説明

ナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維およびその製造方法

【課題】 非常に微細なナノファイバを組織化および整列させ、特にその高熱伝導率を活かして、高効率な熱輸送を行うことが可能な新規な複合材料の提供。
【解決手段】 表層から中心部までの厚さ5〜20μmの炭素マトリクス中に、直径300nm以下、アスペクト比(長さ/直径比)10以上のナノファイバが、0.5〜60重量%含有されており、かつ黒鉛化されていることを特徴とするナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い機械的特性や熱的、電気的特性を有するカーボンナノファイバやカーボンナノチューブを、PAN系炭素繊維と比較して高い剛性率や熱的、電気的特性を有するピッチ系炭素繊維に含有させた複合繊維材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピッチ(特にメソフェーズピッチ)を原料とする炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料とする炭素繊維と比較して、剛性と熱伝導率に優れている。一方、近年注目されているカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバは、ピッチ系炭素繊維を凌駕する機械的、熱的、電気的特性を有している。
【0003】
ピッチ系炭素繊維は、一般に黒鉛化温度を2400℃〜3300℃の範囲まで上昇させるに伴って、黒鉛の結晶化が促進し、強度、熱伝導率が向上する。黒鉛結晶の配向は、原料のメソフェーズピッチを紡糸する際に通過するキャピラリ内での流れを制御することによって行われている(特許文献1〜3参照)。黒鉛結晶の配向性は炭素繊維の強度、熱伝導率に大きく影響するほか、黒鉛化工程におけるクラック発生の有無や、曲げ強さに影響をおよぼす。
【0004】
カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバは、正六角形に配置された炭素原子からなる面(いわゆる「グラフェンシート」)が円筒状に巻かれた構造である。このグラフェンシートが平面状に積層された場合には、さきのピッチ系あるいはPAN系炭素繊維を構成する黒鉛となる。一般的には、カーボンナノチューブはこの円筒状に巻かれたグラフェンシートが単層から数層であるものを指し、カーボンナノファイバは、さらに多層で直径が数十nm以上あるものを指すが、明確に使い分けられてはいない。以後、本明細書において、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバを「ナノファイバ」と総称する。
【0005】
これらカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバは、平面状の黒鉛より格段に高い機械的性質を有する。また、熱的、電気的特性については、黒鉛状態では認められない新しい特性を発現する。たとえば電気的特性については、カーボンナノチューブを構成するグラフェンシートの巻き方により、導電体、半導体、絶縁体と特性が変化する。そして熱的特性として、単層のカーボンナノチューブは全ての物質の中で最も高い熱伝導率(6000W/mK以上)を有すると理論的に予測されている(非特許文献1参照)。多層のカーボンナノファイバについても、現状で最も熱伝導率の高い物質であるダイヤモンド(約2000W/mK)に匹敵する熱伝導率を有している(非特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−49327号公報
【特許文献2】特開平9−273030号公報
【特許文献3】特開平9−324326号公報
【非特許文献1】S. Berber, Y-K. Kwon and D. Tomanek, Phys. Rev. Lett., v84, n20, 2000, p4613-4616
【非特許文献2】J-M. Ting and M. L. Lake, J. Mat. Res. v10, n2, 1995, p247-250
【非特許文献3】日本化学会編、化学便覧(改訂4版)基礎編II、213頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来材料には無い特性を有すると期待されているナノファイバであるが、非常に微細であり、組織化、整列させて使用する事は困難である。特に高熱伝導率を活かして、高効率な熱輸送を行える部材をナノファイバを用いて構成するには、それらを組織化、整列させて使用する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様であるナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維は、表層から中心部までの厚さ5〜20μmの炭素マトリクス中に、直径300nm以下、アスペクト比(長さ/直径比)10以上のナノファイバが、0.5〜60重量%含有されており、かつ黒鉛化されていることを特徴とする。ここで、前記ナノファイバの90%以上が繊維長さ方向に配列されていてもよい。あるいはまた、前記ナノファイバの10%以下が繊維断面内にランダム配向させて、ピッチに由来する黒鉛結晶を架橋し、黒鉛化工程におけるクラック発生を抑制することが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様であるナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維の製造方法は、メソフェーズピッチにナノファイバを均一に分散させて分散物を得る工程1と、該分散物を溶融紡糸してピッチ糸を得る工程2と、該ピッチ糸を不融化して、不融化繊維を得る工程3と、該不融化繊維を炭素化および黒鉛化する工程4とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のような構成を採ることによって、本発明によって得られる炭素繊維は、ナノファイバによる強化効果により3000℃を超える高温熱処理によっても、ラジアル構造特有の繊維断面円周方向に発生する割れ(クラック)を抑制できる。このことにより圧縮強度が向上するため、高温熱処理によって得られる高い弾性率および熱伝導率と、曲げ強度とを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、炭素繊維原料として用いられているメソフェーズピッチが、ナノファイバに非常に良く濡れ、均質な混合状態となる事から、紡糸法の応用によりこれらナノファイバを整列組織化あるいはランダム組織化させながら繊維状としたナノメートルサイズの組織を有する炭素系複合材料を合成するものである。
【0012】
ナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維は、メソフェーズピッチにナノファイバを均一に分散させる工程1と、ナノファイバが分散したメソフェーズピッチを溶融紡糸する工程2と、溶融紡糸されたピッチ糸を不融化する工程3と、不融化繊維を炭素化および黒鉛化する工程4とにより製造される。
【0013】
本発明において用いられるメソフェーズピッチは、液晶性を示すメソフェーズを含むピッチであり、好ましくは200〜340℃、より好ましくは290℃の軟化点を有する。メソフェーズピッチは、たとえば、原油の減圧蒸留または流動接触分解の残渣、あるいはコールタールなどから得られるピッチを、熱処理により重縮合させることによって得ることができる。
【0014】
本発明において用いられるナノファイバは、単層または数層のグラフェンシートが円筒状に巻かれたカーボンナノチューブ、多層のグラフェンシートが円筒状に巻かれたカーボンナノファイバ、またはこれらの混合物であってもよい。カーボンナノチューブは、グラファイト電極を用いるアーク放電法またはレーザー蒸発法によって作製することができる。一方、カーボンナノファイバは、炭素含有ガスの熱分解などの気相成長法によって作製することができる。ここで、カーボンナノファイバの多くは、気相成長の後に2000℃〜3300℃の黒鉛化工程を経て形成される。しかしながら、本発明に用いられる場合にはこの黒鉛化工程を経ていなくともよい。これは、後述するようにピッチ糸中のメソフェーズピッチの黒鉛化と同時に黒鉛化することが可能なためである。本発明において用いられるナノファイバは、300nm以下の直径、および10以上、好ましくは100以上のアスペクト比(長さ/直径比)を有する。なお、カーボンナノチューブの場合、直径は2〜150nmのオーダーであり、カーボンナノファイバの場合、直径は一般的に10nmから200nmのオーダーである。
【0015】
工程1において、メソフェーズピッチ中に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、あるいはそれらの混合物を均一に分散させる。カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、あるいはそれらの混合物の添加量は、メソフェーズピッチの重量を基準として0.5〜60質量%、好ましくは1〜20質量%の範囲内である。このような混合比とすることによって、最終的に得られるピッチ系炭素繊維におけるナノファイバの含有量が、メソフェーズピッチの黒鉛化によって得られる炭素マトリクスの重量を基準として、0.5〜60質量%、好ましくは1.5〜25質量%とすることができる。分散は、二軸混練機、スクリュー式混練機、遊星式混練機などの当該技術において知られている任意の混練装置において、メソフェーズピッチの軟化点以上の温度、好ましくは280〜340℃、より好ましくは320℃において、メソフェーズピッチとナノファイバとを混練することによって行われる。必要に応じて、分散終了後または分散工程と連続的に、メソフェーズピッチとナノファイバとの混合物を、紡糸工程に適した形状(ペレットなど)に成型してもよい。
【0016】
工程2において、前述のメソフェーズピッチとナノファイバとの混合物を溶融させ、細孔ノズルを通して押し出すことによって紡糸して、ピッチ糸を形成する。
【0017】
細孔ノズルは、溶融混合物が押し出すための複数の細孔を有する。細孔ノズルは、好ましくは1〜6000個の細孔(キャピラリ)を有する。それぞれのキャピラリの開口部断面は、所望される繊維断面形状および寸法に応じて、正方形、矩形、円形、楕円形、星形、不規則形状などの任意の形状を有していてもよい。
【0018】
押出を行う場合に、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中で、ピッチ混合物を280から350℃、好ましくは350℃に加熱して、ピッチ混合物を溶融させる。また、ピッチ糸への気泡の混入を防止するために、溶融混合物を減圧環境にさらして溶融混合物中の脱気を行ってもよい。脱気工程においては、溶融混合物を、0.1〜5時間、好ましくは2時間にわたって、1から10Pa、好ましくは5Paの真空下に暴露する。そして、溶融混合物に対して0.2〜7MPaの圧力を加えて、溶融混合物を細孔ノズルから押し出し、押し出されたナノファイバ含有メソフェーズピッチを60m/分〜100m/分の速度でひきとり、紡糸を行う。紡糸段階についても、溶融段階と同様に、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中で実施することが望ましい。
【0019】
工程2の紡糸段階において、メソフェーズピッチ内のメソフェーズ、およびナノファイバがピッチ糸の長手方向(繊維長さ方向)に配向する。高強度および高い熱伝導率を有するナノファイバが繊維長さ方向に配向することによって、最終的に得られる黒鉛化ピッチ系繊維の強度および熱伝導率を向上させることが可能となる。また、ナノファイバの一部は、後述するようにピッチ繊維におけるクラック発生を防止するために、繊維長さ方向以外のピッチ糸(したがって、最終的な炭素繊維)の繊維断面内のランダムな方向に配向することが望ましい。本発明においては、前述の範囲内の圧力でナノファイバ含有メソフェーズピッチを押出すことによって、細孔ノズル出口におけるメソフェーズピッチの膨張によって、ナノファイバの90%以上、望ましくは90〜98%を繊維長さ方向に配向させつつ、10%以下、望ましくは10〜2%のナノファイバを繊維断面内のランダムな方向に配向させて、最終的に得られる黒鉛化ピッチ系繊維の強度および熱伝導率を向上させると同時に、炭素繊維におけるクラックの発生を防止することが可能となる。
【0020】
次に、工程3において、溶融紡糸されたピッチ糸の不融化処理を行う。不融化処理は、酸素含有雰囲気下で、ピッチ糸を加熱することによって行われる。酸素含有雰囲気は、純酸素、空気、または酸素と不活性ガスとの混合物であってもよく、これらの雰囲気に対して二酸化窒素および二酸化硫黄などの不融化促進剤を数%混合してもよい。酸素含有雰囲気は、好ましくは20体積%以上の酸素を含有することが好ましい。最も好ましくは、不融化処理は、5から100cm/min、好ましくは10cm/minの速度で流れる空気流中で実施される。また、不融化処理において、ピッチ糸は、0.5〜8時間、好ましくは1〜4時間にわたって、180〜380℃、好ましくは210℃〜340℃の温度に加熱される。
【0021】
次に、工程4において、不融化繊維の炭素化および黒鉛化処理を行う。炭素化および黒鉛化処理は、不活性雰囲気下で、ピッチ糸を加熱することによって行われる。不活性雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、または窒素と不活性ガスとの混合物であってもよい。黒鉛化処理は、0.1〜3MPa、好ましくは0.3MPaの圧力下の不活性雰囲気中で実施される。メソフェーズピッチを黒鉛化するために、不融化繊維は、2400から3400℃、好ましくは3300℃まで加熱される。本工程中、約1000〜1400℃の段階で不融化繊維の炭素化が進行し、約2000℃を超えて黒鉛化が進行する。
【0022】
得られるナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維の断面形状は、工程2で用いられる細孔ノズルのキャピラリ開口部形状に倣い、正方形、矩形、円形、楕円形、星形、不規則形状などの任意の形状を有していてもよい。本発明のナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維の炭素マトリクスは、5〜20μmの表面から中心までの厚さを有することが望ましい。本発明における「炭素マトリクスの表面から中心までの厚さ」は、炭素繊維断面の内接円の半径を意味する。すなわち、炭素繊維断面が円形の場合、その半径であり;炭素繊維断面が楕円形の場合、その短軸の長さの1/2であり;炭素繊維断面が矩形の場合、その短辺の長さの1/2であり;炭素繊維断面が正方形の場合、その一辺の長さの1/2である。
【0023】
また、得られるピッチ系炭素繊維内のナノファイバは、組織化の状態により2種類の効果を生じさせる。第1は、繊維断面内のランダム方向に配列したナノファイバによる黒鉛の割れ(クラック)防止である。図1(a)にクラック発生の機構の模式図を示し、図1(b)にクラックが発生した繊維のSEM(走査電子顕微鏡)写真を示す。細孔を通過したメソフェーズピッチ100は、黒鉛化によってラジアル構造の黒鉛結晶110をベースとした構造をとる。より高い弾性率、熱伝導率を求める場合には3000℃近傍の高温熱処理が必要となるが、その際の黒鉛結晶化に伴う体積収縮により、扇形に割れたクラック150をしばしば生ずる。一方、図2(a)の模式図および図2(b)のSEM写真に示すように、炭素繊維100の断面内のナノファイバ200のランダム配向成分は、複数のラジアル構造の黒鉛結晶110を結合する機能を果たし、黒鉛結晶化に伴う収縮に伴う割れを抑制する。第2は、図3に示すような炭素繊維100の繊維長さ方向に配列したナノファイバ200による強度および熱伝導率の向上である。
【0024】
本発明における「繊維長さ方向に配列」とは、ナノファイバの長軸が、繊維中心軸に対して10゜以下の角度をなすことを意味する。また、本発明における「ランダム方向に配列」および「繊維断面内のランダム方向に配列」とは、ナノファイバの長軸が、繊維中心軸に対して10゜〜90゜の角度をなすことを意味する。本発明のナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維におけるランダム方向および繊維長さ方向への配向割合は、ナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維を樹脂に平行に埋め込み、研磨して該炭素繊維の断面を露出させ、その断面の走査電子顕微鏡による観察にて求めた。
【0025】
炭素繊維のストランド引張物性はJIS R7601に準じて測定した。また、炭素繊維の熱伝導率λは式(1)によって求められる(式中、ρは炭素繊維の密度であり、Cpは炭素繊維の比熱容量であり、およびDは炭素繊維の熱拡散率である)。
【0026】
λ=ρ・Cp・D (1)
【0027】
ここで、炭素繊維の密度ρは、ブロモホルム/エチルアルコ−ル溶液(液比重は比重計で測定)を使用して、4mmの長さに切断した炭素繊維の浮沈により測定した(JIS R7601に準拠)。炭素繊維の比熱容量Cpは0.7J/g・Kとした(黒鉛は20℃で0.7J/g・K、非特許文献3参照)。熱拡散率Dの測定はレーザーフラッシュ法を用いた。円盤状の試料(直径10mm、厚み2〜3mmのCFRP)の表面にレーザーを照射し、裏面の温度上昇を非接触型の赤外センサーで検出する。得られた温度上昇曲線より、裏面の温度が最大値の1/2に達するまでに要する時間t1/2を測定して式(2)にて熱拡散率Dを計算する(式中、Iは試料の厚みである)。
【0028】
D=1.37・I/π・t1/2 (2)
【実施例】
【0029】
(実施例1)
溶融紡糸法によってピッチ繊維を製造する手法に従って、気相成長炭素繊維(VGCF)を混合したメソフェーズピッチを紡糸する。
【0030】
固形粒状のメソフェーズピッチに対して、10重量%のVGCF(直径200nm、長さ2μm〜502μm)を加え、50kg/hrの能力を有する二軸混練機により、320℃で押し出し混練を行い、直径2mm、長さ4mm程度のペレットを連続製造した。
【0031】
VGCF配合ピッチペレットを、500ホ−ルの細孔ノズル(キャピラリー直径0.2mmΦ、長さ0.4mm)を有するダイスを用いて溶融紡糸を行った。紡糸に先立ち、ステンレス製密閉容器に封入したVGCF配合ペレットを5Paの真空下にて350℃で2時間脱気した。その後、溶融したVGCF配合ピッチを窒素で1.2MPaに加圧し押し出し、300m/minの速度で巻き取り、14μmのVGCF配合ピッチ繊維を得た。
【0032】
得られたVGCF配合ピッチ繊維を10cm/minの空気流中、300℃で1.5hr不融化処理した。引き続き不融化繊維を0.5MPaのアルゴン雰囲気下で3000℃で1hrの間黒鉛化処理してVGCF含有ピッチ系炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は3900MPa、弾性率は1000GPa、熱伝導率は1150W/mKであった。得られたVGCF含有ピッチ系炭素繊維の横断面について、横方向および斜め方向から見た横断面のSEM写真を、それぞれ図4(a)および(b)に示す。
【0033】
(実施例2)
実施例1で使用したVGCF配合ピッチペレットを500ホ−ルの細孔ノズル(キャピラリ−は短辺0.4mm、長辺0.8mmのスリット状)を有するダイスを用いて溶融紡糸を行った。紡糸に先立ち、ステンレス製密閉容器に封入したVGCF配合ペレットを5Paの真空下にて350℃で2時間脱気した。その後、溶融したVGCF配合ピッチを窒素で0.3MPaに加圧し押し出し、250m/minの速度で巻き取り、短辺20μm×長辺40μmのスリット状断面を有するVGCF配合ピッチ繊維を得た。
【0034】
得られたVGCF配合ピッチ繊維は実施例1と同じ方法で不融化処理および黒鉛化処理してスリット状VGCF含有ピッチ系炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の引張強度は4200MPa、弾性率は980GPa、熱伝導率は1080W/mKであった。
【0035】
(比較例1)
実施例1で使用した固形粒状メソフェーズピッチを、ナノファイバを混合することなしに実施例1と同じ方法で溶融脱気、溶融紡糸してピッチ繊維を得た。このピッチ繊維を実施例1と同じ方法で不融化処理、黒鉛化処理をして、黒鉛化ピッチ系炭素繊維を得た。
【0036】
この繊維を走査電子顕微鏡で観察すると、図1(b)のように炭素繊維が大きく割れていた。得られた炭素繊維の引張強度は1300MPa、弾性率は950GPa、熱伝導率は1100W/mKであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】炭素繊維におけるクラック発生を示す図であり、(a)は横断面の模式的透視断面図であり、(b)はクラックが発生した炭素繊維のSEM写真である。
【図2】ナノファイバによる炭素繊維におけるクラック抑制を示す図であり、(a)は横断面の模式的透視断面図であり、(b)はクラックが抑制された炭素繊維のSEM写真である。
【図3】ナノファイバが繊維長さ方向に配向した本発明のナノファイバ含有炭素繊維の一例を示す斜視図である。
【図4】実施例で得られたVGCF含有ピッチ系炭素繊維の横断面を示すSEM写真であり、(a)は横方向から撮影されたSEM写真であり、(b)は斜め方向から撮影されたSEM写真である。
【符号の説明】
【0038】
100 炭素繊維
110 黒鉛結晶
150 クラック
200 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層から中心部までの厚さ5〜20μmの炭素マトリクス中に、直径300nm以下、アスペクト比10以上のナノファイバが、0.5〜60重量%含有されており、かつ黒鉛化されていることを特徴とするナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維。
【請求項2】
前記ナノファイバの90%以上が繊維長さ方向に配列されていることを特徴とする請求項1に記載のナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維。
【請求項3】
前記ナノファイバの10%以下が繊維断面内にランダム配向されており、ピッチに由来する黒鉛結晶を架橋し、黒鉛化工程におけるクラック発生を抑制していることを特徴とする請求項1に記載のナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維。
【請求項4】
メソフェーズピッチにナノファイバを均一に分散させて分散物を得る工程1と、
該分散物を溶融紡糸してピッチ糸を得る工程2と、
該ピッチ糸を不融化して、不融化繊維を得る工程3と、
該不融化繊維を炭素化および黒鉛化する工程4と
を備えたことを特徴とするナノファイバ含有ピッチ系炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−307358(P2006−307358A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128218(P2005−128218)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】