説明

ニコチン含有貼付製剤

【課題】ニコチンの分解および貼付製剤の着色などを防ぐことができるニコチン含有貼付製剤を提供すること。
【解決手段】支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付製剤であって、粘着剤層が、粘着性ポリマー、ニコチンおよび安定化剤を含み、安定化剤が、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)および2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする貼付製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチンを含有する粘着剤層を、支持体の少なくとも片面に備える貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ニコチンを経皮投与するためのニコチン含有貼付製剤が知られている。ニコチンは酸化されやすいため、ニコチン含有貼付製剤の処方によっては、ニコチンの分解および貼付製剤の着色(黄変)等の問題が生じることがある。
【0003】
このような問題に対処するため、例えば特許文献1には、窒素ガスで置換した包装体にニコチン含有貼付製剤を密封して保存することが記載されている。しかし、このような方法では、包装体に孔が開いた場合、ニコチンの分解等を防ぐことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−208084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、ニコチンの分解および貼付製剤の着色などを防ぐことができるニコチン含有貼付製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付製剤であって、
粘着剤層が、粘着性ポリマー、ニコチンおよび安定化剤を含み、
安定化剤が、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)および2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする貼付製剤。
[2] 粘着性ポリマーが、アクリル系ポリマーを含む上記[1]に記載の貼付製剤。
[3] 粘着剤層が、さらに可塑剤を含む上記[1]または[2]に記載の貼付製剤。
[4] 粘着剤層が、さらにポリオール化合物を含む上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の貼付製剤。
[5] 粘着剤層が、架橋されている上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の貼付製剤。
[6] 酸素濃度が5〜25体積%である雰囲気下で保存するための、上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の貼付製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ニコチン含有貼付製剤中に特定の安定化剤を含有させることで、ニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成を抑制することができる。それによって、ニコチン含有貼付製剤中のニコチン含有量を維持し、且つニコチン含有貼付製剤の着色(黄変)を抑制することができる。なお、ニコチン類縁物質とは、ニコチンに由来する物質を意味する。
【0008】
また、本発明のニコチン含有貼付製剤を包装体に封入して保存する場合、包装体に破損が生じても、ニコチンの分解および貼付製剤の着色を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施態様を用いて本発明を説明する。しかし、好ましい実施態様の説明等は、単に例示的な性質のものであり、本発明、並びに本発明の応用および用途を限定することを意図しない。
【0010】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層はニコチンを含む。ニコチンは、遊離塩基および塩(例えば塩酸塩)のいずれの形態でもよいが、経皮吸収性の点から遊離塩基形態のニコチン(以下「ニコチンフリー塩基」ということがある)が好ましい。
【0011】
ニコチン含有量は、粘着剤層の総重量中、例えば0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1.0〜15重量%、さらに好ましくは5.0〜10重量%である。この含有量が0.1重量%を下回ると、治療効果を得るために充分な量のニコチンが放出されにくくなるおそれがある。一方、この含有量が40重量%を越えると、治療効果に限界が生じると共に、経済的に不利になるおそれがある。
【0012】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層は安定化剤を含む。安定化剤は、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)および2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。ここで、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)とは、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールおよび3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールの混合物の慣用名であり、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)とは、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエンの慣用名である。これらの中でも、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)およびジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が好ましく、少量でも充分なニコチン安定化効果を示すブチルヒドロキシアニソール(BHA)がより好ましい。
【0013】
安定化剤の含有量は、粘着剤層の物性に悪影響を与えない限り特に限定されない。なお、この含有量が多すぎると、粘着剤層の接着性などの物性が低下するおそれがあり、この含有量が少なすぎると、充分な安定化効果が得られないおそれがある。そこで、安定化剤の含有量は、粘着剤層の総重量中、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.005〜5.0重量%が好ましく、最も好ましくは0.01〜1.0重量%である。
【0014】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層は粘着性ポリマーを含む。粘着性ポリマーとしては、例えば、ゴム系ポリマーおよびアクリル系ポリマーなどが挙げられる。なお、粘着性を有しないポリマー(例えば、ゴム系ポリマー)に粘着付与剤(tackifier)を配合したものを、粘着性ポリマーとして使用してもよい。
【0015】
ゴム系ポリマーは、反応性の高い官能基を有しないことが多い。そのため、粘着性ポリマーとしてゴム系ポリマーを含有する粘着剤層では、比較的、ニコチンは安定に存在し、ニコチン類縁物質も生成しにくい。ゴム系ポリマーとしては、例えば、シリコーンゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0016】
アクリル系ポリマーは、共重合させるモノマーの種類や比率によって、粘着性や薬物溶解度などを制御できるなど、自由度が比較的高い。しかし、アクリル系ポリマーは、ニコチンと反応性を有する官能基をそのポリマー鎖に有している場合があり、またポリマー中に残存するモノマーや重合開始剤がニコチンと反応する場合がある。そのため、粘着性ポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有する粘着剤層では、ニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成が増大するおそれがある。この点、本発明の貼付製剤は、安定化剤によってニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成を有効に抑制することができるため、アクリル系ポリマーを用いる実施態様にて、特に有利に実施される。
【0017】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むアクリル系ポリマーが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分(主たる構成単位)とするアクリル系ポリマーがより好ましい。ここで、主成分とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル量が、アクリル系ポリマー中で50%以上であることを意味する。架橋処理のしやすさ、人間の皮膚への接着、操作性(例えば薬物溶解)などの観点から、主成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体、および前記第1モノマー成分と、前記第2モノマー成分と、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)との共重合体が特に好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)が挙げられる。これらの中でも、炭素数が4〜18の直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)が好ましい。さらに、常温で粘着性を与えるために、重合体のガラス転移温度を低下させるモノマー成分の使用がさらに好適であることから、炭素数が4〜8の直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、へプチル、オクチル、2−エチルヘキシルなど)がより好ましく、ブチル、2−エチルヘキシルおよびシクロヘキシルがさらに好ましく、2−エチルヘキシルが特に好ましい。具体的な(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルが好ましく、アクリル酸2−エチルへキシルがより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
第2モノマー成分であるビニルモノマーの架橋反応に関与できる官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびビニル基などが挙げられ、これらの中でもヒドロキシ基およびカルボキシ基が好ましい。架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸およびグルタコン酸などが挙げられる。これらの中で、入手の容易性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチルエステル(例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル)が好ましく、アクリル酸がより好ましい。架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマーは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
他のモノマー(第3モノマー成分)は、主として、粘着剤層の凝集力調整やニコチンの溶解性・放出性の調整などのために使用される。他のモノマー(第3モノマー成分)としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニルアミド類;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルエステルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸などのスルホ基を有するモノマー;ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリンなどのビニル基含有モノマーなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルエステル類およびビニルアミド類が好ましい。ビニルエステル類としては、酢酸ビニルがより好ましく、ビニルアミド類としては、N−ビニル−2−ピロリドンがより好ましい。他のモノマー(第3モノマー成分)は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体である場合、第1モノマー成分および第2モノマー成分の重量比(第1モノマー成分:第2モノマー成分)は、好ましくは99〜85:1〜15、より好ましくは99〜90:1〜10である。
【0022】
アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)と、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)との共重合体である場合、第1モノマー成分、第2モノマー成分および第3モノマー成分の重量比(第1モノマー成分:第2モノマー成分:第3モノマー成分)は、好ましくは40〜94:1〜15:5〜50、より好ましくは50〜89:1〜10:10〜40である。
【0023】
アクリル系ポリマーの重合は、自体公知の方法で行えばよく、特に限定されない。その重合方法としては、例えば、上記モノマーを、溶媒(例えば、酢酸エチルなど)中で、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなど)を添加して、50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0024】
アクリル系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドンの共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル/酢酸ビニルの共重合体、およびアクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸の共重合体が好ましく、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドンの共重合体がより好ましい。
【0025】
粘着性ポリマーの平均分子量に特に限定は無い。但し、粘着性ポリマー(特に、アクリル系ポリマー)の重量平均分子量(Mw)は、例えば50万〜500万、好ましくは100万〜300万である。この重量平均分子量は、多角度光散乱検出器(MALS)を使用することによって測定することができる。詳しくは、MALSとして Wyatt Technology, DAWN DSP を、溶離液:THF、流速:0.6mL/min、レーザー波長:632.8nmおよび多角度フィット法:Berry 法の条件で使用することによって、重量平均分子量を測定することができる。MALSの normalize 係数測定には、ポリスチレン(PS、29,810)を使用する。
【0026】
粘着性ポリマーの含有量は、粘着剤層の総重量中、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%、最も好ましくは50〜60重量%である。この含有量が30重量%を下回ると、皮膚接着性が低下するおそれがあり、一方、70重量%を越えると剥離時に皮膚刺激を発生するおそれがある。
【0027】
粘着剤層へのソフト感の付与、貼付製剤を皮膚から剥離する時の皮膚接着力に起因する痛みの軽減、および皮膚刺激性の軽減などの観点から、本発明の貼付製剤における粘着剤層に、可塑剤を含有させてもよい。
【0028】
可塑剤としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド;オリーブ油およびヒマシ油などの植物油;スクアレン、ラノリンなどが挙げられる。可塑剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
可塑剤としては、中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましい。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、ニコチンの経皮吸収速度を温和に調節することが可能であり、本発明に適している。ここで中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、炭素数8〜12の飽和または不飽和の脂肪酸のトリグリセリドを意味する。中鎖脂肪酸トリグリセリドに含まれる脂肪酸成分としては、例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)、ラウリン酸(C12)などが挙げられる。中鎖脂肪酸トリグリセリドに含まれる脂肪酸成分は、1種だけでもよく、2種以上であってもよい。
【0030】
可塑剤を使用する場合、その含有量は、粘着剤層の総重量中、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは30〜50重量%である。この含有量が10重量%を下回ると、貼付製剤を皮膚から剥離する時の皮膚接着力に起因する痛みおよび皮膚刺激性を軽減することが困難となるおそれがある。一方、この含有量が70重量%を越えると、ニコチンの経皮吸収速度を促進するため、ニコチンの初期投与量を制御することを考慮する必要がある。
【0031】
粘着剤層へのソフト感の付与、および汗中の耐乳酸性向上による架橋安定化の効果などの観点から、本発明の貼付製剤における粘着剤層に、ポリオール化合物を含有させることができる。ここで、ポリオール化合物とは、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味する。
【0032】
ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールおよびプロピレングリコールなどのジオール類(グリコール類);グリセリンおよび1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンなどの2個以上のヒドロキシ基を有するアミノアルコール類;グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルなどの2個以上のヒドロキシ基を有する多価アルコール類エステル;などが挙げられる。ポリオール化合物は、1種また2種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤として一般的であり、使用の前例があること、および入手しやすく経済的に有利であることなどの観点から、ポリオール化合物としては、グリセリンおよび1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール類が好ましい。
【0033】
ポリオール化合物を使用する場合、その含有量は、粘着剤層の総重量中、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.0.05〜5.0重量%、最も好ましくは0.1〜1.0重量%である。この含有量が0.01重量%を下回ると、架橋安定化の効果を充分に発揮することができなくなるおそれがある。一方、この含有量が10重量%を越えると、目的とする架橋反応が起こりにくくなって、粘着剤層に充分な凝集力が得られなくなったり、ニコチンの放出性などに悪影響を与えたりするおそれがある。
【0034】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層を架橋してもよい。粘着剤層を架橋するためには、当分野で一般的に行われている公知の手法、例えば化学的架橋処理(架橋剤を用いた架橋処理など)または物理的架橋処理(γ線のような電子線照射または紫外線照射による架橋処理など)によって行うことができる。
【0035】
粘着剤層の化学的架橋処理または物理的架橋処理によっては、貼付製剤の製造工程中または保管中に、ニコチンの分解またはニコチン類縁物質の生成が増大するおそれがある。この点、本発明の貼付製剤は、安定化剤によってニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成を有効に抑制することができるため、粘着剤層が架橋されている実施態様にて、特に有利に実施される。なお、ニコチンに悪影響を及ぼしにくいという観点から、架橋処理としては、化学的架橋処理が好ましい。
【0036】
粘着剤層に化学的架橋処理を施す場合に用いられる架橋剤としては、ニコチンによって架橋の形成が阻害されないものであれば、特に制限されないが、例えば、過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)など)、金属酸化物(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなど)、多官能性イソシアネート化合物、有機金属化合物(例えば、ジルコニウムおよび亜鉛アラニネート、酢酸亜鉛、グリシンアンモニウム亜鉛、チタン化合物など)、金属アルコラート化合物(例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプレピレート、アルミニウムsec−ブチレートなど)、および金属キレート化合物(例えば、ジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)など)が挙げられる。これらの中でも、ニコチンの存在下で効率的に架橋を形成し得るという観点から、金属アルコラートおよび金属キレート化合物が好ましく、適度な架橋密度の架橋構造が得られ易いという観点から、金属キレート化合物がより好ましい。また、金属キレート化合物の中でも、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが特に好ましい。架橋剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
架橋剤を使用する場合、その含有量は、架橋剤や粘着性ポリマーの種類によって異なるが、粘着剤層の総重量中、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5.0重量%である。この含有量が0.01重量%より少ないと架橋点が少なすぎて粘着剤層に充分な凝集力が付与できず、剥離時に凝集破壊に起因する糊残りや強い皮膚刺激が発現するおそれがある。一方、この含有量が10重量%より多いと、凝集力は大きいが充分な皮膚接着力が得られなくなるおそれがあり、また、未反応の架橋剤の残留によって皮膚刺激がおこるおそれがある。
【0038】
化学的架橋処理は、例えば、粘着剤層に架橋剤を添加した後、架橋反応温度以上に加熱(熟成)することによって、実施することができる。この加熱温度は、架橋剤の種類に応じて適宜選択されるが、好ましくは60〜90℃であり、より好ましくは60〜80℃である。この加熱時間は、好ましくは12〜96時間であり、より好ましくは24〜72時間である。
【0039】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層の厚さは、20〜300μmが好ましく、35〜250μmがより好ましく、50〜200μmが最も好ましい。粘着剤層の厚さが20μm未満であると、充分な粘着力を得ること、および有効量のニコチンを含有させることが困難となるおそれがある。一方、粘着剤層の厚さが300μmを超えると、塗工が困難となるおそれがある。
【0040】
本発明において支持体は、特に限定はされないが、粘着剤層中のニコチンが支持体中を通ってその背面から失われて割合が低下しないもの(即ち、ニコチンに対して不透過性を有するもの)が好ましい。また、後述するように、粘着剤層中に有機液状成分を含有させる実施態様では、ニコチンおよび有機液状成分が支持体中を通って背面から失われてそれらの割合が低下しないもの(即ち、有機液状成分およびニコチンに対して不透過性を有するもの)が好ましい。
【0041】
ニコチン等に対して不透過性を有する支持体としては、ポリエステル(例えば、ポエチレンテレフタレート(PET)など)、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレンおよびアイオノマー樹脂などのフィルム;並びに金属箔などが挙げられる。支持体は、単層体および積層体のいずれでもよい。積層体としては、前記フィルムまたは金属箔(好ましくはフィルム)からなるニコチン等に対して不透過性を有する無孔性層と、粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させることができる多孔性層とを併せもつものが好ましい。
【0042】
多孔性層としては、粘着剤層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えばPET)不織布)などが挙げられる。さらに、無孔性のフィルム(例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン(商品名)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの単層または積層フィルム);無孔性の金属箔;並びにこれらの積層体に機械的に穿孔処理したものを、多孔性層として使用することができる。これらの中でも、支持体の柔軟性の観点から紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えばPET)不織布)が好ましい。
【0043】
支持体全体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2〜500μm、より好ましくは10〜50μmである。この厚さが2μm未満であると、自己支持性などの取扱い性が低下するおそれがある。一方、この厚さが500μmを超えると、追従性が低下し、貼付製剤を皮膚に貼り付けた際に違和感(ごわごわ感)が生ずるおそれがある。支持体が積層体である場合、多孔性層の厚さは、投錨性向上および支持体の柔軟性の観点からは、例えば10〜200μmである。また、プラスタータイプおよび粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合、多孔性層の厚さは、例えば1〜200μmである。多孔性層として、織布および不織布を使用する場合は、投錨力の向上の観点から、これらの目付量は、それぞれ、好ましくは5〜30g/m2である。支持体が積層体である場合、無孔性層の厚さは、例えば0.5〜6μmである。
【0044】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層の粘着面(粘着剤層の支持体に積層した面と反対の面)は、使用の直前まで剥離ライナーで被覆して保護されていることが好ましい。本発明において剥離ライナーに特に限定は無く、公知の剥離ライナーを用いることができる。剥離ライナーとしては、例えば、(i)剥離剤から形成された剥離層を基材表面に有する剥離ライナー;(ii)剥離性の高いプラスチックから形成されたフィルム;および(iii)剥離性の高いプラスチックから形成された剥離層を基材表面に有する剥離ライナー;などが挙げられる。剥離層は、基材の片面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0045】
剥離層を形成するための剥離剤としては、特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー(シリコーン系剥離剤)、フッ素系ポリマー(フッ素系剥離剤)などが挙げられる。
【0046】
フィルムまたは剥離層を形成するための剥離性の高いプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体またはランダム共重合体);これらの混合物からなるポリオレフィン系樹脂;テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0047】
剥離層を有する剥離ライナー用の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステル(PETを除く)フィルムなどのプラスチックフィルム;前記プラスチックフィルムに金属を蒸着した金属蒸着プラスチックフィルム;和紙、洋紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙などの紙類;不織布、布などの繊維質材料による基材;金属箔;などが挙げられる。
【0048】
剥離ライナー全体の厚さは、特に限定されないが、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。
【0049】
本発明の貼付製剤は、例えば、(i)粘着性ポリマーと安定化剤とを少なくとも含む塗工液を調製し、(ii)塗工液から粘着剤層を形成し、(iii)粘着剤層の粘着面にニコチンを塗布および含浸させることによって、ニコチンを含有する粘着剤層を形成し、(iv)この粘着剤層を支持体の少なくとも片面に貼り合わせることによって、製造することができる。以下、本発明の貼付製剤を製造する一実施態様について説明する。
【0050】
まず、粘着性ポリマーおよび安定化剤を溶媒に溶解または分散させて、塗工液(粘着剤層を形成するための組成物)を調製する。塗工液には、架橋剤などを添加してもよい。粘着剤層は、支持体上に塗工液を塗布および乾燥させることによって形成してもよく、または剥離ライナー上に塗工液を塗布および乾燥させることによって形成してもよい。塗工液のための溶媒としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール、水などが挙げられる。
【0051】
粘着剤層に化学的架橋処理を施す場合、即ち、粘着剤層を架橋剤によって架橋する場合、形成した粘着剤層の架橋を促進するために、好ましくは加熱(熟成)が行われる。この加熱温度は、好ましくは60〜90℃、より好ましくは60〜80℃であり、この加熱時間は、好ましくは12〜96時間、より好ましくは24〜72時間である。
【0052】
上記のように形成された支持体上の粘着剤層に、ニコチンを塗布および含浸させることによって、本発明の貼付製剤(即ち、支持体/ニコチン含有粘着剤層の積層体)を製造することができる。次いで、この貼付製剤の粘着面に剥離ライナーを貼り合わせることによって、支持体/ニコチン含有粘着剤層/剥離ライナーの積層体の形態である本発明の貼付製剤を製造することができる。また、上記のように形成された剥離ライナー上の粘着剤層に、ニコチンを塗布および含浸させ、次いでこの粘着剤層に支持体を貼り合わせることによって、支持体/ニコチン含有粘着剤層/剥離ライナーの積層体の形態である本発明の貼付製剤を製造することができる。
【0053】
本発明の貼付製剤の形状は、特に限定されず、例えば、テープ状、シート状、マトリックス型、リザーバー型および膜放出制御型などが挙げられる。これらの形状の貼付製剤の中でも、テープ状貼付製剤およびシート状貼付製剤が、酸素の影響を受けやすい。この点、本発明の貼付製剤は、安定化剤によってニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成を有効に抑制することができるため、テープ状およびシート状の実施態様にて、特に有利に実施される。
【0054】
本発明の貼付製剤の投与量は、使用する粘着剤等の種類および量、並びに患者の年齢、体重および症状などにより異なる。例えば、成人に対して2〜150mgのニコチンを含有する貼付製剤を、通常、皮膚5〜120cm2に1〜7日間程度貼り付けることによって投与される。
【0055】
本発明の貼付製剤は、上述の安定化剤によってニコチンが充分に安定化されているため、酸素雰囲気下でも保存することができる。例えば、本発明の貼付製剤は、酸素濃度が5〜25体積%である雰囲気下でも保存することができる。
【0056】
また、本発明の貼付製剤は、包装体内に封入して保存してもよい。本発明の貼付製剤は上述の安定化剤を含有するので、包装体にピンホールまたはシール不良などが生じて空気が包装体内に浸入した場合であっても、ニコチンの分解およびニコチン類縁物質の生成が有効に抑制される。また、本発明の貼付製剤を包装体内に封入する際に、包装体内の空気を窒素などの不活性ガスで置換する、および/または空気を脱気するなどの処理を行う必要が無い。
【0057】
本発明の貼付製剤が含むニコチンの揮散または分散を防止するために、包装体は、ポリエステルフィルム、ポリアクリロニトリル系樹脂フィルム、金属箔などのガス不透過性フィルムを積層した積層体から形成されるものが好ましい。包装体に用いられるフィルムの厚さは、通常、10〜200μmである。
【0058】
包装体の形状は、本発明の貼付製剤を封入することができる形状であれば、特に限定はない。例えば、シートまたはフィルムなどをヒートシールまたは接着剤などによって貼り合わせて形成されたもの、或いは袋状に成形された成形体を、包装体として使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の「%」および「部」は、特記が無い限り、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0060】
[貼付製剤の評価]
以下の実施例および比較例にて得られた貼付製剤を、以下のようにして評価した。
(1)保管後のニコチンの割合
保管前の貼付製剤および後述する条件で保管した後の貼付製剤をメタノール抽出し、この抽出液を下記条件のHPLCで分析した。
・HPLC−カラム:Inertsil(登録商標)ODS−3V(4.6mmI.D.×15cm、5μm)、GLサイエンス社製
・カラム温度:40℃
・移動相:リン酸緩衝液/メタノール=7/3(体積比)
・分析時間:12分
・流速:約2.0mL/min
・検出:UV(260nm)
・リテンションタイム:10分
【0061】
HPLCピーク面積に基づいて算出したニコチン重量から下記式によって、保管後のニコチンの割合を算出した。
保管後のニコチンの割合(%)=100×(保管後の貼付製剤におけるニコチン重量)/(保管前の貼付製剤におけるニコチン重量)
【0062】
(2)保管後の不純物の割合
保管前の貼付製剤および後述する条件で保管した後の貼付製剤をメタノール抽出し、この抽出液を下記条件のHPLCで分析した。
・HPLC−カラム:Inertsil(登録商標)ODS−3(4.6mmI.D.×15cm、3μm)GLサイエンス社製
・カラム温度:45℃
・移動相
移動相A液(リン酸緩衝液/メタノール=9/1(体積比))および移動相B液(リン酸緩衝液/メタノール=3/7(体積比))の混合比を、下記表1に示すように変えて、濃度勾配制御を行った(50分以降はポストラン)。
・流速:1.0mL/min
・検出:UV(260nm)
・リテンションタイム
ニコチン酸:2.1分
コチニン:10.8分
ミオスミン:17.7分
ニコチン:21.1分
β−ニコチリン:24.6分
不純物A:29.9分
【0063】
【表1】

【0064】
HPLCピーク面積から下記式によって、保管後の不純物(ニコチン酸、コチニン、ミオスミン、β−ニコチリンおよび不純物A)の割合を算出した。
保管後の不純物の割合(%)=100×(保管後の貼付製剤における不純物のHPLCピーク面積)/(保管後の貼付製剤におけるニコチンのHPLCピーク面積)
【0065】
(3)貼付製剤の着色
保管前の貼付製剤および後述する条件で保管した後の貼付製剤の着色変化を、CIE1976L*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系、JIS Z 8729:2004)における色度座標(L*,a*,b*)を測定した。下記表には、保管後の貼付製剤のb*値および下記式によって算出した割合を記載した。なお、b*値は黄色味の指標である。
保管後の貼付製剤のb*値の割合(%)=100×(保管後の貼付製剤のb*値)/(保管前の貼付製剤のb*値)
【0066】
[粘着性ポリマーの製造]
不活性ガス雰囲気下、75部のアクリル酸2−エチルへキシル、3部のアクリル酸、22部のN−ビニル−2−ピロリドンおよび0.2部のアゾビスイソブチロニトリルを、酢酸エチル中60℃にて溶液重合させて、アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液(ポリマー固形分:28%)を得た。以下、これを「粘着性ポリマー溶液」と略称する。
【0067】
[粘着剤層の成分]
以下の成分を使用して、粘着剤層を形成した。
(1)ニコチン
ニコチンフリー塩基
(2)粘着性ポリマー
上記のようにして製造したアクリル系ポリマー(アクリル酸2−エチルへキシル(第1モノマー成分)、アクリル酸(第2モノマー成分)およびN−ビニル−2−ピロリドン(第3モノマー成分)の共重合体、第1モノマー成分:第2モノマー成分:第3モノマー成分=75:3:22、重量平均分子量(Mw):2×106
(3)可塑剤
カプリル酸および/またはカプリン酸とグリセリンとのトリグリセリド
(4)ポリオール化合物:グリセリン
(5)架橋剤:エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート
(6)安定化剤
ブチルヒドロキシアニソール(BHA)(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールおよび3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールの混合物)
没食子酸プロピル(PGA)
ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)
2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)
酢酸(±)α−トコフェロール(α−TL)
【0068】
[実施例1〜4並びに比較例1および2]
上述の粘着性ポリマー溶液、可塑剤、ポリオール化合物、架橋剤および安定化剤を配合し(但し、比較例1では安定化剤を配合しなかった。)、塗工液を得た。また、剥離ライナーとして、片面に剥離処理を施したポリエステルフィルムを使用した。塗工液を、剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚さが90μmとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥して、粘着剤層を形成した。
【0069】
ポリエステル不織布(目付け量12g/m2)およびポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ2μm)を押出成形で積層した形成した積層体を、支持体として使用した。この支持体の不織布側の面と、上述のようにして形成した粘着剤層の粘着面とを貼り合わせ、次いでこれを60℃で48時間放置することで粘着剤層を架橋させて、ニコチンを含有しないプラセボ貼付製剤を製造した。
【0070】
次いで、プラセボ貼付製剤の剥離ライナーを剥して粘着面を露出させ、これを卓上型ダイコーターのダイヘッド(スリット幅30μm、ダイヘッド65小)にセットし、粘着面にニコチンを直接に均一塗布した。
【0071】
ニコチンを粘着剤層に含浸させた後、粘着面をポリエステルフィルム製の剥離ライナーで被覆することによって、剥離ライナー付きのニコチン含有貼付製剤を製造した。得られたニコチン含有貼付製剤の各成分の組成および使用した安定化剤の種類を下記表2に示す。
【0072】
得られたニコチン含有貼付製剤を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)/アルミニウム箔(厚さ12μm)/ポリアクリロニトリル系樹脂フィルム(厚さ30μm)の積層体で形成された包装体に封入した。この包装体中の雰囲気は空気(酸素濃度:21体積%)であった。包装体に封入したニコチン含有貼付製剤を、50℃で2ヶ月間保管した後、上述のようにして、保管後のニコチンの割合、保管後の不純物の割合、並びに保管後のb*値およびその割合を測定した。これらの結果を下記表3に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表3に示すように、安定化剤としてブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)または2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)を含む実施例1〜4の貼付製剤は、安定化剤を含まない比較例1および安定化剤として酢酸(±)α−トコフェロール(α−TL)を含む比較例2の貼付製剤と比べて、保管後のニコチンの割合が高く、且つ保管後の不純物の割合が低かった。また、実施例1〜4の貼付製剤は、比較例1および2の貼付製剤と比べて、保管後の着色(b*値およびその割合)が少なかった。
【0076】
なお、実施例4の貼付製剤では、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)に由来する不純物Aが1%の割合で観察された。これに対して、MBIを使用していない実施例1〜3の貼付製剤は、不純物Aが観察されなかった。また、安定化剤としてブチルヒドロキシアニソール(BHA)を含む実施例1の貼付製剤は、安定化剤の量が最も少ないにもかかわらず、保管後のニコチンの割合が最も高く、優れたニコチン安定化効果を示した。
【0077】
[実施例5および比較例3]
上述の実施例1等と同様にして、剥離ライナー付きのニコチン含有貼付製剤を製造した。得られたニコチン含有貼付製剤の各成分の組成および使用した安定化剤の種類を下記表4に示す。
【0078】
包装体内の雰囲気中の酸素濃度を21体積%から3体積%に変更したこと以外は上述の実施例1等と同様にしてニコチン含有貼付製剤を保管し、保管後のニコチンの割合、保管後の不純物の割合、並びに保管後のb*値およびその割合を測定した。これらの結果を下記表5に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
表3に示すように、安定化剤としてブチルヒドロキシアニソール(BHA)を含む実施例5の貼付製剤は、安定化剤を含まない比較例3の貼付製剤に比べて、保管後のb値およびその割合が低い。これらの結果から、低酸素の雰囲気(酸素濃度:3体積%)で貼付製剤を保管した場合であっても、特定の安定化剤によるニコチン安定化効果が発揮されることが分かる。但し、上述の実施例1および比較例1の対比と、実施例5および比較例3の対比とを考慮すると、高酸素の雰囲気(酸素濃度:21体積%)で貼付製剤を保管した場合に、特定の安定化剤によるニコチン安定化効果がより顕著に現れる。
【0082】
上記説明は、単に例示的な性質のものであり、本発明の要旨から離れない本発明の変形は、本発明の範囲内であるべきことが意図される。本発明の変形は、本発明の精神および範囲から離れるものとしてみなされるべきではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、ニコチンの分解、ニコチン類縁物質の生成および着色が抑制されたニコチン含有貼付製剤が得られる。本発明の貼付製剤は、経皮非経口投与による禁煙希望者への禁煙プログラムにおいて、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付製剤であって、
粘着剤層が、粘着性ポリマー、ニコチンおよび安定化剤を含み、
安定化剤が、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PGA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)および2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする貼付製剤。
【請求項2】
粘着性ポリマーが、アクリル系ポリマーを含む請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項3】
粘着剤層が、さらに可塑剤を含む請求項1または2に記載の貼付製剤。
【請求項4】
粘着剤層が、さらにポリオール化合物を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の貼付製剤。
【請求項5】
粘着剤層が、架橋されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の貼付製剤。
【請求項6】
酸素濃度が5〜25体積%である雰囲気下で保存するための請求項1〜5のいずれか一項に記載の貼付製剤。

【公開番号】特開2012−214425(P2012−214425A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82237(P2011−82237)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】