説明

ナノ構造複合体空気極を含む固体酸化物燃料電池及びその製造方法

【課題】ナノ構造複合体空気極を含む固体酸化物燃料電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、a)燃料極支持体と、b)燃料極支持体上に形成された固体電解質層と、c)固体電解質層上に形成されたナノ構造複合体空気極層と、を含み、複合体空気極層は、電極物質と電解質物質とが分子単位で混合されていながら、互いに反応または固溶されて単一物質を形成しないことを特徴とする固体酸化物燃料電池及びその製造方法に関するものであって、低温作動が可能であり、高性能を有し、安定性に優れる燃料電池を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池及びその製造方法に係り、より詳細には、ナノ構造複合体空気極を含み、これにより、構造的安定性と性能とが向上した固体酸化物燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物、すなわち、セラミックス材を電解質として用いる固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC)は、他の燃料電池に比べて、効率が高く、水素以外にも多様な燃料を使える長所があって、主に大型発電用として開発された。
【0003】
大型発電用SOFCは、通常800〜1000℃に至る高温で作動するが、このような高温での作動は、界面反応を起こし、電解質、電極、密封材などの構成要素間の熱膨張不整合による性能低下を引き起こして、用いられる素材と部品とに深刻な制約をもたらし、性能に対する信頼性及び経済性を大きく弱化させる。したがって、大型発電用SOFCでは、作動温度を700℃以下に低めようとする研究が活発である。それだけではなく、新たな研究分野として浮かび上がっている高性能携帯電源用の小型SOFCでは、熱管理の容易性と小型化とのために、作動温度を低めることが必須的な課題と思われている。しかし、作動温度の低下によって、電解質の伝導度や電極の活性が低くなって性能の減少が招かれるので、これを補完するための新素材の採用や構造変化がなされなければならない。
【0004】
特に、SOFC性能において電極分極による損失を起こす主要構成要素は、空気極であって、空気極の電極分極を減少させれば、低温作動による性能損失を改善し、これは、空気極の微細構造で粒子サイズをナノ化して比表面積を極大化させ、触媒反応を起こす反応点の密度を増加させることで可能である。
【0005】
既存のSOFC空気極は、粉末工程を用いて複合体電極粉末を製造し、これをスクリーン印刷法やスプレー法などを用いて、電解質上に塗布し、1000℃程度の温度で焼結して具現されている(H.−G.Jung,et al.,Solid State Ionics 179(27−32),1535(2008),H.−Y.Jung et al.,J.Electrochem.Soc.154(5)(2007))。
【0006】
しかし、このような粉末工程を基盤とした空気極は、その粒子サイズが原料粉末のサイズによって制約されて、粉末の粒度(通常、数百nmからμmレベル)より小さな微細構造を具現することができず、また、nmサイズの開始粉末で形成した空気極であるとしても、高温焼結過程で粒成長が発生して、結果的にはナノ構造を具現することができない。
【0007】
一方、ナノ薄膜工程を利用した空気極は、ナノ構造の具現には成功的であるが、現在までは単一相の薄膜空気極を形成して、電気化学的性能を観察するレベルの研究開発に留まっており、単一相電極の場合、固体酸化物燃料電池の電解質素材と熱膨張係数の差、ナノ構造のSOFC作動温度での構造不安定性によって、厚さの増加が難しく、経時的に空気極の劣化が激しい問題点がある(H.−S.Noh et al.,J.Electrochem.Soc.158(1),B1(2011))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.−G.Jung,et al.,Solid State Ionics 179(27−32),1535(2008)
【非特許文献2】H.−Y.Jung et al.,J.Electrochem.Soc.154(5)(2007)
【非特許文献3】H.−S.Noh et al.,J.Electrochem.Soc.158(1),B1(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、薄膜蒸着を用いて分子サイズで混合された高触媒活性を有するナノ構造の電解質−空気極複合体薄膜を形成することによって、電解質素材と熱膨張係数の差を克服し、SOFC作動温度での構造安定性が向上した固体酸化物燃料電池及びその製造方法を提供するところにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、電解質から前記ナノ複合体空気極薄膜を多層構造で形成して、空気極の上部に行きながら漸進的に組成または気孔率が変化する傾斜構造を具現して、電解質と空気極素材との物性の差による欠陥の発生を防止する高性能固体酸化物燃料電池及びその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、本発明は、a)燃料極支持体と、b)前記燃料極支持体上に形成された固体電解質層と、c)前記固体電解質層上に形成されたナノ構造複合体空気極層と、を含み、前記複合体空気極層は、電極物質と電解質物質とが分子単位で混合されていながら、互いに反応または固溶されて単一物質を形成しないことを特徴とする固体酸化物燃料電池を提供する。
【0012】
また、本発明は、1)燃料極支持体上に固体電解質層を形成する段階と、2)前記固体電解質層上に電解質物質と電極物質とが分子単位で混合された複合体空気極層を形成する段階と、を含む固体酸化物燃料電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分子レベルで混合された電極−電解質複合体を形成し、蒸着条件などを制御して、混合比、気孔率、粒子サイズ、厚さなどをナノレベルの微細構造範囲で自在に調節することができる。これを通じて、ナノ粒子サイズの複合体電極をナノ多孔性構造で形成することができて、比表面積の画期的な向上をもたらし、触媒活性を増加させて、作動温度が低下した場合にも、高い電極触媒活性を有した空気極を形成しうる。
【0014】
また、このように形成された複合体電極は、電極−電解質混合比の調整を通じて電解質との熱膨張係数の差を調整することができて、界面欠陷を抑制し、異種の物質が混合された複合体の効果で同一物質の粗大化や凝集を抑制することができて、SOFCの作動温度範囲で構造的・性能的安定性が単一相ナノ構造電極に比べて優れる。
【0015】
特に、このような構造を薄膜蒸着工程のような集積と量産とが可能な工程を用いて具現することによって、他の技術への移植性、拡張性及び汎用性(互換性)が非常に優れる。SOFCだけではなく、ナノ複合体電極を要求するセンサー、メンブレンなどの他の分野への活用性及び拡張性が大きい。
【0016】
また、本発明によるSOFCは、低温で作動することができるので、用いられる物質の制約が少なく、高温反応で発生する問題を避けることができるので、経済性と信頼性とに優れる。特に、本発明の方法によって、空気極を、1μm以下のナノ構造薄膜電解質の上部に形成しても、電解質構造の変形や破壊のない無難な方法であるので、薄膜電解質との結合を通じて追加的な作動温度の低下を図ることができる。
【0017】
また、低温作動が可能であれば、熱管理の負担が少なくなって、小型化を通じて超小型SOFCを具現することができ、このような超小型SOFCは、次世代携帯用及び移動型電力供給源として高エネルギー密度と高出力密度とを実現させ、既存の携帯電源を代替しうる大きな経済的価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の傾斜構造ナノ複合体電極素子の模式図である。
【図2】本発明の実施例1によって常温及び圧力Pamb=13.33Paで蒸着された後、650℃でポストベークされた(a)LSCと(b)LSC−GDC層の表面モルフォロジーとを示すSEM写真である。
【図3】T=700℃及びPamb=13.33Pa条件で電解質上に蒸着された(c)LSCと(d)LSC−GDC空気極の(a)表面モルフォロジーと(b)微細構造横断面とを示すSEM写真である。
【図4】(a)Pamb=13.33、(b)Pamb=26.66、及び(c)Pamb=39.99Pa(T=700℃)条件で蒸着されたLSC−GDCの表面モルフォロジーを示す。
【図5】傾斜構造薄膜(gradient−structure thin−film、GSTF)空気極の微細構造を示す横断面写真である。
【図6】T=700℃及びPamb=26.663Paで蒸着されたLSC−GDC層(第1層)の(a)high−angle annular dark field(HAADF)TEMイメージ、及び(b)高配率bright field(BF)TEMイメージであり、(c)と(d)は、T=700℃及びPamb=39.99Paで蒸着されたLSC−GDC層(第2層)の(a)HAADF TEMイメージ及び(b)高配率BFTEMイメージである。等方型粒子が、(b)と(d)とに矢印で表示されている。
【図7】T=700℃及びPamb=39.99Paで蒸着されたLSC−GDC層(第2層)の(a)電子ビーム回折パターンと(b)glancing−angle XRD(GAXRD)パターンを示す。各指標は、GDC(#75−0161)及びLSC(#87−1081)のJCPDSに基づく。
【図8】(a)は、GSTF空気極を含む電池と単一相空気極を含む電池との650℃で測定された電流−電圧−出力(I−V−P)曲線であり、(b)は、GSTF空気極を含む電池のインピーダンススペクトル(impedance spectrum、IS)であり、(c)は、単一相空気極を含む電池のISグラフである。
【図9】(a)と(b)は、LSC単一相空気極の横断面と低拡大表面モルフォロジーとであり、(c)と(d)は、電池テスト後のGSTF空気極の空気極の横断面と低拡大表面モルフォロジーとであり、(e)は、電池テスト前のLSC単一相空気極の表面モルフォロジーである。
【図10】本発明による実施例2で製作されたSOFC単電池の断面構造図である。
【図11】本発明による実施例2で製作された単電池のXRDグラフである。
【図12】LSM−YSZ/LSC傾斜構造薄膜空気極の(a)表面及び(b)横断面の微細構造の写真である。
【図13】傾斜構造複合体空気極(○)と単一相LSM空気極(図中、四角で表す)とを含む電池のISグラフである。
【図14】傾斜構造複合体空気極(○)と単一相LSM空気極(図中、四角で表す)とを含む電池のI−V−Pグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0020】
本発明は、電解質素材と熱膨張係数の差を克服し、ナノ構造のSOFC作動温度での構造不安定性を克服するために、薄膜蒸着方式などを用いて、分子レベルで混合された高触媒活性を有するナノ構造の電解質−電極複合体空気極層を含む固体酸化物燃料電池及びその製造方法に関する。
【0021】
本発明は、a)燃料極支持体と、b)前記燃料極支持体上に形成された固体電解質層と、c)前記固体電解質層上に形成されたナノ構造複合体空気極層と、を含み、前記複合体空気極層は、電極物質と電解質物質とが分子単位で混合されていながら、互いに反応または固溶されて単一物質を形成しないことが特徴である。
【0022】
本発明の一実施例によれば、前記複合体空気極層の電極物質は、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、またはランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)のようなランタン酸化物系ペロブスカイト、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、及びビスマスルテニウム酸化物からなる群から選択されうるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、本発明に用いられる電解質物質は、イットリア安定化ジルコニア(yittria-stabilized zirconia、YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(scandia-stabilized zirconia、ScSZ)などのドーピングされたジルコニア、ガドリアドープドセリア(gadolinia-doped ceria、GDC)、サマリアドープドセリア(samaria-doped ceria、SDC)などのドーピングされたセリアのような酸素イオン伝導体及びドーピングされたバリウムジルコネート(barium zirconate、BaZrO)、バリウムセレート(barium cerate、BaCeO)などのセラミックスプロトン伝導体からなる群から選択されうるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の電極物質と電解質物質は、複合体ターゲットと薄膜の製造温度、素子の作動温度範囲で相互反応するか、固溶されて単一物質を形成しないことが特徴である。
【0025】
また、本発明の他の実施例によれば、複合体空気極層の電極物質と前記電解質物質との比率は、2:8ないし8:2が適当であり、3:7から7:3が望ましい。この範囲で、本発明によるナノ複合体物質が相互連結度を有しうる(U.P.Muecke,S.Graf,U.Rhyner,L.J.Gauckler,Microstructure and electrical conductivity of nanocystalline nickel−and nickel oxide/gadolinia−doped ceria thin films.Acta Mater.56(2008)677−687)。
【0026】
また、本発明が使用可能な燃料極支持体は、NiO−YSZ、NiO−ScSZ、NiO−GDC、NiO−SDC、NiO−doped BaZrOなどの燃料電池作動中、還元後、ニッケルと電解質物質のサーメット複合体を形成する物質、Ru、Pd、Rd、Ptなどの燃料極触媒物質と電解質物質のサーメット複合体のうちから選択されうるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
また、本発明のように、200ないし1000℃温度範囲で形成した複合体の構成粒子サイズは、100nmを越えず、これは、既存の粉末工程では得られない微細な粒子であって、これにより、高触媒活性を具現することができる。
【0028】
また、本発明の他の実施例による固体酸化物燃料電池は、複合体空気極層上に電極物質単一相の集電層をさらに含むか、前記電解質層と前記複合体空気極層との間に緩衝層をさらに含みうる。
【0029】
また、本発明の他の一実施例によれば、前記複合体空気極層は、2層以上の多層構造を有することが望ましい。具体的に、前記複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど気孔率が増加する気孔率傾斜構造を有するか、または電解質層との当接面から上部に上がるほど前記電極物質含量が増加する組成傾斜構造を有しうる。このように、傾斜構造を多層構造で具現する場合、電解質と空気極との間の構造と物質の変化が漸進的に起こるので、構造的安定性をさらに向上させることができる。特に、高温で作動するSOFCで、これは長期安定性と信頼性とを高めうる効果的な方法である。
【0030】
一方、本発明による固体酸化物燃料電池の製造方法は、1)燃料極支持体上に固体電解質層を形成する段階と、2)前記固体電解質層上に電解質物質と電極物質とが分子単位で混合されたナノ構造複合体空気極層を形成する段階と、を含む。
【0031】
本発明の一実施例によれば、前記複合体空気極層は、パルスレーザ蒸着法(PLD;Pulsed Laser Deposition)、またはスパッタリング(sputtering)蒸着法によって形成される。それ以外にも、前記複合薄膜蒸着法は、電子ビーム蒸発蒸着法(e−beam evaporation)、熱蒸発蒸着法(thermalevaporation)などの物理的気相蒸着法(physical vapor deposition、PVD)と化学的気相蒸着法(chemical vapor deposition、CVD)、静電噴霧法(electrostatic spray deposition)などを使え、前記のような原料粉末を蒸着する方式ではない、蒸着粒子が原子化−分子化されてプラズマを形成して、原子−分子単位の混合度が得られる蒸着法も適用可能である。
【0032】
具体的に、例えば、パルスレーザ蒸着法(PLD)を用いる場合、複合体空気極層は、200ないし1000℃と10Pa以上の圧力条件で蒸着されて形成される。蒸着時に、蒸着粒子の蒸着面表面での移動度を向上させて均一な蒸着を可能にし、蒸着と同時に薄膜の付着性と結晶性とを獲得するためには、少なくとも200℃以上の温度で蒸着される必要がある。また、蒸着温度が不十分な場合、ポストベークを通じて、薄膜の付着性と結晶性とを追加的に増加させることができる。また、前記複合体空気極層を形成する時、蒸着温度は、1000℃を超えないようにする。蒸着温度が1000℃を超過する場合には、粒子のサイズが過度に大きくなって、薄膜のナノ粒子特徴が消失され、電解質構成物質との反応、蒸着装備の劣化などの望ましくない付随的反応が起こりうる。
【0033】
また、前記複合体空気極層を形成する時、蒸着温度が常温より高い状態で多孔性構造を獲得するために、蒸着雰囲気の圧力は10Pa以上にする。蒸着温度が常温より高い時、蒸着圧力が10Pa未満で低ければ、蒸着物質の基板表面上でのエネルギーが高くて、移動性が向上して、緻密な薄膜が形成されて、SOFC電極に要求される多孔構造を獲得することができない。
【0034】
また、本発明の他の一実施例によれば、前記複合体空気極層を形成した後、前記複合体空気極層上に電極物質単一相の集電層を形成する段階をさらに含みうる。
【0035】
また、本発明の他の一実施例によれば、前記複合体空気極層を形成する前に、前記電解質層と前記複合体空気極層との間に緩衝層を形成する段階をさらに含みうる。
【0036】
また、本発明の他の一実施例によれば、前記複合体空気極層は、2層以上の多層構造で形成することが望ましい。この際、前記多層構造の複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど気孔率が増加する気孔率傾斜構造で形成しうる。例えば、気孔率傾斜構造は、第n複合体空気極層を形成し(nは、1以上の整数)、蒸着圧力を高めて、第n複合体空気極層より気孔率が大きい第n+1複合体空気極層を形成するか、または第n複合体空気極層を形成し(nは、1以上の整数)、蒸着温度を低めて、第n複合体空気極層より気孔率が大きい第n+1複合体空気極層を形成しうる。
【0037】
また、前記多層構造の複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど電極物質含量が増加する組成傾斜構造を有するように形成することもできる。具体的に、電極物質と電解質物質の複合ターゲットとを用いて複合体空気極層を蒸着する過程で、前記複合ターゲットの電極物質及び電解質物質の組成比を調節するか、または電極物質と電解質物質ターゲットとをそれぞれ用いて複合体空気極層を蒸着する過程で、各ターゲット物質に対するレーザパワー、パルスまたはスパッタパワーを調節して組成傾斜構造を形成する。
【0038】
また、本発明の他の一実施例によれば、前記複合体空気極層の形成後に、薄膜の付着性及び結晶性の向上のためのポストベーク段階をさらに含みうる。
【0039】
以下、図面を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。
【0040】
図1は、本発明の傾斜構造ナノ複合体電極素子の模式図であって、電解質層10、複合体空気極層20、集電層30からなる電極を示す。電解質層10は、SOFC用固体電解質であって、数μmの後膜電解質層であるか、1μm以下の薄膜電解質層であり得る。電解質層10と複合体空気極層20との間には、電解質と複合体空気極層との間の反応抑制または付着性の向上のための緩衝層が挿入されうる。
【0041】
一方、複合体空気極層20は、1層以上で構成され、2層以上の場合、電解質層と当接する界面で複合体空気極層の最上部に行きながら、気孔率と電極物質との組成比率が漸次的に増加するものであり得る。すなわち、複合体空気極層が2層以上でなされる場合、電解質層と近くの層は、その上部に形成される層より緻密構造であり、電解質の含量が高く、複合体空気極層の最上部に行くほどその下部層より多孔構造であり、電極の含量が高い気孔率と組成の傾斜構造であり得る。具体的に、1)組成は一定し、上部に行きながら気孔率のみ増加するか、2)気孔率は一定し、上部に行きながら電極物質の含量が高くなるか、3)気孔率と電極物質の含量が上部に行きながら同時に増加する3種の形態が可能である。
【0042】
このような傾斜構造は、次のように具現が可能である。組成が同じで、上部に行きながら気孔率が増加しようとすれば、下層から上層に行きながら蒸着圧力を高める。蒸着圧力が高くなれば、蒸着される粒子が基板に到逹する間に、プラズマ状態で互いに衝突が多くなって、蒸着圧力が低い場合より凝集体を形成しやすく、基板に到逹する粒子のエネルギーが多く消失されるので、蒸着時に基板で再配列を易しくできないので、緩く充填された膜が形成されて、より大きい粒子サイズと気孔率とを有する膜が形成される。
【0043】
蒸着温度を高い温度から低い温度に低める場合にも、さらに緻密な膜から、さらに多孔性の膜に構造を漸次的に変えることができる。この場合、蒸着温度が低くなれば、基板表面に到逹した粒子の再配列が容易に起こらないので、緩く充填された膜が形成されて、蒸着温度が高い場合より気孔率が大きな膜が形成される。上部に行きながら気孔率は同じであり、組成を変えろうとすれば、他の蒸着条件(蒸着温度及び蒸着圧力)は固定し、ターゲットの組成を変化させる。気孔率と組成とをいずれも変化させようとすれば、蒸着条件(蒸着温度及び蒸着圧力)とターゲットの組成とをともに変化させる。
【0044】
図4(a)ないし図4(c)は、LSCとGDCとが1:1で混合されたターゲットを用いて蒸着温度700℃で蒸着圧力を13.33Pa、26.66Pa、39.99Paに増加させながら、PLDで電解質上に蒸着した複合体空気極層の表面走査電子顕微鏡写真である。工程圧力が増加しながら、次第に気孔率が増加することを確認することができる。
【0045】
複合体空気極は、互いに反応物や固溶体を作らない物質を同時蒸着した時の特性上、単一相薄膜で表われる柱状構造の粒子微細構造ではなく、等方型に近い形状の粒子で、互いに均一に混ぜられている混合構造を形成するので、相互凝集を防止してナノ構造を保持させて、高温構造安定性を増進させ、電解質−電極−空気が合う3相界面の数を増加させて電極性能を向上させる。
【0046】
複合体空気極は、単層でも電解質と空気極との間の熱膨張係数差を減少させる役割を果たして、空気極の構造的信頼性を向上させることができる。図3(a)と図3(b)に単一電極物質(この場合、LSC)で製作された空気極薄膜の表面と断面走査電子顕微鏡写真と、図3(c)と図3(d)に電極(LSC)と電解質(GDC)物質とを1:1複合体で形成した空気極薄膜の表面と断面微細構造とを比較した。2つの薄膜いずれも13.33Paの工程圧力下で700℃でPLDで薄膜蒸着したものである。電解質は、YSZ上に反応抑制層でGDC200nmが形成された構造である。LSC単一相薄膜の場合、電解質との熱膨張係数差(LSC〜23ppm、YSZ〜11ppm、GDC〜12ppm)による亀裂の発生を観察することができる。特に、空気極と電解質界面とで剥離が目立つことが分かる。しかし、LSC−GDC膜の場合、電解質物質であるGDCが混合されることによって、電解質との熱膨張係数差が緩和されて亀裂が発生せず、界面強度も保持されることを観察することができる。このように、単層のみでも効果が見られるが、前述したように、傾斜構造を多層構造で具現する場合、電解質と空気極との間の構造と物質の変化が漸進的に起こるので、構造的安定性をさらに向上させることができる。
【0047】
図1の集電層は、電極単一物質からなる高伝導性の層であって、空気極の集電を容易にする。常温で蒸着した後、ポストベークして多孔構造を獲得するか、常温より高い温度で蒸着する時は、空圧を10Pa以上にして多孔構造を獲得する。集電層は、複合体空気極層の最上部層が十分に集電層の役割ができる時は省略されることもある。
以下、実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。しかし、下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示的なものであって、本発明の範囲が、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
〔実施例1:LSC−GDC複合体電極〕
既存の粉末工程によって、NiO−YSZ複合体粉末を加圧成形した後、仮焼結した燃料極支持体上に、燃料極支持体に比べて粒度の小さなNiO−YSZ燃料極機能層をスクリーン印刷法で形成し、その上部にYSZ電解質層をスクリーン印刷法で形成した後、1400℃で3時間焼結して、燃料極支持型SOFCを後膜電解質まで完成した。具体的に、あらゆる層は、NiO−YSZ燃料極支持体上の8μm厚さのYSZ電解質上に蒸着された。LSC基盤の空気極とYSZ電解質との間の反応バッファ層としてYSZ電解質上に200nm厚さのGDC緩衝層をPLDで蒸着し、蒸着温度は700℃、工程圧力は6.67Paであった。
【0049】
蒸着変数と物質変化の効果を調査するために、1μm厚さの層を多様な蒸着条件下でPLDによって蒸着し、その微細構造を電子走査顕微鏡(SEM)を通じて観察した。PLDは、レーザソースとしてKrFエクシマーレーザ(λ=248nm)を用いた。ターゲット表面でレーザエネルギー密度は、約3J/cmであり、ターゲットと基板との距離は、5cmに固定した。
【0050】
実験されたターゲット物質、蒸着時、基板温度(T)、蒸着工程圧力(Pamb、酸素)、及びポストベーク条件は、下記の表1に記載されている。LSC(La0.6Sr0.4CoO3−δ)加圧成形パウダーペレットを1200℃で3時間焼結させてLSCターゲットを製造した。LSCとGDCとの混合粉末(混合体積比=1:1)からなる加圧成形ペレットを1300℃で5時間焼結させてLa0.6Sr0.4CoO3−δ−Ce0.9Gd0.12−δ(LSC−GDC)複合体ターゲットを製造した。
【0051】
【表1】

【0052】
8μm厚さのYSZ電解質/200nm厚さのGDCバッファ層を有した燃料極支持型電池をモルフォロジー観察でのようにプラットフォームとして用いた。傾斜構造を有する空気極は、3層で構成されている。GDCと当接した第1層は、T=700℃及びPamb=26.66Paで蒸着された1μm厚さのLSC−GDC複合体層であった。第2層は、T=700℃及びPamb=39.99Paで蒸着された1μm厚さのLSC−GDC複合体層であった。第3層(top)は、常温及びPamb=13.33Paで蒸着した後、650℃大気下でポストベークさせた2μm厚さのLSC単一相層であった。
【0053】
最初の2つの複合体層は、真空を保持しながら700℃で連続して蒸着し、三番目の単一相層は、真空保持しながら基板温度を低めた後に蒸着した。比較のために、4μm厚さの単一相LSC空気極を含む電池は、常温及びPamb=13.33PaでLSCを蒸着した後、大気中で650℃ポストベークして製造した。
【0054】
2つの電池いずれも600℃から450℃まで50℃間隔で温度を下げ、再び600℃に上げてインピーダンススペクトル(IS)と電流−電圧−出力(I−V−P)測定を実施し、テストサイクル後の電池性能保持度をチェックした。次いで、電池温度を650℃に上げてインピーダンスを12時間モニタリングした。電気化学的インターフェース(SI1260 and SI1287)を有したSolartronインピーダンス分析器を用いて電気化学的特性を分析した。より詳細な微細構造分析と組成分析は、EDSとTEMとを使って性能テスト済みの電池の空気極層上で行われた。空気極のTEM横断面試片は、デュアルビームFIB装置を使って製作した。
【0055】
図2には、常温及び圧力Pamb=13.33Paで蒸着された後、焼結されたLSCとLSC−GDC層のSEM写真の上面図が示されている。これは、蒸着過程の間には、緩く満たされており、後−焼結の間の密度が高くなった薄膜の通常の構造を示す。特に、電解質の粒界屈曲部位に空気極粒子がさらに緩く充填されるので、空気極微細構造は、電解質の粒界構造を反映する隙間(chasms)を示す。
【0056】
このような蒸着条件下で、蒸着された物質のエネルギーは、蒸着段階での高い工程圧力と低い基板温度とによって表面で低く、これにより、界面付着が強くない。このような構造の付着強度は、単純にポストベーク過程の間に付与された熱エネルギーによってのみ形成されるので、界面付着力が低いしかない。
【0057】
<微細構造の分析結果>
前記のような方法で製造された薄膜型空気極の界面強度は、空気極の厚さが増加するにつれて次第に悪化する。したがって、低い温度と高い工程圧力での蒸着及びポストベークが、ナノ多孔性微細構造体を得る簡単かつ易しい方法ではあるが、望ましい安定性を有する微細構造体を含む薄膜−加工型空気極の製造に適した方法ではない。
【0058】
蒸着過程の間に基板の温度を上げることは、界面強度を向上させる方案になりうる。図3は、T=700℃及びPamb=13.33Pa条件で蒸着されたLSCとLSC−GDC空気極とを示す。空気極薄膜は、高温で蒸着されれば、薄膜表面が非常に均一であり、界面強度も向上する。これは、分子単位の蒸着が高い基板温度によって、基板表面で再配列され、蒸着段階の間に付着力が高くなるためである。
【0059】
しかし、高温で蒸着を行う場合、LSC単一相からなる層は、密度増加によって薄膜の硬直性(rigidity)が増加してストレスが解消されず、図2に示された場合とは異なって、より深刻な熱膨張係数(thermal expansioncoefficient、TEC)不整合ストレス(mismatch stress)を受ける。
【0060】
図3(a)と図3(b)とに示されたように、LSC層は、TEC不整合によってクラックが生じ、界面に問題が表われる。薄膜の多孔性を増加させれば、薄膜の硬直性が減少して、薄膜のクラック現象をある程度減少させることができるが、工程圧力を39.99Paまで上げた時も、クラックと界面問題は引き続き観察された。一方、LSC−GDC複合体薄膜では、このような欠陷が表われなかった。
【0061】
<傾斜構造の確認>
前記微細構造の分析結果によって、LSCとGDC、2つの物質の混合は、電解質と空気極層との間のTEC不整合を減少させるのに効果的であるということが分かる。このような結果は、基板温度を上げることが界面接着を向上させる解決策であり得るが、図3(c)及び図3(d)に示された複合体的な接近のようなTEC不整合を緩和させるための措置が必要であることを示す。図2(b)と図3(c)とを比べると、2つの薄膜がいずれも同じ圧力Pambで蒸着されたにもかかわらず、高い基板温度で物質の表面再配列が増加して、図3(c)に示された蒸着薄膜の多孔性が実質的に減少したということが分かる。
【0062】
高温蒸着で多孔性をさらに増加させるためには、工程圧力を高めなければならない。図4は、Pamb=13.33、26.66、及び39.99Pa(T=700℃)条件で蒸着されたLSC−GDCの表面モルフォロジーを示す。工程圧力を13.33から39.99Paに増加させることによって、さらに多孔性である構造体が得られた。工程圧力が高い場合、蒸発されたターゲット物質の散乱とクラスタリングが増加するために、蒸発された物質は運動エネルギーを失って表面再配列が減少した状態で基板に下がる。結果的に、より多孔性である構造体がより高い工程圧力で製造された。このような結果は、我々が工程蒸着圧力を変化させることによって、複合体空気極の多孔性程度を調節することができるということを示す。
【0063】
一方、単一相からなる層を観察すれば、傾斜構造を有する薄膜空気極(以下、‘GSTF(gradient−structure thin−film)空気極’と称する)が、次のように形成された。GDCと接触する最初の層(layer1)は、T=700℃及びPamb=26.66Pa条件で蒸着された1μm厚さのLSC−GDC複合体層であった。二番目の層(layer2)は、T=700℃及びPamb=39.99Pa条件で蒸着された1μm厚さのLSC−GDC複合体層であった。本発明者は、2つの独立した複合体層によって空気極表面側への方向に沿って多孔性が増加する多層複合体を製造しようとした。
【0064】
三番目(top)の層は、集電層であって、最も多孔性と伝導性とが高い層であった。2μm厚さのLSC単一相層を、常温、Pamb=13.33Pa条件で蒸着した後、650℃で焼結した。最上部層の厚さは、界面剥離が不十分になる3μm以下に結晶した。図5は、GSTF空気極の微細構造断面図が示されるが、3つの層が明確に区別される。
【0065】
図6は、各複合体層のTEMイメージである。図6(a)と図6(b)は、それぞれ第1層のHAADF(high−angle annular dark field)イメージ及び高配率BF(bright field)透過電子顕微鏡(TEM)イメージであり、図6(c)と図6(d)は、第2層のそれぞれ該当イメージである。
【0066】
図4で予測されたように、図6(a)と図6(c)のHAADFイメージを見れば、第1層は、第2層より多孔度が低い。2つとも蒸着方向とさらに密度が高い柱状型(columnar)ドメインによって垂直の気孔構造を示す。この薄膜でドメインが柱状型で成長したということは、薄膜蒸着の特性であり、蒸着物質の制限された表面流動性によるものである。
【0067】
<多結晶の特性>
本発明で、また1つの独特の特徴は、柱状型ドメインの多結晶の特性である。単一相薄膜の高温蒸着は、単一結晶性柱状型結晶粒を生成させる。一方、2つの層で柱状型ドメインは、丸状(equiaxed)の結晶粒からなる多結晶構造を表わした。結晶粒形態と多結晶の特性は、図6(b)と図6(d)に示す高解像度BFイメージでよく確認することができる。複合体薄膜の類似した多結晶の特性は、薄膜NiO−YSZ複合体でも報告されたことがある。LSC−GDC複合体薄膜は、2つの混じらない相を組み合わせて蒸着された薄膜がナノサイズで混合された多結晶複合体を生成させるということを示すさらに他の例示である。
【0068】
TEM観察結果から、高い基板温度と高い工程圧力下で蒸着された複合体層の微細構造は、巨視的には垂直の気孔によって分離された柱状型ドメインからなる複合体層と等方性(equiaxed)結晶粒とで構成された柱状型ドメインに要約されうる。
【0069】
また、図6(a)及び図6(c)のHAADFイメージは、柱状型ドメインの分離幅と柱状型ドメインの結晶粒充填密度とが工程圧力に依存するということを示す。高い工程圧力で蒸着された複合体薄膜(第2層)は、柱状型ドメインの分離がさらに広く、柱状型ドメインの結晶粒充填密度がさらに緩い。前述したように、このような工程圧力における微細構造依存性は、薄膜工程で形成された複合体層の気孔率を調節可能にする。
【0070】
複合体層の組成の観点で、TEM−EDS areal mappingによって分析された物質分布は、LSCとGDCとの均一な分布を示すが、これは、薄膜がナノ単位でよく混合されたということを意味する。しかし、粒子サイズが、図6(c)及び図6(d)に示されたように、数十nmレベルであり、EDS解像度が〜50nm厚さのTEM試片では、このような微細な単位で各粒子の物質を確認することができないために、各粒子の完全な確認は不可能である。したがって、我々は、複合体層での電子ビーム回折及び入射角X線回折(glancing−angle XRD、GAXRD)分析を行った。電子ビーム回折実験結果は、図7(a)、GAXRD結果は、図7(b)に示されている。
【0071】
複合体薄膜は、多結晶体であることが明らかである。2つのデータいずれもGDC(#75−0161)とLSC(#87−1081)とのJCPDSを使ってindexingした。LSM−YSZ複合体とは異なって、LSCの主要回折領域がGDCの領域と重なり、LSCの非常に弱い回折部分のみGDCの領域と区別されたために、LSCとGDCとの完璧な分離は難しかった。しかし、一部LSC固有のピークまたは回折リングがGDCの回折領域と重ならない部分で独立して存在するということを見せ、これにより、LSCとGDCとが固溶体を形成せずにナノ単位で混合された複合体という結論を得た。
【0072】
<電池性能及び長期安定性>
GSTF空気極を含む電池の性能と長期安定性は、LSC単一相空気極を含む電池との比較を通じて確認された。図8(a)は、650℃で2つの電池のI−V−P曲線を比較して示す。650℃テスト前に、2つの電池は、600℃から450℃まで一回測定を経り、再び600℃に温度を上げて再び測定した後、650℃で測定した。各温度での性能は、下記の[表2]に記載されている。
【0073】
【表2】

【0074】
単一相LSCを含む電池の性能が、複合体空気極を用いた場合より多少高いが、その差は大きくなく、これは、複合体が電池性能をほとんど悪化させないということを示す。しかし、単一相空気極を含む電池の性能は、再昇温後に減少を示した。一方、GSTF空気極を含む電池は、再昇温後に600℃で電池性能の変化がほとんどなかった。安定性を確認するために、GSTF空気極を有した電池を650℃に温度を上げる前に9時間600℃で保持し、保持した後、I−V−PとIS結果いずれもでほとんど減少がなかった。
【0075】
また、電池の安定性は、GSTF空気極を使って著しく増加した。図8(b)で、GSTF空気極を含む電池のISを650℃で1時間と12時間後とに比較した。2つのスペクトルは、ほとんど一致し、実質的な減少は観察されなかった。一方、単一相空気極を含む電池は、12時間後にインピーダンスが約10倍増加した(図8(c))。本発明者は、GSTF空気極と単一相空気極との高温安定性に対する結果の一貫性を確認するために、何回も実験を行い、GSTF空気極を有する電池では、15〜16時間付近で、インピーダンスが相当増加し、単一相空気極を含む電池では、7〜8時間付近で、このような現象が始まることを確認した。
【0076】
このような性能の差は、微細構造の安定性に起因する。図9(a)〜図9(d)には、電池テスト後に空気極微細構造が示されている。図9(a)、9(b)に示されたように、単一相空気極の場合、ドメインの相当な数が剥離されて消失されたということを観察することができる。比較のために、電池テスト前に単一相LSC空気極の表面モルフォロジーは、図9(e)に示された。長期間電池テストの間に起こった剥離現象によってドメインが消失されたことが明らかである。
【0077】
電池が、長期テスト過程でさらに長期間高温で保持されたために、微細構造の崩壊が以前に報告されたものよりさらに深刻であった。空気極ドメインの損失と剥離現象が起こった時、空気極での側面伝導度(lateral conduction)の損失、有効空気極面積の減少、空気極/電解質界面の減少が発生する。
【0078】
最初の要因は、集電を妨害してΩ(ohmic)抵抗に影響を与え、空気極/電解質界面を横切る電荷輸送部位が除去されるために、最後の要因は、分極抵抗に影響を与える。二番目の要因である電極領域の減少は、Ωと分極抵抗2種いずれもを増加させる。一方、単一相空気極を含む電池よりさらに長期間高温でテストしたGSTF空気極の微細構造は、さらに悪化しなかった(図9(c)及び図9(d))。前述したように、GSTF空気極を含む電池を600℃で9時間さらに保持させた。
【0079】
このような結果は、TEC不整合を抑制し、蒸着条件を調節することで界面の品質を向上させ、ナノ構造空気極の高温安定性を向上させる複合体層を挿入することが確実に効果があるということを示す。
【0080】
向上した界面の付着力は、薄膜空気極の総厚さを増加させることができると予想され、これが、電池性能を増加させるのに効果的であるということは立証されている。PLDによってLSC−GDCナノ−複合体薄膜空気極を製造することによって、薄膜の微細構造安定性が著しく改善された。高温で蒸着した時、TEC不整合による欠陷は、単一相LSC層と比較して複合体層で抑制された。工程圧力を変化させることによって、複合体層の多孔性を調節することができ、GSTF空気極の構造的安定性は、高温性能と構造の安定性とを非常に向上させる。
【0081】
650℃で7〜8時間作動した後に深刻な性能低下が表われる単一相LSC空気極とは異なって、GSTF空気極は、600℃9時間+650℃12時間で長期間作動させた後にも、深刻な性能低下が表われなかった。空気極の微細構造は、GSTF空気極の界面の品質が向上することで性能安定性が改善されるということを示す。
【実施例2】
【0082】
〔実施例2:LSM−YSZ複合体電極〕
8ミクロン厚さのYSZ電解質が形成された2cm×2cmサイズの燃料極支持体上に、200nmのGDCを蒸着して空気極を形成するための半電池を製造した。次いで、LSM−YSZナノ複合体薄膜を形成するために、LSM−YSZ複合体ターゲットを製造してPLDで薄膜を蒸着した。LSM((La0.7Sr0.30.95MnO3−δ、SeimiChemical Co.)とYSZ(8mol% Y−doped ZrO、TZ−8Y、Tosoh Corp.)粉末とを1:1質量比(LSM:YSZ=48:52vol%)で混合して一軸加圧成形した後、1200℃で3時間焼結して複合体ターゲットを製造した。
【0083】
ナノ複合体空気極薄膜を製造するために、KrFエクシマーレーザ(λ=248nm、COMPEX Pro 201F、Coherent)を複合体ターゲットに集束−照射して薄膜を蒸着し、ターゲット表面でレーザエネルギーは、約2.5Jcm−2、ターゲットと基板との距離は、5cmに保持した。
【0084】
傾斜構造LSM−YSZ空気極の形成のために、1ミクロン厚さのLSM−YSZ層は、蒸着圧力26.66Paで、その上部の2ミクロン厚さのLSM−YSZ層は、蒸着圧力39.99Paで形成した。これは、蒸着圧力が高くなるほど薄膜の多孔性の程度が高くなる原理を用いて、電解質と空気極との界面から空気極の上部に行くほど気孔率が高くなる傾斜構造を具現するためである。この際、蒸着温度は、700℃であった。
【0085】
複合体空気極の上部に2ミクロンのLSC層を集電層で形成し、LSC層は、常温で13.33Paの蒸着圧力で蒸着して、650℃で1時間ポストベークして形成した。本研究に使われたあらゆるPLD蒸着では、酸素を工程ガスとして用いた。
【0086】
本実施例で製作したSOFC単電池の断面構造を、図10に図式的に示した。単電池の出力特性とインピーダンス特性は、ソーラトロンインピーダンス分析器(SI1260+SI1287、Solartron)を用いて分析した。測定セットアップ及び条件は、LSM単一物質空気極SOFCの場合と同一であった。空気極の相、微細構造などの物性は、X線回折分析(XRD、PW3830、PANalytical)及び走査電子顕微鏡(SEM、XL−30 FEG、FEI)を通じて分析した。
【0087】
<XRD分析結果>
図11に、製作した単電池のXRD結果が示されている。図10に示された多層構造のXRDであるので、空気極以外の他の層の回折ピークも示されるが、YSZとLSMとの回折ピークが確実に分離されて表われたことを確認することができた。集電体であるLSCの場合は、LSMとピーク位置が類似して重なって表われたように見える。XRD結果からLSMとYSZとが混合されている複合体層を得たことを確認することができ、これにより、本実施例で、互いに固溶性のない2つの物質を混ぜてターゲットで製造して、PLDを用いて薄膜を蒸着した結果、2つの物質が均一に混合された薄膜が得られたということを確認することができた。
【0088】
<表面及び断面の微細構造確認>
図12(a)と図12(b)には、空気極の表面と断面との微細構造がそれぞれ示されている。表面LSC集電層の構造は、既存に同じ方法で製作されたLSC層の微細構造とほとんど同一であり、低い温度と高い空圧とで蒸着した後、ポストベークを通じて得られた構造であって、局部的な焼結収縮による亀裂形状の気孔が垂直方向に確保されたということを確認することができる。
【0089】
断面構造は、実施例1のLSC−GDC多層傾斜構造と同様に26.66Paの空圧で蒸着したLSM−YSZ層は、多少緻密に、39.99Paで蒸着したLSM−YSZ層は、さらに多孔性で形成されたということを確認することができ、最上部のLSC集電層は、最も多孔性で形成されて、意図したように、傾斜構造を形成したことを観察することができる。
【0090】
LSM単一物質空気極を適用した場合と本実施例による空気極の差異点は、大きく、i)LSM単一物質からLSM−YSZ複合体に変化、そして、ii)LSM系電極層が1ミクロンから3ミクロンに増加したと整理することができる。
【0091】
<電気化学的性能測定>
このような変化が電気化学的性能に及ぼす影響を確認するために、2種の単電池で650℃で測定したインピーダンスを、図13に比較した。最も目立つ変化は、LSM単一物質から傾斜構造複合体空気極に変化しながら、10Hz以上の高周波数領域のインピーダンスarcが確実に減少したものである。高周波数領域のインピーダンスarcは、電極の反応、すなわち、酸素の還元と電極−電解質との間の電荷の伝達と係わる部分であって、比較対象である2つの場合が空気極素材と電解質素材とが同一であるので、素材の変化による電極活性の増加が起こったものではなく、複合体空気極で、この部分のサイズが減ったということは、電極反応が起こりうる地点の数、すなわち、TPBが増加して電極の反応が向上したということを意味する。LSM単一物質からLSM−YSZに変化し、厚さも増加しながら、空気極の厚さ方向にTPBの増加した効果が明らかに表われたと思われる。
【0092】
また、空気極の厚さの増加は、電極の分極(polarization resistance)の改善だけではなく、Ω分極(ohmic resistance)の改善にも影響を及ぼすと見える。図13の挿入グラフにΩ分極を確認することができる高周波領域arcと実数軸(x軸)とが交差する部分を拡大図示したが、Ω非面積抵抗(areaspecific resistance、ASR)が、LSM単一物質の場合と複合体傾斜構造空気極の場合、それぞれ約1.2と0.7Ω−cmであり、Ω分極も減少したことを確認することができる。これは、空気極の厚さの増加によって、空気極面に水平な方向の電気的伝導が起こりうる面積(電極の垂直断面面積)が増加するので、水平方向の電気的抵抗損失が減少して表われた結果と見える。
【0093】
特に、本実施例で使われたような数ミクロン以下の薄膜電極では、電極の厚さが薄くて水平方向の伝導度損失が大きくなることができるために、電極厚さの変化がΩ分極に影響を及ぼす蓋然性が大きいと言える。
【0094】
下記の[表3]に、図13で得られた2つの単電池の分極抵抗を比較した(650℃で単電池のARS値測定)。LSM単一物質空気極を用いた場合に比べて、LSM−YSZ複合体傾斜構造空気極を用いた場合、電極の分極抵抗は、単一物質空気極抵抗の約30%、Ω分極抵抗は、約60%に減少したことが分かる。このような分極抵抗の変化は、単電池の性能に影響を及ぼした。
【0095】
【表3】

【0096】
図14に、本研究で得られた複合体傾斜構造空気極を用いた場合と、単一物質空気極を用いた場合との650℃での電流−電圧−出力(I−V−P)曲線を比較した。下記の[表4]に比較したように、傾斜構造複合体空気極を用いることによって、出力性能は1.6倍以上増加した。I−V曲線で、低電流密度領域(約0〜0.25Acm−2)で複合体空気極を用いた場合、電圧の下降が緩和されることを観察することができるが、これは、インピーダンスに表われたように、空気極の電極活性が向上して活性化分極が減少して表われた結果として解析することができる。また、Ω抵抗が支配するI−Vの直線領域でも、傾きの差が確実に表われ、厚さが増加した複合体空気極を用いることによって、獲得したΩ分極抵抗の減少の影響が電池性能に及ぼした影響を確認することができた。
【0097】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、ナノ構造複合体空気極を含む固体酸化物燃料電池及びその製造方法に関連した技術分野に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)燃料極支持体と、
b)前記燃料極支持体上に形成された固体電解質層と、
c)前記固体電解質層上に形成されたナノ構造複合体空気極層と、を含み、
前記ナノ構造複合体空気極層は、電極物質と電解質物質とが分子単位で混合されていながら、互いに反応または固溶されて単一物質を形成しないことを特徴とする固体酸化物燃料電池。
【請求項2】
前記複合体空気極層の電極物質は、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、またはランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、及びビスマスルテニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項3】
前記電解質物質は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリアドープドセリア(GDC)、サマリアドープドセリア、ドーピングされたバリウムジルコネート(BaZrO)、バリウムセレート(BaCeO)からなる群から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項4】
前記複合体空気極層の電極物質と前記電解質物質との比率は、2:8ないし8:2であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項5】
前記燃料極支持体は、NiO−YSZ、NiO−ScSZ、NiO−GDC、NiO−SDC、NiO−doped BaZrO、Ru、Pd、Rd、Ptからなる群から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項6】
前記複合体空気極層の粒子は、100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項7】
前記複合体空気極層上に電極物質単一相の集電層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項8】
前記電解質層と前記複合体空気極層との間に緩衝層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項9】
前記複合体空気極層は、2層以上の多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項10】
前記複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど気孔率が増加する気孔率傾斜構造であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項11】
前記複合体空気極層は、前記電解質層との当接面から上部に上がるほど前記電極物質含量が増加する組成傾斜構造であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項12】
1)燃料極支持体上に固体電解質層を形成する段階と、
2)前記固体電解質層上に電解質物質と電極物質とが分子単位で混合されたナノ構造複合体空気極層を形成する段階と、
を含む固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項13】
前記複合体空気極層は、パルスレーザ蒸着法(PLD)、またはスパッタリング蒸着法、電子ビーム蒸発蒸着法、熱蒸発蒸着法、化学的気相蒸着法(CVD)、静電噴霧法のうちから選択された蒸着法によって形成されることを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項14】
前記複合体空気極層は、200ないし1000℃と10Pa以上の圧力条件で蒸着されて形成されることを特徴とする請求項13に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項15】
前記複合体空気極層を形成した後、前記複合体空気極層上に電極物質単一相の集電層を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項16】
前記複合体空気極層を形成する前に、前記電解質層と前記複合体空気極層との間に緩衝層を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項17】
前記複合体空気極層は、2層以上の多層構造で形成することを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項18】
前記多層構造の複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど気孔率が増加する気孔率傾斜構造で形成されることを特徴とする請求項17に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項19】
前記気孔率傾斜構造は、第n複合体空気極層を形成し(nは、1以上の整数)、蒸着圧力を高めて、第n複合体空気極層より気孔率が大きい第n+1複合体空気極層を形成することでなされることを特徴とする請求項18に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項20】
前記気孔率傾斜構造は、第n複合体空気極層を形成し(nは、1以上の整数)、蒸着温度を低めて、第n複合体空気極層より気孔率が大きい第n+1複合体空気極層を形成することでなされることを特徴とする請求項18に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項21】
前記多層構造の複合体空気極層は、電解質層との当接面から上部に上がるほど電極物質含量が増加する組成傾斜構造を有するように形成されることを特徴とする請求項17に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項22】
前記組成傾斜構造は、電極物質と電解質物質の複合ターゲットとを用いて複合体空気極層を蒸着する過程で、前記複合ターゲットの電極物質及び電解質物質の組成比を調節することでなされることを特徴とする請求項21に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項23】
前記組成傾斜構造は、電極物質と電解質物質ターゲットとをそれぞれ用いて複合体空気極層を蒸着する過程で、各ターゲット物質に対するレーザパワー、パルスまたはスパッタパワーを調節してなされることを特徴とする請求項21に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項24】
前記複合体空気極層の形成後に、薄膜の付着性及び結晶性の向上のためのポストベーク段階をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項25】
前記複合体空気極層の電極物質は、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、またはランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、及びビスマスルテニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項26】
前記電解質物質は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリアドープドセリア(GDC)、サマリアドープドセリア、ドーピングされたバリウムジルコネート(BaZrO)、バリウムセレート(BaCeO)からなる群から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項27】
前記複合体空気極層の電極物質と前記電解質物質との比率は、2:8ないし8:2であることを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項28】
前記複合体空気極層の粒子は、100nm以下であることを特徴とする請求項12に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−221946(P2012−221946A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18712(P2012−18712)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(304039548)コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (36)
【Fターム(参考)】