説明

トレーシングシステム

【課題】誤作業がなされる前に事前に検出するトレーシングシステムを提供する。
【解決手段】センサユニット10と、センサデータから特徴量を求める特徴量算出手段32と、作業終了毎に第i番目のトリガー信号を生じる信号発生手段20と、第i番目のトリガー信号が出力される毎に、特徴量算出手段32から出力された特徴量に基いて第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段33と、基準状態における特徴量を遷移毎に基準データとして蓄積する基準特徴量蓄積手段34と、信号発生手段20から第i番目のトリガー信号が出力された後に特徴量抽出手段33から出力された特徴量を判定の対象とし基準特徴量蓄積手段34中の第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量と照合し第i番目の作業終了後の作業者の動きに符合するものであるか否かを判定する判定手段35と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し作業が確実に行われているか否かを判定するトレーシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造ラインには、自動車のボディを一定の速度で搬送するための搬送手段が配備されており、さらにボディに取り付ける部品などをボディの近傍で運搬する移動台車が配備されている。この移動台車は、ボディに対して決められた位置関係となるようにボディの搬送と連関して移動するように構成されている。作業者は手持ちの取り付け工具を利用してボディに部品をボルト締めする。そのような取り付け工具に関し、特許文献1には、ネジ締め付け位置を特定できるように構成した締め付け位置検出装置について開示されている。
【0003】
また、本発明者らは、自動車の製造ラインなどでなされる組み付け作業が確実に行われているか否かを判定して、人為的なエラーを防止するトレーシングシステムの開発を行っている。特許文献2には、作業者がマニュアルに沿って作業を行っているか否かを確認するためのトレーシングシステムが開示されている。そのトレーシングシステムでは、地磁気センサや加速度センサなどのセンサを作業者が取り付け、トレースする前に、作業者がセンサを装着した状態で、作業工程別の各工程に基準となる動作を行う。特徴量抽出部がセンサからセンサデータを取得すると、センサデータに基いて特徴を抽出して特徴量を求める。この処理を同一の作業について行っておき、求まった特徴量を標準データとして標準データ蓄積部に蓄積しておく。その後、同一の作業者がセンサを装着して工程に沿って作業を行う。すると、特徴量抽出部が特徴量を求め、参照部がこの求めた特徴量を標準データ蓄積部に蓄積されている標準データと比較して、その結果を判定部に出力する。このシステムでは、センサから出力されたセンサデータに基いて特徴抽出部が特徴量を求め、予め正しい作業を行った場合の標準データと比較して、作業者が行った作業が適切であったか否かを判断する。よって、作業者がマニュアル通りに作業をしているか否かの判断を行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−85390号公報
【特許文献2】特開2009−187527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されたトレーシングシステムにあっては、一連の作業をトレースし終わって、センサデータから特徴量を抽出して、その特徴量の時間的変化により一連の作業がマニュアルどおりに行われているか否かを判断している。よって、一連の作業が完了するか、或いは一連の作業のうち個々の作業を行ったあとでなければその作業が正しいか否かが判断できない。しかも、一連の作業が規定どおりの順になされているか否かという判断も事後的にしかできない。もし各作業が不十分である場合には一連の作業が終了した後に、後で手直しをしなければならず、作業の無駄が生じるばかりか、流れ作業のように複数の作業者が協調して作業を行う必要がある場合には、全体的な作業処理が遅延し全体として作業効率が悪くなる。
【0006】
そこで、本発明は、繰り返し作業がなされている際、誤った作業がなされる前に事前に検出することができるトレーシングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、第1番から第n番までの各作業を繰り返す作業者の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて、センサを内蔵して作業者に装着されるセンサユニットと、センサからの出力に基づいたセンサデータから特徴量を求める特徴量算出手段と、第1番から第n番までの各作業が終了する毎に第i番目(ただし、iは1からnまでの任意の数)のトリガー信号を生じる信号発生手段と、信号発生手段から第i番目のトリガー信号が出力される毎に、特徴量算出手段から出力された特徴量に基いて第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、各作業が終了して次の作業に遷移する期間の基準状態における特徴量を遷移毎に基準データとして蓄積する基準特徴量蓄積手段と、信号発生手段から第i番目のトリガー信号が出力された後に特徴量抽出手段から出力された特徴量を判定の対象とし、基準特徴量蓄積手段に蓄積されている第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量と照合して、第i番目の作業終了後の作業者の動きが第i+1番目の作業と符合するものであるか否かを判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成において、基準特徴量蓄積手段が、第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量について特徴量抽出手段から出力を受けると、基準データのうち第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量のデータを更新する。
【0009】
上記構成において、センサが地磁気センサと加速度センサとを含んでいる。
上記構成において、信号発生手段には、各作業に供される工具類に内蔵されたものが含まれるか、又は、センサユニット内のセンサの一つとして加速度センサが備えられており、かつ信号発生手段には、加速度センサの各成分データが所定の条件を満たさなくなるとトリガー信号を発生するものが含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の作業を繰り返して行う作業者が各作業の終了後、次の作業を適切に行おうとしているか否かを事前に判定することができる。よって、従来のようにもし各作業が不十分又は不適切である場合には一連の作業が終了した後に、後で手直しをしなければならないという作業の無駄が生じなく、流れ作業を円滑に行うことができる。特に、複数の作業者が協調して作業を行う必要がある場合では、特定の者が再度作業を行うことによる遅延が発生することなく、複数の作業者による全体の作業を効率よく行える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るトレーシングシステムのブロック構成図である。
【図2】図1に示すトレーシングシステムを用いてトレースされる繰り返し作業の一例として、自動車のボディへの燃料タンク取付作業を説明するための模式図である。
【図3】図1に示すトレーシングシステムにおいて、特徴量抽出手段による特徴量抽出とトリガー信号との関係を模式的に示す図である。
【図4】図1に示すトレーシングシステムにおいて、特徴量が時系列でどのように変化するかを示す図であり、(a)は正常作業が行われる場合であって、(b)は誤作業が行われる場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
〔システム構成〕
図1は本発明の実施形態に係るトレーシングシステムのブロック構成図である。本発明の実施形態に係るトレーシングシステム1は、図1に示すように、作業者に装着されるセンサユニット10と信号発生手段20とデータ処理装置30とを含んで構成される。以下、各部の構成を順次説明する。
【0014】
〔センサユニット〕
センサユニット10は、センサ部11とデータ処理手段12と送信手段13とを備える。センサユニット10は腕時計タイプで腕に取り付けられたり、腕章内に収納されて取り付けられたり、又は工具に取り付けられたりすることにより、作業者に対して常に同じように装着される。
【0015】
センサ部11は、加速度センサ11a、地磁気センサ11bなどの各種のセンサを有する。加速度センサ11aは、加速度を検出してデータ処理手段12に随時出力する。地磁気センサ11bは、地磁気を検出してデータ処理手段12に随時出力する。加速度センサ11a,地磁気センサ11bは、何れも三軸センサであることが好ましく、この場合、各センサデータはx成分、y成分、z成分からなる。なお、センサの種類は二種類である必要はなく一種類でも三種類以上でもよい。
【0016】
データ処理手段12は、加速度センサ11a,地磁気センサ11bからのデータを同一のタイミングでサンプリングしてセンサデータとして送信手段13に出力する。センサデータは、サンプリングしたデータのみならず、サンプリングしたときの日時などの時間、センサの種類やID番号、センサユニット11のID番号の付随情報も含まれる。
【0017】
送信手段13は、データ処理手段12からセンサデータを受けると、センサ情報として随時データ処理装置30へ送信する。その際、図示しない中継機等を介在してデータ処理装置30へ送信されてもよいし、直接データ処理装置30に送信されてもよい。
【0018】
〔信号発生手段〕
信号発生手段20は、作業者によって第1番から第n番までの一連の作業のうち各作業が終了する毎に第i番目(ただし、iは1からnまでの任意の数)のトリガー信号を生じるものである。この信号発生手段20は、後述のデータ処理装置30に内蔵されたり、各作業に供される工具類に内蔵されたりする。図1に示す信号発生手段21は、作業者が作業を完了する毎にレバーを引いたり又はボタンを押圧したりすることによりトリガー信号が発生するものである。それ以外に、信号発生手段20には工具40内で内蔵して構成されてもよい。例えば工具40としてのボルト締め付け工具にはトルク計測手段42が内蔵されており、工具40内の基準データ格納手段43に格納されている基準データよりも大きいトルクを計測すると信号発生手段41によってトリガー信号が発生する。ここでは、工具40内に基準データ格納手段43と信号発生手段41を設けているが、設備側にトルク計測手段42からトルク量が送られ、設備側でそのトルク量が規定に達したことを判断してトリガー信号を発生するようにしてもよい。さらには、データ処理装置30内に後述のトリガー信号発生手段37として構築してもよい。作業として嵌め込み作業がある場合には、その衝撃を加速度センサ11bにより検出し、その衝撃加速度が規定以上であるときトリガー信号を発生させるようにしてもよい。
【0019】
〔データ処理装置〕
データ処理装置30は、受信手段31と特徴量算出手段32と特徴量抽出手段33と基準特徴量蓄積手段34と判定手段35と警告手段36とトリガー信号発生手段37を備える。
【0020】
受信手段31は、センサユニット10から送信されたセンサ情報を受信して特徴量算出手段32にセンサデータとしてセンサ部11からの出力信号を出力する。データ処理手段12により付された付随情報も併せて特徴量算出手段32に出力する。
【0021】
特徴量算出手段32は、センサ部11からの出力に基づいたセンサデータを受信手段31から出力されると、そのセンサデータから特徴量を求めるものである。特徴量算出手段32は、纏まったセンサデータを処理して地磁気センサ11a、加速度センサ11bなどの複数のセンサからの出力信号のx成分、y成分、z成分そのものを特徴量としたり、各成分の所定時間内での平均値を特徴量としたり、或いはそれらの微分した値を特徴量としたりする。つまり、特徴量算出手段32は、特徴量として挙げられるデータを候補として挙げ、作業者による各作業の内容に応じて列挙されたデータのうち、一又は複数のデータを特徴量として選択する。その際、各作業の内容、ある作業から次の作業への作業者の移動状況、作業者の癖などに応じて、センサデータの波形、作業者が作業をしたときの状況をカメラで撮影して生成した画像データなどに対応して人為的に選択される。そのために必要となるモニターやキーボードなどの入出力手段については、データ処理装置30に備わっている。
【0022】
特徴量抽出手段33は、信号発生手段20から第i番目のトリガー信号が出力される毎に、特徴量算出手段32から出力された特徴量に基いて第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量を抽出するものである。つまり、第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間、即ち、第i番目の作業終了後において次の作業に遷移する遷移期間の動作に関する特徴量を抽出する。なお、一連の作業は繰り返し行われるので、第n番目の作業から遷移する次の作業とは、第1番目の作業となる。
【0023】
基準特徴量蓄積手段34は、各作業が終了して次の作業に遷移する期間の基準状態における特徴量を遷移毎に基準データとして蓄積するものである。具体的に説明すると以下の通りである。作業者がセンサユニット10を装着して第1から第nまでの各作業における基準となる動作を行う。すると、センサユニット10からセンサデータを受信手段31が受信し、特徴量算出手段32がセンサデータから特徴量を求め、その求めた特徴量が付随情報と共に特徴量抽出手段33に出力される。特徴量抽出手段33が、その入力された特徴量及び付随情報からトリガー信号の入力毎に抽出して、第1の作業から第2の作業に遷移する期間、第2の作業から第3の作業に遷移する期間、・・・、第n−1の作業から第nの作業に遷移する期間の各動作に関する特徴量を得る。このようにして得た遷移毎の動作に関する特徴量を蓄積する。蓄積された各特徴量のうち、作業者による各作業の内容、ある作業から次の作業への作業者の移動状況、作業者の癖などに応じて人為的に選択され、最も作業者の動作を示すものを残して標準データとして蓄積される。このようにして、基準特徴量蓄積手段34には、基準状態における特徴量が遷移毎に、基準データとして蓄積されている。
【0024】
基準特徴量蓄積手段34は、このように予め基準となる動作を行った場合にだけ基準データとして特徴量を蓄積するのみならず、実際に作業者の動きがトレースされている場合であっても特徴量抽出手段33が特徴量を各作業が終了した毎に、即ち遷移毎に抽出するので、その抽出した結果により蓄積している基準データを更新するようにしてもよい。その際、基準データとの差分が所定範囲以下である場合にのみ更新するようにする。このようにすることにより、誤った作業をしたときに求まった特徴量を更新するデータから排除し、基準データの精度が悪くならない。
【0025】
判定手段35は、信号発生手段20から第i番目のトリガー信号が出力された後に特徴量抽出手段33から出力された特徴量を判定の対象とし、基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量と照合して、第i番目の作業終了後の作業者の動きが第i+1番目の作業と符合するものであるか否かを判定するものである。判定手段35はその判定の結果を警告発生手段36に出力する。
【0026】
警告発生手段36は、判定手段35から判定の結果を受け、第i番目の作業が終了した後の作業者の動きについて第i+1番目の作業と符合しない場合、警告ランプを点灯したり、警告音を発したりする。
【0027】
トリガー信号発生手段37は前述の信号発生手段20の一種であり、データ処理装置30内に設けられている。トリガー信号発生手段37は、特徴量算出手段32から算出した特徴量のデータを受け取り、その特徴量のデータからトリガー信号を発生するものである。例えば、作業として取付部品や組付部品を嵌め込む際、その衝撃を加速度センサ11bにより検出し、その衝撃加速度が規定以上である場合にはトリガー信号を発生させるようにしてもよい。その際、各作業内容から時間的に或いは作業の順番などを考慮して、加速度センサ11bで検出した加速度の大きさが規定以上になるか否かを判断するようにするとよい。これにより、トレーシングシステム1それ自体の誤作動を防止することができる。
【0028】
〔トレーシングシステムによって作業者に誤作業を事前に告知する方法〕
図1に示すトレーシングシステム1によって、第1から第nまでの各作業を繰り返し行う作業者が、ルーチンワークに沿っていない作業、即ち誤作業を行おうとしている際に、事前にその誤作業を検出して作業者に告知することができることを説明しながら、トレーシングシステム1についてより詳細に説明する。
【0029】
図1に示すトレーシングシステム1は、例えば自動車のボディへの部品組み付け作業ラインなどの各種の作業ラインに組み込まれる。自動車のボディへの部品として燃料タンクを例にとって説明する。図2は、図1に示すトレーシングシステム1を用いてトレースされる繰り返し作業の一例として、自動車のボディへの燃料タンク取付作業を説明するための模式図である。自動車のボディ5を下側から見たものであり、図中のFrは自動車の前方を示す。搬送される自動車のボディ5に対し、燃料タンク6を組み付ける際、燃料タンク6の四隅6a〜6dを自動車のボディ5にボルトで締め付けて作業を行う。よって、第1番から第n番までの作業としては、自動車のボディ5の組付位置に燃料タンク6を設置する第1番の作業と、車幅方向右後方の隅部(以下、「第1の隅部」と呼ぶ。)6aで仮止めをする第2の作業と、車幅方向左前方の隅部(以下、「第2の隅部」と呼ぶ。)6bをボルト締めする第3の作業と、車幅方向右前方の隅部(以下、「第3の隅部」と呼ぶ。)6cをボルト締めする第4の作業と、第1の隅部6aを本締めする第5の作業と、車幅方向左後方の隅部(以下、「第4の隅部」と呼ぶ。)6dをボルト締めする第6の作業とで構成されるとする。図中の矢印S1〜S4は作業者の移動方向を示している。
【0030】
本発明の実施形態に係るトレーシングシステム1を使用するに当たって、基準特徴量蓄積手段34に基準状態における特徴量を作業の遷移毎に基準データとして格納する。上述した自動車のボディ5への燃料タンク6の組付け作業をトレースする例の場合には、先ず作業者はセンサユニット10を装着し、第1から第6までの作業を正確に繰り返し行う。この例にあっては、工具40としてのボルト締め付け工具にはボルトを締め付ける毎にトリガー信号を生じさせる機構が内蔵されている。また、ボルト締め付け工具それ自体に加速度センサが内蔵されており、その加速度センサのある成分(例えばz成分)が急激に増加したとき第1の作業が完了して次の作業に移行したことを検知してトリガー信号を発生させるようにする。これにより、各作業が終了する毎にトリガー信号が発生され、特徴量抽出手段33にそのトリガー信号が入力される。
【0031】
一方、作業者が各作業を順に正確に行うことにより、センサユニット10からデータ処理装置30の受信手段31に対してセンサデータが送信される。データ処理装置30側では、受信手段31がセンサデータを受信し、特徴量算出手段32に入力され、特徴量算出手段32によって特徴量が時系列で算出される。特徴量は地磁気センサ11のz成分であったり、加速度センサ11のy成分とz成分のベクトル的な足し算、即ち、合成ベクトルの大きさと向きであったりする。特徴量抽出手段33には特徴量算出手段32から算出した特徴量が時系列で入力される。特徴量抽出手段33は、信号発生手段20から第i番目のトリガー信号が入力されると、次のトリガー信号(第i+1番目のトリガー信号)が入力されるまでの特徴量を抽出する。基準特徴量蓄積手段34には、特徴量抽出手段33で抽出した特徴量が第i番目の特徴量として入力されるので、その値を蓄積する。
【0032】
基準特徴量蓄積手段34には、このようにしてある作業から次の作業へ遷移する毎の特徴量が入力されるので、既に蓄積した値と演算処理を行って絶えず更新する。これにより特徴量のサンプリング数を多くして誤差を小さくすることができる。
【0033】
以上により、基準状態における特徴量を作業毎に基準データとして基準特徴量蓄積手段34に格納したので、作業者の一連の作業をトレースする準備が完了する。
【0034】
作業者の一連の作業についてトレースする方法について説明する。上述したように自動車のボディ5への燃料タンク6の組付作業をトレースする例の場合には、先ず作業者はセンサユニット10を装着し、第1から第6までの作業をマニュアルの通り繰り返し行う。作業者は、先ず、第1作業として搬送されてくる自動車のボディ5に対して燃料タンク6の組付け位置に燃料タンク6を配置する。作業者に装着されているセンサユニット10からセンサデータがデータ処理装置30に絶えず送信されるため、データ処理装置30はセンサデータを受信する。作業者が燃料タンク6を組付け位置に配置してボルト締め付け用工具を手にすると、ボルト締め付け用工具に内蔵されている加速度センサからトリガー信号としてデータ処理装置30に送信される。データ処理装置30は、そのトリガー信号を受信することで第1の作業が完了し、次の作業に移ったことを検出することになる。
【0035】
作業者が第2の作業として、第1の隅部6aのボルト締め付け作業を行おうとする。その際、データ処理装置30にはセンサユニット10から絶えずセンサデータを受信するので、特徴量算出手段32がそのセンサデータから特徴量を算出し、特徴量抽出手段33がその特徴量の入力を時系列で受けている間、判定手段34が、第1の作業完了のトリガー信号発生後における特徴量を、基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている特徴量であって第1の作業から第2の作業への遷移する期間の動作に関する特徴量と照合する。その照合の結果、蓄積しているものと一致しないと判定した場合には、警告発生手段35に対して判定結果を通知して、警告発生手段35が警告を発する。これにより、作業者はマニュアル通りに作業をしていないことを事前に知ることができる。
【0036】
一方、作業者が第2の作業として、マニュアル通りに作業を行ってボルト締め付けを完了すると、ボルト締め付け工具からトリガー信号が発生し、データ処理装置30に入力される。それによりデータ処理装置30は、第2の作業が完了し次の作業に移ったことを検出する。
【0037】
作業者が第3の作業として、第2の隅部6bのボルト締め付け作業を行おうとする。その際、データ処理装置30にはセンサユニット10から絶えずセンサデータを受信するので、特徴量算出手段32がそのセンサデータから特徴量を算出し、特徴量抽出手段33がその特徴量の入力を時系列で受けている間、判定手段34が、第2の作業完了のトリガー信号発生後における特徴量を、基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている特徴量であって第2の作業から第3の作業へ遷移する期間の動作に関する特徴量と照合する。その照合の結果、蓄積しているものと一致しないと判定した場合には、警告発生手段35に対して判定結果を通知して、警告発生手段35が警告を発する。これにより、作業者はマニュアル通りに作業をしていないことを事前に知ることができる。
【0038】
一方、作業者が第3の作業としてマニュアル通りに作業を行って第2の隅部6bのボルト締め付けを完了すると、ボルト締め付け工具からトリガー信号が発生し、データ処理装置30に入力される。それによりデータ処理装置30は第3の作業が完了し次の作業に移ったことを検出する。
【0039】
以下、このようにして第4の作業、第5の作業及び第6の作業のトレースを行う。よって、作業者の動きがマニュアル通りになっているかを判定し、作業手順がマニュアル通りになされていない場合には、それを事前に検出して一連の作業を確実に行わせることができる。
【0040】
図3は、図1に示すトレーシングシステム1において、特徴量抽出手段33による特徴量抽出とトリガー信号との関係を模式的に示す図である。横軸は時間であり、縦軸は特徴量の強度、トリガー信号である。いま、特徴量算出手段32から特徴量が時系列で出力される。今信号発生手段20から第i−1番目のトリガー信号の入力があると、それ以降特徴量抽出手段33から出力された特徴量を、第i−1番目から第i番目に遷移する期間の動作の特徴量(「第i−1の期間の特徴量」と呼ぶ。)として特徴量抽出手段33が抽出する。判定手段35は第i−1番目のトリガー信号の入力があると、第i−1の期間の特徴量を対象とし、基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている第i−1の期間の基準特徴量と照合する。図3では、第i−1番目のトリガー信号から時間τだけ特徴量と照合するようにしている。時間τは、第i−1番目のトリガー信号と第i番目のトリガー信号との間の時間よりも短い。これは、作業者が第i番目の作業を完了して次の作業に移行しようとするときに最も特徴量が変化するため、その間だけ基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている特徴量と比較すればよいからである。
【0041】
図4は、図1に示すトレーシングシステム1において、特徴量が時系列でどのように変化するかを示す図であり、(a)は正常作業が行われる場合であって、(b)は誤作業が行われる場合を示す図である。図2を参照して説明したように、自動車のボディ5に燃料タンク6を組み付ける一連の作業を行う作業者の動きをトレースした結果である。特徴量の算出は、地磁気センサ11aのy成分(実線)とz成分(点線)である。作業番号No.2からNo.3で誤作業が生じていることが分かる。また、作業番号No.4からNo.3で誤作業が生じていることが分かる。よって、特徴量抽出手段33から出力された特徴量の時系列を、基準特徴量蓄積手段34に蓄積されている特徴量の時系列と比較可能に表示して目視により、又は、特徴量を基準の特徴量とパターン認識等によりプログラム上で比較することにより、誤作動を判定することができる。
【0042】
このように、図1に示すトレーシングシステム1によれば、複数の作業を繰り返して行う作業者が、各作業の終了後、次の作業を適切に行おうとしているか否かを事前に判定することができる。
【0043】
本発明の実施形態においては、センサとして地磁気センサを使用しているので、作業者に対する装着の向きを装着毎に等しくすることにより、それにより方向や角度を容易に求めることができる。加速度センサを用いて角度を計算する場合と比べて積分計算が不要となり、積分処理により計算誤差が生じない。
【0044】
本発明の実施形態は上述に限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で種々設計変更することができる。例えば、特徴量算出手段32は、センサユニット10の各センサから出力された各成分データを一定の間隔で切り出して平均処理、標準偏差算出処理その他の演算処理を行って複数の特徴量を求めてもよい。
【0045】
本発明の実施形態によれば、ルーチンワークとは異なった作業をしようとする作業者に対して、警告を発して異なった作業であることを認識させることができる。よって、締付手順や部品の取り間違い、部品組付け位置の間違い、部品組付け方法の間違いなどを事前に防止することができる。
【符号の説明】
【0046】
1:トレーシングシステム
5:自動車のボディ
6:燃料タンク
6a,6b,6c,6d:燃料タンクの隅部
10:センサユニット
11:センサ部
11a:地磁気センサ
11b:加速度センサ
12:データ処理手段
13:送信手段
20,21,41:信号発生手段
30:データ処理装置
31:受信手段
32:特徴量算出手段
33:特徴量抽出手段
34:基準特徴量蓄積手段
35:判定手段
36:警告発生手段
37:トリガー信号発生手段
40:工具
42:トルク計測手段
43:基準データ格納手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1番から第n番までの各作業を繰り返す作業者の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて、
センサを内蔵して作業者に装着されるセンサユニットと、
上記センサからの出力に基づいたセンサデータから特徴量を求める特徴量算出手段と、
第1番から第n番までの各作業が終了する毎に第i番目(ただし、iは1からnまでの任意の数)のトリガー信号を生じる信号発生手段と、
上記信号発生手段から第i番目のトリガー信号が出力される毎に、上記特徴量算出手段から出力された特徴量に基いて第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
各作業が終了して次の作業に遷移する期間の基準状態における特徴量を遷移毎に基準データとして蓄積する基準特徴量蓄積手段と、
上記信号発生手段から第i番目のトリガー信号が出力された後に上記特徴量抽出手段から出力された特徴量を判定の対象とし、上記基準特徴量蓄積手段に蓄積されている第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量と照合して、第i番目の作業終了後の作業者の動きが第i+1番目の作業と符合するものであるか否かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする、トレーシングシステム。
【請求項2】
前記基準特徴量蓄積手段が、第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量について前記特徴量抽出手段から出力を受けると、前記基準データのうち第i番目の作業から第i+1番目の作業に遷移する期間の動作に関する特徴量のデータを更新する、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項3】
前記信号発生手段には、各作業に供される工具類に内蔵されたものが含まれる、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項4】
前記センサが地磁気センサと加速度センサとを含んでいる、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項5】
前記センサユニット内のセンサの一つとして加速度センサが備えられており、
前記信号発生手段には、上記加速度センサの各成分データが所定の条件を満たさなくなると前記トリガー信号を発生するものが含まれる、請求項1に記載のトレーシングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−221433(P2012−221433A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89631(P2011−89631)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【出願人】(507234427)公立大学法人岩手県立大学 (22)
【Fターム(参考)】