ナノファイバーの製造方法及び装置
【課題】簡単な構成にて均一なナノファイバーを生産性良く製造することができるナノファイバーの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】複数の小穴3を有する導電性の回転容器としての円筒状容器1内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液11を供給し、円筒状容器1を回転させ、小穴3から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーfを生成するナノファイバーの製造方法において、円筒状容器1内の高分子溶液11の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液11を円筒状容器1から流出させ、流出した高分子溶液11を回収して再度円筒状容器1内に供給し、簡単な構成にて略一定の遠心力を作用させて均一なナノファイバーfを製造するようにした。
【解決手段】複数の小穴3を有する導電性の回転容器としての円筒状容器1内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液11を供給し、円筒状容器1を回転させ、小穴3から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーfを生成するナノファイバーの製造方法において、円筒状容器1内の高分子溶液11の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液11を円筒状容器1から流出させ、流出した高分子溶液11を回収して再度円筒状容器1内に供給し、簡単な構成にて略一定の遠心力を作用させて均一なナノファイバーfを製造するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質から成るナノファイバーの製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質から成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電荷誘導紡糸法(エレクトロスピニング法)が知られている。従来の電荷誘導紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルに高分子溶液を供給するように構成されており、針状のノズルから線状に流出する高分子溶液に電荷が帯電されることで、高分子溶液の溶媒蒸発に伴って帯電電荷間の距離が小さくなって作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力より勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が生じ、この静電爆発と称する現象が、一次、二次、場合によっては三次と繰り返されることで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバーが製造されるものである。
【0003】
こうして製造されたナノファイバーを電気的に接地された基板上に堆積させることで、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができ、さらに厚く形成することでサブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができるとともに、このナノファイバーから成る高多孔性ウェブを適用することによってそれぞれ性能を飛躍的に向上させることが期待できる。
【0004】
ところが、従来の電荷誘導紡糸法では、1本のノズルの先から1本から数本程度のナノファイバーしか製造されないので、ナノファイバー製造の生産性が上がらないという問題があった。そこで、ナノファイバーを多量に生成する方法として、複数のノズルを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1に記載された高分子ウェブ製造装置の構成を、図7を参照して説明すると、複数のノズル41を有する紡糸部42にバレル43内の液状高分子物質をポンプ44にて送給し、高電圧発生部45からノズル41に5〜50kVの高電圧を印加し、接地又はノズル41と異なる極性に帯電させたコレクタ46上にノズル41から排出されたファイバーを堆積させてウェブを形成するとともに、形成されたウェブをコレクタ46にて移送して高分子ウェブを製造するように構成されている。また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設してノズル41間の電気的干渉を最小化させるとともに、コレクタ46との間に高電圧を印加し、帯電したファイバーをコレクタ46に向けて付勢する電界を付与することも記載されている。
【0006】
さらに図8(a)、(b)に示すように、紡糸部42に、単一のノズルを複数設けるのではなく、複数本のノズル41からなるマルチノズル41Aを複数設けて構成し、各マルチノズル41Aからそれぞれ複数本のナノファイバーを生成させるようにすることも開示されている。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、図7や図8に示された構成で、一層生産性よくナノファイバーを製造するため、紡糸部42におけるノズル41及び各マルチノズル41Aにおけるノズル41の配置間隔を小さくし、単位面積当たりのノズル本数を多くしようとすると、図9に示すように、各ノズル41から流出した高分子物質が同極の電荷を帯電しているため、矢印Fで示すように互いに反発し合い、中央部のノズル41からの流出が阻害されるとともに、周辺部のノズル41からの流出方向が外側に向き、コレクタ46上でのナノファイバーの堆積分布が中央部で極端に少なく、周辺部に集中してしまい、均一な高分子ウェブを製造することができないという問題がある。
【0008】
また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設した場合、図10に示すように、ノズル41間の電気的干渉を低減させるとともに、電荷分配板47からコレクタ46に向かう電界Eが形成されることで、各ノズル41から流出した高分子物質をコレクタ46に向けて加速させる作用が得られることで、図9の場合に比して、中央部と周辺部とのナノファイバーの堆積分布の均一化をある程度図ることができる一方で、ノズル41の配置パターンがそのまま堆積分布に投影されるようになり、堆積分布の均一化に十分な効果を発揮するものではないという問題がある。
【0009】
また、ノズル41の配置密度を高くした場合、溶媒が十分に蒸発しない状態でファイバー同士が接触して互いに溶着してしまう恐れがあり、またノズル近傍の空間で蒸発した溶媒濃度が高くなって絶縁性が低下し、コロナ放電が発生してファイバーが形成されない恐れがあるという問題がある。
【0010】
また、多数のノズル41を配設した場合に、各ノズル41に対して均等に液状高分子物質を供給するのが困難であり、そのため装置構成が複雑になって設備コストが高くなるという問題がある。また、ノズル41から流出した液状高分子物質に静電爆発を起させるためには電荷を集中させる必要があり、そのため各ノズル41は細くて長い形状に形成されているが、多数の細くて長いノズル41を常に適正な状態に維持するためのメンテナンスも極めて困難であるという問題がある。
【0011】
そこで、本出願人は先に、図11に示すように、周面に複数の小穴52を有する導電性の円筒状容器51の一側面に同一軸芯状に回転筒体53を固定してその回転筒体53を回転駆動可能に支持し、高分子溶液供給手段54にて回転筒体53内に挿通した溶液供給管55を通して回転容器51内に高分子溶液50を供給し、回転筒体53を回転駆動して回転容器51を回転させるとともに第1の高電圧発生手段56にて回転容器51に電荷を帯電させ、小穴52から流出した線状の高分子溶液を遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成し、かつ回転容器51の軸心方向一側部に配設した反射電極57に第2の高電圧発生手段58にて回転容器51と同極の電圧を印加して生成されるナノファイバーを回転容器51の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させ、さらに回転容器51に対してその軸心方向他側方に間隔をあけて配置した導電性のコレクタ59に第3の高電圧発生手段60にて回転容器51の電荷に対して電位差を有する電圧を印加して、コレクタ59上にナノファイバーを堆積させるように構成したものを提案している(特願2006−317003号参照)。
【0012】
ところが、図11の構成では、円筒容器51の小穴52から押し出される高分子溶液50に作用する遠心力を常に一定させて高分子溶液50を均一に線状に流出させ、均一なナノファイバーを製造するためには、回転容器51内に収容されている高分子溶液50の量を検出し、回転容器51内にほぼ一定量の高分子溶液50が収容されている状態となるように、高分子溶液供給手段54を高精度に制御する必要があり、構成が複雑になり、コスト高になるという課題があることが判明した。
【0013】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、簡単な構成にて均一なナノファイバーを生産性良く製造することができるナノファイバーの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のナノファイバーの製造方法は、複数の小穴を有する導電性の回転容器内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液を供給し、回転容器を回転させ、小穴から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成するナノファイバーの製造方法において、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させ、流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給するものである。なお、本発明において、回転容器の小穴から流出した線状の高分子溶液に電界を印加するには、回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する物体又は部材との間に高い電位差を持たせれば良く、例えば回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する物体又は部材が地球又は地球に接地された収集体などの部材である場合には、回転容器に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加すれば良く、回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する収集体などの部材に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加するようにした場合には、回転容器を接地しても良い。また、小穴は回転容器の周壁に直接穴を開けたものに限らず、回転容器の周壁に装着したノズル部材にて構成しても良いことは言うまでもない。
【0015】
この構成によれば、高分子溶液が回転容器の小穴から遠心力の作用によって流出するとともに印加された電界にて電荷が帯電される。その際に、まず遠心力の作用によって、高分子溶液が小穴から安定して流出して延伸される。また、回転容器を回転させることで電界干渉が非常に発生し難いという作用が得られる。その理由は、隣り合う小穴から高分子溶液が流出する場合に、遠心力で流出することで、流出する線状の方向が互いに平行でなく、放射状に広がる方向となることで電界干渉が発生し難いものと考えられる。このように電界干渉に左右されないために小穴を高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸され、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで帯電された電荷が集中し、そのクーロン力が表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発等が生じて延伸されることで、複数の小穴から流出した線状の高分子溶液からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、また小穴から流出した高分子溶液をまず遠心力で延伸させるので、小穴を極端に小さくする必要がなく、かつ上記のように電荷を集中させるために長く形成する必要もないので、回転容器に小穴を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液が回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を常に一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給し、流出した高分子溶液を再使用するので、高分子溶液が無駄に消費されることもない。したがって、装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【0016】
また、回転容器が周面に複数の小穴を有する円筒状容器からなるとともにその一側面に設けられた環状の堰を通して所定量を超えた高分子溶液を流出させると、円筒状容器の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができ、かつ円筒状容器の一側面の環状の堰を通して所定量を超える高分子溶液を流出させることで、極めて簡単な構成にて上記作用効果を奏することができる。
【0017】
また、回転容器から所定距離の位置に収集体を配置し、回転容器と収集体との間に高電圧を印加し、生成されたナノファイバーを収集体に向けて流動させるようにすると、回転容器と収集体の間に形成された電界にてナノファイバーを生成させて収集体上に回収することができる。
【0018】
また、回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極に、回転容器の帯電電荷と同極の電圧を印加して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させると、生成工程中のナノファイバーが遠心力の作用でそのまま放射状に広がろうとするのを、反射電極によって回転容器の軸芯方向に偏向させ、生成されるナノファイバーを所要の範囲内に容易に収集することができ、しかも帯電した高分子溶液の流出方向に対向しない一側部に反射電極が配設されているので、反射電極の電荷によって高分子溶液の流出が阻害される恐れがなく、安定的かつ効率的にナノファイバーを製造でき、またファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーだけが偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーだけを収集することができる。
【0019】
また、回転容器の軸心方向一側から送風して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させると、蒸発した溶媒が速やかに排出されて周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならず溶媒の蒸発が円滑に行われ、静電爆発作用が確実に得られて所望のナノファイバーが確実に生成され、かつ生成工程中のナノファイバーの流動方向を効果的に偏向させることができる。
【0020】
また、本発明のナノファイバーの製造装置は、回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたものである。
【0021】
この構成によれば、回転容器内に高分子溶液供給手段にて高分子溶液を供給するとともに回転駆動手段にて回転させ、かつ第1の高電圧発生手段にて回転容器に高電圧を印加することで、上記のようにナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液は回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、回転容器内の高分子溶液に作用する遠心力を常に一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再使用できるので、高分子溶液が無駄に消費されることもなく、したがって装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【0022】
また、本発明の別のナノファイバーの製造装置は、回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器から所定距離の位置に配置した収集体と、回転容器と収集体との間に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたものであり、回転容器と収集体の間に形成された電界にてナノファイバーが生成されて収集体に向けて流動し、上記と同様に装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができるとともに、生成されたナノファイバーを収集体上に回収することができる。
【0023】
また、回転容器を周面に複数の小穴を有する円筒状容器にて構成するとともに、円筒状容器の一側面に所定量を超えた高分子溶液を流出させる環状の堰を設けると、円筒状容器の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができ、かつ円筒状容器の一側面の環状の堰を通して所定量を超える高分子溶液を流出させることで、極めて簡単な構成にて上記作用効果を奏することができる。
【0024】
また、回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極と、反射電極に回転容器の帯電電荷と同極の高電圧を印加する第2の高電圧発生手段とを備え、制御部により反射電極に高電圧を印加するようにすると、生成工程中のナノファイバーが遠心力の作用でそのまま放射状に広がろうとするのを反射電極によって回転容器の軸芯方向に偏向させ、生成されるナノファイバーを所要の範囲内に容易に収集することができ、しかも帯電した高分子溶液の流出方向に対向しない一側部に反射電極が配設されているので、反射電極の電荷によって高分子溶液の流出が阻害される恐れがなく、安定的かつ効率的にナノファイバーを製造でき、またファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーだけが偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーだけを収集することができる。
【0025】
また、回転容器の軸心方向一側部に送風ファンを配設すると、回転容器の軸心方向一側から送風することで、生成工程中のナノファイバーの流動方向を効果的に偏向させることができ、かつ蒸発した溶媒が速やかに排出されて周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならず溶媒の蒸発が円滑に行われて静電爆発作用が確実に得られて所望のナノファイバーを確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のナノファイバーの製造方法及び装置によれば、複数の小穴から流出した線状の高分子溶液からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、また小穴から流出した高分子溶液をまず遠心力で延伸させるので、小穴を極端に小さくする必要がなく、かつ上記のように電荷を集中させるために長く形成する必要もないので、回転容器に小穴を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液が回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給するので流出した高分子溶液を再使用するので、高分子溶液が無駄に消費されることもない。したがって、装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明のナノファイバー及び高分子ウェブの製造方法と装置の各実施形態について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
まず、本発明のナノファイバーの製造装置の第1の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0029】
図1、図2において、1は回転容器としての、直径が30〜400mmの円筒状容器であり、その一端の軸芯部に同一軸芯状態で筒体2の端部が貫通されて一体固定され、筒体2にて軸芯回りに矢印Rのように回転可能に支持されている。筒体2は電気絶縁性の高い材料にて構成されている。円筒状容器1の他端は閉鎖され、周面には、直径が0.1〜2mm程度の小穴3が数mmピッチ間隔で多数形成されている。小穴3は、円筒状容器1の周壁に単純に穴を開けて形成したものでも良いが、周壁に短寸のノズルを装着してそのノズル穴にて構成しても良い。
【0030】
筒体2は電気絶縁性の高い材料にて構成された支持フレーム4にてベアリング5を介して回転自在に支持され、かつその外周に設けられたプーリ6とモータ9の出力軸に設けられたプーリ7との間に巻回されたベルト8を介して回転駆動手段としてのモータ9にて、30〜3000rpmの回転速度で回転駆動される。モータ9としては、センサが高圧ノイズの影響を受けて誤動作する恐れがあるので、センサレスDCモータが好適に適用される。
【0031】
筒体2の中心部を通して円筒状容器1内に高分子溶液供給手段としての溶液供給管10が挿入され、その先端部にL字屈曲部10aが下向きに形成されている。この溶液供給管10を通して円筒状容器1内にナノファイバーの材料である高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液11が供給される。円筒状容器1内に高分子溶液11を供給しつつ円筒状容器1を回転させることで、筒体2の内周を堰として、過剰に供給された高分子溶液11が筒体2を通して外部に流出し、円筒状容器1の内周全周に均一な厚さの高分子溶液11の層が形成される。すなわち、円筒状容器1の内径をD1、筒体2の内径をD2として、T=(D1−D2)/2の略一定の厚さの高分子溶液11の層が円筒状容器1の内周に形成される。
【0032】
筒体2を通して外部に流出した高分子溶液11を回収するように、支持フレーム4上に回収手段としての回収容器12が配設されている。なお、図1に仮想線で示すように、筒体2から流出した高分子溶液11を受け、周囲に飛散させずに回収容器12に案内する受け手段13が配設される。また、この回収容器12に対して溶液補給手段(図示せず)にて、消費された高分子溶液11に相当する量の高分子溶液11を補給するように構成されている。回収容器12内の高分子溶液11は、吸入管14を通して高分子溶液供給手段としての供給ポンプ15にて吸引され、溶液供給管10を通して円筒状容器1内に向けて所定流量で送給される。
【0033】
高分子溶液11を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0034】
使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
また、高分子溶液には、無機質固体材料を混入することも可能であり、その無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げるとができるが、耐熱性、加工性などの観点からは酸化物を用いるのが好ましい。酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、P2O5、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb2O3、As2O3、CeO2、V2O5、Cr2O3、MnO、Fe2O3、CoO、NiO、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、HfO2、Nb2O5等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0036】
円筒状容器1には、第1の高電圧発生手段16にて発生させた1kV〜100kV、好適には10kV〜100kVの高電圧が、ベアリング5、導電部材17を介して印加されている。それにより、内部に収容された高分子溶液11にも高電圧が印加されている。円筒状容器1がモータ9にて高速で回転駆動されると、高分子溶液11に遠心力が作用して各小穴3から線状に流出し、さらに遠心力の作用で延伸されて細い高分子線状体が生成される。この高電圧を印加された高分子線状体が、円筒状容器1の周囲に形成されている電界の作用を受けることで電荷を帯電した状態となるとともに、高分子溶液11の溶媒が蒸発することで高分子線状体の径が細くなる。それに伴って、帯電した電荷が集中し、そのクーロン力が高分子溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーfが効率的に製造される。
【0037】
円筒状容器1の一側部に適当間隔あけて対向するように支持フレーム4に反射電極18が配設され、この反射電極18に第2の高電圧発生手段19にて発生させた高電圧が印加されている。この第2の高電圧発生手段19は第1の高電圧発生手段16と同極で、略同等の高電圧を発生して反射電極18に印加するように構成され、図2に示すように、反射電極18にて円筒状容器1から流出・延伸されて生成された高分子線状体及びその後に静電爆発にて生成されるナノファイバーfを、矢印Dで示すように、円筒状容器1の他側方に向けて流動させるように構成されている。
【0038】
円筒状容器1の他側方には、適当距離あけて対向するように導電性を有するコレクタ20が配設され、第3の高電圧発生手段21にて発生させた、円筒状容器1に対する印加電圧とは逆極性の高電圧が印加されている。なお、円筒状容器1や反射電極18とコレクタ20との間に大きな電位差を付与して、それらの間に電界を発生させればよいので、単にコレクタ20を接地するだけでもよい。この円筒状容器1や反射電極18とコレクタ20との間の大きな電位差にて形成された電界によって、上記のようにナノファイバーfを生成するとともに、図2に示すように、帯電したナノファイバーfをコレクタ20に向けて移動させ、その上に堆積させるように構成されている。コレクタ20に円筒状容器1とは逆極性の高電圧を印加することで、円筒状容器1とコレクタ20の間に、例えば2m程度の距離が離れていても、生成されたナノファイバーfをコレクタ20上に堆積させることができる。なお、第1〜第3の高電圧発生手段16、19、21としては、スイッチSW1、SW2、SW3にて必要に応じて任意にオン・オフ切替できるものが好適である。
【0039】
次に、制御構成を図3を参照して説明する。図3において、モータ9と、供給ポンプ15と、第1〜第3の高電圧発生手段16、19、21が制御部22にて制御される。制御部22は、操作部23からの作業指令により、記憶部24に記憶されている動作プログラムや操作部23から入力されて記憶している各種データに基づいて動作制御し、その動作状態や各種データを表示部25に表示する。
【0040】
以上の構成において、供給ポンプ15にて所定量の高分子溶液11を円筒状容器1内に供給し、円筒状容器1に対して第1の高電圧発生手段14から所定の高電圧を印加することで、円筒状容器1内に収容された高分子溶液11を高電圧に帯電させる。この状態でモータ9にて円筒状容器1を高速回転させることで、上述のように高分子溶液11が複数の小穴3から線状に流出して高分子線状体が形成されるとともに、さらに遠心力の作用によって大きく延伸され、かつ高電圧に帯電されている高分子線状体が電界の作用で電荷を帯電した状態となり、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで電荷が集中し、一次静電爆発を生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的にさらに延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、複数の小穴3から流出した高分子溶液線状体からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーfが製造される。
【0041】
ここで、円筒状容器1内の内周には、略一定の厚さTの高分子溶液11の層が形成され、それ以上の過剰な高分子溶液11は堰として機能する筒体2から外部に流出して回収容器12に回収されて再使用される。このように円筒状容器1内の高分子溶液11の量が常にほぼ一定に制御されるので、円筒状容器1内の高分子溶液11に一定の遠心力が作用し、円筒状容器1の小穴3から押し出される高分子溶液11に作用する遠心力が一定し、高分子溶液11を均一に線状に流出させることができ、その結果均一なナノファイバーfを製造することができる。
【0042】
さらに、上記ナノファイバーfを生成する際に高分子溶液線状体が遠心力の作用で延伸された後、そのまま放射状に広がろうとするのを反射電極18によって円筒状容器1の軸方向の他側方に偏向させて流動させるので、生成されるナノファイバーfをコレクタ20の所要の範囲内に容易に収集することができる。
【0043】
しかも、反射電極18が円筒状容器1の一側部に配設されているので、円筒状容器1の外周面に対向させて放物鏡状の反射電極を配設した場合のように反射電極18が帯電した高分子溶液11の流出方向に対向せず、高分子溶液11の流出が反射電極18の電荷によって阻害される恐れがないため、安定的かつ効率的にナノファイバーfを製造できる。また、ファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーfだけがコレクタ20に向けて偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーfだけを収集することができる。こうして製造された帯電を有するナノファイバーfがコレクタ18上に堆積されることで高多孔性の高分子ウェブが生産性良く製造される。
【0044】
また、円筒状容器1の小穴3から流出して形成された高分子溶液線状体が遠心力で大きく延伸されるので、小穴3の直径を0.1〜2mm程度とすることができて、極端に小さくする必要がなく、また最初に静電爆発を発生させる場合とは異なって電荷を集中させる必要がないため、小穴3は細長いノズルに形成する必要がなく、また電界干渉に左右されないために高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸させることができるので、多量のナノファイバーfを簡単かつコンパクトな構成にて効率的に製造することができる。また、円筒状容器1の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができるとともに、形状・構成が簡単であるため設備コストの低廉化を図ることができる。また、小穴3は長く形成する必要がないので、円筒状容器1の外周壁に単純に小穴3を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴3を設けていてもメンテナンスも簡単である。
【0045】
また、モータ9は、円筒状容器1内に収容されている高分子溶液11の粘度に基づいて円筒状容器1の回転速度を制御できるように構成されており、これによって高分子溶液11の粘度に応じて必要な遠心力を高分子溶液11に作用させて、確実にかつ効率的にナノファイバーfを製造することができる。
【0046】
なお、以上の図示例では、反射電極18を円筒状容器1と絶縁された支持フレーム4に固定して配設し、第2の高電圧発生手段19で発生された高電圧を印加するようにした例を示したが、反射電極18を筒体2の外周に固定して円筒状容器1と電気的に接続し、第1の高電圧発生手段16で発生された円筒状容器1と同じ高電圧がともに印加されるようにしても良い。この場合、反射電極18も円筒状容器1と共に回転するが機能的には何ら影響はない。
【0047】
また、反射電極18と円筒状容器1との間に、円筒状容器1の他側方に向けて送風する送風手段を配設しても良い。そうすると、送風によって蒸発した溶媒が速やかに排出され、周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならないため、溶媒の蒸発が円滑に行われて静電爆発作用が確実に得られ、所望のナノファイバーfが確実に生成される。また、生成工程中のナノファイバーfの流動方向をより効果的に偏向させる作用も得られる。
【0048】
また、以上の構成例では、筒体2を回転駆動可能に構成し、この筒体2に円筒状容器1を固定した構成を示したが、筒体2を支持フレーム4に固定して設け、この筒体2にて円筒状容器1を回転自在に支持した構成としても良く、その場合には受け手段13は設ける必要はない。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第2の実施形態について、図4、図5を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明では、先行する実施形態と同一の構成要素については同一の参照符号を付して説明を省略し、主として相違点についてのみ説明する。
【0050】
上記第1の実施形態では、支持フレーム4上に設置した回収容器12から吸引管14を通して供給ポンプ15にて高分子溶液11を吸引して円筒状容器1内に向けて高分子溶液11を供給するようにした例を示したが、本実施形態では、図4、図5に示すように、回収容器12とは別に大容量の貯留容器26を設け、回収容器12内に回収された高分子溶液11を送出管27を通して貯留容器26に送出し、供給ポンプ15の吸引口に接続された吸引管14の先端を貯留容器26内に挿入している。
【0051】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができ、かつ円筒状容器1から流出した過剰の高分子溶液11を支持フレーム4上の回収容器12を介して大容量の貯留容器26に回収するようにしているので、貯留容器26から円筒状容器1内に高分子溶液11を安定して送給することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第3の実施形態について、図6を参照して説明する。
【0053】
本実施形態では、円筒状容器1は、その一端に堰として機能する環状鍔31を有してその内側が開口し、かつその一端開口から他端に向けて軸芯位置を貫通して他端閉鎖壁に一体結合された回転軸32を有している。回転軸32は支持フレーム4に設けられた支持筒体33に設けられた軸受部34にて回転自在に支持され、かつ回転軸32の先端が軸継ぎ32aを介して回転支持筒33に配設されたモータ9に連結され、モータ9にて回転駆動可能に構成されている。支持筒体33の端部外周に、円筒状容器1の一端部外周を取り囲むように受け手段13が取り付けられ、受け手段13は、内部に回収された高分子溶液11を回収容器12に戻す戻し管路13aを有している。
【0054】
回収容器12内の高分子溶液11は、ギヤポンプなどの供給ポンプ15にて溶液供給管10を通して円筒状容器1内に供給するように構成されている。また、回収容器12内の高分子溶液11の液面レベルを検出する液面センサ35が設けられ、検出した液面レベルが一定レベルに低下すると、貯留容器26から回収容器12に向けてギヤポンプなどの補給ポンプ36にて送給管37を通して高分子溶液11を送給し、回収容器12内の高分子溶液11の液面レベルをほぼ一定範囲内に維持するように構成されている。
【0055】
また、支持筒体33の円筒状容器1とは反対側の側部に送風ファン38が配設され、円筒状容器1から流出・延伸されて生成されたナノファイバーfを、反射電極18にて形成した電界にて円筒状容器1の他側方に向けて流動させる代わりに、送風ファン38にて形成された矢印で示す気体流Wによって円筒状容器1の他側方に向けて流動させるように構成している。なお、金網状の反射電極18を支持筒体33の外周に配設し、反射電極18による電界と気体流Wの両方でナノファイバーfを円筒状容器1の他側方に向けて流動させるようにしても良い。
【0056】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができ、かつ円筒状容器1の回転機構をコンパクトに構成できるとともに、円筒状容器1内の過剰の高分子溶液11が円筒状容器1の一端の環状鍔31から直接円滑に流出するので、円筒状容器1内の高分子溶液11の層厚さを応答性良く一定に維持することができ、また送風ファン38による気体流Wにて円筒状容器1から生成されたナノファイバーfを円筒状容器1の他側方に向けて円滑に流動させることができる。
【0057】
なお、以上の実施形態の説明では、反射電極18と送風ファン38の何れか一方又は両方を配設した例を示したが、円筒状容器1に対する印加電圧とは逆極性の高電圧を印加するか、若しくは接地したコレクタ20を設けただけでの構成でも、円筒状容器1から生成されるナノファイバーfをコレクタ20に向けて流動させ、コレクタ20上に堆積させることもできる。
【0058】
さらに、以上の各実施形態の説明では、円筒状容器1に第1の高電圧発生手段16から高電圧を印加し、収集体20を接地又は第3の高電圧発生手段21にて逆極性の電圧を印加した例を示したが、収集体20に第3の高電圧発生手段21にて正又は負の高電圧を印加し、円筒状容器1側を接地した構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のナノファイバーの製造方法及び装置によれば、回転容器内で所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させることで、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にできるため、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を一定させることができ、常に均一なナノファイバーを製造することができるので、フィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用される高品質のナノファイバーを高い生産性をもって製造するのに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図2】同実施形態における高分子ウェブの製造状態を示す斜視図。
【図3】同実施形態の制御構成を示すブロック図。
【図4】本発明の第2の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図5】同実施形態における高分子ウェブの製造状態を示す斜視図。
【図6】本発明の第3の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図7】従来例の高分子ウェブの製造装置の概略構成図。
【図8】同従来例の他の構成例の要部構成を示し、(a)は正面図、(b)は部分拡大下面図。
【図9】同従来例における問題点の説明図。
【図10】同従来例における更なる問題点の説明図。
【図11】本発明に先行するナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【符号の説明】
【0061】
1 円筒状容器(回転容器)
2 筒体(堰)
3 小穴
9 モータ(回転駆動手段)
10 溶液供給管(高分子溶液供給手段)
11 高分子溶液
12 回収容器(回収手段)
15 供給ポンプ(高分子溶液供給手段)
16 第1の高電圧発生手段
18 反射電極
19 第2の高電圧発生手段
20 コレクタ(収集体)
22 制御部
31 堰
38 送風ファン
f ナノファイバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質から成るナノファイバーの製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質から成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電荷誘導紡糸法(エレクトロスピニング法)が知られている。従来の電荷誘導紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルに高分子溶液を供給するように構成されており、針状のノズルから線状に流出する高分子溶液に電荷が帯電されることで、高分子溶液の溶媒蒸発に伴って帯電電荷間の距離が小さくなって作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力より勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が生じ、この静電爆発と称する現象が、一次、二次、場合によっては三次と繰り返されることで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバーが製造されるものである。
【0003】
こうして製造されたナノファイバーを電気的に接地された基板上に堆積させることで、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができ、さらに厚く形成することでサブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができるとともに、このナノファイバーから成る高多孔性ウェブを適用することによってそれぞれ性能を飛躍的に向上させることが期待できる。
【0004】
ところが、従来の電荷誘導紡糸法では、1本のノズルの先から1本から数本程度のナノファイバーしか製造されないので、ナノファイバー製造の生産性が上がらないという問題があった。そこで、ナノファイバーを多量に生成する方法として、複数のノズルを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1に記載された高分子ウェブ製造装置の構成を、図7を参照して説明すると、複数のノズル41を有する紡糸部42にバレル43内の液状高分子物質をポンプ44にて送給し、高電圧発生部45からノズル41に5〜50kVの高電圧を印加し、接地又はノズル41と異なる極性に帯電させたコレクタ46上にノズル41から排出されたファイバーを堆積させてウェブを形成するとともに、形成されたウェブをコレクタ46にて移送して高分子ウェブを製造するように構成されている。また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設してノズル41間の電気的干渉を最小化させるとともに、コレクタ46との間に高電圧を印加し、帯電したファイバーをコレクタ46に向けて付勢する電界を付与することも記載されている。
【0006】
さらに図8(a)、(b)に示すように、紡糸部42に、単一のノズルを複数設けるのではなく、複数本のノズル41からなるマルチノズル41Aを複数設けて構成し、各マルチノズル41Aからそれぞれ複数本のナノファイバーを生成させるようにすることも開示されている。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、図7や図8に示された構成で、一層生産性よくナノファイバーを製造するため、紡糸部42におけるノズル41及び各マルチノズル41Aにおけるノズル41の配置間隔を小さくし、単位面積当たりのノズル本数を多くしようとすると、図9に示すように、各ノズル41から流出した高分子物質が同極の電荷を帯電しているため、矢印Fで示すように互いに反発し合い、中央部のノズル41からの流出が阻害されるとともに、周辺部のノズル41からの流出方向が外側に向き、コレクタ46上でのナノファイバーの堆積分布が中央部で極端に少なく、周辺部に集中してしまい、均一な高分子ウェブを製造することができないという問題がある。
【0008】
また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設した場合、図10に示すように、ノズル41間の電気的干渉を低減させるとともに、電荷分配板47からコレクタ46に向かう電界Eが形成されることで、各ノズル41から流出した高分子物質をコレクタ46に向けて加速させる作用が得られることで、図9の場合に比して、中央部と周辺部とのナノファイバーの堆積分布の均一化をある程度図ることができる一方で、ノズル41の配置パターンがそのまま堆積分布に投影されるようになり、堆積分布の均一化に十分な効果を発揮するものではないという問題がある。
【0009】
また、ノズル41の配置密度を高くした場合、溶媒が十分に蒸発しない状態でファイバー同士が接触して互いに溶着してしまう恐れがあり、またノズル近傍の空間で蒸発した溶媒濃度が高くなって絶縁性が低下し、コロナ放電が発生してファイバーが形成されない恐れがあるという問題がある。
【0010】
また、多数のノズル41を配設した場合に、各ノズル41に対して均等に液状高分子物質を供給するのが困難であり、そのため装置構成が複雑になって設備コストが高くなるという問題がある。また、ノズル41から流出した液状高分子物質に静電爆発を起させるためには電荷を集中させる必要があり、そのため各ノズル41は細くて長い形状に形成されているが、多数の細くて長いノズル41を常に適正な状態に維持するためのメンテナンスも極めて困難であるという問題がある。
【0011】
そこで、本出願人は先に、図11に示すように、周面に複数の小穴52を有する導電性の円筒状容器51の一側面に同一軸芯状に回転筒体53を固定してその回転筒体53を回転駆動可能に支持し、高分子溶液供給手段54にて回転筒体53内に挿通した溶液供給管55を通して回転容器51内に高分子溶液50を供給し、回転筒体53を回転駆動して回転容器51を回転させるとともに第1の高電圧発生手段56にて回転容器51に電荷を帯電させ、小穴52から流出した線状の高分子溶液を遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成し、かつ回転容器51の軸心方向一側部に配設した反射電極57に第2の高電圧発生手段58にて回転容器51と同極の電圧を印加して生成されるナノファイバーを回転容器51の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させ、さらに回転容器51に対してその軸心方向他側方に間隔をあけて配置した導電性のコレクタ59に第3の高電圧発生手段60にて回転容器51の電荷に対して電位差を有する電圧を印加して、コレクタ59上にナノファイバーを堆積させるように構成したものを提案している(特願2006−317003号参照)。
【0012】
ところが、図11の構成では、円筒容器51の小穴52から押し出される高分子溶液50に作用する遠心力を常に一定させて高分子溶液50を均一に線状に流出させ、均一なナノファイバーを製造するためには、回転容器51内に収容されている高分子溶液50の量を検出し、回転容器51内にほぼ一定量の高分子溶液50が収容されている状態となるように、高分子溶液供給手段54を高精度に制御する必要があり、構成が複雑になり、コスト高になるという課題があることが判明した。
【0013】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、簡単な構成にて均一なナノファイバーを生産性良く製造することができるナノファイバーの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のナノファイバーの製造方法は、複数の小穴を有する導電性の回転容器内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液を供給し、回転容器を回転させ、小穴から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成するナノファイバーの製造方法において、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させ、流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給するものである。なお、本発明において、回転容器の小穴から流出した線状の高分子溶液に電界を印加するには、回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する物体又は部材との間に高い電位差を持たせれば良く、例えば回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する物体又は部材が地球又は地球に接地された収集体などの部材である場合には、回転容器に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加すれば良く、回転容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する収集体などの部材に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加するようにした場合には、回転容器を接地しても良い。また、小穴は回転容器の周壁に直接穴を開けたものに限らず、回転容器の周壁に装着したノズル部材にて構成しても良いことは言うまでもない。
【0015】
この構成によれば、高分子溶液が回転容器の小穴から遠心力の作用によって流出するとともに印加された電界にて電荷が帯電される。その際に、まず遠心力の作用によって、高分子溶液が小穴から安定して流出して延伸される。また、回転容器を回転させることで電界干渉が非常に発生し難いという作用が得られる。その理由は、隣り合う小穴から高分子溶液が流出する場合に、遠心力で流出することで、流出する線状の方向が互いに平行でなく、放射状に広がる方向となることで電界干渉が発生し難いものと考えられる。このように電界干渉に左右されないために小穴を高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸され、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで帯電された電荷が集中し、そのクーロン力が表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発等が生じて延伸されることで、複数の小穴から流出した線状の高分子溶液からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、また小穴から流出した高分子溶液をまず遠心力で延伸させるので、小穴を極端に小さくする必要がなく、かつ上記のように電荷を集中させるために長く形成する必要もないので、回転容器に小穴を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液が回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を常に一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給し、流出した高分子溶液を再使用するので、高分子溶液が無駄に消費されることもない。したがって、装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【0016】
また、回転容器が周面に複数の小穴を有する円筒状容器からなるとともにその一側面に設けられた環状の堰を通して所定量を超えた高分子溶液を流出させると、円筒状容器の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができ、かつ円筒状容器の一側面の環状の堰を通して所定量を超える高分子溶液を流出させることで、極めて簡単な構成にて上記作用効果を奏することができる。
【0017】
また、回転容器から所定距離の位置に収集体を配置し、回転容器と収集体との間に高電圧を印加し、生成されたナノファイバーを収集体に向けて流動させるようにすると、回転容器と収集体の間に形成された電界にてナノファイバーを生成させて収集体上に回収することができる。
【0018】
また、回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極に、回転容器の帯電電荷と同極の電圧を印加して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させると、生成工程中のナノファイバーが遠心力の作用でそのまま放射状に広がろうとするのを、反射電極によって回転容器の軸芯方向に偏向させ、生成されるナノファイバーを所要の範囲内に容易に収集することができ、しかも帯電した高分子溶液の流出方向に対向しない一側部に反射電極が配設されているので、反射電極の電荷によって高分子溶液の流出が阻害される恐れがなく、安定的かつ効率的にナノファイバーを製造でき、またファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーだけが偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーだけを収集することができる。
【0019】
また、回転容器の軸心方向一側から送風して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させると、蒸発した溶媒が速やかに排出されて周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならず溶媒の蒸発が円滑に行われ、静電爆発作用が確実に得られて所望のナノファイバーが確実に生成され、かつ生成工程中のナノファイバーの流動方向を効果的に偏向させることができる。
【0020】
また、本発明のナノファイバーの製造装置は、回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたものである。
【0021】
この構成によれば、回転容器内に高分子溶液供給手段にて高分子溶液を供給するとともに回転駆動手段にて回転させ、かつ第1の高電圧発生手段にて回転容器に高電圧を印加することで、上記のようにナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液は回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、回転容器内の高分子溶液に作用する遠心力を常に一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再使用できるので、高分子溶液が無駄に消費されることもなく、したがって装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【0022】
また、本発明の別のナノファイバーの製造装置は、回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器から所定距離の位置に配置した収集体と、回転容器と収集体との間に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたものであり、回転容器と収集体の間に形成された電界にてナノファイバーが生成されて収集体に向けて流動し、上記と同様に装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができるとともに、生成されたナノファイバーを収集体上に回収することができる。
【0023】
また、回転容器を周面に複数の小穴を有する円筒状容器にて構成するとともに、円筒状容器の一側面に所定量を超えた高分子溶液を流出させる環状の堰を設けると、円筒状容器の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができ、かつ円筒状容器の一側面の環状の堰を通して所定量を超える高分子溶液を流出させることで、極めて簡単な構成にて上記作用効果を奏することができる。
【0024】
また、回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極と、反射電極に回転容器の帯電電荷と同極の高電圧を印加する第2の高電圧発生手段とを備え、制御部により反射電極に高電圧を印加するようにすると、生成工程中のナノファイバーが遠心力の作用でそのまま放射状に広がろうとするのを反射電極によって回転容器の軸芯方向に偏向させ、生成されるナノファイバーを所要の範囲内に容易に収集することができ、しかも帯電した高分子溶液の流出方向に対向しない一側部に反射電極が配設されているので、反射電極の電荷によって高分子溶液の流出が阻害される恐れがなく、安定的かつ効率的にナノファイバーを製造でき、またファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーだけが偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーだけを収集することができる。
【0025】
また、回転容器の軸心方向一側部に送風ファンを配設すると、回転容器の軸心方向一側から送風することで、生成工程中のナノファイバーの流動方向を効果的に偏向させることができ、かつ蒸発した溶媒が速やかに排出されて周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならず溶媒の蒸発が円滑に行われて静電爆発作用が確実に得られて所望のナノファイバーを確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のナノファイバーの製造方法及び装置によれば、複数の小穴から流出した線状の高分子溶液からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができ、また小穴から流出した高分子溶液をまず遠心力で延伸させるので、小穴を極端に小さくする必要がなく、かつ上記のように電荷を集中させるために長く形成する必要もないので、回転容器に小穴を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができ、さらに回転容器内で所定量を超えた高分子溶液が回転容器から流出するので、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にでき、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を一定させることができて常に均一なナノファイバーを製造することができ、かつ流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給するので流出した高分子溶液を再使用するので、高分子溶液が無駄に消費されることもない。したがって、装置コスト及び材料コストの低下を図りながら、均一なナノファイバーを生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明のナノファイバー及び高分子ウェブの製造方法と装置の各実施形態について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
まず、本発明のナノファイバーの製造装置の第1の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0029】
図1、図2において、1は回転容器としての、直径が30〜400mmの円筒状容器であり、その一端の軸芯部に同一軸芯状態で筒体2の端部が貫通されて一体固定され、筒体2にて軸芯回りに矢印Rのように回転可能に支持されている。筒体2は電気絶縁性の高い材料にて構成されている。円筒状容器1の他端は閉鎖され、周面には、直径が0.1〜2mm程度の小穴3が数mmピッチ間隔で多数形成されている。小穴3は、円筒状容器1の周壁に単純に穴を開けて形成したものでも良いが、周壁に短寸のノズルを装着してそのノズル穴にて構成しても良い。
【0030】
筒体2は電気絶縁性の高い材料にて構成された支持フレーム4にてベアリング5を介して回転自在に支持され、かつその外周に設けられたプーリ6とモータ9の出力軸に設けられたプーリ7との間に巻回されたベルト8を介して回転駆動手段としてのモータ9にて、30〜3000rpmの回転速度で回転駆動される。モータ9としては、センサが高圧ノイズの影響を受けて誤動作する恐れがあるので、センサレスDCモータが好適に適用される。
【0031】
筒体2の中心部を通して円筒状容器1内に高分子溶液供給手段としての溶液供給管10が挿入され、その先端部にL字屈曲部10aが下向きに形成されている。この溶液供給管10を通して円筒状容器1内にナノファイバーの材料である高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液11が供給される。円筒状容器1内に高分子溶液11を供給しつつ円筒状容器1を回転させることで、筒体2の内周を堰として、過剰に供給された高分子溶液11が筒体2を通して外部に流出し、円筒状容器1の内周全周に均一な厚さの高分子溶液11の層が形成される。すなわち、円筒状容器1の内径をD1、筒体2の内径をD2として、T=(D1−D2)/2の略一定の厚さの高分子溶液11の層が円筒状容器1の内周に形成される。
【0032】
筒体2を通して外部に流出した高分子溶液11を回収するように、支持フレーム4上に回収手段としての回収容器12が配設されている。なお、図1に仮想線で示すように、筒体2から流出した高分子溶液11を受け、周囲に飛散させずに回収容器12に案内する受け手段13が配設される。また、この回収容器12に対して溶液補給手段(図示せず)にて、消費された高分子溶液11に相当する量の高分子溶液11を補給するように構成されている。回収容器12内の高分子溶液11は、吸入管14を通して高分子溶液供給手段としての供給ポンプ15にて吸引され、溶液供給管10を通して円筒状容器1内に向けて所定流量で送給される。
【0033】
高分子溶液11を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0034】
使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
また、高分子溶液には、無機質固体材料を混入することも可能であり、その無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げるとができるが、耐熱性、加工性などの観点からは酸化物を用いるのが好ましい。酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、P2O5、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb2O3、As2O3、CeO2、V2O5、Cr2O3、MnO、Fe2O3、CoO、NiO、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、HfO2、Nb2O5等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0036】
円筒状容器1には、第1の高電圧発生手段16にて発生させた1kV〜100kV、好適には10kV〜100kVの高電圧が、ベアリング5、導電部材17を介して印加されている。それにより、内部に収容された高分子溶液11にも高電圧が印加されている。円筒状容器1がモータ9にて高速で回転駆動されると、高分子溶液11に遠心力が作用して各小穴3から線状に流出し、さらに遠心力の作用で延伸されて細い高分子線状体が生成される。この高電圧を印加された高分子線状体が、円筒状容器1の周囲に形成されている電界の作用を受けることで電荷を帯電した状態となるとともに、高分子溶液11の溶媒が蒸発することで高分子線状体の径が細くなる。それに伴って、帯電した電荷が集中し、そのクーロン力が高分子溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーfが効率的に製造される。
【0037】
円筒状容器1の一側部に適当間隔あけて対向するように支持フレーム4に反射電極18が配設され、この反射電極18に第2の高電圧発生手段19にて発生させた高電圧が印加されている。この第2の高電圧発生手段19は第1の高電圧発生手段16と同極で、略同等の高電圧を発生して反射電極18に印加するように構成され、図2に示すように、反射電極18にて円筒状容器1から流出・延伸されて生成された高分子線状体及びその後に静電爆発にて生成されるナノファイバーfを、矢印Dで示すように、円筒状容器1の他側方に向けて流動させるように構成されている。
【0038】
円筒状容器1の他側方には、適当距離あけて対向するように導電性を有するコレクタ20が配設され、第3の高電圧発生手段21にて発生させた、円筒状容器1に対する印加電圧とは逆極性の高電圧が印加されている。なお、円筒状容器1や反射電極18とコレクタ20との間に大きな電位差を付与して、それらの間に電界を発生させればよいので、単にコレクタ20を接地するだけでもよい。この円筒状容器1や反射電極18とコレクタ20との間の大きな電位差にて形成された電界によって、上記のようにナノファイバーfを生成するとともに、図2に示すように、帯電したナノファイバーfをコレクタ20に向けて移動させ、その上に堆積させるように構成されている。コレクタ20に円筒状容器1とは逆極性の高電圧を印加することで、円筒状容器1とコレクタ20の間に、例えば2m程度の距離が離れていても、生成されたナノファイバーfをコレクタ20上に堆積させることができる。なお、第1〜第3の高電圧発生手段16、19、21としては、スイッチSW1、SW2、SW3にて必要に応じて任意にオン・オフ切替できるものが好適である。
【0039】
次に、制御構成を図3を参照して説明する。図3において、モータ9と、供給ポンプ15と、第1〜第3の高電圧発生手段16、19、21が制御部22にて制御される。制御部22は、操作部23からの作業指令により、記憶部24に記憶されている動作プログラムや操作部23から入力されて記憶している各種データに基づいて動作制御し、その動作状態や各種データを表示部25に表示する。
【0040】
以上の構成において、供給ポンプ15にて所定量の高分子溶液11を円筒状容器1内に供給し、円筒状容器1に対して第1の高電圧発生手段14から所定の高電圧を印加することで、円筒状容器1内に収容された高分子溶液11を高電圧に帯電させる。この状態でモータ9にて円筒状容器1を高速回転させることで、上述のように高分子溶液11が複数の小穴3から線状に流出して高分子線状体が形成されるとともに、さらに遠心力の作用によって大きく延伸され、かつ高電圧に帯電されている高分子線状体が電界の作用で電荷を帯電した状態となり、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで電荷が集中し、一次静電爆発を生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的にさらに延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、複数の小穴3から流出した高分子溶液線状体からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーfが製造される。
【0041】
ここで、円筒状容器1内の内周には、略一定の厚さTの高分子溶液11の層が形成され、それ以上の過剰な高分子溶液11は堰として機能する筒体2から外部に流出して回収容器12に回収されて再使用される。このように円筒状容器1内の高分子溶液11の量が常にほぼ一定に制御されるので、円筒状容器1内の高分子溶液11に一定の遠心力が作用し、円筒状容器1の小穴3から押し出される高分子溶液11に作用する遠心力が一定し、高分子溶液11を均一に線状に流出させることができ、その結果均一なナノファイバーfを製造することができる。
【0042】
さらに、上記ナノファイバーfを生成する際に高分子溶液線状体が遠心力の作用で延伸された後、そのまま放射状に広がろうとするのを反射電極18によって円筒状容器1の軸方向の他側方に偏向させて流動させるので、生成されるナノファイバーfをコレクタ20の所要の範囲内に容易に収集することができる。
【0043】
しかも、反射電極18が円筒状容器1の一側部に配設されているので、円筒状容器1の外周面に対向させて放物鏡状の反射電極を配設した場合のように反射電極18が帯電した高分子溶液11の流出方向に対向せず、高分子溶液11の流出が反射電極18の電荷によって阻害される恐れがないため、安定的かつ効率的にナノファイバーfを製造できる。また、ファイバー化しなかった液滴などが生じても、それはそのまま遠心力で周囲に飛散し、適正なナノファイバーfだけがコレクタ20に向けて偏向して流動するため、品質の良いナノファイバーfだけを収集することができる。こうして製造された帯電を有するナノファイバーfがコレクタ18上に堆積されることで高多孔性の高分子ウェブが生産性良く製造される。
【0044】
また、円筒状容器1の小穴3から流出して形成された高分子溶液線状体が遠心力で大きく延伸されるので、小穴3の直径を0.1〜2mm程度とすることができて、極端に小さくする必要がなく、また最初に静電爆発を発生させる場合とは異なって電荷を集中させる必要がないため、小穴3は細長いノズルに形成する必要がなく、また電界干渉に左右されないために高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸させることができるので、多量のナノファイバーfを簡単かつコンパクトな構成にて効率的に製造することができる。また、円筒状容器1の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができるとともに、形状・構成が簡単であるため設備コストの低廉化を図ることができる。また、小穴3は長く形成する必要がないので、円筒状容器1の外周壁に単純に小穴3を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴3を設けていてもメンテナンスも簡単である。
【0045】
また、モータ9は、円筒状容器1内に収容されている高分子溶液11の粘度に基づいて円筒状容器1の回転速度を制御できるように構成されており、これによって高分子溶液11の粘度に応じて必要な遠心力を高分子溶液11に作用させて、確実にかつ効率的にナノファイバーfを製造することができる。
【0046】
なお、以上の図示例では、反射電極18を円筒状容器1と絶縁された支持フレーム4に固定して配設し、第2の高電圧発生手段19で発生された高電圧を印加するようにした例を示したが、反射電極18を筒体2の外周に固定して円筒状容器1と電気的に接続し、第1の高電圧発生手段16で発生された円筒状容器1と同じ高電圧がともに印加されるようにしても良い。この場合、反射電極18も円筒状容器1と共に回転するが機能的には何ら影響はない。
【0047】
また、反射電極18と円筒状容器1との間に、円筒状容器1の他側方に向けて送風する送風手段を配設しても良い。そうすると、送風によって蒸発した溶媒が速やかに排出され、周辺の雰囲気中の溶媒濃度が高くならないため、溶媒の蒸発が円滑に行われて静電爆発作用が確実に得られ、所望のナノファイバーfが確実に生成される。また、生成工程中のナノファイバーfの流動方向をより効果的に偏向させる作用も得られる。
【0048】
また、以上の構成例では、筒体2を回転駆動可能に構成し、この筒体2に円筒状容器1を固定した構成を示したが、筒体2を支持フレーム4に固定して設け、この筒体2にて円筒状容器1を回転自在に支持した構成としても良く、その場合には受け手段13は設ける必要はない。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第2の実施形態について、図4、図5を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明では、先行する実施形態と同一の構成要素については同一の参照符号を付して説明を省略し、主として相違点についてのみ説明する。
【0050】
上記第1の実施形態では、支持フレーム4上に設置した回収容器12から吸引管14を通して供給ポンプ15にて高分子溶液11を吸引して円筒状容器1内に向けて高分子溶液11を供給するようにした例を示したが、本実施形態では、図4、図5に示すように、回収容器12とは別に大容量の貯留容器26を設け、回収容器12内に回収された高分子溶液11を送出管27を通して貯留容器26に送出し、供給ポンプ15の吸引口に接続された吸引管14の先端を貯留容器26内に挿入している。
【0051】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができ、かつ円筒状容器1から流出した過剰の高分子溶液11を支持フレーム4上の回収容器12を介して大容量の貯留容器26に回収するようにしているので、貯留容器26から円筒状容器1内に高分子溶液11を安定して送給することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第3の実施形態について、図6を参照して説明する。
【0053】
本実施形態では、円筒状容器1は、その一端に堰として機能する環状鍔31を有してその内側が開口し、かつその一端開口から他端に向けて軸芯位置を貫通して他端閉鎖壁に一体結合された回転軸32を有している。回転軸32は支持フレーム4に設けられた支持筒体33に設けられた軸受部34にて回転自在に支持され、かつ回転軸32の先端が軸継ぎ32aを介して回転支持筒33に配設されたモータ9に連結され、モータ9にて回転駆動可能に構成されている。支持筒体33の端部外周に、円筒状容器1の一端部外周を取り囲むように受け手段13が取り付けられ、受け手段13は、内部に回収された高分子溶液11を回収容器12に戻す戻し管路13aを有している。
【0054】
回収容器12内の高分子溶液11は、ギヤポンプなどの供給ポンプ15にて溶液供給管10を通して円筒状容器1内に供給するように構成されている。また、回収容器12内の高分子溶液11の液面レベルを検出する液面センサ35が設けられ、検出した液面レベルが一定レベルに低下すると、貯留容器26から回収容器12に向けてギヤポンプなどの補給ポンプ36にて送給管37を通して高分子溶液11を送給し、回収容器12内の高分子溶液11の液面レベルをほぼ一定範囲内に維持するように構成されている。
【0055】
また、支持筒体33の円筒状容器1とは反対側の側部に送風ファン38が配設され、円筒状容器1から流出・延伸されて生成されたナノファイバーfを、反射電極18にて形成した電界にて円筒状容器1の他側方に向けて流動させる代わりに、送風ファン38にて形成された矢印で示す気体流Wによって円筒状容器1の他側方に向けて流動させるように構成している。なお、金網状の反射電極18を支持筒体33の外周に配設し、反射電極18による電界と気体流Wの両方でナノファイバーfを円筒状容器1の他側方に向けて流動させるようにしても良い。
【0056】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができ、かつ円筒状容器1の回転機構をコンパクトに構成できるとともに、円筒状容器1内の過剰の高分子溶液11が円筒状容器1の一端の環状鍔31から直接円滑に流出するので、円筒状容器1内の高分子溶液11の層厚さを応答性良く一定に維持することができ、また送風ファン38による気体流Wにて円筒状容器1から生成されたナノファイバーfを円筒状容器1の他側方に向けて円滑に流動させることができる。
【0057】
なお、以上の実施形態の説明では、反射電極18と送風ファン38の何れか一方又は両方を配設した例を示したが、円筒状容器1に対する印加電圧とは逆極性の高電圧を印加するか、若しくは接地したコレクタ20を設けただけでの構成でも、円筒状容器1から生成されるナノファイバーfをコレクタ20に向けて流動させ、コレクタ20上に堆積させることもできる。
【0058】
さらに、以上の各実施形態の説明では、円筒状容器1に第1の高電圧発生手段16から高電圧を印加し、収集体20を接地又は第3の高電圧発生手段21にて逆極性の電圧を印加した例を示したが、収集体20に第3の高電圧発生手段21にて正又は負の高電圧を印加し、円筒状容器1側を接地した構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のナノファイバーの製造方法及び装置によれば、回転容器内で所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させることで、単純に十分な量の高分子溶液を供給するだけで、回転容器内の高分子溶液の量を常に一定にできるため、円筒容器の小穴から押し出される高分子溶液に作用する遠心力を一定させることができ、常に均一なナノファイバーを製造することができるので、フィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用される高品質のナノファイバーを高い生産性をもって製造するのに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図2】同実施形態における高分子ウェブの製造状態を示す斜視図。
【図3】同実施形態の制御構成を示すブロック図。
【図4】本発明の第2の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図5】同実施形態における高分子ウェブの製造状態を示す斜視図。
【図6】本発明の第3の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図7】従来例の高分子ウェブの製造装置の概略構成図。
【図8】同従来例の他の構成例の要部構成を示し、(a)は正面図、(b)は部分拡大下面図。
【図9】同従来例における問題点の説明図。
【図10】同従来例における更なる問題点の説明図。
【図11】本発明に先行するナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【符号の説明】
【0061】
1 円筒状容器(回転容器)
2 筒体(堰)
3 小穴
9 モータ(回転駆動手段)
10 溶液供給管(高分子溶液供給手段)
11 高分子溶液
12 回収容器(回収手段)
15 供給ポンプ(高分子溶液供給手段)
16 第1の高電圧発生手段
18 反射電極
19 第2の高電圧発生手段
20 コレクタ(収集体)
22 制御部
31 堰
38 送風ファン
f ナノファイバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の小穴を有する導電性の回転容器内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液を供給し、回転容器を回転させ、小穴から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成するナノファイバーの製造方法において、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させ、流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給することを特徴とするナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
回転容器が周面に複数の小穴を有する円筒状容器からなるとともにその一側面に設けられた環状の堰を通して所定量を超えた高分子溶液を流出させることを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
回転容器から所定距離の位置に収集体を配置し、回転容器と収集体との間に高電圧を印加し、生成されたナノファイバーを収集体に向けて流動させることを特徴とする請求項1又は2記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極に、回転容器の帯電電荷と同極の電圧を印加して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
回転容器の軸心方向一側から送風して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項7】
回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器から所定距離の位置に配置した収集体と、回転容器と収集体との間に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項8】
回転容器を周面に複数の小穴を有する円筒状容器にて構成するとともに、円筒状容器の一側面に所定量を超えた高分子溶液を流出させる環状の堰を設けたことを特徴とする請求項6または7記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項9】
回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極と、反射電極に回転容器の帯電電荷と同極の高電圧を印加する第2の高電圧発生手段とを備え、制御部により反射電極に高電圧を印加するようにしたことを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項10】
回転容器の軸心方向一側部に送風ファンを配設したことを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項1】
複数の小穴を有する導電性の回転容器内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液を供給し、回転容器を回転させ、小穴から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成するナノファイバーの製造方法において、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させ、流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給することを特徴とするナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
回転容器が周面に複数の小穴を有する円筒状容器からなるとともにその一側面に設けられた環状の堰を通して所定量を超えた高分子溶液を流出させることを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
回転容器から所定距離の位置に収集体を配置し、回転容器と収集体との間に高電圧を印加し、生成されたナノファイバーを収集体に向けて流動させることを特徴とする請求項1又は2記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極に、回転容器の帯電電荷と同極の電圧を印加して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
回転容器の軸心方向一側から送風して生成工程中のナノファイバーを回転容器の軸心方向他側方に向けて偏向させて流動させることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項7】
回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させる手段と、流出した高分子溶液を回収して高分子溶液供給手段に供給する回収手段と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器から所定距離の位置に配置した収集体と、回転容器と収集体との間に高電圧を印加する第1の高電圧発生手段と、回転駆動手段と第1の電圧発生手段と高分子溶液供給手段を制御する制御部とを備えたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項8】
回転容器を周面に複数の小穴を有する円筒状容器にて構成するとともに、円筒状容器の一側面に所定量を超えた高分子溶液を流出させる環状の堰を設けたことを特徴とする請求項6または7記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項9】
回転容器の軸心方向一側部に配設した反射電極と、反射電極に回転容器の帯電電荷と同極の高電圧を印加する第2の高電圧発生手段とを備え、制御部により反射電極に高電圧を印加するようにしたことを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項10】
回転容器の軸心方向一側部に送風ファンを配設したことを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載のナノファイバーの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−285792(P2008−285792A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133856(P2007−133856)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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