説明

ドラムブレーキ装置及びその組立方法

【課題】ブレーキシューのバッキングプレートへの位置決めを少ない部品で実現して、生産性の向上を図ると同時に、組立不良の発生頻度を低減させることができるドラムブレーキ装置を得る。
【解決手段】ブレーキシュー3,4をバッキングプレート5に押圧して拡開可能に保持すると共に、制動解除時に各ブレーキシュー3,4をドラムの内面から離反させるシュー位置保持機構として、一本のばね線材を略円環状に湾曲させたスプリング部材11を採用し、該スプリング部材は両端と円環の中間部11cとのそれぞれをバッキングプレート5に連結する両持ちの支持構造を採る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のドラムブレーキ装置及びその組立方法に関し、特に、ブレーキシューをバッキングプレートに摺動可能に連結する構造を簡易にして、シューホールドに必要な部品の削減により、コストの削減および組立性の向上を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のドラムブレーキ装置は、通常、円筒状のブレーキドラムの内側に対向配置される一対のブレーキシューと、一対のブレーキシューの一方の端部間でバッキングプレートに固定されると共にこれらのブレーキシューをブレーキドラムの内面に押圧するピストンを備えたホイールシリンダと、一対のブレーキシューの他方の端部間でバッキングプレートに固定されると共に制動時のブレーキ力を受けるアンカー部材と、ブレーキシューを拡開可能にバッキングプレート上に保持すると共に制動解除時に各ブレーキシューをドラムの内面から離反させるシュー位置保持機構と、を備えた構成になっている。
【0003】
そして、一対のブレーキシューは、バッキングプレートに平行なウェブと、該ウェブの外周面にバッキングプレートと直交して配設される円弧板状のリムと、該リムの外周面に固着させたライニングとを備えた断面T字状の構造に形成されている。
【0004】
このようなドラムブレーキ装置におけるシュー位置保持機構としては、各ブレーキシューを拡開可能にバッキングプレート上に保持するシューホールド機構とは別に、一対のブレーキシューを互いに接近する方向に付勢して制動解除時に各ブレーキシューをドラムの内面から離反させるシューリターンスプリングを装備した構成が一般的である。
【0005】
また、シューホールド機構は、各ブレーキシューのウェブを貫通してバッキングプレートに固定されるホールドピンと、このホールドピンの頭部側に係止されるばね受けと、ばね受けとウェブとの間に圧縮状態で介在するようにホールドピンに嵌合装備された圧縮コイルばねとを備えた構成で、圧縮コイルばねによりウェブをバッキングプレートに押圧して、ブレーキシューのバッキングプレートからの浮き上がりを防止したものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ところが、上記構成のシューホールド機構は、構成部品点数が多く、組立工程数も多い。そのために、生産性の向上を図ることが難しく、また、組立不良が発生し易いという問題が生じた。
さらに、構成部品点数が多いことから、部品管理にかかる手間が増え、管理コストが増大するという問題も生じていた。
【0007】
このような背景から、シュー位置保持機構として、一本のばね線材を中間部がアンカー部材の周辺でバッキングプレートに結合されると共に両端が各ブレーキシューに結合される所定の湾曲形状に成形したスプリング部材に、シューホールド機構としての機能と、シューリターンスプリングとしての機能とを発揮させ、従来のシューホールド機構やシューリターンスプリングを廃止することにより、大幅な部品点数の削減、組立工程数の削減を実現し、従来機構での問題を回避する技術が提案された(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開昭55−94037号公報
【特許文献2】米国特許4762209号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献2に記載のシュー位置保持機構としてのスプリング部材は、一本のばね線材の中間部のみがバッキングプレートに係合され、両端は自由端となる片持ちの支持構造で、シューホールド機構として十分な押圧力を発揮させるべくばね強度を高めると、中間部をバッキングプレートに固定する際に大きな操作力が必要で、装着が困難になるという問題が生じた。
また、スプリング部材が片持ちの支持構造であるため、中間部に加工誤差等で僅かな捩れ等が生じると、自由端である端部の位置にばらつきが生じる。このばらつきによって、シューホールド機構として一対のブレーキシューに作用させる押圧力や、シューリターンスプリングとしての引張力にばらつきが生じ、各ブレーキシューの拡開動作や戻り動作が不安定になる虞があった。
【0010】
本発明の目的は上記課題を解消することに係り、シュー位置保持機構を少ない部品で実現して、構成部品点数の低減と組立工程数の低減とを達成し、また、組立時に大きな操作力が不要で、組立性を向上させることができるドラムブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)ブレーキドラムの内側に対向配置される一対のブレーキシューと、前記ブレーキシューの一方の端部間でバッキングプレートに固定されるピストンを備えたホイールシリンダと、前記ブレーキシューの他方の端部間でバッキングプレートに固定されるアンカー部材と、前記ブレーキシューを拡開可能に保持すると共に制動解除時に各ブレーキシューをドラム内面から離反させるシュー位置保持機構と、を備えるドラムブレーキ装置であって、前記シュー位置保持機構は、一本のばね線材を略円環状に湾曲させて、対向する両端部に前記ホイールシリンダ付近でバッキングプレートに旋回自在に嵌合する端部連結部を形成し、アンカー部材付近に位置する円環の中間部に前記端部連結部を中心とする旋回と弾性変形によりアンカー部材周辺に係合してバッキングプレートに固定される中間連結部を形成し、この中間連結部と前記端部連結部との中間に前記端部連結部が前記バッキングプレートに嵌合し且つ前記中間連結部が前記アンカー部材周辺に係合する前に前記ブレーキシューのウェブに係合するウェブ係合部を形成した構成で、前記ウェブ係合部を前記ウェブに係合した後、前記中間連結部を前記アンカー部材周辺に係合するまでの弾性変形に伴う弾性復元力が各ブレーキシューをバッキングプレート側に押圧して、各ブレーキシューを拡開可能に保持するシューホールド機構として機能し、円環部の径方向の弾性復元力が各ブレーキシューをドラムの内面から離反させるシューリターンスプリングとして機能することを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0012】
(2)上記(1)において、前記ホイールシリンダと共に前記バッキングプレートに固定されるブラケットに、前記端部連結部を旋回自在に嵌合支持する一対の線材端部支持部を設けたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)において、前記ウェブ係合部が係合する前記ブレーキシューの部位には、前記ウェブ係合部の離脱を阻止する係止突起が装備されたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0014】
(4)上記(1)乃至(3)の何れかに記載のドラムブレーキ装置の組立方法であって、予めホイールシリンダを支持する前記ブラケットを前記バッキングプレート上に取り付ける工程と、一対のブレーキシューをバッキングプレート上に配置した後、前記シュー位置保持機構の両端の端部連結部を前記ブラケットの線材端部支持部に支持させて、該シュー位置保持機構の中間連結部がアンカー部材周辺に近づくように、前記端部連結部を支点として旋回させる工程と、前記ウェブに設けられた線材係合部に前記ウェブ係合部を係合させて、前記中間連結部を前記アンカー部材周辺で前記バッキングプレートに固定する工程と、を実施することを特徴とするドラムブレーキ装置の組立方法。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)に記載のドラムブレーキ装置では、シュー位置保持機構が一本のばね線材を折曲して所定形状に成形したスプリング部材により構成されていて、従来使用されていた構成部品の多いシューホールド機構や、シューリターンスプリングが不要になる。シュー位置保持機構としてのスプリング部材は、両端部がホイールシリンダ付近でバッキングプレートに支持され、中間部がアンカー部材付近でバッキングプレートに支持されて、これらのバッキングプレートへの支持点の中間がブレーキシューをバッキングプレートに押圧して位置決めする両持ちの支持構造となる。そのため、一対のブレーキシューに付与する押圧力や引張力にばらつきが生じ難く、各ブレーキシューの拡開動作や戻り動作の安定性を向上させることができる。
また、ホイールシリンダ側及びアンカー部材側の2箇所でバッキングプレートに固定する両持ちの支持構造のため、片持ちの支持構造の従来のスプリング部材と比較すると、ブレーキシューを押さえる性能は低下させずに、バッキングプレートへの取り付け荷重を低くでき、これにより、バッキングプレートへの取り付けを容易にすることができる。
【0016】
上記(2)に記載のドラムブレーキ装置では、シュー位置保持機構としてのスプリング部材のホイールシリンダ側でのバッキングプレートへの連結は、ブラケットを介して行われるため、ブラケット上の線材端部支持部の装備位置を工夫することで、シュー位置保持機構としてのスプリング部材の端部構造を単純にしたり、ブラケットへの装着を容易にしたりすることができ、スプリング部材の組付性を向上させることができる。
また、シュー位置保持機構としてのスプリング部材の両端部を支持するブラケットは、ホイールシリンダと共にバッキングプレートに固定されるため、ブラケットの取り付けのために、バッキングプレートに専用の加工が必要とならない。
【0017】
上記(3)に記載のドラムブレーキ装置では、シュー位置保持機構としてのスプリング部材のウェブ係合部を各ブレーキシューに係合させると、ウェブに装備された係止突起がスプリング部材の離脱を阻止するため、組付後はブレーキシューとスプリング部材との結合が外れ難く、各ブレーキシューをバッキングプレートに取り付ける際に、予め一対のブレーキシュー相互をシュー位置保持機構としてのスプリング部材で連結した一つの部分組立体として取り扱うことで、組立工程を容易にすることができる。
【0018】
上記(4)に記載のドラムブレーキ装置の組立方法では、バッキングプレートにシュー位置保持機構としてのスプリング部材を取り付ける場合に、スプリング部材の両端部をホイールシリンダ側に連結する工程や、スプリング部材のウェブ係合部を各ブレーキシューに連結する工程で、スプリング部材に大きな弾性変形を加えずに連結操作を行うことができるため、組立操作が容易にできる。
そして、最後にスプリング部材の中間連結部をアンカー部材側に連結する際には、スプリング部材に大きな弾性変形を加える必要が生じるが、既に両端の端部連結部と、両側のウェブ係合部とが連結を済ませていて、左右に振れたり傾いたりすることのない安定した設置状態になっているため、弾性変形を加えやすく、円滑にスプリング部材の取り付けを実施して、組立が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るドラムブレーキ装置の一実施形態の正面図、図2は図1に示したドラムブレーキ装置の斜視図、図3は図1に示したドラムブレーキ装置において、ホイールシリンダを取り外した状態で図2とは異なる角度から見た斜視図、図4は一対のブレーキシュー相互をシュー位置保持機構としてのスプリング部材によって連結して部分組立体とした状態の斜視図、図5は図4に示した一対のブレーキシューの部分組立体の正面図、図6は図1に示したシュー位置保持機構としてのスプリング部材の平面図、図7は図6に示したスプリング部材の組立状態の側面図である。
【0020】
このドラムブレーキ装置1は、円筒状のブレーキドラム(図示略)の内側に対向配置される一対のブレーキシュー3,4と、これらのブレーキシュー3,4の一方の端部間でバッキングプレート5に固定されると共にこれらのブレーキシュー3,4をブレーキドラムの内面に押圧するピストン7aを備えたホイールシリンダ7と、ホイールシリンダ7による拡開操作力を他方のブレーキシューに伝達するストラット8と、一対のブレーキシュー3,4の他方の端部間でバッキングプレート5に固定されると共に制動時のブレーキ力を受けるアンカー部材9と、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11とを備えたリーディング・トレーリング式のドラムブレーキ装置である。
【0021】
一対のブレーキシュー3,4は、バッキングプレート5に平行なウェブ3a,4aと、これらのウェブ3a,4aの外周面にバッキングプレート5と直交して配設される円弧板状のリム3b,4bと、これらのリム3b,4bの外周面に固着した円弧板状のライニング3c,4cとを備えた断面T字状の構造に形成されている。
【0022】
シュー位置保持機構としてのスプリング部材11は、シューホールド機構としての機能と、シューリターンスプリングとしての機能とを発揮する。
シューホールド機構としての機能は、一対のブレーキシュー3,4がバッキングプレート5上を滑って拡開可能になるように、一対のブレーキシュー3,4をバッキングプレート5上に押圧保持する機能である。
シューリターンスプリングとしての機能は、一対のブレーキシュー3,4を互いに接近する方向に付勢して制動解除時に各ブレーキシュー3,4をドラムの内面から離反させる(戻す)機能である。
【0023】
本実施の形態のスプリング部材11は、図6及び図7に示すように、一本のばね線材を一対のブレーキシュー3,4のウェブ3a,4aの上を通過して両端がホイールシリンダ7付近に位置するように略円環状に湾曲させて、対向する両端部11a,11bにはホイールシリンダ7付近でバッキングプレート5に旋回自在に嵌合支持される端部連結部13,14を折曲形成し、アンカー部材9付近に位置する円環の中間部11cには、両端の端部連結部13,14を中心とする旋回と弾性変形によりアンカー部材9の周辺の中間係止部16に係合することでバッキングプレート5に固定される中間連結部18を折曲形成し、この中間連結部18と各端部連結部13,14との中間には、中間連結部18が中間係止部16に到達する前にウェブ3a,4aに穿設した線材係合部21に係合するウェブ係合部23を形成した構成である。
【0024】
端部連結部13,14は、図4乃至図6に示すように略同一軸線状で互いに離間する方向に延出した軸部で、この軸部が旋回可能に嵌合する、ブラケット27に形成した略筒状の線材端部支持部25(図3参照)に支持される。
本実施の形態の場合、線材端部支持部25は、図3に示すように、ホイールシリンダ7と共にバッキングプレート5に固定される板金製のブラケット27に形成されている。
【0025】
中間係止部16は、アンカー部材9に固定された板材29に突出形成された突片である。中間連結部18はこの中間係止部16の下を潜る湾曲形状に形成されていて、中間係止部16により浮き上がりが規制されることで、バッキングプレート5に連結された状態になる。
【0026】
ウェブ係合部23は、図7に示すように、下に凸の湾曲部である。
各ウェブ3a,4aに装備される線材係合部21は、図7に示すように、該ウェブ係合部23が嵌合する切り欠き穴である。そして、線材係合部21としての切り欠き穴の周縁には、図1に示すように、係合したウェブ係合部23の離脱を阻止するため穴内に僅かに突出した係止突起21aが装備されている。
【0027】
図4及び図5に示すように、スプリング部材11の一対のウェブ係合部23をブレーキシュー3,4の線材係合部21に係合させ、さらにストラット8によってブレーキシュー3,4の一方の対向端間を位置規制することで、ブレーキシュー3,4相互を互いに所定の位置関係に連結した部分組立状態にすることができる。
この部分組立したブレーキシュー3,4を、ホイールシリンダ7及びブラケット27やアンカー部材9及び板材29が取り付けられるバッキングプレート5に組付ることで、ドラムブレーキ装置1の組立工程数を低減でき、組立を容易にすることができる。
【0028】
ブレーキシュー3,4を位置決めしているスプリング部材11は、ウェブ係合部23をウェブ3a,4aの線材係合部21に係合させた後、中間連結部18を中間係止部16に係合させるまでの弾性変形に伴う弾性復元力が各ブレーキシュー3,4をバッキングプレート5側に押圧して、各ブレーキシュー3,4を拡開可能にバッキングプレート5上に保持するシューホールド機構として機能し、また、円環部の径方向の弾性復元力が各ブレーキシュー3,4をドラムの内面から離反させるシューリターンスプリングとして機能する。
【0029】
以上に説明した本実施の形態のドラムブレーキ装置1では、シュー位置保持機構が一本のばね線材を折曲して所定形状に成形したスプリング部材11により構成されていて、従来使用されていた構成部品の多いシューホールド機構や、シューリターンスプリングが不要になる。
従って、これらのシューホールド機構やシューリターンスプリングの廃止により、バッキングプレート5への一対のブレーキシュー3,4の位置決めを少ない部品で実現して、構成部品点数の低減と組立工程数の低減とを達成し、これにより、生産性の向上を図ると同時に、組立不良の発生頻度を低減させることができる。また、構成部品点数の削減により、部品管理にかかる手間の低減により管理コストの低減を図ることもできる。
【0030】
また、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11は、両端部11a,11bがホイールシリンダ7付近でバッキングプレート5に支持され、中間部11cがアンカー部材9付近でバッキングプレート5に支持されて、これらのバッキングプレート5への支持点の中間がブレーキシュー3,4をバッキングプレート5に押圧して位置決めする両持ちの支持構造となるため、片持ちの支持構造でバッキングプレートに固定される従来のスプリング部材と比較すると、ブレーキシュー3,4を押圧する部位の位置にばらつきが生じ難い。
そのため、一対のブレーキシュー3,4に付与する押圧力や引張力にばらつきが生じ難く、各ブレーキシュー3,4の拡開動作や戻り動作の安定性を向上させることができる。
また、ホイールシリンダ7側及びアンカー部材9側の2箇所でバッキングプレート5に固定する両持ちの支持構造のため、片持ちの支持構造の従来のスプリング部材と比較すると、ブレーキシュー3,4を押さえる性能は低下させずに、バッキングプレート5への取り付け荷重を低くでき、これにより、バッキングプレート5への取り付けを容易にすることができる。
【0031】
また、本実施の形態のドラムブレーキ装置1では、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11のホイールシリンダ7側でのバッキングプレート5への連結は、ブラケット27を介して行われるため、ブラケット27上の線材端部支持部25の装備位置を工夫することで、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11の端部構造を単純にしたり、ブラケット27への装着を容易にしたりすることができ、スプリング部材の組付性を向上させることができる。
また、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11の両端部11a,11bを支持するブラケット27は、ホイールシリンダ7と共にバッキングプレート5に固定されるため、ブラケット27の取り付けのために、バッキングプレート5に専用の加工が必要とならない。
【0032】
また、本実施の形態のドラムブレーキ装置1では、図4及び図5に示したように、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11のウェブ係合部23を各ブレーキシュー3,4の線材係合部21に係合させると、線材係合部21に装備された係止突起21aがスプリング部材の離脱を阻止するため、組付後はブレーキシュー3,4とスプリング部材との結合が外れ難く、各ブレーキシュー3,4をバッキングプレート5に取り付ける際に、予め一対のブレーキシュー3,4相互をシュー位置保持機構11としてのスプリング部材で連結した一つの部分組立体として取り扱うことで、組立工程を容易にすることができる。
【0033】
なお、本発明に係るドラムブレーキ装置の組立方法は、上記実施の形態に示した手順に限らない。
例えば、予めホイールシリンダ7を支持するブラケット27やアンカー部材9をバッキングプレート5上に取り付けておき、さらに一対のブレーキシュー3,4をバッキングプレート5上に配置した後、シュー位置保持機構としてのスプリング部材11の両端の端部連結部13,14をホイールシリンダ7側の線材端部支持部25に支持させ、次いで、該シュー位置保持機構11の中間連結部18が中間係止部16側に近づくように、端部連結部13,14を支点としてシュー位置保持機構11を中間係止部16側に旋回させて、ウェブ3a,4aに設けられた線材係合部21にウェブ係合部23を係合させ、次いで、中間連結部18を中間係止部16に係合させるようにしても良い。
【0034】
この組立方法でも、バッキングプレート5にシュー位置保持機構としてのスプリング部材11を取り付ける場合に、スプリング部材11の両端部11a,11bをホイールシリンダ7側に連結する工程や、スプリング部材11のウェブ係合部23を各ブレーキシュー3,4の線材係合部21に連結する工程では、スプリング部材に大きな弾性変形を加えずに連結操作を行うことができるため、組立操作が容易にできる。
最後にスプリング部材11の中間連結部18をアンカー部材9側の中間係止部16に連結する際には、スプリング部材11に大きな弾性変形を加える必要が生じるが、既に両端の端部連結部13,14と、両側のウェブ係合部23とが連結を済ませていて、左右に振れたり傾いたりすることのない安定した設置状態になっているため、弾性変形を加えやすく、円滑にスプリング部材の取り付けを済ませることができ、組立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の一実施形態に係る正面図である。
【図2】図1に示したドラムブレーキ装置の斜視図である。
【図3】図1に示したドラムブレーキ装置において、ホイールシリンダを取り外した状態で図2とは異なる角度から見た斜視図である。
【図4】一対のブレーキシュー相互をスプリング部材によって連結して部分組立体とした状態の斜視図である。
【図5】図4に示したブレーキシューの部分組立体の正面図である。
【図6】図1に示したシュー位置保持機構としてのスプリング部材の平面図である。
【図7】図6に示したスプリング部材のウェブに部分組立した状態の側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ドラムブレーキ装置
3,4 ブレーキシュー
3a,4a ウェブ
3b,4b リム
3c,4c ライニング
5 バッキングプレート
7 ホイールシリンダ
7a ピストン
9 アンカー部材
11 スプリング部材(シュー位置保持機構)
11a,11b 両端部
11c 中間部
13,14 端部連結部
18 中間連結部
21 線材係合部
21a 係止突起
23 ウェブ係合部
25 線材端部支持部
27 ブラケット
29 板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキドラムの内側に対向配置される一対のブレーキシューと、前記ブレーキシューの一方の端部間でバッキングプレートに固定されるピストンを備えたホイールシリンダと、前記ブレーキシューの他方の端部間でバッキングプレートに固定されるアンカー部材と、前記ブレーキシューを拡開可能に保持すると共に制動解除時に各ブレーキシューをドラム内面から離反させるシュー位置保持機構と、を備えるドラムブレーキ装置であって、
前記シュー位置保持機構は、一本のばね線材を略円環状に湾曲させて、対向する両端部に前記ホイールシリンダ付近でバッキングプレートに旋回自在に嵌合する端部連結部を形成し、アンカー部材付近に位置する円環の中間部に前記端部連結部を中心とする旋回と弾性変形によりアンカー部材周辺に係合してバッキングプレートに固定される中間連結部を形成し、この中間連結部と前記端部連結部との中間に前記端部連結部が前記バッキングプレートに嵌合し且つ前記中間連結部が前記アンカー部材周辺に係合する前に前記ブレーキシューのウェブに係合するウェブ係合部を形成した構成で、
前記ウェブ係合部を前記ウェブに係合した後、前記中間連結部を前記アンカー部材周辺に係合するまでの弾性変形に伴う弾性復元力が各ブレーキシューをバッキングプレート側に押圧して、各ブレーキシューを拡開可能に保持するシューホールド機構として機能し、円環部の径方向の弾性復元力が各ブレーキシューをドラムの内面から離反させるシューリターンスプリングとして機能することを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記ホイールシリンダと共に前記バッキングプレートに固定されるブラケットに、前記端部連結部を旋回自在に嵌合支持する一対の線材端部支持部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記ウェブ係合部が係合する前記ブレーキシューの部位には、前記ウェブ係合部の離脱を阻止する係止突起が装備されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドラムブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のドラムブレーキ装置の組立方法であって、予めホイールシリンダを支持する前記ブラケットを前記バッキングプレート上に取り付ける工程と、一対のブレーキシューをバッキングプレート上に配置した後、前記シュー位置保持機構の両端の端部連結部を前記ブラケットの線材端部支持部に支持させて、該シュー位置保持機構の中間連結部がアンカー部材周辺に近づくように、前記端部連結部を支点として旋回させる工程と、前記ウェブに設けられた線材係合部に前記ウェブ係合部を係合させて、前記中間連結部を前記アンカー部材周辺で前記バッキングプレートに固定する工程と、を実施することを特徴とするドラムブレーキ装置の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−139053(P2007−139053A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332872(P2005−332872)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】