説明

ナノシートを含有するガスバリアシート

【課題】高い水蒸気ガスバリア性を有するガスバリアシートを提供することを課題とする。
【解決手段】ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、該ガスバリア層が、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含み、該(a)ナノシートが、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種類以上の層状無機化合物のへき開物であり、該(a)ナノシートの平均アスペクト比が150以上であり、該(c)アクリル樹脂が、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有し、かつ該ガスバリア層において、該(a)ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該(a)ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシートを含有する水蒸気バリア性に優れたガスバリアシート及びその製造方法、並びにガスバリア用塗工液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気ガスバリア性を有する材料は幅広く産業上で利用されている。利用分野は、例えば、ディスプレイ等の電子材料、太陽電池の基板やバックシート、レトルト食品等の包装材、ガソリン等のタンクや輸送用のチューブである。多くの分野では、上記材料としてガラス、金属、若しくはプラスチックが用いられている。その中でも、より高い水蒸気ガスバリア性能が求められる用途ではガラスや金属が多く用いられている。しかしガラスには、柔軟性がなく、割れやすく、かつ重量が重いといった問題がある。また、金属は光を透過しないので中身が見えないといった問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する為に、水蒸気バリア性を有するガスバリア性積層フィルムの提案がある(例えば特許文献1)。この技術は有機層と無機層を積層させたフィルムを提案するが、無機層の形成には例えば、蒸着法やPVD法やCVD法が用いられており、真空や加熱等過酷なプロセスが要求される。
【0004】
一方、スメクタイト族粘土及び雲母族粘土に代表される粘土鉱物等である層状無機化合物をガスバリアシートに用いることで、ガスバリアシート自体の材料の寸法安定性、耐熱性及びガスバリア性を向上させる検討が行われてきた。層状無機化合物は、安価でかつ水への分散性に優れる種が多い等の点でさまざまな用途に好適に用いられており、層状無機化合物を樹脂に添加した材料について幅広い研究がなされ、例えば膜状に形成したガスバリアフィルムが一部実用化されている。
【0005】
従来のそれら材料の多くにおいては、疎水性樹脂中及び有機溶媒中での分散性向上のため、ナノシートの表面を、例えば炭素数が15又は18のアルキル基を有するアルキルアンモニウム塩等で有機修飾して用いている(例えば特許文献2、特許文献3)。このような長鎖アルキル基により有機修飾されたナノシートを用いた場合、例えば溶融混錬によりナノシートと樹脂成分を複合化しても、ナノシート同士の間隔(以下、層間距離という)が、有機修飾に用いられる有機イオンによって広がってしまうという問題、又は、海島構造を形成すること等により気体が通りやすくなってしまうという問題があった。またこれらの従来公知の方法では、ナノシートの分散性を損なう虞があり、ナノシートの含有量を増加させることが困難であった。
【0006】
一方、有機修飾を施さないナノシートを用いた提案もある(例えば特許文献4、非特許文献1)。しかし、これらのナノシートは水分散系以外への適用が困難な為、ナノシートと組み合わせることができる樹脂は親水性のポリビニルアルコール等限られたものであった。これら親水性の樹脂を用いた場合はバリア性の湿度依存性に懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−87163号公報
【特許文献2】特開2002−3734号公報
【特許文献3】特許第3356027号公報
【特許文献4】特許第4004279号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中條澄編,「ポリマー系ナノコンポジットの製品開発」,フロンティア出版,p.144(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ナノシートの含有量が高く、ナノシートが積層構造を形成しており、優れた水蒸気ガスバリア性を有する、ガスバリアシートを提供することを目的とする。本発明はまた、このようなガスバリアシートを簡便な方法で製造するガスバリアシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の粘土鉱物のへき開物であるナノシート、有機オニウム化合物、及び特定のアクリル樹脂を用いることによって、優れた水蒸気ガスバリア性を有するガスバリアシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明者はまた、有機溶媒中に分散したナノシートをアクリル樹脂中に高度に分散、積層させることにより、上記ガスバリアシートを簡便な方法により作製できることを見出した。すなわち本発明は以下の通りである。
【0011】
[1] ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、
該ガスバリア層が、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含み、
該(a)ナノシートが、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種類以上の層状無機化合物のへき開物であり、
該(a)ナノシートの平均アスペクト比が150以上であり、
該(c)アクリル樹脂が、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有し、かつ
該ガスバリア層において、該(a)ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該(a)ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。
[2] 該(b)有機オニウム化合物が、アンモニアにプロトンが結合しているアンモニウム化合物である、上記[1]に記載のガスバリアシート。
[3] 該(b)有機オニウム化合物が、アミンにプロトンが結合しているアミノ化合物である、上記[1]に記載のガスバリアシート。
[4] 該アミンが、炭素数8以下のアミンである、上記[3]に記載のガスバリアシート。
[5] 該(a)ナノシートの平均アスペクト比が500以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[6] 該ガスバリア層中の(a)ナノシートの含有量が45質量%以上である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[7] 該(c)アクリル樹脂が、アクリル基を2つ以上有するアクリルモノマーの重合体である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[8] 該層状無機化合物が、スメクタイト族のフッ素化スメクタイトである、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[9] 該層状無機化合物が、雲母族のフッ素化雲母である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[10] 上記[1]〜[9]のいずれかに記載のガスバリアシートを製造する方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと(b)有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、塗工膜を基板上に形成する、製膜工程と、
(5)該塗工膜を光照射及び/又は加熱に供してアクリルモノマーを重合させることによって、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含むガスバリア層を形成する、硬化工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリアシートの製造方法。
[11]該塗工液調製工程において、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加する、上記[10]に記載のガスバリアシートの製造方法。
[12] (1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であり平均アスペクト比が150以上である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと(b)有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、塗工液の製造方法。
[13] 該塗工液調製工程において、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加する、上記[12]に記載の塗工液の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガスバリアシートにおいては、ナノシートがアクリル樹脂中に狭小な層間距離を保ち高度に分散及び積層している為、本発明に係るガスバリアシートは優れた水蒸気バリア性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例及び比較例において作製したガスバリアシートのX線回折測定結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例2において作製したガスバリアシートの断面TEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ガスバリアシート>
本発明は、ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、該ガスバリア層が、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含み、該(a)ナノシートが、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種類以上の層状無機化合物のへき開物であり、該(a)ナノシートの平均アスペクト比が150以上であり、該(c)アクリル樹脂が、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有し、かつ該ガスバリア層において、該(a)ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該(a)ナノシートが積層されている、ガスバリアシートを提供する。本発明のガスバリアシートは、上記の(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂の組合せにより、ガスバリア層において、(a)ナノシートの層間に、(c)アクリル樹脂の少なくとも一部をインターカレートさせることができる。よって、(c)アクリル樹脂中に(a)ナノシートが固定されている状態を形成でき、(a)ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行に並ぶことができ、ガスバリア層は優れた水蒸気バリア性を有することができる。なお、本明細書において用いる用語「ガスバリア層」は、水蒸気ガスバリア性(すなわち、水蒸気を含むガス及び水蒸気自体に対するバリア性)を発現する層を指し、「ガスバリアシート」は、該ガスバリア層を少なくとも1層有するシートを指す。すなわち、ガスバリアシートは、ガスバリア層のみから成るもの、及びガスバリア層と他の層とから成るものの両者を包含する。典型的には、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂のそれぞれの少なくとも一部が(a)ナノシートの層間に存在する。
【0015】
[(a)ナノシート]
本発明において用いる、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物(以下、単に層状無機化合物ということもある)のへき開物である(a)ナノシートについて説明する。(a)ナノシートは、典型的な態様として層間に(b)有機オニウム化合物を有する。スメクタイト族及び雲母族の層状無機化合物は、有機溶媒中でへき開(剥離)しやすいという利点を有する。
【0016】
なお用語「(a)ナノシート」に関し、本明細書では、特記がない限り、層状無機化合物が単位層(すなわち1層)〜数十層(特に10層)までへき開されたものを包含してナノシートと称する。(a)ナノシートは、できる限り単位層に近くなるようにへき開されていることが好ましい。(a)ナノシートは、例えば後述するような方法により、層状無機化合物を水分散液中又は有機溶媒分散液中で単位層(すなわち1層)〜数十層まで、好ましくはできる限り単位層に近くなるように、へき開(剥離)することにより形成できる。
【0017】
スメクタイト族としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト等が挙げられる。
【0018】
雲母族としては、例えば、金雲母、黒雲母、白雲母、ナトリウム雲母、セラドナイト、海緑石等が挙げられる。
【0019】
有機溶媒中でへき開(剥離)しやすいという観点で、層状無機化合物の陽イオン交換容量としては10meq/100g以上が好ましく、40meq/100g以上がさらに好ましい。また、200meq/100g以下が好ましく、150meq/100g以下がさらに好ましい。なお、上記陽イオン交換容量は、Schollenberger法を基本とする、酢酸アンモニウムと塩化ナトリウム又は塩化カリウムとを用いた公知の手法によって求めることができる。
【0020】
(a)ナノシートを形成するための層状無機化合物は天然粘土でも合成粘土でもさしつかえないが、透明性、特に無着色という特徴を付与するためには合成粘土の利用が好ましい。
【0021】
好ましい合成粘土としては、例えば合成サポナイト、合成ヘクトライト、合成スチーブンサイト、合成雲母等が挙げられる。
【0022】
(a)ナノシートの形成に際し、上記の層状無機化合物を単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
ガスバリア性の観点から、(a)ナノシートの平均アスペクト比(すなわち、後述の平均粒子径X(長手方向の平均長さ)の単位厚みtに対する比)は大きいことが好ましい。(a)ナノシートの平均アスペクト比は、150以上であり、より好ましくは500以上である。水及び有機溶媒への分散性の観点から、(a)ナノシートの平均アスペクト比は30000以下であることが好ましい。
【0024】
(a)ナノシートにおいて、平均アスペクト比Zは、平均粒子径をXとしたときに、単位厚みtと、Z=X/tなる関係を示す値と定義する。ナノシートが所望の分散媒に分散している状態であれば、分散液の動的光散乱法による測定から平均粒子径Xを求める。また、平坦な基板上(例えば雲母鉱物のへき開面)に希釈分散液を塗布して溶媒を乾燥してAFM(原子間力顕微鏡)にて測長することで平均粒子径Xを求めることもできる。ここで(a)ナノシートの単位厚みtとは、層状無機化合物の単位層の厚みである。前述のように、本明細書におけるナノシートとは、層状無機化合物が単位層(すなわち1層)〜数十層までへき開されたものを包含する。よって、層状無機化合物が2層以上までへき開されている場合の(a)ナノシートの平均アスペクト比は、層状無機化合物の単位層当たりに換算された平均アスペクト比を意味することになる。
【0025】
上記単位厚みtは、例えば後述の方法により求めることができる。(a)ナノシートのみの粉末に対して、又は測定に際して基材の影響が十分排除できる基材(例えば平滑な樹脂基板又はシリコンウェハ等)上へ、層間イオンをリチウムイオンに交換したスメクタイト族の粘土鉱物の(a)ナノシートのみを固形分として含有する分散液を滴下した後、600℃程度で加熱して水分を除去し、薄膜を得る。このような薄膜においてはナノシート同士が理論的な限界まで密接するようになる為、得られた薄膜に対して、X線回折法等の公知の測定方法により得られる値を単位厚みtとすることができる。その値は0.95nmである。よってこれらの粘土鉱物(一般に2:1型構造をとるスメクタイト族に属する粘土鉱物及び雲母族の粘土鉱物)では、ナノシートの単位厚みtは0.95nmであると考えてよい。本明細書では特に断りのない限り、2:1型構造をとるスメクタイト族粘土及び雲母におけるナノシートの単位厚みtは0.95nmとして取り扱う。
【0026】
なお、動的光散乱法によって測定される場合の平均粒子径Xは、測定値が分散液の濃度に依存しない状態に対応するある濃度での測定結果(3回以上測定した平均)と、その濃度の2倍の濃度での測定結果(同様に3回以上測定した平均)との差が±5%以内である条件で得られた値である。
【0027】
(a)ナノシートの平均粒子径(すなわち、長手方向の平均長さ)は、水蒸気ガスバリア性の観点から、好ましくは38nm以上、より好ましくは142.5nm以上、特に好ましくは475nm以上であり、へき開及び分散の容易性の観点から、好ましくは95000nm以下、より好ましくは28500nm以下、特に好ましくは9500nm以下である。(a)ナノシートの平均粒子径は、前述のように、動的光散乱法又は平坦な基板上に分散液を塗布してAFMにて測長する方法によって測定できる。
【0028】
有機溶媒中でへき開(剥離)し易い点、透明性が得られやすい点、大きな平均アスペクト比を有する点、を勘案すると、層状無機化合物としては、スメクタイト族のフッ素化スメクタイト、及び雲母族のフッ素化雲母が好ましい。
【0029】
より具体的には、例えば、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライト(例えば、NHTゾルB2若しくは分級NHT(NHT分級ゾル)、トピー工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化雲母(例えば、NTS−5、トピー工業株式会社製)、高純度のタルクを珪フッ化ナトリウム又は珪フッ化リチウムとともに熱処理して変性させて得た膨潤性雲母(例えば、ME−100若しくはMEB−3、コープケミカル株式会社製)等挙げることができる。
【0030】
なお、天然粘土であっても、薄膜のガスバリア層とした際の着色が少ないものであれば好ましく使用できる。好ましい天然粘土としては、天然のモンモリロナイト(例えば、クニピア、クニミネ工業株式会社製)が挙げられる。
【0031】
前述の粘土のなかでも、合成フッ素化雲母及び合成フッ素化ヘクトライトは寸法安定性の点において特に好ましい。
【0032】
ガスバリア層中の(a)ナノシートの含有量は、45質量%以上であることが好ましい。この範囲においては、ガスバリア層が(a)ナノシートによるガス拡散抑制効果を良好に発現できる。また上記含有量は、90質量%以下であることが好ましい。この範囲においては、(c)アクリル樹脂中に(a)ナノシートが固定されている状態を良好に形成でき、ガスバリア層は優れた水蒸気バリア性を有することができる。
【0033】
ガスバリア層中の(a)ナノシートの含有量は、ガスバリア層を試料として熱重量分析測定をすることにより評価できる。例えば、白金セル中に試料を入れ、窒素ガスを50ml/minで流しながら、10℃/minで30℃から1000℃まで昇温させた時の800℃での重量をナノシートの含有量とすることができる。
【0034】
[(b)有機オニウム化合物]
次に、本発明において用いる有機オニウム化合物について説明する。(b)有機オニウム化合物は、非共有電子対に陽イオン(ここで、「陽イオン」とは、プロトン及び他の陽イオンを包含する)が付加してなる多原子陽イオンの化合物全般を意味する。(b)有機オニウム化合物は、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物である(a)ナノシートが本来的に有するアニオンに吸着し、典型的には、(b)有機オニウム化合物の少なくとも一部はガスバリア層中で(a)ナノシートの層間に存在している。
【0035】
(b)有機オニウム化合物としては、N(窒素)原子を有する化合物が好ましく、具体的には、アンモニアにプロトンが結合しているアンモニウム化合物、及びアミンにプロトンが結合しているアミノ化合物がナノシートへの親和性の観点で好ましい。また上記アミンは、炭素数8以下のアミンであることが、(a)ナノシートの狭小な層間距離を保ち高度に分散及び積層させる観点から好ましい。尚、N原子を有する化合物にプロトン以外の陽イオンが結合した構造であっても構わない。
【0036】
(b)有機オニウム化合物は、例えば、有機オニウム化合物前駆体に陽イオンを付加させることによって得ることができる。
【0037】
有機オニウム化合物前駆体(すなわちこれに陽イオンを付加させることによって(b)有機オニウム化合物が得られるもの)としては、N原子を有する化合物が好適であり、例えば、アンモニア、アミン、N原子を有する複素環化合物等が挙げられる。
【0038】
アミンとしては、例えば、アルキルアミン、シクロ環を有するアミン、芳香環を有するアミンが挙げられる。
【0039】
アルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0040】
シクロ環を有するアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0041】
芳香環を有するアミンとしては、例えば、ベンジルアミン、2−フェニルエチルアミン、アミノベンジルアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、p−トルイジン、p−フルオロアニリン、p−クロロアニリン、p−ブロモアニリン、p−ヨードアニリン、p−アリシジン、p−ニトロアニリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0042】
複素環化合物としては、例えば、ピロール、ピロシジン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ−イミダゾールアダクト、ピリジン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0043】
(a)ナノシートを、後述の(c)アクリル樹脂中で、狭小な層間距離を保ち高度に分散及び積層させる観点から、有機オニウム化合物前駆体としては、アンモニウム又は炭素数10以下のアミンが好ましい。更に好ましくは、アンモニウム又は炭素数8以下のアミンである。
【0044】
有機オニウム化合物前駆体としては、より具体的には、例えば、アンモニウム、1,2−ジアミノシクロヘキサン等が好ましい。
【0045】
ガスバリア層中の(b)有機オニウム化合物は、ナノシートの陽イオン交換容量に相当する量がガスバリア層中にて有機オニウム化合物として存在すると推定される。ガスバリア層中の有機オニウム含有量は、熱重量分析測定及び熱分解成分のマススペクトル測定による同定を組み合わせ実施することにより算出されると推定される。
【0046】
[(c)アクリル樹脂]
次に、本発明において用いる(c)アクリル樹脂について説明する。(c)アクリル樹脂は、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリル樹脂である。(c)アクリル樹脂が、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有することにより、(a)ナノシート表面及び(b)有機オニウム化合物との親和性が高まるため、(b)有機オニウム化合物を介して(a)ナノシートに吸着できる。これにより、(c)アクリル樹脂の少なくとも一部は(a)ナノシートの層間に存在できる。
【0047】
(c)アクリル樹脂は、アクリルモノマーを重合させることによって形成できる。アクリル樹脂としてはナノシートの層間にインターカレーションしやすい観点からアミノ基又はアミド基を有しているものや、イソシアヌル酸環を有しているものが好ましい。
【0048】
(c)アクリル樹脂は、アミノ基又はアミド基を有するアクリル樹脂である場合、例えばアミノ基又はアミド基を有しているアクリルモノマーを重合して得ることができる。
【0049】
アミノ基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
アミド基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0051】
(c)アクリル樹脂は、イソシアヌル酸環を有するアクリル樹脂である場合、例えばイソシアヌル酸環を有しているアクリルモノマーを重合して得ることができる。
【0052】
イソシアヌル酸環を有しているアクリルモノマーとしては、例えば、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(例えば、アロニックスM215/東亞合成株式会社製)、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート(例えば、アロニックスM313及びアロニックスM315/何れも東亞合成株式会社製)、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(M327/東亞合成株式会社製)、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(例えば、NC−3000/日本化薬株式会社製)、等が挙げられる。
【0053】
また、ガスバリア層において(a)ナノシートを(c)アクリル樹脂中に良好に固定する観点から、(c)アクリル樹脂は、アクリル基を2つ以上有するアクリルモノマーの重合体であることが好ましい。アクリル基を2つ以上有するアクリルモノマーとしては、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、ペンタアクリレート化合物、ヘキサアクリレート化合物、等が挙げられる。中でも、アクリル基を2つ以上有し、更にアミド基又はイソシアヌル酸環を有しているアクリルモノマーはより好ましい。アクリル基を2つ以上有し、更にアミド基又はイソシアヌル酸環を有しているアクリルモノマーの具体例としては、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(例えば、アロニックスM215/東亞合成株式会社製)、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート(例えば、アロニックスM313及びアロニックスM315/何れも東亞合成株式会社製)、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(M327/東亞合成株式会社製)、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(例えば、NC−3000/日本化薬株式会社製)、等が挙げられる。
【0054】
また、(c)アクリル樹脂を形成するために用いるアクリルモノマーは、上記したものに加え、下記に列挙するような、追加のアクリルモノマーをさらに含有していても良いが、(a)ナノシートをガスバリア層中で良好に固定する観点から、追加のアクリルモノマーの含有量は少ないほうが好ましい。(c)アクリル樹脂を形成するためのアクリルモノマーが含有しても良い追加のアクリルモノマーとしては、例えば、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、ペンタアクリレート化合物、ヘキサアクリレート化合物、フェノールノボラック型エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0055】
ジアクリレート化合物としては、EO変性ジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ビスフェノールFEO変性ジアクリレート、ビスフェノールAEO変性ジアクリレート等、トリアクリレート化合物としては、ECH変性グリセロールトリアクリレート(分子中にECH繰り返し単位を3〜6有するもの)、EO変性グリセロールトリアクリレート(分子中にEO繰り返し単位を3〜12有するもの)、PO変性グリセロールトリアクリレート(分子中にPO繰り返し単位を3〜9有するもの)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(M306)、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(分子中にEO繰り返し単位を3〜9有するもの)、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等、ペンタアクリレート化合物としては、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート等、ヘキサアクリレート化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0056】
(c)アクリル樹脂を形成する際には、アクリル樹脂の合成において従来公知の重合開始剤を使用できる。重合開始剤としては、典型的にはラジカル重合開始剤を使用できる。ラジカル重合開始剤は熱ラジカル重合開始剤でも光ラジカル重合開始剤でも良い。
【0057】
熱重合開始剤としては、例えば、AIBN、及び、和光純薬工業株式会社製のアゾ系重合開始剤である、VA−044、VA−046B、VA−50、VA−057、VA−060、VA−061、VA−067、VA−080、VA−086等が挙げられる。
【0058】
また光重合開始剤としては、例えば、ミヒラーズケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2−t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、ベンジル、ジフェニルジスルフィド、フェナンスレンキノン、リボフラビンテトラブチレート、2,6−ビス(p−ジエチルアミノベンザル)−4−メチル−4−アザシクロヘキサノン、N−エチル−N−(p−クロロフェニル)グリシン、N−フェニルジエタノールアミン、3,3,4,4−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル]チタン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−(o−エトキシカルボニル)オキシイミノ−1,3−ジフェニルプロパンジオン、1−フェニル−2−(o−エトキシカルボニル)オキシイミノプロパン−1−オン、1,3−ジフェニル−1,2,3−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0059】
重合開始剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0060】
(c)アクリル樹脂は、例えば重合禁止剤、重合抑制剤、界面活性剤、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、等の添加剤を含有していてもよく、また溶媒と組合せた状態であっても良い。
【0061】
ガスバリア層中の(c)アクリル樹脂の含有量は、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは3〜55質量%、さらに好ましくは5〜50質量%である。上記含有量が60質量%超である場合、ガスバリアシートの平滑性が低下する虞があり、1質量%未満である場合、良好な水蒸気ガスバリア性が発現できない虞がある。上記含有量は、熱重量分析測定及び熱分解成分のマススペクトル測定による同定を組み合わせ実施することにより算出される値である。
【0062】
[ガスバリア層及びガスバリアシートの特性]
本発明のガスバリアシートは、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含むガスバリア層を有する。ガスバリアシートは、ガスバリア層単独でもよいし、例えば後述する方法で基板上にガスバリア層が製膜により積層されてなる、基板とガスバリア層とからなるものでもよいし、基板上に積層したガスバリア層を剥離し、これを新たな支持体上に積層して形成された、支持体とガスバリア層とからなるガスバリアシートでもよい。またガスバリアシートは、ガスバリア層と基板及び/又は支持体とに加えて、後に詳しく述べるような、用途に応じた、無機材料からなるガスバリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐための保護層、表面を平滑化するための平滑化層、ガスバリア層と基板及び/又は支持体との接着性を改善する為のアンカーコート層等の層をさらに有してもよい。
【0063】
また、本発明に係るガスバリアシートには、必要に応じ、表面に平滑性を付与する目的でトップコートを施すことができる。
【0064】
基板は、特に限定されないが、プラスチックフィルムであることが好ましい。基板をガスバリアシートの部材としてそのまま用いる態様において、ガスバリアシートに透明性が要求される場合には、基板にも可視光の透過性が要求される。可視光の透過性を有する基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、トリアセチルセルロール樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂等を挙げることができる。耐熱性の点からはポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂及びフッ素樹脂が好適であり、透明性と耐熱性及び耐溶剤性とのバランスからはポリエチレンナフタレート樹脂が好適であり、コストの点からはポリエチレンテレフタレート樹脂が好適である。
【0065】
((a)ナノシートの面配向の確認)
ガスバリア層においては、(a)ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行であるように該(a)ナノシートが積層されている。これによって、優れた水蒸気ガスバリア性が付与される。X線回折装置によりガスバリア層のX線回折スペクトルを測定すると、積層した(a)ナノシートを構成する鉱物結晶の001面の一次回折によるスペクトルが明瞭に観察でき、かつその他のピークとしても00n面(nは整数)の一次回折を示すピークしか現れない。このことから、ガスバリア層中の(a)ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行に並んでいることが確認される。
【0066】
X線回折装置によるX線回折スペクトル測定について説明する。X線回折装置によるX線回折スペクトル測定は、銅のKα線である1.54Åの波長を用い、気温25℃相対湿度50%でX線回折測定を実施する。スペクトルのピークトップの二面角2θを求め、その2θの値からd=1.54/(2sinθ)としてd値を算出することができる。d値は、ナノシート同士が積層した際の、ナノシート上面間の距離に相当し、前述の(a)ナノシートの単位厚みtと単位層間の距離との和に対応する。
【0067】
本発明のガスバリアシートが有するガスバリア層において、典型的には、(a)ナノシートの層間に(c)アクリル樹脂がインターカレーションされているため、(c)アクリル樹脂を使用しない場合と比べてd値の拡大が認められる。d値が大きすぎると層間距離が広がりすぎてガスバリア層がガスの透過を抑制できず、d値が小さすぎると、(c)アクリル樹脂がインターカレートしていないことを意味しており(a)ナノシートを充分に(c)アクリル樹脂中に固定できず、ガスバリア性が低下してしまう。
【0068】
その為、本発明におけるガスバリア層は、X線回折スペクトルの001面の一次回折によるピークトップが、1.75°<2θ<6.76°であることが好ましい。すなわち、上記方法により算出したd値に換算すると、d値が1.31nmより大きく6.76nm未満であることが好ましい。
【0069】
<ガスバリアシートの製造方法>
次に本発明に係るガスバリアシートの製造方法について説明する。本発明のガスバリアシートの製造方法としては、例えば以下のような方法を採用できる。
【0070】
すなわち本発明の別の態様は、上述した本発明のガスバリアシートを製造する方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、塗工膜を基板上に形成する、製膜工程と、
(5)該塗工膜を光照射及び/又は加熱に供してアクリルモノマーを重合させることによって、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含むガスバリア層を形成する、硬化工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリアシートの製造方法を提供する。
【0071】
以下に、上記の製造方法の好適な態様についてより詳しく説明する。
【0072】
[プレ分散液調製工程]
(水分散液の調製)
本工程においては、上述した(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体からプレ分散液を得る。まず、交換性イオンを有する層状無機化合物をへき開して形成した(a)ナノシートが水に分散されてなる水分散液を調製する。水分散液とは、分散媒中の水が50質量%超100質量%以下である分散液を意味する。分散媒は、水に加え、例えば1種以上の有機溶剤を含んでもよい。
【0073】
上記水分散液は、例えば、水にある程度分散した状態で市販されている層状無機化合物の分散液を用い、該分散液中の層状無機化合物をさらにへき開すること等によって調製してもよい。
【0074】
なお、市販されている分散液の分散状態が低く充分にへき開できずにナノシートが得られない場合、又は分散媒と層状無機化合物とから水分散液を得る場合は、以下に示す方法を実施することができる。
【0075】
水分散液としての所望の高い分散状態を得るためには、公知の微分散装置、例えば、振とう装置、超音波分散、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等によって層状無機化合物に機械的な力を加えて該層状無機化合物のへき開をより促進することが、単位層であるナノシートまでへき開した分散状態に近づけることができる点で好ましい。
【0076】
水分散液として好適な高い分散状態を得るためのもう1つの方法としては、高い分散状態にある層状無機化合物を分離・抽出して用いる方法を挙げることができる。すなわち、分散程度の低い成分を、遠心分離法のように大きな重力加速度を引加する分離方法等で分離し、分散程度の高いナノシートが多い成分を抽出して用いることが好ましい。
【0077】
層状無機化合物のへき開との安定した分散のために、比較的低分子量のポリアクリル酸ナトリウム若しくはポリアクリル酸、又はリン酸といった公知のアニオン系に代表される分散剤を極僅か、具体的には層状無機化合物の質量に対して0.5質量%未満、好ましくは0.15質量%程度、水分散液中に添加してもよい。
【0078】
(水分散液の処理)
次に、上記で調製した水分散液から本発明におけるプレ分散液を得るために、該水分散液を処理する。
【0079】
本発明の一態様においては、上記水分散液を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理する。(b)有機オニウム化合物の好ましい具体例は、[(b)有機オニウム化合物]の項で前述した通りである。この態様によれば、(b)有機オニウム化合物を該イオン交換樹脂から供給できる。
【0080】
本発明の一態様においては、下記の方法で水分散液をイオン交換樹脂で処理することによって、水分散液中の余剰イオンを減少させることができる。余剰イオンとは、前述の水分散液中のイオンのうち、ナノシートの電荷の補償に寄与する量を超えて存在する分の、イオン(陽イオン、及びその対となって存在する陰イオンの両方を表わす)を指す。余剰イオンを除去することによって、分散媒が水を主とする分散液ばかりでなく、分散媒が有機溶媒を主とする分散液においても、ナノシートの分散安定性を大幅に向上することができる。
【0081】
イオン交換樹脂によって水分散液を処理する方法を説明する。該処理においては、まず陰イオン交換樹脂を用いて余剰の陰イオンを水酸化物イオンに交換し、次いで陽イオン交換樹脂を用いて余剰の陽イオンをアンモニウムイオン及び水素イオンの少なくともいずれか一方に交換することが好ましい。この場合、陰イオン交換によって生じた余剰の水酸化物イオンと陽イオン交換によって生じた余剰のアンモニウムイオン又は水素イオンとが反応し、水、又は容易に除去可能なアンモニアが生成する為、分散液中のイオン濃度を増大させることなく、水分散液から実質的に余剰イオンを除去することができる。
【0082】
陽イオン交換と陰イオン交換との順序としては、イオン交換樹脂処理が、陰イオンを交換する第1段階と、第1段階の後に陽イオンを交換する第2段階とを含むようにすることが好ましい。特に、ナノシートの平均アスペクト比が150以上のフッ素化ヘクトライト及びフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母)においては、陰イオンを先に交換した後、陽イオンを交換することが極めて好適である。この順番を逆又は実質的に同時に行うと、カラムの詰まりの発生や経時的に分散液のゲル化が進行する場合がある。
【0083】
上記した処理により、プレ分散液を得ることができる。プレ分散液中の好ましい余剰イオンの量としては、プレ分散液中の(a)ナノシートの含有割合をk質量%としたとき、陰イオン種の残留量の合計が、(0.0002k)mol/L以下となるような量であり、より好ましくは(0.00016k)mol/L以下となるような量であり、更に好ましくは(0.0001k)mol/L以下となるような量であり、最も好ましくは(0.00006k)mol/L以下となるような量である。なお、余剰イオンは少ない程好ましい。
【0084】
特に、プレ分散液中の陰イオン種が硫酸イオンである場合、プレ分散液中の硫酸イオンの割合は、(0.00001k)mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは(0.000005k)mol/L以下であって、最も好ましくは(0.000002k)mol/L以下である。
【0085】
上記陰イオン種及び陰イオン種のそれぞれのイオン量並びにこれらの合計は、以下の方法で測定される各イオンの量から合計を算出することにより得られる。分散液中のイオン量は、陽イオンに関しては、TSKgel Super IC−Cationカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、0.50mMol/Lのヒスチジンと2.5mMolの硝酸との混合溶液を溶離液として用い、流速1.0mL/分、注入量30μLの条件での測定により、陰イオンに関しては、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.7mMolのNaHCO3溶液と1.8mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件での測定により得られる値である。
【0086】
本発明において、(b)有機オニウム化合物が、アンモニウムに陽イオンが配位結合して生じるオニウム化合物である場合、陰イオン交換樹脂を用いて余剰の陰イオンを水酸化物イオンに交換し、次いで陽イオン交換樹脂を用いて余剰の陽イオンをアンモニウムイオンに交換することにより、(a)ナノシートの層間に(b)有機オニウム化合物としてアンモニウムに陽イオンが配位結合して生じるオニウム化合物を存在させることができる。
【0087】
本工程によって、(b)有機オニウム化合物が添加される場合、プレ分散液中に層状無機化合物の陽イオン交換容量に相当する量より余剰に(b)有機オニウム化合物が存在する場合もあるが、少なくともナノシートの陽イオン交換容量に相当する量の(b)有機オニウム化合物がイオン交換により添加される。
【0088】
本発明において、後述する塗工液調製工程で有機オニウム化合物前駆体を添加しない場合、プレ分散液中の(b)有機オニウム化合物は、層状無機化合物の陽イオン交換容量に相当する量がガスバリア層中において(b)有機オニウム化合物として存在すると推定される。余剰の(b)有機オニウム化合物は後続の有機溶媒分散液調製工程又は製膜工程又は硬化工程において、有機オニウム化合物前駆体に変換されるか揮発するものと推定される。
【0089】
その為、本工程において、プレ分散液中の(b)有機オニウム化合物の含有量は、プレ分散液中の(a)ナノシートの量を100質量%としたときに、好ましくは、0.18〜60質量%、さらに好ましくは0.72〜45質量%である。上記含有量が60質量%超である場合、ガスバリアシートの透明性及び平滑性が低下する虞があり、0.1質量%未満である場合、良好な水蒸気ガスバリア性が発現できない虞がある。
【0090】
プレ分散液中の(a)ナノシートの量は、例えばガスバリア層中の(a)ナノシートの含有量と同様にガスバリア層を試料として熱重量分析測定をすることにより評価できる。プレ分散液中の(a)ナノシートは後続の工程により揮発又は分解することなく、そのまま全量がガスバリア層中に含有されると推定される。
【0091】
[有機溶媒分散液調製工程]
本工程においては、プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒に置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る。有機溶媒分散液とは、分散媒中の有機溶媒が50質量%超100質量%以下である分散液を意味する。上記有機溶媒分散液調製工程を経ることにより、(a)ナノシートの有機修飾を必要とせずに、水に難溶なアクリル樹脂又はアクリルモノマーを(a)ナノシートと組み合わせて用いることができる。
【0092】
本発明に係る製造方法は、この点において、従来の水を主な分散媒とする分散液又はナノシートを有機修飾によって有機溶媒に分散させた分散液とは大きく異なる。
【0093】
なお、本工程においては、上記有機溶媒分散液(すなわち分散媒の50質量%超が有機溶媒である分散液)が得られる程度に、プレ分散液中の水を有機溶媒に置換するか又はプレ分散液に有機溶媒を添加すればよく、プレ分散液中の水の全てを有機溶媒に置換することは必須ではない。
【0094】
有機溶媒分散液調製工程の効果的な手法としては、プレ分散液に、水と相溶性の高い有機溶媒を混合する方法を挙げることができる。また、あらかじめプレ分散液を濃縮し水の割合を減少させた後に有機溶媒を混合する方法を用いても良い。
【0095】
水と相溶性の高い有機溶媒としては、極性の高い有機溶媒を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、ジアセトンアルコール、フリフリルアルコール、アセト酢酸エチル、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセトン、アセトニルアセトン、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、酢酸、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N,N−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、カルバミド酸メチル、γブチロラクトン、トリアセチン、ギ酸イソプロピル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル等を挙げることができる。
【0096】
なかでも、ナノシートの分散安定性の観点からN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンが好ましい。
【0097】
上記の有機溶媒は1種類のみをプレ分散液と混合してもよく、異なる複数の種類をプレ分散液と混合してもよい。異なる複数の種類の有機溶媒をプレ分散液と混合する場合には、プレ分散液に順次有機溶媒を添加してもよいし、予め所定の割合に混合した有機溶媒をプレ分散液に添加してもよいし、その両方の方法を併用してもよい。
【0098】
好適な有機溶媒置換工程は、プレ分散液と有機溶媒とを混合後、水の割合を減少させて、分散媒中の有機溶媒の割合を増加させる方法である。この方法により、分散媒の50質量%超を有機溶媒が占める有機溶媒分散液を得ることができる。
【0099】
プレ分散液と有機溶媒とを混合した後に水の割合を減少させる方法としては、例えばプレ分散液と有機溶媒との混合物である分散液を常圧又は減圧下で加熱して、水を選択的に蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、混合する有機溶媒の沸点が水の沸点よりも高い場合に好ましく採用できる。
【0100】
また、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、ソーダ石灰、硫酸マグネシウム、ある種のイオン交換樹脂等の水吸着剤を用いて分散媒中の水の量を減少させてもよい。また、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のシラン化合物、又はマグネシウムエチラート等を用いて加水分解反応によって水を除去してもよい。また水と有機溶媒との分子サイズの違いに対応するような平均細孔径サイズを有する半透膜、例えば限外濾過膜、精密濾過膜又は逆浸透膜を用いた濾過法によって水を除去してもよい。これらの方法を複数併用してもよい。
【0101】
有機溶媒分散液中の、分散媒中に占める水の割合は、35質量%以下まで減少させることが好ましく、25質量%以下まで減少させることがより好ましい。特に、水に難溶なアクリル樹脂又はアクリルモノマーを加える際には、さらに水の割合を減少させることが好ましい。そのような場合、水の割合は0.1質量%以上、15質量%以下まで減少させることが好ましく、10質量%以下まで減少させることがさらに好ましい。
【0102】
[塗工液調製工程]
本工程においては、有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル基のうち1種以上を有するアクリルモノマー(すなわち所望の(c)アクリル樹脂の原料のアクリルモノマー)を添加することで、塗工液を調製できる。(c)アクリル樹脂の原料であるアクリルモノマーの種類の好ましい態様については、[(c)アクリル樹脂]の項で前述した通りである。なお本工程において、前述したような追加のアクリルモノマーをさらに添加しても良い。
【0103】
本工程においては、必要に応じて、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加することができる。有機オニウム化合物前駆体は、アクリルモノマーの添加の前、後、又は該添加と同時に添加できる。添加できる有機オニウム化合物前駆体の詳細及び好ましい例は[(b)有機オニウム化合物]の項で前述した通りである。
【0104】
添加された有機オニウム化合物前駆体は、後続の任意の時点で陽イオン付加により(b)有機オニウム化合物に変換されることができる。前述のプレ分散液調製工程において(b)有機オニウム化合物を含むイオン交換樹脂で水分散液を処理し、かつ本工程において有機オニウム化合物前駆体を添加する態様においては、本工程で添加される有機オニウム化合物前駆体と、(a)ナノシート層間にすでに存在する(b)有機オニウム化合物との間でのプロトン交換がさらに生じて、有機オニウム化合物前駆体にプロトンが付加されても良い。
【0105】
塗工液中の有機オニウム化合物前駆体は、(a)ナノシート層間にすでに存在する(b)有機オニウム化合物との間でのプロトン交換を経てナノシートの陽イオン交換容量に相当する量がガスバリア層中にて有機オニウム化合物として存在すると推定される。塗工液への有機オニウム化合物前駆体の添加量は、塗工液中の(a)ナノシートの量を100質量%としたときに、好ましくは、0.1〜60質量%、さらに好ましくは0.7〜45質量%である。上記含有量が60質量%超である場合、ガスバリアシートの透明性及び平滑性が低下する虞があり、0.1質量%未満である場合、良好な水蒸気ガスバリア性が発現できない虞がある。
【0106】
有機オニウム化合物前駆体の添加量がナノシートの陽イオン交換容量に相当する量より多い場合は、余剰の有機オニウム化合物前駆体は、有機オニウム化合物に変換されずに有機オニウム化合物前駆体のままガスバリア層中に存在するか、後続の製膜工程又は硬化工程において揮発するものと推定される。また、有機オニウム化合物前駆体の添加量がナノシートの陽イオン交換容量に相当する量に満たない場合は、不足する量に相当する分の有機オニウム化合物は、ナノシート層間にすでに存在する(b)有機オニウム化合物がそのままガスバリア層中にて有機オニウム化合物として存在すると推定される。
【0107】
塗工液中の(a)ナノシートの量は、プレ分散液中の(a)ナノシートの量より算出することができる。塗工液中の(a)ナノシートは、後続の工程により揮発又は分解することなく、そのまま全量がガスバリア層中に含有されると推定される。
【0108】
塗工液中の、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーの含有量は、ガスバリア層を構成する成分の量(すなわち塗工液中の溶媒以外の全成分)を100質量%としたときに、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは3〜60質量%、さらに好ましくは5〜50質量%である。上記含有量が70質量%超である場合、ガスバリアシートの平滑性が低下する虞があり、1質量%未満である場合、良好な水蒸気ガスバリア性が発現できない虞がある。
【0109】
後述の製膜工程における基板上での液垂れを抑制する観点から、塗工液の固形分濃度(なお、塗工液から分散媒を除いたものを固形分と定義する)としては、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましい。
【0110】
[製膜工程]
本工程においては、塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、塗工膜を基板上に形成する。塗工液を基板上に塗工する方法としては、例えば、バーコート、グラビアコート、ローラーコート、ダイコート、ブレードコート、ディップコート、ドクターナイフ、スプレーコート、フローコート、スピンコート、スリットコート、はけ塗り、及びこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0111】
塗工後、オーブン、ホットプレート等により加熱処理を行う方法等によって分散媒を除去し、上記塗工液から形成された塗工膜が基板上に積層されている積層シートを形成できる。
【0112】
得られた積層シートは次の硬化工程を経てそのままガスバリアシートとして用いてもよいし、積層シート上の塗工膜を剥離し別の基板に積層した後、硬化工程を経てガスバリアシートとして用いてもよい。
【0113】
上記積層シートをそのままガスバリアシートとする場合は、塗工膜を基板から剥離しにくくするために、基板の表面に、アンカーコート層を設けておいてもよい。
【0114】
また、積層シート上の塗工膜を剥離し別の基板に積層する場合は、積層シートとして用いる基板の表面に易剥離処理を施してもよい。
【0115】
[硬化工程]
本工程においては、上記塗工膜を光照射及び/又は加熱に供し、塗工膜中のアクリルモノマーを重合させて(c)アクリル樹脂を形成する。
【0116】
光照射に用いる光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、タングステンランプ、アルゴンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザー等が挙げられる。この中で、高圧水銀灯及び超高圧水銀灯が好ましい。塗工膜に光照射を施しアクリルモノマーを硬化させる場合は、空気雰囲気下で光照射をしても硬化が進行する。これは塗工膜中の(a)ナノシートにより硬化阻害を引き起こす酸素との接触が抑制されている為と推定される。
【0117】
加熱はオーブン、ホットプレート等により行うことができる。
【0118】
以上により、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含むガスバリア層が形成される。
【0119】
本発明においては、上記(1)プレ分散液調製工程、(2)有機溶媒分散液調製工程、(3)塗工液調製工程、(4)製膜工程、(5)硬化工程の5つの工程を上記記載の順で行うことにより、基板上にガスバリア層を形成できる。基板とガスバリア層とからなるガスバリアシートを製造する場合には他の工程は必須ではないが、他の層を更に有するガスバリアシートを製造する場合には、上記(1)〜(5)の工程の少なくともいずれかの前又は後に、他の層を形成するための工程を任意に追加できる。また、上記基板からガスバリア層を剥離した後、別の支持体上に該ガスバリア層を再度積層する工程等を更に含むこともできる。
上記手順により、ガスバリア層を有するガスバリアシートを製造できる。
【0120】
なお、本発明においては、塗工液が得られるまでの任意のタイミングの分散液中に、後述するような添加剤、並びに他の任意の追加の添加剤等を混合してもよい。
【0121】
有機溶媒分散液には、水分が多いと析出等によって容易に均一に混合できないような、水に難溶な疎水性の有機物をも添加剤として均一に組み合わせることができる。
【0122】
上記添加剤は、本発明における任意の工程の分散液の分散媒に均一に溶解又は微分散するものであれば特に限定されず、公知の任意のものを用いることができる。上記添加剤は、それ自体で、又は適当な溶媒に溶解若しくは分散させてなる溶液若しくは分散液の状態で、本発明における任意の工程の分散液と組み合わせることができる。
【0123】
本発明に係る製造方法によって得られるガスバリアシートは、イオン交換樹脂による処理を経て製造されるため、ガスバリア層中にナトリウムをほとんど含まない。このような素材はアルカリ金属を嫌う用途、例えば電子デバイスの基板及び封止膜、梱包材、並びに光学フィルム等の用途に好適であると考えられる。
【0124】
本発明に係るガスバリアシートを電子デバイス用途に用いる場合、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ及び電子ペーパー等のディスプレイ用途、並びに有機EL照明用途、並びに太陽電池用途等に用いることが好適である。
【0125】
またCD−R及びDVD等の記録媒体の情報記録部位を酸素等から保護する保護膜、さらに、食品、医薬品又は電子部品等を梱包する包装材又は容器に用いることができる。
【0126】
また、基板上に形成したガスバリア層を剥離して別の支持体上に積層することによって、ガスバリアシートを形成する場合は、酸化珪素、アルミニウム、亜鉛スズ、並びに鉛の酸化物、炭化物、窒化物、酸炭化物、酸窒化物、炭化窒化物及び酸炭化窒化物のうちの1種又は2種以上の混合物等からなる、従来公知の任意のガスバリア材料を支持体として用いてもよい。
【0127】
さらに、特開2007−63118号公報に開示があるような水膨潤性(吸湿性)を有する膜に本発明のガスバリアシートを積層してもよい。水膨潤性(吸湿性)を有する膜に水蒸気バリア性の高いシートを積層することは、特開2007−22075号公報に開示があるように、高い水蒸気ガスバリア性を発現させるために好適である。
【0128】
本発明の別の態様は、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であり平均アスペクト比が150以上である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、塗工液の製造方法を提供する。
【0129】
上記した態様においては、塗工液調製工程において、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加してもよい。
【0130】
上記した態様の塗工液の製造方法における各工程は、前述のガスバリアシートの製造方法におけるプレ分散液調製工程、有機溶媒分散液調製工程及び塗工液調製工程とそれぞれ同様に行うことができる。製造された塗工液は、ガスバリアシート以外の用途に応用しても良い。塗工液は、例えば、低線膨張係数を有するシート、難燃性を有するシート、耐候性を有するシート、耐熱性を有するシート等を形成するために使用できる。
【実施例】
【0131】
以下に、実施例を記載する。なお、以下の実施例及び比較例における分散液及び材料の物性は、下記の方法で評価した。
【0132】
<分散液中のイオンの存在割合>
イオンクロマトグラフィー分析に関しては、陽イオンの場合、TSKgel Super IC−Cationカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、0.50mMol/Lのヒスチジンと2.5mMolの硝酸との混合溶液を溶離液として用い、流速1.0mL/分、注入量30μLの条件にて実施して定量した。陰イオンに関しては、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.7mMolのNaHCO3溶液と1.8mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件にて実施して定量した。
【0133】
<分散液中の(a)ナノシートの平均粒子径>
動的光散乱法によって平均粒子径を決定した。装置としては、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELSZ−2を用い、液温25℃にて約0.005質量%から0.5質量%の範囲で分散液の濃度を変化させ、その範囲内で濃度に対するゼータ電位の依存性が認められない範囲を決定した。さらにその範囲内で散乱強度の高い濃度を任意に決定し、その濃度で3回測定を実施して、キュムラント解析結果に基づく平均粒子径の平均値をその分散液中の(a)ナノシートの平均粒子径とした。
【0134】
<差圧法によるガスバリアシートの水蒸気ガスバリア性評価>
JIS K7126に準拠したGTRテック株式会社製のガス・水蒸気透過率測定装置GTR−30XAASを用い、透過面積50.24cm2、差圧1気圧、酸素ガスをキャリアガスとして40℃相対湿度90%において5分積算にて測定した。装置の測定限界は0.002g/m2・day未満である。なお測定は高湿度環境側にガスバリア層を接触させて実施した。
【0135】
<等圧法によるガスバリアシートの水蒸気ガスバリア性評価>
JIS K7129Bに準拠した、MOCON社製の水蒸気透過率測定装置PERMATRAN W3/33を用い、透過面積50cm2、40℃相対湿度90%にて行った。
【0136】
<ガスバリアシートのX線回折分析>
株式会社リガクのX線回折装置「RINT−2500」によって行った。X線波長は、Cu/Kαの1.54056Åを用いた。測定環境は気温25℃相対湿度50%で行った。
【0137】
<ガスバリアシートの断面TEM画像>
日立株式会社のTEM「HF−2000」にて200kVで観察を行った。得られたガスバリアシートの断面をFIBにより加工してサンプル作製した。
【0138】
<ガスバリアシートの作製>
[ナノシート原料の準備]
層状無機化合物として、陽イオン交換容量が約80meq/100gであり、層間イオンが主としてナトリウムイオンである溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、トピー工業株式会社製)を用いた。
【0139】
[プレ分散液調製工程1]
(水分散液の準備1)
前記フッ素化ヘクトライトの分散液を純水で希釈して固形分濃度を2質量%とした分級NHT水分散液400gを、遠心分離装置himac CR20(株式会社日立製作所製)を用い、ローター番号13、500ml遠沈管を用い、8000rpm10分の条件で遠心分離を行って、沈降物を分離除去した。得られた水分散液1の固形分濃度は0.92質量%であった。また、分散液中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は4.2質量%、フッ素イオンが同0.28質量%、硫酸イオンが同0.11質量%であった。動的散乱法によって測定された(a)ナノシートの平均粒子径は約1800nmであった。この平均粒子径の値と、(a)ナノシートの単位厚みが0.95nmであることとから、(a)ナノシートの平均アスペクト比は1895と算出される。
【0140】
(イオン交換処理1)
1Nの水酸化カリウムによって十分に水酸化物イオン型に調整した後に純水で十分に洗浄した陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400、オルガノ株式会社製)40mlをガラス製のカラムに詰めて、200mlの水分散液1を1秒毎に約1滴の速度で上記の陰イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、水酸化物イオンへの陰イオン交換を行った。
【0141】
1Nの塩化アンモニウム水溶液によって十分にアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120B、オルガノ株式会社製)約40mlをガラス製のカラムに詰めて、前述の陰イオン交換を行った後の分散液を、1秒毎に約1滴の速度で上記の陽イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、アンモニウムイオンへの陽イオン交換を行った。得られた分散液をさらに同じ遠心分離装置によって8000rpm10分の条件で遠心分離を行い、わずかに発生した沈降物を分離除去して、プレ分散液1を得た。上記イオン交換処理により、プレ分散液1中にはアンモニウムが(b)有機オニウム化合物として存在する。
【0142】
得られたプレ分散液1の固形分濃度は0.78質量%であった。このプレ分散液1中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は0.04質量%、アンモニウムイオンが同3.2質量%、フッ素イオンが同0.014質量%、硫酸イオンが同0.002質量%であった。
【0143】
[有機溶媒分散液調製工程1]
前記プレ分散液1の50gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、残留水分の割合が約4質量%にまで低減された、DMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約1.67質量%の透明な有機溶媒分散液1を約24g得た。
【0144】
ガスクロマトグラフィーによって分析された該分散液中の水の含有量は約4質量%であった。
【0145】
前記有機溶媒分散液1を1滴取り出した後十分にDMFで希釈し、新鮮な雲母のへき開面に塗布して、AFMにてナノシートの厚みを測定したところ、平均粒子径が数μmの平均アスペクト比が大きなナノシートのものも含め、ほぼ全て約1nmであり、(a)ナノシートが有機溶媒中で単層にまで剥離して分散していることが示唆された。
【0146】
[プレ分散液調製工程2]
前記(水分散液の準備1)と同様の材料及び手順で、固形分濃度2質量%の分級NHT水分散液400gを、遠心分離装置により8000rpm10分の条件で遠心分離を行った。その後、遠沈管の上層の260gと下層とを除去して得られた90gを取り分け、水分散液2を得た。得られた水分散液2の固形分濃度は2.4質量%であった。また、水分散液2中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は4.2質量%、フッ素イオンが同0.28質量%、硫酸イオンが同0.11質量%であった。動的散乱法によって測定された(a)ナノシートの粒子径は約3000nmであった。この値から、(a)ナノシートの平均アスペクト比は3158と算出される。
【0147】
(イオン交換処理2)
水分散液2を、固形分濃度が0.90質量%となるように希釈し、(イオン交換処理1)におけるイオン交換と同様の手順で水分散液2のイオン交換を実施し、プレ分散液2を得た。上記イオン交換処理により、プレ分散液2中にはアンモニウムが(b)有機オニウム化合物として存在する。
【0148】
得られたプレ分散液2の固形分濃度は1.07質量%であった。このプレ分散液2中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は0.04質量%、アンモニウムイオンが同3.2質量%、フッ素イオンが同0.014質量%、硫酸イオンが同0.002質量%であった。
【0149】
[有機溶媒分散液調製工程2]
前記プレ分散液2の500gとDMF300gとを1Lのナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、残留水分の割合が約7質量%にまで低減された、DMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約2.91質量%の透明な有機溶媒分散液2を約180g得た。
【0150】
[塗工液調製工程]
前記有機溶媒分散液に、所望のアクリルモノマー、有機オニウム化合物前駆体である、N原子を有する化合物、及び重合開始剤等の添加剤を、後述の通り添加し、攪拌した。添加したものが有機溶媒分散液に溶解したら攪拌しながらダイアフラムポンプで減圧脱気し、塗工液を得た。
【0151】
[製膜工程]
各実施例中に記載の手順で実施し、基板上に塗工膜が積層されてなる積層シートを得た。
【0152】
[硬化工程]
得られた積層シートに、高圧水銀灯にてi線強度で25mW/cm2の強度にて500mJ/cm2のエネルギー量を大気下にて露光した。次いで、オーブンにて50℃から180℃まで2時間かけて昇温し、180℃にて2時間保持をする加熱処理を施し、ガスバリアシートを得た。
【0153】
[実施例1]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒分散液調製工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.67質量%の有機溶媒分散液10gと、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーであるアロニックスM−215(東亞合成株式会社製)48mg、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーであるNC−3000(日本化薬株式会社製)16mg、アミド基を有するアクリルモノマーであるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(東京化成株式会社製)16mg、及び光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01(チバ・ジャパン株式会社製)4mgを6.62gのDMFに溶かした溶液を混合し、[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例1の塗工液を得た。
【0154】
実施例1の塗工液を、アルミ基板上にPEN基板(テオネックスQ65、帝人化成株式会社製)を置き、SUS製枠でネジ締めした型枠内(175mm×140mm×2mm)に、3.44g流し込み、液膜厚みが均一となるように塗り広げた。その後、この型枠をホットプレート上に置き50℃で2時間、60℃で1時間、70℃で0.5時間、さらに80℃で0.5時間乾燥処理を行った。次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例1のガスバリアシートを得た。
【0155】
[実施例2]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒分散液調製工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.67質量%の有機溶媒分散液7.95gと、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーであるアロニックスM−215(東亞合成株式会社製)106mg、アミノ基及びアミド基を有するアクリルモノマーであるN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド(東京化成株式会社製)27mg、及び光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01 7mgを0.72gのDMFに溶かした溶液とを混合し[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例2の塗工液を得た。
【0156】
実施例2の塗工液2.29gを実施例1同様の手順でPEN基板上に塗工し、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例2のガスバリアシートを得た。
【0157】
[実施例3]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒分散液調製工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.67質量%の有機溶媒分散液10gと、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーである、アロニックスM−215 48mg及びNC−3000 16mg、アミド基を有するアクリルモノマーであるN,N’−メチレンビスアクリルアミド8mg、アミノ及びアミド基を有するアクリルモノマーであるN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド8mg、並びに光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01 6mgを6.62gのDMFに溶かした溶液とを混合し、[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例3の塗工液を得た。
【0158】
実施例3の塗工液3.44gを実施例1同様の手順でPEN基板上に塗工し、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例3のガスバリアシートを得た。
【0159】
[実施例4]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒分散液調製工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.67質量%の有機溶媒分散液9.58gと、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーである、アロニックスM−215 30mg及びNC−3000 10mg、アミド基を有するアクリルモノマーであるN,N’−メチレンビスアクリルアミド10mg、並びに光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01 2.5mgを5.97gのDMFに溶かした溶液とを混合し[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例4の塗工液を得た。
【0160】
実施例4の塗工液4.07gを実施例1同様の手順でPEN基板上に塗工し、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例4のガスバリアシートを得た。
【0161】
[実施例5]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒分散液調製工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.67質量%の有機溶媒分散液9.58gと、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーである、アロニックスM−215 19.7mg及びNC−3000 7mg、アミド基を有するアクリルモノマーであるN,N’−メチレンビスアクリルアミド7mg、並びに光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01 2mgを5.97gのDMFに溶かした溶液とを混合し[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例5の塗工液を得た。
【0162】
実施例5の塗工液4.07gを実施例1同様の手順でPEN基板上に塗工し、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例5のガスバリアシートを得た。
【0163】
[実施例6]
上記[プレ分散液調製工程2]及び[有機溶媒分散液調製工程2]を経て得られた、固形分濃度が約2.91質量%の有機溶媒分散液5gに、有機オニウム化合物前駆体である(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン17mg、イソシアヌル酸環を有するアクリルモノマーであるアロニックスM−313 44mg並びに光ラジカル開始剤イルガキュア127(チバ・ジャパン株式会社製)2mgを0.78gのDMFに溶かした溶液とを混合し、[塗工液調製工程]に記載する手順で、実施例6の塗工液を得た。
【0164】
実施例6の塗工液をクリアランスが100マイクロメートルのアプリケーターを用い、PEN基板上に塗工した。
【0165】
塗工した基板をオーブンで50℃にて10分乾燥し、塗膜の流動性がなくなったら更に温度を上げ乾燥を施し、積層シートを得、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、実施例6のガスバリアシートを得た。
【0166】
[比較例1]
上記[プレ分散液調製工程2]及び[有機溶媒分散液調製工程2]を経て得られた、固形分濃度が約2.91質量%の有機溶媒分散液をそのまま塗工液として用い、実施例6同様にPEN基板上に塗工した。塗工した基板をオーブンで50℃にて10分乾燥し、塗膜の流動性がなくなったら更に温度を上げ乾燥を施し、積層シートを得、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、比較例1のガスバリアシートを得た。
【0167】
[比較例2]
上記[プレ分散液調製工程1]及び[有機溶媒置換工程1]を経て得られた、固形分濃度が約1.42質量%の有機溶媒分散液10gと、NKオリゴEA1020(新中村化学株式会社製)42.6mg、及び光ラジカル開始剤イルガキュアOXE−01 4mgを0.379gのDMFに溶かした溶液とを混合し[塗工液調製工程]に記載する手順で、比較例2の塗工液を得た。
【0168】
比較例2の塗工液4.07gを実施例1同様の手順でPEN基板上に塗工し、次いで[硬化工程]に記載の処理を施し、比較例2のガスバリアシートを得た。
【0169】
図1は、実施例及び比較例において作製したガスバリアシートのX線回折測定結果を示す図であり、図2は、実施例2において作製したガスバリアシートの断面TEM画像を示す図である。また、表1に、X線回折測定におけるピークトップの2θの値、及び水蒸気ガスバリア性の評価結果を示す。
【0170】
【表1】

【0171】
2θの値については、ピークトップが1.75°<2θ<6.76°にあるものを○、上記範囲にないものを×とした。また表中、「−」は評価していないことを示す。
【0172】
各実施例の評価結果が示すように、本発明に係るガスバリアシートにおいては、(a)ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行に並んでおり、水蒸気ガスバリア性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、
該ガスバリア層が、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含み、
該(a)ナノシートが、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種類以上の層状無機化合物のへき開物であり、
該(a)ナノシートの平均アスペクト比が150以上であり、
該(c)アクリル樹脂が、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有し、かつ
該ガスバリア層において、該(a)ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該(a)ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。
【請求項2】
該(b)有機オニウム化合物が、アンモニアにプロトンが結合しているアンモニウム化合物である、請求項1に記載のガスバリアシート。
【請求項3】
該(b)有機オニウム化合物が、アミンにプロトンが結合しているアミノ化合物である、請求項1に記載のガスバリアシート。
【請求項4】
該アミンが、炭素数8以下のアミンである、請求項3に記載のガスバリアシート。
【請求項5】
該(a)ナノシートの平均アスペクト比が500以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項6】
該ガスバリア層中の(a)ナノシートの含有量が45質量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項7】
該(c)アクリル樹脂が、アクリル基を2つ以上有するアクリルモノマーの重合体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項8】
該層状無機化合物が、スメクタイト族のフッ素化スメクタイトである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項9】
該層状無機化合物が、雲母族のフッ素化雲母である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガスバリアシートを製造する方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと(b)有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、塗工膜を基板上に形成する、製膜工程と、
(5)該塗工膜を光照射及び/又は加熱に供してアクリルモノマーを重合させることによって、(a)ナノシート、(b)有機オニウム化合物及び(c)アクリル樹脂を含むガスバリア層を形成する、硬化工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリアシートの製造方法。
【請求項11】
該塗工液調製工程において、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加する、請求項10に記載のガスバリアシートの製造方法。
【請求項12】
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であり平均アスペクト比が150以上である(a)ナノシートが水に分散してなる水分散体を、(b)有機オニウム化合物を含有するイオン交換樹脂で処理して、(a)ナノシートと(b)有機オニウム化合物とを含有するプレ分散液を得る、プレ分散液調製工程と、
(2)該プレ分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該プレ分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液に、アミノ基、アミド基及びイソシアヌル酸環のうち1種以上を有するアクリルモノマーを添加して塗工液を調製する塗工液調製工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、塗工液の製造方法。
【請求項13】
該塗工液調製工程において、該有機溶媒分散液に、陽イオンの付加によって(b)有機オニウム化合物を与える化合物である有機オニウム化合物前駆体をさらに添加する、請求項12に記載の塗工液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219651(P2011−219651A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91340(P2010−91340)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】