説明

ドリル及びそれを用いた穴加工方法

【課題】切り屑のカールを制御することで分断性を高め、切り屑を小さくカールさせることで切り屑の排出性を大幅に向上させることができるドリルを提供する。
【解決手段】2枚の切れ刃を有するドリルであって、前記ドリルは、先端角が170°〜190°であり、溝幅が75°〜85°の範囲であり、第一溝底曲線は凹曲線でなり、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は直径の0.35倍〜0.70倍とし、第一溝底曲線の最大窪み量は直径の0.03倍〜0.07倍の範囲であり、第二溝底曲線は凹曲線でなり、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は心厚の1.5倍〜2.5倍とし、第二溝底曲線の最大窪み量は前記ドリル直径の0倍を超え0.04倍未満となる範囲であり、且つ第二溝底曲線の最大窪み量は第一溝底曲線の最大窪み量に対し小さく設定したことを特徴とするドリルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイド穴、又は座ぐり穴加工に用いられるドリル、及び該ドリルを用いて特にドリルの軸心に対して傾斜している面又は曲面に穴加工、又は座ぐり加工をする方法に関する。特に本発明は、狙った穴の中心からのずれが極めて少ない、高い位置精度加工に加え、穴の入口径の拡大防止及び良好な加工面粗さを得ることを可能としたドリル及びそれを用いた穴加工方法を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
斜面への深穴加工や座ぐり穴加工を必要とする場合、従来から2枚刃のスクエアエンドミルで座面を前加工し、その後ドリルにて穴加工を行うことが通常行われている。従来のエンドミルによる座面加工とドリルによる穴加工の問題点を模式的に図10に示す。図10において、従来のエンドミルによる座面加工からドリルによる穴加工までは(a)、(b)、(c)の順による工程で行われる。
【0003】
しかし、図10の(a)に示すように従来の2枚刃のスクエアエンドミル1で被削材Wを突き加工した場合、前記スクエアエンドミルの底刃は外周より中心部が窪むようにすかし角が設けてあるため、図10の(b)に示すように従来のエンドミルにより形成された加工面2が凸状になる。そのため2〜4枚刃のスクエアエンドミルで斜面に座面を形成した後、前記スクエアエンドミル1にて斜面に形成した座面へ従来のドリル3で穴加工をする際、凸状の形状となる従来のエンドミルにより形成された加工面2が、図10の(c)に示すように従来のドリルがずれる方向4に沿って従来のドリル3の進行方向を曲げるため、穴の位置がずれたり、穴曲がりが発生するという問題がある。
【0004】
このため、2〜4枚刃のスクエアエンドミルのみで斜面へ穴加工までを行うこともあるが、スクエアエンドミルはチップポケットがドリルに比べて小さいため、切り屑排出性が悪く切り屑詰まりにより位置精度が悪くなると共に、工具の刃先にチッピングや欠けが発生し、最悪の場合折損するといった問題が発生していた。切り屑の排出対策のために、工具をワークに対して複数回のステップを繰り返して加工を行うステップフィード加工が知られているが、この方法はステップで工具がワークから離れる時間はワークへの実質的な加工が行われないので加工能率を上げることが困難であり、以前からステップ無しで一度に加工を行いたいという要望があった。
【0005】
これらの問題に対して、特に座ぐり穴加工を目的としていくつかの工具の提案がなされている。
特許文献1には、切り屑詰まりを抑制する座ぐり加工用のエンドミルとして、心厚が工具径の15%〜40%、ねじれ角が15°〜35°、底刃すくい角が2°〜15°の2枚刃エンドミルが記載されている。
【0006】
特許文献2には座ぐり加工用ドリルとして、先端角を170°〜190°としてチゼルからシンニングによって外方に延びる2個の2次切れ刃、各2次切れ刃から外方に延びる中凹状の1次切れ刃、及び各1次切れ刃からリーディングエッジまで延びかつドリル回転方向でみて後退する外方切れ刃を有し、ドリル心厚をドリル直径Dの0.20〜0.40倍とし、前記中凹状の1次切れ刃の中凹量をドリル直径Dの0.01〜0.06倍とし前記後退する外方切れ刃の後退角度を−1°〜−20°とした座ぐり加工用ドリルが記載されている。特許文献2の座ぐり加工用ドリルは、切り屑の処理性に優れ、刃部の欠けが生じにくいと記載されている。
【0007】
ドリルにおいて、切り屑排出溝の曲面部の形状を工夫した提案が特許文献3に記載されている。ただし特許文献3に記載のドリルは座ぐり加工用ではなく、高速乾式切削に適したドリルである。特許文献3に記載されているドリルにおいて、曲面部の特徴は、マージン部側の切刃の外周端側に凸曲面を有し、ヒール側に近い第2凹曲面部の曲率が前記凸曲面に続く第1凹曲面部の曲率より大きいことを特徴としている。
【0008】
また、特許文献4には、切り屑排出溝の溝幅形状を工夫した提案がなされている。ただしこれも座ぐり加工用ではなく一般的な穴あけ加工に適した超硬合金製のドリルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−111642号公報
【特許文献2】特開2009−56534号公報
【特許文献3】特開2003−25124号公報
【特許文献4】特開昭59−219108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ドリルの軸線に対して傾斜している斜面又は曲面に穴加工もしくは座ぐり加工を行うには、切削加工時にドリルが斜面や曲面に沿って移動してしまうことにより、加工穴の中心がずれてしまう問題や、切り屑排出性が悪いことによるドリルの折損、加工穴径の拡大及び加工穴の面粗さが低下するという課題がある。
【0011】
特許文献1に記載の工具は座ぐり加工用のエンドミルであり、エンドミルを軸方向に送る突き加工により座ぐり加工を行うことを前提としている。しかしエンドミルではリーディングエッジは鋭角をなすので強度が弱く突き加工による欠けやチッピングが発生しやすい。また、特許文献1に記載のエンドミルで斜面を突き加工すると工具が横振動を発生しやすく、エンドミルに欠けやチッピングが生じ高能率に加工できないという問題が残っていた。図9は特許文献1に記載のエンドミルを示す図である。特許文献1に記載の従来のエンドミル1では、図9に示すように溝底から二番取り面につながる溝面aが凸曲状に形成されているため切り屑がカールされず、長くつながった切り屑が排出されるため、切り屑がらみが発生し加工面の悪化やワークを傷つけたり、最悪の場合はエンドミルが折損するという問題がある。特に本発明が大きな目的とする穴あけ位置精度に関しては、前記エンドミルは、切り屑によるエンドミルへの振動付与とワークへの大きな擦過により、穴あけ位置精度と穴の面粗さの両面から不満足な結果しか得られない。
【0012】
特許文献2記載の座ぐり加工用ドリルでは溝幅が広いため切り屑詰まりは軽減される。しかし、溝幅が広いために切り屑の分断効果が小さく、カールした切り屑がつながるため、加工中に切り屑が穴の外に排出されず、溝の中に残ったままになりやすい。そのために加工穴の内壁面を切り屑が擦過して傷つけ、ワークの加工穴の面粗さが悪化するという問題がある。また、切れ刃の外周側に回転方向の逆側に−1°〜−20°後退する切れ刃を持っていることを大きな特徴としているため、刃部の欠けは抑制されるものの、食付き性が悪いので穴径が拡大し、目的とする穴の位置がずれてしまって穴あけ位置精度が悪くなるといった問題が発生する。
【0013】
特許文献3に記載されているドリルは、マージン部側の切刃の外周端側に凸曲面を有し、前記凸曲面に続く第1凹曲面部の曲率よりヒール側に近い第2凹曲面部の曲率が大きいことを特徴としている。そのために、このドリルを座ぐり加工に用いた場合には、多くの切り屑が第2凹曲面に摺接しなくて、第1凹曲面によってのみカールされた切り屑は第2凹曲面付近の溝で方向性を失ったり、溝に滞留する傾向となる。その結果、切り屑がドリルの進行方向に行き場のない狭い空間でドリルに衝突してドリルに振れ方向の振動を与えることになる。これは目的とする位置精度の悪化に大きな影響を及ぼすのみではなく、加工穴の内壁面に切り屑が傷を付けて、加工面粗さが劣化するという問題がある。
【0014】
また、特許文献4に記載されているドリルは、切り屑の分断性が弱いため、螺旋状に何重もカールした切り屑が長くつながるため、切り屑の排出性が悪く、切り屑により加工穴の内壁面を切り屑が擦過して傷つけ加工面が悪化する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は特に斜面や曲面での穴加工、及び座ぐり穴加工をすることに特化したドリルに関し、特に穴あけ位置精度を大きく向上させるために創作した新しいドリル形状及びドリル加工方法を提供するものである。本発明の目的は、発明が解決しようとする課題で述べたような従来の工具での問題点を解決して、特に従来の座ぐり穴加工用エンドミル、又は座ぐり加工用ドリルと比較して、切り屑が螺旋状に何重にもカールするのを制御することで切り屑の分断性を向上させ、さらにできるだけ切り屑を小さくカールさせることで切り屑排出性を高め、その結果として、穴の入口径の拡大を抑制し、同時に穴の位置精度や加工面粗さの向上を図れるドリル及びそのドリルを用いた加工方法を提供することである。また、本発明によれば切り屑詰りによるドリル刃先の欠け、チッピングを抑制できるので、斜面や曲面での穴加工、又は座ぐり加工でのドリルが長寿命となる効果がある。
【0016】
本発明のドリルの形状として重要な特徴は、小さめのドリル心厚と適正な溝幅で大きなチップポケットを確保すると共に、切り屑のカールを制御することで切り屑を細かく分断でき、切り屑の排出性を大幅に向上させる溝底形状としたことである。本発明のドリルの新規な形状およびその周辺の形状を製造し、それらのドリルについてドリル加工での穴の位置精度、穴の入口径の拡大程度及びワークの加工面粗さを評価し、本発明のドリルの溝底の凹曲面の形状を従来にはない新規なドリル形状にまで最適化した。
【0017】
すなわち第1の本発明は、2枚の切れ刃を有するドリルであって、前記ドリルは、先端角が170°〜190°であり、心厚がドリル直径の0.15倍〜0.25倍であり、前記ドリルをドリル先端からドリルの軸線方向に見た図において、ドリルの軸線Oとマージン部側での内壁面の外周端とを結ぶマージン部側の溝直線と、ドリルの軸線Oとヒール部側での内壁面の外周端すなわちヒールとを結ぶヒール側の溝直線とがなす角度を溝幅としたときに、前記溝幅が75°〜85°の範囲であり、溝底および前記溝底からヒールに至るまでの第一溝底曲線は凹曲線でなり、前記第一溝底曲線がドリルの軸線からヒールを結ぶ直線に対し最も窪んだ第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔はドリルの軸線からヒール方向へ直線距離で直径の0.35倍〜0.70倍とし、第一溝底曲線の最大窪み量は、直径の0.03倍〜0.07倍の範囲であり、マージン部側での内壁面の外周端から溝底に至るまでの第二溝底曲線は凹曲線でなり、前記第二溝底曲線がマージン部側の溝直線に対し最も窪んだ第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔はドリルの軸線からマージン部側での内壁面の方向へ直線距離で心厚の1.5倍〜2.5倍とし、第二溝底曲線の最大窪み量は前記ドリル直径の0倍を超え0.04倍未満となる範囲であり、且つ第二溝底曲線の最大窪み量は第一溝底曲線の最大窪み量に対し小さく設定したことを特徴とするドリルである。
【0018】
特に、第1の発明において、さらにシンニングの逃げ角を35°〜50°の範囲とするのが良い。これが本発明の第2の発明である。
【0019】
第3の本発明は、第1または第2の本発明のドリルを用いて、前記ドリルの軸線に対して傾斜している斜面又は曲面を加工することを特徴とする穴加工方法である。
【0020】
第4の本発明は、第1または第2の本発明のドリルを用いて、前記ドリルの軸線に対して傾斜している面又は曲面で、座ぐり加工をすることを特徴とする座ぐり加工方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、斜面や曲面での穴加工、及び座ぐり穴加工に関し、従来の座ぐり加工用エンドミル及び座ぐり加工用ドリルと比較して、切り屑のカールを制御することで分断性を高め、切り屑を小さくカールさせることで切り屑の排出性を大幅に向上させることができる。よって、本発明のドリルを用い、斜面や曲面を有するワークの穴加工及び座ぐり穴加工を行なえば、良好な穴の位置精度を得て、穴入口径の拡大防止ができ、ワークの加工面粗さを大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るドリルの軸線方向先端視の正面図である。
【図2】図1に示す本発明のドリルの切り屑排出溝を有する部分での、ドリルの軸線Oに直交する断面図である。
【図3】図1に示すドリルの側面の全体図である。
【図4】図2に示す本発明のドリルにおけるヒール部側での内壁面付近を拡大した図である。
【図5】図2に示す本発明のドリルにおけるマージン部側での内壁面付近を拡大した図である。
【図6】本発明のドリルでの代表的な切り屑の形状を示す図である。
【図7】従来の座ぐり用エンドミルでの代表的な切り屑の形状を示す図である。
【図8】図3に示す本発明のドリルの切れ刃付近を拡大して90度回転させた図である。
【図9】特許文献1に記載のエンドミルを示す図である。
【図10】従来のエンドミルによる座面加工とドリルによる穴加工の問題点を模式的に示す図である。
【図11】実施例に用いた被削材及び加工穴中心のずれの測定方向を示す図である。
【図12】図11に示す被削材における矢印Aから見たときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための一実施形態を図1乃至図8を用いて説明する。図1は本発明に係るドリルの軸線方向先端視の正面図である。ドリル本体5は少なくとも切れ刃6を含む部分が材質的には超硬合金、CBN、サーメットなどの硬質材料からなり、ドリルの軸線を中心とした直径Dの略円筒状に形成されている。さらに図1に示すドリルには切れ刃6が2枚設けられている。ドリルの先端から始まりドリル後方側に至る部分には、一定の捩れ角でドリル回転方向Lの後方側に捩れる一対の略凹状曲面の切り屑排出溝7(以下、単に溝ともいう)がドリルの軸線Oに対して対称に設けられている。ドリルの切れ刃6は前記切り屑排出溝7のドリル回転方向Lを向くマージン部側での内壁面8と先端逃げ面9とが交差する稜線部に設けられている。さらに、本発明のドリルにはシンニング面27が設けられている。
【0024】
図2は図1に示す本発明のドリルの切り屑排出溝を有する部分での、ドリルの軸線Oに直交する断面図である。本発明の切り屑排出溝のマージン部側での内壁面8とヒール部側での内壁面11の形状的特徴は、この図2において良く理解できる。本発明で溝幅θとは、図2において、ドリルの軸線Oとマージン部側での内壁面の外周端18とを結ぶマージン部側の溝直線10と、ドリルの軸線Oとヒール部側での内壁面11の外周端すなわちヒール15とを結ぶヒール側の溝直線12とがなす角度を指す。また、本発明において、2つの切り屑排出溝の溝底13を通る心厚円14の直径は心厚dで定義される。
【0025】
本発明において、心厚dは直径Dの0.15倍〜0.25倍とする。これによりドリルの剛性を著しく損なうことなく、且つ切り屑の排出に十分なチップポケットを確保することが出来る。心厚dが直径Dの0.15倍未満であればドリルの剛性不足により振動したりドリルが撓むことで穴あけ位置精度が悪くなったり、穴曲がりや折損といた問題が起こる。心厚dが直径Dの0.25倍を超えると切り屑の排出に十分なチップポケットが確保できないため、切り屑詰まりによる穴あけ位置精度が悪くなったり、加工面粗さが悪くなる。
【0026】
本発明の溝幅θは75°〜85°であり、鋭角とする。図2でいえば、ヒール部側での内壁面11の外周端すなわちヒール15は、ドリルの軸線Oとマージン部側での内壁面の外周端18とを結ぶマージン部側の溝直線10に直交する直線17よりは溝を狭める方向に位置している。溝幅θが75°未満であれば、切り屑の排出に必要なチップポケットが十分得られず、切り屑詰まりを起こし最悪の場合折損に至る。溝幅θが85°より大きいと、切り屑排出に十分なチップポケットが得られるが、切り屑のカールが大きくなるため切り屑が加工穴の内壁面に接触し加工面粗さが悪化する。また、切り屑の分断効果も小さくなるため螺旋状に何重にもつながった切り屑が溝外へ排出され難く切り屑詰まりにより折損に至る危険性が高くなる。
【0027】
図3は図1に示すドリルの側面の全体図である。本発明のドリルにおいて、ドリルの先端から始まりドリル後方側に至る部分には、略凹状曲面の切り屑排出溝7が設けられている。本発明において、ドリル本体5は少なくとも切れ刃6を含む部分が材質的には超硬合金、CBN、サーメットなどの硬質材料からなり、ドリルの軸線を中心とした直径Dの略円筒状に形成されている。2枚の切れ刃6がなす角度は先端角26で定義される。
【0028】
本発明において、先端角26は170°〜190°とする。これにより傾斜面の加工に際して穴あけ位置精度を悪化させることなく加工できる。先端角26が170°未満であればドリルの食付きが悪くワークの傾斜面に沿ってドリルがすべるため穴あけ位置精度が悪くなったり穴曲がりが起こる。先端角26が190°を超えるとドリルのコーナ部の強度が弱くなるため、ドリルに欠損が起こる。
【0029】
図4は図2に示す本発明のドリルにおけるヒール部側での内壁面付近を拡大した図であり、図5は図2に示す本発明のドリルにおけるマージン部側での内壁面付近を拡大した図である。
本発明のドリルの溝は全体の形状として図2に示されるように、前記溝底13とドリルの心厚dを直径としたときの心厚円14との接点からヒール部側での内壁面11の外周端すなわちヒール15に至るまでの第一溝底曲線16と、前記溝底13とドリルの心厚dを直径としたときの心厚円14との接点からマージン部側での内壁面の外周端18に至るまでの第二溝底曲線19が設けられている。
【0030】
本発明は図4に示すように、ヒール部側の溝形状として、ドリルの軸線Oとヒール15を結ぶ直線であるヒール部側の溝直線12に対して直角方向に第一溝底曲線16が最も窪んだ位置を第一溝底曲線の最大窪み位置20とし、第一溝底曲線の最大窪み位置20がある位置をドリルの軸線からヒール方向へヒール部側の溝直線12に沿って測定したときの、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔22は直径の0.35倍〜0.70倍とする。さらに、前記第一溝底曲線16は凹曲線状であり、ヒール部側の溝直線12からの第一溝底曲線の最大窪み量21は、直径の0.03倍〜0.07倍の範囲であることを特徴としている。
【0031】
さらに本発明はマージン部側の溝形状として、図2に示すように溝底13と心厚円14との接点からマージン部側での内壁面の外周端18に至るまで第二溝底曲線19が設けられている。本発明は図5に示すように、ドリルの軸線Oからマージン部側での内壁面の外周端18を結ぶマージン部側の溝直線10の直角方向で測定したときに第二溝底曲線19が最も窪んだ位置を第二溝底曲線の最大窪み位置23し、第二溝底曲線の最大窪み位置23がある位置をドリルの軸線からマージン部側での内壁面の外周端18へマージン部側の溝直線10に沿って測定したときの、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔24は心厚の1.5倍〜2.5倍とする。さらに、前記第二溝底曲線19は凹曲線状であり、マージン部側の溝直線10からの第二溝底曲線の最大窪み量25は、直径の0倍を超え0.04倍未満の範囲であり、第一溝底曲線の最大窪み量21よりも小さいことを特徴としている。
【0032】
第一溝底曲線の最大窪み位置20が、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔22で直径の0.35倍未満となる位置にある場合は、心厚に接する点から第一溝底曲線の窪みに至る部分で切り屑が急激に曲げられるため切り屑がスムーズにカールされず、切り屑詰まりが生じ易くなる。
前記最大窪み位置20が第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔22で直径の0.70倍を超えた位置にある場合には、切り屑のカールが大きくなるため切り屑が加工穴の内壁面に接触し加工面粗さが悪化する。また、切り屑の分断効果も小さくなるため螺旋状に何重につながった切り屑が溝外へ排出され難く切り屑詰まりにより折損に至りやすい。
【0033】
また、第一溝底曲線の最大窪み量21はドリル直径の0.03倍〜0.07倍の範囲とする。第一溝底曲線の最大窪み量21がドリル直径の0.03倍未満では、切り屑を十分にカールできないため切り屑の排出性が悪くなり、第一溝底曲線の最大窪み量21が0.07倍を超える場合には切り屑が強くカールされるため螺旋状に何重につながった切り屑になり、切り屑排出性が悪くなり、且つドリルのヒール部が鋭角になり過ぎるため、ヒール部に欠けが生じる危険性が大きくなる。
【0034】
第二溝底曲線の最大窪み位置23が心厚の1.5倍未満では切り屑が心厚に接する溝底部で急激にカールするため切り屑がスムーズにカールされず切屑詰まりになる。2.5倍を超える場合には切り屑はスムーズにカールされるが切り屑の分断効果が小さくなり螺旋状に何重につながった切り屑になり切り屑排出性が悪くなる。
【0035】
さらに本発明において、第二溝底曲線の最大窪み量25は0以下であるとドリルの外周部と第二溝曲線がなす角度が鈍角になるため、斜面の加工時に食付きが悪く、穴の位置精度が悪化する。ここで第二溝底曲線の最大窪み量25が負の値である場合というのは、第二溝底曲線19が凸曲線状であるという意味である。
第二溝底曲線の最大窪み量25がドリル直径の0.04倍以上では、切り屑はスムーズにカールされるが外周と第二溝底曲線がなす角度が鋭角になるため強度不足によりカケが生じる。本発明のドリルでは、第二溝底曲線の最大窪み量25を第一溝底曲線の最大窪み量21に対し小さくする。第二溝底曲線の最大窪み量25が第一溝底曲線の最大窪み量21と同じもしくは第二溝底曲線の最大窪み量25を第一溝底曲線の最大窪み量21より大きくした場合、切り屑の切り屑が第二溝面曲線部で強くカールされるため、第一溝曲線部でのカール効果が小さくなるため切り屑分断効果が小さくなり、螺旋状に何重につながった切り屑になり切り屑排出性が悪くなるからである。
【0036】
通常、切り屑を分断するにはドリルのねじれ溝の形状によってカールした切り屑が、切削が進むにつれてカールできなくなった時点でドリル心厚を形成する溝底部側が剪断の起点となり分断される。しかしながら、切り屑のカールが綺麗な円状に近いほど生成された切り屑は何重も螺旋状につながっていくため、切り屑の分断効果が小さくなる。
【0037】
本発明の溝底曲線の特徴は、溝幅は意外にも狭く見えるものの、マージン部側の第二溝底曲線及びヒール部側の第一溝底曲線が凹曲線状に特定幅だけ窪んでいるので、溝幅と溝底曲線の組合せにより、切り屑が移動するのに十分な大きさのチップポケットを確保している。前記の凹曲線状の第二溝曲線により緩やかにカールされた切り屑が、前記の凹曲線状の第一溝底曲線部により、切り屑は強くカールされる。これより切り屑は綺麗な円状ではなく、円に近い三角形状になるため切り屑のカールが1周カールした時点で強制的にカールするのを終わらせることが出来る。その結果として、小さくカールし細かく分断された切り屑はスムーズに外に排出されて、ドリルに振動を与えることも、加工面を損傷することもない。すなわち、本発明の溝底曲線の特徴は、本発明のドリルを使用した穴加工で狙った中心位置がずれないという良好な位置精度の確保と、穴明けされた穴の良好な加工面粗さの確保に大きく貢献しているのである。
【0038】
穴あけした穴の位置精度は切り屑の形状の良し悪しに左右される。相対的に長く連続した切り屑はドリルの溝の中で暴れたり、噛み込みや絡まったりしたりしてドリルの振動の原因になる。本発明のドリルで生成されて排出された切り屑の形状は穴の精度に影響を及ばさない程度に小さく分断されている。以下の実施例で確認した本発明のドリルでの切り屑の形状を従来の座ぐり加工用エンドミルでの切り屑と比較して図6及び7に示す。
図6は本発明のドリルでの代表的な切り屑の形状を示す図である。図7は従来の座ぐり加工用エンドミルでの代表的な切り屑の形状を示す図である。図6及び図7において(a)は上面図、(b)は側面図である。図7に示すように従来の座ぐり加工用エンドミルでの切り屑30は連続した形状になるのに対して、図6に示すように本発明のドリルによる切り屑29は小さく分断されていることが分かる。本発明は前述のようにドリルの加工による切り屑がカールされて小さく分断されるところのドリルの溝底曲線の形状の最適な組合せによって大きく特徴付けられるが、このような見方をして設計された斜面や曲面への穴加工、及び座ぐり穴加工ができるドリルは初めてである。
【0039】
図8は図3に示す本発明のドリルの切れ刃付近を拡大して90度回転させた図である。ドリル本体5にはシンニング面27が設けられており、切れ刃6とシンニング面27のなす角度がシンニングの逃げ角28となる。本発明において、シンニングの逃げ角28は35°〜50°とするのが望ましい。これにより、カールされた切り屑の排出をより効率的に行うことが出来る。
【0040】
以下、本発明を下記の実施例により詳細に説明するが、それらにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下の表中にある各実施例では、本発明例、従来例、比較例を区分として示し、試料番号は本発明例、従来例、比較例ごとに、連続の通し番号で記載した。
【0042】
本発明は、2枚の切れ刃を有する超硬合金製のドリルであって、実験の結果として本発明の穴位置精度及び穴入口径の拡大の大幅な改善には溝底曲線の新規な形状が重要であることが確認できたものであるが、その効果を最大限に発揮するドリルの基礎形状として、溝底曲線の形状以外には、ドリルの先端角、ドリル心厚、及び溝幅の最適化が本発明の構成要件として必須である。
そこで以下の実施例では、超硬合金製のドリルに表面処理として(TiAl)N系にSiを含有させた硬質皮膜を施した統一した仕様をベースにして、ドリルの先端角、ドリル心厚、溝幅及び溝形状の影響を調査するために本発明を実施した例、及び本発明の条件以外のものと比較した比較例を以下に示す。
【0043】
(実施例1)
本発明例1乃至5及び比較例1、2を用いた切削試験による先端角の比較を行った。本発明例1乃至5において先端角はそれぞれ170°、175°、180°、185°、190°とした。比較例1、2の先端角はそれぞれ165°、195°とした。
実施例1で使用した7種類全てのドリルは母材が超硬合金であり、刃数が2枚刃、直径が6mm、溝長が19mm、シャンク径が6mm、ねじれ角が30°、心厚が直径の0.20倍、溝幅が80°である。さらに第一溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は直径の0.50倍、第一溝底曲線の最大窪み量は直径の0.05倍、第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は心厚の2.0倍、第二溝底曲線の最大窪み量は直径の0.02倍とし、これらの緒元は本発明例1乃至5及び比較例1、2にて統一した。
【0044】
図11は実施例に用いた被削材及び加工穴中心のずれの測定方向を示す図である。被削材はS50Cであり、図11に示すように幅120mm、奥行き100mm、高さ80mmの直方体を切断し、高さ方向に30°の勾配をもつ斜面をつけた形状のものを切削試験に用いた。
図12は図11に示す被削材における矢印Aから見たときの断面図である。試験方法として、切削速度は75m/min、1刃送りは0.09mm/rev、工具の突き出し量は36mm、加工穴深さは図12に示すように、斜面とドリルの刃先が接触する位置を基準として、そこから高さ方向に18mmの切削条件で、クーラントは何も用いず乾式切削で、穴間隔10mmにて10穴ずつ切削を行った。
【0045】
切削試験後には位置精度及び加工穴の拡大径についての測定を行った。位置精度の測定方法として、各10穴の加工穴中心の理論的位置からの位置ずれ(以下、「ずれ」とも記載する)を光学式顕微鏡を用いて測定した。測定項目はまず、10穴の加工穴中心の幅方向のずれの平均値をX方向のずれとし、図11に示すように勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、上方向を+、下方向を−とした。さらに、10穴の加工穴中心の奥行き方向のずれの平均値をY方向のずれとし、勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、右方向を−、左方向を+とした。
加工穴の拡大径の測定方法として、被削材の上面側における加工穴の直径を光学式顕微鏡を用いて測定し、被削材の上面側における加工穴の直径と使用したドリルの工具径との差から加工穴の拡大径を求めた。
評価基準としてはX方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ加工穴の拡大径が5μm以内であるものを良好とした。切削試験結果を表1に示す。
【0046】
【表1】






【0047】
表1に示すように、本発明例1乃至5はX方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、さらに加工穴の拡大径が5μm以内であったため良好な結果であった。これに対し、比較例1は先端角が小さく、コーナ部の角度が鈍角となり、被削材に食付きにくくなったためX方向のずれが0.4mm、Y方向のずれが0.18mmとなり、加工穴の拡大径が5.9μmであった。また、比較例2は先端角が大きく、コーナ部が鋭角になりすぎる事により強度が低下し、1穴目で刃先にチッピングが生じたため、X方向のずれが0.55mm、Y方向のずれが0.22mmとなり、加工穴の拡大径が5.1μmであった。
【0048】
(実施例2)
本発明例6乃至8は比較例3、4との対比において、切削試験による心厚の比較を行った実施例である。心厚は、本発明例6乃至8においてそれぞれ直径Dの0.15倍、0.20倍、0.25倍とした。比較例3、4においてはそれぞれ直径Dの0.10倍、0.30倍とした。また、心厚以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0049】
被削材及び試験方法は実施例1と同様とした。切削試験では加工穴数及び位置精度についての測定を行った。加工穴数の評価方法は、10穴まで切削を行った切削試験において加工可能であった穴数の計測により評価を行った。位置精度の測定方法として、各10穴の加工穴中心の理論的位置からの位置ずれ(以下、「ずれ」とも記載する)を光学式顕微鏡を用いて測定した。測定項目はまず、10穴の加工穴中心の幅方向のずれの平均値をX方向のずれとし、勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、上方向を+、下方向を−とした。さらに、10穴の加工穴中心の奥行き方向のずれの平均値をY方向のずれとし、勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、右方向を−、左方向を+とした。
評価基準としては加工穴数が10穴であり、なおかつX方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあるものを良好とした。切削試験結果を表2に示す。
【0050】
【表2】





【0051】
表2から分かるように、本発明例6乃至8は加工穴数が10穴であり、さらにX方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり良好な結果であった。これに対し、比較例3は、心厚が小さく剛性が低いため、2穴目の加工中の振動により折損した。そのためX方向のずれおよびY方向のずれは測定不能であった。また、比較例4は心厚が大きいため剛性は高いが、切り屑の排出性が悪くなり、6穴目で切り屑詰まりにより折損した。そのためX方向のずれおよびY方向のずれは測定不能であった。
【0052】
(実施例3)
本発明例9乃至11及び比較例5、6を用いた切削試験による溝幅の比較を行った。溝幅は本発明例9乃至11においてそれぞれ75°、80°、85°とした。比較例5、6においてはそれぞれドリル直径の70°、90°とした。また、溝幅以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0053】
被削材及び試験方法は実施例1と同様とした。切削試験では加工穴数及び被削材の加工面粗さについての測定を行った。加工穴数の評価方法は、10穴まで切削を行った切削試験において加工可能であった穴数の計測により評価を行った。被削材の加工面粗さは、面粗さ測定器(株式会社東京精密社製、SURFCOM 1500DX)を用いて加工した穴の内壁面を穴の奥から入口方向に面粗さを測定することにより評価を行った。
評価基準としては加工穴数が10穴であり、なおかつ被削材の加工面粗さが10μm以下であるものを良好とした。切削試験結果を表3に示す。
【0054】
【表3】








【0055】
表3から分かるように、本発明例9乃至11は切り屑が細かく分断されていたため、加工穴数が10穴となり、なおかつ被削材の加工面粗さが10μm以下となり良好な結果であった。これに対し、比較例5はチップポケットが狭いため切り屑詰まりにより3穴目で折損した。また、加工穴の内壁面に切り屑詰まりによる切り屑が傷つけた跡が残っており、被削材の加工面粗さは16.1μmであった。比較例6は加工穴数は10穴であったが、切り屑が分断されずつながった切り屑が溝に残ったまま加工していた影響で、被削材の加工面粗さは12.2μmであった。
【0056】
(実施例4)
本発明例12乃至19、比較例7、8及び従来例1を用いた切削試験により、溝底からヒールに至るまでの第一溝底曲線の形状と、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔の比較を行った。
本発明例1乃至5において第一溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、それぞれドリルの軸線からヒール方向へ、直線距離で直径Dの0.35倍、0.40倍、0.45倍、0.50倍、0.55倍、0.60倍、0.65倍、0.70倍となる位置とした。
比較例7、8において第一溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、それぞれドリルの軸線からヒール方向へ、直線距離で直径の0.30倍、0.75倍となる位置とした。
従来例1において第一溝底曲線の形状は凸曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、それぞれドリルの軸線からヒール方向へ、直線距離で直径の0.55倍となる位置とした。
また、本発明例12乃至19、比較例7、8及び従来例1において第一溝底曲線の形状と、第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0057】
被削材及び試験方法は実施例1と同様とした。切削試験では位置精度及び被削材の加工面粗さについての測定を行った。位置精度の測定方法として、各10穴の加工穴中心の理論的位置からの位置ずれ(以下、「ずれ」とも記載する)を光学式顕微鏡を用いて測定した。測定項目はまず、10穴の加工穴中心の幅方向のずれの平均値をX方向のずれとし、勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、上方向を+、下方向を−とした。さらに、10穴の加工穴中心の奥行き方向のずれの平均値をY方向のずれとし、勾配をもつ被削材を高さが高くなる方を上に置いたとき、右方向を−、左方向を+とした。被削材の加工面粗さは、面粗さ測定器(株式会社東京精密社製、SURFCOM 1500DX)を用いて加工した穴の内壁面を穴の奥から入口方向に面粗さを測定することにより評価を行った。
評価基準としてはX方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ被削材の加工面粗さが10μm以下であるものを良好とした。切削試験結果を表4に示す。
【0058】
【表4】








【0059】
表4に示すように、本発明例12乃至19は、X方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ、被削材の加工面粗さが最大高さ(Rz値)で10μm以下の範囲にあり良好な結果を示した。
比較例7及び8は切り屑が適切にカールされず、被削材との接触時に工具が斜面に沿って大きく移動した。その結果比較例7ではX方向のずれが−0.15mm、Y方向のずれが0.11mm、比較例8ではX方向のずれが−0.14mm、Y方向のずれが0.12mmであった。さらに比較例7及び8では切り屑が切削加工中に詰まったため、被削材の加工面粗さが比較例7では16.1μm、比較例8では19.2μmであった。
従来例1は第一溝底曲線の形状は凸曲線であるため、切り屑の分断効果が小さく、カールした切り屑がつながってしまう。よって、切削結果においてもX方向のずれが−0.16mm、Y方向のずれが−0.18mmであった。さらにつながった切り屑が加工面を擦ったため、被削材の加工面粗さが21.6μmであった。
【0060】
(実施例5)
【0061】
本発明例20乃至24、比較例9、10及び従来例2を用いた切削試験により、溝底からヒールに至るまでの第一溝底曲線の最大窪み量の比較を行った。
【0062】
本発明例20乃至24において第一溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は、直径の0.03倍、0.04倍、0.05倍、0.06倍、0.07倍とした。
比較例9、10において第一溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は、直径の0.02倍、0.08倍とした。
従来例2において第一溝底曲線の形状は凸曲線であるため、第一溝底曲線の最大窪み量は負の値となり、直径の−0.05倍とした。
また、本発明例20乃至24、比較例9、10及び従来例2において第一溝底曲線の最大窪み量以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0063】
被削材、試験方法、評価方法及び評価基準は実施例4と同様とした。切削試験結果を表5に示す。
【0064】
【表5】






【0065】
表5に示すように、本発明例20乃至24は、X方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ、被削材の加工面粗さが10μm以下の範囲にあり良好な結果を示した。
比較例9及び10は切り屑が適切にカールされず、被削材との接触時に工具が斜面に沿って大きく移動した。その結果比較例9ではX方向のずれが0.08mm、Y方向のずれが0.11mm、比較例10ではX方向のずれが0.19mm、Y方向のずれが0.13mmであった。さらに比較例9及び10では切り屑が切削加工中に詰まったため、被削材の加工面粗さが比較例9では13.2μm、比較例10では11.5μmであった。
従来例2は第一溝底曲線の形状は凸曲線であるため、切り屑の分断効果が小さく、カールした切り屑がつながってしまう。よって、切削結果においてもX方向のずれが−0.19mm、Y方向のずれが−0.15mmであった。さらにつながった切り屑が加工面を擦ったため、被削材の加工面粗さが19.5μmであった。
【0066】
(実施例6)
【0067】
本発明例25乃至29、比較例11、12及び従来例3を用いた切削試験により、溝底から外周コーナ部に至るまでの第二溝底曲線の形状と、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔の比較を行った。
【0068】
本発明例25乃至29において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、心厚dの1.5倍、1.75倍、2.0倍、2.25倍、2.5倍となる位置とした。
比較例11、12において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、心厚dの1.25倍、2.75倍となる位置とした。
従来例3において第二溝底曲線の形状は凸曲線であり、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔は、心厚dの1.75倍となる位置とした。
また、本発明例25乃至29、比較例11、12及び従来例3において第二溝底曲線の形状と、第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0069】
被削材、試験方法、評価方法及び評価基準は実施例4と同様とした。切削試験結果を表6に示す。
【0070】
【表6】






【0071】
表6に示すように、本発明例25乃至29は、X方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ、被削材の加工面粗さが10μm以下の範囲にあり良好な結果を示した。
比較例11及び12は切り屑が適切にカールされず、被削材との接触時に工具が斜面に沿って大きく移動した。その結果比較例11ではX方向のずれが0.11mm、Y方向のずれが0.13mm、比較例12ではX方向のずれが0.15mm、Y方向のずれが0.16mmであった。さらに比較例11及び12では切り屑が切削加工中に詰まったため、被削材の加工面粗さが比較例11では15.9μm、比較例12では13.3μmであった。
従来例3は第二溝底曲線の形状は凸曲線であるため、切り屑の分断効果が小さく、カールした切り屑がつながってしまう。よって、切削結果においてもX方向のずれが−0.25mm、Y方向のずれが−0.22mmであった。さらにつながった切り屑が加工面を擦ったため、被削材の加工面粗さは25.5μmであった。
【0072】
(実施例7)
本発明例30乃至39、比較例13乃至16及び従来例4を用いた切削試験により、溝底から外周コーナ部に至るまでの第二溝底曲線の最大窪み量の比較を行った。
【0073】
本発明例30乃至36において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は直径Dの0.05倍、第二溝底曲線の最大窪み量はそれぞれ直径Dの0.005倍、0.010倍、0.015倍、0.020倍、0.025倍、0.030倍、0.035倍とした。
本発明例37乃至39において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は直径Dの0.03倍、第二溝底曲線の最大窪み量はそれぞれ直径Dの0.005倍、0.015倍、0.025倍、0.030倍とした。
比較例13、14において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は直径Dの0.05倍、第二溝底曲線の最大窪み量はそれぞれ直径Dの0倍、0.040倍とした。
比較例15、16において第二溝底曲線の形状は凹曲線であり、第一溝底曲線の最大窪み量は直径Dの0.03倍、第二溝底曲線の最大窪み量はそれぞれ直径Dの0倍、0.030倍とした。
従来例2において第一溝底曲線の最大窪み量は直径Dの0.05倍であり、第二溝底曲線の形状は凸曲線であるため、第二溝底曲線の最大窪み量は負の値となり、直径Dの−0.05倍とした。
本発明例30乃至39、比較例13乃至16及び従来例4において第一溝底曲線の最大窪み量及び第二溝底曲線の最大窪み量以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0074】
被削材、試験方法、評価方法及び評価基準は実施例4と同様とした。切削試験結果を表7に示す。
【0075】
【表7】









【0076】
表7に示すように、本発明例30乃至39は、X方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲にあり、なおかつ、被削材の加工面粗さが10μm以下の範囲にあり良好な結果を示した。
比較例13乃至15は切り屑が適切にカールされず、被削材との接触時に工具が斜面に沿って大きく移動した。その結果X方向のずれおよびY方向のずれが、共に+0.1mm〜−0.1mmの範囲を超え、なおかつ、被削材の加工面粗さが10μmを超えたため不良であった。
第二溝底曲線の最大窪み量が第一溝底曲線の最大窪み量と同じ値である比較例16は、X方向のずれおよびY方向のずれは+0.1mm〜−0.1mmの範囲であった。しかし、第一溝底曲線でのカール効果が小さく切り屑排出性が悪くなるため、被削材の加工面粗さが10.8μmとなり、不良であった。
従来例4は第二溝底曲線の形状は凸曲線であるため、切り屑の分断効果が小さく、カールした切り屑がつながってしまう。よって、切削結果においてもX方向のずれが0.19mm、Y方向のずれが−0.17mmであった。さらにつながった切り屑が加工面を擦ったため、被削材の加工面粗さが20.2μmであった。
【0077】
(実施例8)
本発明例40乃至45を用いた切削試験によるシンニング逃げ角の比較を行った。
シンニングの逃げ角は本発明例40乃至45においてそれぞれ30°、35°、40°、45°、50°、55°とした。
本発明例40乃至45において、シンニングの逃げ角以外は本発明例3と同一の緒元として、仕様を統一した。
【0078】
被削材及び試験方法は実施例4と同様とした。切削試験では被削材の加工面粗さについての測定を行った。被削材の加工面粗さは、面粗さ測定器(株式会社東京精密社製、SURFCOM 1500DX)を用いて加工した穴の内壁面を穴の奥から入口方向に面粗さを測定することにより評価を行った。
評価基準としては被削材の加工面粗さが10μm以下であるものを良好とした。切削試験結果を表8に示す。
【0079】
【表8】







【0080】
表8より分かるように、本発明例40乃至45は被削材の加工面粗さが10μm以下の範囲にあり良好な結果であった。本発明例41乃至44は切り屑が切削初期からスムーズにカールされ且つ切り屑が細かく分断されており、被削材の加工面粗さが8μm以下の範囲にあり特に良好な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、例えばクランクシャフトの曲面からなるクランク部や、シャフト部に斜め方向、縦方向に自由自在に必要な油穴がドリル加工できる。また、斜面や曲面を有する金型、部品にも従来のようなエンドミルによる座面加工を不要として、穴加工ができる。
【符号の説明】
【0082】
1 従来のエンドミル
2 従来のエンドミルにより形成された加工面
3 従来のドリル
4 従来のドリルがずれる方向
5 ドリル本体
6 切れ刃
7 切り屑排出溝
8 マージン部側での内壁面
9 先端逃げ面
10 マージン部側の溝直線
11 ヒール部側での内壁面
12 ヒール側の溝直線
13 溝底
14 心厚円
15 ヒール
16 第一溝底曲線
17 直線
18 マージン部側での内壁面の外周端
19 第二溝底曲線
20 第一溝底曲線の最大窪み位置
21 第一溝底曲線の最大窪み量
22 第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔
23 第二溝底曲線の最大窪み位置
24 第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔
25 第二溝底曲線の最大窪み量
26 先端角
27 シンニング面
28 シンニングの逃げ角
29 本発明のドリルでの切り屑
30 従来のエンドミルでの切り屑
W 被削材
O ドリルの軸線
θ 溝幅
D 直径
L ドリル回転方向
d 心厚
a 溝面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の切れ刃を有するドリルであって、前記ドリルは、先端角が170°〜190°であり、心厚がドリル直径の0.15倍〜0.25倍であり、前記ドリルをドリル先端からドリルの軸線方向に見た図において、ドリルの軸線Oとマージン部側での内壁面の外周端とを結ぶマージン部側の溝直線と、ドリルの軸線Oとヒール部側での内壁面の外周端すなわちヒールとを結ぶヒール側の溝直線とがなす角度を溝幅としたときに、前記溝幅が75°〜85°の範囲であり、溝底および前記溝底からヒールに至るまでの第一溝底曲線は凹曲線でなり、前記第一溝底曲線がドリルの軸線Oからヒールを結ぶ直線に対し最も窪んだ第一溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔はドリルの軸線からヒール方向へ直線距離で直径の0.35倍〜0.70倍とし、第一溝底曲線の最大窪み量は、直径の0.03倍〜0.07倍の範囲であり、マージン部側での内壁面の外周端から溝底に至るまでの第二溝底曲線は凹曲線でなり、前記第二溝底曲線がマージン部側の溝直線に対し最も窪んだ第二溝底曲線の最大窪み位置とドリルの軸線Oの間隔はドリルの軸線からマージン部側での内壁面の方向へ直線距離で心厚の1.5倍〜2.5倍とし、第二溝底曲線の最大窪み量は前記ドリル直径の0倍を超え0.04倍未満となる範囲であり、且つ第二溝底曲線の最大窪み量は第一溝底曲線の最大窪み量に対し小さく設定したことを特徴とするドリル。
【請求項2】
シンニングの逃げ角を35°〜50°の範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の座ぐり加工用ドリルを用いて、前記ドリルの軸線に対して傾斜している斜面又は曲面を加工することを特徴とするガイド穴加工方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の座ぐり加工用ドリルを用いて、前記ドリルの軸線に対して傾斜している面又は曲面で、座ぐり加工をすることを特徴とする座ぐり加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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