説明

トール油を用いた洗剤およびその製造方法

【課題】洗浄効果が高く、且つ環境や人体に優しい洗剤を提供する。
【解決手段】200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トール油を用いた洗剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
松材を原料にしてクラフトパルプを製造する過程で副産物として生成される樹脂と脂肪酸から成る原料を濃縮すると黒液ができる。この黒液を中和して得られる粗トール油から分離してできるオレイン酸とリノール酸を主成分とするトール脂肪酸は、印刷インキ、塗料、接着剤、製紙用サイズ剤、はんだ用フラックス、医薬品、香料、界面活性剤等の工業用中間原料として使用されている。特にトール油を水で混合し乳化したものは、界面活性作用があるので洗剤に利用されている。このような洗剤は、植物由来のトール油を原料としていることから微生物などによる生分解が容易に行われるため、近年では環境に優しい洗剤として見直されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなトール油を用いた洗剤は、以前から機械や工具類の洗浄に用いられているが、人体や環境への安全性に優れている反面、その洗浄能力は他の化学合成による合成洗剤と比較すると不十分であり、あまり普及していないのが現状である。しかし、高効率化は大きな課題である一方、今や社会的常識となっている環境への配慮も欠かせない課題であるため、この両方の課題を満たすような洗剤の実用化が期待されてきた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために成された本発明に係る洗剤は、200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合したことを特徴としている。
【0005】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る洗剤の製造方法は、200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合することを特徴としている。
【0006】
オレイン酸とリノール酸を主成分とし松材から得られるトール油は、コロイド状微粒子であり微細なミセル構造を形成するため、汚れを発現する物質粒子の周りを取り囲みコロイド同士の反発作用によって付着表面から引き離す性質を持つ植物由来の天然界面活性剤である。しかし、このトール油は水に分散させて用いられるため、水の特性によってその効果が変わってくる。希薄電解質溶液を電解すると、陽極側ではpHが下がり酸を形成し、陰極側ではpHが上がりアルカリを形成する。この時のpH変化は水素イオンであるHと水酸イオンであるOHの濃度によるものであり、これらの対イオンである陰イオンおよび陽イオン濃度に依存するものであって溶質に起因する結果であるが、電解することで水のイオン積が変化する結果、水の解離度が大きくなり油脂類を良く溶解させるようになる。すなわち、本発明に係る洗剤は、トール油を電解水に分散させることによって、その洗浄能力を飛躍的に向上させたものである。
【発明の効果】
【0007】
上記構成を有する本発明に係る洗剤及びその製造方法によれば、優れた洗浄効果を有し、且つ環境や人体に優しい洗剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る洗剤の製造工程の概略を図1に示す。本発明に係る洗剤は、200〜1000μS/cmに調整された電解質溶液、好ましくは350〜500μS/cmに調整された電解質溶液(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、及び硫酸ナトリウムから選択される1種類以上を含む電解質溶液)を毎分1Lの該溶液に対して5〜8Aで直流印加にて1次電解して得られる1次電解生成溶液を貯水槽に貯留し、該1次電解生成溶液を毎分1Lの該溶液に対して4〜6Aで直流印加にて2次電解した2次電解生成溶液にトール油を容量比で1:0.005〜1:1で混合、好ましくは1:0.01〜1:1で混合することによって製造される。なお、図1の洗剤原料貯槽は洗剤原料であるトール油を貯留するものであり、洗剤攪拌槽は上記2次電解生成溶液にトール油を添加して撹拌混合するためのものである。また、以上により製造された洗剤は、製品充填装置によって所定量ずつ容器に充填される。
【0009】
上記1次電解では家庭用電解生成器の5倍以上の直流を印加するためpH変化も大きく、陽極側ではpH2.5以下、陰極側では11以上になり、水の解離度の指標である「水のイオン積」の値が大きくなる。これらの電解生成溶液のpHや「水のイオン積」を維持するため、毎分1Lに対して4〜6Aで直流印加した2次電解生成溶液とする。2次電解槽で循環電解することで連続的に大量生産する場合、これらのpHや水の解離度を一定範囲に維持することが可能となる。上記の1次および2次電解では、陽極側電解生成溶液と陰極側電解生成溶液の両方を使用することができ、特に、陰極側電解生成溶液にキレート剤であるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を使用することでガラス等へのミネラルの付着を防止することができる。
【実施例1】
【0010】
本実施例に係る洗剤の製造に用いられる装置の概略構成を図2,図3に示す。原水である水道水の水圧を減圧弁を用いて調整した上でイオン交換樹脂による脱イオン装置を通し、脱イオン化した原水に、予め高濃度の電解質溶液として炭酸水素ナトリウムを定量ポンプにて添加して400μS/cmに調整する。得られた電解質溶液を1次電解槽で毎分1Lに対して7.5Aで直流にて電解し、生成した1次陽極側電解生成溶液と1次陰極側電解生成溶液をそれぞれ陽極側電解生成溶液用貯留槽(陽極水貯水槽)と陰極側電解生成溶液用貯留槽(陰極水貯水槽)に貯留する。陰極側電解生成溶液用貯留槽中の1次陰極側電解生成溶液をポンプを用いて循環し、2次電解槽にて毎分1Lに対して5Aで直流にて電解を行う。以上により得られた陰極側電解生成溶液にEDTAを100mg/Lで添加し、該溶液とトール油を容量比で1:1の割合で混合することによって活性洗剤を得る。
【0011】
上記本実施例の洗剤と、原水である水道水とトール油を容量比で1:1の割合で混合した洗剤(コントロール)を使用し、洗剤濃度0.01PPmで、牛乳をパレットに塗布して乾燥させたサンプルの剥離試験を行った。該剥離試験の結果を以下の表1に示す。
【0012】
【表1】

【実施例2】
【0013】
原水である水道水の水圧を減圧弁を用いて調整した上でイオン交換樹脂による脱イオン装置を通し、脱イオン化した原水に予め高濃度の電解質溶液として硫酸ナトリウムを定量ポンプにて添加して600μS/cmに調整する。得られた電解質溶液を1次電解槽で毎分1Lに対して6Aで直流にて電解し、生成した1次陽極側電解生成溶液と1次陰極側電解生成溶液をそれぞれ陽極側電解生成溶液用貯留槽と陰極側電解生成溶液用貯留槽に貯留する。陰極側電解生成溶液用貯留槽中の1次陰極側電解生成溶液をポンプを用いて循環し、2次電解槽にて毎分1Lに対して5Aで直流にて電解を行う。以上により得られた陰極側電解生成溶液にEDTAを50mg/Lで添加し、該溶液とトール油を容量比で1:0.1の割合で混合することによって活性洗剤を得る。
【0014】
上記本実施例の洗剤と、原水である水道水とトール油を容量比で1:1の割合で混合した洗剤(コントロール)を使用し、洗剤濃度0.01PPmで、牛乳をパレットに塗布して乾燥させたサンプルの剥離試験を行った。該剥離試験の結果を以下の表2に示す。
【0015】
【表2】

【実施例3】
【0016】
原水である水道水の圧力を減圧弁を用いて調整した上でイオン交換樹脂により脱イオンし、脱イオン化した原水に高濃度の電解質溶液として炭酸水素ナトリウムと塩化ナトリウムを定量ポンプにて添加して300μS/cmに調整する。得られた電解質溶液を1次電解槽で毎分1Lに対して7.5Aで直流にて電解し、生成した1次陽極側電解生成溶液と1次陰極側電解生成溶液をそれぞれ陽極側電解生成溶液用貯留槽と陰極側電解生成溶液用貯留槽に貯留する。陰極側電解生成溶液用貯留槽中の1次陰極側電解生成溶液をポンプを用いて循環し、2次電解槽にて毎分1Lに対して5Aで直流にて電解を行う。以上により得られた陰極側電解生成溶液にEDTAを500mg/Lで添加し、該溶液とトール油を容量比で1:0.5の割合で混合することによって活性洗剤を得る。
【0017】
本実施例の洗剤と、原水である水道水とトール油を容量比で1:1に混合した洗剤(コントロール)を使用し、洗剤濃度0.01PPmで、牛乳をパレットに塗布して乾燥させたサンプルの剥離試験を行った。該剥離試験の結果を以下の表3に示す。
【0018】
【表3】

【実施例4】
【0019】
原水である水道水の水圧を減圧弁を用いて調整した上でイオン交換樹脂により脱イオン化し、脱イオン化した原水に高濃度の電解質溶液として炭酸水素ナトリウムと塩化カルシウムを定量ポンプにて添加して800μS/cmに調整する。得られた電解質溶液を1次電解槽で毎分1Lに対して8Aで直流にて電解し、生成した1次陽極側電解生成溶液と1次陰極側電解生成溶液をそれぞれ陽極側電解生成溶液用貯留槽と陰極側電解生成溶液用貯留槽に貯留する。陰極側電解生成溶液用貯留槽中の1次陰極側電解生成溶液をポンプを用いて循環し、2次電解槽にて毎分1Lに対して4Aで直流にて電解を行う。以上により得られた陰極側電解生成溶液にEDTAを1000mg/Lで添加し、該溶液とトール油を容量比で1:0.008の割合で混合することによって活性洗剤を得る。
【0020】
上記本実施例の洗剤と、原水である水道水とトール油を容量比で1:1に混合した洗剤(コントロール)を使用し、洗剤濃度0.01PPmで、牛乳をパレットに塗布して乾燥させたサンプルの剥離試験を行った。該剥離試験の結果を以下の表4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
以上の表1〜4に示すように、電解しない水道水(原水)にトール油を混合した洗剤(コントロール)よりも、電解した電解質溶液にトール油を混合した洗剤(実施例1〜4の洗剤)の方が牛乳の剥離時間が極めて短いことから、本発明に係る洗剤が優れた洗浄効果を有することが明らかとなった。また、トール油は植物由来の原料であり生分解することから、本発明の洗剤は、環境に優しく、人体に対しても安全で刺激性が極めて低いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る洗剤の製造工程の一例を示す概略図。
【図2】電解前処理装置及び1次電解槽を示す模式図。
【図3】貯水槽及び2次電解槽を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合したことを特徴とする洗剤。
【請求項2】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合したことを特徴とする洗剤。
【請求項3】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した陰極側電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合したことを特徴とする洗剤。
【請求項4】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて200〜1000Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した陰極側電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合した溶液に50〜1800mg/Lのエチレンジアミン四酢酸を添加したことを特徴とする洗剤。
【請求項5】
上記電解質溶液が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、及び硫酸ナトリウムから選択される1種類以上を含む電解質溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の洗剤。
【請求項6】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合することを特徴とする洗剤の製造方法。
【請求項7】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合することを特徴とする洗剤の製造方法。
【請求項8】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて5〜8Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した陰極側電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合することを特徴とする洗剤の製造方法。
【請求項9】
200〜1000μS/cmに調整した電解質溶液を隔膜を介して毎分1Lに対して直流印加にて200〜1000Aで1次電解した後、毎分1Lに対して直流印加にて4〜6Aで2次電解した陰極側電解生成溶液とトール油を1:1〜1:0.005の比率で混合した溶液に50〜1800mg/Lのエチレンジアミン四酢酸を添加することを特徴とする洗剤の製造方法。
【請求項10】
上記電解質溶液が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、及び硫酸ナトリウムから選択される1種類以上を含む電解質溶液であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の洗剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−91495(P2009−91495A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264891(P2007−264891)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(507078979)
【出願人】(000124764)
【出願人】(000188526)
【出願人】(503261708)
【出願人】(500301599)
【Fターム(参考)】