説明

ナノギャップ電極の製造方法及びこれを用いて製造されたナノギャップ素子

本発明は、ナノギャップ金属電極の製造方法及びこれを用いたナノギャップ素子に関し、本発明による製造方法は、所定形状に形成された金属パターンの表面に、溶液中の金属イオンから還元反応により還元された金属を成長させることを特徴とする。本発明によるナノギャップ金属電極の製造方法は、従来の方法では製造し難い、1〜100nmのギャップを有するナノギャップ電極を容易に製造することができる長所がある。
【代表図】図5a

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノギャップを有する電極を形成する方法に関する。ナノギャップ電極は、1〜100nm程度の間隔を有する電極を意味するもので、最近ナノギャップ電極の製造方法が登場するにつれて、ナノチューブ、ナノ粒子、ナノ線などと、タンパク質、DNAのようなナノメートル水準の大きさを有する物質に対する特性を測定して応用する分野などが速い速度で発展している。
【背景技術】
【0002】
しかしながら、100nm以下のナノギャップは、既存の半導体工程技術を利用する場合、その工程の限界により、製造が非常に難しくなる問題がある。
【0003】
最近、mechanical break junction (C. Zhou, C. J. Muller, M. R. Deshpande, J. W. Sleight, and M. A. Reed, Appl. Phys. Lett. 67, 1160 (1995); R. Reichert, R. Ochs, D. Beckmann, H. B. Weber, M. Mayor, and H. v. Lohneysen, Phys. Rev. Lett. 88, 176804-1 (2002)), electromigration (H. Park, A. K. L. Lim, A. P. Alivisatos, J. Park, and P. L. McEuen, Appl. Phys. Lett. 75, 301 (1999))などにおいて、ナノギャップまたはオングストローム(Å)ギャップを形成する方法が提案されたが、この方法は、1nm内外の非常に狭いギャップを形成する方法として有用なだけで、3〜100nm程度の範囲を有するナノギャップの製作は難しい。また、この方法は、再現性の問題により商用化が難しいばかりか、任意の形状または多重のナノギャップ電極を製造することは不可能である。
【0004】
一方、半導体基板上に、メサ構造(mesa structure)の湿式エッチング(wet-eching)によりナノギャップ電極を形成する方法(R. Krahne, A. Yacoby, H. Shtrikman, I. Bar-Joseph, T. Dadosh, and J. Sperling, Appl. Phys. Lett. 81, 730 (2002))知られているが、上記の方法も同様に、数ナノメートルで離隔された任意の形状または多重の金属ナノギャップ電極に対する、経済的且つ再現性のある製造方法にはなっていない。
【0005】
その他にも、electrodeposition (C. Z. Li, H. X. He, and N. J. Tao, Appl. Phys. Lett. 77, 3995 (2000); A. F. Morpurgo, C. M. Marcus, and D. B. Robinson, Appl. Phys. Lett. 74, 2084 (1999))方法などがあるが、上記の方法も同様に、製作工程が複雑であるばかりか、break junction技術などと同様に、任意の形状または多重のナノギャップの製作が不可能であるという短所がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するために案出されたもので、本発明の目的は、再現性のあるナノギャップ電極を製造する方法を提供することであり、また他の目的は、任意の形状あるいは多重のナノギャップを製作する方法を提供することであり、また、バイオセンサー分野などで使用可能なナノギャップ電極を製造することができる経済的な方法を提供することであって、このような方法により製造されたナノギャップ電極を用いた素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ナノギャップを有する電極を形成する方法に関し、詳細には、 所定形状に形成された金属パターンの表面に、溶液中の金属イオンから還元反応により還元された金属を成長させることを特徴とする。前記金属パターンの表面に金属を成長させる方法は、表面−触媒による化学的成長方法(surface-catalyzed chemical deposition)であって、本発明による方法は、1〜100nmのギャップを有する多重線ナノギャップ電極を、90%以上の高い歩留まりと再現性で製造することができ、特に、製造し難い10nm程度のナノギャップ電極を製造できる方法である。
【0008】
ナノギャップ電極の製造方法は、詳細には、金属イオンの含まれた溶液に、所定形状の金属パターンが形成された基板を浸漬した後、前記溶液に還元剤を加えることにより、金属パターンの表面に、溶液中の金属イオンから還元された金属を成長させることを特徴とする。また、金属イオンの含まれた溶液が満たされた数個の反応槽に、金属パターンが形成された基板を浸漬する段階と、還元剤を加える段階とを繰り返し、金属を成長させることができ、金属イオンの濃度は、反応槽によって、同一にするか、あるいは異なる濃度を有する金属イオン溶液を使用することができる。
【0009】
本発明によるナノギャップ電極の製造方法を、図1を参照して説明すると、所定形状に形成された金属パターン2を使用して、金属パターン2上に、金属イオンの還元反応により金属成長層3を形成する。前記金属パターン2のギャップは、特に限定されないが、50〜500nm程度のギャップであることが好ましく、前記金属パターン2は、基板1上に、電子ビームリソグラフィー、光リソグラフィー、X−rayリソグラフィー、印刷法などから選択される通常の方法により形成することができ、金属パターンは、Au、Ag、Al、Cu、Ptなどである。
【0010】
前記金属パターンは、基板との接着性の向上のために、基板と金属パターンとの間に、Ti、Ni、Crなどから選択される金属接着層(adhesive layer)をさらに設けてもよい。
【0011】
前記金属イオンは、金属パターンとの商用性を考慮し、金属パターンと同一な金属から起因したイオンであることが好ましいが、同一ではない金属イオンを使用することもでき、前記金属イオンは、還元されて導電性を有するものであれば、いかなる金属イオンでも採用可能であって、金属イオンは、HAuCl、AgNO、AuCl、AuCl、AuCl、AuCl、Au(CO)Cl、NaAuCl、CuSOが挙げられ、前記金属イオンを溶解する溶媒としては、水または水と有機溶媒との混合溶媒を使用することができ、1μM〜1mM程度の低濃度が好ましい。
【0012】
一方、金属パターンが形成された基板を、前記金属イオンを含有する溶液内に浸漬した後、還元剤を徐々に加えることにより、前記溶液内の金属イオンが還元され前記金属パターンの表面に析出されて成長しながらナノギャップを形成して、前記還元剤は、金属イオンの還元速度を適宜制御するために、弱い還元剤を使用することが好ましく、ルイス酸または弱いブレンステッド酸を含み、特に、ヒドロキシルアミン(H2NOH)、アスコルビン酸、ブドウ糖、ロッシェル塩、ホルムアルデヒドが挙げられる。
【0013】
本発明によるナノギャップの製造方法は、弱い還元剤と低い金属イオン濃度の条件を採用することにより、溶液上における核形成(nucleation)の可能性をなくし、表面エネルギーの高い金属パターンの表面にのみ選択的に金属が成長するようにする特徴がある。
【0014】
金属パターンの表面で起こる反応式を、ヒドロキシルアミン(H2NOH)を例として説明すると、以下のようである。
【0015】
還元剤であるHNOHがプロトン化された後、金属の表面に吸着され(adsは、金属表面における吸着された状態を意味)、金属パターンの表面でNOに酸化されて、金属イオンは、前記NOが金属パターンの吸着された位置で還元反応により金属として析出され、金属パターンに成長するようになる。


【0016】
本発明によるナノギャップの形成過程は、図1に示されたような成長分布を示し、特に、金属パターンの間に金属の成長が進行されるにつれて、物質移動が阻害され、反応速度(成長速度)が段々遅くなる。ナノギャップ電極の間隙は、金属イオンと還元剤の濃度と反応時間により制御でき、反応時間と反応濃度が増加するほど、ナノギャップ電極の間隙が狭くなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるナノギャップ電極の製造方法は、反応物の濃度と反応時間を制御することにより、再現性があって均一なナノギャップ電極を容易に製造することができる長所があって、特に、バイオセンサー分野などで使用可能な多重ナノギャップ電極を経済的に製造できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例を通じて本発明によるナノギャップの製造方法を説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
SiO基板上に電子線感光剤(ER; Electron-Resist)を塗布して、電子ビームリソグラフィー(electron beam lithgraohy)工程を用いて電子線感光剤パターンを形成した後、金属接着層としてTi 10nmを沈着した後、Au 50nmを沈着し、電子線感光剤を剥離(Lift-off)する通常的な電子ビームリソグラフィー工程を用いて、40nm内外の間隙を有するTi/Au(10nm/50nm)パターンを製作して、次いで、ピラニア(piranha)溶液(H2SO4/30% H2O2=5:1(v/v))に50℃で10分間浸漬した後、超純水で数回洗浄した後、窒素雰囲気で乾燥した。
【0020】
前記金パターンの形成された基板が浸漬された水10mLに、400μM濃度のHAuCl水溶液1mLを加えた後、640μM NHOH水溶液1mLを加え、27.5℃で2分間反応し、前記過程を4回繰り返した。
【0021】
図2は、電子ビームにより形成された金パターンのFESEM写真(a)、及び前記金パターンの表面に形成されたナノギャップ金電極のFESEM写真(b)を示したものである。金属成長前の図2(a)の金パターンのFESEM写真と、図2(a)の実施例1による前記金パターンの表面に形成されたナノギャップ金電極のFESEM写真(b)とを比較してみると、金成長前の40nm程度の間隙が1nm程度に狭くなったことが確認できる。
【0022】
(試験例)ナノギャップの測定
P. Steinmannらの論文(J. Vac. Sci. Technol. B 22, 3178(2004))に記載された数式と実施例1で製造したナノギャップ電極における測定値から、ナノギャップが1nmであることを確認した。
【0023】
図2(b)に示したように、パターン間隙が2nm以下に非常に狭くなった場合、SEMのみではナノギャップを測定することが難しい場合があるが、この時は、電気的な測定値及び下記数学式1で表される数学的計算を用いて間隙を推定することができる。
[数学式1]


【0024】
図3の実線で表示されたI−V曲線は、測定値に対する最小二乗法 (least-square method)により得られたもので、前記I−V曲線は、前記数学式1において、s=1.0nm、Φ=0.8eV及びA=3.0×10−15cmにした時に得られる曲線と一致する。これは、Φ値(barrier height)がほぼ0.8eVであることを記載しているHahnらの論文(Appl. Phys, A:Mater. Sci. Process. 66, S467(1998))と符合するもので、このような結果から、実施例1のナノギャップ電極のナノギャップが1nmであることが確認できる。
【0025】
(実施例2)
SiO基板上に3極にTi/Auパターンを形成したことを除いては、実施例1と同様に進行して、金の成長された3極電極で形成されたナノギャップ電極のFESEM写真を図4に示した。
【0026】
(実施例3)
SiO基板上に100nm内外の間隙と15μmの長さを有する多重線の金パターンを有するように、実施例1と同一な電子線リソグラフィー工程で製作した後、前記金パターンの形成された基板を36μM濃度のHAuCl水溶液11mLに入れて、640μM NHOH水溶液1mLを加えた後、27℃で2分間反応させる過程を4回繰り返し、多重金パターン表面に金を成長させて、多重線ナノギャップ金電極を製造した。
【0027】
図5(a)は、前記実施例3で使用した多重金パターンのFESEM写真(a)であり、図5(b)は、前記多重金パターンの表面に形成されたナノギャップ金電極のFESEM写真(b)である。前記図5(a)をみると、100nm程度の間隙幅を有する金パターンが金パターン表面に金成長をさせた後、30nm程度の均一な幅を維持するナノギャップ電極が形成されたことを確認することができる。
【0028】
図6は、前記実施例と類似した方法により製造した、1mm×1mmの面積内に20,000個に形成されたナノギャップ電極のFESEM写真であって、2nm程度の間隙に製造されたことが確認できる。
【0029】
図7(a)は、40×10に形成されたナノギャップ電極のFESEM写真であり、図7(b)は、前記図7(a)のナノギャップ電極の製造前後のギャップ距離のヒストグラムを示したもので、平均距離42±7.6nmであったパターン間隙が平均距離3.3±1.4nmに狭くなったことを確認することができ、金属パターンの場合、パターン間隙の偏差が±7.6nmであるのに対し、金属層を成長させた後、±1.4nmに小さくなったことから、本発明による製造方法により、非常に均一なナノギャップを製造することができることが分かる。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ナノギャップ電極の製造工程を模式化した図である。
【図2】電子ビームリソグラフィー方法により形成された金パターンのFESEM写真(a)、及び前記金パターンの表面に形成されたナノギャップ金電極のFESEM写真(b)である。
【図3】図2(b)のナノギャップ電極のI−Vグラフである。
【図4】本発明による3極電極に形成されたナノギャップ電極のFESEM写真である。
【図5a】多重金パターンのFESEM写真(a)である。
【図5b】多重金パターンの表面に形成されたナノギャップ金電極のFESEM写真(b)である。
【図6】20,000個に形成されたナノギャップ電極のFESEM写真である。
【図7】40×10に形成されたナノギャップ電極のFESEM写真(a)、及び前記ナノギャップ電極間隙のヒストグラム(b)である。
【符号の説明】
【0031】
1 基板
2 金属パターン
3 金属成長層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に形成された金属パターンの表面に、溶液中の金属イオンから還元反応により還元された金属を成長させることを特徴とするナノギャップ電極の製造方法。
【請求項2】
前記金属パターンは、電子ビームリソグラフィー、光リソグラフィー、X−rayリソグラフィー及び印刷法から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項3】
前記金属パターンと前記金属パターンに成長された金属は、同一なものであることを特徴とする、請求項1に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項4】
前記溶液は、水または水と有機溶媒との混合溶媒を含むことを特徴とする、請求項1に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項5】
前記溶液の金属イオンの濃度は、1μM〜1mMであることを特徴とする、請求項4に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項6】
前記形成されたナノギャップ電極の距離は、1〜100nmであることを特徴とする、請求項1に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項7】
前記金属パターンは、Au、Ag、Al、Cu及びPtから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項8】
金属イオンの含まれた溶液に、所定形状の金属パターンが形成された基板を浸漬した後、前記溶液に還元剤を加えて、金属パターンの表面に、溶液中の金属イオンから還元された金属を成長させることを特徴とする、請求項1または6に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項9】
前記金属イオンの還元は、ヒドロキシルアミン(NH2OH)、アスコルビン酸、ブドウ糖、ロッシェル塩、ホルムアルデヒド及びその混合物から選択される還元剤を前記溶液に加えることによることを特徴とする、請求項8に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項10】
前記金属イオンは、HAuCl、AgNO、AuCl、AuCl、AuCl、AuCl、Au(CO)Cl、NaAuCl及びその混合物から選択されることを特徴とする、請求項1または6に記載のナノギャップ電極の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一つの項に記載の製造方法により製造されたナノギャップ電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−535837(P2009−535837A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509392(P2009−509392)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003053
【国際公開番号】WO2007/126177
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(508179419)コリア リサーチ インスティテュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス (10)
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF STANDARDS AND SCIENCE
【Fターム(参考)】