説明

ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバとその作製方法および作製装置

【課題】ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを提供すること。
【解決手段】ナノチューブ単体のみから形成され、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列し、相互間に介在物を挟まずに直接密着してファンデルワース力で結合し、長尺のファイバを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバとその作製方法および作製装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバと、この長尺ファイバを確実かつ効率よく作製することのできる作製方法および作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表されるナノチューブの単体(以下、ナノチューブ単体)は、軽量、高強度、高弾性、高靱性などの優れた特性を持ち、現状の構造材料特性の水準を大きく超える構造材料素材であり、また、高性能の電気化学的アクチュエータ素材であるとともに、高導電性や高熱伝導性なども併せ持つ。
【0003】
なお、ナノチューブ単体には、一般に、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、単層・多層ナノチューブ束が含まれる。
【0004】
従来、たとえばカーボンナノチューブについては、カーボンナノチューブ単体が持つ強度などの特性をバルク材料に活かすために、カーボンナノチューブ単体をできるだけ均一で高濃度にエポキシ樹脂などのマトリクスに分散させるという試みがなされている。
【0005】
しかしながら、マトリクスに均一に分散させることのできるカーボンナノチューブ単体の量は、およそ20wt%が限界であり、しかもカーボンナノチューブ単体の方向を揃えることが難しく、カーボンナノチューブ単体とマトリクスとの結合が弱いなどのために、カーボンナノチューブ単体が本来持つ強度特性があまり活かされてなく、アクチュエータ機能も消失している。
【0006】
そこで、カーボンナノチューブ単体の配合密度を向上させるとともに、方向を揃えるために、カーボンナノチューブ単体と酸との混合物を凝固剤中に湿式紡糸する方法(特許文献1)や紡糸する際に加熱延伸させる方法(特許文献2)、また、カーボンナノチューブ単体と酸との混合物に磁場を負荷する方法(特許文献3)が提案されている。さらに、紡糸の際に、ファイバ押出口とファイバ押出口の前方に配置した対向電極との間に電圧をかける方法(非特許文献1)が提案されてもいる。
【特許文献1】特開2005−502792号公報
【特許文献2】特開2005−344227号公報
【特許文献3】特開2003−512286号公報
【非特許文献1】National Textile Center Annual Report: November 2004, NTC Project: M04-CL05
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの方法により作製されるファイバも、溶媒などの介在物、不純物を40%以上含むものであり、カーボンナノチューブ単体のアラインメント(整列性)が良好ではない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて
高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバと、この長尺ファイバを確実に効率よく作製することのできる作製方法および作製装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1に、ナノチューブ単体のみから形成され、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列し、相互間に介在物を挟まずに直接密着してファンデルワース力で結合し、長尺のファイバを形成していることを特徴としている。
【0010】
本発明は、第2に、ナノチューブが、カーボンナノチューブまたはボロンナイトライドナノチューブであることを特徴としている。
【0011】
本発明は、第3に、金属チップと、複数のナノチューブ単体を分散させた脱イオン水との間に電場を負荷し、電気泳動法により金属チップの先端に請求項1または2記載のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを形成させることを特徴としている。
【0012】
本発明は、第4に、脱イオン水1リットルに対し、ナノチューブ単体を0.001〜0.1グラム分散させることを特徴としている。
【0013】
本発明は、第5に、1〜100ボルトで0.2〜20メガヘルツの交流電場を負荷することを特徴としている。
【0014】
本発明は、第6に、金属チップと、複数のナノチューブ単体が分散した脱イオン水を保持し、金属チップに対向する対向電極と、金属チップと対向電極との間に電場を負荷する電源と、金属チップを引き上げる駆動装置とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバが実現される。ナノチューブ単体の持つ強度特性、高導電性、アクチュエータ機能などの特性を発現し、構造材料やスマート材料の機能を格段に向上させることのできる素材が提供される。
【0016】
第2の発明によれば、カーボンナノチューブ長尺ファイバまたはボロンナイトライドナノチューブ長尺ファイバが提供される。
【0017】
第3の発明によれば、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを確実に効率よく作製することができる。
【0018】
第4および第5の発明によれば、上記長尺ファイバをより確実に効率よく作製することができる。
【0019】
第6の発明によれば、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、ナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを確実に効率よく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバは、ナノチューブ単体のみから形成され、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列し、相互間に介在物を挟まずに
直接密着してファンデルワース力で結合して形成されたものである。すなわち、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバは、カーボンナノチューブやボロンナイトライドナノチューブなどのナノチューブの単体を用いて長尺のファイバを作製する過程において混入の避けられなかった配合物質、残存溶媒、不純物などを一切含まない、ナノチューブ単体のみから形成された純粋な組成を持つ。また、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバは、ナノチューブ単体が一方向に揃えられ、ナノチューブ単体同士が介在物を挟まず、直接ファンデルワース力で結合した構造を持つ。このような組成と構造を持つため、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバは、ナノチューブ単体の持つ強度特性、高導電性、アクチュエータ機能などの特性を発現し、構造材料やスマート材料の機能を格段に向上させることのできる素材である。たとえば、縒りあるいは編んでロープあるいは布に形成することにより高強度材料素材が実現可能である。超高強度ロープや軽量高強度の送電線、マイクロマシン用などのアクチュエータなどとして提供することが可能である。
【0021】
本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバは、図1に概略を示した作製装置を用いて作製することができる。
【0022】
すなわち、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製装置は、金属チップ1と、複数のナノチューブ単体が分散した脱イオン水2を保持し、金属チップ1に対向する、たとえばリング状などに形成することのできる対向電極3と、金属チップ1と対向電極3との間に電場を負荷する電源4と、金属チップ1を引き上げる駆動装置5とを備えている。このような作製装置は、たとえば光学顕微鏡6のステージ上に組み立てることができる。
【0023】
本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを作製する際には、図2の工程概略図に示したように、金属チップ1の尖った先端部を、対向電極3により保持された、複数のナノチューブ単体7が分散した脱イオン水2に浸漬し、金属チップ1と対向電極3との間に電源4により電場を負荷する。すると、ナノチューブ単体7が分極し、略等しい大きさのナノチューブ単体7が電気泳動により金属チップ1の先端に引き寄せられ、付着し、電場方向に整列してファイバ8が形成する。この状態において駆動装置5を作動させて金属チップ1を脱イオン水2から引き上げると、ファイバ8と脱イオン水2の液面との間に形成されるメニスカス9によりナノチューブ単体7の軸方向が揃えられ、さらにファイバ8にかかる毛細管圧縮応力や電場によりナノチューブ単体7が整列し、ナノチューブ単体7が一方向に平行に配列した長尺のファイバ8が形成する。長尺のファイバ8は、ナノチューブ単体7のみからなる純粋な組成を持ち、長尺のファイバ8においてナノチューブ単体7同士は、介在物を挟まず、直接ファンデルワース力で結合する。
【0024】
すなわち、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法では、金属チップ1と、複数のナノチューブ単体7を分散させた脱イオン水2との間に電場を負荷し、電気泳動法により金属チップ1の先端にナノチューブ単体7から形成された長尺ファイバを形成させる。
【0025】
このような本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製装置と作製方法によって、ナノチューブ単体のみから形成された高純度で、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列した整列性のきわめて高い、本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを確実に効率よく作製することができる。
【0026】
本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法では、長尺ファイバをより確実により効率よく作製するために、複数のナノチューブ単体7を分散させた脱イオン水2として、脱イオン水1リットルに対し、ナノチューブ単体を0.001〜0.1
グラム分散させたものを好適に用いることができる。また、負荷する電場は、1〜100ボルトで0.2〜20メガヘルツの交流電場とするのが好ましい。
【0027】
以下に実施例を示す。
【実施例】
【0028】
図1に示した作製装置を光学顕微鏡6のステージ上に組み立てた。作製装置において、金属チップ1としてタングステン針を用い、先端を電解研磨により十分に尖らせた。対向電極3として金属リングを用い、内側に複数のカーボンナノチューブ単体が分散した脱イオン水2を保持することができるものとした。駆動装置5は、10〜100μm/min
の一定速度でタングステン針を引き上げることができるものとした。
【0029】
カーボンナノチューブ単体には単層カーボンナノチューブを用い、イオン交換によりイオンを除去した脱イオン水中に、純水1リットルに対し、0.01グラムの割合で単層カーボンナノチューブを加え、超音波振動処理により均一に分散させた。このカーボンナノチューブ分散水の液滴を金属リングに保持させた。
【0030】
金属リング内の液滴にタングステン針の先端を浸漬させ、タングステン針と金属リングとの間に10ボルト、2メガヘルツの交流電場を負荷し、タングステン針を10〜100μm/minの一定速度で引き上げた。
【0031】
タングステン針の先端には、交流電場により、選択された大きさの単層カーボンナノチューブだけが集まり、付着し、電場方向に配列し、さらに水の表面張力によって生じるメニスカスの形成と毛細管圧縮力によりアラインメントはきわめて良好となった。タングステン針の引き上げにより、図3に示したような長尺のカーボンナノチューブファイバが作製された。図3は、走査型電子顕微鏡によるカーボンナノチューブ長尺ファイバの写真である。タングステン針の先端に細く一様で欠陥のないカーボンナノチューブ長尺ファイバが形成しているのが確認される。
【0032】
このカーボンナノチューブ長尺ファイバを高分解能透過型顕微鏡で観察した組織写真を図4に示す。不純物がなく、カーボンナノチューブ単体が一方向にきわめて高いアラインメントで配列し、高密度で相互に密着して結合し、結晶状となっているのが確認される。
【0033】
カーボンナノチューブ単体に替え、ナノチューブ単体として単層ボロンナイトライドナノチューブを用いることにより、ボロンナイトライドナノチューブ長尺ファイバが作製された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製装置の概略を示した構成図である。
【図2】本発明のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法について模式的に示した工程概略図である。
【図3】実施例で作製したカーボンナノチューブ長尺ファイバの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例で作製したカーボンナノチューブ長尺ファイバを高分解能透過型電子顕微鏡で観察した組織写真である。
【符号の説明】
【0035】
1 金属チップ
2 複数のナノチューブ単体が分散した脱イオン水
3 対向電極
4 電源
5 駆動装置
6 光学顕微鏡
7 ナノチューブ単体
8 ファイバ
9 メニスカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノチューブ単体のみから形成され、複数のナノチューブ単体が一方向に平行に配列し、相互間に介在物を挟まずに直接密着してファンデルワース力で結合し、長尺のファイバを形成していることを特徴とするナノチューブ単体から形成された長尺ファイバ。
【請求項2】
ナノチューブが、カーボンナノチューブまたはボロンナイトライドナノチューブである請求項1記載のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバ。
【請求項3】
金属チップと、複数のナノチューブ単体を分散させた脱イオン水との間に電場を負荷し、電気泳動法により金属チップの先端に請求項1または2記載のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバを形成させることを特徴とするナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法。
【請求項4】
脱イオン水1リットルに対し、ナノチューブ単体を0.001〜0.1グラム分散させる請求項3記載のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法。
【請求項5】
1〜100ボルトで0.2〜20メガヘルツの交流電場を負荷する請求項3または4記載のナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製方法。
【請求項6】
金属チップと、複数のナノチューブ単体が分散した脱イオン水を保持し、金属チップに対向する対向電極と、金属チップと対向電極との間に電場を負荷する電源と、金属チップを引き上げる駆動装置とを備えていることを特徴とするナノチューブ単体から形成された長尺ファイバの作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290908(P2007−290908A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120555(P2006−120555)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】