説明

トロイダル型無段変速機

【課題】変速比によって位置の変化するパワーローラとディスクとの接続面に効率的に潤滑油を供給することのできる潤滑油供給構造を備えたトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、入力側ディスク2と出力側ディスクとの間に配置されて潤滑油を噴出する油噴出部110を備えており、この油噴出部110が、パワーローラの傾転に連動して入力側ディスク2の中心軸に近づく方向と遠ざかる方向とに変位するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機器の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図6および図7に示すように構成されている。図6に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面3a,3aとの間には、パワーローラ11(図7参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図6中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図6の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の内側面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図7は、図6のA−A線に沿う断面図である。図7に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動(傾転)する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図7においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図7の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調整できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図7の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鋳造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bには円形の支持孔18が2つずつ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動(傾転)自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図6の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面状のポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されているポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図7で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図7の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に僅かに変位する。例えば、図7の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ僅かに変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが僅かに変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a,23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機にあっては、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の動力伝達が、これらの部材表面の損傷を防止するべく、油膜を介したトラクション力により非接触で行なわれる(以下、油膜によって形成されるパワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の界面をトラクション面と称する)。そのため、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間に形成されるトラクション面には、トルクを非接触で伝達するための油膜を形成できる量の潤滑油(トラクション油)を供給する必要がある。
【0017】
従来、パワーローラ11のトラクション面に対する潤滑油の供給は、様々な構造形態によって行なわれている(特許文献1〜3参照)。特許文献3のトロイダル型無段階変速機においては、パワーローラの傾転角度に応じて入力側ディスクに供給する潤滑油量と出力側ディスクに供給する潤滑油量との調整が行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−132045号公報
【特許文献2】特開平6−280960号公報
【特許文献3】特開2003−207011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
潤滑油の過剰な供給は駆動損失を増大させるという一面があるため、潤滑油は必要な箇所に集中的に供給できると効果的である。パワーローラ11と入出力側ディスク2,3の間では、特に、大きなトルクを伝達する際に大きなトラクション力が発生するディスク側のパワーローラ11との接続面に潤滑油を集中的に供給できると効果的である。しかしながら、入出力側ディスク2,3とパワーローラ11との接続面はトラニオン15の傾転によって位置が変化する。
【0020】
本発明は、位置の変化するパワーローラの接続面に効率的に潤滑油を供給することのできる潤滑油供給構造を備えるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラとを備え、前記パワーローラと前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクとの間の界面であるトラクション面に形成される油膜を介したトラクション力により、前記入力側ディスクから前記パワーローラを介して出力側ディスクに動力が伝達されるとともに、前記パワーローラが傾転することで変速比が変化するトロイダル型無段変速機において、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に配置されて潤滑油を噴出する油噴出部を備え、前記油噴出部が、前記パワーローラの傾転に連動して前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に近づく方向と遠ざかる方向とに変位することを特徴とする。
【0022】
この請求項1に記載の発明においては、油噴出部がパワーローラの傾転に連動して変位するので、パワーローラの傾転に伴うパワーローラとディスクとの接続面の位置変化に対応して潤滑油の噴出先を変化させることができる。
【0023】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記油噴出部は、少なくとも前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの何れか一方のディスクへ向けて潤滑油を噴出するノズルを有し、前記ノズルの噴出先の位置が、前記一方のディスクと前記パワーローラとの接続面の位置変化に追従して、当該ディスクの径方向に変化することを特徴とする。
【0024】
この請求項2に記載の発明においては、潤滑油の噴出先が一方のディスクとパワーローラとの接続面の位置変化に追従して変化するので、この接続面に集中的に潤滑油を供給することができる。
【0025】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンを前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転自在に支持するとともに前記トラニオンの変位により揺動する一対のヨークと、前記ヨークを揺動自在に支持するポストとを備え、前記油噴出部が前記ポストに変位可能に設けられていることを特徴とする。
【0026】
この請求項3に記載の発明においては、位置の変化する油噴出部を他の機構と干渉しないように容易に付設することができる。
【0027】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記ポストに設けられたシリンダ内に前記油噴出部が摺動可能に配設されて変位可能にされていることを特徴とする。
【0028】
この請求項4に記載の発明においては、油噴出部がシリンダ内を摺動して必要な方向への変位が可能となる。さらに、ポストに設けられたシリンダ内にチューブ等を通して油噴出部へ潤滑油を供給することが可能となる。
【0029】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記パワーローラの傾転運動を伝達して前記油噴出部を変位させる伝達機構を備えていることを特徴とする。
【0030】
この請求項5に記載の発明においては、油噴出部を変位させるためにアクチュエータやモータ等の電気的な駆動構成を必要とせず、パワーローラの傾転に連動して自動的に油噴出部が変位する。
【0031】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記伝達機構が、前記パワーローラの傾転とともに回動するカムと、前記油噴出部の一部に設けられ前記カムと当接するカムフォロアとを備えていることを特徴とする。
【0032】
この請求項6に記載の発明においては、カムの運動によりパワーローラが傾転することで油噴出部を確実に変位させることができる。
【0033】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記伝達機構が、前記パワーローラの傾転運動を伝達するギヤと、このギヤの回転運動を前記油噴出部の変位方向の運動に変換するナットおよび送りネジとを備え、前記油噴出部の外周に前記送りネジのネジが設けられていることを特徴とする。
【0034】
この請求項7に記載の発明においては、ギヤ、送りネジおよびナットによる運動伝達によりパワーローラが傾転することで油噴出部を確実に変位させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、パワーローラの傾転に連動して油噴出部の位置が変化し、パワーローラとディスクとの接続面に集中的に潤滑油を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るトラクション面への潤滑油供給構造を示す一部断面図である。
【図2】図1の矢印B−B線に沿う断面図である。
【図3】トラニオン側に設けられたカム体と油噴出部材との関係を示す図であって、(a)はトラニオンが傾転していないときの側面図、(b)はトラニオンが傾転しているときの側面図である。
【図4】油噴出部材を変位させる機構の第1の変形例を示す断面図である。
【図5】油噴出部材を変位させる機構の第2の変形例を示す断面図である。
【図6】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、トラクション面に対する潤滑油の供給構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様である。そのため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図6および図7と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0038】
図1は本発明の実施形態に係るトラクション面への潤滑油供給構造を、図2は図1の矢印B−B線断面図を示している。図1に示すように、ポスト64には、入出力側ディスク2,3とパワーローラ11との界面であるトラクション面へ、潤滑油を噴出して供給する油噴出部材(油噴出部)110が配設されている。油噴出部材110は、一方に長い棒状の部材であり、先端には、両ディスク2,3の内側面2a,3aにそれぞれ向いたノズル111,111が設けられ、内部にノズル111,111とつながった油供給路112が設けられている。
【0039】
図2に示すように、ポスト64にはシリンダ64aが形成され、油噴出部材110はこのシリンダ64aに摺動可能に収容されている。油噴出部材110にはポスト64の油供給路64cから潤滑油が送られる。
【0040】
ポスト64には油噴出部材110の長手方向に沿ったスライド溝64bが形成され、油噴出部材110にはこのスライド溝64bに通されるピン113が突出して固定されている。この構成により、油噴出部材110は回転方向に係止され、かつ、長手方向に移動可能にされる。油噴出部材110の外周部には液密を保つOリング114が設けられている。
【0041】
トラニオン15には、油噴出部材110の箇所まで張り出したカム部140が設けられている。このカム部140は、枢軸14と一体的に形成されてトラニオン15の傾転に伴って軸線O1を中心に回動するようになっている。一方、油噴出部材110には、カム部140のカム面141に当接して位置が決められるカムフォロワとしての当接部115が設けられている。また、シリンダ64a内には油噴出部材110を押し出す方向に付勢するリターンバネ119が設けられている。これらカム部140、当接部115、リターンバネ119が伝達機構として機能する。
【0042】
図3はトラニオン15側に設けられたカム体と油噴出部との関係を示している。同図(a)はトラニオンが傾転していないときの側面図、(b)はトラニオンが傾転しているときの側面図である。
【0043】
カム部140は、図3(a),(b)に示されるように、トラニオン15が傾転することで油噴出部材110と交差する方向(図3の左右の方向)に移動して、当接部115との当接位置を変化させる。カム面141は、トラニオン15の傾転に伴って連続的に高さが変化する形態にされ、カム面141の当接位置が変化することで、油噴出部材110が長手方向に無段階に変位する。
【0044】
具体的には、トラニオン15の傾転角度(パワーローラ11の中心軸と入力側ディスク2の中心軸との角度)が90°のとき、すなわち変速比が1:1のときには、図3(a)に示すように、カム部140が油噴出部材110の中央まで移動する。それにより、油噴出部材110がその長手方向の中央の位置(図1の実線で示した油噴出部材110の位置)へ移動する。そして、少なくとも一つのノズル111が、変速比1:1のときにパワーローラ11が接続される入力側ディスク2の半径位置と略同一の半径位置Nに向いた状態となる。
【0045】
また、トラニオン15が変速比を低く(Low)する方へ傾転すると、カム部140が図3(a)より左方向へ移動して、リターンバネ119の作用で油噴出部材110がシリンダ64aから押し出された位置(図1の仮想線の位置)へ移動する。そして、少なくとも一つのノズル111が、変速比Lowのときにパワーローラ11が接続される入力側ディスク2の半径位置と略同一の半径位置Lに向いた状態となる。
【0046】
また、トラニオン15が変速比を高く(High)する方へ傾転すると、図3(b)に示すようにカム部140が右方向へ移動して、油噴出部材110がシリンダ64aに押し込まれた位置へ移動する。そして、少なくとも一つのノズル111が、変速比Highのときにパワーローラ11が接続される入力側ディスク2の半径位置と略同一の半径位置Hに向いた状態となる。
【0047】
油噴出部材110は、トラニオン15の傾転角度が連続的に変化することで、上記の変速比Lowのときの位置から変速比Highのときの位置まで連続的にかつ無段階に変位する。その結果、少なくとも一つのノズル111が、トラニオン15の傾転に伴う入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面の位置の変化に追従して、この接続面と略同一の入力側ディスク2の半径位置に向いた状態となる。そして、このようなノズル111から潤滑油が噴射されることで、入力側ディスク2とパワーローラ11の接続面に集中的に潤滑油が供給される。
【0048】
このようなトロイダル型無段変速機にあっては、トラニオン15の傾転に連動して油噴出部材110が入出力側ディスク2,3の中心軸に近づく方向と遠ざかる方向とに位置を変化させる。それにより、トラニオン15の傾転に伴って位置の変化するパワーローラ11との接続面に追従して、潤滑油の噴出先の位置が変化して、パワーローラ11と入力側ディスク2との接続面に集中的に潤滑油を供給することができる。必要な箇所に潤滑油が集中的に供給されるので、発熱も効率的に抑えられ、全体的な潤滑油の供給量も少なくすることができる。
【0049】
さらに、本実施形態にあっては、両ディスク2,3のうち入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面に追従して油噴出部材110が変位するようになっている。例えば、本実施形態のトロイダル型無段変速機が自動車に搭載された場合、自動車の発進時や登り坂進行時に大きなトルクが伝達されることになる。さらに、この場合、変速比はLowにされるのが通常であり、その結果、大きなトラクション力が発生するのは入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面となる。このため、上記のように入力側ディスク2のトラクション面に追従して潤滑油の噴出先が変位するように構成することで、最も潤滑油が必要となる箇所に効率的に潤滑油を供給することが可能となる。
【0050】
図4は、油噴出部材110Aを変位させる機構の第1の変形例を示している。図4の変形例は、ポスト64に止着されるボルト160の軸部に沿って油噴出部材110Aを変位可能とし、且つ、油噴出部材110Aの両側にカムフォロワとなる当接部115,115を設けたものである。
【0051】
この変形例では、一組のヨーク23A,23Bに保持されている2つのトラニオン15,15に油噴出部材110Aの箇所まで張り出すカム部140,140を設け、これらのカム面141,141が油噴出部材110Aの両側の当接部115,115に当接するようになっている。ポスト64と油噴出部材110Aとの間には、油噴出部材110Aをカム面141,141の方向へ押し付けるリターンバネ119が設けられている。
【0052】
ボルト160の軸部には、ネジの切ってあるネジ部161とネジの切ってない根元部162とが設けられ、さらに、この軸内には潤滑油を供給する油供給路164が形成されている。根元部162の外周部分の一部の領域には環状溝部165が形成され、油供給路164がこの環状溝部165につながっている。この環状溝部165は、ボルト160の軸方向に所定長の長さを有し、油噴出部材110Aの変位に伴いノズル111,111の上流側の端部の位置が変化しても、この端部と油供給路164とをつないで潤滑油を送る役割を担っている。
【0053】
このような構成においても、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に傾転した場合に、カム部140,140が移動して油噴出部材110Aの当接部115,115を押し込んだり戻したりすることで、油噴出部材110Aが入出力側ディスク2,3の中心軸に近づく方向と遠ざかる方向とに変位する。このとき、カム部140,140は油噴出部材110Aの両側に当接する構成なので、油噴出部材110Aの回転を係止する構成が不要となる。そして、この油噴出部材110Aの変位によりパワーローラ11と入力側ディスク2との接続面の位置の変化に対応するように潤滑油の噴出先が変化して、潤滑油をこの接続面に集中的に供給することができる。
【0054】
また、図4の変形例においては、潤滑油の供給路に、油噴出部材110Aの変位に追従して移動するチューブを設ける必要がなくなるという効果も奏される。
【0055】
図5は、油噴出部材110Bを変位させる機構の第2の変形例を示している。図5の変形例は、中央の貫通穴に雌ネジ122が形成されたナット120を介してトラニオン15の傾転運動を伝達して、油噴出部材110Bをその長手方向に変位させるものである。
【0056】
この変形例においてナット120は、その外周部にギヤ歯121が形成されてギヤとしても機能する。ナット120は、ポスト64の端部に次のように回転自在に固定される。すなわち、ポスト64の端部が円柱形状に形成される一方、ナット120の上部に逆形状の凹部126が形成され、この凹部126がポスト64の端部に摺動可能に篏合している。さらに、ポスト64の端部に外周に沿って円周溝64dが形成される一方、凹部126の内壁部にこの円周溝64dに沿って摺動可能なピン(或いは丸形止め輪)124,124が係止されている。この構成により、ナット120がポスト64の端部に回転自在に固定される。
【0057】
トラニオン15には、ナット120の外周部のギヤ歯121と噛合うギヤ部145が形成されている。このギヤ部145は、軸線O1を中心とした円弧に沿って歯が形成されたもので、枢軸14とともに軸線O1を中心に回動する。
【0058】
油噴出部材110Bの外周部には、軸方向の一部の範囲に、ナット120の雌ネジ122と螺合する雄ネジ117が形成され、この部分がナット120と螺合されている。この構成により油噴出部材110B自体が送りネジとして機能する。図5中、回転防止用のピン113、スライド溝64b、Oリング114は図2のものと同様である。
【0059】
この変形例においては、トラニオン15が傾転すると、ギヤ部145が軸線O1を中心に回動し、この回動運動がナット120に伝達される。そして、ナット120が軸線O2を中心に回転することで、送りネジとしても機能する油噴出部材110Bが軸線O2の軸方向に変位する。そして、この油噴出部材110Aの変位により入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面の位置の変化に対応して潤滑油の噴出先が変化して、潤滑油をこの接続面に集中的に供給することができる。
【0060】
なお、トラニオン15のギヤ部145とナット120のギヤ歯121との間に別のギヤを介在させて、トラニオン15の少ない回転運動を大きな回転運動に変換してナット120に伝達するようにしてもよい。また、ナット120の雌ネジ122と油噴出部材110Bの雄ネジ117との間に玉を挟んでボールネジの構成を適用してもよい。
【0061】
なお、上述の実施の形態では、ノズル111が入出力側ディスク2,3に対して直角(内側面2a,3aの周方向の接線に対して直角)の方向を向いた例を示したが(図1参照)、ノズル111の向きは上記直角の方向より斜めにした向きとしてもよい。具体的には、入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面の入り口側あるいは出口側へ斜めに向けることで、より効率的な潤滑油の供給が可能になる。また、ノズル111を入出力側ディスク2,3の内側面2a,3aではなく、パワーローラ11の周面11aに向けて潤滑油を噴出するように構成することもできる。
【0062】
また、本実施形態では、油噴出部材110が、2つのディスク2,3のうち入力側ディスク2とパワーローラ11との接続面に追従する例を示したが、出力側ディスク3とパワーローラ11との接続面に追従するように構成してもによい。また、2つのポスト64,68(図7参照)があるので、両方のポスト64,68に同様の油噴出部材110を設けるとともに、一方のポスト64の油噴出部材110と他方のポスト68の油噴出部材110とで変位方向を異ならせるように構成してもよい。すなわち、一方の油噴出部材110により入力側ディスク2の接続面に追従させ、他方の油噴出部材110により出力側ディスク3の接続面に追従させるように構成してもよい。
【0063】
また、本実施形態では、一つの油噴出部材110に2つのディスク2,3へそれぞれ向いた2つのノズル111,111を設けた例を示しているが(図1参照)、パワーローラ11との接続面の変位に追従できる一方のディスクのみに向けて1個または複数のノズル111を設けるようにしてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、油噴出部材110〜110Bを上記の具体的な伝達機構によって変位させる例を示したが、その他、ベルトやウォームギヤを介して運動を伝達する構成を適用することもできる。また、アクチュエータやモータによって油噴出部材110を変位させるとともに、電気的な制御によってパワーローラ11の傾転に連動させて油噴出部材110を変位させる構成を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機の他、トラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
23A,23B ヨーク
64,68 ポスト
64a シリンダ
64b スライド溝
110 油噴出部材(油噴出部)
111 ノズル
112 油供給路
113 ピン
114 玉軸受
115 当接部(カムフォロワ)
119 リターンバネ
140 カム部(カム)
141 カム面
110A 油噴出部材(油噴出部)
160 ボルト
164 油供給路
165 環状溝部
64d 円周溝
110B 油噴出部材(油噴出部)
117 雄ネジ(送りネジのネジ)
120 ナット(ギヤ)
121 ギヤ歯
122 雌ネジ
124 ピン
126 凹部
145 ギヤ部(ギヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラとを備え、前記パワーローラと前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクとの間の界面であるトラクション面に形成される油膜を介したトラクション力により、前記入力側ディスクから前記パワーローラを介して出力側ディスクに動力が伝達されるとともに、前記パワーローラが傾転することで変速比が変化するトロイダル型無段変速機において、
前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に配置されて潤滑油を噴出する油噴出部を備え、
前記油噴出部が、前記パワーローラの傾転に連動して前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に近づく方向と遠ざかる方向とに変位することを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記油噴出部は、少なくとも前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの何れか一方のディスクへ向けて潤滑油を噴出するノズルを有し、
前記ノズルの噴出先の位置が、前記一方のディスクと前記パワーローラとの接続面の位置変化に追従して、当該ディスクの径方向に変化することを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンを前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転自在に支持するとともに前記トラニオンの変位により揺動する一対のヨークと、前記ヨークを揺動自在に支持するポストとを備え、
前記油噴出部が前記ポストに変位可能に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記ポストに設けられたシリンダ内に前記油噴出部が摺動可能に配設されて変位可能にされていることを特徴とする請求項3に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記パワーローラの傾転運動を伝達して前記油噴出部を変位させる伝達機構を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
前記伝達機構は、前記パワーローラの傾転とともに回動するカムと、前記油噴出部の一部に設けられ前記カムと当接するカムフォロアとを備えていることを特徴とする請求項5に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項7】
前記伝達機構は、前記パワーローラの傾転運動を伝達するギヤと、このギヤの回転運動を前記油噴出部の変位方向の運動に変換するナットおよび送りネジとを備え、
前記油噴出部の外周に前記送りネジのネジが設けられていることを特徴とする請求項5に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2607(P2013−2607A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137012(P2011−137012)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】