説明

ナトリウム分散体、ナトリウム分散体製造方法、ならびに、脱ハロゲン化処理方法

【課題】ナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理の処理効率の向上を課題としている。
【解決手段】ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体であって、前記分散油中には芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることを特徴とするナトリウム分散体などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム分散体、ナトリウム分散体製造方法、ならびに、脱ハロゲン化処理方法に関し、より詳しくは、ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体、ナトリウムを分散媒中で攪拌して前記分散媒中にナトリウム粒子を分散させるナトリウム分散体製造方法、ならびに、有機ハロゲン化合物を含有する被処理物とナトリウム分散体とを接触させる脱ハロゲン化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」ともいう)などの有機ハロゲン化合物を含有する汚染物を処理対象として無害化処理が実施されている。
このような汚染物の無害化処理においては、無害化する汚染物(以下「被処理物」ともいう)をナトリウム粒子が分散媒中に分散されているナトリウム分散体に接触させることにより被処理物に含有されている有機ハロゲン化合物とナトリウム分散体のナトリウムとを反応させて有機ハロゲン化合物を分解処理する脱ハロゲン化処理が実施されている。
【0003】
このようなナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理方法においては、有機ハロゲン化合物を所定残留濃度以下にするための処理をより効率よく実施させることが求められている。
したがって、従来から、有機ハロゲン化合物の分解性能(有機ハロゲン化合物との反応性)に優れたナトリウム分散体が求められている。
【0004】
ところで、このような脱ハロゲン化処理に用いられるナトリウム分散体の製造方法としては、融点以上の温度に加温された液体状態の金属ナトリウム(以下単に「ナトリウム」ともいう)と、ナトリウムに対して反応性の低い鉱油などからなる分散媒とを攪拌槽内で高速攪拌する方法が主として採用されている(下記特許文献1参照)。
【0005】
そして、下記特許文献2には、有機ハロゲン化合物との反応性に優れたナトリウム分散体を製造すべく、所定の攪拌方法で微細且つ均質なナトリウム粒子が含有されたナトリウム分散体を製造することが記載されている。
この特許文献2のようにナトリウム分散体の脱ハロゲン化効率については、従来、ナトリウム粒子の大きさを主たる対象として検討がなされている。
一方でナトリウム粒子の微細化には限界があることから従来以上にナトリウム分散体の脱ハロゲン化効率を向上させることは、困難である。
【0006】
しかも、液体状態のナトリウムは、攪拌によって一旦せん断されても、再び、いくつかの粒子が凝集して粗大化してしまいやすいことから、十分微細化されたナトリウム粒子が含有されたナトリウム分散体の製造には、従来、多大な手間を必要としている。
【0007】
すなわち、従来技術においては、ナトリウム分散体による脱ハロゲン化効率をよりいっそう向上させることが困難であり、しかも、脱ハロゲン化効率に優れたナトリウム分散体の製造には多大な手間を要するという問題を有している。
そのため、脱ハロゲン化処理も、従来、処理効率を向上させることが困難であるという問題を有している。
【特許文献1】特開2003−268417号公報
【特許文献2】特開2002−177763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、ナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理の処理効率の向上を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべくナトリウム分散体の分散媒に用いる分散油に着目して鋭意検討を行った。
その結果、従来は、脱ハロゲン化処理時などにおいてスラッジを形成させやすいと考えられていたことから、分散油における芳香族成分は、より低減させることが求められていたが、芳香族成分が少ない分散油をナトリウム分散体に用いた場合、ナトリウム粒子が再凝縮し易く所定の粒子径の分散体を得るのに多くのエネルギーを要することを見出した。
さらに、芳香族成分を分散油に適正量含有させることにより脱ハロゲン化反応にこの分散油を有効に作用させることができ、芳香族成分を分散油にあえて含有させることにより脱ハロゲン化反応にこの分散油を有効に作用させ得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、上記課題を解決すべく、ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体であって、前記分散油中には芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることを特徴とするナトリウム分散体を提供する。
【0011】
また、本発明は、ナトリウムと分散媒とをナトリウムの融点以上の温度で攪拌することにより前記分散媒中に前記ナトリウムを粒子状に分散させてナトリウム分散体を製造するナトリウム分散体製造方法であって、前記分散媒として、芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されている分散油を用いることを特徴とするナトリウム分散体製造方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、有機ハロゲン化合物を含む被処理物と、ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体とを接触させることにより、有機ハロゲン化合物とナトリウムとを反応さて脱ハロゲン化させる脱ハロゲン化処理方法であって、前記ナトリウム分散体の分散油には芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることを特徴とする脱ハロゲン化処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るナトリウム分散体には、分散油中に芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることから、この分散油を脱ハロゲン化反応に有効に作用させることができ、ナトリウム分散体をPCBなどの有機ハロゲン化合物に対する反応性に優れたものとし得る。
【0014】
また、本発明に係るナトリウム分散体製造方法においては、ナトリウムとともに攪拌する分散媒として、芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されている分散油を用いることからナトリウム粒子の再凝集を防止させてより微細なナトリウム粒子をよりすばやくナトリウム分散体中に形成させ得る。
【0015】
さらに、本発明に係る脱ハロゲン化処理方法においては、分散油に芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されているナトリウム分散体を用いることからこの分散油を脱ハロゲン化反応に有効に作用させることができ有機ハロゲン化物をより迅速に脱ハロゲン化させ得るとともに有機ハロゲン化物の残留をより確実に抑制させ得る。
【0016】
すなわち、本発明によれば、脱ハロゲン化効率に優れたナトリウム分散体、脱ハロゲン化効率に優れたナトリウム分散体を容易に製造し得るナトリウム分散体製造方法、ならびに、有機ハロゲン化物をより迅速に脱ハロゲン化させ得る脱ハロゲン化処理方法などを提供することができ、ナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理の処理効率を向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態のナトリウム分散体は、分散油とナトリウム粒子とを含有している。
しかも、本実施形態のナトリウム分散体の分散油には、芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されている。
【0018】
前記分散油には、通常、市販されている鉱物油の内で芳香族成分を上記割合で含有しているものを適宜選択して採用することができる。
また、芳香族成分の含有割合が異なる二種類以上の油を混合して全体における芳香族成分の含有量が3重量%〜20重量%のいずれかの割合となるように調整して用いることも可能である。
例えば、芳香族成分の含有割合が20重量%を超える油と、芳香族成分の含有量がゼロの油(芳香族成分を含有していない油)とを等量混合して芳香族成分を10重量%含有する油とし、前記分散油として用いることも可能である。
【0019】
また、前記分散油には、ナトリウムの分散性を向上すべくオレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、アマニ油のいずれかを含有させることが好ましい。
また、その含有量は、0.005重量%以上、更に好ましくは0.05重量%以上、0.5重量%以下であることが好ましい。
例えば、トリオレイン酸ソルビタンを、分散油中に0.005重量%以上含有させることにより、ナトリウムの分散性を向上させて、ナトリウム分散体におけるナトリウム粒子を5μm以下のほぼ下限に近い粒子径とさせ得る。
なお、あまり多大な量を含有させてもそれ以上の効果を期待し難いことからトリオレイン酸ソルビタンの含有量としては、2重量%以下が好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。
なお、要すれば、オレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、アマニ油の内の2種類以上を分散油中に含有させることもでき、その場合においても、その合計含有量は、0.005〜0.5重量%であることが好ましい。
【0020】
前記分散油中の芳香族成分の含有量は、ナトリウム分散体の製造時において、より微細なナトリウム粒子をナトリウム分散体中に形成させ得る点、ナトリウム分散体の脱ハロゲン化効率の向上をより顕著にさせ得る点などから5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
一方で、あまり芳香族成分を多く含有させると、脱ハロゲン化処理時におけるスラッジの発生量が増大して、このスラッジの処理の手間を増大させることとなる。
このような観点からは、前記分散油中の芳香族成分の含有量は、15重量%以下であることが好ましい。
すなわち、前記分散油中の芳香族成分の含有量は、脱ハロゲン化効率の向上とスラッジ発生量の抑制とを両立させ得る点において10重量%〜15重量%のいずれかの割合とされることがより好ましい。
【0022】
なお、この芳香族成分の含有量については、ASTM D 3238に基づいて測定することができる。
【0023】
また、ナトリウム分散体における前記分散油と前記ナトリウム粒子との割合については特に限定されず、用途等に応じて適宜選択可能である。
また、前記ナトリウム粒子については、通常、平均粒子径10μm以下のものを用いることができ、ナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理時の処理効率を向上させ得る点からは、前記ナトリウム粒子は、平均粒子径5μm以下のものを用いることが好ましい。
【0024】
なお、このナトリウム粒子の平均粒子径については、後段の実施例において記載の方法により測定することができる。
【0025】
次いで、このようなナトリウム分散体の製造方法について説明する。
ナトリウム分散体の製造方法においては、まず、ナトリウムと分散油とをパドル翼などが備えられた一次攪拌槽に導入してナトリウムの融点以上の温度(例えば、105℃〜140℃)で攪拌を実施し、ナトリウム粒子が所定の大きさ(例えば、20μm)で分散された一次分散体を製造する(一次分散工程)。
【0026】
次いで、縦長円筒形状を有し、該円筒形状の中心軸に沿って設けられた回転軸と、該回転軸に多段に取り付けられた攪拌翼とを有し、さらにバッフルが内部に備えられている高速攪拌機に前記一次分散体を導入して、前記攪拌翼を高速回転させてナトリウム粒子をより微細化して二次分散体を製造する(二次分散工程)。
【0027】
そして、この二次分散工程によって製造された二次分散体中のナトリウム粒子が目的とする大きさ(例えば、5μm以下)となっている場合には、この二次分散体を冷却してナトリウムを固体化させる冷却工程を実施してナトリウム分散体を作製する。
一方で、この二次分散工程によって製造された二次分散体中のナトリウム粒子が目的外の大きさ(例えば、5μm超)となっている場合には、前記高速攪拌機で二次分散体を再び攪拌し、要すれば、さらに複数回繰り返して高速攪拌機での攪拌を実施してナトリウム粒子を目的とする大きさ(例えば、5μm以下)にまで微細化させた後に前記冷却工程を実施してナトリウム分散体を作製する。
【0028】
この一次分散工程や二次分散工程は、ナトリウムの融点以上の状態(例えば、105℃〜140℃の温度)で実施されることから、ナトリウムは液滴の状態で分散油中に漂っている。
したがって、従来、ナトリウム分散体製造方法においては、この液滴状態のナトリウム同士が結合して再凝集しやすく、一次分散工程や二次分散工程に長い時間をかける必要性が生じていたが、本実施形態におけるナトリウム分散体製造方法では、芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されている分散油が分散媒として用いられていることから、ナトリウムの再凝集を防止することができ一次分散工程や二次分散工程の工程を簡略化させ得る。
【0029】
しかも、ナトリウム粒子がより微細な状態で分散されたナトリウム分散体を容易に製造することができる。
さらに、後段の実施例において示すように、芳香族成分を多く含む分散油にナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体は、この分散油がPCBなどの有機ハロゲン化合物とナトリウムとの反応に有効に作用して脱ハロゲン化に有用な効果を奏する。
【0030】
したがって、本実施形態のナトリウム分散体製造方法によれば、微細なナトリウム粒子が脱ハロゲン化に有用な分散油とともに含有されたナトリウム分散体を容易に製造することができる。
すなわち、本実施形態のナトリウム分散体製造方法によれば、脱ハロゲン化処理の処理効率を向上させ得るナトリウム分散体を効率よく製造し得る。
【0031】
次いで、このように製造されたナトリウム分散体を用いた脱ハロゲン化処理について説明する。
本実施形態の脱ハロゲン化処理の被処理物としては、通常、有機ハロゲン化合物を含有するものでナトリウム分散体と接触させうる状態のものであれば特に限定されるものではなく、例えば、PCB含有絶縁油、有機ハロゲン系農薬汚染土壌、ダイオキシン含有焼却灰などが挙げられる。
【0032】
本実施形態における脱ハロゲン化処理方法は、この被処理物とナトリウム分散体とを接触させることで実施される。
例えば、PCB含有絶縁油の脱ハロゲン化処理では、このPCB含有絶縁油とナトリウム分散体とを混合して、90℃〜120℃程度の温度に所定時間維持して実施させることができる。
このとき、PCBのビフェニルと塩素原子との結合がナトリウムの作用によって切断されてPCBが脱塩素化(脱ハロゲン化)され、ビフェニル等の炭化水素と塩化ナトリウムとに分解される。
このとき、通常、ビフェニル同士の重合反応が生じることとなるが、要すれば、水やアルコールなどの水素供与体をナトリウム分散体とともに混合しておくことによりこの重合反応を抑制させることができる。
【0033】
このときの脱塩素化反応は、主としてナトリウム粒子の表面において生じる。
本実施形態の脱ハロゲン化処理方法では、前述のような製造方法によって製造されたナトリウム分散体が用いられる。
すなわち、微細なナトリウム粒子が含有されているナトリウム分散体が用いられることから処理効率に優れた脱ハロゲン化処理を実施させ得る。
【0034】
また、このナトリウム分散体の分散油には芳香族成分が多く含まれていることからこのPCBなどの有機ハロゲン化合物とナトリウムとの反応性を高めることができ、より処理効率を向上させ得る。
また、脱ハロゲン化処理後にPCBなどの有機ハロゲン化合物が残留するおそれを低減させうる。
すなわち、本実施形態においては、処理効率に優れた脱ハロゲン化処理を実施させ得る。
【0035】
なお、脱ハロゲン化処理後の被処理物とナトリウム分散体との混合物は、PCB残留濃度が所定値以下であることが確認された場合には、この混合物と大量の水とを混合して、前記混合物中に残留しているナトリウム粒子(金属ナトリウム)を水と反応させる水和処理を実施して反応性を低下させることで安全に後処理を実施させることができる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(ナトリウム分散体の製造1:実施例1〜4、比較例1〜3)
縦長円筒形状を有し、この円筒形状の中心軸に沿って設けられた回転軸と、該回転軸に多段に取り付けられた攪拌翼とを有し、さらにバッフルが内部に備えられている高速攪拌機に表1に示す分散油(約6kg)とナトリウム(約2kg)とを導入して、前記攪拌翼を7000rpmの速度で回転させて30分間攪拌しナトリウム濃度約25重量%のナトリウム分散体を作製した。
なお、温度などといった、用いる分散油以外の製造条件は、各実施例、比較例とも共通にしてナトリウム分散体の製造を実施した。
そして、得られたナトリウム分散体中のナトリウム粒子の平均粒子径を以下のようにして測定した。
【0038】
(ナトリウム粒子の平均粒子径の測定)
まず、常温のナトリウム分散体における無作為に選定した縦0.29mm×横0.38mmの範囲を、光学顕微鏡を用いて200倍に拡大して観察し、目視にて視認可能な粒子すべてについて、その投影面積を測定する。
このナトリウム粒子の投影面積と同じ面積を持つ真円の直径を計算により求め、得られた直径の3乗を合計しこれを粒子数で除した値の立方根(3乗根)を平均粒子径として求める。
なお、本明細書においては、特段の記載がない限り、「平均粒子径」との用語は、上記測定方法により測定されたものを意図している。
【0039】
上記平均粒子径測定方法により、実施例1〜4、比較例1〜3のナトリウム分散体の平均粒子径を測定した結果を表2に示す。
【0040】
(ナトリウム分散体の製造2:実施例5〜8、比較例4〜6)
30分の攪拌を2回、合計60分攪拌を実施した以外は「ナトリウム分散体の製造1」と同様にナトリウム分散体を製造し、その平均粒子径を測定した。
結果を併せて表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
この表2の結果から、芳香族成分を3重量%以上含有した分散油は、ナトリウム粒子の微細化に効果を奏することがわかる。
また、芳香族成分含有量が11重量%を超える分散油5を用いた場合、特にナトリウム粒子の微細化に有効であることもわかる。
【0044】
(ナトリウム分散体の製造3:分散剤の効果:実施例9〜21、比較例7〜9)
(実施例9)
攪拌時間を25分とした以外は実施例1と同様に実施例9のナトリウム分散体を製造した。
(実施例10〜15)
また、使用する分散油(約6kg)中に表3に示す割合でトリオレイン酸ソルビタン(分散剤)を含有させたこと以外は実施例9と同様に実施例10〜15のナトリウム分散体を製造した。
(実施例16)
分散油を表1の分散油5とした以外は実施例9と同様に実施例16のナトリウム分散体を製造した。
(実施例17〜21)
使用する分散油(約6kg)中に表3に示す割合でトリオレイン酸ソルビタン(分散剤)を含有させたこと以外は実施例16と同様に実施例17〜21のナトリウム分散体を製造した。
(比較例7〜9)
分散油を表1の分散油3とした以外は実施例13〜15と同様に比較例7〜9のナトリウム分散体を製造した。
これらのナトリウム分散体の平均粒子径を求めた結果を、併せて表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
この表3からも、芳香族成分を3重量%以上含有した分散油を用いることで、微細なナトリウム粒子が含有されたナトリウム分散体を製造し得ることがわかる。
また、トリオレイン酸ソルビタンを分散油に含有させることにより、ナトリウム分散体の製造時間を短縮させ得ることがわかる。
特に、トリオレイン酸ソルビタンを0.05重量%以上含有させることにより、ナトリウム分散体に含有されるナトリウム粒子を短時間で限界に近い細かさに形成させうることがわかる。
【0047】
(ナトリウム分散体の製造4:脱ハロゲン化性能評価:実施例22〜26、比較例10)
縦長円筒形状を有し、この円筒形状の中心軸に沿って設けられた回転軸と、該回転軸に多段に取り付けられた攪拌翼とを有し、さらにバッフルが内部に備えられている高速攪拌機に表1に示す分散油1(約6kg)とナトリウム(約2kg)とを導入して攪拌を実施し、下記表4に示す平均粒子径のナトリウム粒子が、下記表4に示す濃度で含有されているナトリウム分散体(実施例22)を作製した。
また、オレイン酸と分散油1とを含む分散油を用い、その他の条件を調整して、実施例22と同じ攪拌装置で下記表4に示す平均粒子径のナトリウム粒子が、下記表4に示す濃度で含有されているナトリウム分散体(実施例23)を作製した。
また、分散油5を用い、その他の条件を調整して、実施例22と同じ攪拌装置で下記表4に示すような三種類のナトリウム分散体(実施例24〜26)を作製した。
さらに、分散油3を用い、その他の条件を調整して、実施例22と同じ攪拌装置で下記表4に示す平均粒子径のナトリウム粒子が、下記表4に示す濃度で含有されているナトリウム分散体(比較例10)を作製した。
【0048】
【表4】

【0049】
この実施例22〜26のナトリウム分散体と比較例10のナトリウム分散体をノルマルパラフィン(ジャパンエナジー社製「NS100」)、イソプロピルアルコール(IPA)とともにPCBと下記表5に示す“塩素”、“ナトリウム”比となるように表5に示す配合割合で混合し、該混合物を115℃で3時間反応させた後の残留PCB濃度を測定した。
結果を併せて表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
この表5におけるNo.6、7の結果からもナトリウム粒子が微細であるほど脱ハロゲン化効率に優れていることがわかる。
また、No.3、No.4の結果の比較から、同程度の平均粒子径のナトリウム粒子が含有されている場合であっても、分散油に芳香族成分を多く含むものが用いられている方がPCBの残留量が低減されており、脱ハロゲン化処理の処理効率に優れていることがわかる。
【0052】
(ナトリウム分散体の製造5:脱ハロゲン化性能評価:実施例27〜29、比較例11〜13)
これまでと同様に、表1に分散油1として示されている分散油約6kgにナトリウム約2kgを分散させて、ナトリウム濃度が約25重量%で、平均粒子径5μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(実施例27)、平均粒子径7μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(実施例28)、平均粒子径10μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(実施例29)をそれぞれ製造した。
【0053】
また、表1の分散油3にトリオレイン酸ソルビタンを1.0重量%の割合で含有させた分散油約6kgとナトリウム約2kgを用いて、ナトリウム濃度が約25重量%で、平均粒子径3.7μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(比較例11)を作製した。
また、表1の分散油3にトリオレイン酸ソルビタンを0.5重量%の割合で含有させた分散油約6kgとナトリウム約2kgを用いて、ナトリウム濃度が約25重量%で、平均粒子径7.7μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(比較例12)を作製した。
さらに、表1の分散油3にトリオレイン酸ソルビタンを0.2重量%の割合で含有させた分散油約6kgとナトリウム約2kgを用いて、ナトリウム濃度が約25重量%で、平均粒子径6.5μmのナトリウム粒子が分散されているナトリウム分散体(比較例13)を作製した。
【0054】
これらの実施例27〜29、比較例11〜13のナトリウム分散体を(塩素:ナトリウム)のモル比で(1:2)となるように予めPCB油を蓄えた反応槽内に攪拌下で30分間かけて滴下し、滴下後、該混合物を攪拌下で1時間30分保持しつつ脱ハロゲン化処理を実施し、残留するPCB濃度を測定した。
ただし、ここでの脱ハロゲン化処理については、イソプロピルアルコール(IPA)などの水素供与体を用いずに、PCBのビフェニル骨格を重合化させる脱ハロゲン化処理を実施した。
なお、反応温度は160〜170℃となるように制御した。
【0055】
実施例27〜29、ならびに、比較例13のナトリウム分散体については、それぞれ5回ずつの脱ハロゲン化処理を実施して残留するPCB濃度を測定した。
また、比較例11、12については、それぞれ3回ずつの脱ハロゲン化処理を実施して残留するPCB濃度を測定した。
結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
この表6における、平均粒子径の近似したナトリウム分散体を用いた、No.12とNo.15、No.16の結果からも、芳香族成分を多く含有する分散油が用いられたナトリウム分散体の方が、優れた脱ハロゲン化性能を有しており、分散油中の芳香族成分が脱ハロゲン化に有用に寄与していることがわかる。
【0058】
(ナトリウム分散体の製造6:実機製造品評価:実施例30〜33)
特開2007−224360に記載されているような、互いに連結された複数のローター/ステーター型攪拌装置を有し、1バッチで数m3の量のナトリウム分散体を製造し得る製造装置(以下「実機」ともいう)を用いてナトリウム分散体を製造した。
分散油としては、表1に分散油1として示したものを用いた。
この実機を120分間運転させて平均粒子径11.4μmのナトリウム粒子を含有するナトリウム分散体(実施例30)を作製した。
また、実機を150分間運転させて平均粒子径9.8μmのナトリウム粒子を含有するナトリウム分散体(実施例31)を作製した。
また、実機を240分間運転させることにより平均粒子径7.3μmのナトリウム粒子を含有するナトリウム分散体(実施例32)を作製した。
さらに、実機を240分間運転させることにより平均粒子径4.9μmのナトリウム粒子を含有するナトリウム分散体(実施例33)を作製した。
以上のように、実機においても、平均粒子径の小さいナトリウム粒子が含有されたナトリウム分散体を製造し得ることが確認できた。
【0059】
この内、実施例30(平均粒子径11.4μm)、実施例32(平均粒子径7.3μm)のナトリウム分散体については、PCBの脱ハロゲン化処理に用いる評価を実施した。
なお、評価は、「ナトリウム分散体の製造4」と同様に、ナトリウム分散体を、ノルマルパラフィン(ジャパンエナジー社製「NS100」)、イソプロピルアルコール(IPA)とともにPCBと下記表7に示す“塩素”、“ナトリウム”比となるように表7に示す配合割合で混合し、該混合物を115℃で3時間反応させた後の混合物の残留PCB濃度の測定により実施した。
結果を表7に併せて示す。
【0060】
【表7】

【0061】
(ナトリウム分散体の製造7:実機製造品評価:実施例34〜37)
表1の分散油1にトリオレイン酸ソルビタンが0.05重量%となる割合で含有された分散油とナトリウムとを「ナトリウム分散体の製造6」で用いたものと同じ実機に導入して、ナトリウム濃度が約25重量%で、ナトリウム粒子の平均粒子径がそれぞれ、5.0μm(実施例34)、6.0μm(実施例35)、7.2μm(実施例36)、9.8μm(実施例37)のナトリウム分散体を製造した。
【0062】
この実機により製造された実施例34〜37のナトリウム分散体を用いてPCBの脱ハロゲン化処理を実施した。
この脱ハロゲン化処理方法としては、実施例34〜36のナトリウム分散体を(塩素:ナトリウム)のモル比で(1:2)となるようにして用いて「ナトリウム分散体の製造5」において実施例27〜29などについて実施した方法で実施した。
また、併せて、実施例36、37のナトリウム分散体を(塩素:ナトリウム)のモル比で(1:2.8)となるようにして「ナトリウム分散体の製造4」において実施例22〜26実施例などについて実施した方法(以下「SP法」ともいう)でも脱ハロゲン化処理を実施した。
なお、実施例34〜36のナトリウム分散体についての脱ハロゲン化処理については、各5回ずつ脱ハロゲン化処理を実施し、実施例36、37のナトリウム分散体についての脱ハロゲン化処理(SP法)については各1回の脱ハロゲン化処理を実施した。
これらの脱ハロゲン化処理後の残留PCB濃度を測定した結果を表8に示す。
【0063】
【表8】

【0064】
この表8からは、本発明にかかるナトリウム分散体は、脱ハロゲン化の方法の違いによらず、PCBなどの有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化処理に有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体であって、
前記分散油中には芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることを特徴とするナトリウム分散体。
【請求項2】
ナトリウムと分散媒とをナトリウムの融点以上の温度で攪拌することにより前記分散媒中に前記ナトリウムを粒子状に分散させてナトリウム分散体を製造するナトリウム分散体製造方法であって、
前記分散媒として、芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されている分散油を用いることを特徴とするナトリウム分散体製造方法。
【請求項3】
前記分散油には、オレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、アマニ油のいずれかが0.005重量%以上、0.5重量%以下含有されている請求項2記載のナトリウム分散体製造方法。
【請求項4】
有機ハロゲン化合物を含む被処理物と、ナトリウム粒子が分散油中に分散されているナトリウム分散体とを接触させることにより、有機ハロゲン化合物とナトリウムとを反応さて脱ハロゲン化させる脱ハロゲン化処理方法であって、
前記ナトリウム分散体の分散油には芳香族成分が3重量%〜20重量%のいずれかの割合で含有されていることを特徴とする脱ハロゲン化処理方法。

【公開番号】特開2009−102678(P2009−102678A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273629(P2007−273629)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】