説明

ナノファイバーの製造方法およびナノファイバー

【課題】セルロース系の繊維原料から、十分に微細化されたナノファイバーを効率よく製造することが可能なナノファイバーの製造方法、および、該方法により製造される、十分に微細化されたナノファイバーを提供する。
【解決手段】(a)セルロース系の繊維原料を湿式で離解し、(b)離解された繊維原料を予備的に解繊して粗繊維化した後、(c)予備解繊された繊維原料に超音波を印加して微細繊維化する超音波処理を行うとともに、(c)の超音波処理工程が終了するまでのいずれかの時点で、繊維原料に酵素を作用させる。
(a)の離解工程,(b)の予備解繊工程,(c)の超音波処理工程の少なくとも1つの工程を酵素を作用させつつ実施する。
酵素として、セルラーゼ系酵素、キシラナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の少なくとも1種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ナノファイバーおよびナノファイバーの製造方法に関し、詳しくは、予備解繊された繊維原料を微細繊維化する工程に特徴を有するナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を微小な繊維幅の微細繊維状セルロースにする方法として、例えば、繊維状セルロースの水懸濁液を少なくとも3000psiの圧力差で小径オリフィスを高速度で通過させる高圧ホモジナイザー処理の方法により、微細繊維状セルロース化する方法がある(特許文献1参照)。
この方法の場合、繊維状セルロース懸濁液に高圧をかけて細いオリフィスを数十回も通す必要があるので、処理効率が低いという問題点がある。
【0003】
また、古紙(セルロース繊維)や、くず皮革(コラーゲン繊維)に水を含浸させてマスコロイダーに投入し、5〜20回繰り返し磨砕処理して脱水した後、サブミクロン単位に解繊し、微細繊維化する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながらこの方法の場合、磨砕処理が非常に多く処理効率が低いばかりでなく、砥石の削り粉が不純物として混入し、製品品質が低下するという問題点がある。
【0005】
また、メディア撹拌式粉砕機で微細繊維状セルロースを得る方法も提案されている(特許文献3参照)が、繊維状セルロースを懸濁液としたものを直接に粉砕機に投入して粉砕を行っているため、微細繊維状セルロース化に要する時間が非常に長くなり、生産性が低いという問題点がある。
【0006】
その他にも、微細繊維状セルロースの製造方法が提案されているが、いずれも改善の余地があるものであり、十分に微細化された繊維状セルロースをさらに効率よく製造することが可能なナノファイバーの製造が求められているのが実情である。
【特許文献1】特開2000−17592号公報
【特許文献2】特開平8−284090号公報
【特許文献3】特開平6−212587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、セルロース系の繊維原料から、十分に微細化されたナノファイバーを効率よく製造することが可能なナノファイバーの製造方法、および、該方法により製造される、十分に微細化されたナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)のナノファイバーの製造方法は、
(a)セルロース系の繊維原料を湿式で離解する離解工程と、
(b)離解された繊維原料を予備的に解繊して粗繊維化する予備解繊工程と、
(c)予備解繊された繊維原料に超音波を印加して微細繊維化する超音波処理工程と
を備え、かつ、
前記(c)の超音波処理工程が終了するまでのいずれかの時点で、繊維原料に酵素を作用させること
を特徴としている。
【0009】
また、請求項2のナノファイバーの製造方法は、前記(a)の離解工程,前記(b)の予備解繊工程,前記(c)の超音波処理工程の少なくとも1つの工程を酵素を作用させつつ実施することを特徴としている。
【0010】
また、請求項3のナノファイバーの製造方法は、請求項1または2の発明の構成において、
前記酵素として、セルラーゼ系酵素、キシラナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の少なくとも1種を用いるとともに、
前記繊維原料に酵素を作用させるにあたって、ドライベースの繊維100重量部に対して0.001〜10重量部の割合で前記酵素を添加して、前記繊維原料に酵素を作用させること
を特徴としている。
【0011】
また、請求項4のナノファイバーの製造方法は、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、前記超音波処理工程で用いる超音波の周波数が、5kHz〜100kHzであることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5のナノファイバーの製造方法は、請求項4の発明の構成において、前記超音波処理工程で用いる超音波の周波数が、10kHz〜40kHzであることを特徴としている。
【0013】
また、請求項6のナノファイバーの製造方法は、請求項1〜5のいずれかの発明の構成において、前記予備解繊工程が、前記繊維原料を機械的に解繊する機械式解繊手段を用いて実施されることを特徴としている。
【0014】
また、請求項7のナノファイバーの製造方法は、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、前記(b)の予備解繊工程が、リファイナー、媒体撹拌ミル、振動ミル、石臼式磨砕機のいずれか1種を用いて実施されることを特徴としている。
【0015】
また、請求項8のナノファイバーの製造方法は、請求項1〜7のいずれかの発明の構成において、前記超音波処理工程が、固形分含有割合が0.1〜10重量%のスラリー状態で実施されることを特徴としている。
【0016】
また、請求項9のナノファイバーの製造方法は、請求項1〜8のいずれかの発明の構成において、前記繊維原料が、木質パルプ系材料であることを特徴としている。
【0017】
また、請求項10のナノファイバーの製造方法は、請求項9の発明の構成において、前記木質パルプ系材料として、木チップをパルプ化し、脱リグニン処理および脱ヘミセルロース処理を施した後の未乾燥パルプを用いることを特徴としている。
【0018】
また、本願発明(請求項11)のナノファイバーは、請求項1〜10のいずれかのナノファイバーの製造方法により製造されたナノファイバーであって、沈降性が500ml/g以上で、乾燥成型後の引張り強度が60N/mm2以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本願発明(請求項1)のナノファイバーの製造方法は、離解された繊維原料を予備的に解繊した後、予備解繊された繊維原料に超音波を印加して微細繊維化する(すなわち、超音波ホモジナイザー処理する)とともに、超音波処理工程が終了するまでのいずれかの時点で、繊維原料に酵素を作用させるようにしているので、酵素作用による微細繊維化促進作用と、超音波よる高微細化作用により、十分に微細化されたナノファイバーを効率よく製造することが可能になる。
【0020】
また、請求項2のナノファイバーの製造方法のように、(a)の離解工程,(b)の予備解繊工程,及び(c)の超音波処理工程の少なくとも1つの工程を、酵素を作用させつつ実施することにより、酵素の働きでセルロース繊維の非晶領域を選択的に切断したり、繊維原料中の、ミクロフィブリル間の接着剤的役割を果たしているキシログルカン、ヘミセルロース成分を選択的に切断したりする効果を得ることが可能になり、繊維原料の離解や予備解繊を効率よく行うことが可能になる。その結果、ナノファイバー化(ミクロフィブリル化)を促進させることが可能になり、十分に微細化されたナノファイバーを効率よく製造することができる。
なお、通常は、上記微細繊維化工程である超音波処理工程において酵素を作用させることにより、微細繊維化の効果を大幅に向上させることができるため、超音波処理工程では酵素を存在させることが望ましい。
【0021】
また、請求項3のナノファイバーの製造方法のように、請求項1または2の発明の構成において、酵素として、セルラーゼ系酵素、キシラナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の少なくとも1種を用いるとともに、繊維原料に酵素を作用させるにあたって、ドライベースの繊維100重量部に対して0.001〜10重量部の割合で酵素を添加して、繊維原料に酵素を作用させることにより、ナノファイバー化(ミクロフィブリル化)をより促進させることができる。
【0022】
すなわち、セルラーゼ系酵素は、セルロース繊維の非晶領域を選択的に切断する機能があり、また、キシラナーゼ系酵素およびヘミセルラーゼ系酵素は、繊維原料中の、ミクロフィブリル間の接着剤的役割を果たしているキシログルカン、ヘミセルロース成分を選択的に切断したりする機能があるため、これらの機能を発揮させることにより、繊維原料のナノファイバー化(ミクロフィブリル化)をより促進させることができる。
【0023】
なお、酵素の添加量は、ドライベースの繊維100重量部に対して0.001〜10重量部とすることが好ましく、0.001〜5重量部の範囲とすることがより好ましい。
本願発明において、酵素の添加量を0.001〜10重量部の範囲としたのは、酵素の添加量が0.001重量部を下回ると酵素処理の効果が不十分になり、10量部を超えて添加しても、添加量の増大に見合う効果の向上が認められないことによる。なお、酵素の添加量は通常は、5重量部までで足りることが多く、その場合には、所望の効果を確保しつつ、コストの増大を抑えることができる。
なお、酵素処理に用いられる酵素は上記の酵素に限られるものではなく、上記以外の酵素を用いて行うことも可能である。
【0024】
また、請求項4のナノファイバーの製造方法のように、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、超音波処理工程で用いる超音波の周波数を5kHz〜100kHzとすることにより、効率よく繊維原料をナノファイバー化(ミクロフィブリル化)することが可能になる。
なお、超音波の周波数を5kHz〜100kHzとしたのは、超音波周波数を下げるとキャビテーションの強度が大きくなることは理論的に言われており、これにより微細化の効率が向上することは予想されるが、現状における利用可能な超音波発生装置の仕様を考慮すると、5kHzを下限とすることが妥当であること、100kHzを超えるとキャビテーションの強度が弱く、その発生が少なくなり、繊維原料をナノファイバー化する効果が低くなることによる。
【0025】
また、請求項5のナノファイバーの製造方法のように、超音波処理工程で用いる超音波の周波数を、10kHz〜40kHzとすることによりさらに効率よく繊維原料をナノファイバー化(ミクロフィブリル化)することが可能になる。
【0026】
また、請求項6のナノファイバーの製造方法のように、請求項1〜5のいずれかの発明の構成において、予備解繊工程を、繊維原料を機械的に解繊する機械式解繊手段を用いて実施することにより、効率よくしかも確実に繊維原料を予備解繊することができる。
【0027】
また、請求項7のナノファイバーの製造方法のように、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、予備解繊工程を、リファイナー、媒体撹拌ミル、振動ミル、石臼式磨砕機のいずれか1種を用いて実施することにより、予備解繊をより確実に行うことが可能になり、本願発明をより実効あらしめることができる。
なお、リファイナーは溝を有した金属製のプレートを回転させて繊維原料を予備的に解繊するものである。
なお、予備解繊に用いられる設備は上記の設備に限られるものではなく、上記以外の設備を用いて行うことも可能である。
【0028】
また、請求項8のナノファイバーの製造方法のように、請求項1〜7のいずれかの発明の構成において、超音波処理工程が、固形分含有割合を0.1〜10重量%のスラリー状態で実施することにより、ナノファイバー化(ミクロフィブリル化)後の水分除去の負荷が大きくなりすぎることを抑制しつつ、超音波を利用して効率よくナノファイバー化(ミクロフィブリル化)することが可能になり、本願発明をより実効あらしめることができる。
【0029】
また、請求項9のナノファイバーの製造方法のように、請求項1〜8のいずれかの発明の構成において、繊維原料として、木質パルプ系材料を用いることにより、入手しやすい材料から効率よくナノファイバーを製造することができる。
なお、木質パルプ系材料としては、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプ、炭酸ソーダパルプなどの化学パルプ、機械パルプ、ケミグランドパルプ、古紙から再生された再生パルプなどが例示される。これらのパルプ系材料は、1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。また、これらパルプ系材料の原料としては、針葉樹チップ、広葉樹チップ、ソーダスト等の木材系セルロース原料、非木材系セルロース原料(例えば、バガス、ケナフ、ワラ、アシ、エスパルト等の一年生植物)を例示することができる。
【0030】
また、請求項10のナノファイバーの製造方法のように、請求項11の発明の構成において、木質パルプ系材料として、木チップをパルプ化し、脱リグニン処理および脱ヘミセルロース処理を施した後の未乾燥パルプ、すなわち、いわゆるネバードライパルプ(NEVER DRY PULP)を用いることにより、さらに効率よくナノファイバーを製造することが可能になる。なお、ネバードライパルプは、乾燥処理前の状態で取り出したもので、非常に膨潤した状態にあり、繊維がほぐれやすく、効率よく微細繊維化を行うことが可能で、ナノファイバー化(ミクロフィブリル化)をより促進させることができる。
【0031】
また、本願発明(請求項11)のナノファイバーは、請求項1〜10のいずれかのナノファイバーの製造方法により製造されたものであり、沈降性が500ml/g以上で、乾燥成型後の引張り強度が60N/mm2以上であり、優れた機械的特性を有しており、種々の成形体の構成材料として広く用いることが可能である。また、本願発明のナノファイバーを用いることにより、強度の大きい成形体を提供することができる。
なお、沈降性とは、固形分(ナノファイバー)が0.1重量%となるように水に分散し、この水分散液100mlをメスシリンダーに入れて1時間静置したときの沈降体積(上澄み部分ではない懸濁部分の体積)を測定し、この沈降体積から下記の式により求めた値である。
沈降性(ml/g)=沈降体積(ml)/固形分(ナノファイバー)(g)
【0032】
また、このような要件を備えたナノファイバーは、上述の本願発明のナノファイバーの製造方法により効率よく製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
以下、図1を参照しつつ、離解工程、予備解繊工程(リファイナー処理工程)、および、予備解繊された繊維原料に超音波を印加して微細繊維化する超音波処理工程を備えた実施例1のナノファイバーの製造方法について説明する。
【0035】
(1)繊維原料として、ネバードライパルプを用い、これに水を添加して固形分濃度が3重量%になるように調整した。
(2)それから、酵素としてセルラーゼ(ノボザイムズジャパン株式会社製、Novozym476)を、ドライベースの繊維100重量部に対して3重量部の割合で添加し、酵素を作用させつつ15時間撹拌して離解処理を行った(図1:STEP1)。
【0036】
(3)次に、離解処理が行われた後の、酵素を含む繊維原料(スラリー)を、リファイナー(株式会社サトミ製作所製:A型ビートファイナー)を用いて、循環回数10回(10パス)の条件でリファイナー処理を行い、繊維原料を予備解繊(粗繊維化)した(図1:STEP2)。
【0037】
(4)その後、予備解繊したあとの繊維原料(酵素を含むスラリー)を、図2に示すような超音波ホモジナイザー3を備えた微細繊維化装置10を用いて超音波処理を行い、繊維原料をナノファイバー化した(図1:STEP3)。なお、この微細繊維化装置10は、超音波発生装置1および超音波端子2を備えた超音波ホモジナイザー3、超音波端子2が挿入されるリアクター4、予備解繊が済んだ原料繊維(スラリー)を溜める循環槽5、原料繊維(スラリー)6を循環槽5とリアクター4の間で循環させる循環ポンプ7を備えた構成とされている。
【0038】
この実施例において、上記の超音波処理の時間は、15min、30min、60min、120min、180minとした。
【0039】
超音波処理(微細繊維化処理)は、株式会社エス・エム・テー製の「UH-600SH循環ホルダー付き」を用い、超音波を印加しながら、循環ポンプにて繊維原料スラリーを、所定時間(15min、30min、60min、120min、180min)循環させることにより行った。また、超音波の周波数は20kHzとした。
【0040】
超音波処理を行う前の繊維原料(予備解繊工程が終了した状態の繊維原料)と、予備解繊された繊維原料について60minの超音波処理を行うことにより得たナノファイバーをマイクロスコープ(株式会社キーエンス製 VHX−100F)により撮影したマイクロスコープ写真を図3および図4に示す。
【0041】
図3及び図4より、超音波処理を行っていない繊維原料(図3参照)の場合、微細繊維化が不十分で、繊維が長いものも多く含まれているが、超音波処理を行ったもの(図4参照)については、微細繊維化(ミクロフィブリル化)が十分に進行していることがわかる。
【0042】
また、特にマイクロスコープ写真は示していないが、超音波処理時間を30min以上行った試料(30min、120min、180minの試料)の場合、図4にマイクロスコープ写真を示す、超音波処理を60mi行った試料の場合と同様に、十分に微細化されたナノファイバーが得られることが確認されている。
【0043】
したがって、他の条件にもよるが、通常、超音波処理は30min程度以上行えば、十分な微細繊維化効果が得られるものと推測される。さらに、超音波処理工程までの前処理の条件によれば、さらに短時間で微細繊維化を行うことが可能な場合もあるものと考えられる。
【0044】
また、ナノファイバーの微細繊維化を評価するため、超音波処理を行う前の繊維原料と、超音波処理(15min、30min、60min、120min、180min)することにより得た各試料(ナノファイバー)について沈降性を測定するとともに、60minの超音波処理を行って得た微細繊維をシート化し乾燥させた試料(シート)について引張り試験を行い、強度(引張り強度)を調べた。
なお、引張り強度は、JISK7161に記載の「プラスチック−引張特性の試験方法」に準じて測定し、引張強度測定機は、株式会社島津製作所製:10Tonオートグラフ「AG−100kNG」を用いた。
なお、以下の比較例1および2の試料の引張り強度も、同様にして測定した。
【0045】
なお、沈降性は、試料を固形分0.1重量%となるように水に分散させた水分散液100mlをメスシリンダーに入れ、1時間静置したときの沈降体積(上澄み部分ではない懸濁部分の体積)を測定し、下記の式により求めた。
沈降性(ml/g)=沈降体積(ml)/固形分(ナノファイバー)(g)
沈降性の測定結果を下記の表1に示す。
なお、この沈降性と引張り強度に関しては、後述の比較例1および2の試料の沈降性、引張り強度の測定結果と対比しつつ、以下にまとめて説明する。
【0046】
[比較例1]
また、本願発明のナノファイバーの製造方法における酵素の効果を確認するため、酵素を添加しないことを除いて、上記実施例1の場合と同じ方法で、微細繊維化を行った。
すなわち、上記実施例1では、離解処理の工程(図1のSTEP1)において、酵素を添加したが、この比較例1では、酵素を添加せずに、離解処理を行い、その後、上記実施例1の場合と同様の方法及び条件で、予備解繊処理を行い、超音波処理を行った。
【0047】
図5に、180minの超音波処理を行った試料のマイクロスコープ写真を示す。
酵素処理を併用しないこの比較例1の方法の場合、図5に示すように、超音波処理を180min実施しても、十分に微細繊維化することができないことが確認された。
【0048】
また、この比較例1の各試料、すなわち、15min、30min、60min、120min、180minの条件で超音波処理を行って得た各試料について沈降性を測定するとともに、60minの超音波ホモジナイザー処理を行って得た微細繊維をシート化し乾燥させた試料(シート)について引張り試験を行い、強度(引張り強度)を調べた。
その結果を、下記の表1に併せて示す。
【0049】
[比較例2]
また、本願発明のナノファイバーの製造方法における超音波処理の効果を確認するため、超音波処理を行わないことを除いて、上記実施例1の場合と同じ方法で、微細繊維化を行った。
すなわち、この比較例2では、離解処理の工程で酵素を添加し、その後の工程でも酵素を作用させながら各工程を実施した。ただし、この比較例2では、実施例1の図1のSTEP3の工程は、超音波処理は行わず、酵素を作用させるだけの工程とした。
【0050】
図6に、予備解繊処理後の微細繊維化工程において超音波処理を行わず、酵素のみを180min作用させた試料のマイクロスコープ写真を示す。
【0051】
図6に示すように、微細繊維化工程で超音波処理を行わずに、酵素のみを処理させた場合には、微細繊維化処理を180min実施しても、十分に微細繊維化することができないことが確認された。
【0052】
また、この比較例2の各試料、すなわち、15min、30min、60min、120min、180minの条件で酵素を作用させた各試料について沈降性を測定するとともに、60minの超音波処理を行って得た微細繊維をシート化し乾燥させた試料(シート)について引張り試験を行い、強度(引張り強度)を調べた。
その結果を、下記の表1に併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、超音波処理を酵素処理と併せて行った実施例1の方法の場合、比較例1および2と比べて、沈降性および引張り強度が、大幅に改善されていることがわかる。
また、超音波処理時間を30min以上行った場合、超音波処理を60min行った場合よりもいくらか劣るが、かなり良好な沈降性、および、引張り強度を有するナノファイバーが得られることがわかる。
【0055】
一方、酵素処理を併用しない比較例1の方法の場合、表1に示すように、超音波処理を180min実施しても、十分な沈降性、引張り強度を得ることはできないことがわかる。
【0056】
また、超音波処理を併用しない比較例2の方法の場合、表1に示すように、微細化処理工程として酵素を180min作用させる工程を実施しても、十分な沈降性、引張り強度を得ることができないことがわかる。
【0057】
上述の実施例1と、比較例1および2とを対比することにより、超音波処理と、酵素処理を併用して、微細繊維化を行うようにした実施例1のナノファイバーの製造方法においては、超音波処理と酵素処理のいずれか一方だけでは実現することができないような、高度の微細繊維化処理が可能になり、特性の良好なナノファイバーが得られることがわかる。
【0058】
なお、上記実施例1では、酵素として、セルラーゼを用いているが、キシラナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素などの他の酵素を用いることも可能である。
また、上記実施例1では、酵素の添加量をドライベースの繊維100重量部に対して3重量部の割合としているが、酵素の添加量はこれに限定されるものではなく、本願発明の効果を損なわない範囲で添加量を調整することが可能である。
【0059】
また、上記実施例1では、印加する超音波の周波数を20kHzとしているが、超音波の周波数はこれに限らず、その他の条件を考慮して、適切な周波数を選択することが可能である。
【0060】
また、上記実施例1では、離解処理工程、予備解繊処理工程、および超音波処理工程のすべての工程で酵素を存在させるようにしているが、離解処理工程、予備解繊処理工程、および超音波処理工程の少なくともいずれかの工程で酵素を作用させることにより、まったく酵素を作用させない場合に比べて、微細化の進んだナノファイバーを効率よく製造できることが確認されている。
【0061】
本願発明は、さらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、繊維原料の種類、離解工程、予備解繊工程、微細繊維化工程などの具体的な実施方法、実施条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上述のように、本願発明のナノファイバーの製造方法によれば、セルロース系の繊維原料から、十分に微細化されたナノファイバーを効率よく製造することが可能になる。
したがって、本願発明は、ナノファイバーおよびその製造に関する技術分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本願発明の実施例1のナノファイバーの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本願発明のナノファイバーの製造方法を実施するのに用いた、超音波ホモジナイザーを備えた微細繊維化装置を示す図である。
【図3】本願発明の実施例1にかかる方法により製造したナノファイバーのマイクロスコープ写真を示す図である。
【図4】超音波処理を行う前の繊維原料(予備解繊工程が終了した状態の繊維原料)のマイクロスコープ写真を示す図である。
【図5】酵素処理を併用せずに超音波処理を行うようにした比較例1の方法により製造されたナノファイバーのマイクロスコープ写真を示す図である。
【図6】超音波処理を行わずに、酵素処理だけで微細繊維化を行うようにした比較例2の方法により製造されたナノファイバーのマイクロスコープ写真を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 超音波発生装置
2 超音波端子
3 超音波ホモジナイザー
4 リアクター
5 循環槽
6 原料繊維(スラリー)
7 循環ポンプ
10 微細繊維化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)セルロース系の繊維原料を湿式で離解する離解工程と、
(b)離解された繊維原料を予備的に解繊して粗繊維化する予備解繊工程と、
(c)予備解繊された繊維原料に超音波を印加して微細繊維化する超音波処理工程と
を備え、かつ、
前記(c)の超音波処理工程が終了するまでのいずれかの時点で、繊維原料に酵素を作用させること
を特徴とするナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記(a)の離解工程,前記(b)の予備解繊工程,前記(c)の超音波処理工程の少なくとも1つの工程を酵素を作用させつつ実施することを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記酵素として、セルラーゼ系酵素、キシラナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素の少なくとも1種を用いるとともに、
前記繊維原料に酵素を作用させるにあたって、ドライベースの繊維100重量部に対して0.001〜10重量部の割合で前記酵素を添加して、前記繊維原料に酵素を作用させること
を特徴とする請求項1または2記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記超音波処理工程で用いる超音波の周波数が、5kHz〜100kHzであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記超音波処理工程で用いる超音波の周波数が、10kHz〜40kHzであることを特徴とする請求項4記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記予備解繊工程が、前記繊維原料を機械的に解繊する機械式解繊手段を用いて実施されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記(b)の予備解繊工程が、リファイナー、媒体撹拌ミル、振動ミル、石臼式磨砕機のいずれか1種を用いて実施されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
前記超音波処理工程が、固形分含有割合が0.1〜10重量%のスラリー状態で実施されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項9】
前記繊維原料が、木質パルプ系材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項10】
前記木質パルプ系材料として、木チップをパルプ化し、脱リグニン処理および脱ヘミセルロース処理を施した後の未乾燥パルプを用いることを特徴とする請求項9記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかのナノファイバーの製造方法により製造された、沈降性が500ml/g以上で、乾燥成型後の引張り強度が60N/mm2以上であることを特徴とするナノファイバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−169497(P2008−169497A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2229(P2007−2229)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(390036663)木村化工機株式会社 (27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】