説明

トレーサーガスの放散方法及び放散容器

【課題】 本発明は、トレーサーガスの放散速度を制御することができるとともに、コストをおさえることができるトレーサーガスの放散方法及び放散容器を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るトレーサーガスの放散方法の代表的な構成は、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物Aを収容した容器本体2の内部にあるトレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる透過膜3で隔て、透過膜3の容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整し、トレーサーガスの放散速度を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収容した揮発性有機化合物を揮発させてトレーサーガスとし、外部へ放散させる放散方法及び放散容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の新築住宅では、省エネルギー政策のために高断熱・高気密化が推し進められている。その結果、換気不足によるシックハウスなどの弊害が社会問題となり、平成14年の改正建築基準法により、ホルムアルデヒドやトルエンなどの有害物質や、湿気、ホコリ等を排出し、適切な室内環境を維持するために二十四時間、計画的に家全体を毎時0.5回の換気するシステムの設置が義務付けられることになった。
【0003】
しかしながら、実際の換気は、機械システム仕様だけで決まるものではなく、建築物の構造、立地条件、気象条件等によって、大きく変動する。したがって、実態換気として、建築設計時の換気量が得られているかどうかを評価する方法が求められている。
【0004】
換気量を実測する手法として、日本工業規格として開示されているJIS 1406「屋内換気量測定法」がある。この手法は、炭酸ガスをトレーサーガスとして用い、濃度減衰法により、換気量を求める手法である。
【0005】
しかしながら、測定時の測定者の呼気による炭酸ガスの影響を受けることや1時間程度の短時間平均による換気量であり、昼夜の温度差による影響等を把握するには、不十分であった。
【0006】
長時間平均の換気量を測定する手法として、六フッ化イオウ(SF6)や亜酸化窒素(N2O)をトレーサーガスに用い、一定濃度法による測定手法がある。この手法は、自然界に存在しないガスを用いることで、精度の高い手法として学術的に用いられてきている。
【0007】
しかし、その測定には特殊ボンベや高価で専門知識を必要とする測定機器を持ち込む必要があり、測定の利便性に欠いていた。また、上記2つの測定手法は、1種類のトレーサーガスを用いるため、単一空間とみなせる建築物の換気量測定にしか適用できなかった。
【0008】
そこで、複数のトレーサーガスを同時に使用でき、かつ特殊なボンベを必要としないより簡便な測定手法として、PFT法が注目されている。このPFT法は、パーフルオロカーボン(全フッ素化化合物)をトレーサーガスとして用い、沸点が室温以上の揮発性化合物を用いることで、液体で搬送・設置が可能となる。
【0009】
ここで、PFT法で使用するトレーサーガスを放散させる手法として、次のような開示された手法がある。トレーサーガスを透過膜、細管の順に通過させ、細管の形状でトレーサーガスの放散速度を制御するものや、細管にコントロール部材を挿入してトレーサーガスの放散速度を制御するものがある(特許文献1参照)。
【0010】
また、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を収容した容器本体の内部と外部を、前記トレーサーガスを容器本体外部へ透過させる透過膜で隔て、透過膜の膜厚を調整してトレーサーガスの放散速度を制御するものがある(非特許文献1参照)。
【0011】
また、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を透過膜となる材料でできたパーミエーションチューブに充填し、前記パーミエーションチューブの長さを調整してトレーサーガスの放散速度を制御するものがある(非特許文献2)。
【0012】
【特許文献1】国際公開第95/22747号パンフレット
【非特許文献1】「日本建築学会学術講演梗概集」、2003年9月、p. 887-888
【非特許文献2】“ガステック 校正用ガス調製装置 パーミエーションチューブ”、[online]、ジーエルサイエンス株式会社 総合カタログ、[平成17年3月11日検索]、インターネット〈URL:http://www.gls.co.jp/catalog/catalog/catalog-28/01/101.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、特殊容器を用いる必要があり、コストがかかるという問題があった。また、放散速度をコントロールする方法として、キャピラリーのサイズを変更する記載があるが、それに伴い容器サイズを変更する必要があり、さらにコストがかかるという問題がある。
【0014】
また、非特許文献1に記載の技術では、膜厚を3mmを越える場合、そのような膜厚の透過膜を固定するための容器は規格品になく、コストがかかってしまうという問題があった。
【0015】
また、非特許文献2に記載の技術では、容器そのものがトレーサーガスを透過させるための膜であり、取り扱い時に傷、汚れ等が付かないように注意する必要があり、直接手で扱うことも手の油が付くことによる放散速度への影響があり、利便性に欠くという問題があった。さらに、容器そのものが特殊であるため、放散速度を調整するために容器であるパーミエーションチューブのサイズを変更するためには、専門の業者へ依頼する必要があり、コストがかかってしまうという問題があった。
【0016】
そこで本発明は、トレーサーガスの放散速度を制御することができるとともに、コストをおさえることができ、測定時の利便性を向上させるトレーサーガスの放散方法及び放散容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明に係るトレーサーガスの放散方法の第1の構成は、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を収容した容器本体の内部にある前記トレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる透過膜で隔て、該透過膜の前記容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整し、前記トレーサーガスの放散速度を制御することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散方法の第2の構成は、前記第1の構成のトレーサーガスの放散方法において、前記容器本体と前記透過膜との間に前記接触面積を調整する絞り部材を設けたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散方法の第3の構成は、前記第1の構成のトレーサーガスの放散方法において、前記容器本体の開口部の開口径を調整することで前記接触面積を調整することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散容器の第1の構成は、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を収容する容器本体と、前記トレーサーガスを容器本体外部へ透過させる透過膜と、を有し、前記透過膜は、前記容器本体内部のトレーサーガスと接する接触面積を調整し、前記トレーサーガスの放散速度を制御したことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散容器の第2の構成は、前記第1の構成のトレーサーガスの放散容器において、前記容器本体の開口部の開口径を調整することで前記接触面積を調整することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散容器の第3の構成は、前記第1の構成のトレーサーガスの放散容器において、前記容器本体と前記透過膜との間に前記接触面積を調整する絞り部材を設けたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散容器の第4の構成は、前記第1〜第4のいずれかの構成のトレーサーガスの放散容器において、該透過膜を前記容器本体に固定し、前記透過膜を透過したトレーサーガスを容器本体外部へ放散する孔を形成したクリンプ式のキャップを有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るトレーサーガスの放散容器の第5の構成は、前記第1〜第5のいずれかの構成のトレーサーガスの放散容器において、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物がパーフルオロカーボン類であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、第1の構成のトレーサーガスの放散方法では、トレーサーガスの放散速度を制御することができるとともに、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0026】
また、第2の構成のトレーサーガスの放散方法では、同じ容器本体や透過膜を用いて、トレーサーガスの放散速度を変えることができ、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0027】
また、第3の構成のトレーサーガスの放散方法では、別部材を用いることなくトレーサーガスの放散速度を変えることができ、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0028】
また、第1の構成のトレーサーガスの放散容器では、トレーサーガスの放散速度を制御することができるとともに、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0029】
また、第2の構成のトレーサーガスの放散容器では、別部材を用いることなくトレーサーガスの放散速度を変えることができ、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0030】
また、第3の構成のトレーサーガスの放散容器では、同じ容器本体や透過膜を用いて、トレーサーガスの放散速度を変えることができ、コストをおさえることができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0031】
また、第4の構成のトレーサーガスの放散容器では、トレーサーガスの漏れを抑制してトレーサーガスの放散速度を高精度に制御することができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【0032】
また、第5の構成のトレーサーガスの放散容器では、パーフルオロカーボン類をトレーサーガスとして用い、沸点が室温以上の揮発性化合物を用いることで、液体で搬送・設置ができ、かつ測定時の利便性の向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[第一実施形態]
本発明に係るトレーサーガスの放散方法及び放散容器の第一実施形態について、図を用いて説明する。図1は本実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。図1に示すように、トレーサーガスの放散容器1は、容器本体2、透過膜3、キャップ4から形成されている。
【0034】
容器本体2は、透明ガラスにて形成されたクリンプ式バイアル瓶(スペルコ製)である。容器本体2は、先端に開口部2aが形成され、開口部2aの周囲に環状凸部2bが形成されている。容器本体2は、内部に揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物Aとして、ヘキサフルオロベンゼン(C6F6)約1mlを収容する。
【0035】
ここで、トレーサーガスとなる揮発性有機化合物Aは、常温で液体であり、揮発性のある有機化合物であれば、特に限定されるものではないが、好ましくはパーフルオロカーボン類(全フッ素化化合物)が用いられる。
【0036】
例えば、ここで用いたヘキサフルオロベンゼン以外に、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフロオロジメチルシクロブタン、パーフルオロジメチルシクロヘキサン、パーフルオロトルエン、パーフルオロメチルシクロペンタン等が挙げられる。
【0037】
透過膜3は、厚さ0.5mm〜2mmで調整可能であり、ここでは、2mm厚の透過膜3を使用した。透過膜の大きさは、環状凸部2bとほぼ同径の円盤状の膜である。透過膜3は、トレーサーガスの飽和蒸気が浸透できる材料であり、トレーサーガスとの接触によって変質のしない材質であれば特に限定されるものではないが、たとえば、シリコンゴム、ポリエチレン、ネオプレンゴム等の高分子材料で形成されており、容器本体2の内部のトレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる。
【0038】
キャップ4は、クリンプ式のアルミ製キャップである。キャップ4は、透過膜3を透過したトレーサーガスを容器本体外部へ放散する直径5.5mmの孔4aを天面に形成している。容器本体2の内部に揮発性有機化合物Aを入れ、環状凸部2b上に透過膜3を載置した状態で、ハンドクリンプ等により環状凸部2bを覆うようにキャップ4の側面を折り曲げることで、透過膜3が容器本体2に固定される。
【0039】
このように形成されたトレーサーガスの放散容器1において、開口部2aの開口径を調整することにより、容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する透過膜3の接触面積を調整する。これにより、トレーサーガスの放散速度を制御することができる。
【0040】
すなわち、放散容器1を用いたトレーサーガスの放散方法は、揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物Aを収容した容器本体2の内部にあるトレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる透過膜3で隔て、透過膜3の容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整し、トレーサーガスの放散速度を制御する。
【0041】
図2は開口部2aの開口径とトレーサーガスの放散速度を比較した図である。図2に示すように、トレーサーガスの飽和蒸気が接する透過膜側の開口径を製品規格種、絞り部材、開口径調整部材(インサートチューブ)を用いて1.5mm〜6mmの範囲で調整した。開口径を調整した放散源を6畳大(天井高2.4m)の室内に設置した。前記室内は、0.5回/hの換気回数で調整し、室温は20〜22℃の範囲で温調した。設置時点を0時間とし、設置後21時間(t1)と92時間(t2)のそれぞれの放散容器の質量を化学天秤にて測定した。この二時点での質量変化を放散時間(t2−t1)で除することで、放散速度を算出した。その結果、トレーサーガスの飽和蒸気が接する透過膜側の開口径を大きくしていくに伴い、線形にトレーサーガスの放散速度も1400μg/hr〜4500μg/hrと増大した。したがって、トレーサーガスの飽和蒸気が接する透過膜側の開口径によって、放散速度を制御できることがわかった。
【0042】
図3(a)は接触面積を小さくした放散容器1の断面図である。図3(b)は接触面積を大きくした放散容器1の断面図である。図3(a)に示すように、開口部2aの開口径(接触面積)を小さくすることで放散速度をおさえることができる。
【0043】
従来は、放散速度をおさえるために透過膜3を厚くしていたが、汎用品バイアル瓶のキャップでは、固定できる膜厚には限界があり、所定の放散速度以下とするためには特注品を用いる必要があった。しかし、本実施形態では、開口部2aの開口径(接触面積)を小さくすることで、膜厚を厚くすることなく、放散速度をおさえることができる。
【0044】
従って、膜厚が2mm以下の汎用品の透過膜3を用いても、放散速度をおさえることができる。そして、所定の膜厚以上の透過膜3を固定するための特注品のキャップ4を用いる必要もなく、汎用品のキャップ4を用いることができる。
【0045】
一方、放散速度を速くする際には、図3(b)に示すように、開口部2aの開口径(接触面積)を大きくする。但、開口径の大きさには限界がある。このため、開口部2aの開口径を大きくするとともに、透過膜3の厚さを薄くすることで、トレーサーガスの放散速度を制御することもできる。
【0046】
このように、開口部2aの開口径(接触面積)と透過膜3の厚さの両方を調整することで、トレーサーガスの放散速度を制御することができる。
【0047】
このように、本発明によれば、トレーサーガスの放散速度を制御することができるとともに、汎用品のバイアル瓶を用いることができ、コストをおさえることができる。また、別部材を用いることなくトレーサーガスの放散速度を変えることができ、コストをおさえることができる。
【0048】
また、測定には特殊ボンベや高価で専門知識を必要とする測定機器を持ち込む必要がなく、測定の利便性を高めることができる。
【0049】
また、放散容器1は、放散速度への影響がある開口部2aと透過膜3を直接手で扱われることがない。このため、手の油が付く等により放散速度が変化することを防止でき、利便性を高めることができる。
【0050】
尚、スクリュー式バイアル瓶を用いたとき、ネジ山と透過膜3との間に隙間ができるため、トレーサーガスがそのすき間を通って放散してしまい、高精度に放散速度を制御することができなかった。これに対し、本発明では、クリンプ式のキャップ4(クリンプ式バイアル瓶)を用い、ハンドクリンプ等の専用治具でかしめて透過膜3を固定することでそのすき間をなくし、トレーサーガスの漏れを抑制してトレーサーガスの放散速度を高精度に制御することができる。さらに、透過膜3の中央からトレーサーガスの飽和蒸気が透過していくため、透過膜3とキャップ4との間を通って(透過膜3を迂回して)トレーサーガスが放散することをさらに抑制することができ、高精度に放散速度を制御することができる。
【0051】
また、このようなトレーサーガスの放散速度を制御することができるトレーサーガスの放散容器1を用いて、室内の換気性能を測ることで、必要な放散速度を容易に実現することができ、精度の高い測定が可能となる。
【0052】
[第二実施形態]
次に本発明に係るトレーサーガスの放散方法及び放散容器の第二実施形態について図を用いて説明する。図4は本実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。上記第一実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図4に示すように、本実施形態のトレーサーガスの放散容器20は、容器本体2と透過膜3との間に接触面積を調整する絞り部材であるアルミ箔21を設けたものである。
【0054】
アルミ箔21は、開口部2aより一回り大きい径であり、環状凸部bの外周径以下の径の円盤状に形成され、中央に孔21aを穿孔している。上記第一実施形態では、容器本体2の開口径の大きさを調整することで、接触面積を調整していた。これに対し、本実施形態では、孔21aの大きさを調整することにより、容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する透過膜3の接触面積を調整する。このように、容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整することで、トレーサーガスの放散速度を制御することができる。
【0055】
容器本体2の内部に揮発性有機化合物Aとして、ヘキサフルオロベンゼン約1mlを入れ、環状凸部2b上にアルミ箔21、透過膜3の順に載置した状態で、ハンドクリンプ等により環状凸部2bを覆うようにキャップ4の側面を折り曲げることで、アルミ箔21、透過膜3が容器本体2に固定される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、アルミ箔21の孔21aの大きさ(接触面積)を変えることで、トレーサーガスの放散速度を変えることができ、同じ規格の容器本体2や透過膜3を用いることでコストをおさえることができる。
【0057】
また、測定には特殊ボンベや高価で専門知識を必要とする測定機器を持ち込む必要がなく、測定の利便性を高めることができる。
【0058】
また、放散容器20は、放散速度への影響がある孔21aと透過膜3を直接手で扱われることがない。このため、手の油が付く等により放散速度が変化することを防止でき、利便性を高めることができる。
【0059】
尚、絞り部材はアルミ板21にトレーサーガスの浸透、透過がないものかつ、トレーサーガスによる変質がないものであれば、特に限定されるものではなく、アルミテープ、アルミ板、テフロン(登録商標)膜、金属蒸着膜等のトレーサーガスの飽和蒸気が透過膜3へ接触することを遮断できるものであればよい。
【0060】
[第三実施形態]
次に本発明に係るトレーサーガスの放散方法及び放散容器の第三実施形態について図を用いて説明する。図5は本実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。上記第二実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
図5に示すように、本実施形態のトレーサーガスの放散容器30は、絞り部材として、上記第二実施形態のアルミ箔21に変えてインサートチューブ31を設けたものである。
【0062】
インサートチューブ31は、一端31aを閉じ、他端31bを開放した筒であり、容器本体2の高さとほぼ同じ長さとなっている。このインサートチューブ31の内部に揮発性有機化合物Aとして、ヘキサフルオロベンゼンを入れ、インサートチューブ31の他端31bを上にして容器本体2の内部に入れる。そして、インサートチューブ31の他端31bと環状凸部2bの上に透過膜3を載置し、キャップ4で透過膜3がその弾性によりインサートチューブ31の他端31bを密封する。
【0063】
従って、インサートチューブ31の孔径を調整することでインサートチューブ31内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する透過膜3の接触面積を調整できる。このように、トレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整することで、トレーサーガスの放散速度を制御することができ、同じ規格の容器本体2や透過膜3を用いることでコストをおさえることができる。
【0064】
また、測定には特殊ボンベや高価で専門知識を必要とする測定機器を持ち込む必要がなく、測定の利便性を高めることができる。
【0065】
また、放散容器30は、放散速度への影響がある31aと透過膜3を直接手で扱われることがない。このため、手の油が付く等により放散速度が変化することを防止でき、利便性を高めることができる。
【0066】
[比較例]
次に、比較例について図を用いて説明する。図6は比較例のトレーサーガスの放散容器の構成図である。
【0067】
図6に示すように、比較例のトレーサーガスの放散容器40は、絞り部材として、上記第二実施形態のアルミ箔21に変えてナフロン(登録商標)膜41を透過膜の下ではなく上に設けたものである。ナフロン(登録商標)膜41は、開口部2aより一回り大きい径であり、環状凸部bの外周径以下の径の円盤状に形成され、中央に孔41aを穿孔している。比較例では、孔41aの大きさを調整することにより、容器本体内部のトレーサーガスが透過膜3から放散するの放散面積を調整したものである。
【0068】
図7はナフロン(登録商標)膜41aの孔径とトレーサーガスの放散速度を比較した図である。図7に示すように、孔径を0.6mm〜4mmと大きくすると、放散速度は、2800μg/hr〜4300μg/hrと増加傾向にあるものの、比例関係にはなく、また調整できる放散速度の範囲も狭い。
【0069】
このように、放散面積と放散速度は、図2に示すような比例関係(接触面積と放散速度の関係)になく、ナフロン(登録商標)膜41aの孔径を調整することで、透過膜3を透過したトレーサーガスの放散面積を調整しても、十分にトレーサーガスの放散速度を制御することができない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の活用例として、トレーサーガスの放散のみならず、様々な気体の放散方法及び放散容器にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第一実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。
【図2】容器本体の開口径とトレーサーガスの放散速度を比較した図である。
【図3】(a)は接触面積を小さくしたトレーサーガスの放散容器の断面図である。(b)は接触面積を大きくしたトレーサーガスの放散容器の断面図である。
【図4】第一実施形態および第二実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。
【図5】第一実施形態および第三実施形態にかかるトレーサーガスの放散容器の構成図である。
【図6】比較例のトレーサーガスの放散容器の構成図である。
【図7】比較例のナフロン(登録商標)膜の孔径とトレーサーガスの放散速度を比較した図である。
【符号の説明】
【0072】
A…揮発性有機化合物、1、20、30…放散容器、2…容器本体、2a…開口部、2b…環状凸部、3…透過膜、4…キャップ、4a…孔、21…アルミ箔(絞り部材に対応)、21a…孔、31…インサートチューブ(絞り部材に対応)、31a…一端、31b…他端、41…ナフロン(登録商標)膜、41a…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を収容した容器本体の内部にある前記トレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる透過膜で隔て、
該透過膜の前記容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整し、前記トレーサーガスの放散速度を制御することを特徴とするトレーサーガスの放散方法。
【請求項2】
前記容器本体の開口部の開口径を調整することで前記接触面積を調整することを特徴とする請求項1に記載のトレーサーガスの放散方法。
【請求項3】
前記容器本体と前記透過膜との間に前記接触面積を調整する絞り部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載のトレーサーガスの放散方法。
【請求項4】
揮発してトレーサーガスとなる揮発性有機化合物を収容する容器本体と、
前記トレーサーガスの飽和蒸気を容器本体外部へ透過させる透過膜と、を有し、
前記透過膜は、前記容器本体内部のトレーサーガスの飽和蒸気と接する接触面積を調整し、前記トレーサーガスの放散速度を制御したことを特徴とするトレーサーガスの放散容器。
【請求項5】
前記容器本体の開口部の開口径を調整することで前記接触面積を調整することを特徴とする請求項4に記載のトレーサーガスの放散容器。
【請求項6】
前記容器本体と前記透過膜との間に前記接触面積を調整する絞り部材を設けたことを特徴とする請求項4に記載のトレーサーガスの放散容器。
【請求項7】
該透過膜を前記容器本体に固定し、前記透過膜を透過したトレーサーガスを容器本体外部へ放散する孔を形成したクリンプ式のキャップを有することを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載のトレーサーガスの放散容器。
【請求項8】
揮発してトレーサーガスとなる該揮発性有機化合物が、パーフルオロカーボン類であることを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載のトレーサーガスの放散容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−349365(P2006−349365A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172414(P2005−172414)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】