説明

ニオブ粉の製造方法及び一酸化ニオブ粉の製造方法

【課題】コンデンサ用として好適な粉体抵抗(導電率)を有する一酸化ニオブ粉を得るためのニオブ粉の製造方法を提供する。
【解決手段】高酸化数ニオブ酸化物を還元してニオブ粉を生成するニオブ粉の製造方法において、高酸化数ニオブ酸化物と、還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制する粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して一次還元ニオブ粉を生成する第一還元処理と、前記一次還元ニオブ粉と、粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して二次還元ニオブ粉を生成する第二還元処理とを含む、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元処理によりニオブ粉及び一酸化ニオブ粉を製造する方法に関し、特に、コンデンサ用として好適な粉体抵抗(導電率)を有する一酸化ニオブ粉を得るためのニオブ粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニオブ酸化物は、周波数フィルターやコンデンサなどのような電子部品の原料や、スパッタリングのターゲット原料等としての使用量が急増している。また、新しいタイプのコンデンサとしてニオブコンデンサが普及してきており、その原料としてニオブ粉や一酸化ニオブ粉(NbO)が使用されている。ニオブコンデンサは、小型サイズかつ大容量を実現でき、優れた電気的安定性と高い信頼性を備える特徴を有する。
【0003】
このようなコンデンサ用途のニオブ粉及び一酸化ニオブ粉は、各種製造方法が提案されている(特許文献1〜5参照)。
【0004】
特許文献1では、種々の製法により得られたニオブ粉と、賦活剤(細孔形成剤)との混合物を原料として、少なくとも焼結工程、解砕工程を順次行い、焼結工程または解砕工程のいずれかの工程において賦活剤を除去することによって、コンデンサ用のニオブ粉を製造する方法が提案されている。この先行技術によれば、平均粒径D50(レーザー回折・散乱法粒子径分布における体積基準の積算分率における50%径)が10〜1000μmのニオブ粉を製造することができる。
【0005】
特許文献2及び3においては、五酸化ニオブ粉(Nb)をアルカリ土類金属や希土類金属などにより還元処理して得られたニオブ粉を、さらに還元処理してニオブ粉を製造する、いわゆる二段階還元処理の製造方法が提案されている。この二段階の還元処理によっても、平均粒径D50が100〜300μmのニオブ粉を製造することができる。
【0006】
また、特許文献4では、五酸化ニオブ粉(Nb)を水素(H)により還元処理して得られた二酸化ニオブ粉(NbO)を、マグネシウム(Mg)により還元処理してニオブ粉を得る製造方法が提案されている。この特許文献4の製法によると、平均粒径D50が20〜250μmのニオブ粉を製造することができる。
【0007】
これらの先行技術によれば、コンデンサ用途に好適な原料となるニオブ粉を製造することができるものの、これらのニオブ粉を使用して一酸化ニオブ粉を製造する場合、例えば、特許文献5では、五酸化ニオブ粉とニオブ粉を反応させる製法は好適ではないという理由により、五酸化ニオブ粉を還元して得られた二酸化ニオブ粉を、ニオブ粉と水素含有雰囲気で反応させることにより、一酸化ニオブ粉を製造する方法が提案されている。この製法により、流動性に優れ、平均粒径D50が200μm程度の一酸化ニオブ粉を製造することができる。この特許文献5のように、五酸化ニオブ粉や二酸化ニオブ粉と、ニオブ粉とを接触させて化学反応させる場合、いわゆる固相反応によるものなので、均一に反応させるためには、接触させる粒子同士の粒径が近いことが重要となる。特許文献1〜4に示されるような二次粒子の平均粒径を有するニオブ粉を用いた場合、二次粒子径の粒径分布の違いにより、酸化ニオブ粉とニオブ粉との混合状態を均一に制御することが難しくなり、均一な粒径の一酸化ニオブ粉を製造することが困難な傾向がある。
【0008】
また、特許文献1における製造の際に生成される一次粒子としてのニオブ粉は微細なものの、二次粒子(凝集粒子)を形成しているため、微細化のためには粉砕処理を必要とする。しかし、粉砕処理を行うと、ニオブ粉の粒子形状の変形や不純物の混入が起こる場合があり、粉砕処理を必要としない、ニオブ粉の製造技術も求められている。そして、従来の先行技術により得られたニオブ粉に関しては、コンデンサ特性に影響する粉体抵抗については特に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4010868号明細書
【特許文献2】特許第4381401号明細書
【特許文献3】特許第4202609号明細書
【特許文献4】特開2008−274443号公報
【特許文献5】特許第4317091号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、従来の還元処理によるニオブ粉の製造方法を改善することにより、粉砕工程を必要とせずに、より微細なニオブ粉を実現する製造方法、具体的には、平均粒径D50が10μm未満となるようなニオブ粉を実現できるニオブ粉の製造方法、及び粉体抵抗の小さな一酸化ニオブ粉の製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者は、従来より提案されている二段階の還元処理によるニオブ粉の製造方法について、鋭意検討を行った結果、還元処理時に、還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制することで微細なニオブ粉を生成できることを見出すとともに、粉体抵抗の小さな一酸化ニオブ粉も生成できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0012】
本発明は、高酸化数ニオブ酸化物を還元してニオブ粉を生成するニオブ粉の製造方法において、高酸化数ニオブ酸化物と、還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制する粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して一次還元ニオブ粉を生成する第一還元処理と、前記一次還元ニオブ粉と、粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して二次還元ニオブ粉を生成する第二還元処理とを含む、ことを特徴とする。
【0013】
本発明における高酸化数ニオブ酸化物とは、五酸化ニオブ(Nb)または二酸化ニオブ(NbO)であり、中間的な酸化数のニオブ酸化物も含まれる。具体的にはNb1229,NbO1.64,Nbなどの高酸化数ニオブ酸化物も含まれる。本発明における高酸化数ニオブ酸化物は、五酸化ニオブ(Nb)であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るニオブ粉の製造方法は、卑金属を還元剤として用い、二段階の還元処理を行うもので、その還元処理時に還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制する粒子成長抑制剤を混合する。第一還元処理では、平均粒径D50が0.5〜2.0μmの一次還元ニオブ粉(酸素を多く含むニオブ粉)が生成される。そして、その一次還元ニオブ粉を第二還元処理することにより、平均粒径D50が10μm未満の二次還元ニオブ粉(酸素の少ないニオブ粉)を製造することができる。
【0015】
本発明の粒子成長抑制剤の除去は、粒子成長抑制剤の化学的性質に合わせて行うことができ、除去方法に制限はない。例えば、熱分解や揮発により、粒子成長抑制剤を気体化して除去する方法や、アルカリや酸などの溶液に粒子成長抑制剤を溶解することにより除去する方法が採用でき、粒子成長抑制剤の化学的性質などを考慮して、除去しやすい方法を一つもしくは複数選択して、除去処理を行うことができる。
【0016】
本発明における粒子成長抑制剤は、アルカリ土類金属塩またはアルカリ土類金属の酸化物であることが好ましい。アルカリ土類金属塩またはアルカリ土類金属の酸化物は、還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制する効果に優れているからである。具体的には、アルカリ土類金属塩(カチオン種:マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)のいずれかの一種)として炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、塩化物、フッ化物などが挙げられる。また、酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)などが挙げられる。
【0017】
本発明における還元剤としての卑金属は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)のいずれか1種または2種以上の組み合わせからなることが好ましい。特に、マグネシウムを還元剤として用いることがより好ましい。
【0018】
本発明における高酸化数ニオブ酸化物は、その平均粒径D50が0.5〜10μmであることが好ましく、粒子成長抑制剤の平均粒径D50は1〜100μmであることが望ましい。
【0019】
高酸化数ニオブ酸化物と粒子成長抑制剤との混合は、両方の粉体を無溶媒で乾式混合することがことができ、或いは適当な溶媒を用いて両方の粉体を湿式混合し乾燥することもできる。この湿式混合の溶媒としては、水系、非水系(アルコール系や炭化水素系)のどちらも用いることが可能である。また、混合に用いる混合機としては、V型混合機、ボールミル、ディスパーサーなどの通常の混合処理に用いられる市販装置が適用できる。混合処理や乾燥処理は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中で行う。或いは、乾燥処理には真空乾燥を適用する。
【0020】
本発明における第一還元処理は、800℃〜1100℃の温度範囲で行うことが好ましく、還元処理を3時間以上保持した後、常温まで炉冷して、粉末を取り出すことが好ましい。
【0021】
この取り出した粉末は、例えばアルカリや酸の溶液に投入して、粒子成長抑制剤や還元剤として含まれている卑金属の酸化物を溶解して除去することが好ましい。その後、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中で乾燥処理、或いは、真空乾燥処理を行うことが好ましい。このようにして一次還元ニオブ粉が得られる。
【0022】
第二還元処理は、得られた一次還元ニオブ粉を用いて、700℃〜1000℃の温度範囲で行うことが好ましく、還元処理時間を三時間以上保持した後、常温まで炉冷して、粉末を取り出すことが好ましい。
【0023】
この取り出した粉末は、第一還元処理と同様に、例えばアルカリや酸の溶液に投入して、粒子成長抑制剤や還元剤として含まれている卑金属の酸化物を溶解して除去することが好ましい。その後、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中で乾燥処理、或いは、真空乾燥処理を行うことが好ましい。このようにして二次還元ニオブ粉が得られる。
【0024】
本発明に係るニオブ粉の製造方法によれば、レーザー回折・散乱法粒子径分布における体積基準の積算分率における50%径である平均粒径D50が10μm未満であり、好ましくは1μm〜5μmで、体積基準の積算分率における90%径である粒径D90が50μm以下、好ましくは30μm以下であるニオブ粉を製造することが可能となる。
【0025】
上記した本発明に係るニオブ粉の製造方法により得られた二次還元ニオブ粉を用い、この二次還元ニオブ粉と高酸化数ニオブ酸化物とを混合し、水素を含む雰囲気において還元処理を行い、一酸化ニオブ粉を生成すると、コンデンサ用途に好適な、一次粒子が微細で且つ空隙を有する二次粒子形態の一酸化ニオブ粉となる。従来技術においては、五酸化ニオブ粉とニオブ粉とを水素存在下で反応させることにより、亜酸化ニオブ粉(一酸化ニオブ粉)を生成すると、亜酸化ニオブへ変化する際に五酸化ニオブの体積収縮が生じて、亜酸化ニオブ粉の粗大化を引き起こし、キャパシタ特性に不利な亜酸化ニオブ粉になることが知られている(例えば、特許文献5参照)。しかし、本発明のような粒子成長抑制剤を用いて生成された二次還元ニオブ粉と高酸化数ニオブ酸化物とを混合し、水素を含む雰囲気において還元処理を行うと、コンデンサ用途に好適な、一次粒子が微細で且つ空隙を有する二次粒子形態の一酸化ニオブ粉を製造することができるのである。
【0026】
本発明に係る一酸化ニオブ粉の製造方法により得られた一酸化ニオブ粉は、粉末X線回折から得られる一酸化ニオブのピークの半値幅が0.09〜0.20度であることを特徴とする。このようなX線特性は、非常に結晶性が高く、結晶構造もより安定化していることを示すので、粉体抵抗の小さな一酸化ニオブ粉となる。
【0027】
また、本発明に係る一酸化ニオブ粉の製造方法により得られた一酸化ニオブ粉は、圧粉密度3.0g/cmに圧縮してペレット化したときの導電率が500S/cm以上となる。本発明における一酸化ニオブ粉は、粉体抵抗が低いため、コンデンサ原料として極めて好適なものとなる。
【0028】
本発明に係る一酸化ニオブ粉の製造方法により得られた一酸化ニオブ粉は、その平均粒径D50が30〜200μmとなり、比表面積(BET法)が0.8m/g以上となる。コンデンサ用途の一酸化ニオブ粉としては、粉体の流動性があり、コンデンサ特性を向上できるものが求められるが、本発明による一酸化ニオブ粉は、コンデンサの原料としても極めて好適なニオブ酸化物となる。
【0029】
本発明に係る一酸化ニオブ粉の製造方法において、高酸化数ニオブ酸化物は五酸化ニオブ(Nb)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、コンデンサ用途として好適な原料となる微細なニオブ粉を、粒子の変形や不純物の混入を引き起こしやすい粉砕処理を行うことなく、効率的に製造することが可能となる。そして、本発明により得られた一酸化ニオブ粉は、微細で、粉体抵抗も小さいので、小型のコンデンサであっても、良好なコンデンサ特性を実現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明における実施形態について、実施例を参照して説明する。
【0032】
まず初めに、五酸化ニオブ粉を一次還元処理した結果について説明する。実施例1−1として、100gの五酸化ニオブ粉(Nb)に対して、64gの金属マグネシウム(Mg)粉末を準備した。そして、粒子成長抑制剤としての酸化マグネシウム(MgO)の粉末を、五酸化ニオブ粉量に対して0.1wt%に相当する量を添加して、ボールミルにて3時間の乾式混合した後、還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、1100℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%硝酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、一次還元ニオブ粉を得た。
【0033】
この実施例1の一次還元ニオブ粉について、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表1に測定結果を示す。また、各測定条件は以下の通りである。
【0034】
平均粒径D50:レーザー回折・散乱法粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製LA−920)を使用して粒度分布を測定することにより、体積基準のメジアン径(D50:小粒径側からの累積体積50%における粒径)を求めた。
【0035】
BET法比表面積:BET法比表面積は、評価試料である一酸化ニオブ粉を、吸着質ガスである窒素を約30容量%、キャリアガスであるヘリウムを約70容量%含有する窒素−ヘリウム混合ガスを用いてBET比表面積測定装置((株)島津製作所製、マイクロメリティックス フローソープII2300)を用いて、JIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」の6.2流動法の(3.5)一点法に従い測定を行った。
【0036】
酸素量:酸素量は熱分析装置(TG、マックサイエンス社製)を用いて、空気雰囲気中、600℃まで加熱してニオブ粉もしくは一酸化ニオブ粉を五酸化ニオブ粉に酸化させたときの重量変化から算出した。
【0037】
また、実施例1−2〜1−5として、上記実施例1−1の粒子成長抑制剤の酸化マグネシウムの添加量を変化させた一次還元ニオブ粉を製造した。実施例1−2は酸化マグネシウム添加量を1wt%とし、実施例1−3は5wt%、実施例1−4は10wt%、実施例1−5は20wt%とした。その他の条件は、実施例1−1と同様にした。そして、実施例1−2〜1−5の各一次還元ニオブ粉について、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表1に測定結果を示す。
【0038】
さらに、実施例1−6として、粒子成長抑制剤に酸化カルシウムを使用した場合の一次還元粉を製造した。実施例1−6では、40gの五酸化ニオブ粉(Nb)に対して、8gの金属マグネシウム(Mg)粉末を準備した。そして、粒子成長抑制剤としての酸化カルシウム(CaO)の粉末を、五酸化ニオブ粉量に対して1wt%に相当する量を添加して、ボールミルにて3時間乾式混合した後、還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、1100℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を濃度30wt%の硝酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、一次還元ニオブ粉を得た。この実施例1−6の一次還元ニオブ粉についても、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表1に測定結果を示す。
【0039】
比較例1−1として、特許文献2で示された先行技術に基づき、一次還元ニオブ粉を製造した。この比較例1−1では、100gの五酸化ニオブ粉(Nb)に対して、64gの金属マグネシウム(Mg)粉末を準備し、粒子成長抑制剤は添加することなく還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、900℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%の硫酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、一次還元ニオブ粉を得た。そして、比較例1−1の一次還元ニオブ粉について、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表1に測定結果を示す。
【0040】
比較例1−2として、特許文献4で示された先行技術に基づき、一次還元ニオブ粉を製造した。この比較例1−2では、100gの五酸化ニオブ粉(Nb)を、水素雰囲気中、1100℃、4時間の還元処理を行い、室温まで冷却し、一次還元ニオブ粉を得た。そして、比較例1−2の一次還元ニオブ粉について、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表1に測定結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、実施例1−1〜1−6の一次還元ニオブ粉は、平均粒径D50が1μm未満であった。一方、従来技術である比較例1−1、比較例1−2では、平均粒径D50が非常に大きな値となることが確認された。酸素量については、比較例1−2が最も大きな値となったが、これは比較例1−2の一次還元ニオブ粉が二酸化ニオブ粉(NbO)であることによる。これに対して、実施例1−1〜1−6の一次還元ニオブ粉は、次に説明する二次還元ニオブ粉に比べて、酸素量の多いニオブ粉であることが判明した。
【0043】
続いて、上記した一次還元ニオブ粉を再度還元処理して二次還元ニオブ粉を製造した結果について説明する。
【0044】
まず、実施例2−1として、上記実施例1−1として得られた一次還元ニオブ粉40gに対して、8gの金属マグネシウム(Mg)粉末を準備した。そして、粒子成長抑制剤としての酸化マグネシウム(MgO)の粉末を、一次還元ニオブ粉量に対して0.1wt%に相当する量を添加して乾式混合した後、還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、900℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%の硝酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、二次還元ニオブ粉を得た。
【0045】
また、実施例2−2〜2−5として、上記実施例1−2〜1−5の各一次還元ニオブ粉を用い、粒子成長抑制剤の酸化マグネシウムの添加量を変化させた二次還元ニオブ粉を製造した。実施例2−2は、実施例1−2の一次還元ニオブ粉を用い、酸化マグネシウム添加量を1wt%とし、実施例2−3は実施例1−3の一次還元ニオブ粉を用い、酸化マグネシウム添加量を5wt%とし、実施例2−4は実施例1−4の一次還元ニオブ粉を用い、酸化マグネシウム添加量を10wt%とし、実施例2−5は実施例1−5の一次還元ニオブ粉を用い、酸化マグネシウム添加量を20wt%とした。その他の条件は、実施例2−1と同様にした。
【0046】
さらに、実施例2−6として、実施例1−6の一次還元ニオブ粉を用い、粒子成長抑制剤に酸化カルシウムを使用して二次還元ニオブ粉を製造した。実施例2−6では、実施例1−6の一次還元ニオブ粉40gと、8gの金属マグネシウム粉末を準備した。そして、粒子成長抑制剤としての酸化カルシウムの粉末を、一次還元ニオブ粉量に対して1wt%に相当する量を添加して、ボールミルにて3時間乾式混合した後、還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、900℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%の硝酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、二次還元ニオブ粉を得た。
【0047】
比較例2−1として、比較例1−1の一次還元ニオブ粉40gと、8gの金属マグネシウム粉末を準備し、粒子成長抑制剤は添加することなく還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、800℃、2時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%の硫酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、二次還元ニオブ粉を得た。
【0048】
比較例2−2として、比較例1−2の一次還元ニオブ粉(二酸化ニオブ粉)80gと、43gの金属マグネシウム粉末を準備し、粒子成長抑制剤は添加することなく還元処理を行った。還元処理条件は、アルゴン雰囲気中、1000℃、4時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、取り出した粉末を、濃度30wt%の硝酸溶液(2L)で洗浄し、水洗処理した。その後、乾燥して、二次還元ニオブ粉を得た。
【0049】
実施例2−1〜2−6、比較例2−1、2−2の二次還元ニオブ粉について、平均粒径D50、粒径D90、BET法比表面積、酸素量の測定を行った。表2に測定結果を示す。尚、粒径D90については、レーザー回折・散乱法粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製LA−920)により粒度分布を測定し、小粒径側からの累積体積90%における粒径を求めた結果である。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、実施例2−1〜2−6の二次還元ニオブ粉は、平均粒径D50が5μm未満であった。一方、比較例の二次還元二オブ粉は、BET比表面積は実施例と同レベルであったが、平均粒径D50が100μmを超えるものとなった。また。酸素量測定の結果より、各二次還元ニオブ粉は、ニオブ粉であることが判明した。
【0052】
最後に、上記した二次還元ニオブ粉を用いて、一酸化ニオブ粉を製造した結果について説明する。
【0053】
実施例3−1〜3−5として、上記実施例2−1〜2−5により得られた各二次還元ニオブ粉を用いて、一酸化ニオブ粉の製造を行った。各実施例の二次還元ニオブ粉30gと、24gの五酸化ニオブ粉(Nb)とをボールミルに投入し、不活性雰囲気中において、純水を用いて、3時間の湿式混合処理をし、乾燥後、焼成処理を行った。焼成処理条件は、水素雰囲気中、1500℃、5時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、篩により選別し、篩下の粉末を各実施例の一酸化ニオブ粉として得た。
【0054】
実施例3−6として、上記実施例2−6により得られた二次還元ニオブ粉を用いて、一酸化ニオブ粉の製造を行った。実施例2−6の二次還元ニオブ粉30gと、24gの五酸化ニオブ粉とをボールミルに投入し、不活性雰囲気中において、純水を用いて、3時間の湿式混合処理をし、乾燥後、焼成処理を行った。焼成処理条件は、水素雰囲気中、1450℃、5時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、篩により選別し、篩下の粉末を一酸化ニオブ粉として得た。
【0055】
比較例3−1として、比較例2−1の二次還元ニオブ粉30gと、19gの五酸化ニオブ粉とをボールミルに投入し、不活性雰囲気中において、純水を用いて、3時間の湿式混合処理をし、乾燥後、焼成処理を行った。焼成処理条件は、水素雰囲気中、1400℃、5時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、篩により選別し、篩下の粉末を一酸化ニオブ粉として得た。
【0056】
比較例3−2として、比較例2−2の二次還元ニオブ粉30gと、21gの五酸化ニオブ粉とをボールミルに投入し、不活性雰囲気中において、純水を用いて、3時間の湿式混合処理をし、乾燥後、焼成処理を行った。焼成処理条件は、水素雰囲気中、1400℃、5時間の熱処理を行い、室温まで冷却した後、篩により選別し、篩下の粉末を一酸化ニオブ粉として得た。
【0057】
実施例3−1〜3−6、比較例3−1、3−2の各一酸化ニオブ粉について、平均粒径D50、BET法比表面積、酸素量、及び導電率の測定及びX線回折による一酸化ニオブピークの半値幅測定を行った。そして、実施例及び比較例3−1については粗粒確認のための篩選別試験を行った。表3に測定結果を示す。また、導電率の測定は以下のようにして行った。
【0058】
導電率:粉体抵抗測定システム(MCP−PD51型 (株)三菱化学アナリテック社製)を用いて、測定対象の一酸化ニオブ粉を1g測り取り、プレス機にて圧粉密度3.0g/cmに圧縮してペレット化して、その粉体抵抗率を測定し、その逆数から導電率を算出した。
【0059】
X線回折測定:一酸化ニオブ粉について、X線回折装置(MXP18、マックサイエンス(株)製)を用いて測定を行った。この測定では、銅(Cu)ターゲットを使用し、Cu−Kα線により回折X線強度を測定した。その他の測定条件は、管電圧40kV、管電流150mA、測定範囲2θ=10°〜80°、サンプリング幅0.02°、走査速度4.0°/minとした。半値幅は、JIS K 0131−1996「X線回折分析通則」の図6半値幅(θ1/2)に準じた。この半値幅の単位は、同JISの「12.結晶子の大きさと不均一ひずみの測定」においては「rad」であるが、ここでは「°」で表示した。尚、本発明におけるX線回折は、資料にCuKα線を照射して得られた回折X線ピークのピーク強度順に6本分析し、Cu−Kα線によるピークと、Cu−Kα線によるピークとの分離を行い、Kα線のみを用いて解析を行った。
【0060】
篩選別試験:各一酸化ニオブ粉について、目開き300μmの篩により篩選別を行い、篩上に残留した粗粒の割合を調査した。
【0061】
【表3】

【0062】
表3に示すように、各実施例と各比較例との測定結果を比較すると、平均粒径D50およびBET比表面積は同レベルであったが、導電率は各実施例の値が、比較例よりも約2倍もの大きな値となることが判明した。この粉体導電率が大きくなった理由としては、一酸化ニオブ粉を生成する際のニオブ粉の平均粒径が小さくなったことで混合性が向上し、生成された一酸化ニオブ粉の結晶性が高くなったことによるものと考えられる。また、300μm以上の粗粒については、実施例ではほとんど含まれていなかったが、比較例3−1では10%以上の割合で含まれていた。比較例3−1では、粒子成長抑制剤を使用していないため、ニオブ粉の二次粒子の大きさの制御ができず、最終的に得られた一酸化粉に径300μmを超える粗粒が生成されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、小型サイズのチップで大容量を実現でき、優れた電気的安定性と高い信頼性とを備えたニオブコンデンサを容易に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高酸化数ニオブ酸化物を還元してニオブ粉を生成するニオブ粉の製造方法において、
高酸化数ニオブ酸化物と、還元反応で生成する粒子同士の結合を抑制する粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して一次還元ニオブ粉を生成する第一還元処理と、
前記一次還元ニオブ粉と、粒子成長抑制剤とを混合し、卑金属を還元剤として用いて還元を行い、粒子成長抑制剤を除去して二次還元ニオブ粉を生成する第二還元処理とを含む、ことを特徴とするニオブ粉の製造方法。
【請求項2】
粒子成長抑制剤は、アルカリ土類金属塩またはアルカリ土類金属の酸化物である請求項1に記載のニオブ粉の製造方法。
【請求項3】
高酸化数ニオブ酸化物は五酸化ニオブ(Nb)である請求項1または請求項2のニオブ粉の製造方法。
【請求項4】
卑金属は、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのいずれか1種または2種以上の組み合わせからなる請求項1〜請求項3いずれかに記載のニオブ粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4いずれかに記載のニオブ粉の製造方法により得られたニオブ粉であって、
レーザー回折・散乱法粒子径分布における体積基準の積算分率における50%径である平均粒径D50が10μm未満であり、90%径である粒径D90が50μm以下であることを特徴とするニオブ粉。
【請求項6】
請求項1〜請求項4いずれかに記載のニオブ粉の製造方法により得られた二次還元ニオブ粉と高酸化数ニオブ酸化物とを混合し、水素を含む雰囲気において還元処理を行い、一酸化ニオブ粉を生成する一酸化ニオブ粉の製造方法。
【請求項7】
高酸化数ニオブ酸化物は五酸化ニオブ(Nb)である請求項6に記載の一酸化ニオブ粉の製造方法。
【請求項8】
粉末X線回折から得られる一酸化ニオブのピークの半値幅が0.09〜0.20度であることを特徴とする一酸化ニオブ粉。
【請求項9】
圧粉密度3.0g/cmに圧縮してペレット化したときの導電率が500S/cm以上である請求項8の一酸化ニオブ粉。

【公開番号】特開2012−36440(P2012−36440A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177347(P2010−177347)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】