説明

トンネル曲線部の構築工法

【課題】
トンネルの曲線部を特別な補強措置を講ずることなく、通常のRCセグメントを用いてきわめて効率的にかつ経済的に構築することができるトンネル曲線部の構築工法を提供する。
【解決手段】
シールドマシン11のテール部に複数のセグメントリング1を順次継ながら設置しつつ、このセグメントリング1を推進ジャッキ12の反力受けにシールドマシン11を前進させてトンネルの曲線部を構築する。トンネルの曲線部の内側に複数のPC鋼材2を各セグメントリング1の内側に沿わせて、複数のセグメントリング1,1間に跨って設置する。このPC鋼材2によってトンネルの軸方向にプレストレスを導入する。PC鋼材2はセグメントリング1の内側に沿わせて設置する、いわゆる外ケーブル方式とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はトンネル曲線部の構築工法に関し、特にシールドマシンのテール部に複数のセグメントリングを順次継ながら設置しつつ、当該セグメントリングを反力受けにシールドマシンを前進させてトンネルを構築するシールド工法に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの構築工法として、シールドマシンのテール部に複数のセグメントリングを順次継ながら設置しつつ、当該セグメントリングを反力受けとしてシールドマシンを前進させてトンネルを構築するシールド工法が一般に知られている。
【0003】
また、発進側の立坑内に設置された推進用ジャッキを用いて、複数のセグメントリングをその軸方向に順次継ぎながら地中に押し込んでトンネルを構築するトンネルの推進工法も知られている。
【特許文献1】特開2003−35096号公報
【特許文献2】特開平11−81891号公報
【特許文献3】特開平07−18984号公報
【特許文献4】特開平08−291700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれの工法においても、トンネルの曲線部を構築する場合、図1(a)に図示するように推進ジャッキによってトンネルの曲線部の外側を押してシールドに回転力を与えて推進方向を徐々に変える必要があるため、これに伴いトンネルの曲線部の内側には片押しの反力を受けて大きな引張力と偏心モーメントが発生する。
【0005】
このため、特にトンネル曲線部を構築するためだけに、推進ジャッキの推進反力に備えて高価なスチールセグメント等といった高強度のセグメントを用いたり、あるいはセグメント継手部の構造を特別な構造にしたりする等の補強措置を講ずる必要があり、このためトンネル曲線部の施工は非常に面倒なだけでなく、コストが大幅に嵩む等の課題があった。
【0006】
本願発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に推進ジャッキによる大きな引張力と偏心モーメントを低減して、トンネルの曲線部をきわめて効率的にかつ経済的に構築できるようにしたトンネル曲線部の構築工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のトンネル曲線部の構築工法は、シールドマシンのテール部に複数のセグメントリングを順次継ながら設置しつつ、当該セグメントリングを反力受けに前記シールドマシンを前進させてトンネルの曲線部を構築するトンネル曲線部の構築工法において、複数のPC鋼材を前記セグメントリングに沿わせ、複数のセグメントリング間に設置することにより、前記トンネルの曲線部の内側に当該トンネルの軸方向にプレストレスを導入することを特徴とするものである。
【0008】
本願発明は特に、トンネルの曲線部の内側にPC鋼材によってトンネルの軸方向に予めプレストレスを導入しておくことで、トンネルの曲線部の外側をシールドマシンの推進ジャッキが押すことによりトンネルの曲線部の内側に発生する過大な引張力と偏心モーメントを低減できるようにしたものである。
【0009】
また、トンネルの曲線部の内側に発生する過大な引張力と偏心モーメントを低減することが可能なことにより、トンネルの曲線部を構築するためだけに高強度のセグメントを用いたり、セグメント継手部の構造を特別に補強したりする等の措置が不要になり、トンネル曲線部を通常のRCセグメントを用いてきわめて効率的にかつ経済的に構築できる。
【0010】
請求項2記載のトンネル曲線部の構築工法は、請求項1記載のトンネル曲線部の構築工法において、PC鋼材はセグメントリングの内側に沿わせ、複数のセグメントリングリング間に設置することを特徴とするものである。
【0011】
本願発明は、特にPC鋼材をセグメントリングの内側に沿わせて設置する、いわゆる外ケーブル方式とすることで、PC鋼材の盛り替えを可能にし、PC鋼材を転用しながらトンネルの曲線部をきわめて効率的に構築することができる。なお、この場合のPC鋼材としては、可とう性に富むPC鋼材、例えばPC鋼より線が適している。
【0012】
請求項3記載のトンネル曲線部の構築工法は、請求項1または2記載のトンネル曲線部の構築工法において、PC鋼材の端部はセグメントリングの側壁部に定着金具によって脱着自在に定着することを特徴とするものである。
【0013】
本願発明は、特にPC鋼材の端部をセグメントリングの側壁部に脱着自在に定着可能な構造にすることで、PC鋼材の盛り替えを簡単にしてPC鋼材を転用しながらトンネルの曲線部をきわめて効率的に構築することができる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、トンネルの曲線部の内側に複数のPC鋼材をセグメントリングに沿わせ、複数のセグメントリング間に設置して、トンネルの軸方向に予めプレストレスを導入することにより、トンネルの曲線部を構築するためだけに高強度のセグメントを用いたりする等の特別な補強措置を講ずることなく、通常のRCセグメントを用い、きわめて効率的にかつ経済的にトンネルの曲線部を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図5は、シールドトンネルの曲線部を示し、図において、複数のセグメントリング1がトンネルの軸方向に順次突き合わせられ、所定の曲率で配置されている。各セグメントリング1は複数のRCセグメントから形成され、隣接するRCセグメント同士およびトンネルの軸方向に隣接するセグメントリング1同士はそれぞれ複数の締結金具(図省略)によって互いに結合されている。
【0016】
また、図2(a)に図示するように、トンネルの曲線部(偏向部)の内側にPC鋼材2がトンネルの軸方向に沿って配置されている。PC鋼材はトンネルの円周方向に所定間隔おきに複数配置され、各PC鋼材2はセグメントリング1の内側に沿わされ、かつトンネル軸方向の複数のセグメントリング1,1間に跨って配置されている。
【0017】
また、各PC鋼材2の切り羽側の端部2aと坑口側の端部2b(定着部)は、図2(b)に図示するように、それぞれセグメントリング1の内壁部に突設された定着金具3に定着され、その中間部分(偏向部)は各セグメントリング1の内壁部にそれぞれ突設された複数の支持金具4によってトンネルの軸方向に所定間隔おきに支持されている。そして、各PC鋼材2を緊張することにより、トンネル曲線部の内側には一定量のプレストレスがトンネルの軸方向に導入されている。
【0018】
なお、PC鋼材2には可とう性に富むもの、例えばPC鋼より線などが用いられ、また定着金具3は、RCセグメントの成形時にRCセグメントの内壁部に埋設された受けブロック5とこの受けブロック5に脱着自在に取り付けられた定着ブロック6とから形成されている。
【0019】
受けブロック5は、トンネルの軸方向に所定間隔をおいて形成された定着穴7,7を有し、定着穴7はトンネルの円周方向に対して断面蟻溝状に形成されている。すなわち、定着穴7のトンネルの軸方向に対向する内側面7a,7aは、定着穴7の深さが増すにつれて徐々に広くなるようにテーパ面状に形成されている。また、側面部には、周囲コンクリートとの一体化を高めるために必要に応じて孔開き加工が施されているか、あるいはスタッドジベルが突設されている。
【0020】
定着ブロック6は、受けブロック5の定着穴7,7にそれぞれ脱着可能に嵌合可能な嵌合部8,8とPC鋼材2の端部2aよび2bを定着するための定着板部9をそれぞれ有し、各嵌合部8は定着穴7の断面形状に対応して断面略蟻形状に形成されている。すなわち、定着穴7の内側面7aと対向する側面部8aが定着穴7の内側面7aに対応してテーパ面状に形成されている。
【0021】
また定着板部9は貫通孔9aを有し、この貫通孔9aを各PC鋼材2の切り羽側の端部2aと坑口側の端部2bがそれぞれ貫通し、かつ端部2aと2bに定着ナット10が螺合され、こうして各PC鋼材2の端部2aと端部2bが定着板部9に定着されている。
【0022】
ここで上述したように、受けブロック5の定着穴7が断面略蟻溝状に形成され、この定着穴7の断面形状に対応して、定着ブロック6の嵌合部8が断面略蟻形状に形成されていることで、PC鋼材2の緊張力は定着穴7の内側面7aと嵌合部8の側面部8aを介してセグメントリング1に伝達される。
【0023】
特に、PC鋼材2に作用する緊張力によって嵌合部8が定着穴7から抜け出そうとする力に対しては、定着穴7の内側面7aと嵌合部8の側面部8aで発生する鉛直成分で抵抗するため、嵌合部8が定着穴7から抜けることはない。
【0024】
また、定着ブロック6の嵌合部8,8が受けブロック5の定着穴7,7に脱着自在に嵌合されていることで、定着ブロック6は自由に盛り替えることができる。また、受けブロック5は定着穴7の内側面7a,7aが上記するようなテーパ面状に形成されていることで、定着ブロック6の向きを変えるだけでPC鋼材2の切り羽側および坑口側のいずれの端部をも定着可能な受けブロックとして用いることができる。
【0025】
また、受けブロック5の側面に孔開き加工が施され、あるいはスタッドジベルが突設されていることで、受けブロック5をRCセグメントのコンクリート内に確実に固定することができる。
【0026】
このようにしてトンネルの曲線部の内側に、所定量のプレストレスをトンネルの軸方向に予め導入することで、トンネルの曲線部の外側をシールドマシン11の推進ジャッキ12が押すことによりトンネルの曲線部の内側に発生する引張力は、前記プレストレスと相殺されるため過大になることはない。また、過大な偏心モーメントも発生しない。
【0027】
したがって、曲線部の施工のためだけに高価なスチールセグメント等の高強度のセグメントを用いたり、セグメント継手部の構造を特別な構造にしたりする等の特別な補強措置を講ずる必要はなくなる。
【0028】
なお、セグメントリング1に鋼製セグメントが用いられている場合、定着金具3の受けブロック5と定着ブロック6は、必ずしも上述するような形状や構造に形成されたものである必要はなく、PC鋼材2の端部を止め付けることができ、かつ鋼製セグメントに鍵やフック、あるいは締結ボルト等で固着できるものであればよく、また受けブロック5に相当するものはなくてもよい。
【0029】
また支持金具4も、PC鋼材2の緊張力に充分に耐え、PC鋼材2の中間部分をトンネルの曲線部に沿って各セグメントリング1の内側に確実に支持でき、しかも盛り替えが可能なものであれば、定着金具3と同様に形状や構造は特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は、シールド工法、推進工法のいずれの方法によっても、特別な補強措置を講ずることなく、通常のRCセグメントを用いてトンネルの曲線部をきわめて効率的にかつ経済的に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】施工時のトンネルの曲線部を示し、(a)はその応力状態を示す概要側面図、(b)はPC鋼材の配置状態を示す概要側面図である。
【図2】トンネルの曲線部を示し、(a)はトンネルの曲線部の断面図、(b)はPC鋼材の定着部の断面図である。
【図3】PC鋼材の定着部を示す断面図である。
【図4】定着ブロックを示し、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図5】受けブロックを示し、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 セグメントリング
2 PC鋼材
3 定着金具
4 支持金具
5 受けブロック
6 定着ブロック
7 定着穴
8 嵌合部
9 定着板部
10 定着ナット
11 シールドマシン
12 推進ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドマシンのテール部に複数のセグメントリングを順次継ながら設置しつつ、当該セグメントリングを反力受けに前記シールドマシンを前進させてトンネルの曲線部を構築するトンネル曲線部の構築工法において、複数のPC鋼材を前記セグメントリングに沿わせ、複数のセグメントリング間に設置することにより、前記トンネルの曲線部の内側に当該トンネルの軸方向にプレストレスを導入することを特徴とするトンネル曲線部の構築工法。
【請求項2】
PC鋼材はセグメントリングの内側に沿わせ、複数のセグメントリング間に設置することを特徴とする請求項1記載のトンネル曲線部の構築工法。
【請求項3】
PC鋼材の端部は、セグメントリングの側壁部に定着金具によって脱着自在に定着することを特徴とする請求項1または2記載のトンネル曲線部の構築工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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