説明

トロイダル型無段変速機

【課題】トラニオンに対してパワーローラを回転自在に支持するラジアルニードル軸受に対する潤滑油の効率的な供給、ニードル(コロ)による潤滑油攪拌抵抗の低減、および、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性向上を効果的に実現する。
【解決手段】トラニオンに支持された軸部23に対してパワーローラ11を回転自在に支持するラジアルニードル軸受99は、円環状の一対のリム部97a,97bを複数の柱91によって連結して成る保持器90と、保持器の柱91同士の間に形成されるそれぞれのポケット94に転動自在に保持される複数のコロ92とを備えて成る。保持器90の内面および外面は平滑面として形成されるとともに、保持器90の柱91の肉厚dがコロ92の直径Dの半分以上に設定され、また保持器の外面とパワーローラ11との間の隙間Xによる断面積が保持器90の内面と軸部23との間の隙間Yによる断面積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図6および図7に示すように構成されている。図6に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図7参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図6中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図6の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図7は、図6のA−A線に沿う断面図である。図7に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図7においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図7の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸(軸部)23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受99を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図7の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図6の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図7で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図7の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図7の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、変位軸23の先端部23bに対してパワーローラ11を回転自在に支持するラジアルニードル軸受99は、複数本のニードル(コロ)と、これらのニードルを転動自在に保持する保持器とを備えて成るが、この場合、ラジアルニードル軸受99に対する潤滑油の効率的な供給、ニードルによる潤滑油攪拌抵抗の低減、および、ラジアルニードル軸受99による潤滑油の排出性向上は、パワーローラ11の回転性能の向上や冷却効率の向上などを図る上で重要である。そのため、従来においては、保持器の形状などを工夫することによりラジアルニードル軸受99での潤滑油のスムーズな流れを確保するようにしている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−346980号公報
【特許文献2】特開2009−58044号公報
【特許文献3】特許第2627885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、従来から提案される手段では、必ずしも十分な効果を得られるとは言い難かった。
【0019】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、トラニオンに対してパワーローラを回転自在に支持するラジアルニードル軸受に対する潤滑油の効率的な供給、ニードル(コロ)による潤滑油攪拌抵抗の低減、および、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性向上を効果的に実現できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラをラジアルニードル軸受を介して回転自在に支持するトラニオンとを備えるトロイダル型無段変速機において、前記ラジアルニードル軸受は、トラニオンに支持された軸部に対して前記パワーローラを回転自在に支持するとともに、円環状の一対のリム部を複数の柱によって連結して成る保持器と、該保持器の前記柱同士の間に形成されるそれぞれのポケットに転動自在に保持される複数の円柱状のコロとを備えて成り、前記保持器の内面および外面が平滑面として形成されるとともに、前記保持器の前記柱の肉厚が前記コロの直径の半分以上に設定され、前記保持器の外面と前記パワーローラとの間の隙間による断面積が前記保持器の内面と前記軸部との間の隙間による断面積よりも大きいことを特徴とする。
【0021】
請求項1に記載の発明においては、保持器の内面および外面が平滑面として形成されるとともに、保持器の柱の肉厚がコロの直径の半分以上に設定されているので、すなわち、潤滑油の流通路となる保持器の表面が滑らかになるとともに、保持器の柱によってコロが大きく覆われることになるので、保持器およびコロによる潤滑油攪拌抵抗を効果的に低減することができ、また、保持器の外面とパワーローラとの間の隙間による断面積が保持器の内面と軸部との間の隙間による断面積よりも大きいため、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性を効果的に向上させることができる(潤滑油の排出性が悪いと、軸受内部が油で満たされ、油の攪拌抵抗の増大に繋がる)。また、運転中のパワーローラと軸部との温度を比較すると、トラクション面を有するパワーローラの方が高いので、保持器の外面とパワーローラとの間の隙間による断面積を保持器の内面と軸部との間の隙間による断面積よりも大きくすることで、パワーローラをより積極的に冷却することができ、耐久寿命の向上やトラクション係数の向上とそれによる冷却効率の向上をもたらすことができる。したがって、ラジアルニードル軸受に対する潤滑油の効率的な供給を実現できる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記保持器の柱の外面にはスパイラル状の溝が形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の発明においては、保持器の柱の外面にスパイラル状の溝が形成されているため、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性をより効果的に向上させることができる。なお、スパイラル溝の形成方向(傾き方向)は、保持器が回転した際に潤滑油が保持器の外部に排出され易くなるような方向に向けられていることが好ましい。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記保持器のリム部の表面にスパイラル状の溝が形成されていることを特徴とする。
【0025】
請求項3に記載の発明においては、保持器のリム部の表面にスパイラル状の溝が形成されているため、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性をより効果的に向上させることができる。特に、請求項2に記載の発明のように保持器の柱の外面にスパイラル溝が形成されている場合には、僅かながら保持器が潤滑油から反力を受けるため、保持器のリム部がその対向部材と接触して摩擦損失が増大する場合もあるが、リム部の表面にスパイラル状の溝が形成されていれば、そのような摩擦損失の増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、トラニオンに対してパワーローラを回転自在に支持するラジアルニードル軸受に対する潤滑油の効率的な供給、ニードル(コロ)による潤滑油攪拌抵抗の低減、および、ラジアルニードル軸受による潤滑油の排出性向上を効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す図であって、(a)はトラニオンの変位軸にラジアルニードル軸受を介してパワーローラが回転可能に支持される構造部分の断面図、(b)はラジアルニードル軸受の斜視図、(c)は(a)と同様の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示し、(a)はラジアルニードル軸受の斜視図、(b)はラジアルニードル軸受の側面図である、
【図3】図2の構成における潤滑油の流れ方向を説明するための断面図である。
【図4】図2の構成における保持器の組み込み方向を説明するための側面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態における保持器の組み込み方向を説明するための図であって、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図6】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、トラニオンに対してパワーローラを回転自在に支持するラジアルニードル軸受の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図5および図6と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0029】
図1は本発明の第1の実施形態を示している。図1の(a)および(c)に示すように、本実施形態では、変位軸23が外輪28と一体になっており、変位軸23の先端部23bがパワーローラ11を貫通することなくパワーローラ11の内側で終端している。また、トラニオン15の変位軸(軸部)23に対してパワーローラ11を回転自在に支持するラジアルニードル軸受99は、図1の(b)に示すように、円環状の一対のリム部97a,97bを複数の柱91によって連結して成る保持器90と、保持器90の柱91同士の間に形成されるそれぞれのポケット94に転動自在に保持される複数の円柱状のコロ(ニードル)92とを備えて成る。ここで、保持器90は例えば黄銅や樹脂などの材料によって形成される。
【0030】
また、本実施形態では、保持器90の内面および外面が平滑面として形成されるとともに、保持器90の柱91の肉厚dがコロ92の直径Dの半分以上に設定されている。また、保持器90の外面とパワーローラ11との間の隙間Xにより形成される断面積が保持器90の内面と変位軸23の先端部23bとの間の隙間Yにより形成される断面積よりも大きく設定されている。
【0031】
このように、本実施形態によれば、保持器90の内面および外面が平滑面として形成されるとともに、保持器90の柱91の肉厚dがコロ92の直径Dの半分以上に設定されているため、すなわち、潤滑油の流通路となる保持器90の表面が滑らかになるとともに、保持器90の柱91によってコロ92が大きく覆われることになるため、保持器90およびコロ92による潤滑油攪拌抵抗を効果的に低減することができる。また、保持器90の外面とパワーローラ11との間の隙間Xによる断面積が保持器90の内面と変位軸23との間の隙間Yによる断面積よりも大きいため、ラジアルニードル軸受99による潤滑油の排出性を効果的に向上させることができる(潤滑油の排出性が悪いと、軸受99の内部が油で満たされ、油の攪拌抵抗の増大に繋がる)。また、運転中のパワーローラ11と変位軸23との温度を比較すると、トラクション面を有するパワーローラ11の方が高いので、保持器90の外面とパワーローラ11との間の隙間Xによる断面積を保持器90の内面と変位軸23との間の隙間Yによる断面積よりも大きくすることにより、パワーローラ11をより積極的に冷却することができ、耐久寿命の向上やトラクション係数の向上とそれによる冷却効率の向上を図ることができる。したがって、ラジアルニードル軸受99に対する潤滑油の効率的な供給を実現できる。
【0032】
図2から図4は本発明の第2の実施形態を示している。図2に示すように、本実施形態では、保持器90の柱91の外面にスパイラル状の溝105が形成されている。この場合、スパイラル溝105の形成方向(傾き方向)は、保持器90が回転した際に潤滑油が保持器90の外部に排出され易くなるような方向に向けられている。具体的には、ラジアルニードル軸受99は、図4に示されるように、その第1のリム部97aがスラスト玉軸受24の保持器27と対向するように組み込まれており、したがって図3の(a)に矢印で示すように、変位軸23の中心を貫通する油路109を通じて外輪28側からからパワーローラ11側へ向けて流入する潤滑油が変位軸23の先端部23bの端面とパワーローラ11との間の隙間を通じてラジアルニードル軸受99内を流入方向とは反対の方向(油を排出させたい方向P)に流れてスラスト玉軸受24を介してスムーズに水平に抜け出るように、スパイラル溝105は第2のリム部97bから第1のリム部97aへ向けて保持器90の回転方向Qとは反対の方向へ向かうように斜めに延びている。なお、図3の(b)は図3の(a)とは異なり、変位軸23がパワーローラ11を貫通して突出しその突出開口部にワッシャ119が取り付けられた変形構造を示しているが、スパイラル溝105の形態および油の流れ方向に変わりはない。
【0033】
このように、本実施形態によれば、保持器90の柱91の外面にスパイラル状の溝105が形成されているため、ラジアルニードル軸受99による潤滑油の排出性をより効果的に向上させることができる。なお、スパイラル状の溝105が柱91の内面に形成されていても構わない。
【0034】
図5は本発明の第3実施形態を示している。図示のように、本実施形態では、第2の実施形態の構成に加えて更に、保持器90の第2のリム部97bの表面にスパイラル状の溝129が形成されている。第2の実施形態のように保持器90の柱91の外面にスパイラル溝105が形成されている場合には、僅かながら保持器90が潤滑油から反力Fを受けるため、保持器90のリム部(本実施形態では、第2のリム部97b)がその対向部材(図3の(a)の構成ではパワーローラ11、図3の(b)の構成ではワッシャ109)と接触して摩擦損失が増大する場合もあるが、リム部(本実施形態では第2のリム部97b)の表面にスパイラル状の溝129が形成されていれば、そのような摩擦損失の増大を抑制でき、ラジアルニードル軸受99による潤滑油の排出性をより効果的に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
15,15 トラニオン
23 変位軸(軸部)
90 保持器
91 柱
92 コロ
94 ポケット
97a,97b リム部
99 ラジアルニードル軸受
105,129 スパイラル状の溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラをラジアルニードル軸受を介して回転自在に支持するトラニオンとを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記ラジアルニードル軸受は、トラニオンに支持された軸部に対して前記パワーローラを回転自在に支持するとともに、円環状の一対のリム部を複数の柱によって連結して成る保持器と、該保持器の前記柱同士の間に形成されるそれぞれのポケットに転動自在に保持される複数の円柱状のコロとを備えて成り、
前記保持器の内面および外面が平滑面として形成されるとともに、前記保持器の前記柱の肉厚が前記コロの直径の半分以上に設定され、前記保持器の外面と前記パワーローラとの間の隙間による断面積が前記保持器の内面と前記軸部との間の隙間による断面積よりも大きいことを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記保持器の柱の外面にはスパイラル状の溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記保持器のリム部の表面にスパイラル状の溝が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159115(P2012−159115A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17850(P2011−17850)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】