説明

ドラムブレーキ装置のシューホールド機構

【課題】U字スプリングの構造を簡素化すると共に、ブレーキシューへの装着が容易で半掛け状態の起きる恐れのないドラムブレーキ装置のシューホールド機構を提供すること。
【解決手段】U字スプリング15を介してバッキングプレート1上で摺動自在にかつバッキングプレート1に向けて弾性保持するドラムブレーキ装置のシューホールド機構であって、このU字スプリング15はシューウエブ7a上に載置され、U字状連結部15cから一対の板状部15a,15bの他端側にかけてシューホールドダウンピン17の軸部17aより大きく頭部17bよりも小さな幅のスリット15dが形成されていると共に、このスリット15dの終端部近傍の板状部15a,15bには凹曲げ段部15fが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシューを1枚の板材から折り曲げて形成したU字スプリングを介してバッキングプレートに摺動自在かつ弾性的に保持するドラムブレーキ装置のシューホールド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラムブレーキ装置のシューホールド機構として、シューウエブにシューホールドダウンピン用の孔が穿設され、ワッシャ間に挟持したコイルスプリングをバッキングプレートよりシューウエブのシューホールドダウンピン用孔を挿通したシューホールドダウンピンの頭部側に備え、バッキングプレートに対してシューウエブを摺動自在かつ弾性的に保持して、制動時にブレーキシューの浮き上がりを防止するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしこの従来のシューホールド機構は2つのワッシャ、コイルスプリング及びシューホールドダウンピンが必要であり、部品点数が多いだけでなく、シューホールド機構をブレーキシューに組み付けるに際し、コイルスプリングを圧縮させながらワッシャに対してシューホールドダウンピンを相対的に90度回転させる作業が要求され熟練を要した。そのためコイルスプリングに代えて、1枚の板材から折り曲げて形成したU字スプリングを使用してワッシャを用いないようにしたシューホールド機構(例えば、特許文献2の従来例参照)が開発されている。このU字スプリング使用したシューホールド機構はワッシャを用いていないので部品点数を減らすことはできるが、シューウエブに装着するためには、U字スプリングを圧縮させながらシューホールドダウンピンを回転させるための特殊な工具が必要となり半掛り状態が起こる恐れもあり、また万一U字スプリングを強く圧縮してしまうと変形が起こり、U字スプリングに所要の設計荷重が得られないことがあった。
【0004】
このような事情に鑑み、最近では組み付け工具を使用せずに、シューホールド機構をシューウエブに装着するために、特殊な形状のU字スプリングが用いられている(例えば、特許文献2の発明品参照)。
【0005】
【特許文献1】実開昭62−204045号公報(第2図)
【特許文献2】実用新案登録第2594563号公報(図7,8,9の従来例及び図2,4,5の発明品)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特殊な形状のU字スプリングを用いたシューホールド機構は、組み付け工具を用いない代わりにU字スプリングの一端側が一方向に屈曲しており、組み付け作業においてもU字スプリングを傾斜した状態から水平状態に変化させながらシューホールドダウンピンに係合させなければならず、構造の複雑性と装着の困難性に改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目して成されたもので、U字スプリングの構造を簡素化すると共に、ブレーキシューへの装着が容易で半掛け状態の起きる恐れのないドラムブレーキ装置のシューホールド機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、ブレーキシューを1枚の板材から折り曲げて形成したU字スプリングを介してバッキングプレート上で摺動自在にかつバッキングプレートに向けて弾性保持するドラムブレーキ装置のシューホールド機構であって、前記U字スプリングは一対の板状部とこれら板状部の一端側を連結するU字状連結部とを備えてシューウエブ上に載置され、該U字状連結部から一対の板状部の他端側にかけてシューホールドダウンピンの軸部より大きく頭部よりも小さな幅のスリットが形成されていると共に、該スリットの終端部近傍の板状部には凹曲げ段部が設けられ、バッキングプレートから延出したシューホールドダウンピンの軸部が前記スリットを介して挿入され、スリットの終端部においてシューホールドダウンピンの頭部が前記凹曲げ段部と係合するように構成されている。
【0009】
本発明の請求項2に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、請求項1に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構であって、前記凹曲げ段部は一対の板状部の双方に設けられている。
【0010】
本発明の請求項3に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、請求項1または2に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構であって、前記一対の板状部の他端部は内方に折曲した折曲部を有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、U字スプリングが一対の板状部とこれら板状部の一端側を連結するU字状連結部とで構成されているため構造が単純である。またシューホールド機構の組み付けに際しては、シューウエブ上でU字スプリングをシューホールドダウンピンに対してスリットを介して押し込むだけでシューホールドダウンピンの頭部を板状部の凹曲げ段部に係合できるので、熟練を要することなく組み付けできる構造を有している。
【0012】
本発明の請求項2に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、凹曲げ段部が一対の板状部の双方に設けられているので、一対の板状部のうちどちらの板状部を上もしくは下に向けて使用しても組み立が可能であるので、組み付け作業が容易でしかも短時間で行える。
【0013】
本発明の請求項3に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構は、一対の板状部の他端部に内方に折曲した折曲部が設けられているので、U字スプリングをシューホールドダウンピンに対してスリットを介して押し込む時に、折曲部を利用して押し込め、しかも板状部の他端がエッジ部でなくて折曲部となっているので安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明のシューホールド機構を備えたドラムブレーキ装置の全体の正面図、図2は本発明のシューホールド機構の主要部品の一つであるU字スプリングの斜視図、図3は本発明のシューホールド機構の主要部品の一つであるシューホールドダウンピンの正面図、図4はシューホールド機構の組み付け手順の説明図であり、(a)は組み付け開始状態を示し、(b)は組み付け途中の状態を示し、(c)は組み付け完了状態を示す。
【0016】
図1に示すように、バッキングプレート1はその上に固定したホイルシリンダ3及びアンカ5と、拡開自在の一対のブレーキシュー7,7’を備え、各ブレーキシュー7,7’は略断面T字形をなし、シューウエブ7a,7a’と摩擦ライニング7b,7b’をその外周側端面に固着したシューリム7c,7c’で構成されている。そして一対のブレーキシュー7,7’の一方端はそれぞれホイルシリンダ3の作動ロッド3a,3a’と当接し、他方端はそれぞれアンカ5の側面に当接している。
【0017】
一方のブレーキシュー7のシューウエブ7aにはパーキングレバー9の一端部が回動可能に支持され、パーキングレバー9の他端はコントロールケーブル等の遠隔操作手段10と接続している。そしてこのパーキングレバー9の中間部には他方のブレーキシュー7’と連接するストラット11が係合している。
【0018】
一対のブレーキシュー7,7’のシューウエブ7a,7a’の略中間部には、バッキングプレート1上で摺動自在にかつバッキングプレートに向けて弾性保持する一対のシューホールド機構13,13’が配設されており、その詳細については図2及び図3に基づいて詳述する。なお、この一対のシューホールド機構13,13’は同じ構造で同一の作用をするので、ここでは一方のシューホールド機構13についてのみ説明する。
【0019】
シューホールド機構13は、U字スプリング15とシューホールドダウンピン17を用いてバッキングプレート1に対してブレーキシュー7を摺動自在かつ弾性的に保持し、制動時にブレーキシュー7の浮き上がりを防止する機構である。図2に示されているように、U字スプリング15は1枚の板材を折り曲げて形成したもので、一対の板状部15a,15bとこれら板状部の一端側を連結するU字状連結部15cとで構成されている。
【0020】
このU字状連結部15cから一対の板状部15a,15bにかけてスリット15dが形設され、スリット15dの終端部は図3に示したシューホールドダウンピン17の軸部17aを受け入れる円弧状の溝15eが設けられている。スリット15dの溝幅hはシューホールドダウンピン17の軸部17aの径dより大きく、シューホールドダウンピン17の断面円形の頭部17bの径Dより小さい。円弧状の溝15eの溝径d’はスリット15dの溝幅hよりも大きく、かつ、シューホールドダウンピン17の頭部17bの径Dより小さく設定されている。
【0021】
なお、この円弧状の溝15eは、U字スプリング15の装着状態でシューホールドダウンピン17の軸部17aとの干渉を避けるため、溝15eと軸部17aとの間にはある程度の隙間を設ける必要があるが、溝の形状は、特に限定されない。
【0022】
そしてこの円弧状の溝15eが形成されているスリット終端部近傍の板状部15a,15bにはシューホールドダウンピン17の頭部17bの着座部となる凹曲げ段部15f,15fが形成されている。この凹曲げ段部15f,15fは図2に示すように互いに凹曲げ段部15f,15fが近接する方向に凹設されている。
【0023】
次にシューホールド機構13の組み付け手順について図4に基づき説明する。図4(a)は組み付け開始状態を示し、先ずシューホールドダウンピン17の頭部17bをバッキングプレート1の挿入孔1aから挿入し、シューウエブ7aの挿入孔7dを通過させ、シューホールドダウンピン17の拡径座部17cがバッキングプレート1の底面と当接するようにしてシューホールドダウンピン17が略垂直になるように立設させる。
【0024】
次に、U字スプリング15のU字状連結部15cをシューホールドダウンピン17側に向けて矢印X方向に移動させる。このときU字スプリング15のスリット15dにシューホールドダウンピン17の軸部17aが挿入されるようにする。U字スプリング15が軸部17aに挿入し始めると、U字状連結部15c上面がシューホールドダウンピン17の頭部17b下面と係合しシューホールドダウンピン17は矢印Y方向に押し上げられる。
【0025】
更にU字スプリング15を矢印X方向に移動させると、図4(b)に示すように、上方の板状部15aが下方の板状部15bと略平衡となる程度まで下方に向けて撓む。そして上方の板状部15a側の凹曲げ段部15fがシューホールドダウンピン17の頭部17bを受け入れる位置まで達すると、図4(c)に示すように、頭部17bが凹曲げ段部15fに収納され、上方の板状部15aの撓みが若干上方に戻る。
【0026】
頭部17bが凹曲げ段部15fに収納されと、シューホールドダウンピン17の頭部17bの径Dはスリット15dの溝幅hより大きいので、頭部17bが凹曲げ段部15fの壁面と当接しシューホールドダウンピン17がスリット15dから抜け出ることはない。係合を解除するには、上下の板状部15a,15bが近接するように圧縮させて、矢印X方向と逆の方向に引き出せばよい。
【0027】
このようにU字スプリング15を水平にスライドさせるだけで、シューホールドダウンピン17にU字スプリング15を組み付けることができる。組み付け完了時にはU字スプリング15のばね力がシューホールドダウンピン17を上方に引き上げる力が働き、その反力がブレーキシュー7に作用して、ブレーキシュー7がバッキングプレート1に向けて弾性保持される。
【0028】
なお、上方の板状部15aだけでなく下方の板状部15bにも凹曲げ段部15fを形成してあるが、これは下方の板状部15bを上方に向けて矢印X方向にスライドさせても、組み付け時にシューホールドダウンピン17にU字スプリング15を組み付けることができるようにしたもので、U字スプリング15の上下の向きを気にせず取り付けることができる。
また、凹曲げ段部15fは、U字状連結部15cから比較的距離をおいたばね定数の安定した位置に作製できるとともに、板状部15a,15bと凹曲げ段部15fとの間に段差があるため、U字スプリング15が装着されたブレーキが車両の振動等を受けてもU字スプリング15が外れてしまうおそれはない。
さらに、板状部15a,15bと凹曲げ段部15fとの間の段差によりU字スプリング15の装着作業の際、ピン頭部17bが凹曲げ段部15fに落ち込むことにより装着完了の節度感を得られるという効果も有する。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、例えば、本実施例ではリーディング・トレーリングタイプのドラムブレーキに適応した例で説明したが、ブレーキシューがバッキングプレートに対して摺動するものであればいかなる形式のドラムブレーキにも適用できるものである。また、シューホールドダウンピンの頭部は断面円形状であるが、特にこの形状に限定するものではなく、頭部が凹曲げ段部に係合した時にシューホールドダウンピンがスリットから抜け出さない形状であればいかなる形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のシューホールド機構を備えたドラムブレーキ装置の全体の正面図である。
【図2】本発明のシューホールド機構の主要部品の一つであるU字スプリングの斜視図である。
【図3】本発明のシューホールド機構の主要部品の一つであるシューホールドダウンピンの正面図である。
【図4】シューホールド機構の組み付け手順の説明図であり、(a)は組み付け開始状態を示し、(b)は組み付け途中の状態を示し、(c)は組み付け完了状態を示す。
【符号の説明】
【0031】
1・・・バッキングプレート
1a・・・挿入孔
3・・・ホイルシリンダ
3a,3a’・・・作動ロッド
5・・・アンカ
7,7’・・・ブレーキシュー
7a,7a’・・・シューウエブ
7b,7b’・・・摩擦ライニング
7c,7c’・・・シューリム
7d・・・挿入孔
9・・・パーキングレバー
10・・・遠隔操作手段
11・・・ストラット
13,13’・・・シューホールド機構
15・・・U字スプリング
15a,15b・・・板状部
15c・・・U字状連結部
15d・・・スリット
15e・・・円弧状の溝
15f・・・凹曲げ段部
17・・・シューホールドダウンピン
17a・・・軸部
17b・・・頭部
17c・・・拡径座部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューを1枚の板材から折り曲げて形成したU字スプリングを介してバッキングプレート上で摺動自在にかつバッキングプレートに向けて弾性保持するドラムブレーキ装置のシューホールド機構であって、前記U字スプリングは一対の板状部とこれら板状部の一端側を連結するU字状連結部とを備えてシューウエブ上に載置され、該U字状連結部から一対の板状部の他端側にかけてシューホールドダウンピンの軸部より大きく頭部よりも小さな幅のスリットが形成されていると共に、該スリットの終端部近傍の板状部には凹曲げ段部が設けられ、バッキングプレートから延出したシューホールドダウンピンの軸部が前記スリットを介して挿入され、スリットの終端部においてシューホールドダウンピンの頭部が前記凹曲げ段部と係合するドラムブレーキ装置のシューホールド機構。
【請求項2】
前記凹曲げ段部は一対の板状部の双方に設けられている請求項1に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構。
【請求項3】
前記一対の板状部の他端部は内方に折曲した折曲部を有している請求項1または2に記載のドラムブレーキ装置のシューホールド機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−275132(P2006−275132A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93719(P2005−93719)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】