説明

ナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物

本発明は、ナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物に関する。本発明による組成物は、ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、無機難燃剤のナノホウ酸で処理された金属水酸化物100ないし250重量部;上記ベース樹脂の相溶性増進剤のナノ粘土1ないし50重量部;難燃助剤の所定の金属化合物1ないし50重量部;及び酸化防止剤0.5ないし5重量部を含んでなることを特徴とする。本発
明の組成物は、難燃性絶縁材料、特に、電線の絶縁被覆層として用いられたときに、従来の製品と比較して、引張強度や伸びなどの機械的強度において同等の物性を維持しながらも、ハロゲン元素を含まないので従来のハロゲン系製品に比べて環境に優しく、特に、高難燃等級のVW‐1の基準にも適した難燃性が確保できるという利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物に関する。より詳しくは、ナノサイズを有する物質をポリオレフィン系ベース樹脂に添加することによりハロゲン元素を含まないにもかかわらず難燃性が向上した絶縁材を製造するための、ナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃絶縁材料として汎用的に用いられている、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂は、その化学構造上、水素と炭素などの可燃性物質から構成されている有機物である。したがって、火事発生の際には、発煙濃度が高くなる。また、火事発生の際、有毒ガスを含有する煙を大量に発生させ、二次的な人命被害などを誘発させる問題点を抱いている。一方、臭素や塩素等のハロゲン成分を含んだハロゲン系難燃絶縁材が用いられているが、これは製造及び使用上の安全性に問題が発生する可能性があり、特に、燃焼の際にはダイオキシンのような有毒ガスを放出する問題がある。したがって、環境への優しさの観点からハロゲン元素を含まない難燃絶縁材料に対する研究がなされてきた。
【0003】
近年、環境に優しい難燃剤の技術分野においては、多様な環境に優しい成分についての難燃性の研究がなされてきた。特に、金属水酸化物系無機難燃剤を用いる場合には、UL
94のVO等級を満たすが、高難燃等級と言えるVW‐1等級を満たすことができない
問題点が確認されている。無機物粘土が用いられた場合には、UL 94のVO等級を満
たすが、上述のように高難燃等級と言えるVW‐1等級を満たすことはできていない点が確認された。
【0004】
本発明は、このような従来技術が有する問題点を解決するべく、関連分野での技術的背景の下で、案出された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するよう案出された。したがって、本発明の目的は、VW‐1等級を満たすことができる程度の難燃性を有する、ハロゲン元素を含まない、ナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題の達成のため、本発明により提供されるナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物は、ベース樹脂であるポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、無機難燃剤であるナノホウ酸で処理された金属水酸化物100ないし250重量部;上記ベース樹脂の相溶性増進剤であるナノ粘土1ないし50重量部;難燃助剤である所定の金属化合物1ないし50重量部;及び酸化防止剤0.5ないし5重量部を含んでなることを特徴とする。
【0007】
上記ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂は、オレフィン重合体またはエチレン系共重合体であれば望ましく、上記エチレン系共重合体は、ビニルアセテート(VA)含量が10ないし40%であるエチレンビニルアセテート(EVA)であればさらに望ましい。このとき、上記エチレン系共重合体に含まれるビニルアセテート(VA)の含量が上記数値の下限に達していない場合には、難燃剤を充填しにくくなり所定の難燃性の確保に問題が発生して望ましくない。一方、上記数値の上限を超過する場合には、引張強度や摩
耗性などに関する機械的な強度が減少して製品物性の確保に困る問題が発生して望ましくない。
【0008】
上記無機難燃剤の金属水酸化物を表面処理するために用いられたナノホウ酸は、オルトホウ酸、メタホウ酸及び四ホウ酸からなる群より選択される1種単独または二以上の混合物であり、該選択されたナノホウ酸のサイズは1.0μm以下であり、かつ、その表面積
が1ないし10m2/gであれば望ましい。このとき、上記ナノホウ酸で処理された金属
水酸化物は、燃焼の際に固体膜を形成して、難燃性を向上させるチャー(char)の容易な形成を助ける役割を果たす。上記無機難燃剤の含量が、上記数値の下限に達していない場合には、ホウ酸の表面処理効果を得ることができないため望ましくない。これに対して、上記数値の上限を超過する場合には、上記組成物を用いた圧出加工の際に、加工性が劣化することはもちろん機械的物性も低下するため望ましくない。一方、上記ナノホウ酸のサイズが上記数値を超過する場合には、前記組成物の分散性が弱化して製品の物性再現性が劣化するため望ましくない。また、上記ナノホウ酸の表面積が上記数値の下限に達していない場合には、物性再現性が劣化するため望ましくなく、上記数値の上限を超過する場合には、技術的な困難性により適切な材料の確保が容易ではないため価格が上昇して経済的な面で望ましくない。
【0009】
上記ナノ粘土は、モンモリロナイト、ヘクトライト、バーミキュライト及びサポナイトからなる群より選択される1種単独または二以上の混合物であり、かつ、該ナノ粘土のサイズは1.0μm以下であれば望ましい。このとき、上記ナノ粘土は、極性基を有する構
造を有しているため、ベース樹脂との相溶性を増進する役割を果たす。上記ナノ粘土の含量が、上記数値の下限に達していない場合には、チャーの形成が低下して難燃性が劣化するため望ましくなく、上記数値の上限を超過する場合には、上記組成物を用いて製造された製品の伸びが低下する問題が発生するため望ましくない。
【0010】
上記難燃助剤は、モリブデン系化合物またはシリカ系化合物であれば望ましいが、必ずしもこれに限定されない。上記難燃助剤は、チャーの固化による難燃性を補強し、燃焼の際に発生する煙の量を減少させる役割を果たす。上記難燃助剤の具体的な例として、ホスフェートジンクオキシド(phosphated zinc oxide)、アンモニウムオクタモリブデン、ジンクベースにモリブデン錯化合物及びジンクベースのモリブデンにマグネシウムオキシドとシリカとを添加した無機添加剤からなる群より選択される一つのモリブデン系化合物、ハイドロタルサイト及び粉砕シリカ(ground silica
)、沈殿シリカ及びヒュームドシリカからなる群より選択される一つのシリカ系化合物からなる群より選択される、一以上の金属化合物であれば望ましい。
【0011】
一方、上記難燃助剤の含量が上記数値の下限に達していない場合には、十分な難燃性の確保が困難となるため望ましくなく、上記数値の上限を超過する場合には、上記組成物を用いて製造された製品の伸びや引張強度などの機械的な強度が低下する可能性があるため望ましくない。
【0012】
上記酸化防止剤は、上記組成物を用いて製造された製品内に発生したラジカルを捕えて新しいラジカルの発生を抑制することにより、該製品の老化を防止する役割を果たす。上記酸化防止剤の含量が上記数値の下限に達していない場合には、前述した作用を目的として行った該酸化防止剤の添加の効果が期待しにくいため望ましくなく、一方、上記数値の上限を超過する場合には、ブルーミングまたはブリードアウト効果が発生するため望ましくない。
【0013】
一方、前述したナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物は、非ハロゲン系難燃性電線用被覆絶縁層を製造するために、より望ましく用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は種々の形態に変形し得るものであり、本発明の範囲が下記で詳述する実施例に限定されると解釈してはならない。本発明の実施例は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0015】
実施例(1‐4)及び比較例(1‐4)
本発明による実施例を、実施例1ないし4、および、これと対比する目的として比較例1ないし4に分類して、それぞれの組成物の成分及び含量を下記表1のように用意した。
【0016】
【表1】

【0017】
上記表1において、上記EVAは、エチレンビニルアセテート(ビニルアセテート含量が33%である)であり、上記EEAは、エチレンエチルアクリレート(エチルアクリレート含量が24%である)であり、上記ホウ酸処理金属水酸化物としては、オルトホウ酸で表面処理された金属水酸化物が用いられ、上記ナノ粘土としては、モンモリロナイトが用いられ、上記モリブデン化合物としては、アンモニウムモリブデンで処理された炭酸カルシウムが用いられ、上記シリカ化合物としては、粉砕シリカが用いられ、上記架橋促進剤としては、TMPTMA(Trimethylolpropanetrimethacrlate)が用いられた。一方、上記加工助剤としては、本発明の属する分野において通常用いられる脂肪酸系加工助剤を用いた。
【0018】
電線用絶縁被覆層の調製
上記表1に列挙された実施例1ないし4及び比較例1ないし4による組成物を用いた電線被覆層用絶縁材の調製方法を、次のように段階的に説明する。
【0019】
上記実施例1ないし4による組成物及び比較例1ないし4による組成物をそれぞれ調製
した(S1段階)。上記調製した組成物を120Lの混練機に投入して15分間(好ましくは、15ないし20分)混練した(S2段階)。上記混練した組成物を、75mm単軸スクリュー押出機を用いて150℃(望ましくは130ないし180℃)の押出温度条件下で押出し、絶縁材とした(S3段階)。上記押出された難燃材に8Mrad(望ましくは5ないし10Mrad)の電子ビームを照射して架橋させた(S4段階)。
【0020】
試験及び評価
前述の実施例1ないし4及び比較例1ないし4による組成物を用いて上記S1ないしS4段階に従って調製された電線用被覆層として用いるための絶縁材の試片をそれぞれ採取した。その後、常温物性の評価項目として、引張強度と伸びとをUL 1581により測
定した。難燃性の評価項目として、限界酸素指数(LOI)と高難燃等級(VW‐1)の合否とを基準として採用した。このとき、LOIは、ASTM D 2863により測定し、VW‐1は、UL規格の垂直燃焼試験装置により評価した。上記常温物性の評価項目及び難燃性の評価項目についての試験及び評価の結果を下記表2にまとめた。
【0021】
【表2】

【0022】
上記表2を通じて確認できるように、引張強度及び伸びについては、実施例1ないし4の全ての場合において、比較的均一の数値を有しており、かつ、電線製品で求められる物性値を満たしていたが、比較例1及び3の場合には、引張強度及び伸びが相対的に小さいと評価され、したがって、特性に問題があることが分かる。一方、難燃性評価項目については、垂直燃焼試験装置を用いて評価(VW‐1)した。その結果、比較例1ないし4の全ての場合において製品上欠点が発見されている反面、実施例1ないし4の全ての場合においては製品上欠点がないことが確認できた。したがって、実施例1ないし4においては、本発明による発明の効果が充分に満たされることが確認された。
【0023】
以上に述べたように、本発明の最適な実施例が開示された。ここで明細書及び添付された請求項に用いられた特定の用語は、単に当業者に本発明を詳しく説明するための目的で用いられたものであって、意味の限定や特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するために用いられたものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によるナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物は、難燃絶縁材料、特に、電線の絶縁被覆層として用いられたときに、従来の製品と比較して、引張強度や伸びなどの機械的強度において同等の物性を維持しながらも、ハロゲン元素を含まないので従来のハロゲン系製品に比べて環境に優しく、特に、高難燃等級のVW‐1の基準にも適した難燃性が確保できるという利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂であるポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、
無機難燃剤であるナノホウ酸で処理された金属水酸化物100ないし250重量部;
上記ベース樹脂の相溶性増進剤であるナノ粘土1ないし50重量部;
難燃助剤である所定の金属化合物1ないし50重量部;及び
酸化防止剤0.5ないし5重量部
を含んでなることを特徴とするナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項2】
上記ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂は、オレフィン重合体またはエチレン系共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項3】
上記エチレン系共重合体は、ビニルアセテート(VA)含量が10ないし40%であるエチレンビニルアセテート(EVA)であることを特徴とする請求項2に記載のナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項4】
上記無機難燃剤である金属水酸化物を表面処理するために用いられるナノホウ酸は、オルトホウ酸、メタホウ酸及び四ホウ酸からなる群より選択される1種単独または二以上の混合物であり、該ナノホウ酸のサイズは1.0μm以下であり、かつ、該ナノホウ酸の表
面積が1ないし10m2/gであることを特徴とする、請求項1に記載のナノ技術を用い
た非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項5】
上記ナノ粘土は、モンモリロナイト、ヘクトライト、バーミキュライト及びサポナイトからなる群より選択される1種単独または二以上の混合物であり、かつ、該ナノ粘土のサイズ1.0μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のナノ技術を用いた非ハロ
ゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項6】
上記難燃助剤は、
ホスフェートジンクオキシド(phosphated zinc oxide)、アンモニウムオクタモリブデン、ジンクベースにモリブデン錯化合物及びジンクベースのモリブデンにマグネシウムオキシドとシリカとを添加した無機添加剤からなる群より選択される一つのモリブデン系化合物、ハイドロタルサイト及び粉砕シリカ(ground sil
ica)、沈殿シリカ及びヒュームドシリカからなる群より選択される一つのシリカ系化合物からなる群より選択される、一以上の金属化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。
【請求項7】
上記組成物が、非ハロゲン系難燃性電線用被覆層を製造するために用いられることを特徴とする、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載のナノ技術を用いた非ハロゲン系難燃性絶縁材製造用組成物。

【公表番号】特表2008−528753(P2008−528753A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553019(P2007−553019)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001570
【国際公開番号】WO2006/080606
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(502297933)エルエス ケーブル リミテッド (13)
【Fターム(参考)】