説明

ドリルヘッドの昇降装置

【課題】装置の全体構造を簡素化することができ、しかもワイヤロープの強度を上げることなく、フィード力を上げることができるドリルヘッドの昇降装置を提供する。
【解決手段】ガイドセル1の上下端部両側面12bにそれぞれ設けられた1対の定滑車14,15と、キャリッジ13の上下側に設けられ、キャリッジ13の移動に伴ってガイド面12aに沿って移動する2つの動滑車17,18と、ガイドセル1の背面12cに設けられたウィンチ11と、ウィンチ11のドラム24に中間部が巻き付けられてガイドセル1の上下端部側への2つの繰り出しロープ部分26a,26bを有するワイヤロープ26とを備え、2つの繰り出しロープ部分26a,26bは、1対の定滑車14,15の一方、2つの動滑車17,18の各々、及び1対の定滑車14,15の他方の順にそれぞれ巻き掛けられたうえ、各端部がガイドセルに固定部28で固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドリルヘッドの昇降装置に関し、さらに詳細には、杭施工機械やボーリング機械において、ガイドセルに搭載されるドリルヘッドの昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
杭施工機械やボーリング機械において、ドリルヘッドを昇降させる方式としては、チェーンフィード方式のほか、ワイヤフィード方式が知られている。さらに、後者のワイヤフィード方式の場合、油圧シリンダとワイヤとを組み合わせたものや、前進用ウィンチと後退用ウィンチとの2台のウィンチを備えたもの(例えば特許文献1参照)がある。
【0003】
しかしながら、これら従来のワイヤフィード方式昇降装置の場合、フィード力の調整は油圧シリンダの出力やウィンチの巻き上げ力を変化させることにより可能であるが、ワイヤは1本であるために、これにかかる負荷が大きくなるうえ、ワイヤ強度の限界までしか調整することができない。また、装置を簡素化することができないという難点もある。
【特許文献1】特開平10−68283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、装置の全体構造を簡素化することができ、しかもワイヤロープの強度を上げることなく、フィード力を上げることができるドリルヘッドの昇降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、前面にガイド面が形成された断面略四角形のガイドセルに、キャリッジを介して前記ガイド面に沿って移動自在に搭載されるドリルヘッドの昇降装置であって、
前記ガイドセルの上下端部両側面にそれぞれ設けられた1対の定滑車と、
前記キャリッジの上下側に設けられ、該キャリッジの移動に伴って前記ガイド面に沿って移動する2つの動滑車と、
前記ガイドセルの背面に設けられたウィンチと、
このウィンチのドラムに中間部が巻き付けられて前記ガイドセルの上下端部側への2つの繰り出しロープ部分を有するワイヤロープとを備え、
前記2つの繰り出しロープ部分は、前記1対の定滑車の一方、前記2つの動滑車の各々、及び前記1対の定滑車の他方の順にそれぞれ巻き掛けられたうえ、各端部が前記ガイドセルに固定されていることを特徴とするドリルヘッドの昇降装置にある。
【0006】
より具体的には、前記1対の定滑車の一方は、前記ガイドセルに設けられたテンションシリンダに連結されている。また、前記2つの動滑車は、前記キャリッジを跨いで配置されたブラケットの上下端部にそれぞれ取り付けられ、該ブラケットは前記キャリッジにその移動方向と直交する方向に設けられたピン型ロードセルに支持されている。
【0007】
さらに、前記ガイドセルの上下端部前面に定滑車がそれぞれ設けられ、前記動滑車の各々に巻き掛けられた前記2つの繰り出しロープ部分は、このガイドセル前面の定滑車に巻き掛けられたうえ、再度前記動滑車の各々に巻き掛けられている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、1台のウィンチでドリルヘッドを昇降させるようにしたので、全体構造を簡素化することができる。また、ドリルヘッドのフィード力は少なくとも2本のワイヤで受け持つこととなるので、ウィンチの出力やワイヤロープの強度を上げることなくフィード力を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の実施形態を示す全体側面図である。この実施形態は、自走式クローラタイプの杭施工機械(又はボーリング機械)に、この発明を適用した例である。ガイドセル1はクローラ走行体2に一端が枢支されたブラケット3の他端にピン4を介して枢支され、油圧シリンダ5により鉛直方向に回動することが可能である。また、ガイドセル1は、油圧シリンダ6によりブラケット3が鉛直方向に回動することにより、昇降することが可能である。ガイドセル1は、長尺の中間部1a、及び短尺の上下部1b,1cの3つに分割され、上下部1b,1cはそれぞれピン4,7を支点として中間部1aに対して折り畳み可能となっている。符号10,11は、それぞれドリルヘッド及びウィンチを示している。
【0010】
図2は、ドリルヘッド10を昇降させる装置の詳細を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。ガイドセル1の前面12aは、ドリルヘッド10のガイド面を形成する面であり、この前面12aにはドリルヘッド10を搭載するためのキャリッジ13がガイド面に沿って移動自在に設けられている。ガイドセル1の両側面12bの上下端部、すなわち上下分割部1b,1cの両側面には1対の定滑車14,14,15,15がそれぞれ設けられている。これらの各1対の定滑車14,14,15,15のうち、各一方の定滑車14,15は、上下分割部1b,1cの側面に設けられたテンションシリンダ16のロッド先端に滑車軸が取り付けられ、ガイドセル1の長さ方向に移動可能となっている。
【0011】
キャリッジ13の上下側には、キャリッジ13の移動に伴ってガイド面に沿って移動する2つの動滑車17,18が設けられている。2つの動滑車17,18は、図3に拡大して示すように、キャリッジ13を上下に跨ぐように配置されたブラケット19に取り付けられている。ブラケット19は、2つの動滑車17,18の滑車軸がそれぞれ取り付けられる2つの支持ブラケット20,20と、これらの支持ブラケット20,20を連結する2枚の連結ブラケット21,21とからなっている。
【0012】
キャリッジ13には支持ブラケット22が起立して設けられ、この支持ブラケット22を挟むようにして連結ブラケット21,21が配置される。そして、これらの連結ブラケット21,21は、キャリッジ13の移動方向と直交する方向に設けられたピン23を介して支持ブラケット22に支持されている。このピン23はロードセルが内蔵されたピン型ロードセルであり、動滑車17,18に作用する荷重を測定することができる。
【0013】
再び図2を参照して、ガイドセル1の中間部1aの背面12cには、1台のウィンチ11が設けられている。このウィンチ11のドラム24にはワイヤロープ26の中間部が巻き付けられている。ワイヤロープ26はガイドセル1の上下端部側へ繰り出された2つの繰り出しロープ部分26a,26bを有し、これらの繰り出しロープ部分26a,26bは次のようにして各滑車に巻き掛けられている。
【0014】
すなわち、ガイドセル1の上端部側への繰り出しロープ部分26aは、矯正ローラ27を通って、上端部の1対の定滑車14,14の一方に巻き掛けられる。繰り出しロープ部分26aは、定滑車14で反転させられて下方に延び、キャリッジ13の上側動滑車17に巻き掛けられる。上側動滑車17で反転させられた繰り出しロープ部分26aは、上方に延び、1対の定滑車14,14の他方に巻き掛けられる。そして、定滑車14で反転させられた繰り出しロープ部分26aは、下方に延びてガイドセル1の上端部の固定部28で端部が固定される。
【0015】
ガイドセル1の下端部側への繰り出しロープ部分26bも向きが異なるだけで、滑車への巻き掛け態様は繰り出しロープ部分26aと全く同様である。すなわち、繰り出しロープ部分26bは、矯正ローラ27を通って、下端部の1対の定滑車15,15の一方に巻き掛けられる。繰り出しロープ部分26bは、定滑車15で反転させられて上方に延び、キャリッジ13の下側動滑車18に巻き掛けられる。下側動滑車18で反転させられた繰り出しロープ部分26bは、下方に延び、1対の定滑車15,15の他方に巻き掛けられる。そして、定滑車15で反転させられた繰り出しロープ部分26bは、上方に延びてガイドセル1の下端部の固定部28で端部が固定される。
【0016】
上記のような昇降装置において、例えば杭施工時には、ドリルヘッド10に杭体が把持され、ドリルヘッド10を下降させる。このとき、ウィンチ11のドラム24の回転により繰り出しロープ部分26bはドラム24に巻き取られる一方、繰り出しロープ部分26aはさらに繰り出される。これとは逆に、ドリルヘッド10を上昇させるときは、ウィンチのドラム24の逆回転により繰り出しロープ部分26aはドラム24に巻き取られる一方、繰り出しロープ部分26bはさらに繰り出される。
【0017】
ドリルヘッド10の上昇及び下降時において、動滑車17,18に作用する荷重、すなわち繰り出しロープ部分26a,26bに作用する荷重は、図3に示したピン型ロードセル23により常時測定される。この測定値に基いてテンションシリンダ16のストロークが調整され、ワイヤロープ26には適切な張力が与えられる。したがって、ワイヤロープ26が弛むことがなく、ドラム24での巻き取り動作がスリップ等を生じることなく円滑になされる。なお、装置の運搬時にはガイドセル1を水平向きにするが、その際テンションシリンダ16を縮めることにより、ワイヤロープ26に弛みを与えることができるので、ガイドセル1の上下分割部1b,1cを中間部1aに対して折り畳むことができる。
【0018】
上記のような昇降装置によれば、1台のウィンチでドリルヘッド10を昇降させるようにしたので、全体構造を簡素化することができる。また、ドリルヘッド10のフィード力は2本のワイヤで受け持つこととなるので、ウィンチの出力やワイヤロープの強度を上げることなくフィード力を上げることができる。
【0019】
さらに、同等のフィード力を発生するチェーンなどに比べて、全体重量を格段に軽量化できるため、ロングフィードの場合には特に有効である。例えば、最大許容張力を 10000kgf とした場合、単位メートル当たりの質量はチェーンが 17.5kg であるのに対し、ワイヤロープの場合は 2.73kg である。また、このように軽量化・簡素化できることから、ロングフィードになった場合には、転倒角度などの面で安全性が向上する。
【0020】
図4は、別の実施形態を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。この実施形態では、上記実施形態のものに加えて、さらにガイドセル1の上下端部前面に定滑車30,31がそれぞれ設けられている。また、動滑車17,18は、滑車を同軸2枚重ねしたものからなっている。ガイドセル側面の一方の定滑車14,15に巻き掛けられた2つの繰り出しロープ部分26a,26bは、動滑車17,18に巻き掛けられたうえ、ガイドセル前面の定滑車30,31に巻き掛けられる。そして、2つの繰り出しロープ部分26a,26bは、動滑車17,18に再度巻き掛けられて、ガイドセル側面の他方の定滑車14,15に巻き掛けられている。
【0021】
この実施形態の場合、動滑車17,18に作用する荷重を4本のワイヤロープ部分で受け持つことになる。したがって、ウィンチの出力やワイヤロープの強度を上げることなく、フィード力を上記実施形態のものの2倍にすることができる。定滑車30,31も滑車が同軸2枚重ねのものとし、動滑車17,18を滑車が同軸3枚重ねのものとすることによりフィード力をさらに上げることができる。すなわち、動滑車17,18と定滑車30,31との間で繰り出しロープ部分26a,26bを多段に巻き掛けることにより、その巻き掛け段数に応じてフィード力を上げることができる。この場合、各動滑車及び定滑車を複数枚同軸に重ねた滑車で構成してもよいし、ワイヤロープを掛けるための溝を1つの滑車に複数設ける構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態を示す全体側面図である。
【図2】昇降装置の詳細を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
【図3】動滑車の取付け構造を示す正面図である。
【図4】別の実施形態を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ガイドセル
1a 中間部
1b,1c 上下分割部
2 クローラ走行体
10 ドリルヘッド
11 ウィンチ
12a 前面
12b 両側面
12c 背面
13 キャリッジ
14,15 定滑車
16 テンションシリンダ
16 ワイヤロープ
17 上側動滑車
18 下側動滑車
19 ブラケット
20 支持ブラケット
21 連結ブラケット
22 支持ブラケット
23 ピン(ピン型ロードセル)
24 ドラム
26 ワイヤロープ
26a,26b 繰り出しロープ部分
30,31 定滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面にガイド面が形成された断面略四角形のガイドセルに、キャリッジを介して前記ガイド面に沿って移動自在に搭載されるドリルヘッドの昇降装置であって、
前記ガイドセルの上下端部両側面にそれぞれ設けられた1対の定滑車と、
前記キャリッジの上下側に設けられ、該キャリッジの移動に伴って前記ガイド面に沿って移動する2つの動滑車と、
前記ガイドセルの背面に設けられたウィンチと、
このウィンチのドラムに中間部が巻き付けられて前記ガイドセルの上下端部側への2つの繰り出しロープ部分を有するワイヤロープとを備え、
前記2つの繰り出しロープ部分は、前記1対の定滑車の一方、前記2つの動滑車の各々、及び前記1対の定滑車の他方の順にそれぞれ巻き掛けられたうえ、各端部が前記ガイドセルに固定されていることを特徴とするドリルヘッドの昇降装置。
【請求項2】
前記1対の定滑車の一方は、前記ガイドセルに設けられたテンションシリンダに連結されていることを特徴とする請求項1記載のドリルヘッドの昇降装置。
【請求項3】
前記2つの動滑車は、前記キャリッジを跨いで配置されたブラケットの上下端部にそれぞれ取り付けられ、該ブラケットは前記キャリッジにその移動方向と直交する方向に設けられたピン型ロードセルに支持されていることを特徴とする請求項2記載のドリルヘッドの昇降装置。
【請求項4】
前記ガイドセルの上下端部前面に定滑車がそれぞれ設けられ、前記動滑車の各々に巻き掛けられた前記2つの繰り出しロープ部分は、このガイドセル前面の定滑車に巻き掛けられたうえ、再度前記動滑車の各々に巻き掛けられていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のドリルヘッドの昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70979(P2007−70979A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262061(P2005−262061)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000168506)鉱研工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】