ドライアイ治療生薬組成物
【課題】新しいドライアイ治療の選択肢の提供。
【解決手段】ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物。該生薬組成物により,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供が可能となった。これにより,ドライアイの治療概念である,(1)涙液補充療法,(2)涙液排出路閉鎖,(3)眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,これら3つの概念とは異なる治療法として期待できる。すなわち,内服により涙液の質を改善するという,既存3種類以外の新しい治療概念として期待できる。
【解決手段】ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物。該生薬組成物により,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供が可能となった。これにより,ドライアイの治療概念である,(1)涙液補充療法,(2)涙液排出路閉鎖,(3)眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,これら3つの概念とは異なる治療法として期待できる。すなわち,内服により涙液の質を改善するという,既存3種類以外の新しい治療概念として期待できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規の生薬組成物に関する。さらに詳しくは,ドライアイの治療に用いることができる生薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイとは,「涙液(層)の質的または量的な異常により引き起こされた角結膜上皮障害」をいう。ドライアイの病態はとても複雑であり,涙の分泌が減って涙が不足する,涙の蒸発が増えて目が乾く,涙の安定性が損なわれるなどの症状があらわれる。これらの症状の結果として,角膜や結膜の表面が肌荒れのような状態となり,目の不快感,疲れなどの症状があらわれる。
【0003】
ドライアイ患者数は,アメリカ国内で1000万人,日本国内で800万人といわれており,潜在患者も含めればその倍は存在するといわれている。このようにドライアイは高い罹患率にも関わらず,その根本的な原因と正確な疾病メカニズムは未だに不明である。そのため,ドライアイ患者に対する根治的な治療はなく,対症療法に頼るしかないのが現状である。この対症療法として,現在,(1) 涙液補充療法,(2) 涙液排出路閉鎖,(3) 眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,の3つの概念にそったドライアイ治療が行われている。これらの中で一般的なのは,涙液補充療法としてヒアルロン酸などを含んだ保湿のための点眼薬による治療であったり,涙液排出路閉鎖として涙点プラグや外科的涙点閉鎖術による治療が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】(ドライアイ研究会著「ドライアイ診療PPP」株式会社メジカルビュー社出版,2002年5月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には,涙液補充療法として,ヒアルロン酸などを含んだ保湿のための点眼薬に関する技術が開示されている。この点眼薬による治療は,目の保湿という点においてドライアイ治療では優れた治療効果を有する。しかし,1日に複数回点眼することの煩わしさや,女性の場合では点眼により化粧が落ちてしまうことがあるなど,治療効果以外の点において患者の不満が存在するのも事実である。
【0006】
また非特許文献1には,涙液排出路閉鎖として,涙点プラグに関する技術も開示されている。この技術は,涙の排出口である涙点をプラグするという手技により,涙を目の表面に長くとどまらせることでドライアイを治療するものである。しかしながら,涙点を防ぐことにより,涙に含まれる老廃物や異物も眼にとどまってしまうことから,これらの老廃物等が目に悪影響を与える場合がある。さらには,差しこんだプラグに違和感を持つ人がいたりすることもあり,プラグ摘出が容易とは言えず必ずしも万能な治療法とはいえない。外科的涙点閉鎖術は施行後の現状修復が困難を極める。
【0007】
このようにドライアイ治療に関する従来技術は,西洋医学に基づく治療である。発明者らのもとには,西洋医学に基づくドライアイ治療では十分な改善や満足が得られず,ドライアイに苦しむ患者が少なからず存在した。その中には,西洋医学の限界を東洋医学に求め,すがる思いで相談をするドライアイ患者が存在した。
【0008】
上記事情を背景として,本発明では,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供を課題とする。すなわち,ドライアイ治療においては未だ存在しない,ドライアイ治療を目的とした内服薬としての生薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは,それぞれ眼科医師としての英知と漢方薬の専門薬剤師としての英知を集約し,鋭意研究の結果,ドライアイ治療のための生薬組成物を見出し,本発明を完成させた。
【0010】
本発明は,下記から構成される。
本発明における第1の構成は,ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物である。
本発明における第2の構成は,前記ホクシャジン又はハマボウフウとクコシとバクモンドウの重量比がそれぞれ,前記ホクシャジン又はハマボウフウを重量比30から63%,前記クコシを重量比10から38%,前記バクモンドウを重量比20から50%,で含むことを特徴とする第1の構成に記載の生薬組成物である。
本発明における第3の構成は,第1又は第2の構成に記載の生薬組成物から抽出を行い,抽出成分を有効成分とすることを特徴とする生薬組成物である。
本発明における第4の構成は,ドライアイ治療に用いることを特徴とする第1から第3の構成に記載の生薬組成物である。
【0011】
本発明においてドライアイとは,「涙液(層)の質的または量的な異常により引き起こされた角結膜上皮障害」のみならず,ドライアイ症状をも含む概念として定義される。すなわち,角結膜上皮障害に至っていない場合であっても,涙の分泌が減って涙が不足する,涙の蒸発が増えて目が乾く,涙の安定性が損なわれるなどのドライアイ症状をも含む概念として定義される。
また,ドライアイ治療とは,完治や根治を意味するものではなく,ドライアイ症状の軽減に資するという意味として定義される。
【発明の効果】
【0012】
本発明における生薬組成物により,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供が可能となった。これにより,ドライアイの治療概念である,(1) 涙液補充療法,(2) 涙液排出路閉鎖,(3) 眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,これら3つの概念とは異なる治療法として期待できる。すなわち,内服により涙液の質を改善するという,既存3種類以外の新しい治療概念を有するドライアイ治療法として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ホクシャジンを示した図
【図2】ハマボウフウを示した図
【図3】クコシを示した図
【図4】バクモンドウを示した図
【図5】煎じ薬パックを示した図
【図6】煎じ薬パックを使用する様子を示した図
【図7】実施例1における量的検査結果を示した図
【図8】実施例1における質的検査結果を示した図
【図9】実施例2および実施例3における量的検査結果を示した図
【図10】実施例2および実施例3における質的検査結果を示した図
【図11】実施例4における投与中止前後の検査結果の比較を示した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここでは,本発明における生薬組成物について説明を行う。
【0015】
まず最初に,本発明における生薬組成物の生薬成分について説明を行う。
【0016】
ホクシャジン(北沙参)とは,カラカサバナ科植物のハマボウフウの根を乾燥したものとして定義される。ホクシャジンは,ハマボウフウの根であることから,同族植物であるハマボウフウをホクシャジンの代わりに用いることができる。
ハマボウフウ(浜防風)とは,セリ科ハマボウフウの根と根茎を乾燥したものとして定義される。
クコシ(枸杞子)は,ナス科の落葉低木,クコの成熟した果実を用いたものとして定義される。
バクモンドウ(麦門冬)は,ユリ科ジャノヒゲの塊状根を乾燥したものとして定義される。
【0017】
これらいずれの生薬成分についても,通常,用いられる生薬を用いることができる。例えば,ホクシャジンを除く,いずれの生薬成分についても,いわゆる,日本薬局方収載品を用いればよい。ホクシャジンについては,日本薬局方に収載されていないことから,一般的に市販されているものを用いればよい。
【0018】
二番目に,本発明における生薬組成物の製造方法について説明を行う。
【0019】
本発明における生薬組成物は,通常用いられる方法により,製造することができる。
一態様として例を挙げると,刻み生薬として通常市販されているホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウについて,所定量秤量し,混和させることにより,生薬組成物を製造することができる。この生薬組成物は,例えば,1回の処方量で分包するなどして用いればよい。この分包された生薬組成物については,服用する際に所定量の水で煮だして温服することにより,服用することができる。
また,別の態様として例を挙げると,ホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウを所定量秤量し,それらを混和させたものについて水や有機溶液などで成分抽出を行うことにより,液体としての生薬組成物を得ることができる。この場合,1回の処方量をアルミパックなどで分包すればよく,服用時に温めたり,必要に応じて希釈したりして,服用すればよい。
【0020】
液体として得られた生薬組成物については,通常用いられる方法により,固形化した経口剤として加工・製剤化することもできる。例えば,抽出液をスプレードライや凍結乾燥することにより,有効成分の粉末を得,散剤や粉剤として用いたりするなどである。これに加え,賦形剤,基剤,乳化剤,溶剤,安定剤等の添加剤を加えることにより,顆粒剤,錠剤,カプセル剤,丸剤等として用いたりすることもできる。これらの固形化した生薬組成物については,1回の処方量を分包して用いればよい。
【0021】
三番目に,本発明における生薬組成物の服用方法について説明する。
【0022】
本発明における生薬組成物の服用方法としては,通常漢方薬に用いられるあらゆる手法を用いることができる。
一態様として例を挙げると,刻み生薬として分包された生薬組成物と水を,土瓶又はアルミのやかんに入れ,蓋をあけたまま約半分の容量になるまでとろ火で煎じ,この煎じた液を温かいまま服用することにより,服用することができる。
また,別の態様として,水で抽出されアルミパックに分包された液体の生薬組成物を,土瓶又はアルミのやかんに加え必要に応じ水で希釈して温めたものを服用することもできる。
さらに別の態様として,有効成分を含むエキス散,エキス顆粒,エキス細粒等として,水とともに服用することができる。
【0023】
四番目に,本発明における生薬組成物の処方量および重量比について説明する。
本発明における生薬組成物の投与量の上限について,有効性の観点からは特に限定する必要はないが,安全性の観点から限定することが必要である。通常,漢方薬原料の生薬については長年の使用から経験則的な上限が知られており,それを用いて投与量の上限とすればよい。例えば,各生薬成分の1日当たりの許容量は,ハマボウフウが9から15g,クコシが3から9g,バクモンドウが6から12gであり,これらいずれをも超えない量として生薬組成物の投与量の上限を設定することもできる(神戸中医学研究会著,「中医臨床のための中薬学」,医歯薬出版株式会社出版,1992年10月)。
【0024】
その他,安全性についての上限の設定は,当業者の技術常識により設定してもよい。すなわち,医薬品の安全性試験,例えばガン原性試験や遺伝毒性試験,生殖発生毒性試験などにより毒性を発揮せず,かつ,薬理効果を十分発揮する量を上限として設定が可能である。
【0025】
続いて,製造に用いる際のホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウの重量比については,かかる各生薬成分の1日当たりの許容量や用いる生薬の違いを考慮して適宜,調整することができる。すなわち,用いられる生薬は,製造会社やロットにより乾燥度が異なる。そのため,単位重量当たりの有効成分の量が,製造会社やロットにより違ってくることが通常である。このことから,ホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウの重量比については,適宜,調整することができる。
【0026】
一つの目安としてそれぞれの生薬成分の重量比が,1日当たりの許容量を考慮して,ホクシャジン又はハマボウフウが30から63%,クコシが10から38%,バクモンドウが20から50%とすることができる。より好ましくは,薬効を考慮して,それぞれの重量比を,ホクシャジン又はハマボウフウが30から40%,クコシが10から38%,バクモンドウが20から40%とすることができる。
【0027】
本発明における生薬組成物により,ドライアイ治療における新たな選択肢が提供された。すなわち,ドライアイ治療において初めて,内服による治療が可能となった。この内服によるドライアイ治療により,既存の治療法では満足できなかった患者に対する新たな治療法として期待できる。さらには,既存の治療法と組み合わせて用いることにより,ドライアイ治療の効果をさらに高めることが期待できる。
【0028】
以上,本発明における生薬組成物について説明してきた。本発明にかかる生薬組成物は,ホクシャジン又はハマボウフウ,そしてクコシとバクモンドウからなる生薬組成物とすることが原則である。しかしながら,ドライアイ治療に用いるという主旨を損なわない限り,他の生薬成分をさらに加えることを完全に排除するものではない。漢方は,漢方の証(体質)に合わせて処方されることもあることから,ドライアイ患者の体質に応じて,他の成分も合わせた形で本発明にかかる漢方薬や生薬組成物を適宜処方することも可能である。
【実施例】
【0029】
以下,本発明における生薬組成物について実施例をあげて詳細に説明するが,当然のことながら,本発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1,作製>
実施例1では,ホクシャジン,クコシ,バクモンドウ(いずれも,株式会社栃本天海堂製。図1から3)を用い,これらの刻み生薬をいずれも3gずつ混合して用いた。また,一部の被験者については,3gから6gに増量して,治療効果の確認を行った。
【0031】
<実施例1,被験者>
1.ドライアイ診断基準を満たしたドライアイ確定患者であり,かつ,本発明にかかる生薬組成物のドライアイ治療への同意が得られた患者を被験者とした。この被験者50人について,既存点眼液による点眼加療中に,実施例1の生薬組成物を追加で服用を行った。
2.被験者の年齢は42から89歳,内服期間は1カ月から1年で評価を行った。
【0032】
<実施例1,処方>
1.医師の管理のもと,被験者に実施例1の処方を行った。
2.実施例1を処方するに際して,以下の操作を行った。
(1) まず,薬草パックに封入した実施例1と約400mLの水を,土瓶又はアルミやかんに入れ,蓋をあけたまま約半量になるまでとろ火で約30分から40分煎じた。煎じ上がったら,薬草パックを取り出し,残った抽出液について1日二回に分けて空腹時(食前・食間)に温服を行った。
(2) 2回目の服用の際は,抽出液をポットに保管するか,服用時温め直すことにより,温服を行った。
(3) なお,被験者の要請により,「漢方薬抽出自動包装機 EXT-500A PARTNER(ウチダ和漢薬専売)」を使用し,抽出した煎じ薬をアルミパックにより1回分ずつ分包したもの用い,使用時に温めることにより,温服を行った。アルミパックした煎じ薬およびそれを使用している様子を図5と6に示す。
(4) なお,煎じた抽出液は,淡褐色で優しい香りのする薬液であり,その味は,ほんのりと甘く,誰でも服用しやすいものであった。冷えるとやや旨味が低下するようであった。
【0033】
<実施例1,検査方法>
被験者の検査方法としては,負担軽減と検査時間の短縮を考慮し,下記の検査を行った。
1.量的検査
綿糸法により行った。すなわち,専用の綿糸先端5mmを折り曲げ,その先端を被験者の下眼瞼耳側約3分の1に挿入した。その後,被験者に瞬目をしてもらい,涙液で赤く変色した綿糸部分の長さを測定することにより行った。測定値が,10mm以下を異常値として(ドライアイ症状あり),20mm以上を正常値(ドライアイ症状無し),これらの中間をドライアイ傾向として判断した。なお,反射性分泌を除外するために角膜上皮欠損の無い時に測定を行った。
【0034】
2.質的検査
涙液層破壊時間検査(BUT:break-up time)により行った。すなわち,被験者にフルオレセイン液の点眼を行い,涙液をフルオレセイン液により染色を行った。続いて,被験者に瞬目を行ってもらい,完全瞬目後,開瞼状態を保ち,ブルーフィルターを通して涙液が破綻するまでの時間を測定することにより行った。測定値が,5秒以下の場合異常あり(ドライアイ症状あり),10秒以上の場合正常(ドライアイ症状無し),これらの中間の場合はドライアイ傾向として判断した。
【0035】
3.角結膜上皮障害検査
フルオレセイン染色により行った。すなわち,涙液層破壊時間検査の際,同時に,被験者におけるフルオレセインの分布状態を確認し,角膜上皮欠損の分布状態をスコアにより判定を行った。
【0036】
4.問診検査
被験者本人の自覚症状を眼科医師が聞き取ることにより行った。合わせて,医院と独立した薬局においても,薬剤師が自覚症状の改善の有無の確認を行った
【0037】
<実施例1,結果>
1.量的検査の結果
(1) 図7に結果を示す。
(2) 涙液の量的検査は治療前の貯留量に個体差が大きく単純比較が難しかったため,改善率(治療後の貯留量/治療前の貯留量×100−100(%))により評価を行った。増加率80%以上の者が7割と良好な結果であり,正常値まで改善した被験者が10/50(20%)存在した。
【0038】
2.質的検査の結果
(1) 図8に結果を示す。
(2) 治療後,正常値以上にBUTが延長した被験者は34/50(68%)に上った。治療後にBUTが5秒以下の異常値のままを示していた被験者は,1/50(2%)のみであった。残りの被験者15/50(30%)も正常値未満であったものの,異常値をクリアしていた。
(3) 量的検査の結果と合わせて考慮すると,実施例1においては,涙液の量的改善に効果を有するだけでなく,涙液の質的改善=涙液の安定化にも有意に効果を有することが分かった。
【0039】
3.角結膜上皮障害検査の結果
(1) BUT10秒以上の正常値まで改善した被験者は,スコア0点で安定していた。
(2) BUT5〜10秒未満の被験者はスコア0点がほとんどであるが,1点の日も僅かに認めた。BUT5秒未満の被験者は,スコア0〜2点と変動が大きかった。
【0040】
4.問診検査
問診を行った結果,改善したという被験者が50例中45例,改善したが満足感が得られなかった被験者が50例中3例,改善しなかった被験者が2例であった。医院と独立した薬局における,薬剤師による自覚症状の改善の有無の確認を行ったが,医師の確認とほぼ同じ結果であった。
【0041】
<実施例1,総合判定>
1.前述の検査結果を個別に考察し,以下の条件に照合することにより最終判定とした。
(1) A判定:自覚的に改善し,涙液量およびBUTともに有意に改善・・・35/50
(2) B判定:自覚的に改善し,涙液量はさほど変わらないがBUTが有意に改善・・・11/50
(3) C判定:涙液分泌・BUTの結果を問わず自覚的な改善が無い・・・4/50
2.検査所見が改善し客観的には有効と思われても,被験者本人の自覚がなければ臨床的には有効ということはできない。このことから,上記のA判定およびB判定を,治療効果があった有効例とすると,実施例1における有効率は92%であった。
3.試験期間中に,軽微ではあったが,副作用を疑い投与を中止した被験者が4例あった。内訳は腹部膨満感 2例・軟便傾向2例,いずれも軽度の消化器症状であり,いずれの被験者についても,投与中止により自然治癒した。なお,無効例と副作用例が同数であるが,4例いずれも同一の被験者ではなかった。
4.ドライアイ症状は気候変動による生活環境に影響を受けやすい。特に,湿度の低下する冬季に症状が増悪する。今回の実施例1における検証は,6カ月以上検証できた被験者では高湿度の季節がデータに加味され数値的には良好な傾向があった。
【0042】
<実施例2,実施例3,ホクシャジンとハマボウフウの比較>
1.ホクシャジンの同族植物であるハマボウフウ(図4)を用いて,治療効果の比較を行った。
2.実施例2ではホクシャジン,クコシ,バクモンドウそれぞれ3g,実施例3ではハマボウフウ,クコシ,バクモンドウ3gの生薬薬組成物を用いて,実施例1と同様の方法で,製造・処方・検査を行った。
【0043】
<実施例2,実施例3,結果>
1.図9に量的検査の結果を,図10に質的検査の結果を示す。実施例2,実施例3いずれについても,被験者に量的・質的改善がみられた。傾向として,質的改善には実施例2(ホクシャジン)が,量的改善には実施例3(ハマボウフウ)が有効な傾向があった。
2.また,自覚症状については,実施例2,実施例3,いずれについても5人全ての被験者が,自覚症状が改善したという結果であった。
3.以上より,ホクシャジンと同様,ハマボウフウについても,ドライアイ治療に有効であることが分かった。
【0044】
<実施例4,中止試験>
1.ホクシャジン,クコシ,バクモンドウ3gの生薬組成物を用いて,実施例1と同様の方法で,製造・処方・検査を行った。
2.11人の被験者に対し,実施例4を2か月から8か月かけて処方した後,処方を中止した。処方中止前後の,量的検査および質的検査を比較することにより,評価を行った。
3.図11に結果を示す。全ての被験者について,量的検査および質的検査で,処方中止により検査値が悪化した。このことから,本発明にかかる生薬組成物の効果が確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規の生薬組成物に関する。さらに詳しくは,ドライアイの治療に用いることができる生薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイとは,「涙液(層)の質的または量的な異常により引き起こされた角結膜上皮障害」をいう。ドライアイの病態はとても複雑であり,涙の分泌が減って涙が不足する,涙の蒸発が増えて目が乾く,涙の安定性が損なわれるなどの症状があらわれる。これらの症状の結果として,角膜や結膜の表面が肌荒れのような状態となり,目の不快感,疲れなどの症状があらわれる。
【0003】
ドライアイ患者数は,アメリカ国内で1000万人,日本国内で800万人といわれており,潜在患者も含めればその倍は存在するといわれている。このようにドライアイは高い罹患率にも関わらず,その根本的な原因と正確な疾病メカニズムは未だに不明である。そのため,ドライアイ患者に対する根治的な治療はなく,対症療法に頼るしかないのが現状である。この対症療法として,現在,(1) 涙液補充療法,(2) 涙液排出路閉鎖,(3) 眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,の3つの概念にそったドライアイ治療が行われている。これらの中で一般的なのは,涙液補充療法としてヒアルロン酸などを含んだ保湿のための点眼薬による治療であったり,涙液排出路閉鎖として涙点プラグや外科的涙点閉鎖術による治療が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】(ドライアイ研究会著「ドライアイ診療PPP」株式会社メジカルビュー社出版,2002年5月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には,涙液補充療法として,ヒアルロン酸などを含んだ保湿のための点眼薬に関する技術が開示されている。この点眼薬による治療は,目の保湿という点においてドライアイ治療では優れた治療効果を有する。しかし,1日に複数回点眼することの煩わしさや,女性の場合では点眼により化粧が落ちてしまうことがあるなど,治療効果以外の点において患者の不満が存在するのも事実である。
【0006】
また非特許文献1には,涙液排出路閉鎖として,涙点プラグに関する技術も開示されている。この技術は,涙の排出口である涙点をプラグするという手技により,涙を目の表面に長くとどまらせることでドライアイを治療するものである。しかしながら,涙点を防ぐことにより,涙に含まれる老廃物や異物も眼にとどまってしまうことから,これらの老廃物等が目に悪影響を与える場合がある。さらには,差しこんだプラグに違和感を持つ人がいたりすることもあり,プラグ摘出が容易とは言えず必ずしも万能な治療法とはいえない。外科的涙点閉鎖術は施行後の現状修復が困難を極める。
【0007】
このようにドライアイ治療に関する従来技術は,西洋医学に基づく治療である。発明者らのもとには,西洋医学に基づくドライアイ治療では十分な改善や満足が得られず,ドライアイに苦しむ患者が少なからず存在した。その中には,西洋医学の限界を東洋医学に求め,すがる思いで相談をするドライアイ患者が存在した。
【0008】
上記事情を背景として,本発明では,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供を課題とする。すなわち,ドライアイ治療においては未だ存在しない,ドライアイ治療を目的とした内服薬としての生薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは,それぞれ眼科医師としての英知と漢方薬の専門薬剤師としての英知を集約し,鋭意研究の結果,ドライアイ治療のための生薬組成物を見出し,本発明を完成させた。
【0010】
本発明は,下記から構成される。
本発明における第1の構成は,ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物である。
本発明における第2の構成は,前記ホクシャジン又はハマボウフウとクコシとバクモンドウの重量比がそれぞれ,前記ホクシャジン又はハマボウフウを重量比30から63%,前記クコシを重量比10から38%,前記バクモンドウを重量比20から50%,で含むことを特徴とする第1の構成に記載の生薬組成物である。
本発明における第3の構成は,第1又は第2の構成に記載の生薬組成物から抽出を行い,抽出成分を有効成分とすることを特徴とする生薬組成物である。
本発明における第4の構成は,ドライアイ治療に用いることを特徴とする第1から第3の構成に記載の生薬組成物である。
【0011】
本発明においてドライアイとは,「涙液(層)の質的または量的な異常により引き起こされた角結膜上皮障害」のみならず,ドライアイ症状をも含む概念として定義される。すなわち,角結膜上皮障害に至っていない場合であっても,涙の分泌が減って涙が不足する,涙の蒸発が増えて目が乾く,涙の安定性が損なわれるなどのドライアイ症状をも含む概念として定義される。
また,ドライアイ治療とは,完治や根治を意味するものではなく,ドライアイ症状の軽減に資するという意味として定義される。
【発明の効果】
【0012】
本発明における生薬組成物により,点眼でもなく,外科的治療でもない,新しいドライアイ治療の選択肢の提供が可能となった。これにより,ドライアイの治療概念である,(1) 涙液補充療法,(2) 涙液排出路閉鎖,(3) 眼球表面に生じた角膜・結膜上皮欠損の加療,これら3つの概念とは異なる治療法として期待できる。すなわち,内服により涙液の質を改善するという,既存3種類以外の新しい治療概念を有するドライアイ治療法として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ホクシャジンを示した図
【図2】ハマボウフウを示した図
【図3】クコシを示した図
【図4】バクモンドウを示した図
【図5】煎じ薬パックを示した図
【図6】煎じ薬パックを使用する様子を示した図
【図7】実施例1における量的検査結果を示した図
【図8】実施例1における質的検査結果を示した図
【図9】実施例2および実施例3における量的検査結果を示した図
【図10】実施例2および実施例3における質的検査結果を示した図
【図11】実施例4における投与中止前後の検査結果の比較を示した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここでは,本発明における生薬組成物について説明を行う。
【0015】
まず最初に,本発明における生薬組成物の生薬成分について説明を行う。
【0016】
ホクシャジン(北沙参)とは,カラカサバナ科植物のハマボウフウの根を乾燥したものとして定義される。ホクシャジンは,ハマボウフウの根であることから,同族植物であるハマボウフウをホクシャジンの代わりに用いることができる。
ハマボウフウ(浜防風)とは,セリ科ハマボウフウの根と根茎を乾燥したものとして定義される。
クコシ(枸杞子)は,ナス科の落葉低木,クコの成熟した果実を用いたものとして定義される。
バクモンドウ(麦門冬)は,ユリ科ジャノヒゲの塊状根を乾燥したものとして定義される。
【0017】
これらいずれの生薬成分についても,通常,用いられる生薬を用いることができる。例えば,ホクシャジンを除く,いずれの生薬成分についても,いわゆる,日本薬局方収載品を用いればよい。ホクシャジンについては,日本薬局方に収載されていないことから,一般的に市販されているものを用いればよい。
【0018】
二番目に,本発明における生薬組成物の製造方法について説明を行う。
【0019】
本発明における生薬組成物は,通常用いられる方法により,製造することができる。
一態様として例を挙げると,刻み生薬として通常市販されているホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウについて,所定量秤量し,混和させることにより,生薬組成物を製造することができる。この生薬組成物は,例えば,1回の処方量で分包するなどして用いればよい。この分包された生薬組成物については,服用する際に所定量の水で煮だして温服することにより,服用することができる。
また,別の態様として例を挙げると,ホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウを所定量秤量し,それらを混和させたものについて水や有機溶液などで成分抽出を行うことにより,液体としての生薬組成物を得ることができる。この場合,1回の処方量をアルミパックなどで分包すればよく,服用時に温めたり,必要に応じて希釈したりして,服用すればよい。
【0020】
液体として得られた生薬組成物については,通常用いられる方法により,固形化した経口剤として加工・製剤化することもできる。例えば,抽出液をスプレードライや凍結乾燥することにより,有効成分の粉末を得,散剤や粉剤として用いたりするなどである。これに加え,賦形剤,基剤,乳化剤,溶剤,安定剤等の添加剤を加えることにより,顆粒剤,錠剤,カプセル剤,丸剤等として用いたりすることもできる。これらの固形化した生薬組成物については,1回の処方量を分包して用いればよい。
【0021】
三番目に,本発明における生薬組成物の服用方法について説明する。
【0022】
本発明における生薬組成物の服用方法としては,通常漢方薬に用いられるあらゆる手法を用いることができる。
一態様として例を挙げると,刻み生薬として分包された生薬組成物と水を,土瓶又はアルミのやかんに入れ,蓋をあけたまま約半分の容量になるまでとろ火で煎じ,この煎じた液を温かいまま服用することにより,服用することができる。
また,別の態様として,水で抽出されアルミパックに分包された液体の生薬組成物を,土瓶又はアルミのやかんに加え必要に応じ水で希釈して温めたものを服用することもできる。
さらに別の態様として,有効成分を含むエキス散,エキス顆粒,エキス細粒等として,水とともに服用することができる。
【0023】
四番目に,本発明における生薬組成物の処方量および重量比について説明する。
本発明における生薬組成物の投与量の上限について,有効性の観点からは特に限定する必要はないが,安全性の観点から限定することが必要である。通常,漢方薬原料の生薬については長年の使用から経験則的な上限が知られており,それを用いて投与量の上限とすればよい。例えば,各生薬成分の1日当たりの許容量は,ハマボウフウが9から15g,クコシが3から9g,バクモンドウが6から12gであり,これらいずれをも超えない量として生薬組成物の投与量の上限を設定することもできる(神戸中医学研究会著,「中医臨床のための中薬学」,医歯薬出版株式会社出版,1992年10月)。
【0024】
その他,安全性についての上限の設定は,当業者の技術常識により設定してもよい。すなわち,医薬品の安全性試験,例えばガン原性試験や遺伝毒性試験,生殖発生毒性試験などにより毒性を発揮せず,かつ,薬理効果を十分発揮する量を上限として設定が可能である。
【0025】
続いて,製造に用いる際のホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウの重量比については,かかる各生薬成分の1日当たりの許容量や用いる生薬の違いを考慮して適宜,調整することができる。すなわち,用いられる生薬は,製造会社やロットにより乾燥度が異なる。そのため,単位重量当たりの有効成分の量が,製造会社やロットにより違ってくることが通常である。このことから,ホクシャジン又はハマボウフウ,クコシ,バクモンドウの重量比については,適宜,調整することができる。
【0026】
一つの目安としてそれぞれの生薬成分の重量比が,1日当たりの許容量を考慮して,ホクシャジン又はハマボウフウが30から63%,クコシが10から38%,バクモンドウが20から50%とすることができる。より好ましくは,薬効を考慮して,それぞれの重量比を,ホクシャジン又はハマボウフウが30から40%,クコシが10から38%,バクモンドウが20から40%とすることができる。
【0027】
本発明における生薬組成物により,ドライアイ治療における新たな選択肢が提供された。すなわち,ドライアイ治療において初めて,内服による治療が可能となった。この内服によるドライアイ治療により,既存の治療法では満足できなかった患者に対する新たな治療法として期待できる。さらには,既存の治療法と組み合わせて用いることにより,ドライアイ治療の効果をさらに高めることが期待できる。
【0028】
以上,本発明における生薬組成物について説明してきた。本発明にかかる生薬組成物は,ホクシャジン又はハマボウフウ,そしてクコシとバクモンドウからなる生薬組成物とすることが原則である。しかしながら,ドライアイ治療に用いるという主旨を損なわない限り,他の生薬成分をさらに加えることを完全に排除するものではない。漢方は,漢方の証(体質)に合わせて処方されることもあることから,ドライアイ患者の体質に応じて,他の成分も合わせた形で本発明にかかる漢方薬や生薬組成物を適宜処方することも可能である。
【実施例】
【0029】
以下,本発明における生薬組成物について実施例をあげて詳細に説明するが,当然のことながら,本発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1,作製>
実施例1では,ホクシャジン,クコシ,バクモンドウ(いずれも,株式会社栃本天海堂製。図1から3)を用い,これらの刻み生薬をいずれも3gずつ混合して用いた。また,一部の被験者については,3gから6gに増量して,治療効果の確認を行った。
【0031】
<実施例1,被験者>
1.ドライアイ診断基準を満たしたドライアイ確定患者であり,かつ,本発明にかかる生薬組成物のドライアイ治療への同意が得られた患者を被験者とした。この被験者50人について,既存点眼液による点眼加療中に,実施例1の生薬組成物を追加で服用を行った。
2.被験者の年齢は42から89歳,内服期間は1カ月から1年で評価を行った。
【0032】
<実施例1,処方>
1.医師の管理のもと,被験者に実施例1の処方を行った。
2.実施例1を処方するに際して,以下の操作を行った。
(1) まず,薬草パックに封入した実施例1と約400mLの水を,土瓶又はアルミやかんに入れ,蓋をあけたまま約半量になるまでとろ火で約30分から40分煎じた。煎じ上がったら,薬草パックを取り出し,残った抽出液について1日二回に分けて空腹時(食前・食間)に温服を行った。
(2) 2回目の服用の際は,抽出液をポットに保管するか,服用時温め直すことにより,温服を行った。
(3) なお,被験者の要請により,「漢方薬抽出自動包装機 EXT-500A PARTNER(ウチダ和漢薬専売)」を使用し,抽出した煎じ薬をアルミパックにより1回分ずつ分包したもの用い,使用時に温めることにより,温服を行った。アルミパックした煎じ薬およびそれを使用している様子を図5と6に示す。
(4) なお,煎じた抽出液は,淡褐色で優しい香りのする薬液であり,その味は,ほんのりと甘く,誰でも服用しやすいものであった。冷えるとやや旨味が低下するようであった。
【0033】
<実施例1,検査方法>
被験者の検査方法としては,負担軽減と検査時間の短縮を考慮し,下記の検査を行った。
1.量的検査
綿糸法により行った。すなわち,専用の綿糸先端5mmを折り曲げ,その先端を被験者の下眼瞼耳側約3分の1に挿入した。その後,被験者に瞬目をしてもらい,涙液で赤く変色した綿糸部分の長さを測定することにより行った。測定値が,10mm以下を異常値として(ドライアイ症状あり),20mm以上を正常値(ドライアイ症状無し),これらの中間をドライアイ傾向として判断した。なお,反射性分泌を除外するために角膜上皮欠損の無い時に測定を行った。
【0034】
2.質的検査
涙液層破壊時間検査(BUT:break-up time)により行った。すなわち,被験者にフルオレセイン液の点眼を行い,涙液をフルオレセイン液により染色を行った。続いて,被験者に瞬目を行ってもらい,完全瞬目後,開瞼状態を保ち,ブルーフィルターを通して涙液が破綻するまでの時間を測定することにより行った。測定値が,5秒以下の場合異常あり(ドライアイ症状あり),10秒以上の場合正常(ドライアイ症状無し),これらの中間の場合はドライアイ傾向として判断した。
【0035】
3.角結膜上皮障害検査
フルオレセイン染色により行った。すなわち,涙液層破壊時間検査の際,同時に,被験者におけるフルオレセインの分布状態を確認し,角膜上皮欠損の分布状態をスコアにより判定を行った。
【0036】
4.問診検査
被験者本人の自覚症状を眼科医師が聞き取ることにより行った。合わせて,医院と独立した薬局においても,薬剤師が自覚症状の改善の有無の確認を行った
【0037】
<実施例1,結果>
1.量的検査の結果
(1) 図7に結果を示す。
(2) 涙液の量的検査は治療前の貯留量に個体差が大きく単純比較が難しかったため,改善率(治療後の貯留量/治療前の貯留量×100−100(%))により評価を行った。増加率80%以上の者が7割と良好な結果であり,正常値まで改善した被験者が10/50(20%)存在した。
【0038】
2.質的検査の結果
(1) 図8に結果を示す。
(2) 治療後,正常値以上にBUTが延長した被験者は34/50(68%)に上った。治療後にBUTが5秒以下の異常値のままを示していた被験者は,1/50(2%)のみであった。残りの被験者15/50(30%)も正常値未満であったものの,異常値をクリアしていた。
(3) 量的検査の結果と合わせて考慮すると,実施例1においては,涙液の量的改善に効果を有するだけでなく,涙液の質的改善=涙液の安定化にも有意に効果を有することが分かった。
【0039】
3.角結膜上皮障害検査の結果
(1) BUT10秒以上の正常値まで改善した被験者は,スコア0点で安定していた。
(2) BUT5〜10秒未満の被験者はスコア0点がほとんどであるが,1点の日も僅かに認めた。BUT5秒未満の被験者は,スコア0〜2点と変動が大きかった。
【0040】
4.問診検査
問診を行った結果,改善したという被験者が50例中45例,改善したが満足感が得られなかった被験者が50例中3例,改善しなかった被験者が2例であった。医院と独立した薬局における,薬剤師による自覚症状の改善の有無の確認を行ったが,医師の確認とほぼ同じ結果であった。
【0041】
<実施例1,総合判定>
1.前述の検査結果を個別に考察し,以下の条件に照合することにより最終判定とした。
(1) A判定:自覚的に改善し,涙液量およびBUTともに有意に改善・・・35/50
(2) B判定:自覚的に改善し,涙液量はさほど変わらないがBUTが有意に改善・・・11/50
(3) C判定:涙液分泌・BUTの結果を問わず自覚的な改善が無い・・・4/50
2.検査所見が改善し客観的には有効と思われても,被験者本人の自覚がなければ臨床的には有効ということはできない。このことから,上記のA判定およびB判定を,治療効果があった有効例とすると,実施例1における有効率は92%であった。
3.試験期間中に,軽微ではあったが,副作用を疑い投与を中止した被験者が4例あった。内訳は腹部膨満感 2例・軟便傾向2例,いずれも軽度の消化器症状であり,いずれの被験者についても,投与中止により自然治癒した。なお,無効例と副作用例が同数であるが,4例いずれも同一の被験者ではなかった。
4.ドライアイ症状は気候変動による生活環境に影響を受けやすい。特に,湿度の低下する冬季に症状が増悪する。今回の実施例1における検証は,6カ月以上検証できた被験者では高湿度の季節がデータに加味され数値的には良好な傾向があった。
【0042】
<実施例2,実施例3,ホクシャジンとハマボウフウの比較>
1.ホクシャジンの同族植物であるハマボウフウ(図4)を用いて,治療効果の比較を行った。
2.実施例2ではホクシャジン,クコシ,バクモンドウそれぞれ3g,実施例3ではハマボウフウ,クコシ,バクモンドウ3gの生薬薬組成物を用いて,実施例1と同様の方法で,製造・処方・検査を行った。
【0043】
<実施例2,実施例3,結果>
1.図9に量的検査の結果を,図10に質的検査の結果を示す。実施例2,実施例3いずれについても,被験者に量的・質的改善がみられた。傾向として,質的改善には実施例2(ホクシャジン)が,量的改善には実施例3(ハマボウフウ)が有効な傾向があった。
2.また,自覚症状については,実施例2,実施例3,いずれについても5人全ての被験者が,自覚症状が改善したという結果であった。
3.以上より,ホクシャジンと同様,ハマボウフウについても,ドライアイ治療に有効であることが分かった。
【0044】
<実施例4,中止試験>
1.ホクシャジン,クコシ,バクモンドウ3gの生薬組成物を用いて,実施例1と同様の方法で,製造・処方・検査を行った。
2.11人の被験者に対し,実施例4を2か月から8か月かけて処方した後,処方を中止した。処方中止前後の,量的検査および質的検査を比較することにより,評価を行った。
3.図11に結果を示す。全ての被験者について,量的検査および質的検査で,処方中止により検査値が悪化した。このことから,本発明にかかる生薬組成物の効果が確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物。
【請求項2】
前記ホクシャジン又はハマボウフウとクコシとバクモンドウの重量比がそれぞれ,
前記ホクシャジン又はハマボウフウを重量比30から63%,
前記クコシを重量比10から38%,
前記バクモンドウを重量比20から50%,
で含むことを特徴とする請求項1に記載の生薬組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生薬組成物から抽出を行い,抽出成分を有効成分とすることを特徴とする生薬組成物。
【請求項4】
ドライアイ治療に用いることを特徴とする請求項1から3に記載の生薬組成物。
【請求項1】
ホクシャジン又はハマボウフウと,クコシと,バクモンドウを含むことを特徴とする生薬組成物。
【請求項2】
前記ホクシャジン又はハマボウフウとクコシとバクモンドウの重量比がそれぞれ,
前記ホクシャジン又はハマボウフウを重量比30から63%,
前記クコシを重量比10から38%,
前記バクモンドウを重量比20から50%,
で含むことを特徴とする請求項1に記載の生薬組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生薬組成物から抽出を行い,抽出成分を有効成分とすることを特徴とする生薬組成物。
【請求項4】
ドライアイ治療に用いることを特徴とする請求項1から3に記載の生薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−193151(P2012−193151A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59399(P2011−59399)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(711003118)
【出願人】(711003093)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(711003118)
【出願人】(711003093)
【Fターム(参考)】
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