出防止性、難醗酵性、糊化澱粉の老化防止性などの性質も具備している。
【0021】
また、本発明のトレハロース高含有シラップは、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、飲食物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0022】
本発明のトレハロース高含有シラップは、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メープルシュガー、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0023】
また、必要ならば、本発明のトレハロース高含有シラップをトレハロース含水結晶と混合して、トレハロース含水結晶含有製品の品質を向上させることも有利に実施できる。例えば、トレハロース含水結晶を含有するアイシング、ソフトキャンディー、ボンボンなどの製品を製造する場合には、トレハロース含水結晶に対して、本発明のトレハロース高含有シラップを、固形物当り、等量未満、望ましくは、50%未満使用して、トレハロース含水結晶含有製品に適度の保湿性、成形性、結着性などを付与し、製造直後の高い品質を長期間維持させることができる。
【0024】
また、本発明のトレハロース高含有シラップの甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0025】
例えば、アミノ酸、ペプチド類、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、核酸系調味料、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシラップ、コーヒーシラップなど各種調味料として有利に使用できる。
【0026】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシラップ漬、氷蜜などのシラップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シラップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、コーヒー、紅茶、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食物への甘味付けに、呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0027】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤などの嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、さらには品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。
【0028】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適用できる。例えば、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ローヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の液状、ペースト状又は固状の健康食品や医薬品などに容易に製造できることとなる。
【0029】
以上述べたような各種組成物に、本発明のトレハロース高含有シラップを含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常0.5%以上、望ましくは1%以上含有せしめるのが好適である。
【0030】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
<実験1>
〈トレハロースの水に対する溶解度に与える環境温度の影響〉
室温環境下での水に対するトレハロースの溶解度を調べた。即ち、ガラス製ビーカーに水10重量部、及びトレハロース含水結晶20重量部を入れ、これを攪拌混合しつつ、温度10℃、15℃、20℃、25℃、30℃及び40℃の恒温室に24時間保ち、次いで濾過し、濾液中のトレハロース濃度を測定し、各温度での水100gに対するトレハロース(無水物としての)溶解度を求めた。結果は表1にまとめた。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、トレハロースの水に対する溶解度は比較的低く、室温下で晶出し易い糖質であることが判明した。
【0034】
<実験2>
〈室温環境下でのトレハロース晶出抑制効果に与える還元性糖質共存の影響〉
トレハロースを水に対して15℃での飽和量に相当する量を加熱溶解し、これに他の糖質として還元性糖質を溶解含有させて、比較的低温に放置し、トレハロースの晶出抑制効果を調べた。即ち、実験1の結果から、15℃での水30重量部に対するトレハロースの飽和量は18.5重量部となり、この関係を利用して、試験溶液組成を、表2に示すように、水30重量部、トレハロース18.5重量部及び他の糖質としてグルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースなどを各種重量部になるようにガラス製ビーカーに加熱溶解させ、これをそれぞれ5℃、10℃、15℃の恒温室に一週間放置し、トレハロースの晶出の有無を肉眼観察し、トレハロースの晶出抑制効果を判定した。結果は表2にまとめた。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から明らかなように、トレハロースを溶解度量を越えてシラップ当たり18.5%溶解含有させた場合のトレハロースの晶出は、還元性糖質の共存、とりわけ、トレハロース量と等量以上、望ましくはトレハロース量の1.5倍量以上の還元性糖質を溶解含有させることによって抑制されることが判明し、また、その抑制作用は還元性糖質2種以上を溶解含有させることにより増強され、5℃においても晶出の見られないことが判明した。
【0037】
<実験3>
〈室温環境下でのトレハロース晶出抑制効果に与える非還元性糖質共存の影響〉
トレハロースを水に対して25℃での飽和量に相当する量を加熱溶解して、これに他の非還元性糖質を溶解含有させて、比較的低温に放置し、トレハロースの晶出抑制効果を調べた。即ち、実験1の結果から、25℃での水30重量部に対するトレハロースの飽和量は23.2重量部となり、この関係を利用して、試験溶液の組成を、表3に示すように、水30重量部、トレハロース23.2重量部及び他の非還元性糖質としてソルビトール、マルチトール、マルトトリイトール、蔗糖などを各種重量部になるようにガラス製ビーカーに加熱溶解させ、これを10℃、20℃、25℃の恒温室に一週間放置し、トレハロースの晶出の有無を肉眼観察し、トレハロースの晶出抑制効果を判定した。結果は表3にまとめた。
【0038】
【表3】

【0039】
表3の結果から明らかなように、トレハロースを溶解度量を越えてシラップ当たり23.2%溶解含有させた場合のトレハロースの晶出は、他の非還元性糖質の共存、とりわけ、トレハロース量以上の他の非還元性糖質を溶解含有させることによって抑制されることが判明し、また、その抑制作用は他の非還元性糖質2種以上を溶解含有させることにより増強され、10℃においても晶出の見られないことが判明した。
【0040】
<実験4>
〈室温環境下でのトレハロース高含有シラップの微生物汚染に与える水分の影響〉
トレハロース水溶液及びトレハロースと他の糖質とを含有するトレハロース高含有シラップを用いて、微生物汚染とトレハロースの晶出に与える水分の影響を調べた。即ち、試験溶液の組成は、表4に示すように、水の各種重量部に対してトレハロース23.2重量部になるように溶解させたトレハロース水溶液、又は水の各種重量部に対してトレハロース23.2重量部、グルコース10重量部、マルトース16.8重量部、マルチトール10重量部及び蔗糖10重量部になるように加熱溶解させたトレハロース高含有シラップとし、これらをそれぞれガラス製ビーカーに入れ、15℃の室内に2ヶ月間放置して、シラップ表面及び内部での微生物繁殖による汚染状態を肉眼観察し、併せてトレハロースの晶出の有無を肉眼観察した。結果は表4にまとめた。
【0041】
【表4】

【0042】
表4の結果から明らかなように本発明のトレハロース高含有シラップは、シラップ当たり水分25乃至35%で微生物汚染を受けず、トレハロース25%以下で晶出も起こらず、室温で安定なシラップであることが判明した。
【0043】
以下、本発明の若干の実施例を述べる。実施例1乃至10で本発明のトレハロース高含有シラップを、実施例11乃至27で該シラップを用いる組成物を述べる。
【実施例1】
【0044】
トレハロースを水に濃度約50%になるように加熱溶解した溶液1重量部に、トレハロース晶出抑制剤としてDE43の酸糖化水飴(水分約20%)1.5重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約20%とともに他の糖質を含有する水分約32%、DE約30のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例2】
【0045】
とうもろこし澱粉を濃度30%の澱粉乳とし、これにα−アミラーゼを作用させて、DE4の液化溶液を得、次いで、特許文献4で開示した非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり5単位及びトレハロース遊離酵素を澱粉グラム当たり10単位及びイソアミラーゼを澱粉グラム当たり500単位加え、pH6.0、温度40℃で48時間反応させた。本反応液を加熱して酵素を失活させた後、常法にしたがって、脱色、脱塩して精製し、濃縮して濃度約55%のシラップを得た。本シラップは、固形物当たりトレハロースを約76%含有していた。本シラップ1重量部に、トレハロース晶出抑制剤としてマルトース高含有シラップ(株式会社林原商事販売、登録商標『マルトラップ』、水分約20%)1重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の糖質を含有する水分約33%、DE約29のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例3】
【0046】
実施例2の方法で得られたトレハロース含量約76%、濃度約55%のシラップを更に濃縮して濃度約75%にして助晶缶にとり、これに種晶としてトレハロース含水結晶1%を加えて攪拌しつつ徐冷し、得られるマスキットを分蜜し、冷水でスプレー洗浄して高純度トレハロース含水結晶と母液とを採取した。本母液は、固形物当たりトレハロースを約46%含有し、水分約32%であった。本母液2重量部に、トレハロース晶出抑制剤としてマルトテトラオース高含有シラップ(株式会社林原商事販売、登録商標『テトラップ』、水分約28%)1重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の糖質を含有する水分約31%、DE約27のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例4】
【0047】
実施例3の方法で得た固形物当たりトレハロースを約46%含有している水分約32%の母液2重量部に、トレハロース晶出抑制剤としてパノース高含有シラップ(株式会社林原商事販売、登録商標『パノラップ』、水分約25%)1重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の糖質を含有する水分約30%、DE約37のトレハロース高含有水飴を製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易で、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、更には、低う蝕性甘味料、ビフィズス菌増殖促進糖質、カルシウム吸収促進糖質などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例5】
【0048】
実施例3の方法で得た固形物当たりトレハロースを約46%含有している水分約32%の母液2重量部に、トレハロース晶出抑制剤として砂糖結合水飴(株式会社林原商事販売、登録商標『カップリングシュガー』、水分約25%)1重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の糖質を含有する水分約30%、DE約24のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易で、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、更には低う蝕性甘味料などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例6】
【0049】
実施例3の方法で得た固形物当たりトレハロースを約46%含有している水分約32%の母液2重量部に、トレハロース晶出抑制剤としてラクトスクロース高含有シラップ(株式会社林原商事販売、登録商標『乳果オリゴ』、水分約28%)1重量部を均一に混合して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の糖質を含有する水分約31%、DE約27のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、更には、ビフィズス菌増殖促進糖質、カルシウム吸収促進糖質などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例7】
【0050】
実施例2の方法で得たトレハロース高含有シラップをオートクレーブに入れ、ラネーニッケル10%を添加し、攪拌しながら温度を90乃至120℃に上げ、水素圧を20乃至120kg/cm2に上げて水素添加を完了させた後、ラネーニッケルを除去し、次いで、常法にしたがって、脱色、脱塩して精製し、濃縮して、シラップ当たりトレハロース約21%とともに他の非還元性糖質を含有する水分約30%、DE1.0未満のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、実質的に還元性を示さず、きわめて安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、更には、低う蝕性甘味料、低カロリー甘味料などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例8】
【0051】
とうもろこし澱粉を濃度30%の澱粉乳とし、これにα−アミラーゼを作用させて、DE15の液化溶液を得、次いで、特許文献4で開示した非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり5単位及びトレハロース遊離酵素を澱粉グラム当たり10単位及びイソアミラーゼを澱粉グラム当たり50単位加え、pH6.0、温度40℃で24時間反応させ、次いで、β−アミラーゼを澱粉グラム当たり10単位加えて10時間反応させた。本反応液を加熱して酵素を失活させた後、常法にしたがって、脱色、脱塩して精製し、濃縮して、シラップ当たりトレハロース約22%とともに他の糖質を含有する水分約30%、DE約38のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例9】
【0052】
マルトース高含有シラップ(株式会社林原商事販売、登録商標『マルスター』)に水を加えて濃度約40%溶液とし、これに特許文献5で開示したマルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加え、35℃、pH7.0で16時間反応させた後、常法にしたがって、加熱失活し脱色、脱塩精製し濃縮して、シラップ当たりトレハロース約20%とともに他の糖質を含有する水分約30%、DE42のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、室温で安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例10】
【0053】
実施例9の方法で得たトレハロース高含有シラップを、実施例7の方法で水素添加し、精製、濃縮して、シラップ当たりトレハロース約20%とともに他の非還元性糖質を含有する水分約30%、DE1.0未満のトレハロース高含有シラップを製造した。本品は、実質的に還元性を示さず、きわめて安定、取扱い容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして、更には、低う蝕性甘味料、低カロリー甘味料などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例11】
【0054】
〈乳酸菌飲料〉
脱脂粉乳175重量部、実施例6の方法で得たトレハロース高含有シラップ150重量部を水1,200重量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法にしたがって、乳酸菌のスターターを30重量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
【実施例12】
【0055】
<コーヒー>
焙煎したコーヒー豆約100重量部粉砕し、これを熱水約1,000重量部で抽出し、抽出液約860重量部を得た。本液約450重量部に実施例7の方法で得たトレハロース高含有シラップを約150重量部及び適量の重曹を含む水約400重量部を均一に混合してpH約7のコーヒーを調製し、次いで、これを常法にしたがって、缶に充填し、120℃、30分間加熱滅菌して缶入りコーヒーを製造した。本品は、香り、味とも良好な高品質のコーヒーである。また、本品を自動販売機に入れ、60℃で1ヶ月間保持した後も、その良好な風味をよく維持していた。また、本品は、夏場向けに冷却して用いても、香り、味とも良好な高品質のコーヒーである。
【実施例13】
【0056】
<ハードキャンディー>
実施例6の方法で得たトレハロース高含有シラップ100重量部を減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸0.5重量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法にしたがって成型し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、糖の晶出、変形も起こらない高品質のハードキャンディーである。
【実施例14】
【0057】
<あん>
原料あずき10重量部に、常法にしたがって、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21重量部を得た。この生あんに、蔗糖14重量部、実施例7の方法で得たトレハロース高含有シラップ5重量部及び水4重量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35重量部得た。本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として好適である。
【実施例15】
【0058】
<いちごジャム>
生いちご15重量部、蔗糖6重量部、マルトース2重量部、実施例1の方法で得たトレハロース高含有シラップ4重量部、ペクチン0.05重量部、クエン酸0.01重量部をなべで煮詰めてジャムを製造し、ビン詰めして製品とした。本品は、風味、色調とも良好で、高品質のジャムである。
【実施例16】
【0059】
<パン>
小麦粉100重量部、イースト2重量部、砂糖5重量部、実施例8の方法で得たトレハロース高含有シラップ2重量部及び無機フード0.1重量部を、常法にしたがって、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。本品は、色相、すだちともに良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【実施例17】
【0060】
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100重量部、実施例9の方法で得たトレハロース高含有シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部及び食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1,000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。また、本品は糊化澱粉の老化が抑制され、その賞味期間を大幅に延長できる。
【実施例18】
【0061】
<求肥>
もち粉4重量部を水6重量部で溶いて木枠に濡れ布巾を敷いたものに流し込み、これを100℃で20分間蒸した後、これに実施例3の方法で得たトレハロース高含有シラップ6重量部及び砂糖2重量部を加えて充分に捏ねた後に成形し、求肥を得た。本品は、風味良好である。また、本品は糊化澱粉の老化が抑制され、その賞味期間を大幅に延長できる。
【実施例19】
【0062】
<アイシング>
実施例2の方法で得たトレハロース高含有シラップ80重量部に乳化剤(シュガーエステル)1.2重量部を加熱混合し、次いで、トレハロース含水結晶(株式会社林原商事販
売、商品名「トレハオース」)107重量部を混合し、更に45℃に保ちながら、油脂7.5重量部を混合してアイシングを製造した。本品は、トレハロース微結晶を含有し、成
形性良好でべたつきもなく、経日変化の少ないアイシングである。
【実施例20】
【0063】
<ソフトキャンディー>
実施例4の方法で得たトレハロース高含有水飴60重量部とトレハロース含水結晶(商品名「トレハオース」)180重量部とを混合して加熱濃縮し、次いで20%プルラン溶液15重量部及び10%寒天溶液60重量部を加えて同様に加熱濃縮し、更に、乳クリーム70重量部、脱脂粉乳120重量部、シュガーエステル1.5重量部及びマーガリン4
0重量部を加え、Bx85になるまで加熱濃縮した後、常法に従って成型し、ソフトキャンディーを得た。本品は、トレハロースの微結晶を含有し、ミルク風味豊かで、歯つきのないソフトキャンディーである。また、砂糖を利用していないことより、虫歯の懸念のない健康キャンディーである。
【実施例21】
【0064】
<口中清涼キャンディー>
実施例3の方法で得たトレハロース高含有シラップ15重量部、トレハロース含水結晶(商品名「トレハオース」)285重量部、プルラン5重量部及び水100重量部を混合し、加熱して112℃に煮詰め、これに15%l−メントールアルコール溶液4重量部を混合した後、常法に従って成型し、口中清涼キャンディーを得た。本品は、トレハロースの微結晶を含有し、経時変化の少ない口中清涼キャンディーである。
【実施例22】
【0065】
<ボンボン>
実施例7の方法で得たトレハロース高含有シラップ5重量部、トレハロース含水結晶(商品名「トレハオース」)300重量部及び水115重量部を混合し、加熱してBx70まで煮詰め、品温を80℃まで冷却し、ブランディー40重量部を混合した後、常法に従って成型してボンボンを得た。本品は、トレハロースの微結晶を含有し、ブランディー風味豊かで、経時変化の少ない高品質のボンボンである。
【実施例23】
【0066】
<ハム>
豚もも肉1,000重量部に食塩15重量部及び硝酸カリウム3重量部を均一にすり込んで、冷室に一昼夜堆積する。これを水440重量部、食塩100重量部、硝酸カリウム3重量部、実施例10の方法で得たトレハロース高含有シラップ60重量部及び香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法にしたがい、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【実施例24】
【0067】
<佃煮>
常法にしたがって、砂取り、酸処理して角切りした昆布250重量部に醤油212重量部、アミノ酸液318重量部及び実施例4の方法で得たトレハロース高含有シラップ70重量部及び蔗糖20重量部を加えて煮込みつつ、更にグルタミン酸ソーダ12重量部、カラメル8重量部を加えて炊き上げ、昆布の佃煮を得た。本品は低う蝕性の佃煮である。また、味、香りだけでなく、色、艶ともに食欲をそそる佃煮であった。
【実施例25】
【0068】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、実施例5の方法で得たトレハロース高含有シラップ2重量部、α−グリコシル ルチン1重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリル10重量部及び防腐剤の適量を、常法にしたがって加熱溶解し、これにL−乳酸2重量部、1,3−ブチレングリコール5重量部及び精製水66重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて攪拌混合しクリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例26】
【0069】
<練歯磨>
配合
第2リン酸カルシウム 45.0重量部
プルラン 2.95重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5重量部
グリセリン 20.0重量部
ポリオキシエチレンソルビタンラウレート 0.5重量部
防腐剤 0.05重量部
実施例10の方法で得たトレハロース高含有シラップ 12.0重量部
マルチトール 5.0重量部
水 13.0重量部
上記の材料を常法にしたがって混合し、練歯磨を得た。本品は、適度の甘味を有しており、特に子供用練歯磨として好適である。
【実施例27】
【0070】
<外傷治療用膏薬>
実施例2の方法で製造したトレハロース高含有シラップ200重量部及びマルトース360重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に14w/v%プルラン水溶液140重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロース及びマルトースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,α−トレハロースを、水分当たりの溶解度量を超えて溶解含有しているとともに、他の糖質を溶解含有している難晶出性乃至非晶出性のα,α−トレハロース含有シラップ。
【請求項2】
α,α−トレハロースを、水分当たりの溶解度量を超えて溶解含有せしめるとともに、これに他の糖質を、当該α,α−トレハロース量以上の量を溶解含有させることを特徴とするα,α−トレハロース含有シラップの晶出抑制方法。

【公開番号】特開2007−175063(P2007−175063A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70325(P2007−70325)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【分割の表示】特願2006−211961(P2006−211961)の分割
【原出願日】平成8年4月10日(1996.4.10)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】