説明

ドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物及びドープ酸化亜鉛薄膜の製造方法

【課題】製膜時に加熱を必要としないか、あるいは加熱しても300℃以下の加熱で、透明かつ低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得ることができるドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物とこの組成物を用いたドープ酸化亜鉛薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】電子供与性を有する有機溶媒に一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と一般式(2)で表される有機3B族元素化合物とを含有し、前記有機亜鉛化合物に対する前記有機3B族元素化合物のモル比が0.001〜0.3の範囲である酸化亜鉛薄膜形成用組成物。
−Zn−R (1)
(式中、Rはアルキル基である)


(式中、Mは3B族元素であり、R、R及びRは独立に、水素またはアルキル基である)
大気圧または加圧下、水が存在する雰囲気下、かつ300℃以下の基板温度で、上記組成物を基板表面にスプレー塗布して、3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成するドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物及びドープ酸化亜鉛薄膜の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜形成用の組成物とそれを用いた3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、可視光線に対して高い透過性を有すると同時に表面抵抗も低い。そのため、赤外線反射膜、フラットパネルディスプレイの電極、タッチパネルの電極、CIGS型太陽電池、CdTe型太陽電池、薄膜シリコン太陽電池、多接合型薄膜シリコン太陽電池などの太陽電池の電極等に使用され、幅広い用途を持つ。
【0003】
3B族元素がドープされた透明かつ低抵抗な酸化亜鉛薄膜の製造方法としては種々の方法が知られている(非特許文献1)。例えば、有機亜鉛化合物を原料として用いる代表的な方法としては、化学気相成長(CVD)法(非特許文献2)、スプレー熱分解法(非特許文献3)、およびスピンコート法(特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−182939号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006)、p165〜173
【非特許文献2】K. Sorab, et al. Appl. Phys. Lett., 37(5), 1 September 1980
【非特許文献3】J. Aranovich, et al. J. Vac. Sci. Technol., 16(4), July/August 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、化学気相成長(CVD)法では、例えば、以下の問題がある。
(1)大型の真空容器を用いる必要がある
(2)製膜速度が非常に遅いために製造コストが高くなる
(3)真空容器の大きさにより形成することのできる酸化亜鉛薄膜の大きさが制限される為に大型のものを形成することができない
【0007】
上記スプレー熱分解法およびスピンコート法は、上記化学気相成長(CVD)法に比べて装置が簡便で膜形成速度が速い為生産性が高く製造コストも低い。また、真空容器を用いる必要がなく真空容器による制約がない為、大きな酸化亜鉛薄膜の作製も可能であるという利点がある。
【0008】
上記スプレー熱分解法では、スプレー塗布と同時に溶媒乾燥し、次いで基板温度を360℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜塗膜を得ている。
【0009】
上記でスピンコート法は、スピンコート後に溶媒乾燥し、次いで基板温度を400℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜塗膜を得ている。
【0010】
透明かつ低抵抗な酸化亜鉛薄膜は、プラスチック基板に作製されるようになってきている。そのため、透明酸化亜鉛薄膜の形成時に適用される加熱は、プラスチック基板の耐熱温度以下で実施されることが必要である。しかるに、上記非特許文献3に記載のスプレー熱分解法や特許文献1に記載のスピンコート法では、プラスチック基板の耐熱温度以下での加熱では、透明酸化亜鉛薄膜を得ることはできない。プラスチック基板の耐熱温度と加熱に要するコスト等を考慮すると、製膜時に要する加熱は、300℃以下であることが望まれる。
【0011】
本発明者らの検討によれば、非特許文献3に記載のスプレー熱分解法で用いられている酢酸亜鉛の水溶液や特許文献1に記載のスピンコート法で用いられている有機亜鉛化合物の有機溶媒の溶液を用いて300℃以下で製膜しても、不透明な酸化亜鉛薄膜しか得られないか、あるいは有機亜鉛化合物が酸化亜鉛まで分解せずに酸化亜鉛薄膜自体を形成しなかった。特許文献1には、ジエチル亜鉛のヘキサン溶液を用いる方法も記載されているが、本発明者らは、この溶液を用いて300℃以下での製膜を試みたが、透明な酸化亜鉛薄膜は得られなかった。
【0012】
さらに、非特許文献3に記載のスプレー熱分解法で用いられている酢酸亜鉛の水溶液や特許文献1に記載のスピンコート法で用いられている有機亜鉛化合物の有機溶媒の溶液を用いて300℃以下で製膜しても、表面抵抗が>10Ω/□と極めて高い酸化亜鉛薄膜しか得られなかった。即ち、非特許文献3及び特許文献1に記載の方法では、高抵抗かつ不透明な酸化亜鉛薄膜しか得られなかった。
【0013】
また、有機亜鉛化合物の一種であるジエチル亜鉛は大気中で発火性があり、保管、使用時に非常な注意を払わねばならない化合物である。そのため、ジエチル亜鉛を希釈等することなしに、通常、水が存在する雰囲気中で行われることの多い、スプレー熱分解法、スピンコート法等で用いることは、実用上困難である。ジエチル亜鉛は、有機溶媒に溶解した状態では、発火性などの危険性は低減できるが、特許文献1に記載のように、アルコール系の有機溶媒に反応させながら溶解したジエチル亜鉛を用いた酸化亜鉛薄膜の製膜には、400℃以上の高温で加熱が必要であった。
【0014】
本発明の目的は、プラスチック基板の耐熱温度と加熱に要するコスト等を考慮して、製膜時に加熱を必要としないか、あるいは加熱しても300℃以下の加熱で、透明かつ低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得ることができるドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物とこの組成物を用いたドープ酸化亜鉛薄膜の製造方法を提供するという課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する米の本発明は以下のとおりである。
[1]
電子供与性を有する有機溶媒に下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)で表される有機3B族元素化合物とを含有し、前記有機亜鉛化合物に対する前記有機3B族元素化合物のモル比が0.001〜0.3の範囲であることを特徴とする酸化亜鉛薄膜形成用組成物。
−Zn−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)

(式中、Mは3B族元素であり、R、R及びRは独立に、水素または炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基である)
[2]
前記3B族元素はB、Al、GaまたはInである[1]に記載の組成物。
[3]
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがアルミニウムであり、R、R及びRがいずれもエチル基である[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがガリウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基である[1]または[2]に記載の組成物。
[5]
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがインジウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基である[1]または[2]に記載の組成物。
[6]
前記有機亜鉛化合物と有機3B族化合物の合計濃度が、15質量%以下である[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
前記有機溶媒がジイソプロピルエーテルである[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
大気圧または加圧下、水が存在する雰囲気下、かつ300℃以下の基板温度で、[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物を基板表面にスプレー塗布して、3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成することを特徴とする3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法。
[9]
前記組成物のスプレー塗布は、組成物をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜30μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行う[8]に記載の製造方法。
[10]
スプレー塗布をする雰囲気温度が40℃以下である[8]または[9]に記載の製造方法。
[11]
前記酸化亜鉛薄膜は、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有し、かつ表面抵抗が1×10Ω/□以下である[8]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可視光線に対する平均透過率が80%以上の透明性と表面抵抗が1×10Ω/□以下の低抵抗性を有する、3B族元素ドープ酸化亜鉛薄膜を得ることができるドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物を提供することができる。さらに本発明によれば、この組成物を用いて、製膜時に加熱を必要としないか、あるいは加熱しても300℃以下の加熱で、上記透明性と低抵抗性を有する3B族元素ドープ酸化亜鉛薄膜を製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スプレー製膜装置を示す図である。
【図2】実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図3】実施例2で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図4】実施例3で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図5】実施例4で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図6】実施例5で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図7】実施例6で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0018】
[酸化亜鉛薄膜形成用組成物]
本発明のドープ酸化亜鉛薄膜形成用組成物は、電子供与性を有する有機溶媒に下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)で表される有機3B族元素化合物とを含有し、前記有機亜鉛化合物に対する前記有機3B族元素化合物のモル比が0.001〜0.3の範囲であることを特徴とする。
−Zn−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)

(式中、Mは3B族元素であり、R、R及びRは独立に、水素または炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基である)
【0019】
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物におけるRとして表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、Rが炭素数が1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、特にRがエチル基であるジエチル亜鉛であることが好ましい。
【0020】
一般式(2)で表される有機3B族元素化合物におけるMとして表される3B族元素としては、B、Al、Ga、In、Tlを挙げることができる。また、R、R、及びRとして表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(2)で表される化合物は、MがB、Al、GaまたはInであり、R、R、及びRが独立に水素、または炭素数が1、2、3、4、5、若しくは6の化合物であることが好ましい。一般式(2)で表される化合物は、特にボラン、アラントリエチルアミン、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウムであることが好ましい。特に、前記有機3B族元素化合物は、Mがアルミニウムであり、R、R及びRがいずれもエチル基であるトリエチルアルミニウム、Mがガリウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基であるトリメチルガリウム、Mがインジウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基であるトリメチルインジウムであることが、価格が安く入手が容易であるという観点から望ましい。
【0021】
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物に対する一般式(2)で表される有機3B族元素化合物のモル比は0.001〜0.3であることが好ましく、0.01〜0.1であることかより好ましい。
【0022】
電子供与性を有する溶媒の例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等のアミン系溶媒、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライム、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。電子供与性を有する溶媒としては、ジイソプロピルエーテルが特に好ましい。
【0023】
本発明においては、上記有機亜鉛化合物と有機3B族化合物の合計濃度が、15質量%以下であることが、透明な酸化亜鉛薄膜を製造するという観点から好ましい。上記有機亜鉛化合物と有機3B族化合物の合計濃度は、好ましくは、1〜10質量%、より好ましくは3〜10質量%である。上記有機亜鉛化合物と有機3B族化合物の合計濃度は、発火などの酸化亜鉛薄膜製造時の危険性に影響があり、上記範囲とすることで、良好な透明性の酸化亜鉛薄膜を特別な注意を払わず安全に製造することができる。上記組成物の有機3B族元素化合物の濃度は、上記有機亜鉛化合物に対する有機3B族元素化合物のモル比を考慮して適宜決定される。
【0024】
本発明の組成物は、上記一般式(1)の有機亜鉛化合物と上記一般式(2)の有機3B化合物を電子供与性が有する有機溶媒に溶解させることにより製造できる。
【0025】
上記一般式(1)の化合物と上記一般式(2)の化合物はあらゆる慣用の方法に従って溶解させることができ、溶媒との混合物同士を溶解させても製造することができる。上記一般式(1)の化合物と上記一般式(2)の化合物は、どのような順序で溶解させてもよい。
【0026】
[3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法]
本発明の3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法は、大気圧または加圧下、水が存在する雰囲気下、かつ300℃以下の基板温度で、上記本発明の組成物を基板表面にスプレー塗布して、3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成することを特徴とする。
【0027】
本発明の製造方法では、スプレー塗布法を用いる。
【0028】
基板表面へのスプレー塗布は、大気圧または加圧下で、酸化亜鉛薄膜の酸素源である水が存在する雰囲気下で行う。加圧下とは、例えば、圧力が101.3〜202.6kPaの範囲の場合である。但し、これに限定される意図ではない。尚、本発明の方法におけるスプレー塗布は、減圧下でも実施できるが、減圧下で実施するメリットはなく、大気圧で実施するのが、装置上も簡便であり好ましい。
【0029】
基板表面へのスプレー塗布における「水が存在する雰囲気」とは、例えば、相対湿度20〜90%に相当する水を含有した空気の雰囲気であることができる。空気の雰囲気で行う代わり窒素と水を混合させた混合ガスの雰囲気下で行ってもよい。相対湿度は、酸化亜鉛薄膜の生成がスムーズであるという観点からは、より好ましくは30〜70%の範囲である。
【0030】
基板表面へのスプレー塗布は、300℃以下の基板温度でおこなうことができる。より具体的には、スプレー塗布をする雰囲気温度を40℃以下とし、かつ基板温度を300℃以下とすることが好ましい。酸化亜鉛薄膜の生成がスムーズであるという観点からは、スプレー塗布をする雰囲気温度は、好ましくは10〜30℃の範囲であり、基板温度は、好ましくは10〜200℃、さらに好ましくは20〜100℃の範囲である。
【0031】
図1に、本発明で用いることができるスプレー製膜装置を示す。図中、1は塗布用の組成物を充填したスプレーボトル、2は基板ホルダ、3はスプレーノズル、4はコンプレッサ、5は基板を示す。スプレー塗布は、基板を基板ホルダ2に設置し、必要によりヒーターを用いて300℃以下の所定の温度まで加熱し、その後、大気中(大気圧下、空気中)で、基板の上方に配置したスプレーノズル3から圧縮した不活性ガスと塗布用組成物を同時供給し、塗布用組成物を霧化、噴霧させることにより基板上に酸化亜鉛薄膜を形成することができる。3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、スプレー塗布することで、追加の加熱等することなしに形成される。
【0032】
塗布用組成物のスプレー塗布は、塗布用組成物をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜30μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行うことが、良好な透明性の酸化亜鉛薄膜を製造することができるという観点から好ましい。さらに、スプレー塗布をする雰囲気温度が40℃以下であり、かつ基板の温度が300℃以下であることが、基板への熱の影響とエネルギーコストの観点から好ましい。
【0033】
基板への付着性、溶媒の蒸発の容易性等を考慮すると、スプレーノズルより吐出される液滴の大きさについては、全ての液滴の大きさが1〜30μmの範囲にあることが好ましい。液滴の大きさは、より好ましくは3〜20μmの範囲にある。
【0034】
スプレーノズルから基板に到達するまでに溶媒が幾分蒸発し液滴の大きさが減少すること等を考慮すると、スプレーノズルと基板との距離は50cm以内であることが好ましい。スプレーノズルと基板との距離は、酸化亜鉛薄膜の形成が良好にできるという観点から、好ましくは2〜40cmの範囲である。
【0035】
さらに、基板および雰囲気温度を加熱することなく、基板の上方に配置したスプレーノズル3から圧縮した不活性ガスと塗布用組成物を同時供給し、塗布用組成物を霧化、噴霧させることだけでも条件(液滴の大きさ、組成物の組成(濃度)、スプレーノズルと基板との距離等)によっては、基板上に透明性の高い3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【0036】
本発明の製造方法により形成される3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、酸化亜鉛に、3B族元素が酸化物として含有されるものである。3B族元素が酸化物は、酸化亜鉛に固溶しているか、あるいは、酸化亜鉛とは別に3B族元素酸化物が混在しているか、あるいはその両者が共存するものである。
【0037】
本発明の製造方法により形成される3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の膜厚は、特に制限はない。例えば、100〜2000nmの範囲で適宜調整できる。酸化亜鉛薄膜の膜厚は、スプレー塗布に用いる塗布用組成物の濃度、スプレー塗布時間を調整することで適宜調整できる。また、必要により2回以上に分けてスプレー塗布操作をすることもできる。
【0038】
本発明の製造方法により形成される3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、好ましくは可視光線に対して80%以上の平均透過率を有するものであり、より好ましくは可視光線に対して85%以上の平均透過率を有する。尚、「可視光線に対する平均透過率」とは、以下のように定義され、かつ測定される。可視光線に対する平均透過率とは、380〜780nmの範囲の光線の透過率の平均を云い、紫外可視分光光度計により測定される。
【0039】
さらに、本発明の製造方法により形成される3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、好ましくは表面抵抗が1×10Ω/□以下である。より好ましくは、表面抵抗が5×10Ω/□以下であり、さらに好ましくは、表面抵抗が1×10Ω/□以下である。
【0040】
本発明において基板として用いられるのは、例えば、透明基材フィルムであることができ、透明基材フィルムは、プラスチックフィルムであることができる。プラスチックフィルムを形成するポリマーには、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート( P E T )、ポリエチレンナフタレート(P E N))、ポリ(メタ)アクリル(例えば、ポリメチルメタクリレート( P M M A ) ) 、ポリカーボネート( P C )、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、環状ポリオレフィン(C O P)、エチレン− 酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、トリアセテート、セロファンを例示することができる。これら中、P E T、P C、P M M Aが好ましい。透明基材フィルムはポリマーの種類によって無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。例えば、ポリエステルフィルム例えばP E T フィルムは、通常、二軸延伸フィルムであり、またP C フィルム、トリアセテートフィルム、セロファンフィルム等は、通常、無延伸フィルムである。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0042】
表面抵抗値の測定方法
表面抵抗はJIS K 7194に順処した四探針法により、三菱化学製ロレスタ−GPを用いて測定した。
【0043】
[実施例1]
塗布用組成物の調製は窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。ジイソプロピルエーテル200.1gにジエチル亜鉛10.54g、トリエチルアルミニウムをジエチル亜鉛に対して1.0mol%分(0.11g)を加えた。十分攪拌した後ろ過することで塗布用組成物を得た。
【0044】
上記のようにして得た塗布用組成物を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。スライドガラス基板を基板ホルダに設置した。ガラス基板を100℃に加熱した後、大気圧下、25℃、相対湿度60%と水が存在する空気中で、スプレーノズルより塗布用組成物を3ml/minで10分間噴霧した。スプレーノズルより吐出する液滴の大きさは、3〜20μmの範囲であり、かつスプレーノズルと基板との距離を40cmとして行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約240nmであった。基板上に形成された薄膜は、図2に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は84%、かつ、表面抵抗は4.2×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、表面抵抗が1×10Ω/□以下の低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0045】
[実施例2]
トリエチルアルミニウムをトリメチルガリウムに変えた以外は全て実施例1と同様に行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約210nmであった。基板上に形成された薄膜は、図3に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は86%、表面抵抗は4.3×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた
【0046】
[実施例3]
トリエチルアルミニウムをトリメチルインジウムに変えた以外は全て実施例1と同様に行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約150nmであった。基板上に形成された薄膜は、図4に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は83%、表面抵抗は6.7×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0047】
[実施例4]
ガラス基板を200℃に加熱した以外は実施例1と同様に行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約300nmであった。基板上に形成された薄膜は、図5に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は82%、かつ、表面抵抗は1.7×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0048】
[実施例5]
ガラス基板を200℃に加熱した以外は実施例2と同様に行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約250nmであった。基板上に形成された薄膜は、図6に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は86%、表面抵抗は8.0×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0049】
[実施例6]
ガラス基板を200℃に加熱した以外は実施例3と同様に行った。基板上に形成された薄膜の膜厚はSEM測定により求め、約280nmであった。基板上に形成された薄膜は、図7に示すとおり、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、可視光の平均透過率は89%、表面抵抗は3.6×10Ω/□であり、透過率80%以上の透明、かつ、低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0050】
以下の比較例1〜3は、非特許文献1中、p168の表の17番目(文献番号199)の技術に基づいて実施したものである。しかし、得られた結果は、上記文献の表に記載の特性ではなく、以下の比較例に示すような非常に悪い値であった。
【0051】
[比較例1]
エタノール、水の体積比が3:1である混合溶媒200.3gに酢酸亜鉛二水和物10.54g、塩化アルミニウム六水和物を酢酸亜鉛二水和物に対して1.0mol%分(0.09g)を加え、十分攪拌しろ過することで塗布用組成物を得た。
【0052】
上記のようにして得た塗布用組成物を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。スライドガラス基板を基板ホルダに設置した。ガラス基板を200℃に加熱した後、ノズルより塗布用組成物を3ml/minで10分間噴霧した。XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。また、可視光の平均透過率は10%、表面抵抗が>1.0×10Ω/□(測定範囲外)であり、不透明、かつ、高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0053】
[比較例2]
トリエチルアルミニウムをトリメチルガリウムに変えた以外は全て比較例1と同様に行った。XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。また、可視光の平均透過率は9%、表面抵抗が>1.0×10Ω/□(測定範囲外)であり、不透明、かつ、高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0054】
[比較例3]
トリエチルアルミニウムをトリメチルインジウムに変えた以外は全て比較例1と同様に行った。XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。また、可視光の平均透過率は12%、表面抵抗が>1.0×10Ω/□(測定範囲外)であり、不透明、かつ、高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、透明かつ低抵抗な酸化亜鉛薄膜の製造分野に有用である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・スプレーボトル、2・・・基板ホルダ(ヒーター付)、3・・・スプレーノズル、4・・・コンプレッサ−、5・・・無アルカリガラス基板
酸化亜鉛薄膜の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性を有する有機溶媒に下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)で表される有機3B族元素化合物とを含有し、前記有機亜鉛化合物に対する前記有機3B族元素化合物のモル比が0.001〜0.3の範囲であることを特徴とする酸化亜鉛薄膜形成用組成物。
−Zn−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)

(式中、Mは3B族元素であり、R、R及びRは独立に、水素または炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基である)
【請求項2】
前記3B族元素はB、Al、GaまたはInである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがアルミニウムであり、R、R及びRがいずれもエチル基である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがガリウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記有機亜鉛化合物は、Rがエチル基であり、前記有機3B族元素化合物は、Mがインジウムであり、R、R及びRがいずれもメチル基である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記有機亜鉛化合物と有機3B族化合物の合計濃度が、15質量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記有機溶媒がジイソプロピルエーテルである請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
大気圧または加圧下、水が存在する雰囲気下、かつ300℃以下の基板温度で、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物を基板表面にスプレー塗布して、3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成することを特徴とする3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記組成物のスプレー塗布は、組成物をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜30μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
スプレー塗布をする雰囲気温度が40℃以下である請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化亜鉛薄膜は、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有し、かつ表面抵抗が1×10Ω/□以下である請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−267383(P2010−267383A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115111(P2009−115111)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】