説明

ナトリウム精製用電解槽

【課題】電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができるナトリウム精製用電解槽を提供する。
【解決手段】不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを収容する電解槽本体110に、開口面積が0.25〜4mmの範囲内の貫通孔を複数有し、開口面積率が50%以上の分離部材120,130を設ける。分離部材120,130は、不純物含有ナトリウムを収容する空間と電解液を収容する空間との間、および電解液を収容する空間と精製ナトリウムを収容する空間との間の少なくとも一方に配置される。分離部材を設置することで、不純物含有ナトリウムと電解液の界面と、電解液と精製ナトリウムの界面とを対向させることができる。その結果、これらの界面の一部分に電流が集中することがなくなり、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物含有ナトリウムを電解精製して精製ナトリウムを製造する際に用いられる、ナトリウム精製用電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム硫黄電池は、正極に硫黄を、負極にナトリウムを、電解質にβアルミナを使用した二次電池である。ナトリウム硫黄電池は、電力貯蔵用の電池として注目されており、数多く製造されている。これに伴い、使用済みナトリウム硫黄電池が今後大量に発生することが予想されるため、使用済みナトリウム硫黄電池に含まれるナトリウムなどの有用資源を再利用する技術を開発することが求められている。
【0003】
使用済みナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムには、鉄や硫黄、カルシウムなどの不純物の混入が考えられる。したがって、使用済みナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムを再利用するためには、これらの不純物を除去する必要がある。
【0004】
近年、不純物含有ナトリウムから高純度のナトリウムを精製する方法として、電解液を用いた電解精製法が提案されている。たとえば、特許文献1には、不純物含有ナトリウムを陽極とし、アルミニウムのハロゲン化物(AlCl)およびアルカリ金属のハロゲン化物(NaClまたはKCl)からなる溶融塩を電解液として電気分解を行い、高純度のナトリウムを陰極上に析出させる方法が記載されている。また、特許文献2には、不純物含有ナトリウムを陽極とし、カーボネート系有機溶媒(炭酸エチレンまたは炭酸プロピレン)およびナトリウム塩(NaPFなど)からなる溶液を電解液として電気分解を行い、高純度のナトリウムを陰極上に析出させる方法が記載されている。
【0005】
図1は、特許文献1,2に記載の方法で用いられる電解槽の構成を示す模式図である。図1に示されるように、電解槽本体10の内部に、不純物含有ナトリウム30、電解液40および精製ナトリウム50が収容されている。不純物含有ナトリウム30および精製ナトリウム50は、電解液40上に浮上しており、絶縁体からなる隔壁20によって互いに隔離されている。不純物含有ナトリウム30は陽極として機能し、精製ナトリウム50は陰極として機能する。
【0006】
図1に示されるように、特許文献1,2に記載の方法では、陽極において、不純物含有ナトリウムに含まれるナトリウムのみがナトリウムイオンとなって電解液に溶出し、その他の多くの不純物は不純物含有ナトリウム中に残存する。一方、陰極では、電解液に含まれるナトリウム(ナトリウムイオン)のみが陰極の表面に析出する。その結果、不純物含有ナトリウムから高純度のナトリウムを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−285728号公報
【特許文献2】特開2010−013673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図1に示される従来の電解槽では、電解精製を行う際に電流密度を高めにくいという問題がある。すなわち、図2Aに示されるように、従来の電解槽を用いて電解精製を行うと、不純物含有ナトリウム30と電解液40の界面と、電解液40と精製ナトリウム50の界面とが対向していないため、これら2つの界面の一部分のみに電流が集中してしまうおそれがある。また、このような状況において低温で電解精製を行うと、図2Bに示されるように、不純物含有ナトリウム30(陽極)と精製ナトリウム50(陰極)とが短絡してしまうおそれもある。したがって、従来の電解槽を用いた電解精製では、安全性の観点から電流密度を高めることが困難であった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができるナトリウム精製用電解槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、不純物含有ナトリウム(陽極)と電解液との間、および/または電解液と精製ナトリウム(陰極)との間に貫通孔を複数有する分離部材を配置して、上記2つの界面を対向させることで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のナトリウム精製用の電解槽に関する。
[1]不純物含有ナトリウムを電解精製して精製ナトリウムを製造する際に用いられるナトリウム精製用電解槽であって:不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを収容する電解槽本体と、開口面積が0.25〜4mmの範囲内の貫通孔を複数有し、開口面積率が50%以上である分離部材とを有し;前記分離部材は、前記電解槽本体内において、前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間の少なくとも一方に配置される、ナトリウム精製用電解槽。
[2]前記分離部材は、前記電解槽本体内において、前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間の両方に配置される、[1]に記載のナトリウム精製用電解槽。
[3]前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間に配置される前記分離部材、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間に配置される前記分離部材は、互いに平行に配置される、[2]に記載のナトリウム精製用電解槽。
[4]前記分離部材は、目開きが0.5〜2.0mmの範囲内の鉄製金網である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のナトリウム精製用電解槽。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナトリウム精製用電解槽を用いれば、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができる。したがって、本発明のナトリウム精製用電解槽を用いれば、より安全かつ高速に精製ナトリウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のナトリウム精製用電解槽の構成を示す断面図である。
【図2】図2Aは、従来のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行う際の電流分布を示す模式図である。図2Bは、従来のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行った際に陽極と陰極とが短絡した様子を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1のナトリウム精製用電解槽の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1のナトリウム精製用電解槽の使用状態を示す断面図である。
【図5】図5Aは、実施の形態1のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行った際にナトリウムが精製される様子を示す模式図である。図5Bは、実施の形態1のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行った際の電流分布を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態2のナトリウム精製用電解槽の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2のナトリウム精製用電解槽の使用状態を示す断面図である。
【図8】図8Aは、実施の形態2のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行った際にナトリウムが精製される様子を示す模式図である。図8Bは、実施の形態2のナトリウム精製用電解槽を用いて電解精製を行った際の電流分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のナトリウム精製用電解槽は、不純物含有ナトリウムを電解精製して精製ナトリウムを製造する際に用いられる電解槽である。ここで「不純物含有ナトリウム」とは、鉄や硫黄、カルシウムなどの不純物を含む、ナトリウムを主成分とする組成物を意味する。また、「精製ナトリウム」とは、前述の不純物含有ナトリウムよりも不純物の含有率が低い、ナトリウムを主成分とする組成物を意味する。
【0015】
本発明のナトリウム精製用電解槽は、電解槽本体および分離部材を有する。本発明のナトリウム精製用電解槽は、電解槽本体内に分離部材を設置している点を一つの特徴とする。以下、各構成要素について説明する。
【0016】
電解槽本体は、液体の不純物含有ナトリウム、電解液および液体の精製ナトリウムを収容する絶縁性の容器である。後述するように、不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムは、それぞれ電解槽本体内の異なる空間に収容される。このとき、不純物含有ナトリウムは、電解液には接触するが精製ナトリウムには接触しないように収容される。また、精製ナトリウムは、電解液には接触するが不純物含有ナトリウムには接触しないように収容される。不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムは、水平方向に隣接してもよいし(実施の形態1参照)、垂直方向に隣接してもよい(実施の形態2参照)。
【0017】
電解槽本体の材料は、電解精製時の温度に耐えうる耐熱性を有し、ナトリウムおよび電解液と反応せず、かつ絶縁性のものであれば特に限定されない。たとえば、電解槽本体として、ポリテトラフルオロエチレン製の容器やアルミナセラミックス製の容器などを用いることができる。
【0018】
分離部材は、電解槽本体内において、液体ナトリウム(不純物含有ナトリウムまたは精製ナトリウム)を収容する空間と電解液を収容する空間との間に配置される、複数の貫通孔を有する板状部材である。分離部材は、液体ナトリウムと電解液との間の接触を確保しつつ、液体ナトリウムと電解液とを分離する。
【0019】
分離部材は、不純物含有ナトリウムを収容する空間と電解液を収容する空間との間、および電解液を収容する空間と精製ナトリウムを収容する空間との間の一方に配置されてもよいし(実施の形態2参照)、両方に配置されてもよい(実施の形態1参照)。いずれの場合であっても、不純物含有ナトリウムと電解液との界面と、電解液と精製ナトリウムの界面とが対向するように、分離部材は配置される。このようにすることで、これらの界面の一部分のみに電流が集中するのを防ぐことができる。
【0020】
分離部材は、液体ナトリウムと電解液とが接触するための貫通孔を複数有する。貫通孔の形状は、液体ナトリウムと電解液とが接触することができれば特に限定されない。複数の貫通孔の形状は、すべて同一であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、1つの貫通孔が途中で分岐してもよいし、2つの貫通孔が途中で合流していてもよい。
【0021】
各貫通孔の開口面積は、0.25〜4mmの範囲内が好ましい。ここで「貫通孔の開口面積」とは、その貫通孔の中で一番細い部分の断面積を意味する。貫通孔の開口面積が4mm超の場合、電解精製中に液体ナトリウムが貫通孔を通って反対側に移動してしまうおそれがある。また、貫通孔の開口面積が0.25mm未満の場合、貫通孔が目詰まりしてしまい、電解精製を行うことができなくなるおそれがある。一方、貫通孔の開口面積が0.25〜4mmの範囲内の場合は、液体ナトリウムと電解液とを分離しつつ、液体ナトリウムと電解液とを接触させることができる(参考実験参照)。
【0022】
また、分離部材の開口面積率は、50%以上であることが好ましく、大きいほどより好ましい。ここで「分離部材の開口面積率」とは、分離部材を平面視したときの面積に対する、すべての貫通孔の開口面積の合計値の割合を意味する。開口面積率が50%未満の場合、液体ナトリウムと電解液との接触面積が小さくなってしまい、電解精製の効率が低下してしまうおそれがある。たとえば、8〜30メッシュの範囲内で、かつ目開きが0.5〜2.0mmの範囲内のメッシュは、貫通孔の開口面積が0.25〜4mmの範囲内であり、開口面積率が50%以上であるため、分離部材として好適に使用されうる。
【0023】
分離部材の材料は、電解精製時の温度に耐えうる耐熱性を有し、ナトリウムおよび電解液と反応せず、かつ電解精製時にナトリウムより先に電解液に溶出しないものであれば特に限定されない。そのような材料の例としては、ナトリウムと反応せず(合金を作らず)かつナトリウムよりも貴な金属(例えば、鉄やアルミニウム、モリブデン、銅など)や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、セラミックスなどが挙げられる。また、分離部材の形状およびサイズは、液体ナトリウムと電解液との間の接触を確保しつつ、液体ナトリウムと電解液とを分離することができれば特に限定されない。たとえば、分離部材として、鉄製の金網(メッシュ)や、ポリテトラフルオロエチレン製のメッシュ、ポーラスセラミックス製の薄板などを用いることができる。
【0024】
本発明のナトリウム精製用電解槽を用いて精製ナトリウムを製造する手順は、特に限定されない。たとえば、以下の手順により、本発明のナトリウム精製用電解槽を用いて精製ナトリウムを製造することができる。
【0025】
まず、電解槽本体内の所定の空間に、液体の不純物含有ナトリウム、電解液および液体の精製ナトリウムを提供する。これにより、不純物含有ナトリウムと電解液の界面と、電解液と精製ナトリウムの界面とが互いに対向するように、不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムがそれぞれ収容される。
【0026】
不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを提供する順番は、これらが互いに混じり合わないように、分離部材の位置に応じて適宜決定すればよい(実施の形態1,2参照)。電解槽本体内の不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムは、不純物含有ナトリウムおよび精製ナトリウムが凝固しないように適宜加熱される。
【0027】
電解液の種類は、ナトリウムを電解精製することができれば特に限定されない。たとえば、電解液としては、特許文献1,2に記載されている電解液や、TFSIアニオンのナトリウム塩(NaTFSI)とTFSIアニオンの非金属塩との混合物からなるイオン液体(特願2010−096632参照)などが挙げられる。
【0028】
次に、不純物含有ナトリウムを陽極とするために、電源に接続された導電性部材を不純物含有ナトリウムと接触させる。同様に、精製ナトリウムを陰極とするために、前記電源に接続された別の導電性部材を精製ナトリウムと接触させる。導電性部材の材料は、電解精製時の温度に耐えうる耐熱性を有し、ナトリウムと反応しないものであれば特に限定されない。たとえば、導電性部材は、タングステンやモリブデンなどの高融点金属やガラス状カーボンからなる電極棒である。
【0029】
この状態で、陽極(不純物含有ナトリウム)と陰極(精製ナトリウム)との間に直流電圧を印加して電解精製を行う。電極間に印加する電圧は、反応に必要な過電圧以上の電圧であって、かつ陽極においてナトリウムのみがナトリウムイオンとして電解液に溶解する電圧であれば特に限定されない。直流電圧を印加すると、陽極では、不純物含有ナトリウムに含まれるナトリウムがナトリウムイオンとなって電解液に溶出する。一方、陰極では、電解液に含まれるナトリウムイオンがナトリウムとして精製ナトリウムの表面に析出する(特許文献1,2参照)。
【0030】
以上のように、不純物含有ナトリウムからナトリウムを電解液に溶出させるとともに、電解液に含まれるナトリウムを精製ナトリウムの表面に析出させることで、不純物含有ナトリウムから精製ナトリウムを製造することができる。
【0031】
本発明のナトリウム精製用電解槽は、不純物含有ナトリウムと電解液の界面と、電解液と精製ナトリウムの界面とが互いに対向しているため、これらの界面の一部分に電流が集中することがない。したがって、本発明のナトリウム精製用電解槽を用いれば、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができ、精製ナトリウムをより安全かつより早く製造することができる。
【0032】
たとえば、本発明のナトリウム精製用電解槽は、使用済みのナトリウム硫黄電池から回収した鉄や硫黄、カルシウムなどの不純物を含むナトリウムからナトリウムを精製するのに好適である。
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0034】
(実施の形態1)
実施の形態1では、不純物含有ナトリウムを収容する空間と電解液を収容する空間との間、および電解液を収容する空間と精製ナトリウムを収容する空間との間の両方に分離部材を設置した、本発明のナトリウム精製用電解槽について説明する。
【0035】
図3は、実施の形態1のナトリウム精製用電解槽の構成を示す断面図である。図3に示されるように、ナトリウム精製用電解槽100は、電解槽本体110、第1の分離部材120および第2の分離部材130を有する。電解槽本体110内には、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’、電解液を収容する空間150’および精製ナトリウムを収容する空間160’が、水平方向に隣接するように設けられている。
【0036】
電解槽本体110は、不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを収容する絶縁性の容器である。たとえば、電解槽本体110は、ポリテトラフルオロエチレン製の容器やアルミナセラミックス製の容器などである。
【0037】
第1の分離部材120は、電解槽本体110内において、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’と電解液を収容する空間150’との間に設置されている。同様に、第2の分離部材130は、電解槽本体110内において、電解液を収容する空間150’と精製ナトリウムを収容する空間160’との間に設置されている。前述の通り、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’、電解液を収容する空間150’および精製ナトリウムを収容する空間160’は水平方向に隣接するように配置されているため、第1の分離部材120および第2の分離部材130は、電解槽本体110の底面に対して垂直になるように設置されている。また、第1の分離部材120および第2の分離部材130は、互いに平行になるように設置されている。
【0038】
第1の分離部材120および第2の分離部材130は、いずれも開口面積が0.25〜4mmの範囲内の貫通孔を複数有している。第1の分離部材120および第2の分離部材130の開口面積率は、いずれも50%以上である。第1の分離部材120は、不純物含有ナトリウムと電解液との間の接触を確保しつつ、不純物ナトリウムと電解液とを分離している。同様に、第2の分離部材130は、電解液と精製ナトリウムとの間の接触を確保しつつ、電解液と精製ナトリウムとを分離している。たとえば、第1の分離部材120および第2の分離部材130は、鉄製の金網(メッシュ)や、ポリテトラフルオロエチレン製のメッシュ、ポーラスセラミックス製の薄板などである。
【0039】
図4は、実施の形態1のナトリウム精製用電解槽100を用いて精製ナトリウムを製造する様子を示す模式図である。
【0040】
図4に示されるように、精製ナトリウムを製造する際には、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160が、それぞれ所定の空間に収容される。不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160を収容する手順は特に限定されないが、例えば以下の手順により行えばよい。
【0041】
まず、液体の不純物含有ナトリウム140を、電解槽本体110内の一方の端に位置する不純物含有ナトリウムを収容する空間140’に提供する。次いで、液体の精製ナトリウム160を、電解槽本体110内の他方の端に位置する精製ナトリウムを収容する空間160’に提供する。最後に、電解液150を、電解槽本体110内の中央に位置する電解液を収容する空間150’に提供する。前述の通り、第1の分離部材120および第2の分離部材130に形成されている貫通孔の開口面積は4mm以下であるため、電解液150を提供する前であっても、不純物含有ナトリウム140および精製ナトリウム160が貫通孔を通して電解液を収容する空間150に流出することはない。したがって、上記手順により、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160を、それぞれ所定の空間に収容することができる。
【0042】
不純物含有ナトリウム140または精製ナトリウム160と電解液150とを効率よく接触させる観点から、不純物含有ナトリウム140および精製ナトリウム160は液体であることが好ましい。したがって、図4に示されるように、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160は、外部に設けられた加熱部170により加熱されることが好ましい。たとえば、加熱部170は、電解槽本体110の下面および/または側面に配置されたヒーターである。不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160の温度は、使用する電解液150の種類に応じて適宜設定すればよい。たとえば、電解液150として前述のイオン液体(特願2010−096632参照)を使用する場合、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160の温度は、120〜170℃(好ましくは160℃)程度とすればよい。
【0043】
本実施の形態のナトリウム精製用電解槽100を用いて精製ナトリウムを製造する場合、不純物含有ナトリウム140を陽極とし、精製ナトリウム160を陰極とする。したがって、図4に示されるように、電源に接続された導電性部材を不純物含有ナトリウム140に接触させ、同一の電源に接続された別の導電性部材を精製ナトリウム160に接触させる。たとえば、導電性部材は、タングステンやモリブデンなどの高融点金属やガラス状カーボンからなる電極棒である。
【0044】
図5Aに示されるように、不純物含有ナトリウム140を陽極とし、精製ナトリウム160を陰極として直流電圧を印加すると、不純物含有ナトリウム140と電解液150の界面では、不純物含有ナトリウム140に含まれるナトリウムがナトリウムイオンとなって電解液150に溶出する。一方、電解液150と精製ナトリウム160の界面では、電解液150に含まれるナトリウムイオンがナトリウムとして精製ナトリウム160の表面に析出する。したがって、陽極側に不純物含有ナトリウム140を提供し、陰極側で析出した精製ナトリウム160を回収することで、不純物含有ナトリウム140を原料として精製ナトリウム160を製造することができる。
【0045】
本実施の形態のナトリウム精製用電解槽100を用いて精製ナトリウムを製造する場合、不純物含有ナトリウム140と電解液150の界面と、電解液150と精製ナトリウム160の界面とは、互いに平行である。したがって、図5Bに示されるように、これらの界面の一部分に電流が集中することはない。したがって、本実施の形態のナトリウム精製用電解槽100を用いれば、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができる。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2では、不純物含有ナトリウムを収容する空間と電解液を収容する空間との間のみに分離部材を配置した、本発明のナトリウム精製用電解槽について説明する。
【0047】
図6は、実施の形態2のナトリウム精製用電解槽の構成を示す断面図である。図6に示されるように、ナトリウム精製用電解槽200は、電解槽本体210、隔壁220および分離部材230を有する。電解槽本体210内には、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’、電解液を収容する空間150’および精製ナトリウムを収容する空間160’が、垂直方向に隣接するように設けられている。
【0048】
電解槽本体210は、不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを収容する絶縁性の容器である。たとえば、電解槽本体110は、ポリテトラフルオロエチレン製の容器やアルミナセラミックス製の容器などである。
【0049】
隔壁220は、電解槽本体内210内において、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’と電解液を収容する空間150’および精製ナトリウムを収容する空間160’との間に設置されている、絶縁性の板状部材である。隔壁220は、分離部材230のような貫通孔を有しておらず、不純物含有ナトリウムと電解液および精製ナトリウムとを完全に隔離する。たとえば、隔壁220は、ポリテトラフルオロエチレン製の平板やアルミナセラミックス製の平板である。
【0050】
分離部材230は、電解槽本体110内において、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’と電解液を収容する空間150’との間に設置されている。前述の通り、不純物含有ナトリウムを収容する空間140’および電解液を収容する空間150’は垂直方向に隣接するように配置されているため、分離部材230は、電解槽本体210の底面に対して平行になるように設置されている。
【0051】
分離部材230は、開口面積が0.25〜4mmの範囲内の貫通孔を複数有している。分離部材230の開口面積率は50%以上である。分離部材230は、不純物含有ナトリウムと電解液との間の接触を確保しつつ、不純物ナトリウムと電解液とを分離する。たとえば、分離部材230は、鉄製の金網(メッシュ)や、ポリテトラフルオロエチレン製のメッシュ、ポーラスセラミックス製の薄板などである。
【0052】
図7は、実施の形態2のナトリウム精製用電解槽200を用いて精製ナトリウムを製造する様子を示す模式図である。
【0053】
図7に示されるように、精製ナトリウムを製造する際には、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160が、それぞれ所定の空間に収容される。不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160を収容する手順は特に限定されないが、例えば以下の手順により行えばよい。
【0054】
まず、液体の不純物含有ナトリウム140を、電解槽本体110の側壁と隔壁220の間を通して、電解槽本体210内の下部に位置する不純物含有ナトリウムを収容する空間140’に提供する。次いで、電解液150を分離部材230の上に位置する電解液を収容する空間150’に提供する。最後に、液体の精製ナトリウム160を、電解液150の上に位置する精製ナトリウムを収容する空間160’に提供する。前述の通り、分離部材230に形成されている貫通孔の開口面積は4mm以下であるため、不純物含有ナトリウム140の密度が電解液150の密度よりも小さくても、不純物含有ナトリウム140が貫通孔を通して分離部材230の上側に流出することはない。したがって、上記手順により、不純物含有ナトリウム140、電解液150および精製ナトリウム160を、それぞれ所定の空間に収容することができる。このようにすることで、不純物含有ナトリウム140と電解液150の界面と、電解液150と精製ナトリウム160の界面とが対向する(図7参照)。
【0055】
本実施の形態のナトリウム精製用電解槽200を用いて精製ナトリウムを製造する場合、不純物含有ナトリウム140を陽極とし、精製ナトリウム160を陰極とする。したがって、図7に示されるように、電源に接続された導電性部材を不純物含有ナトリウム140に接触させ、同一の電源に接続された別の導電性部材を精製ナトリウム160に接触させる。
【0056】
図8Aに示されるように、不純物含有ナトリウム140を陽極とし、精製ナトリウム160を陰極として直流電圧を印加すると、不純物含有ナトリウム140と電解液150の界面では、不純物含有ナトリウム140に含まれるナトリウムがナトリウムイオンとなって電解液150に溶出する。一方、電解液150と精製ナトリウム160の界面では、電解液150に含まれるナトリウムイオンがナトリウムとして精製ナトリウム160の表面に析出する。したがって、陽極側に不純物含有ナトリウム140を提供し、陰極側で析出した精製ナトリウム160を回収することで、不純物含有ナトリウム140を原料として精製ナトリウム160を製造することができる。
【0057】
本実施の形態のナトリウム精製用電解槽200を用いて精製ナトリウムを製造する場合、不純物含有ナトリウム140と電解液150の界面と、電解液150と精製ナトリウム160の界面とは、互いに平行である。したがって、図8Bに示されるように、これらの界面の一部分に電流が集中することはない。したがって、本実施の形態のナトリウム精製用電解槽200を用いれば、電流密度を高めても安全に精製ナトリウムを製造することができる。
【0058】
[参考実験]
本発明者が分離部材に設けられた貫通孔の好ましい開口面積を特定するために行った予備実験の結果を示す。
【0059】
本実験では、目開きがそれぞれ異なる複数の鉄製メッシュ(分離部材)を準備し、これらのメッシュの貫通孔を液体ナトリウムが通過できるかどうかを調べた。実験結果を表1に示す。ここで「目開き」とは、正方形状の貫通孔の1辺の長さを意味する。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示されるように、目開き3mm(貫通孔1つあたりの開口面積9mm)のメッシュを使用した場合、液体ナトリウムは容易に貫通孔を通過してしまった。この結果から、開口面積9mmの貫通孔を有する分離部材を用いた場合、液体ナトリウム(不純物含有ナトリウムまたは精製ナトリウム)が貫通孔を介して電解液側に移動してしまうことが予想される。したがって、開口面積9mmの貫通孔を有する分離部材は、本発明のナトリウム精製用電解槽の分離部材としては好ましくない。
【0062】
また、目開き0.1mm(貫通孔1つあたりの開口面積0.01mm)のメッシュおよび目開き0.2mm(貫通孔1つあたりの開口面積0.04mm)のメッシュを使用した場合、大きな力を加えなければ液体ナトリウムを通過させることができず、また容易に目詰まりが生じてしまった。この結果から、開口面積0.01〜0.04mmの貫通孔を有する分離部材を用いた場合、電解精製を継続して行うことが困難であると予想される。したがって、開口面積0.01〜0.04mmの貫通孔を有する分離部材も、本発明の電解槽の分離部材としては好ましくない。
【0063】
一方、目開き0.5mm(貫通孔1つあたりの開口面積0.25mm)のメッシュおよび目開き2mm(貫通孔1つあたりの開口面積4mm)のメッシュを使用した場合、そのままでは液体ナトリウムが通過しないが、弱い力を加えることで液体ナトリウムを通過させることができた。この結果から、開口面積0.25〜2mmの貫通孔を有する分離部材を用いた場合、液体ナトリウム(不純物含有ナトリウムまたは精製ナトリウム)が貫通孔を介して電解液側に移動することを抑制しつつ、液体ナトリウムと電解液とを接触させることができると予想される。したがって、開口面積0.25〜2mmの貫通孔を有する分離部材は、本発明のナトリウム精製用電解槽の分離部材として好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
たとえば、本発明のナトリウム精製用電解槽は、使用済みのナトリウム硫黄電池から回収したナトリウムをリサイクルする際に有用である。
【符号の説明】
【0065】
10 電解槽本体
20,220 隔壁
30 不純物含有ナトリウム
40 電解液
50 精製ナトリウム
100,200 ナトリウム精製用電解槽
110,210 電解槽本体
120,130,230 分離部材
140 不純物含有ナトリウム
140’ 不純物含有ナトリウムを収容する空間
150 電解液
150’ 電解液を収容する空間
160 精製ナトリウム
160’ 精製ナトリウムを収容する空間
170 加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物含有ナトリウムを電解精製して精製ナトリウムを製造する際に用いられるナトリウム精製用電解槽であって、
不純物含有ナトリウム、電解液および精製ナトリウムを収容する電解槽本体と、
開口面積が0.25〜4mmの範囲内の貫通孔を複数有し、開口面積率が50%以上である分離部材と、を有し、
前記分離部材は、前記電解槽本体内において、前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間の少なくとも一方に配置される、
ナトリウム精製用電解槽。
【請求項2】
前記分離部材は、前記電解槽本体内において、前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間の両方に配置される、請求項1に記載のナトリウム精製用電解槽。
【請求項3】
前記不純物含有ナトリウムを収容する空間と前記電解液を収容する空間との間に配置される前記分離部材、および前記電解液を収容する空間と前記精製ナトリウムを収容する空間との間に配置される前記分離部材は、互いに平行に配置される、請求項2に記載のナトリウム精製用電解槽。
【請求項4】
前記分離部材は、目開きが0.5〜2.0mmの範囲内の鉄製金網である、請求項1に記載のナトリウム精製用電解槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107290(P2012−107290A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256921(P2010−256921)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(598017217)野村興産株式会社 (10)
【Fターム(参考)】