説明

ドラムブレーキ

【課題】ストラットおよびレバーピンを使用することなくドラムブレーキの部品点数を減少するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】パーキングレバー52は、バッキングプレート14の径方向の相対移動が規制され且つ相対回転可能にアンカーピン46の外周面と係合する係合凹面52gと、パーキングレバー52の回動に従って一対のブレーキシュー16,18の一端部間を拡大するためにアンカーピン46の外周位置においてパーキングレバー52の基端部から一対のブレーキシュー16,18の一端部の間に介在するように突設された係合突部52c,52dとが備えられパーキングレバー52の先端部に操作力が伝達されると、パーキングレバー52はアンカーピン46回りに回動され係合突部52c,52dを回動し一対のブレーキシュー16,18の一端部間を離間する。このため従来使用したストラットおよびレバーピン等の部品が不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にドラムブレーキの部品点数を少なくしてドラムブレーキの製造コストを安価にする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドラムブレーキは、たとえば特許文献1に示すように、バッキングプレート上に拡開可能に支持され且つリターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一端部の間に位置するようにそのバッキングプレートから突設されたアンカーピンと、その一対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの一端部に配設されたレバーピン回りに回動可能に設けられたブレーキレバーと、そのブレーキレバーおよび一方のブレーキシューと一対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューとの間に掛け渡されたストラットとを備え、上記ブレーキレバーを回転操作することによって上記レバーピンとストラットとを介して一対のブレーキシューの一端部間を拡大し、その一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に押し付けてその回転ドラムの回転を制動するものである。
【特許文献1】特開2000−145837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキは、一対のブレーキシューの一端部間を拡大するのにレバーピン、その止め輪、およびストラット等を必要とするので、ドラムブレーキを製造する際にドラムブレーキの部品点数が多くなってしまいドラムブレーキを安価に製造できないという問題があった。
【0004】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ストラットおよびレバーピンを使用することなくドラムブレーキの部品点数を減少するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、バッキングプレート上に拡開可能に支持され且つリターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一端部の間に位置するようにそのバッキングプレートから突設されたアンカーピンと、そのアンカーピン回りに回動可能に設けられたブレーキレバーとを備え、そのブレーキレバーの回動操作に従ってその一対のブレーキシューの一端部間を拡大し、その一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に押し付けてその回転ドラムの回転を制限するドラムブレーキであって、前記ブレーキレバーの基端部において形成され、前記バッキングプレートの径方向の相対移動が規制され且つ相対回転可能に前記アンカーピンの外周面と係合する係合凹面と、前記ブレーキレバーの回動に従って該一対のブレーキシューの一端部間を拡大するために、前記アンカーピンの外周位置において前記ブレーキレバーの基端部から前記一対のブレーキシューの一端部の間に介在するように突設された係合突部とを、含むことにある。
【0006】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記一対のブレーキシューの一端部は、前記バッキングプレートの径方向に沿った端縁に形成された前記アンカーピンを受け入れるための半円形の切欠と、その切欠の両側に位置し、周方向に突き出して前記係合突部に当接する一対の当接部とを、それぞれ備えた対称的形状を有するものであることにある。
【0007】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、前記係合凹面は、前記ブレーキレバーの基端部に前記アンカーピンを受け入れるために形成された半円形の切欠の内周面であり、その内周面と前記アンカーピンとの間には、前記バッキングプレートの周方向において所定長さの間隙が形成されていることにある。
【0008】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項3に係る発明において、前記係合突部は、前記ブレーキレバーの基端部に形成された半円形の切欠の両側の位置から厚み方向へ直角に曲げられて形成されたものであることにある。
【0009】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれかに係る発明において、前記ブレーキレバーは、板材から構成されたものであって、前記一対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューのシューウエブと重なる状態で配設され、前記リターンスプリングは、前記一対のブレーキシューにそれぞれ掛け止められるように回曲させられた一対の掛止端部を備えたものであり、その一対の掛止端部のうちの前記一方のブレーキシューに掛け止められる掛止端部は、重なる状態で配設されている前記ブレーキレバーとその一方のブレーキシューとを挟圧するものであることにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のドラムブレーキよれば、前記バッキングプレートの径方向の相対移動が規制され且つ相対回転可能に前記アンカーピンの外周面と係合する係合凹面と、前記ブレーキレバーの回動に従ってその一対のブレーキシューの一端部間を拡大するために、前記アンカーピンの外周位置において前記ブレーキレバーの基端部から前記一対のブレーキシューの一端部の間に介在するように突設された係合突部とがブレーキレバーの基端部において形成されているので、ブレーキレバーの先端部に操作力が伝達されると、ブレーキレバーはアンカーピン回りに回動させられるとともに一対のブレーキシューの一端部間に介在する係合突部がそのブレーキレバーと共に回動させられることにより一対のブレーキシューの一端部間が離間させられてその一対のブレーキシューが拡径されて回転ドラムに内接させられ制動力が発生させられる。これにより、従来使用したストラットおよびレバーピンの機能を前記係合凹面および係合突部を基端部に有する前記ブレーキレバーに備えることができるので、その為ストラットおよびレバーピン等が不要となりドラムブレーキの部品点数を減少することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明のドラムブレーキによれば、前記一対のブレーキシューの一端部は、前記バッキングプレートの径方向に沿った端縁に形成された前記アンカーピンを受け入れるための半円形の切欠と、その切欠の両側に位置し、周方向に突き出して前記係合突部に当接する一対の当接部とを、それぞれ備えた対称的形状を有するので、ブレーキレバーの回動操作に従って一方のブレーキシューと他方のブレーキシューとを同様に拡開することができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明のドラムブレーキによれば、前記係合凹面は、前記ブレーキレバーの基端部に前記アンカーピンを受け入れるために形成された半円形の切欠の内周面であり、その内周面と前記アンカーピンとの間には、非制動時において前記バッキングプレートの周方向において所定長さの間隙が形成されているので、一対のブレーキシューが拡開状態のままその間隙の範囲で周方向の移動が許容され、両回転方向において同様の制動が可能となる。
【0013】
また、請求項4に係る発明のドラムブレーキによれば、前記係合突部は、前記ブレーキレバーの基端部に形成された半円形の切欠の両側の位置から厚み方向へ直角に曲げられて形成されたものであるので、プレス成形によって構成され得るのでブレーキレバーが安価に製造される。
【0014】
また、請求項5に係る発明のドラムブレーキによれば、前記ブレーキレバーは、板材から構成されたものであって、前記一対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューのシューウエブと重なる状態で配設され、前記リターンスプリングは、前記一対のブレーキシューにそれぞれ掛け止められるように回曲させられた一対の掛止端部を備えたものであり、その一対の掛止端部のうちの前記一方のブレーキシューに掛け止められる掛止端部は、重なる状態で配設されている前記ブレーキレバーとその一方のブレーキシューとを挟圧するものであるので、走行中の振動等によって前記ブレーキレバーとその一方のブレーキシューとの間で発生する異音を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のデュオサーボ型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、ブレーキドラム11(回転ドラム)を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム11は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちのドラムブレーキ10の中心側の円はブレーキドラム11の内周面12を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10は、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート14を備えている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10は、バッキングプレート14の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー16,18と、その一対のブレーキシュー16,18の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート14に位置固定に設けられたブレーキシュー拡開機構20と、一対のブレーキシュー16,18の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してブレーキシュー拡開機構20に当接させるために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング22と、一対のブレーキシュー16,18の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール24の回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置26と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置26を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング28とを備えている。
【0019】
スプリング28の中間部分は間隙調節装置26のアジャストホイール24に接触させられており、アジャストホイール24が振動等によって回転しないようになっている。それら間隙調節装置26およびスプリング28は、一対のブレーキシュー16,18の他端部間を相対回転可能に連結するものであるので、間隙調節機能を備えた連結装置29として機能している。
【0020】
一対のブレーキシュー16,18は、何れも、バッキングプレート14の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ30,32と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム34,36と、それらシューリム34,36の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング38,40とを備えてそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー16,18は、シューウェブ30およびシューウェブ32にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置42,44によってバッキングプレート14側へ押圧されることによりそのバッキングプレート14に対して面方向の相対移動可能に保持されている。バッキングプレート14、シューウェブ30,32、シューリム34,36は、いずれも鋼板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0021】
ブレーキシュー拡開機構20は、図2に示すように一対のブレーキシュー16,18の一端部間において、バッキングプレート14に固設されたアンカーピン46と、そのアンカーピン46回りに回動可能に配設されたパーキングレバー(ブレーキレバー)52とを備え、そのパーキングレバー52の回動操作によって一対のブレーキシュー16,18の一端部間が開かれるようになっている。
【0022】
アンカーピン46は、バッキングプレート14の表面14aに当接する略円柱状の固定部46aと、その固定部46aの端面からバッキングプレート14に設けられた貫通穴14bとバッキングプレート14の裏面14cに当接する補強板48に設けられた貫通穴48aとを貫通しその突き出した部分をかしめて大径に塑性変形されることによってその固定部46aをバッキングプレート14に固定するかしめ部46bと、固定部46aから一対のブレーキシュー16,18の一端部間を通るように伸び且つ固定部46aよりも小径の円柱状を成す軸部46cとを有している。また、アンカーピン46の軸部46cの先端部には、円盤形状のストッパー54が固定されており、軸部46cの外周面上にある一対のブレーキシュー16,18の一端部が車両走行中の振動等によって軸部46cの先端部から外れようとするとそのストッパー54に当接されるので一対のブレーキシュー16,18の一端部が軸部46cから外れることを防止することができる。
【0023】
パーキングレバー52は、図3、4に示すように、一端部に図1で示すパーキングブレーキケーブル50の先端部を掛止する掛止部52aと、その他端部(基端部)にアンカーピン46の軸部46cを嵌め入れ可能にU字状に切り欠かれた切欠52bとその切欠52bの両側の位置から図4のように上記板材に対して直角に突設された一対の係合突部52c,52dとを有している。また、パーキングレバー52は、その切欠52b内にアンカーピン46の軸部46cを嵌め入れ且つその切欠52bの両側の位置にある一対の係合突部52c,52dを一対のブレーキシュー16,18の一端部の間に介在するようにパーキングレバー52をバッキングプレート14側のシューウェブ面30aに重ねられた状態で配設されている。また、一対の係合突部52c,52dは、一対の係合突部52c,52dすなわちパーキングレバー52をプレス成形し易いようにパーキングレバー52の面に対して直角に曲げられている。
【0024】
図2に示すように、一対のブレーキシュー16,18の一端部には貫通穴54,56がそれぞれ備えられており、リターンスプリング22のその両端部が回曲された一対の掛止端部22aが一対のブレーキシュー16,18の一端部の間が接近する方向に常時付勢するようにその貫通穴54,56に掛止されている。また、一対の掛止端部22aのブレーキシュー16側の一方の先端部22bは、アンカーピン46側に伸び且つパーキングレバー52に当接してパーキングレバー52をシューウェブ30側に押圧している。そのため、パーキングレバー52とシューウェブ30とは、その先端部22bによって挟圧されるので走行中の振動等によりパーキングレバー52とシューウェブ30との間から異音を発生することが抑制される。
【0025】
一対のブレーキシュー16,18の一端部は、図5に示すように、対称的に同じ形状を成すと共に、一対のブレーキシュー16,18の一端部の端縁に軸部46cの円断面46dと略同様な円弧状に切り欠かれた切欠16a,18aと、その切欠16a,18aの両側に位置し一対のブレーキシュー16,18の周方向に突き出して一対の係合突部52c,52dの側面と当接する一対の当接部16b,18bとを備えており、リターンスプリング22の付勢力によって切欠16a、18aの内周面はアンカーピン46の軸部46cの外周面に略当接させられさらに一対の当接部16b,18bは一対の係合突部52c,52dの側面に略当接されている。すなわち、リターンスプリング22は、一対のブレーキシュー16,18の一端部およびパーキングレバー52の他端部を図1,5の位置に戻すように常時付勢している。
【0026】
パーキングレバー52の切欠52bの内周面は、アンカーピン46の軸部46cとバッキングプレート14の径方向に相対移動不能に係合する係合凹面52gを構成している。その係合凹面52gは、アンカーピン46の軸部46cの円断面46dの半円と略同様に湾曲した湾曲面52eと、その湾曲面52eの両端にそれぞれ連続し軸部46cの円断面46bの直径の大きさより僅かに大きい一定の間隔を有する互いに平行な一対の平行面52fとによって構成されている。そのため、パーキングレバー52が図1のように配設された状態では、パーキングレバー52の基端部は係合凹面52gおよびリターンスプリング22の付勢力によってアンカーピン46に対してバッキングプレート14の径方向の相対移動が規制され且つ相対回転が可能な状態でアンカーピンに係合することができる。また、図1、5のように係合凹面52gがアンカーピンと係合してる状態では、バッキングプレート14の周方向において湾曲面52dとアンカーピン46の軸部46cの外周面との間にはその軸部46cに係合する係合凹面52gがその軸部46cに対して所定の範囲で周方向の相対移動することを許容するための間隙aが設けられている。
【0027】
以上のよう構成されたブレーキシュー拡開機構20は、パーキングブレーキペダル、パーキングブレーキレバー等の図示されていないブレーキ操作装置が操作されることによって発生する操作力によってパーキングブレーキケーブル50を介してパーキングレバー52の掛止部52aが図1の矢印F方向に引っ張られると、パーキングレバー52の切欠52b内に係合するアンカーピン46回りにパーキングレバー52が回動して一対のブレーキシュー16,18の一端部を開くものである。以下においてブレーキドラム11の車両前進時の回転方向と車両後進時の回転方向すなわち図5に示すR方向とL方向とを区別してブレーキシュー拡開機構20の作動を説明する。
【0028】
図5は、ブレーキシュー拡開機構20の作動前すなわち一対のブレーキシュー16,18が拡開する前に対応する図である。パーキングレバー52の掛止部52aが前記操作力によって引っ張られブレーキシュー拡開機構20が作動すると、パーキングレバー52の基端部はアンカーピン46回りに矢印G方向に回動させられると共に係合突部52cはブレーキシュー16側に且つ係合突部52dはブレーキシュー18側に回動させられる。そのため、それら一対の係合突部52c,52dの側面に当接している一対の当接部16b,18bはそれぞれアンカーピン46から離れる方向へ押圧され一対のブレーキシュー16,18はリターンスプリング22の付勢する力に抗じてブレーキシュー16を矢印P1方向およびブレーキシュー18を矢印P2方向に回動して一対のブレーキシュー16,18を拡開する。
【0029】
一対のブレーキシュー16,18の拡開量すなわち一対のブレーキシュー16,18の一端部の間の距離は、パーキングレバー52の基端部が矢印G方向に回動するにつれて大きくなり一対のブレーキシュー16,18がブレーキドラムの内周面12に同時に或いは順次当接させられる。ブレーキドラム11が右回り方向すなわちR方向に回転する場合はブレーキシュー16がブレーキドラムの内周面12に先に当接したと仮定して説明する。なお、本発明のブレーキシュー拡開機構20はブレーキシュー16が先にドラムブレーキの内周面12に当接せずたとえばブレーキシュー18または一対のブレーキシュー16,18の両方が先に内周面12に当接してもブレーキシュー拡開機構20は正常に作動するものである。
【0030】
ブレーキドラムの内周面12と当接したブレーキシュー16は、ブレーキドラム11の回転方向すなわちR方向とブレーキシュー16の拡開方向すなわち矢印P1方向とが逆方向であることによりブレーキドラムの内周面12によってブレーキシュー18側に弾かれるため、ブレーキシュー16のライニング38をブレーキドラムの内周面12を強く押し付けることができずブレーキドラムの内周面12に当接してもブレーキドラム11の回転を制動することができない。
【0031】
ブレーキドラムの内周面12に当接されたブレーキシュー16,18は、ブレーキドラム11の回転方向すなわちR方向に連動させられるとともに連結装置29を介してブレーキシュー16の一端部の当接部16bがブレーキシュー18側に移動してその当接部16bが当接している係合突部52cをブレーキシュー18側に押圧する。
【0032】
係合突部52cがブレーキシュー16の当接部16bによってブレーキシュー18側に押圧されると、パーキングレバー52の基端部はアンカーピン46の軸部46cの外周面と切欠52b内の湾曲面52eとの間の間隙aをなくす方向にブレーキシュー18側に移動させられ、ブレーキシュー16の切欠16aがアンカーピン46の軸部46cと当接させられる。これにより、ブレーキシュー16の切欠16aを支点に一対のブレーキシュー16,18のライニング38,40をブレーキドラムの内周面12に強く押し付けることができ、ブレーキドラム11の回転を制動することができる。そして、図6は、そのブレーキドラム11の回転を制動した状態のブレーキシュー拡開機構20を示すものである。
【0033】
反対に、ブレーキドラム11が左回り方向すなわちL方向に回転する場合を説明する。ブレーキドラムの内周面12と当接したブレーキシュー16,18は、ブレーキドラム11の回転方向に連動させられるとともに連結装置29を介してブレーキシュー18の一端部の当接部18bがブレーキシュー16側に移動してその当接部18bが当接している係合突部52dをブレーキシュー16側に押圧する。
【0034】
係合突部52dがブレーキシュー18の当接部18bによってブレーキシュー16側に押圧されると、パーキングレバー52の基端部はアンカーピン46の軸部46cの外周面と切欠52b内の湾曲面52eとの間の間隙aをさらに大きくする方向にブレーキシュー16側に移動させられ、ブレーキシュー18の切欠18aがアンカーピン46の軸部46cと当接させられる。これにより、ブレーキシュー18の切欠18aを支点に一対のブレーキシュー16,18のライニング38,40をブレーキドラムの内周面12に強く押し付けることができ、ブレーキドラム11の回転を制動することができる。そして、図7はブレーキドラム11の回転を制動した状態のブレーキシュー拡開機構20を示すものである。
【0035】
ブレーキシュー拡開機構20は、ブレーキドラム11の回転方向すなわちR方向またはL方向に拘わらず、操作力が解除されるとリターンスプリング22の付勢力によって一対のブレーキシュー16,18の一端部間は接近されブレーキドラムの内周面12と一対のブレーキシュー16,18のライニング38,40は離間させられる。このように、一対のブレーキシュー16,18およびパーキングレバー52は図1、5と同じ位置に戻り、ブレーキドラム11に対する制動力は解除される。
【0036】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、バッキングプレート14の径方向の相対移動が規制され且つ相対回転可能にアンカーピン46の外周面と係合する係合凹面52gと、パーキングレバー52の回動に従って一対のブレーキシュー16,18の一端部間を拡大するために、アンカーピン46の外周位置においてパーキングレバー52の他端部から一対のブレーキシュー16,18の一端部の間に介在するように突設された係合突部52c,52dとがパーキングレバー52の他端部において形成されているので、パーキングレバー52の先端部に操作力が伝達されると、パーキングレバー52はアンカーピン46回りに回動させられるとともに一対のブレーキシュー16,18の一端部間に介在する係合突部52c,52dがそのパーキングレバー52と共に回動させられることにより一対のブレーキシュー16,18の一端部間が離間させられて一対のブレーキシュー16,18が拡径されて回転ドラムの内周面12に内接させられ制動力が発生する。これにより従来使用したストラットおよびレバーピンの機能を係合凹面52gおよび係合突部52c,52dを基端部に有するパーキングレバー52に備えることができストラットおよびレバーピンを使用することなくドラムブレーキの部品点数を減少することができる。
【0037】
また、本実施例のドラムブレーキ10は、ストラットを使用しないため、ドラムブレーキ10内のスペースを大きくすることができドラムブレーキ10の設計の自由度を向上させることができる。
【0038】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、一対のブレーキシュー16,18の一端部は、バッキングプレート14の径方向に沿った端縁に形成されたアンカーピン46を受け入れるための半円形の切欠16a,18aと、その切欠16a,18aの両側に位置し、周方向に突き出して係合突部52c,52dに当接する一対の当接部16b,18bとを、それぞれ備えた対称的形状を有するので、パーキングレバー52の回動操作に従って一方のブレーキシュー16と他方のブレーキシュー18とを同様に拡開することができる。
【0039】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、係合凹面52gは、パーキングレバー52の他端部にアンカーピン46を受け入れるために形成された半円形の切欠52bの内周面であり、その内周面とアンカーピン52との間には、非制動時においてバッキングプレート14の周方向において所定長さの間隙aが形成されているので、一対のブレーキシュー16,18が拡開状態のままその間隙aの範囲で周方向の移動が許容され、両回転方向において同様の制動が可能となる。
【0040】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、パーキングレバー52の基端部において、係合突部52c,52dは、半円形の切欠52bの両側の位置から厚み方向へ直角に曲げられて一体に形成されたものであるので、プレス成形によって構成され得るのでパーキングレバー52が安価に製造される。
【0041】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、パーキングレバー52は、鋼板のような金属板材からプレス成形されたものであって、一対のブレーキシュー16,18のうちの一方のブレーキシュー16のシューウエブ30と重なる状態で配設され、リターンスプリング22は、一対のブレーキシュー16,18にそれぞれ掛け止められるように回曲させられた一対の掛止端部22aを備えたものであり、その一対の掛止端部22aのうちの一方のブレーキシュー16に掛け止められる掛止端部22aの先端部22bは、重なる状態で配設されているパーキングレバー52とその一方のブレーキシュー16とを挟圧するものであるので、走行中の振動等によってパーキングレバー52とその一方のブレーキシュー16との間で発生する異音を防止することができる。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0043】
たとえば、本願発明の一実施例のドラムブレーキ10は、パーキングブレーキとして使用されていたが車両走行時に使用されるサービスブレーキとして使用さしても何等差し支えはない。
【0044】
また、本願発明の一実施例のドラムブレーキ10は、デュオサーボ型ドラムブレーキであったが、リーディングトレーリング型の他の型式のドラムブレーキでも本発明を適用することができる。
【0045】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例のデュオサーボ型ドラムブレーキ10を示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】本発明の一実施例のドラムブレーキ10で使用されているパーキングレバー52を示す正面図である。
【図4】図3のIV-IV視面図である。
【図5】図2のV-V視断面図であり、一対のブレーキシュー16,18が拡開する前を示す図である。
【図6】ブレーキドラムの右回り回転を制動した状態のブレーキシュー拡開機構20を示す図である。
【図7】ブレーキドラムの左回り回転を制動した状態のブレーキシュー拡開機構20を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)の内周面
14:バッキングプレート
16,18:一対のブレーキシュー
16a,18a:一対の当接部
16b,18b:切欠
22:リターンスプリング
22a:一対の掛止端部
30,32:シューウェブ
46:アンカーピン
52:パーキングレバー
52b:切欠
52c,52d:係合突部
52g:係合凹面
a:間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に拡開可能に支持され且つリターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように該バッキングプレートから突設されたアンカーピンと、該アンカーピン回りに回動可能に設けられたブレーキレバーとを備え、該ブレーキレバーの回動操作に従って該一対のブレーキシューの一端部間を拡大し、該一対のブレーキシューを回転ドラムの内周面に押し付けて該回転ドラムの回転を制限するドラムブレーキであって、
前記ブレーキレバーの基端部において形成され、前記バッキングプレートの径方向の相対移動が規制され且つ相対回転可能に前記アンカーピンの外周面と係合する係合凹面と、
前記ブレーキレバーの回動に従って該一対のブレーキシューの一端部間を拡大するために、前記アンカーピンの外周位置において前記ブレーキレバーの基端部から前記一対のブレーキシューの一端部の間に介在するように突設された係合突部と
を、含むことを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記一対のブレーキシューの一端部は、前記バッキングプレートの径方向に沿った端縁に形成された前記アンカーピンを受け入れるための半円形の切欠と、該切欠の両側に位置し、周方向に突き出して前記係合突部に当接する一対の当接部とを、それぞれ備えた対称的形状を有するものであることを特徴とする請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記係合凹面は、前記ブレーキレバーの基端部に前記アンカーピンを受け入れるために形成された半円形の切欠の内周面であり、
該内周面と前記アンカーピンとの間には、前記バッキングプレートの周方向において所定長さの間隙が形成されていることを特徴とする請求項1または2のドラムブレーキ。
【請求項4】
前記係合突部は、前記ブレーキレバーの基端部に形成された半円形の切欠の両側の位置から厚み方向へ直角に曲げられて形成されたものであることを特徴とする請求項3のドラムブレーキ。
【請求項5】
前記ブレーキレバーは、板材から構成されたものであって、前記一対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューのシューウエブと重なる状態で配設され、
前記リターンスプリングは、前記一対のブレーキシューにそれぞれ掛け止められるように回曲させられた一対の掛止端部を備えたものであり、
該一対の掛止端部のうちの前記一方のブレーキシューに掛け止められる掛止端部は、重なる状態で配設されている前記ブレーキレバーと該一方のブレーキシューとを挟圧するものである請求項1乃至4のいずれかのドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−128466(P2008−128466A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317690(P2006−317690)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】