説明

トンネル間シール構造

【課題】後行トンネルが先行トンネルに対して近接した場合であっても十分なシール性能を得られるトンネル間シール構造を提供することを課題とする。
【解決手段】先行トンネル10bとその隣に構築される後行トンネル10aとの間に設けられるトンネル間シール構造Sにおいて、後行トンネル10aの推進方向に沿って延在する弾性シール部材30を備え、弾性シール部材30は、後行トンネル10aに固定されるベース部31と、このベース部31から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がるリップ部32とを備えてなり、先行トンネル10bに対向するリップ部32の表面に、弾性シール部材30の延在方向に沿って突条39が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行トンネルとその隣に構築される後行トンネルとの間に設けられるトンネル間シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成することにより大断面トンネルを築造する技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行トンネルは、先行トンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
隣り合う二つのトンネルのうち、先行トンネルに対向する後行トンネルの外表面には、シール部材が推進方向に沿って設けられる(例えば、特許文献1参照)。図7に示すように、シール部材100は、後行トンネル110aの外表面に固定されるベース部101と、このベース部101と一体的に形成され先端が大断面トンネルの外側に向いたリップ部102とを備えてなる。リップ部102は、大断面トンネルの外側からの水圧によって先行トンネル110bの外表面に向かって弾性的に押し付けられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−133100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようなシール構造では、先行トンネル110bと後行トンネル110aとの間の離間距離が適正な距離である場合(図7の(a)参照)は、リップ部102が所定の圧力で先行トンネル110bの表面に接触するのでシール機能を確保できる。しかしながら、後行トンネル110aが先行トンネル110bに対して近接しすぎた場合(図7の(b)参照)には、リップ部102の表面が先行トンネル110bの表面に面接触するため、先行トンネル110bの表面に対するリップ部102の接触面積が過大になり、接触圧(面圧力)が小さくなってしまう。そのため、十分なシール性能を得られない虞がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、後行トンネルが先行トンネルに対して近接した場合であっても十分なシール性能を得られるトンネル間シール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するための請求項1に係る発明は、先行トンネルとその隣に構築される後行トンネルとの間に設けられるトンネル間シール構造において、前記後行トンネルの推進方向に沿って延在するシール部材を備え、前記シール部材は、後行トンネルに固定されるベース部と、このベース部から先行トンネルに向かって斜めに立ち上がるリップ部とを備えてなり、前記先行トンネルに対向する前記リップ部の表面に、前記シール部材の延在方向に沿って突条が形成されていることを特徴とするトンネル間シール構造である。
【0009】
この発明によれば、後行トンネルが先行トンネルに近接しすぎた場合であっても、突条が先行トンネルに接触することで、突条の周囲のリップ部の表面は先行トンネルに当接しない。これによって、リップ部の接触面積が過大になるのを防止できるので、接触圧の低下を回避することができ、十分なシール性能を得られる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記突条が、前記リップ部の先端部に形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、後行トンネルと先行トンネルとの離間距離が適正な場合(近接しすぎていない場合)でも、突条が先行トンネルに接触するので、リップ部が先行トンネルを押そうとする力(押圧力)が突条に集まり、接触圧を高めることができる。これによって、シール性能を高めることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記後行トンネルには、前記シール部材を収容するシール収容溝が形成されており、前記リップ部の前記ベース部に繋がる基端部の表面に前記突条が形成されており、前記基端部の表面が前記シール収容溝の内部に位置し、前記基端部の表面に形成された前記突条が前記シール収容溝の開口端から前記先行トンネル側に突出していることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、後行トンネルと先行トンネルとの離間距離がゼロになった場合であっても、突条の周囲に隙間が確保されるので、リップ部の押圧力が突条に集まり、接触圧を高めることができる(図1の(b)、図5の(b)参照)。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトンネル間シール構造によれば、後行トンネルが先行トンネルに対して近接した場合であっても十分なシール性能を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の第一実施形態に係るトンネル間シール構造を示した断面図、(b)はトンネル間シール構造の要部拡大図である。
【図2】後行トンネルが先行トンネルから離間した状態のトンネル間シール構造を示した断面図である。
【図3】シール部材を示した斜視図である。
【図4】大断面トンネルを示した断面図である。
【図5】(a)は本発明の第二実施形態に係るトンネル間シール構造を示した断面図、(b)はトンネル間シール構造の要部拡大図である。
【図6】(a)は後行トンネルが先行トンネルから離間した状態のトンネル間シール構造を示した断面図、(b)は要部拡大図である。
【図7】従来のシール構造を示した図であって、(a)は先行トンネルと後行トンネルとの間が適正な距離である場合を示した断面図、(b)は後行トンネルが先行トンネルに対して近接しすぎた場合を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係るトンネル間シール構造を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図1および図2においては、後行トンネルが先行トンネルの上側にある状態を図示している。
【0017】
図4に示すように、トンネル間シール構造Sは、推進工法によって並設された複数本のトンネル10を利用して築造する大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル10,10,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各トンネル10は、軸方向に連接されたトンネル函体によって構成されている。
【0018】
トンネル間シール構造Sは、シール部材30と、シール当接部材50とを備えてなる。図2に示すように、シール部材30は、隣り合う二つのトンネル10,10の隙間を閉塞するように設けられている。シール部材30は、一方のトンネル10(後行トンネル10a)の表面のうち、他方のトンネル10(先行トンネル10b)に対向する部分に設けられている。先行トンネル10bの表面には、シール当接部材50が埋設されている。シール部材30は、シール当接部材50に対向して配置されており、後行トンネル10aの外周面に所定深さで形成されたシール収容溝15に収容されている。シール部材30は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の弾性材料にて構成されている。シール部材30は、推進方向に沿って連続して設けられている。シール部材30は、ベース部31とリップ部32とを備えてなる。
【0019】
ベース部31は、後行トンネル10aに固定される部分であって、推進方向(図2の紙面垂直方向)に沿って連続する長尺の板状に形成されている。ベース部31は、押さえ板33,33によって、幅方向両端部が係止されている。ベース部31の幅方向端部(押さえ板33によって押さえられる部分)の厚さ寸法(後記する底部突条39の先端から先行トンネル10b側の表面までの寸法)は、押さえ板33とシール収容溝15の底面との距離よりも僅かに大きくなっている。押さえ板33は、ベース部31の幅方向両端部にそれぞれ設けられている。押さえ板33は、シール部材30の長手方向(図2の紙面垂直方向)に沿って延在しており、ボルトB等の固定手段によって、シール収容溝15の底面に固定されている。押さえ板33は、断面L字状を呈している。押さえ板33には、ボルト貫通孔34が形成されている。ボルトBは、ボルト貫通孔34およびシール収容溝15の底面の貫通孔36に挿通され、底面の裏面に溶接固定されためねじ部材37に螺合される。リップ部32の基端に隣接する押さえ板33は、その表面が後行トンネル10aの外表面(シール収容溝15の開口端)と面一になっている。リップ部32の先端側に位置する押さえ板33は、その表面が後行トンネル10aの外表面よりも深い位置となっており、押さえ板33よりもシール収容溝15の開口端側のスペースにリップ部32の先端部が収容可能となっている。
【0020】
ベース部31の底面(シール収容溝15の底面に対向する面)には、長手方向に延在する底部突条38が形成されている。底部突条38は、断面半円形状を呈しており、ベース部31の幅方向両端部近傍にそれぞれ形成されている。ベース部31が押さえ板33,33で押さえられた状態で、底部突条38は、その突端がシール収容溝15の底面に押し付けられて、平らに弾性変形した状態となる。これによって、後行トンネル10aの外表面(シール収容溝15の底面)とベース部31とのシール性が確保されている。なお、底部突条38の本数は2本に限定されるものではなく、1本または3本以上であってもよい。また、底部突条38の断面形状は半円形に限定されるものではなく、三角形形状、多角形形状等、先端が先細りになっている形状が好ましい。さらに、底部突条38の断面形状は、先端側に向かうにつれて幅が同一である断面矩形形状であってもよい。
【0021】
本実施形態では、ベース部31に底部突条38を形成しているが、形成しない場合もある。この場合であっても、ベース部31は、押さえ板33,33によって幅方向両端部が係止されて締め付けられているので、シール収容溝15の底面に密着している。これによって、後行トンネル10aの表面とベース部31との間のシール性が確保される。
【0022】
リップ部32は、ベース部31と一体的に形成されている。リップ部32は、ベース部31の表面から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がっており、ベース部31とリップ部32とで、断面が略V字状(図2ではリップ部32が下向きとなるように配置されている)を呈している。リップ部32は、ベース部31に対して弾性的に傾倒変形可能な部位である。リップ部32は、その先端部が先行トンネル10b側に向かって延在していて、初期状態よりも傾倒した状態(リップ部32がベース部31に近づいた状態)で、先行トンネル10bの外表面に接触する。このとき、リップ部32は、初期状態に復元しようとする力によって、先行トンネル10bに密着する。
【0023】
図2および図3に示すように、リップ部32の表面(先行トンネル10bに対向する面)には、シール部材30の延在方向に沿って突条39が形成されている。突条39は、断面半円形状を呈しており(図3参照)、リップ部32の先端部と、その位置よりも基端部寄りの二箇所に形成されている。二つの突条39,39は、それぞれ同等の大きさの断面形状を呈しており、互いに平行に配置されている。先端部の突条39は、基端側のリップ部32の突出方向中間部よりも先端部寄りに形成されている。基端部寄りの突条39は、リップ部32の突出方向中間部よりも基端部寄りに形成されている。後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して近接した状態で、突条39は、先行トンネル10bの表面(シール当接部材50の表面)に押し付けられて、突条39の表面の一部(突端部)が平らに弾性変形した状態となる(図2参照)。突条39は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの離間距離に応じて、先端部寄りの突条39のみが先行トンネル10bに当接して変形する場合と、先端部寄りの突条39および基端部寄りの突条39の両方が先行トンネル10bに当接して変形する場合がある。なお、突条39の本数は2本に限定されるものではなく、1本または3本以上であってもよい。また、突条39の断面形状は半円形に限定されるものではなく、三角形形状、多角形形状等、先端が先細りになっている形状が好ましい。さらに、突条39の断面形状は、先端側に向かうにつれて幅が同一である断面矩形形状であってもよい。
【0024】
シール部材30は、リップ部32の先端が大断面トンネル1(図4参照)の外側に向くように配置されている。つまり、ベース部31とリップ部32とにより形成される断面略V字状の溝条が、大断面トンネル1の外側に向いて開くように配置されている。これによって、シール部材30の断面略V字状の溝条部分に、大断面トンネル1の外側からの圧力(水圧または土圧)が作用するようになっている。すなわち、突条39が形成されたリップ部32の表面は、その復元力に合わせて、大断面トンネル1の外側の圧力によっても先行トンネル10bの外表面に押圧されて、先行トンネル10bに密着する。この復元力と大断面トンネル1の外側の圧力とが、リップ部32の押圧力となる。
【0025】
シール収容溝15は、掘削機(図示せず)の後方に位置する複数の推進函体からなる後行トンネル10aの表面に形成されている。シール収容溝15は、後行トンネル10aの表面のうち、先行トンネル10bに対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。シール収容溝15は、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部の内側に、溶接固定された側板16a,16aと底板16bとで区画されている。シール収容溝15は、シール部材30を収容できるように、シール部材30の幅寸法より大きい幅寸法を有している。図2に示すように、シール収容溝15は、ベース部31の厚さ寸法より大きく、シール部材30全体の厚さ寸法より小さい深さ寸法を有しており、シール部材30をシール収容溝15に収容したときにリップ部32の先端側(ベース部31につながる基端側の逆側)の一部が、シール収容溝15の開放端から突出するようになっている。
【0026】
なお、シール部材30は、断面略V字状に形成されているが、シール部材30の構成を限定する趣旨ではない。例えば、断面U字状、L字状、T字状等、他の形状であってもよい。また、シール部材30の構成は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、袋体の内部に流体を充填して先行トンネルに押圧される構成のものであってもよい。
【0027】
シール当接部材50には、シール部材30の先端部が当接する。シール当接部材50は、シール部材30と同様に、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。シール当接部材50は、先行トンネル10bの表面に埋設されている。具体的には、シール当接部材50は、シール部材30に対向して、シール部材30と平行に配置されており、先行トンネル10bの外周面に形成された当接部材収容溝20に収容されている。シール当接部材50は、幅方向中央部が突出した断面凸形形状を呈しており、頂部の先端面(先行トンネル10bの表面に露出する面)にシール部材30のリップ部32が当接して摺動するようになっている。シール当接部材50の先端面は、先行トンネル10bの外表面(当接部材収容溝20の開口端)と面一になっている。シール当接部材50の幅方向両側の段差部分50a,50bのうち、大断面トンネルの外部側に位置する段差部分50a(図2中、左側)は、大断面トンネルの内部側に位置する段差部分50b(図2中、右側)よりも背が高く(厚く)なっている。なお、シール当接部材50の幅方向両側の段差部分50a,50bは、同じ高さであってもよい。
【0028】
シール当接部材50は、押さえ板53,53によって、幅方向両端部が係止されている。押さえ板53は、シール当接部材50の長手方向(図2の紙面垂直方向)に沿って延在しており、ボルトB等の固定手段によって、当接部材収容溝20の底面に固定されている。押さえ板53は、断面L字状を呈している。押さえ板53には、ボルト貫通孔54が形成されている。ボルトBは、ボルト貫通孔54および当接部材収容溝20の底面の貫通孔56に挿通され、底面の裏面に溶接固定されためねじ部材57に螺合される。両方の押さえ板53,53は、その表面が先行トンネル10bの外表面(当接部材収容溝20の開口端)およびシール当接部材50の表面と面一になっている。シール当接部材50の段差部分50a,50bの厚さに応じて、大断面トンネルの外部側に位置する押さえ板53(図2中、左側の押さえ板)の係止部53a(シール当接部材50の上側に位置する部分)は、大断面トンネルの内部側に位置する押さえ板53(図2中、右側の押さえ板)の係止部53bよりも薄くなっている。なお、シール当接部材50の幅方向両側の段差部分50a,50bが、互いに同じ高さである場合は、大断面トンネルの左右の押さえ板53の係止部53aと係止部53bも、互いに同じ厚さとなる。
【0029】
シール当接部材50の底面(当接部材収容溝20の底面に対向する面)には、長手方向に延在する底部突条58が形成されている。底部突条58は、底部突条38と同様に、断面半円形状を呈しており、シール当接部材50の幅方向両端部近傍にそれぞれ形成されている。シール当接部材50が押さえ板53で押さえられた状態で、底部突条58は、その突端部が当接部材収容溝20の底面に押し付けられて、平らに弾性変形した状態となる。これによって、先行トンネル10bの外表面(当接部材収容溝20の底面)とシール当接部材50とのシール性が確保されている。なお、底部突条58の本数は2本に限定されるものではなく、1本または3本以上であってもよい。また、底部突条58の断面形状は半円形に限定されるものではなく、三角形形状、多角形形状等、先端が先細りになっている形状が好ましい。さらに、底部突条58の断面形状は、先端側に向かうにつれて幅が同一である断面矩形形状であってもよい。
【0030】
本実施形態では、シール当接部材50に底部突条58を形成しているが、形成しない場合もある。この場合であっても、シール当接部材50は、押さえ板53,53によって幅方向両端部が係止されて締め付けられているので、当接部材収容溝20の底面に密着している。これによって、先行トンネル10bの表面とシール当接部材50との間のシール性が確保される。
【0031】
当接部材収容溝20は、先行トンネル10bの表面に形成されている。当接部材収容溝20は、先行トンネル10bの表面のうち、シール部材30の通過位置に対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。当接部材収容溝20は、シール収容溝15と同様に、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部の内側に、溶接固定された側板26a,26aと底板26bとで区画されている。当接部材収容溝20は、シール当接部材50を収容できるように、シール当接部材50の幅寸法より大きい幅寸法を有している。当接部材収容溝20は、シール当接部材50の厚さ寸法(底部突条38から表面までの厚さ)と略同等の深さ寸法を有しており、シール当接部材50を当接部材収容溝20に収容したときに、シール当接部材50の表面が、先行トンネル10bの外表面(当接部材収容溝20の開口端)と面一になるようになっている。
【0032】
次に、図1および図2を参照しながら、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して近接または離間した状態でのトンネル間シール構造Sの形状および作用を説明する。
【0033】
図1および図2に示すように、後行トンネル10aの推進時には、少なくともシール部材30のリップ部32の先端部がシール当接部材50の表面に当接した状態で摺動する。
【0034】
図1に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して近接し過ぎて、各スキンプレート11,11が互いに接触する状態(離間距離がゼロの状態)になると、リップ部32は、その表面がシール当接部材50の表面と略平行となる状態となる。このとき、リップ部32の表面に突条39が形成されているので、突条39がシール当接部材50の表面に当接することで、突条39の周囲のリップ部32は後行トンネル10a側に押されることとなり、突条39の周囲のリップ部32の表面は当接しない。なお、本実施形態では、突条39がリップ部32の先端部から所定距離をあけて配置されているので、リップ部32の先端部は、大断面トンネル1の外側の水圧等に押圧されて先行トンネル10b側に弾性変形し、シール当接部材50の表面に当接している。このように、リップ部32は部分的にシール当接部材50に当接し、表面全体がシール当接部材50に当接することはないので、リップ部32の接触面積が過大になるのを防止できる。よって、リップ部32の先行トンネル10b側への押圧力を比較的小面積の接触面に作用させることができる。これによって、接触圧の低下を回避することができ、十分なシール性能を得られる。また、突条39は、押圧されて突端部が平らに弾性変形しているので、シール幅を確保することができ、さらなるシール性能の向上を図れる。さらに、突条39は、シール部材30の長手方向に沿って連続して形成されているので、シール性能が途切れることはない。さらに、突条39を二列形成したことで、二重のシールが構成されるので、シール性能が高い。
【0035】
図2に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して離間した状態になると、リップ部32は、その先端部(図2では先端部寄りの突条39も含む)のみがシール当接部材50と当接する。このとき、シール当接部材50の表面と接触しているのは、先端部寄りの突条39と、突条39よりも先端側のリップ部32の表面のみであるので、接触面積は比較的小さい。よって、リップ部32の先行トンネル10b側への押圧力を比較的小面積の接触面に作用させることができ、接触圧の低下を回避することができるので、十分なシール性能を得られる。さらに、突条39がシール当接部材50に当接していることによって、リップ部32にかかる押圧力が突条39に集まり、リップ部32の表面よりも高い接触圧がかかるので、シール性能を高められる。
【0036】
このように本実施形態のトンネル間シール構造Sによれば、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの離間距離が適正な場合(近接しすぎていない場合)でも、突条39が先行トンネル10bに接触するので、リップ部32の押圧力を突条39に集中させて、先行トンネル10bへの接触圧を高めることができる。これによって、シール性能を高めることができる。
【0037】
さらに、シール部材30に対向してシール当接部材50を設けているので、リップ部32と先行トンネル10bの表面(シール当接部材50の表面)との密着性が高くなり、シール性能をより一層高めることができる。
【0038】
以上のように、本実施形態のトンネル間シール構造Sによれば、後行トンネル10aが先行トンネル10bから離間した場合でも、後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接しすぎてリップ部32が先行トンネル10bに押し付けられた場合のいずれであっても、十分なシール性能を得ることができる。
【0039】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態に係るトンネル間シール構造を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。第二実施形態に係るトンネル間シール構造Sは、シール部材30に形成される突条39の位置が第一実施形態と異なる。なお、その他の構成については、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
本実施形態に係るトンネル間シール構造Sのシール部材30の突条39は、図6に示すように、リップ部32のベース部31に繋がる基端部(肩部)40の表面に形成されている。肩部40の表面は、シール収容溝15の内部に位置している(後行トンネル10aの外表面から所定深さシール収容溝15の底側に位置している)。肩部40の表面に形成された突条39がシール収容溝15の開口端から先行トンネル10b側に突出している(図6の(b)参照)。
【0041】
以上のような構成によれば、図5に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して当接した状態で、突条39は、先行トンネル10bの表面(シール当接部材50の表面)に押し付けられて、突条39の表面の一部(突端部)が平らに弾性変形した状態となる。このとき、肩部40の表面は、シール収容溝15の内部に位置しているので、突条39の周囲に先行トンネル10bとの間に隙間を確保でき、肩部40の表面は先行トンネル10bの表面に当接しない。これによって、先行トンネル10bへの接触面積を低減できる。また、突条39はシール当接部材50の表面に当接するので、先行トンネル10bから肩部40に作用する応力を集中して受けられ、接触圧を高めることができ、シール性能を高めることができる。
【0042】
また、図6に示すように、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの離間距離が適正な場合には、リップ部32は、その先端部がシール当接部材50と当接する。このとき、シール当接部材50の先行トンネル10bへの接触面積は比較的小さい。よって、リップ部32の先行トンネル10b側への押圧力を比較的小面積の接触面に作用させることができ、接触圧の低下を回避することができるので、十分なシール性能を得られる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、第一実施形態に係るトンネル間シール構造Sでは、リップ部32の先端部に突条39を形成し、第二実施形態に係るトンネル間シール構造Sでは、リップ部32の肩部40の表面に突条39を形成しているが、突条39の形成位置を限定する趣旨ではない。例えば、第一実施形態の突条39の形成位置に合わせて肩部40の表面(第二実施形態)にも突条39を形成してもよいし、その他のリップ部32の表面に当接する部分に突条39を適宜形成してもよい。また、シール当接部材50の先端面に突条を形成してもよい。
【0044】
また、前記実施形態では、シール部材30を後行トンネルの外周面から凹んだシール収容溝15に収容しているが、シール収容溝15を設けずに、シール部材を後行トンネルの外周面に設置してもよい。この場合も、シール部材の幅方向両側に、押さえ板がそれぞれ設けられて固定される。各押さえ板は前記押さえ板33,33と同等の形状で断面L字状のものでよい。押さえ板は、後行トンネルの外周面にボルトによって固定され、シール部材を幅方向両側から押さえて固定する。ここで、両側の押さえ板が壁面を構成するので、後行トンネルの外周面の外側にシール収容溝が形成されていることとなる。つまり、後行トンネルの外周面の外側に突出して形成されたシール収容溝にシール部材が収容されていることとなる。そして、シール部材のリップ部は、押さえ板の外周側端部(シール収容溝の開口端部)よりも先行トンネル側に突出した状態となる。
【0045】
さらには、前記実施形態では、シール当接部材50を先行トンネルの外周面から凹んだ当接部材収容溝20に収容しているが、当接部材収容溝を設けずに、先行トンネルの外周面に設置してもよい。この場合、シール当接部材の幅方向両側に、押さえ板がそれぞれ設けられて固定される。このときの各押さえ板は前記押さえ板53,53と同等の形状で断面L字状のものでよく、先行トンネルの外周面にボルトによって固定される。前記各押さえ板はシール当接部材を幅方向両側から押さえて固定する。シール当接部材の先端面は、押さえ板の外周側端部と面一となるようにする。ここで、両側の押さえ板が壁面を構成するので、先行トンネルの外周面の外側に当接部収容溝が形成されていることとなる。つまり、先行トンネルの外周面の外側に突出して形成された当接部収容溝にシール当接部材が収容されていることとなる。
【0046】
また、本実施形態では、シール部材30に対向する位置にシール当接部材50を設けているが、シール当接部材50を設けずに、シール部材30を先行トンネル10bのスキンプレート11の表面に当接させるようにしても、作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
S トンネル間シール構造
10a 後行トンネル
10b 先行トンネル
15 シール収容溝
30 シール部材
39 突条
50 シール当接部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行トンネルとその隣に構築される後行トンネルとの間に設けられるトンネル間シール構造において、
前記後行トンネルの推進方向に沿って延在するシール部材を備え、
前記シール部材は、後行トンネルに固定されるベース部と、このベース部から先行トンネルに向かって斜めに立ち上がるリップ部とを備えてなり、
前記先行トンネルに対向する前記リップ部の表面に、前記シール部材の延在方向に沿って突条が形成されている
ことを特徴とするトンネル間シール構造。
【請求項2】
前記突条は、前記リップ部の先端部に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のトンネル間シール構造。
【請求項3】
前記後行トンネルには、前記シール部材を収容するシール収容溝が形成されており、
前記リップ部の前記ベース部に繋がる基端部の表面に前記突条が形成されており、
前記基端部の表面が前記シール収容溝の内部に位置し、前記基端部の表面に形成された前記突条が前記シール収容溝の開口端から前記先行トンネル側に突出している
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトンネル間シール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−92021(P2013−92021A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236201(P2011−236201)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】