説明

ナノグラファイト及びHFC−134を組み込んだポリスチレンフォーム

【課題】発泡性ポリマー材料、ナノグラファイト、及び1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含有するポリマーフォーム及びポリマーフォーム製品を提供する。
【解決手段】好ましくは、発泡性ポリマー材料は、アルケニル芳香族ポリマー材料である。発泡体は、発泡製品を調製するのに典型的に用いられる他の従来の発泡剤を含まない。ナノグラファイトは、化学的修飾も或いは表面修飾もされてなく、好ましくは、ナノグラファイトの媒体としても担体としても用いられるポリエチレンアクリル酸メチルコポリマー(EMA)中に配合される。ナノグラファイトは、60%までの充填量でポリマーに配合されていてもよい。更に、ナノグラファイトは、核剤、R値増強剤、赤外減衰剤、潤滑剤、UV吸収剤、及び加工助剤として作用する。本発明の発泡体組成物は、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により製造された従来の押出発泡体と同等か或いはそれより良好なR値を有する押出発泡体を製造する。発泡製品は、従来の押出法により製造されるのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、発泡断熱製品(foam insulating product)、より詳細には、断熱性能を高め且つ熱伝導率を減少させる1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)とナノグラファイトを含有するポリスチレンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂の構造は、様々な用途、例えば、断熱材、断熱構造部材、緩衝材、包装材、吸着剤に有用である。種々の用途における硬質発泡ポリマーボードの有用性は、周知である。例えば、硬質ポリマーフォームボードは、多くの用途において断熱構造部材として用いられている。
押出発泡体は、一般に、ポリマーを所望のいかなる添加剤とも一緒に溶融してポリマー溶融物を生成することにより製造される。発泡剤を適切な温度と圧力でポリマー溶融物と混合して発泡性ゲル混合物を得る。次に、発泡性ゲル混合物を冷却し、減圧ゾーンに押出し、ゲルの発泡と所望の押出発泡体製品の形成が得られる。
押出発泡体製品に用いられる従来の発泡剤としては、クロロフルオロカーボン(CFC)やヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が含まれる。CFCやHCFC双方の発泡剤の利点の一つは、製造過程でポリマー溶融物における溶解性が高いことである。発泡剤がポリマー溶融物と混合される場合、発泡剤溶解性がより高いと粘度の低下が促進する。また、粘度がより低いと、混合のためのエネルギー要求もより低くなる。一方、従来の発泡剤に対する主な欠点は、環境の関心が大きくなるためにCFCやHCFC発泡剤の排除を政府が命じることが世界的に増えていることである。CFCと、多くの他のハロカーボンは、成層圏のオゾン層破壊と地球温暖化を引き起こす能力があるために深刻な地球規模の環境からの脅威として認識されるようになってきた。CFCやHCFCのような化学薬品のオゾン層破壊と地球温暖化の影響は、それぞれオゾン層破壊係数(ODP)と地球温暖化係数(GWP)により測定される。
【0003】
高ODPと高GWPを有する発泡剤からの強制的局面を考慮して、断熱発泡体用途においてより環境にやさしい発泡剤、例えば、ヒドロフルオロカーボン(HFC)やCO2を支持して従来の発泡剤を置き換える動きがあった。HCFCはCO2と比較して優れた遮熱を与えるが、HCFCに存在する塩素は、オゾン層破壊係数を有する。更に、時間が経つにつれて、発泡体におけるクロロフルオロカーボン気相が大気中に放出され、それによって、発泡体の断熱値(insulative value)を低下させ且つ潜在的に地球温暖化係数に関与する。更に、これらの従来にない発泡剤の各々は、選ばれる具体的な発泡剤によっては異なるセルサイズと形態につながる。残念なことに、これらの一般に環境にやさしい発泡剤により製造される発泡体のセルサイズは、小さすぎて発泡製品に許容され得る断熱値を与えず、また、一般に密度がより高くなりより費用のかかる製品になる。
熱伝導率を低下させ且つ発泡製品の断熱値を増加させるために、赤外減衰剤(IAA)、例えば、カーボンブラック、粉末アモルファス炭素、グラファイト、二酸化チタンが、ポリマーフォーム製品の充填剤として用いられた。熱伝導率、kは、単位断面当たりの熱流と厚さ当たりの温度低下との比率として定義される。米国は、式(I)の単位によってkを定義している:
【0004】

【0005】
メートル単位は、式(II)により定義される:

【0006】
熱伝導率(k)を低下させると、所定の厚さに対する断熱性能(insulating capability)が最大になる(即ち、R値を増加させる)。断熱材料による熱伝達は、固体伝導性、ガス伝導性、放射線、又は対流で生じる場合がある。総熱抵抗(R値)は、熱伝達に対する抵抗の基準であり、式(III)によって求められる:
式(III): R=t/k; ここで、t=厚さ
【0007】
種々の用途における硬質発泡ポリマーボードの有用性は、周知である。例えば、硬質ポリマーフォームボードは、多くの用途において断熱構造部材として用いられている。発泡体製品の密度、及び/又は厚さを増加させずに熱伝導性を改善することが望ましい。
以前に、赤外減弱剤を用いて発泡体の断熱値を増加させるか又は維持することが当該技術において試みられた。これらの発泡体のいくつかの例を以下に記載する。
Parkの米国特許第6,417,240号には、シンジオタクチックポリプロピレン(sPP樹脂)と発泡性熱可塑性高分子樹脂のブレンドから調製される発泡体が開示されている。ブレンドされたポリマーフォームが可撓性であり、変形温度が高く、且つ熱可塑性樹脂のみから調製される発泡体について寸法安定性が高いことが主張されている。発泡体に用いられる熱可塑性樹脂としては、押出法によって発泡性である全ての種類の熱可塑性ポリマーが含まれている。限定されない例としては、可撓性ポリオレフィン樹脂、エチレン/酢酸ビニル樹脂、及びアルキル芳香族樹脂、例えば、ポリスチレンが挙げられている。発泡体を調製するのに用いられる発泡剤としては、物理的及び化学的発泡剤を含むすべての種類の発泡剤が含まれている。例としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、及び1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)が挙げられている。必要により、発泡体には、断熱性能を増強するために赤外吸収体、例えば、カーボンブラック、グラファイト、又は二酸化チタンが更に含まれてもいてもよい。
【0008】
Parkの米国特許公開第2001/0036970号には、ポリマーに音の吸収が高く、熱伝導性が低く且つ通常は吸水性が低いというバランスが良好な発泡体が教示されている。ポリマーフォームマトリックスは、必要により、セルサイズ拡大剤、抗酸化剤、カーボンブラック及び/又は難燃添加剤を含有していてもよい熱可塑性発泡体から製造されることが好ましい。発泡剤として、好ましくはイソブタンのような揮発性有機化合物が用いられている。しかしながら、発泡体を製造するのに有効な別の発泡剤としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、及び1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)が挙げられている。ポリマーフォームに用いるのに適した熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリオレフィン樹脂、及びエチレン-スチレンインターポリマー(ESI)樹脂とポリオレフィン樹脂とのブレンドが挙げられている。無機充填剤、核剤(例えば、タルク)、UV吸収剤、加工助剤、押出助剤、及び難燃剤のような種々の添加剤が発泡体に組み込まれていてもよい。更に、断熱性能を増強するために発泡体中に赤外吸収体、例えば、カーボンブラック、グラファイト、又は二酸化チタンが含まれていてもよい。
【0009】
Lohなどの米国特許公開第2001/0036970号には、発泡体製品の物理的特性を改善するプロセス添加剤として多層状ナノグラファイトを含有する押出ポリスチレンフォームが開示されている。ナノグラファイトは、好ましくは、グラファイト端にカルボキシル官能基やフェノールヒドロキシル官能基を導入するために化学的に処理されている。硬質密閉セルポリマー発泡ボードは、多層状ナノグラファイト、少なくとも一つの発泡剤、及び他の添加剤と共に押出法により形成されている。発泡体には、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエーテルアミン等の熱可塑性材料が挙げられる、ポリマーフォームを製造するのに適切ないかなる材料も含まれている。発泡体に含まれる好ましい熱可塑性ポリマーは、アルケニル芳香族ポリマー材料、例えば、ポリスチレンである。発泡体を調製するのに用いられる発泡剤としては、物理的及び化学的発泡剤を含むすべての種類の発泡剤が含まれている。例としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)が挙げられている。発泡体は断熱(R値)が改善されていることが主張されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
赤外減衰剤を用いて断熱特性を改善する以前の試みにもかかわらず、従来の押出ポリスチレンフォームの正の物理的性質を維持し且つ断熱値(R値)の高い発泡体製品を与える押出ポリマーフォームを達成することが当該技術において依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、発泡性ポリマー材料、ナノグラファイト、及び1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含む組成物を提供することである。発泡体は、発泡製品を調製するのに典型的に用いられる従来の他の発泡物質を含まない。更に、発泡体は、発泡体又は発泡体製品に所望の性質又は特性を与える従来の発泡体組成物及び/又は発泡体製品に典型的に含まれる添加剤を含まなくてもよい。好ましくは、発泡性ポリマー材料は、アルケニル芳香族ポリマー材料、例えば、ポリスチレンである。ナノグラファイトは、化学的修飾も或いは表面修飾もされてなく、望ましくは、ナノグラファイトの媒体としても担体としても用いられるポリエチレンアクリル酸メチルコポリマー(EMA)に配合される。ナノグラファイトは、核剤、R値増強剤、赤外減衰剤、潤滑剤、UV吸収剤、加工助剤、及び着色剤として作用する。ナノグラファイトは、核剤として作用し、タルクのような従来の核剤を含む必要を排除する。発泡性ポリマー材料は、全組成物の80%〜99乾燥質量%の量で組成物中に存在してもよく、1,1,2,2-テトラフルオロエタンは、全組成物の3.0〜12乾燥質量%の量で組成物中に存在してもよく、ナノグラファイトは、全組成物の0.05〜5.0乾燥質量%の量で組成物中に存在してもよい。
本発明の他の目的は、発泡性ポリマー材料、発泡剤としての1,1,2,2-テトラフルオロエタン、及びナノグラファイトからなる組成物を有する成形された押出ポリマーフォームを含むポリマーフォーム断熱製品(insulative product)を提供することである。発泡性ポリマー材料は、好ましくはアルケニル芳香族ポリマー材料、例えば、ポリスチレンである。発泡体は、平均密度が21.6kg/m3〜56.1kg/m3 (1.35lbs/ft3〜3.5lbs/ft3)でセルサイズが50ミクロン〜400ミクロン(0.050mm〜0.40mm)の実質的に密閉されたセルの発泡体であり、これは発泡体を断熱に対して特に有用にする。更に、密閉セル構造は、形成された発泡断熱製品(foamed insulation product)のR値を増加させるのを援助する。R値/インチは、4.5〜5.8であってもよい。発泡体製品の断熱値は、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により製造される従来の押出発泡体製品と同等か或いはそれより良好である。
【0012】
本発明の目的は、更に、発泡製品を製造する方法を提供することである。本発明の発泡製品は、当業者に既知のいかなる方法によっても調製することができるが、好ましくは従来の押出法又はバッチ法により製造される。押出法において、ポリマー(例えば、ポリスチレン)、変性されていないナノグラファイト(ポリエチレンアクリル酸メチルコポリマーに配合されているか又は配合されていない)を、所望される場合には添加剤と共に、ポリマー(ポリマー群)を溶融するのに充分な第一温度に加熱し、混合して、溶融ポリマー材料を形成する。次に、発泡剤、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を、第一圧力下で溶融ポリマー材料に添加して、通常は発泡剤を溶融ポリマー材料に均一に分散させ且つ溶融ポリマー材料の前発泡を防止しつつ発泡剤と溶融ポリマー材料の完全な混合を可能にする。次に、発泡性ゲルを第二温度(即ち、ダイ溶融温度)に冷却し、減圧(第二圧力)のゾーンに押出し、ゲルの発泡と所望の押出発泡体製品の形成が得られる。減圧ゾーンは、ダイを通って押出される前に発泡性ゲルが維持される圧力より低い圧力である。より低い圧力は、大気圧より高い、大気圧、又は大気圧未満(即ち、減圧)であってもよいが、好ましくは大気圧未満である。
発泡製品は、バッチ法により製造されてもよい。バッチ法において、分離した樹脂粒子とナノグラファイト、例えば、粒状樹脂ペレットを液状媒体に懸濁する。樹脂ペレットは、懸濁媒体を形成するために液状媒体に実質的に不溶であることが望ましい(即ち、樹脂ペレットを含有する液状媒体)。好ましい実施態様において、液状媒体は水である。次に、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を液状媒体にオートクレーブ又は他の圧力容器内で高圧高温で導入することによって懸濁媒体に1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含浸させる。次に、ビーズ内に充分なレベルの発泡剤を維持する試みとして懸濁媒体を冷却する。次に、これらのビーズを金型に充填し、再加熱し、所定の形状に発泡して、最終発泡製品を形成することができる。
【0013】
本発明の利点は、ナノグラファイトが核剤として作用し、タルクのような従来の核剤を含む必要を排除することである。
本発明の他の利点は、本発明のナノグラファイト発泡体がフォームボードの経年熱抵抗(R値)を増加させることである。
本発明の利点は、また、本発明の組成物が、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により製造される従来の押出発泡体製品と同等か或いはそれより良好である断熱値を有する押出発泡体製品を製造することである。
本発明の他の利点は、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)とナノグラファイトを用いて形成される押出発泡体製品が1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により形成される押出発泡体製品より25〜30質量%少ない発泡剤を用いることである。
本発明の利点は、更に、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)がポリマー溶融物に非常に可溶性であり、結果として、他のヒドロフルオロカーボン、例えば、HFC-134a、HFC-32、及びHFC-227eaと比較してプロセスダイ圧力が低下することである。
本発明の他の利点は、発泡剤として1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)の使用によって引き起こされるプロセスダイ圧力の低下が、プロセス作動窓を増加させることである。
【0014】
本発明の他の利点は、ナノグラファイトが火炎拡散を減少させるような防火性能を改善するのを援助し、厳しい火災要件を満たすために援助することである。
本発明の特徴は、ナノグラファイトが核剤、R値増強剤、赤外減衰剤、潤滑剤、UV吸収剤、加工助剤、及び着色剤として作用することである。
本発明の他の特徴は、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)が不燃性であり、共発泡剤を必要としないことである。
本発明の他の特徴は、ナノグラファイトが静電気を減少させ、発泡工程での潤滑を与えることである。
本発明の他の特徴は、本発明の発泡性組成物の地球温暖化係数が小さく且つオゾン層破壊係数がゼロであることである。
本発明の特徴は、また、本発明の組成物におけるナノグラファイト封入が発泡体の酸素指数値を改善することである。
本発明の前述及び他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明の検討から以後更に完全にわかってくる。しかしながら、図面が具体的な説明のためのものであり、また、本発明の範囲を定義するものとして解釈すべきでないことは、特に理解されるべきである。
本発明の利点は、本発明の以下の詳細な開示を検討する際に、特に添付の図面と共に用いる場合に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、HCFC-142b及びHFC-134を用いて製造された押出フォームボードのR値と密度の比較を示すグラフである。
【図2】図2は、11wt%のHCFC-142bを用いて製造された押出フォームボードのR値に関するナノグラファイトの影響を示すグラフである。
【図3】図3は、7.5wt%のHFC-134を用いて製造された押出フォームボードのR値に関するナノグラファイトの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に定義されない限り、本明細書に用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似した又は等価ないかなる方法及び材料も本発明の実施又は試験において使用し得るが、好ましい方法及び材料を本明細書に記載する。本明細書に公開された又は対応する米国又は外国での特許出願、発行された米国又は外国での特許、及び他のいかなる文献をも含むすべての引用文献は、それぞれ、すべてのデータ、表、図、及び引用された文献に示される本文を含む、全体として本願明細書に含まれるものとする。
【0017】
本発明は、赤外減衰剤及びプロセス添加剤としてナノグラファイト及び発泡剤として1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含有するポリマーフォーム及びポリマーフォーム製品、例えば、押出又はポリスチレンフォームに関する。特に、本発明の発泡体は、発泡性ポリマー材料、ナノグラファイト、及び1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含有する。発泡体は、発泡製品を調製するのに典型的に用いられる他の従来の発泡物質を含まない。更に、発泡体は、発泡体又は発泡体製品に所望の性質又は特性を加えるために従来の発泡体組成物及び/又は発泡体製品に典型的に含まれる添加剤を含まなくてもよい。本発明の発泡体組成物は、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により製造される従来の押出発泡体以上の断熱値(R値)を有する押出発泡体を与える。特に、発泡体組成物は、押出法により調製される硬質密閉セルポリマーフォームボードを与える。ナノグラファイトを添加すると、熱的特性と機械的特性だけでなく最終発泡製品の性能特性が改善される。
【0018】
発泡性ポリマー材料は、配合物の骨格であり、最終製品に強度、可撓性、靭性、及び耐久性を与える。発泡性ポリマー材料は、特に制限されず、一般に、発泡することができるいかなるポリマーも樹脂混合物の発泡性ポリマーとして用いることができる。発泡性ポリマー材料は、熱可塑性又は熱硬化性であってもよい。具体的なポリマー材料は、最終の発泡ポリマー製品を形成するのに充分な機械的強度及び/又は用いられる方法を与えるように選ばれてもよい。更に、発泡性ポリマー材料は、好ましくは、形成及び続くポリマーフォームとしての使用の間に予想される温度範囲内で化学的に安定であり、即ち、一般に非反応性である。適切な発泡性ポリマー材料の限定されない例としては、アルケニル芳香族ポリマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイソシアヌレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、フェノール樹脂、ポリオレフィン、スチレンアクリロニトリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリル/スチレン/アクリロニトリルブロックターポリマー(ASA)、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、アセタール樹脂、ポリアミド、ポリアラミド、ポリイミド、ポリアクリル酸エステル、エチレンとプロピレンのコポリマー、スチレンとブタジエンのコポリマー、酢酸ビニルとエチレンのコポリマー、ゴム変性ポリマー、熱可塑性ポリマーブレンド及びこれらの組み合わせが挙げられる。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンコポリマーが挙げられる。
【0019】
好ましくは、発泡性ポリマー材料はアルケニル芳香族ポリマー材料である。適切なアルケニル芳香族ポリマー材料としては、アルケニル芳香族ホモポリマー及びアルケニル芳香族化合物と共重合性エチレン系不飽和コモノマーのコポリマーが挙げられる。更に、アルケニル芳香族ポリマー材料は、少量の非アルケニル芳香族ポリマーが含まれていてもよい。アルケニル芳香族ポリマー材料は、一つ以上のアルケニル芳香族ホモポリマー、一つ以上のアルケニル芳香族コポリマー、アルケニル芳香族ホモポリマーとコポリマーの各々の一つ以上のブレンド、又はこれらの非アルケニル芳香族ポリマーとのブレンドから形成されてもよい。組成物の成分にかかわらず、アルケニル芳香族ポリマー材料は、50質量パーセントを超える、好ましくは70質量パーセントを超えるアルケニル芳香族モノマー単位を含んでいてもよい。本発明の好ましい実施態様において、アルケニル芳香族ポリマー材料は、完全にアルケニル芳香族モノマー単位から形成される。
アルケニル芳香族ポリマーの例としては、アルケニル芳香族化合物から誘導されるアルケニル芳香族ポリマー、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルベンゼン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ブロモスチレンが挙げられるがこれらに限定されない。好ましいアルケニル芳香族ポリマーは、ポリスチレンである。少量のモノエチレン系不飽和化合物、例えば、C2〜C6アルキル酸やエステル、イオノマー誘導体、C2〜C6ジエンがアルケニル芳香族化合物と共重合されていてもよい。共重合性化合物の限定されない例としては、アクリル酸、メタアクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、及びブタジエンが挙げられる。ポリマーの質量平均分子量は、好ましくは190,000〜270,000、好ましくは200,000〜260,000である。質量平均分子量が100,000〜180,000、好ましくは124,000〜155,000の再利用ポリマーが、本発明の組成物に用いられてもよい。
【0020】
発泡製品は、実質的に(例えば、95パーセントを超える)ポリスチレン、最も好ましくは完全にポリスチレンから形成されてもよい。発泡性ポリマー材料は、80質量%〜99質量%の量で、好ましくは90質量%〜99質量%の量で組成物中に存在させてもよい。本明細書に用いられる用語“質量%”は、組成物の100%全乾燥質量に基づく%を示すことを意味する。
押出発泡体又は発泡体製品の特性は、ポリマーの分子量の選択によって変化させてもよい。例えば、より低密度の押出発泡体製品の調製は、より低分子量ポリマーを用いることにより容易にすることができる。一方、より高密度の押出発泡体製品の調製は、より高分子量又はより高粘度樹脂を用いて容易にすることができる。
発泡体組成物は、また、ナノグラファイトを含有する。ナノグラファイトは酸処理天然グラファイトから炉内高温膨張或いは水分飽和天然グラファイトからマイクロ波加熱膨張によって重層化し得る。望ましくは、ナノグラファイトは、少なくとも一つの寸法が100nm未満の厚さを有する重層化ナノグラファイトである。ある例示的な実施態様において、グラファイトは、例えば、エアジェットミリングによって機械的に処理してナノグラファイト粒子を粉砕することができる。粒子の粉砕は、ナノグラファイトフレーク及び粒子の他の寸法が20ミクロン未満、たいがい5ミクロン未満であることを確実にする。
【0021】
ナノグラファイトは、化学的修飾も或いは表面修飾もされてなく、好ましくは、ナノグラファイトの媒体としても担体としても用いられるポリエチレンアクリル酸メチルコポリマー(EMA)に配合される。ナノグラファイトの他の可能な担体としては、ポリマー担体、例えば、ポリメチルメタクリレート (PMMA)、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリ酢酸ビニル(PVA)が挙げられるがこれらに限定されない。ナノグラファイトは、60%までの充填量でポリマーに配合されてもよい。ナノグラファイトは、望ましく15-60%充填、好ましくは20-40%充填量でポリマーに配合される。少なくとも一つの例示的実施態様において、ナノグラファイトは40%充填でEMAに配合される。
ナノグラファイトは発泡体の全体にわたって実質的に一様に分配されることが望ましい。本明細書に用いられる語句“実質的に一様に分配された”は、物質(例えば、ナノグラファイト)が発泡体の中に一様に分配されるか又はほぼ一様に分配されることを示すことを意味する。混合温度は、EMA充填の場合、150oC〜300oC、好ましくは225oCであってもよい。40質量パーセントのナノグラファイトを含有するEMA担体の場合、0〜3分間、典型的には1分未満の混合時間がポリマーの全体にわたってナノグラファイトを効果的に分散させるのに望ましい。混合は、当該技術において既知であるいかなる標準法によっても、例えば、押出法又は配合法により行われてもよい。好ましくは、成分は、バンバリーミキサを用いて混合される。
ナノグラファイトは、核剤、R値増強剤、赤外減衰剤、潤滑剤、UV吸収剤、加工助剤、及び着色剤として作用する。本発明の発泡体におけるナノグラファイトの存在が従来の核剤、例えば、炭酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、タルク、クレー、二酸化チタン、シリカ、珪藻土、及び/又はクエン酸と重炭酸ナトリウムの混合物の必要を排除することは理解されるべきである。ナノグラファイトは、発泡体組成物中に全組成物の0.05〜5.0乾燥質量%の量、好ましくは0.25〜3.5乾燥質量%の量で存在する。
ナノグラファイトが好ましいが、このような別の赤外減弱剤が同様の或いは(優れていない場合には)満足な結果を与えるという見込みでナノグラファイトの代わりに別の赤外減弱剤(IAA)を含むことは本発明の範囲内であることは理解されるべきである。代わりとして用いられてもよいこのような赤外減衰剤の例としては、カーボンブラック、粒状アスファルト、粉砕ガラス、ガラス繊維ストランド、雲母、黒色酸化鉄、金属フレーク、例えば、アルミニウムフレーク、及びこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
上述したように、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を除いて、本発明の発泡体材料は従来の発泡剤を含まない。従来の発泡剤としては、無機発泡剤、有機発泡剤、化学発泡剤が含まれる。無機発泡剤の個々の例としては、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水、空気、窒素、及びヘリウムが挙げられる。従来の有機発泡剤としては、炭素原子1-9個を有する脂肪族炭化水素、炭素原子1-3個を有する脂肪族アルコール、炭素原子14個を有する完全に又は部分的にハロゲン化された脂肪族炭化水素が挙げられるがこれらに限定されない。脂肪族炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、及びジメチルエーテル(DME)が挙げられる。脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノールが挙げられる。完全に又は部分的にハロゲン化された脂肪族炭化水素としては、フルオロカーボン、クロロカーボン、クロロフルオロカーボン、及びシクロペンタンが挙げられる。フルオロカーボンの限定されない例としては、フッ化メチル、ペルフルオロメタン、フッ化エチル(HFC-161)、フッ化エチル、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、ジフルオロメタン(HFC-32)、ペルフルオロエタン、2,2-ジフルオロプロパン(HFC-272fb)、1,1,1-トリフルオロプロパン(HFC-263fb)、ペルフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC 245fa)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、ジクロロプロパン、ジフルオロプロパン、ペルフルオロブタン及びペルフルオロシクロブタンが挙げられる。部分的にハロゲン化されたクロロカーボン及びクロロフルオロカーボンとしては、塩化メチル、塩化メチレン、塩化エチル、1,1,1-トリクロロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)、1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1-クロロ-1,2,2,2-テトラフルオロエタン(HCFC-124)等が挙げられる。完全にハロゲン化されたクロロフルオロカーボンとしては、トリクロロモノフルオロメタン(CFC-11)、ジクロロジフルオロメタン(CFC-12)、トリクロロトリフルオロエタン(CFC-113)、1,1,1-トリフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン(CFC-114)、クロロヘプタフルオロプロパン、及びジクロロヘキサフルオロプロパンが挙げられる。従来の化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジイソブチロニトリル、ベンゼンスルホンヒドラジド、4,4-オキシベンゼンスルホニルセミカルバジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、アゾジカルボン酸バリウム、及びN,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソテレフタルアミド及びトリヒドラジノトリアジンが挙げられる。
【0023】
発泡剤、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)は、全組成物の3.0〜12乾燥質量%の量で組成物中に存在してもよい。好ましくは、1,1,2,2-テトラフルオロエタンは、発泡性組成物中に6.0〜10.0質量%の量で存在してもよい。
本発明の発泡体組成物は、望ましくは、発泡性組成物に及び/又は最終発泡製品に所望の性質又は特性を加えるために従来の発泡体用途に典型的に含まれるいかなる添加剤も含まないが、添加剤、例えばUV安定剤、UV吸収剤、可塑剤、抗酸化剤、加工助剤、押出助剤、帯電防止剤、安定剤、難燃剤、顔料、色素、及び/又は着色剤を、ある例示的実施態様における発泡体組成物に少量で添加してもよい。これらの選択的な添加剤は、発泡性ゲル又は得られた押出発泡体製品の所望の特性を得るのに必要な量で含まれてもよい。特に、サイズ組成物中に存在してもよい添加剤の合計量は、全組成物の0〜5.0乾燥質量%であってもよく、ある実施態様において、添加剤は全組成物の0.5〜3.8乾燥質量%の量で添加されてもよい。好ましくは、選択的な添加剤は、樹脂混合物に添加されるが、押出発泡体製造プロセスに別の方法で添加されてもよい。
【0024】
本発明の発泡製品は、押出機(二軸又は単軸)、ミキサ、又はブレンダによるような当業者に知られるいかなる方法によっても調製することができる。好ましくは、発泡製品は、従来の押出法又はバッチ法により製造される。押出法において、ポリマー(例えば、ポリスチレン)、修飾されていないナノグラファイト(ポリエチレンアクリル酸メチルコポリマーに配合されているか又は配合されていない)を、所望される場合には添加剤と共に、ポリマー(ポリマー群)を溶融するのに充分な第一温度に加熱し、混合して、溶融ポリマー材料(即ち、ナノグラファイト/ポリマー混合物)を形成する。溶融混合温度は、ポリマーを可塑化するか又は溶融するのに充分でなければならない。それ故、溶融混合温度は、ポリマーのガラス転移温度又は融点又はそれ以上の温度である。好ましい実施態様において、溶融混合温度は、200〜250℃、好ましくは220〜240℃の範囲にあり、溶融ポリマー材料に存在するナノグラファイト量に左右される。
次に、発泡剤、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を第一圧力下で溶融ポリマー材料に添加して、通常は発泡剤を溶融ポリマー材料に均一に分散させ且つ溶融ポリマー材料の前発泡を防止しつつ発泡剤と溶融ポリマー材料の完全な混合を可能にする。発泡剤をポリマー溶融物に添加するので、発泡剤は、ポリマー溶融物に可溶性になり、即ち、溶解する。発泡剤はポリマー溶融物を可塑化し、系のプロセス可能性を容易にする。一旦発泡剤が組み込まれ溶融ポリマー材料と充分に混合されると、得られた組成物は、典型的には発泡性ゲルと呼ばれる。ダイ圧力は、発泡性ゲルの前発泡を防止するのに充分でなければならず、45〜80バール、最も好ましくは50〜75バールの範囲にある圧力を含む。前発泡は、減圧のゾーンに押出す前の発泡性ゲルの望ましくない早過ぎる発泡である。
次に、発泡性ゲルを第二温度(即ち、ダイ溶融温度)に冷却し、減圧(第二圧力)のゾーンに押出し、ゲルの発泡と所望の押出発泡体製品の形成が得られる。減圧のゾーンは、発泡性ゲルがダイによる押出の前に維持される圧力より低い圧力である。より低い圧力は、大気圧より高い、大気圧、又は大気圧未満(即ち、減圧)であってもよいが、好ましくは大気圧未満である。ダイ溶融温度が発泡製品の物理的特性を最適化する溶融混合温度より通常低いことは理解されるべきである。更に、ダイ溶融温度は、典型的には溶融混合温度の30℃以内である。好ましい実施態様において、ダイ溶融温度は、110℃〜145℃、最も好ましくは120〜140℃である。
発泡の間、重層化ナノグラファイトは、核剤及び潤滑剤として作用し、また、その滑り作用は、押出機における溶融ポリマーの流れをより扱いやすくし、フォームボードに平滑な表面を与える。更に、重層化ナノグラファイトは、ナノグラファイトポリマーフォームボードのスキンの導電率が高いために発泡プロセスの間に存在する静電気量を低下させる。更に、ナノグラファイトはポリマー押出法の全体にわたって一様に又はほぼ一様にブレンドすることができ、均質な発泡体製品になる。
【0025】
押出発泡体は、セルがセル膜と支柱により画成されたセル構造を有する。支柱は、セル膜の交点で形成され、セル膜が支柱の間の相互接続セル窓を被覆している。本発明において、本発明の組成物は、好ましくは、平均密度が21.6kg/m3〜56.1kg/m3 (1.35lbs/ft3〜3.5lbs/ft3)、好ましくは25.6kg/m3〜41.6kg/m3 (1.6lbs/ft3〜2.6lbs/ft3)及びセルサイズが50〜400ミクロン(0.050mm〜0.40mm)である実質的に密閉されたセルの発泡体を与え、これは発泡体を断熱に特に有効にする。語句“実質的に密閉されたセルの”は、発泡体がすべての密閉セルを含有するか又はセル構造のセルのほぼすべてが密閉していることを示すことを意味することは理解されるべきである。5.0%以下のセルが開放セル或いは“非密閉”セルであることが望ましい。密閉セル構造は、形成発泡断熱製品のR値を増加させるように援助する。R値/インチは、4.5〜5.8であってもよい。最も好ましい実施態様において、R値/インチは、4.9〜5.8である。このような開放セル構造は好ましい実施態様ではないが、開放セル構造を製造することは本発明の範囲内であることは理解されるべきである。
本発明の押出発泡体の他の態様は、高レベルの寸法安定性を有することである。例えば、いかなる方向も寸法の変化は5%以下である。更に、本発明の組成物により形成される発泡体は望ましくは単一モードあり、セルは比較的均一な平均セルサイズを有する。本明細書に用いられ平均セルサイズは、X、Y及びZ方向で決定されるセルサイズの平均である。特に、“X”方向は押出の方向であり、“Y”方向は直交する方向であり、“Z”方向は厚みである。本発明において、セル拡大の最大の影響は、X及びY方向にあり、方向付けとR値の観点から望ましい。本発明の押出発泡体は、断熱材製品、例えば、硬質断熱ボード、断熱フォーム、包装製品、緩衝製品、ルーフィングボード、デッキボードを製造するために使用し得る。
【0026】
上述したように、発泡製品はバッチ法により製造されてもよい。バッチ法において、分離した樹脂粒子とナノグラファイト、例えば、粒状樹脂ペレットを液状媒体に懸濁する。樹脂ペレットは、懸濁媒体(即ち、樹脂ペレットを含有する液状媒体)を形成するために液状媒体に実質的に不溶であることが望ましい。好ましい実施態様において、液状媒体は水である。次に、オートクレーブ又は他の圧力容器内で1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を液状媒体に高圧高温で導入することによって懸濁液媒体に1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を含浸する。次に、懸濁媒体をビーズ中に充分なレベルの発泡剤を維持させるために冷却する。次に、これらのビーズを金型に充填し、再加熱し、所定の形状に発泡させて、最終発泡製品を形成することができる。
【0027】
本発明の組成物を用いて発泡体製品を形成する利点は多い。例えば、本発明の配合物に用いられる発泡剤は、発泡性ポリマー(例えば、ポリスチレン)における溶解度が高い。それ故、不十分なダイ圧力(前発泡になる)のような加工問題は、発泡製品の製造の間に、たとえあるとしてもほとんど生じない。更に、本発明の組成物は、一つだけの発泡剤、HFC-134を含有し、多くの従来のHFC含有発泡体のような共発泡剤を必要としない。更に、HFC-134の難燃性は、可燃性発泡物質を処理するのに適切な装置の取付けに関係する必要資本を排除する。また、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)は、オゾン層破壊係数がゼロで、地球温暖化係数がHCFC-142bより小さい。それ故、本発明の発泡体は、発泡剤としてHCFC-142bを用いて製造した発泡体より環境問題が少ない。更に、ナノグラファイトは、従来の方法でポリマー溶融物に添加される。このように、本発明の組成物を用いて発泡体又は発泡体製品を製造するために既存の装置を変えたり製造ラインを変更する必要がない。
更に、驚くべきことに、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)とナノグラファイトの使用によって優れた熱断熱特性を有する発泡体が得られることが発見された。例えば、本発明の発泡体は、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)により製造される従来の押出発泡体製品以上の断熱値を有する押出発泡体製品を製造する。
本発明を一般的に記載してきたが、具体的な説明のためにのみに示され特に指定しない限りすべてを含めたり限定するものではない特定の実施例によって更に理解を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例において、すべてのフォームボードは、押出ポリスチレンフォームボードである。硬質フォームボードを、フラットダイとシェーパープレートを備えた二軸押出機によって調製し、大気圧又は大気圧未満のゾーンに押出した。
実施例1: ナノグラファイトを含有しないHCFC-142b及びHFC-134のフォームボードR値の比較
表1に示されるポリスチレン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)又は1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)及びタルクを含有する組成物を、上で詳細に記載した押出法に従って形成した。特に、ポリスチレンとタルクを150℃-180℃の溶融混合温度に加熱して、溶融ポリマー材料を形成した。次に、1,1,2,2-テトラフルオロエタンを210-230バールの第一圧力でポリマー溶融物に混合して、通常は発泡剤を均一に溶融ポリマー材料に分散させるとともに発泡性ゲルを形成する。次に、発泡性ゲルを125℃-135℃の温度に冷却した。発泡性ゲルを二軸押出機においてダイを通って減圧ゾーン(1.0バール(14.0psi絶対値)-0.3バール(5.0psi絶対値))に押出して、硬質フォームボードを得た。実施例に用いられる語句“質量%”は、全組成物に基づく成分の乾燥質量%である。プロセス条件を表2に示す。
【0029】
表1-発泡ボードの組成

【0030】
表2-プロセス条件

【0031】
次に、硬質押出発泡ボードを周囲条件下で180日間寝かした。ASTMC-518に示される手順に従ってR値/インチを測定した。発泡ボードを計量し、全質量(質量)をボードの全容積で割ることによって密度を測定した。結果を表3と図1に示す。
【0032】
表3-経年R値及び密度

【0033】
発泡剤として11% 1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)を用いる現在の市販製品と比較した経年R値に関する1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)量の影響を求めるために実施例1を行った。表3と図1に示されるように、試料1と2のR値は対照(11% 1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b))より低いが、発泡体組成物のHFC-134の割合を増加させると、フォームボードのR値が増加した。より高レベルのHFC-134、即ち、9.0質量%と7.5質量%を用いるとほぼ同一の密度を有する5.05〜5.15の180日R値/インチ(実際値)が改善された。発泡体の密度が増大すると発泡製品のR値を増加させることは、当該技術において既知である。フォームボードを調製するために7.5wt%と9.0wt%のHFC-134を用いた場合に密度がほぼ同じであったことから、R値の増加は組成物中に含有されるHFC-134量の増加によるものである。このように、7.5wt%から9.0wt%への1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)の増加によってR値が約2%改善された。
更に、HCFC-142bを含有する対照試料は、HFC-134を含有する本発明の試料1及び2より密度が低くR値が高いことがわかる。一般に、より高い密度はR値の増大に相関するが、この場合、R値の増大はガスのより低い熱伝導性とより多量の使用発泡剤(11% HCFC-142b)によるものである。
【0034】
実施例2: 11wt%のHCFC-142bにより形成された発泡ボードのR値に関するナノグラファイトの影響
表4に示されるポリスチレン、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)、及びナノグラファイトを含有する組成物を、上で詳細に記載される押出法に従って形成した。特に、ポリスチレンとナノグラファイトを、150℃-180℃の溶融混合温度を加熱して、溶融ポリマー材料を形成した。次に、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタンをポリマー溶融物に210-230バールの第一圧力で混合して、通常は1-クロロ-1,1-ジフルオロエタンを均一に溶融ポリマー材料に分散させるとともに発泡性ゲルを形成した。次に、発泡性ゲルを125℃-135℃の温度(ダイ溶融温度)に冷却した。発泡性ゲルを二軸押出機においてダイを通って減圧ゾーン(1.0バール(14.0psi絶対値)-0.3バール(5.0psi絶対値))に押出して、硬質フォームボードを得た。プロセス条件を表4に示す。
【0035】
表4-発泡ボードの組成

【0036】
次に、硬質押出発泡ボードを周囲条件下で180日間寝かした。ASTMC-518に示される手順に従って実際のR値/インチを180日目に測定した。発泡ボードを計量し、全質量(質量)をボードの全容積で割ることによって密度を測定した。結果を表5と図2に示す。
【0037】
表5-実際の経年R値及び密度

【0038】
11% HCFC-142bを含有する従来の押出フォームボードの実際の経年R値に関する発泡体組成物のナノグラファイト量の影響を求めるために実施例2を行った。上記試料からわかるように、1.0%のナノグラファイトを添加すると、実際のR値/インチが0wt%のナノグラファイト添加の5.35から5.7 (1.0wt%のナノグラファイト添加)に増加するだけでなく密度が24.8kg/m3 (1.55lbs/ft3)から25.8kg/m3 (1.61lbs/ft3)に増加した。表5と図2の試料2-3により証明されるように、発泡体組成物に添加されるナノグラファイトの追加量は、R値の実質的な変化にならなかった。これらの結果から、ナノグラファイトをHCFC-142bにより製造されるフォームボードに添加すると押出ポリスチレンボードの断熱値(R値)が高くなることが結論された。更に、表4と図2に示される結果から、押出フォームボードのR値を改善するために必要とされる発泡処理に最適なナノグラファイト量が0〜1.0%のナノグラファイトであることが求められた。試料3に添加されたナノグラファイトの添加量がR値の実質的な増加にならないことがわかった。
【0039】
実施例3: 7.5wt%のHFC-134により形成された発泡ボードのR値に関するナノグラファイトの影響
表5に示されるポリスチレン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、及びナノグラファイトを含有する組成物を上で詳細に記載した押出法に従って形成した。特に、ポリスチレンとナノグラファイトを150℃-180℃の溶融混合温度に加熱して、溶融ポリマー材料を形成した。次に、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)をポリマー溶融物に210 - 230バールの第一圧力で混合して、通常は1,1,2,2-テトラフルオロエタンを均一に溶融ポリマー材料に分散させるとともに発泡性ゲルを形成した。次に、発泡性ゲルを125℃-135℃(ダイ溶融温度) の温度に冷却した。発泡性ゲルを二軸押出機においてダイを通って減圧ゾーン(1.0バール(14.0psi絶対値)-0.3バール(5.0psi絶対値))に押出して、硬質フォームボードを得た。プロセス条件を表6に示す。
【0040】
表6-発泡ボードの組成

【0041】
次に、硬質押出発泡ボードを周囲条件下で180日間寝かした。ASTMC-518に示される手順に従って実際のR値/インチを測定した。発泡ボードを計量し、全質量(質量)をボードの全容積で割ることによって密度を測定した。結果を表7と図3に示す。
【0042】
表7-実際の経年R値及び密度

【0043】
驚くべきことに、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)とナノグラファイトの使用が優れた熱断熱特性を有する発泡体及び発泡体製品を製造することが発見された。表7と図3にまとめられた結果から、押出ポリスチレンフォームボードの断熱値(R値)を高め且つ熱伝導性を低下させるために少量のナノグラファイト(≦1.0wt%)を添加させる利点が証明される。表7に示されるように、発泡体組成物に1.0wt%のナノグラファイトを添加すると、実際のR値が5.0から5.41に改善され、R値が約8%改善された。
本出願の発明を、一般的にも個々の実施態様についても上に記載してきた。本発明を好ましい実施態様であると考えられるもので示してきたが、当業者に既知の様々な代替物を包括的な開示の範囲内で選ぶことができる。以下に示される特許請求の範囲の説明を除いて、本発明は制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡性ポリマー材料;
発泡剤として1,1,2,2-テトラフルオロエタン; 及び
ナノグラファイト
を含む熱可塑性ポリマーフォームを形成するための組成物であって、
ポリマーフォームを調製するのに典型的に用いられる他の発泡剤を含まないことを特徴とする組成物。
【請求項2】
発泡体組成物に所望の性質又は特性を加えるために従来の発泡体組成物に典型的に含まれる添加剤を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記発泡性ポリマー材料が、アルケニル芳香族ポリマー材料である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記発泡性ポリマー材料が、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイソシアヌレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、フェノール樹脂、ポリオレフィン、スチレンアクリロニトリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリル/スチレン/アクリロニトリルブロックターポリマー、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、アセタール樹脂、ポリアミド、ポリアラミド、ポリイミド、ポリアクリル酸エステル、エチレンとプロピレンのコポリマー、スチレンとブタジエンのコポリマー、酢酸ビニルとエチレンのコポリマー、ゴム変性ポリマー、熱可塑性ポリマーブレンド及びこれらの組み合わせより選ばれる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記発泡性ポリマー材料が、前記組成物中に全組成物の80%〜99乾燥質量%の量で存在し、前記1,1,2,2-テトラフルオロエタンが、前記組成物中に全組成物の3.0〜12乾燥質量%の量の存在し、前記ナノグラファイトが、前記組成物中に全組成物の0.05〜5.0乾燥質量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノグラファイトが、化学的修飾も或いは表面修飾もされていない、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ナノグラファイトが、ポリエチレンアクリル酸メチルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びポリ酢酸ビニルより選ばれる担体に配合される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、発泡体組成物に所望の性質又は特性を加えるために従来の発泡体組成物に典型的に含まれる添加剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
発泡性ポリマー材料;
発泡剤として1,1,2,2-テトラフルオロエタン; 及び
ナノグラファイト
からなる組成物を有する成形された押出ポリマーフォームを含む、ポリマーフォーム断熱製品。
【請求項10】
前記発泡性ポリマー材料が、アルケニル芳香族ポリマー材料である、請求項9に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項11】
前記押出ポリマーフォームが、21.6kg/m3〜56.1kg/m3 (1.35lbs/ft3〜3.5lbs/ft3)の密度を有する、請求項10に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項12】
前記押出ポリマーフォームが、実質的に密閉セル構造を有する、請求項10に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項13】
前記押出ポリマーフォームが、発泡剤として1-クロロ-1,1-ジフルオロエタンにより製造される押出ポリマーフォームのR値以上のR値を有する、請求項10に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項14】
前記押出ポリマーフォームのR値が、4.5〜5.8である、請求項10に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項15】
硬質フォームボードである、請求項9に記載のポリマーフォーム断熱製品。
【請求項16】
発泡断熱製品を形成する方法であって:
ナノグラファイトを、ポリマー担体中に前記ナノグラファイトの60%充填までの量で配合して、配合されたナノグラファイトを形成する工程; 及び
押出法及びバッチ法より選ばれる方法によって発泡製品を形成する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
前記形成する工程が押出法を含み、前記押出法が:
前記配合されたナノグラファイト及び発泡性ポリマー材料を、前記発泡性ポリマー材料を溶融して溶融混合物を形成するのに充分な第一温度に加熱する工程;
1,1,2,2-テトラフルオロエタンを前記溶融混合物に第一圧力下で添加して、発泡性ゲルを形成する工程;
前記発泡性ゲルを第二温度に冷却して、冷却された発泡性ゲルを形成する工程であって、前記第二温度が前記第一温度より低い、前記工程; 及び
前記冷却された発泡性ゲルを第二圧力で押出して、前記発泡断熱製品を形成する工程
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記発泡性ポリマー材料が、アルケニル芳香族ポリマー材料である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマー担体が、ポリエチレンアクリル酸メチルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びポリ酢酸ビニルより選ばれる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記発泡断熱製品が、発泡剤として1-クロロ-1,1-ジフルオロエタンにより製造される発泡断熱製品のR値以上のR値を有する、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−522815(P2010−522815A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501234(P2010−501234)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/058543
【国際公開番号】WO2008/119059
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(507220187)オウェンス コーニング インテレクチュアル キャピタル リミテッド ライアビリティ カンパニー (14)
【Fターム(参考)】