説明

ナフトキノンジアジド化合物及びアミドフェノール化合物

【課題】保存安定性が良好で、従来の樹脂のみならず、アルカリ溶解性の高い樹脂と組み合わせた場合でも、感度が高い、感光性樹脂組成物を実現するための光活性剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、中間体としてアミドフェノール化合物を用いて製造した、新規ナフトキノンジアジド化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光活性剤として好適に利用できる新規ナフトキノンジアジド化合物及びその製造に有用な中間体であるアミドフェノール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜として、優れた耐熱性と電気特性、機械特性などを併せ持つポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂が用いられている。これら樹脂は、通常、その前駆体組成物を塗布した後、熱処理を行い、イミド化又は、オキサゾール化により、樹脂を形成する。この樹脂をパターン化する必要がある場合、一般に感光性の前駆体組成物が用いられている。その理由は、感光性前駆体組成物であれば、これを塗布した後、活性光線により露光し、次いで現像、熱イミド化等の処理を施すことによって簡単にポリイミドパターンを形成させることができ、非感光性ポリイミドを用いた場合に比べて大幅な工程の短縮が可能となるからである。
【0003】
これらの感光性性能として、添加する感光剤の選択によりポジ型とネガ型、及びアルカリ現像タイプと溶剤現像タイプがあるが、最近では、フォトレジストと同様に希薄アルカリ水溶液で現像可能なアルカリ現像タイプの耐熱性感光性樹脂材料の提案が種々なされている。
中でもアルカリ現像タイプのヒドロキシポリアミド、例えばポリベンゾオキサゾール(以下、「PBO」ともいう。)前駆体をナフトキノンジアジドなどの光活性成分(以下、「PAC」ともいう。)と混合して用いる方法が近年注目されている(例えば、以下の特許文献1、特許文献2参照)。
これらの樹脂は露光及びアルカリ水溶液による現像で、ポジパターンを容易に形成することができ、現像性、保存安定性も良好で、パターン化後熱硬化によりポリベンズオキサゾール化することができ、耐熱性、機械特性、電気特性などの膜特性を有する被膜を得ることができる。
【0004】
元来、ナフトキノンジアジドを用いた感光性樹脂組成物の場合、アルカリ可溶性樹脂にナフトキノンジアジドを添加することにより、組成物のアルカリ溶解性を低下させる(溶解抑止)能力が発現し、未露光部の現像液への溶解に対する耐性が生じる。一方露光部は、ナフトキノンジアジドがインデンカルボン酸に変換され、溶解抑止能力が消失して現像液に溶解するようになる。
この露光部、未露光部のアルカリ溶解性の差を利用してパターニングを行うわけであるが、高感度かつ高残膜率(高コントラスト)のパターニング性能を得るには、露光部、未露光部の溶解性の差を充分に取ることができるPACの選定が重要となる。
すなわち、PACの添加により未露光部ではアルカリ可溶性樹脂のアルカリ水溶液への溶解性を極端に低下させることで、充分なアルカリ現像液への溶解に対する耐性を持たせ、一方露光部では、僅かな光によっても効率よく分解し、充分なアルカリ溶解性が発現する、高感度なPACを用いなければならない。
【0005】
従来は、一般的なフェノール化合物にナフトキノンジアジド基をエステル化した構造をもつPACを用いることで、高感度を達成するポジ型感光性樹脂組成物が提案されている(例えば、以下の特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−27140号公報
【特許文献2】特開昭63−96162号公報
【特許文献3】特開平3−48249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、保存安定性が良好で、従来の樹脂のみならず、アルカリ溶解性の高い樹脂と組み合わせた場合でも、感度が高い、感光性樹脂組成物を実現するための光活性剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記文献に開示されるPACにも問題点があることに気付いた。
例えば、高感度化するためには、ナフトキノンジアジドの導入率を上げていく手法が一般的に行われているが、高感度とされる上記特許文献3のPACのエステル化率を上げると、溶液中での析出性があがり、保存時にPACが析出するという問題がある。さらには、アルカリ現像液に対する溶解性が高い樹脂との組み合わせでは、一般に使用されている2.38%TMAHのアルカリ水溶液を、現像液として用いた場合、充分な溶解抑止効果が発揮されない、すなわち、感度が低いという課題があることを見出した。そこで、本発明者らは、特定の構造を有するアミドフェノール化合物から得られるナフトキノンジアジド化合物が、前記特性を満足し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]下記一般式(1):
【化1】

{式中、R及びRは、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Qは、下記式(2):
【化2】

で表される基の内のいずれかであり、Qは、水素原子又は上記式(2)で表される基の内のいずれかであり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表されるナフトキノンジアジド化合物。
【0010】
[2]一般式(1)において、R及びRが、置換されていてもよいフェニル基である、前記[1]に記載のナフトキノンジアジド化合物。
【0011】
[3]一般式(1)において、R、R、R、及びRが、フェニル基であり、そしてR及びRが、水素原子である、前記[1]に記載のナフトキノンジアジド化合物。
【0012】
[4]下記一般式(3):
【化3】

{式中、R及びR10は、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R11及びR12は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1から10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表されるアミドフェノール化合物。
【0013】
[5]一般式(3)において、R及びR11は、置換されていてもよいフェニル基を有する1価の有機基である、前記[4]に記載のアミドフェノール化合物。
【0014】
[6]一般式(3)において、R、R、R10、及びR11が、フェニル基であり、そしてR及びR12が、水素原子である、前記[4]に記載のアミドフェノール化合物。
【0015】
[7]アルカリ可溶性樹脂100質量部、及び前記[1]〜[3]のいずれかに記載のナフトキノンジアジド化合物1〜50質量部を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【0016】
[8](1)前記[7]に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成し、(2)露光し、(3)現像し、そして(4)得られたレリーフパターンを加熱処理することを含む、硬化レリーフパターンの製造方法。
【0017】
[9]前記[8]に記載の製造方法により得られる硬化レリーフパターンを有する半導体装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のナフトキノンジアジド化合物を使用することにより、保存安定性が良好で、従来の樹脂のみならず、アルカリ溶解性の高い樹脂と組み合わせた場合でも、感度が高い、ポジ型感光性樹脂組成物とすることができる光活性剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で合成したアミドフェノール化合物(A−1)のH−NMRの測定結果である。
【図2】実施例2で合成したアミドフェノール化合物(A−2)のH−NMRの測定結果である。
【図3】実施例3で合成したナフトキノンジアジド化合物(Q−1)のH−NMRの測定結果である。
【図4】実施例4で合成したナフトキノンジアジド化合物(Q−2)のH−NMRの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のナフトキノンジアジド化合物は、対応するフェノール化合物のo-位をニトロ化還元して得られる特定のアミノフェノール化合物からアミドフェノール化合物を経由して合成される。
<アミドフェノール化合物の合成方法>
本発明のアミドフェノール化合物は、下記一般式(3):
【化4】

{式中、R及びR10は、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R11及びR12は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1から10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表される。
【0021】
対応するPACの感度の観点から、上記一般式(3)において、R及びR11は置換されていてもよいフェニル基を有する1価の有機基であるアミドフェノール化合物が、好ましくい。
また、対応するPACの高感度化の観点から、上記一般式(3)において、R、R、R10、及びR11がフェニル基であり、そしてR及びR12が水素原子であるアミドフェノール化合物が、より好ましい。
【0022】
上記アミドフェノール化合物を得る手段として、アミノフェノール化合物1当量に対して、1.5〜2.5当量のカルボン酸クロリドを作用させて得る手段、又は、アミノフェノール化合物1当量に対して、1.5〜2.5当量のカルボン酸をジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、「DCC」、ともいう。)の存在下で得る手段が挙げられる。DCCの添加量は、アミノフェノール化合物のフェニル基1当量に対して、2〜3当量が好ましい。
反応条件は、カルボン酸クロリドを作用させて得るケースでは、塩基触媒を加え、−10〜10℃で、1〜3時間で行い、カルボン酸を作用させて得るケースでは、塩基触媒を加えてもよく、0〜70℃で、1〜20時間行い、アミドフェノール化合物を得ることができる。
【0023】
アミノフェノール化合物の具体例としては、以下の:
【化5】

が挙げられる。
【0024】
アミノフェノール化合物は、例えば、対応するフェノール化合物を、硝酸を用いて、o−位をニトロ化し、ニトロ体とした後、このニトロ体を、パラジウムを触媒として、水素加圧下条件で、還元して得ることができる。
また、アミノフェノール化合物に作用させるカルボン酸、カルボン酸クロリドの具体例としては、フェニル酢酸、4−ビフェニル酢酸、4−ブロモフェニル酢酸、4−ベンジルオキシフェニル酢酸、ホモベラトル酸、メトキシフェニル酢酸、3,5−ジメトキシフェニル酢酸、2,5−ジメチルフェニル酢酸、フェニルアセチルクロリド、2−フェニルブチリルクロリド、ジフェニル酢酸、ジフェニルプロピオン酸、ジフェニル酢酸クロリド、ベンジルオキシフェニルアセチルクロリド等のフェニル基を持つ化合物が挙げられ、中でも、ジフェニル酢酸、ジフェニルプロピオン酸、ジフェニル酢酸クロリドといったフェニル基を2個以上持つ化合物が好ましい。
【0025】
前記アミドフェノール化合物を合成する際に、通常用いられる溶剤としては、原料のアミノフェノール化合物、及びカルボン酸又はカルボン酸クロリドを共に溶解するものが好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」ともいう。)、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ともいう。)、γ−ブチロラクトン(以下、「GBL」ともいう。)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」ともいう。)、テトラヒドロフラン(以下、「THF」ともいう。)等が挙げられる。溶剤の添加量は、選択するアミノフェノール化合物とカルボン酸が溶解する量であれば、いくらでも構わないが、アミドフェノール化合物100質量部に対して、100〜1000質量部であることが好ましい。
【0026】
また、塩基触媒は、アミドフェノール化合物の合成反応を加速するために加えられるが、例えば、ピリジン、ピコリン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(以下、「DABCO」ともいう)、ジアザビシクロウンデセン(以下、「DBU」ともいう)が挙げられる。
塩基触媒の添加量は、アミノフェノール化合物の有するフェノール基1当量に対して、1〜2当量である。
【0027】
このようにして合成されたアミドフェノール化合物は、水等の貧溶媒中で再沈殿させた後、THF等の溶剤に再溶解し、陽イオン交換樹脂で処理することで塩基性化合物を除去できる。アミドフェノール化合物を合成する際、カルボン酸クロリド等の使用により塩素イオン等が発生する場合は、これを除去するために陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。こうして処理された溶液を水中にて再沈殿後、濾過、加熱乾燥することにより目的物を単離することができる。
【0028】
<ナフトキノンジアジド化合物の合成方法>
ナフトキノンジアジド化合物(以下、「NQD」ともいう。)は、下記一般式(1):
【化6】

{式中、R及びRは、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Qは、下記式(2):
【化7】

で表される基の内のいずれかであり、Qは、水素原子又は上記式(2)で表される基の内のいずれかであり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表される。
【0029】
感度の観点から、上記一般式(1)において、R及びRは置換されていてもよいフェニル基を有する1価の有機基であるナフトキノンジアジド化合物が、好ましい。
また、さらに高感度化の観点から、上記一般式(1)において、R、R、R、及びRがフェニル基であり、そしてR及びRが水素原子であるナフトキノンジアジド化合物が、より好ましい。
ナフトキノンジアジド化合物は、前記アミドフェノール化合物のフェノール性水酸基の一部又は全てをキノンジアジドスルホン酸エステル化することにより、得ることができる。
【0030】
キノンジアジドスルホン酸エステル化に際しては、1,2−ナフトキノンジアジド構造を有する各種のスルホン酸誘導体を用いることができるが、好ましくは、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルホニルクロリド又は1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホニルクロリドが好ましい。また、これらのエステル化剤は単独で又は混合して使用してもよい。
【0031】
NQDは、アミドフェノール化合物のヒドロキシ基1当量に対して、スルホン酸誘導体0.8〜1当量を25〜40℃で1時間〜3時間反応させることで得られる。
この反応は、通常、脱ハロゲン化水素剤の存在下で行われる。脱ハロゲン化水素剤としては、一般にハロゲン化水素と塩を形成しうる塩基性の化合物、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基類、エチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジンなどのアミン類などが挙げられる。
脱ハロゲン化水素剤は、単独で又は数種を混合して用いることができ、数種を段階的に添加して用いてもよい。添加量はアミドフェノール化合物のヒドロキシ基1当量に対して、1〜1.3当量である。
【0032】
エステル化反応は、通常、溶媒中で行われる。反応溶媒としては、ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグライム類、ガンマブチロラクトンなどのラクトン類、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類、アセトン、メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン類などを使用することができるが、これらに限定されない。溶媒の添加量はエステル化反応が進行する量であればいくらでも構わないが、好ましくは、アミドフェノール化合物100質量部に対して、200〜2000質量部である。
【0033】
<感光性樹脂組成物>
本発明のナフトキノンジアジド化合物は、アルカリ可溶性樹脂と共に感光性樹脂組成物の1成分として好適に用いられ、特に該アルカリ可溶性樹脂がフェノール性水酸基を有するポリマー、具体的には、ポリイミド、ポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレンの場合に有用である。
特に溶解性の高い樹脂、例えば、低分子量のポリマー、ポリアミック酸、分子内に屈曲構造を有するポリベンゾオキサゾール前駆体やポリイミド前駆体に対しても好適に使用できる。
【0034】
感度の観点から、ナフトキノンジアジド化合物の添加量は、アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、1〜50質量部の範囲であり、好ましくは、10〜30質量部である。
また、本発明のナフトキノンジアジド化合物を含有する感光性樹脂組成物は、これらの成分を溶剤に溶解したワニス状の形態を呈する。ここで用いる溶剤としては、DMAc、ジメチルホルムアミド、NMP、GBL、DMSO、THF、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、単独でも混合して用いてもよい。溶剤の使用量は、得られる膜厚によって異なり、一般的には、アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して、70〜1900質量部の範囲で用いられる。
【0035】
ナフトキノンジアジド化合物を含有するポジ型感光性樹脂組成物は、例えば、次のようにして使用できる。
(1)感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成する工程
該組成物を、適当な基板、例えば、シリコンウエハー、セラミック基板、アルミ基板等にスピナーを用いた回転塗布やロールコーターにより塗布して、感光性樹脂層を基板上に形成する。必要に応じて、これをオーブンやホットプレートを用いて50〜140℃で10秒〜1時間乾燥する。
(2)露光工程
一般的には、マスクを介して、コンタクトアライナーやステッパーを用いて化学線の照射を行う。
(3)現像工程
次に照射部を現像液で溶解除去し、必要に応じて、引き続きリンス液によるリンスを行うことで所望のレリーフパターンを得る。現像方法としてはスプレー、パドル、ディップ、超音波等の方式が可能である。リンス液としては、蒸留水、脱イオン水等が使用できる。
(4)得られたレリーフパターンを加熱処理する工程
得られたレリーフパターンを200〜380℃で10秒〜2時間、加熱処理して、耐熱性被膜を形成することができる。
【0036】
上記ポジ型感光性樹脂組成物は、半導体用途のみならず、多層回路の層間絶縁やフレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜や液晶配向膜としても有用である。半導体用途の好ましい例は、具体的には、半導体表面保護膜、層間絶縁膜、再配線用絶縁膜、フリップチップ装置用保護膜、バンプ構造を有する装置の保護膜などである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態の具体例を説明する。
[参考例1]
<ポリマー製造例>
容量2リットルのセパラブルフラスラスコ中で、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン197.8g(0.54mol)、ピリジン71.2g(0.9mol)、DMAc692gを室温(25℃)で混合攪拌し、ジアミンを溶解させた。これに、別途DMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)88g中に5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物29.6g(0.18mol)を溶解させたものを、滴下ロートより滴下した。滴下に要した時間は40分、反応液温は最大で28℃であった。
【0038】
滴下終了後、湯浴により50℃に加温し18時間撹拌したのち反応液のIRスペクトルの測定を行い1385cm−1及び1772cm−1のイミド基の特性吸収が現れたことを確認した。
次にこれを水浴により8℃に冷却し、これに別途DMDG398g中に4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリド132.8g(0.45mol)を溶解させたものを、滴下ロートより滴下した。滴下に要した時間は80分、反応液温は最大で12℃であった。
滴下終了から3時間後、上記反応液を12Lの水に高速攪拌下で滴下し重合体を分散析出させ、これを回収し、適宜水洗、脱水の後に真空乾燥を施し、ポリベンゾオキサゾール前駆体(P−1)を得た。
【0039】
このようにして合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体(P−1)のGPCによる重量平均分子量は、ポリスチレン換算(東ソー株式会社製、TSK標準ポリスチレンで8900であった。GPCの分析条件を以下に記す。
カラム:昭和電工社製 商標名 Shodex KF807/806M/806M/802.5
容離液:テトラヒドロフラン 40℃
流速 :1.0ml/分
検出器:昭和電工製 商標名 Shodex RI RI−101
【0040】
[参考例2]
容量2リットルのセパラブルフラスラスコ中で、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン190.5g(0.52mol)、ピリジン71.2g(0.9mol)、DMAc760gを室温(25℃)で混合攪拌し、ジアミンを溶解させた。
次にこれを水浴により8℃に冷却し、これに別途DMDG640g中に4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリド100.3g(0.34mol)とイソフタル酸ジクロリド28.4g(0.14mol)を溶解させたものを、滴下ロートより滴下した。滴下に要した時間は90分、反応液温は最大で10℃であった。
滴下終了から2時間後、反応液を室温まで上昇させ、DMDG90gにシクロヘキシルジカルボン酸無水物18.5g(0.12mol)を溶解させたものを滴下ロートより30分かけて、滴下し、その後、室温で一晩攪拌した。
上記反応液を12Lの水に高速攪拌下で滴下し重合体を分散析出させ、これを回収し、適宜水洗、脱水の後に真空乾燥を施し、ポリベンゾオキサゾール前駆体(P−2)を得た。
【0041】
このようにして合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体(P−2)のGPCによる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で19,000であった。GPCの分析条件を以下に記す。
カラム:昭和電工社製 商標名 Shodex KF807/806M/806M/802.5
容離液:テトラヒドロフラン 40℃
流速 :1.0ml/分
検出器:昭和電工製 商標名 Shodex RI RI−101
【0042】
[参考例3]
容量2リットルのセパラブルフラスラスコ中で、3,3−[1,3−フェニレンビス(オキシ)]ジアニリン58.5g(0.20mol)、GBL90.0gを室温(25℃)で混合攪拌し、ジアミンを溶解させた。氷浴により2℃に冷却し、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物10.9g(0.067mol)をGBL25.0gにて溶解させたものを滴下した。滴下の後に室温まで昇温し、1時間攪拌した。再び氷浴により、2℃に冷却し、オキシジフタル酸二無水物51.7g(0.17mol)を投入した。反応液温は、18℃まで上昇した。氷浴での冷却を継続し、5℃に達したところで冷却を停止し、室温で一晩攪拌した。その後、70℃で2時間攪拌し、ポリアミック酸(P−3)の40%GBL溶液を得た。
【0043】
このようにして合成されたポリアミック酸(P−3)のGPCによる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で20,000であった。GPCの分析条件を以下に記す。
カラム:昭和電工社製 商標名 Shodex KD806M/806M
容離液:NMP 40℃
流速 :1.0ml/分
検出器:日本分光製 RI−930
【0044】
[参考例3]
<アミノフェノール化合物の合成>
容量2lのセパラブルフラスコに4,4’−(1−フェニルエタン−1,1−ジイル)ジフェノール90.0g(0.31mol)、酢酸360ml、トルエン720mlを入れ、硝酸72.6g(0.807mol)を氷冷下60分かけて、滴下した。そのまま60分攪拌した。トルエン層をイオン交換水、次いで重曹水溶液、さらにイオン交換水で洗浄する。無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮後、減圧で乾燥し、ニトロ体を得た。これを1lオートクレーブに移し、さらに5%パラジウム−カーボン9.78g、THF500mlを入れた。パージ後、水素を充填(0.4MPa)し、20時間攪拌した。攪拌後、フィルターでろ過し、THFで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮後、減圧で乾燥して4,4’−(1−フェニルエタン−1,1−ジイル)ビス(2−アミノフェノール)を収率88%で得た。
【0045】
[参考例4]
容量3lのセパラブルフラスコに4,4’−(ジフェニルメチレン)ジフェノール80.0g(0.227mol)、酢酸240ml、トルエン1400mlを入れ、硝酸103.6g(1.14mol)を氷冷下75分かけて、滴下した。そのまま80分攪拌した。トルエン層をイオン交換水、次いで重曹水溶液、さらにイオン交換水で洗浄する。無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮後、減圧で乾燥し、ニトロ体を得た。これを1lオートクレーブに移し、さらに5%パラジウム−カーボン9.78g、THF500mlを入れた。パージ後、水素を充填(0.4MPa)し、20時間攪拌した。攪拌後、フィルターでろ過し、THFで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮後、減圧で乾燥して4,4’−(ジフェニルメチレン)ビス(2−アミノフェノール)を収率80%で得た。
【0046】
[実施例1]
<アミドフェノール化合物の合成>
容量500mlのセパラブルフラスラスコに4,4’−(1−フェニルエタン−1,1−ジイル)ビス(2−アミノフェノール)16.02g(0.05mol)、DMAc80g、ピリジン7.9g(0.10mol)を入れ、これに氷冷下でジフェニル酢酸23.1g(0.1mol)を投入した。そのまま室温で一晩撹拌反応を行った後、高速液体クロマトグラフィーにて反応を確認したところ、原料は全く検出されず、生成物が単一ピークとして純度99%で検出された。この反応液をそのまま2リットルのイオン交換水中に撹拌下で滴下し、生成物を析出させた。これを濾別した後、真空乾燥することにより下記構造:
【化8】

のイミドフェノール化合物(A−1)を収率80%で得た。
【0047】
(A−1)のH−NMRの測定結果を次に示す:
H−NMRシグナルピーク:1.9ppm(s)、2.8ppm(s)、2.9ppm(s)5.4ppm(s)、6.5ppm(d)、6.7ppm(d)、7.0〜7.3ppm(m)、7.7ppm(s)、9.5ppm(s)、9.7ppm(s)。
また、スペクトルデータを図1に示す。
H−NMRの測定条件は以下のとおりであった。
装置:ブルカー・バイオスピン株式会社製 BulkerGPX スペクトロメーター
溶媒:重クロロホルム(Uvasol社製 Chloroform−D1 MERCK)
測定温度:25℃
【0048】
[実施例2]
実施例1の4,4’−(1−フェニルエタン−1,1−ジイル)ビス(2−アミノフェノール)の代わりに、4,4’−(ジフェニルメチレン)ビス(2−アミノフェノール)25.8g(0.1mol)を用いて、実施例1と同様に合成を行い、下記構造:
【化9】

のアミドフェノール化合物(A−2)を収率75%で得た。
【0049】
実施例1と同じ条件でA−2のH−NMRを測定した結果を次に示す。
H−NMRシグナルピーク:5.4ppm(s)、6.6〜6.9ppm(m)、7.1〜7.3ppm(m)、7.7ppm(s)、9.5ppm(s)、9.7ppm(s)。また、スペクトルデータを図2に示す。
【0050】
<ナフトキノンジアジド化合物の合成>
[実施例3]
実施例1で得られたアミドフェノール化合物(A−1)20.1g(0.03モル)、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルホニルクロライドを14.9g(0.059モル)、アセトン240g加え、20℃で撹拌溶解した。これに、トリエチルアミン7.3g(0.072モル)をアセトン35gで希釈したものを、30分かけて一定速度で滴下した。この際、反応液は氷水浴などを用いて20〜30℃の範囲で温度制御した。
滴下終了後、更に30分間、20℃で撹拌放置した後、36重量%濃度の塩酸水溶液0.6gを加え、次いで反応液を氷水浴で冷却し、析出した固形分を吸引濾別した。この際得られた濾液を、0.5重量%濃度の塩酸水溶液1リットルに、その撹拌下で1時間かけて滴下し、目的物を析出させ、吸引濾別して回収した。得られたケーク状回収物を、再度イオン交換水5リットルに分散させ、撹拌、洗浄、濾別回収し、この水洗操作を3回繰り返した。最後に得られたケーク状物を、40℃で24時間真空乾燥し、下記構造:
【化10】

のナフトキノンジアジド化合物Q−1を得た。
【0051】
実施例1と同じ条件でQ−1のH−NMRを測定した結果を次に示す。
H−NMRシグナルピーク:2.0ppm(s)、5.2ppm(s)、6.7〜7.0(m)、7.2〜7.7ppm(m)、8.5ppm(s)、9.8ppm(s)。また、スペクトルデータを図3に示す。
【0052】
[実施例4]
実施例3の、実施例1で得られたアミドフェノール化合物の代わりに実施例2で得られたアミドフェノール化合物19.4g(0.03mol)を用いて、実施例3と同様に合成し、下記構造:
【化11】

のナフトキノンジアジド化合物Q−2を得た。
【0053】
実施例1と同じ条件でQ−2のH−NMRを測定した結果を次に示す。
H−NMRシグナルピーク:5.2ppm(m)、6.7〜7.1ppm(m)、7.2〜7.4ppm(m)、7.5〜7.8ppm(m)、8.5ppm(s)、9.8ppm(s)。また、スペクトルデータを図4に示す。
【0054】
<ポジ型感光性樹脂組成物の調製およびその評価>
(実施例5〜6、比較例1)
上記参考例1〜3で得たアルカリ可溶性樹脂(P−1〜P−3)、ノボラック樹脂(旭有機材社製 EP4080G)(P−4)、実施例3及び4で得たナフトキノンジアジド化合物(Q−1及びQ−2)、並びに下記構造:
【化12】

の化合物(Q−3)15質量部を、それぞれ、溶媒に溶解し、以下の表1に示す組合せで配合し、その後、1μmのフィルターで濾過してポジ型感光性樹脂組成物を調製し、そのパターニング特性(感度及び解像度)、及びワニス析出安定性(保存安定性)を、以下の評価基準に従って評価した。
【0055】
(1)パターニング特性(感度及び解像度)評価
上記ポジ型感光性樹脂組成物を東京エレクトロン社製スピンコーター(CLEANTRACK MK−8)にて、6インチシリコンウエハーにスピン塗布し、125℃、180秒間ホットプレートにてプリベークを行い、11μmの塗膜を形成した。膜厚は大日本スクリーン製造社製膜厚測定装置(ラムダエース)にて測定した。
この塗膜に、テストパターン付きレチクルを通してi線(365nm)の露光波長を有するニコン社製ステッパー(NSR2005i8A)を用いて露光量を段階的に変化させて露光した。
これを、2.38重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用い、23℃の条件下で現像後膜厚が9.3μmとなるように現像時間を調整して、現像し、ポジ型レリーフパターンを形成した。感光性樹脂組成物の感度、及び現像時間を以下の表1に示す。
【0056】
感光性樹脂組成物の感度は次のようにして評価した。
[感度(mJ/cm)]
上記現像時間において、塗膜の露光部を完全に溶解除去しうる最小露光量。
【0057】
(2)保存安定性評価
上記ポジ型感光性樹脂組成物を、室温で1週間で放置したときに、固形分の析出が認められるかどうかを目視で観察し、保存安定性を評価した。
以下の表1に示す結果から、本発明のナフトキノンジアジド化合物は、感光性樹脂組成物中において、保存安定性に優れていることが分かる。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のナフトキノンジアジド化合物及びその製造に有用な中間体であるアミドフェノール化合物は、ポジ型感光性樹脂組成物の成分として使用することにより、半導体装置の表面保護膜、層間絶縁膜、及び再配線用絶縁膜、フリップチップ装置用保護膜、バンプ構造を有する装置の保護膜、多層回路の層間絶縁膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、電子部品、表示素子並びに液晶配向膜等に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

{式中、R及びRは、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、Qは、下記式(2):
【化2】

で表される基の内のいずれかであり、Qは、水素原子又は上記式(2)で表される基の内のいずれかであり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表されるナフトキノンジアジド化合物。
【請求項2】
一般式(1)において、R及びRが、置換されていてもよいフェニル基である、請求項1に記載のナフトキノンジアジド化合物。
【請求項3】
一般式(1)において、R、R、R、及びRが、フェニル基であり、そしてR及びRが、水素原子である、請求項1に記載のナフトキノンジアジド化合物。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化3】

{式中、R及びR10は、置換されていてもよいフェニル基であり、R、R、R11及びR12は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1から10の1価の有機基であり、Aは、置換されていてもよいフェニル基であり、Bは、水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、D及びEは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の一価の有機基であり、そしてm1及びm2は、それぞれ独立に、0〜3の整数である。}で表されるアミドフェノール化合物。
【請求項5】
一般式(3)において、R及びR11は、置換されていてもよいフェニル基を有する1価の有機基である、請求項4に記載のアミドフェノール化合物。
【請求項6】
一般式(3)において、R、R、R10、及びR11が、フェニル基であり、そしてR及びR12が、水素原子である、請求項4に記載のアミドフェノール化合物。
【請求項7】
アルカリ可溶性樹脂100質量部、及び請求項1〜3のいずれか1項に記載のナフトキノンジアジド化合物1〜50質量部を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項8】
(1)請求項7に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成し、(2)露光し、(3)現像し、そして(4)得られたレリーフパターンを加熱処理することを含む、硬化レリーフパターンの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られる硬化レリーフパターンを有する半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−215594(P2010−215594A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66731(P2009−66731)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】