説明

トーションビームの製造方法

【課題】応力除去熱処理を行わず、冷間成形加工のみで耳部の引張残留応力を低減させうるトーションビームの製造方法を提供する。
【解決手段】金属板のブランク(被加工材1)を成形加工して、長手方向に真直ぐで、長手方向の一部において幅方向の両端部がカール状の耳部1cをなし残りの幅部分が単層のU字形断面形状である製品形状のトーションビームとなすにあたり、まず前記ブランクの前記耳部にする領域をカーリング加工し、その後、幅方向をU字形断面形状に曲げ加工すると同時に、前記U字形断面形状のU字底外面側を曲げ外側とする長手方向の曲げ加工を行い、次いで長手方向を真直ぐにする曲げ矯正加工を行うことにより、前記耳部に0.2〜0.6%の残留塑性曲げひずみを付与する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトーションビームの製造方法に関し、詳しくは、長手方向に真直ぐで、長手方向の一部において、幅方向の両端部がカール状の耳部をなし幅方向の残りの幅部分が単層のU字形断面形状であるような、製品形状を有するトーションビームを、金属板のブランクを素材とする成形加工によって有利に製造しうるトーションビームの製造方法に関する。尚、前記U字形は、V字形も含む(以下同じ)。又、前記成形加工は冷間で行われる(以下同じ)。
【背景技術】
【0002】
上述の製品形状を有するトーションビームに相当するものとして、特許文献1に記載の、「トーションビーム式アクスルのための、鋼からなるクロスストラットであって、該クロスストラットがその長さの大部分にわたって、U字形の単層の横断面プロファイルを有しており、該横断面プロファイルが、2つの脚と、該脚を結ぶ、1つの弓形の嶺区分とから成る形式のもの」(特許文献1[0001])において、「少なくとも1つの脚の自由な端部に、中空プロファイル状に湾曲した長さ区分が設けられており、かつ該長さ区分がその端面の領域で、脚の内側の表面または外側の表面に接合されているようにした」もの(特許文献1[0006])が知られている。かかる記載における「中空プロファイル状に湾曲した長さ区分」で且つ「該長さ区分がその端面の領域で、脚の内側の表面または外側の表面に接合されている」ものが、上記カール状の耳部に該当する。
【0003】
上述の製品形状を有するトーションビームでは、それまでの、単層のU字形断面形状の両端部に前記耳部がないものや、パイプを管径方向に潰すことによって二層のU字形断面形状を形成すると同時に当該断面形状の両端部に前記耳部相当の中空部を形成したものに比べて、同じ剛性を得るための材料重量をより小さくすることができる(特許文献1[0005])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−29155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記製品形状のトーションビームを製造するための従来法は、金属板のブランクの長手方向の一部における幅方向端部を成形してカール状の耳部となす加工すなわちカーリング加工を行った後、長手方向を真直ぐに拘束して幅方向をU字形断面形状に曲げ加工するという方法である。
しかしながら、成形製品の前記耳部には前記カーリング加工による大きな引張残留応力が残留して、耐疲労特性を低下させるので、この引張残留応力を低減するための応力除去熱処理を行う必要があり、生産性や低コスト化を阻害するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、その結果、前記応力除去熱処理を行わず、冷間成形加工のみで前記耳部の引張残留応力を低減させうる手段に想到し、本発明をなした。
すなわち本発明は、金属板のブランクを成形加工して、長手方向に真直ぐで、長手方向の一部において幅方向の両端部がカール状の耳部をなし残りの幅部分が単層のU字形断面形状である製品形状のトーションビームとなすにあたり、まず前記ブランクの前記耳部にする領域をカーリング加工し、その後、幅方向をU字形断面形状に曲げ加工すると同時に、前記U字形断面形状のU字底外面側を曲げ外側とする長手方向の曲げ加工を行い、次いで長手方向を真直ぐにする曲げ矯正加工を行うことにより、前記耳部に0.2〜0.6%の残留塑性曲げひずみを付与することを特徴とするトーションビームの製造方法である。
【0007】
本発明では、前記金属板を鋼板とし、長手方向曲げ加工段階において、除荷後の長手方向曲がりの曲率半径をR、U字形の高さをhとしたとき、e=(h/(2R+h))×100(%)、なる式で算出される、除荷後の幾何学的曲げひずみeが2〜6%となるように、前記長手方向の曲げ加工を行うとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来必要とされた応力除去熱処理を行わずして耐疲労特性に優れるトーションビームを製造でき、生産性向上及びコスト低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の1例を示す成形工程の概略図
【図2】残留応力比率γと残留塑性曲げひずみεの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態の1例を示す成形工程の概略図である。図1(a)に示す成形加工前の被加工材1(金属板のブランク)の平面形状は、従来と同様、成形加工後の製品立体図形を平面に展開した図形を基に設定される。製品形状は、図1(d)に示すように、長手方向に真直ぐで、長手方向の一部(本例では長手方向中央部)において幅方向両端部がカール状の耳部1cをなし残りの幅部分が単層のU字形断面形状である。本例では、製品長手方向における耳部1cのない部分(本例では長手方向両端部)を楕円形断面形状としているので、これに対応するブランク長手方向両端部には、耳部1c付きのU字形断面形状にするブランク長手方向中央部よりも広い幅をもたせている。
【0011】
図1(a)の被加工材1(ブランク)に対して、まず、図1(b)に示すように、耳部1cとされるべき領域をカーリング加工し、耳部1cを形成する。この加工は例えばプレス加工(耳部成形プレス加工)で実施される。
その後、図1(c)に示すように、耳部1cを含む長手方向中央部の幅方向をU字形断面形状に曲げ加工すると同時に、前記U字形断面形状のU字底外面側を曲げ外側とする長手方向の曲げ加工を行い、次いで、図1(d)に示すように、長手方向を真直ぐにする曲げ矯正加工を行って製品を得る。このとき、前記長手方向の曲げ加工において、その次に行われる曲げ矯正加工の後の耳部1cの残留塑性曲げひずみ(除荷後の残留塑性曲げひずみ)が0.2〜0.6%になるように、曲げ加工量を設定することで、製品の耳部に0.2〜0.6%の残留塑性曲げひずみを付与することができる。
【0012】
なお、耳部1cを形成させない長手方向部分(本例では長手方向両端部)に対する成形加工は、本例では、楕円形断面形状への成形加工としているが、これ以外の断面形状への成形加工であってもよい。
図2は、曲げ矯正模擬実験で求めた残留応力比率γと残留塑性曲げひずみεの関係を示すグラフである。残留塑性曲げひずみεは、歪みゲージ切出し法或いはX線法で計測される、除荷後の耳部の最大主ひずみであり、一方、残留応力比率γは、前記最大主ひずみの箇所の切り出しによる解放ひずみに対応する応力値(最大主応力の最大値)σと、引張試験で計測した素材の降伏強度YSとから、γ=(σ/YS)×100(%)、なる式で算出される。図示のとおり、残留応力比率γは、残留塑性曲げひずみεの増加につれて図中の曲線に沿って減少し、εが0.2%以上の範囲(図中の範囲Z)において、γは50%以下になる。前述の従来法(カーリング加工後、長手方向を真直ぐに拘束して幅方向をU字形断面形状に成形加工する方法)では、γは50%を超えていたが、本発明では、図2に基づきεを0.2%以上と限定したのでγを50%以下に低減させることができ、応力除去熱処理を省略することができる。
【0013】
尚、εを大きくし過ぎると、長手方向曲げ加工時に座屈等を生じて形状不良を招くため、εは0.6%以下に限定した。
成形製品の耳部の残留塑性曲げひずみεを0.2〜0.6%に管理するには、例えば通常の鋼製トーションビームの場合、長手方向曲げ加工段階(図1(c))において、除荷後の長手方向曲がりの曲率半径をR、U字形の高さをhとしたとき、e=(h/(2R+h))×100(%)、なる式で算出される、除荷後の幾何学的曲げひずみeが2〜6%となるように、前記長手方向曲げ加工を実施すればよい。
【実施例】
【0014】
実施例として、図1に示した実施形態において、引張強度690MPa級、板厚3.5mmの鋼板のブランクを素材とし、残留塑性曲げひずみεを表1のとおり種々変えて、スモールクラス車用トーションビームを製造した。該製造したトーションビームについて、耳部の残留応力比率γを求め、且つ、スモールクラス車に実装されたトーションビームが受けると推定される繰り返し応力負荷状態を模した疲労試験を行い、耐久寿命(回数)を調べた。その結果を表1に示す。同表より、本発明例では、比較例及び従来例に比べて格段に高い耐久寿命を示し、形状不良も起こしていないことがわかる。
【0015】
【表1】

【符号の説明】
【0016】
1 被加工材(金属板のブランクを素材とする)
1c カール状の耳部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板のブランクを成形加工して、長手方向に真直ぐで、長手方向の一部において幅方向の両端部がカール状の耳部をなし残りの幅部分が単層のU字形断面形状である製品形状のトーションビームとなすにあたり、まず前記ブランクの前記耳部にする領域をカーリング加工し、その後、幅方向をU字形断面形状に曲げ加工すると同時に、前記U字形断面形状のU字底外面側を曲げ外側とする長手方向の曲げ加工を行い、次いで長手方向を真直ぐにする曲げ矯正加工を行うことにより、前記耳部に0.2〜0.6%の残留塑性曲げひずみを付与することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項2】
前記金属板を鋼板とし、長手方向曲げ加工段階において、除荷後の長手方向曲がりの曲率半径をR、U字形の高さをhとしたとき、e=(h/(2R+h))×100(%)、なる式で算出される、除荷後の幾何学的曲げひずみeが2〜6%となるように、前記長手方向の曲げ加工を行うことを特徴とする請求項1に記載のトーションビームの製造方法。


【図1】
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【図2】
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