説明

ニコチン徐放性貼付剤

【課題】簡易かつ安価に製造でき、ニコチンの徐放効果や貼付性に優れる貼付剤を提供する。
【解決手段】 バッキング層と、その片面に積層された粘着マトリクス層とを含み、該粘着マトリクス層がニコチンおよび/またはその塩、粘着基剤、ポリアルキレングリコールを少なくとも含有し、該ニコチンと該ポリアルキレングリコールの配合比率が1:10〜15:1の範囲にある、ニコチン徐放化作用を有する貼付剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバコ依存状態を克服するための、禁煙による禁断症状・苦痛を緩和する、ニコチン徐放貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチン含有経皮治療システムは、タバコ依存症患者の禁煙を補助する製剤として、いくつかがすでに市販されている。ニコチンは分子量が162.23と小さく、室温で液体であり、経皮吸収され易い化合物であることから、ニコチンの作用の持続化は、治療システムの適用頻度を少なくする上で有効であり、また、患者のニコチン要求を確実に抑制する上で重要な品質特性である。このため、従来の経皮治療システムは放出制御膜を利用するなどの特別の工夫を施すことにより、ニコチンの投与速度を抑制して過剰な投与を防止するとともに、作用時間を持続化させていた。
【0003】
一方、バッキング層、粘着マトリクス層を積層しただけの単純構成の貼付剤は、製造が容易であるという利点を有するものの、一般に使用されるような貼付剤の粘着マトリクス組成ではニコチンが速やかに吸収されてしまうこと、また、製造工程中にニコチンの揮散が進み貼付剤中のニコチン含量が低下してしまうことなどから、長時間にわたって患者のニコチン要求を満足させることができない欠点があった。さらに、ニコチン等の室温で液体の薬物を作用時間の持続化を目的に粘着マトリクス組成物に含有させようとする場合、薬物自身の可塑効果により粘着マトリクス組成物の凝集性および粘着性が影響を受けるおそれがある。特に、長時間の貼付を可能にするには、粘着マトリクス組成物の厚みを厚くする必要があるが、この場合、凝集性および粘着性が特に重要な品質特性となるため、上記のようなニコチンの可塑効果が貼付剤の物性に悪影響を与えるおそれがあった。
【0004】
また、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールは、貼付剤などの経皮製剤において薬剤の皮膚への浸透を補助する浸透促進剤として利用されているが、同物質がニコチン含有貼付剤においてニコチン徐放作用を奏することや、粘着マトリクス層の凝集性や粘着性等の物性を改善することはこれまで知られていない。
【0005】
従来のニコチン製剤としては、例えば特許文献1に記載の、粘着マトリクス層中に多孔性中空繊維を配合し、その空隙部分に低分子固体物質と薬物を保持させて、該薬物を徐放化した貼付剤が挙げられる。同文献には低分子固体物質の一例としてポリエチレングリコールが、薬物の一例としてとしてニコチンがそれぞれ記載されているが、この貼付剤は、繊維中空中に薬物を保持させるために特別な工程が必要となるため、構造および製造手続き上の複雑さは改善されていない。
また、特許文献2には、第1ポリマーの基層を提供する工程、および液状薬剤を含む、液体に分散された第2ポリマー溶液を前記基層に塗布して基層中に分散させる、感圧皮膚接着剤シートを提供する工程を含む、感圧皮膚接着剤シートの連続製造方法が記載されている。前記液状薬剤の一例としてニコチンが、液体の一例としてポリエチレングリコールがそれぞれ挙げられているが、この感圧皮膚接着剤シートも、従来のニコチン経皮治療システムと比較して製造手続きは簡易化されておらず、またニコチンとポリアルキレングリコールの組合せが徐放・作用持続化をもたらす点について何らの示唆もない。
【0006】
特許文献3には、ニコチン置換治療においてニコチンを経皮的または経頬的に提供する、ニコチン不透過性バッキング層とマトリックス層とを備えたラミネート複合体が記載されており、同複合体において、マトリックス層の厚みlと、拡散係数Dと、時間tとの関係式値が特定範囲とされるべきこと、および、厚みlの範囲を通常25〜500μmとすべきことなどを教示している。しかしながら、同文献はポリアルキレングリコールの配合やそれによる効果などについて何ら言及していない。
特許文献4は、経皮浸透促進剤と、マクロマー強化ベースポリマーとを含む経皮投与組成物を開示しており、経皮浸透促進剤としてポリエチレングリコール、医薬活性剤としてニコチンを例示しているが、製剤の徐放化に関しては何ら教示するところはない。
【0007】
特許文献5は、ニコチンを含有するテープ製剤を開示しており、同製剤に使用される粘着性高分子として、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体ゴムなどのゴム系高分子、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした(メタ)アクリレート系高分子物質などを、経皮吸収補助物質としてポリエチレングリコールなどのグリコール類をそれぞれ挙げている。同文献には、当該テープ製剤を皮膚に適用したところ、血中のニコチン濃度が約12時間にわたって持続されたことが記載されているが、ニコチン含有層の厚みは40μmとごく薄いため24時間を超える持続性は期待できない。
このように、簡易かつ安価に製造でき、ニコチンの徐放効果や貼付性に優れる貼付剤はこれまで存在しなかったため、かかる製剤の開発が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開2004−168734号公報
【特許文献2】特表平11−502840号公報
【特許文献3】特表平9−505028号公報
【特許文献4】特開平8−319464号公報
【特許文献5】特開昭61−251619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バッキング層と粘着マトリクス層のみからなるような、単純な構成の製剤において、ニコチンが持続放出され、長時間にわたって患者のニコチン要求を抑制することが可能な貼付剤を提供することを目的とする。
特に、前記のような構成の製剤においては、粘着マトリクス層の厚みを厚くすれば薬剤(ニコチン)が徐放化され、長時間の貼付が可能となることが知られているが、溶剤法による粘着マトリクス層の製造において塗布液を厚く塗布すると、溶媒が乾燥して除去されるまでに液が流動して濃淡を生じ、粘着マトリクス層の厚みのムラができ、均一な厚みの粘着マトリクス層を得ることが困難となることがあるところ、粘着マトリクス層の凝集性や粘着性等の物性が良いことが重要となる。したがって、本発明のさらなる目的は、かかる単純な構成のニコチン持続放出製剤において、貼付剤に適した物性を有する粘着マトリクス層を提供することにある。
また、ニコチンは、空気中での保存の際に着色し、商品価値の低下を招くという問題点を有するが、かかる着色を防止する貼付剤の保存方法の提供も本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、バッキング層と、粘着マトリクス層と、被覆ライナー層とからなるモノリシック貼付剤において、粘着マトリクス層中にポリアルキレングリコールを、ニコチンとポリアルキレングリコールの配合比率が1:10〜15:1の範囲となるように配合するとニコチンが徐放化されるとともに、貼付剤に適した粘着性や凝集性が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、バッキング層と、その片面に積層された粘着マトリクス層とを含み、該粘着マトリクス層がニコチンおよび/またはその塩、粘着基剤、ポリアルキレングリコールを少なくとも含有し、該ニコチンと該ポリアルキレングリコールの配合比率が1:10〜15:1の範囲にある、ニコチン徐放化作用を有する貼付剤に関する。
また、本発明は、該ポリアルキレングリコールが、平均分子量200〜1000の低分子ポリエチレングリコールと平均分子量1000〜6000の高分子ポリエチレングリコールの少なくとも一つを含む、貼付剤に関する。
【0011】
さらに、本発明は、該粘着マトリクス層が、さらにアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有する、貼付剤に関する。
さらにまた、本発明は、該粘着マトリクス層の粘着基剤が、(メタ)アクリレート系粘着剤である、貼付剤に関する。
本発明はまた、該粘着マトリクス層の粘着基剤が、水酸基を有する(メタ)アクリレート系粘着剤である、貼付剤に関する。
本発明はさらに、該粘着マトリクス層の厚みが100〜500g/mの範囲である、貼付剤に関する。
本発明はさらにまた、窒素ガスで置換した包材内に密封された、貼付剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のニコチン徐放貼付剤は、構成・組成が単純で製造上特別な加工が不要であるとともに、タバコ依存症患者の禁煙を補助する製剤として、患者のニコチン要求を長時間にわたって確実に抑制する、医療上極めて有用なものであり、また包材内の空気を窒素ガスで置換することにより経時的な着色が抑制され、商品価値や使用者のコンプライアンスが向上する。さらに、製造コストを低減することができるため、製剤価格が抑えられ、使用者の経済的負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のニコチン徐放貼付剤は、バッキング層と、これに積層されたニコチン含有粘着マトリクス層とから少なくとも構成され、任意に被覆ライナーを有する。
本明細書中、「徐放」とは、例えば成人のタバコ依存症患者に対する製剤の適用頻度が、1日(24時間)あたりに製剤1個もしくはそれ未満の投与で十分なニコチン要求抑制効果を有することを言う。なお、本発明の貼付剤は、通常は非損傷皮膚に適用し、口腔などの粘膜へは適用しない。
本明細書において、「%」の記載は、特にことわらない限り粘着マトリクス層の組成物全体に対する質量百分率を表す。
【0014】
以下に、本発明のニコチン徐放貼付剤をより詳細に説明する。
本発明の貼付剤の粘着マトリクス層には、ニコチン、粘着基剤、ポリアルキレングリコール、および任意にその他の成分が配合される。
ニコチンの配合率は5〜20%の範囲が好ましく、6〜15%の範囲がより好ましい。ニコチンが上記範囲内であると、十分な作用効果およびその持続性が得られるとともに、粘着マトリクス層が十分な凝集力を保ち、皮膚への適用に適した粘着特性を得ることができる。
また、ニコチンの塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩等の無機塩の他、酒石酸、フマル酸等の有機酸塩などが挙げられる。
なお、製剤の製造時に粘着マトリクス層を形成する際や、製剤の保存中において、ニコチンが揮散して粘着マトリクス層中のニコチン含有率が低下することがあるため、製剤を調合する段階において、所期の配合率よりもニコチンを割増しして仕込むことが適切である。典型的には、製剤調合時に、所期の配合率よりもニコチンを25〜100%割り増しして配合することにより、使用時に所期の配合率を得ることができる。
【0015】
本発明の貼付剤に使用される粘着基剤としては、例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、シリコン系粘着剤、(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤、天然ゴム、ポリイソプレン等が挙げられる。
これらのうち、ニコチンの放出プロファイルと貼付剤の粘着特性の点で、(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤は、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルを主モノマーとした共重合体である。アルキル基は、炭素数4〜18が好ましく、例えば、主モノマーとして、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。主モノマーの配合比率は、好ましくは共重合体全体に対して50〜98モル%である。
【0016】
他の共重合モノマーとしては、アクリル酸、メチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリルアミドなどのアクリル酸類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類の他、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、スチレンなどが挙げられる。共重合モノマーは、自己架橋のための官能基を有してもよい。共重合モノマーの配合比率は、好ましくは共重合体全体に対して0〜50モル%である。
【0017】
上記共重合体の溶媒としては、周知の溶媒が使用でき、例えば、エタノール、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸プロピル等が挙げられる。溶液の粘度は、製膜時の均一な展延性の点で、2000〜6000cpsの範囲が好ましい。また、溶液の固形分濃度は、同じく製膜時の均一な展延性の点で、30〜60%の範囲が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤のうち、特に水酸基やカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤が好ましく、またそれらを組み合わせることもできる。市販されている(メタ)アクリル系粘着剤の水酸基は、本来架橋官能基として共重合モノマー比率で10%未満程度が導入されている。
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤として、例えばDuro−Tak(登録商標)87−2516、87−2525、87−4287(National starch & Chemical)、Gelva−737、788(Monsanto)などが挙げられ、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤として、例えばDuro−Tak(登録商標)87−2194などが挙げられる。
【0018】
本発明の貼付剤に使用されるポリアルキレングリコールは、分子量の大小にかかわらずニコチンを徐放化する作用をもつ(図4参照)。分子量の大小の違いがほとんど見られないことから、ポリアルキレングリコールの両末端の−OH基よりも、主鎖上のエーテル繰り返し部分がニコチンの徐放に寄与すると考えられる。例えば、ポリアルキレングリコールの分子量は200〜6000のものが使用でき、低分子量のものと高分子量のものとをブレンドすることもできる。
ポリアルキレングリコールの配合率は1〜30%の範囲が好ましく、この範囲であれば貼付剤の物性と徐放作用が良好である。ただし、ポリアルキレングリコールが1%未満ではニコチンの徐放作用が低減する傾向にあり、30%を超えると粘着マトリクス層の凝集力が低下する傾向にある。
【0019】
ポリアルキレングリコールとして、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポロキサマーなどが挙げられる。ポリエチレングリコールが最も好ましい。
ニコチンとポリアルキレングリコールの配合比率は、1:10〜15:1の範囲が貼付剤として適しており、この範囲において、貼付剤の凝集特性および粘着特性が良好であり、徐放性にも優れ、効果的な長期間貼付が可能となる。また、本発明において、上記配合比率は、2:10〜14:1の範囲がより好ましく、3:10〜13:1の範囲がさらに好ましく、4:10〜12:1の範囲が最も好ましい。
【0020】
また、上記ポリエチレングリコールは、平均分子量200〜1000の比較的低分子量で流動性の高いものを多く配合すると凝集性、粘着性を低下させることができ、逆に平均分子量1000〜6000の比較的高分子量のものの配合量を増やすと粘着性を増加させることができるため(下記表3及び4参照)、両ポリエチレングリコールの配合割合を変化させることにより、粘着マトリックス層の凝集特性および粘着特性を調節することができる。好ましくは、低分子ポリエチレングリコールと高分子ポリエチレングリコールの配合比は、0:100〜100:0であり、より好ましくは0.1:50〜50:0.1であり、最も好ましくは1:10〜10:1である。
【0021】
本発明の貼付剤に使用されるアミノアルキルメタアクリレートEは、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーである。
アミノアルキルメタアクリレートEの配合率は、20%未満が好ましく、1〜10%がより好ましく、この範囲においては粘着マトリクス層が厚くてもムラなく塗布しやすくなると同時に粘着マトリクス層の凝集性や粘着性が維持される。
アミノアルキルメタアクリレートEの市販材料として、例えばオイドラギット(登録商標)E型(デグサ)が挙げられる。なかでもオイドラギット(登録商標)E−100、オイドラギット(登録商標)EPOが好ましい。
アミノアルキルメタアクリレートEの代替物として、ビニルアセタールジエチルアミノアセテート共重合体AEA(三共)を使用することもできる。
【0022】
粘着マトリクス層は、ニコチン、粘着基剤、ポリアルキレングリコール、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの他に、粘着付与樹脂、可塑化剤、吸収促進剤、安定化剤、充填剤などを配合してもよい。
本発明の貼付剤に使用されるバッキング層は、粘着マトリクス層を被覆して保護し、製剤全体を支持する層である。バッキング層は、粘着マトリクス層の成分に対して物理化学的耐性があり、特にニコチンを吸着したりしない材料が適する。該材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、セルロースまたはその誘導体などが挙げられる。これらはフィルム、シート、発泡体、布などの種々の形態に形成することができる。また前記材料は、適宜他の材料と混合して積層することができる。粘着マトリクス層中におけるニコチンの含有率維持、およびニコチンの経皮吸収性の点で、バッキング層はフィルムであることが好ましい。材質は、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0023】
本発明の貼付剤に使用される被覆ライナー層は、製剤の保存中に粘着マトリクス層を被覆して保護し、製剤の使用時には剥離除去される。被覆ライナー層は、長期間粘着マトリクス層に曝されるため、粘着マトリクスの成分に対して物理化学的耐性があり、特にニコチンを吸着したりしない材料が適する。該材料としては、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどが挙げられる。粘着マトリクス層からの剥離力を弱くするため、被覆ライナー層の表面に離型処理(例えばシリコン処理)を施すことが好ましい。
【0024】
本発明貼付剤を保存する際には、ニコチンの特性である経時的な着色(褐色)を抑えるために、本貼付剤を格納する包材内を窒素置換したり、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤や脱酸素剤を本貼付剤と一緒に封入するなどの着色防止処理を施すのが好ましい。このうち、包材内を窒素置換する保存方法が、効果の面で優れ、一部の脱酸素剤のようにニコチンを吸着しその含量を減らすこともないことから最も好ましい。
【0025】
本発明の貼付剤の製造方法としては、例えば以下のものが挙げられる。すなわち、まず粘着基剤の約40%溶液に、ニコチン、ポリアルキレングリコール、およびオイドラギット(登録商標)などの他の配合成分を加えて均一な溶液となし、これを被覆ライナー上にキャストし、乾燥して溶媒を除去する。次に、得られた粘着マトリクス層にバッキング層をラミネートし、得られたシートを所定の寸法に裁断して、本発明の貼付剤を得る。
粘着マトリクス層の厚みは、100〜500g/mが好ましい。この厚みが厚い方が、ニコチンの徐放性の点で優れるものの、厚すぎると製造時の溶媒を除去するのが困難であり、またニコチンも溶媒とともに揮散する傾向がある。したがって、例えば、一方で所定の厚みの半分の厚みを有する粘着マトリクス層をバッキング層の片面に形成し、他方でそれと同じ厚みの粘着マトリクス層を被覆ライナー上に形成し、その後に2つの粘着マトリクス層同士を重ね合わせて、所定の厚みの粘着マトリクス層を有する貼付剤を得ることもできる。なお、1g/mなる厚みは、粘着マトリクス層の比重を1とした場合、1μm±約20%の厚みに相当し得る。
【実施例】
【0026】
以下、本願発明を実施例によって説明するが、これらの実施例は本願発明を何ら限定するものではない。
実施例1
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤11.11gに、ニコチン2.00g、ポリエチレングリコール400 3.00gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が113g/m、ニコチン含有量が1.35mg/cmの貼付剤を得た。
【0027】
実施例2
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤12.05gに、ニコチン2.00g、ポリエチレングリコール400 3.00gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が225g/m、そのニコチン含有量が2.72mg/cmの貼付剤を得た。
【0028】
比較例1
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤21.2gに、ニコチン1.00g、酸化防止剤としてBHT 0.2gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が241g/m、ニコチン含有量が1.46mg/cmの貼付剤を得た。
【0029】
実施例3
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤20.00gに、ニコチン1.00g、ポリエチレングリコール400 0.50g、酸化防止剤としてBHT 0.20gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が258g/m、ニコチン含有量が1.68mg/cmの貼付剤を得た。
実施例1〜3および比較例1の製剤の組成等を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例4
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤12.58gに、ニコチン1.05g、ポリエチレングリコール400 0.75g、酸化防止剤としてBHT 0.038gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が216g/m、ニコチン含有量が2.25mg/cmの貼付剤を得た。
【0032】
比較例2
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤17.67gに、ニコチン1.00g、ミリスチン酸イソプロピル1.00g、酸化防止剤としてBHT 0.05gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が238g/m、ニコチン含有量が1.88mg/cmの貼付剤を得た。
実施例4および比較例2の製剤の組成等を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
実施例5
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤19.28gに、ニコチン1.50g、ポリエチレングリコール4000 0.30g、オイドラギット(登録商標)EPO 0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が258g/m、ニコチン含有量が3.17mg/cmの貼付剤を得た。
【0035】
実施例6
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤20.24gに、ニコチン1.40g、ポリエチレングリコール4000 0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が259g/m、ニコチン含有量が2.87mg/cmの貼付剤を得た。
【0036】
実施例7
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤19.52gに、ニコチン1.50g、ポリエチレングリコール4000 0.50g、オイドラギット(登録商標)EPO 0.20gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が252g/m、ニコチン含有量が2.95mg/cmの貼付剤を得た。
【0037】
実施例8
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤19.76gに、ニコチン1.50g、ポリエチレングリコール4000 0.10g、オイドラギット(登録商標)EPO 0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が231g/m、ニコチン含有量が2.59mg/cmの貼付剤を得た。
【0038】
実施例9
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤18.80gに、ニコチン1.50g、ポリエチレングリコール4000 0.50g、オイドラギット(登録商標)EPO 0.50g、メタノール0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が253g/m、ニコチン含有量が2.62mg/cmの貼付剤を得た。
【0039】
実施例10
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤18.80gに、ニコチン1.50g、ポリエチレングリコール4000 0.40g、ポリエチレングリコール400 0.10g、オイドラギット(登録商標)EPO 0.50g、メタノール0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が259g/m、ニコチン含有量が2.90mg/cmの貼付剤を得た。
【0040】
実施例11
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル系粘着剤18.80gに、ニコチン12g、ポリエチレングリコール4000 1g、オイドラギット(登録商標)EPO 5g、メタノール0.50gを加え、得られた溶液をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(75μm)にキャストし、送風型乾燥機で溶媒を除去し、支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルム(25μm)を積層し、適宜裁断して、粘着マトリクス層が255g/m、ニコチン含有量が2.98mg/cmの貼付剤を得た。
【0041】
実施例12〜24
上記実施例10および11と同様の方法で、表4の処方のとおりの貼付剤を得た。
【0042】
試験例1
ヘアレスマウスの皮膚を用いたin vitro皮膚透過試験
貼付剤からのニコチンの皮膚透過性を下記の試験によって評価した。
すなわち、まず約8週齢のヘアレスマウスの腹側部皮膚を摘出し、真皮側の脂肪層を注意深く取り除いた。この皮膚を、真皮側がフロースルー・フランツ型拡散セルのレシーバーチャンバーに向くように装着し、チャンバーの外周部に32℃の水を循環させてセルの温度を維持した。試験製剤を3.14cmの大きさに準備し、皮膚の角質層側に製剤を適用して、レシーバーチャンバーに生理食塩水を1時間当たり5.5mLの流速で流した。チャンバーから流出した液を2時間毎に24時間目までサンプリングし、併せて、流出した液の量を測定した。
【0043】
サンプリングして得られた各々の液は、高速液体クロマトグラフ法によって、含まれるニコチンの濃度を測定し、ニコチンの累積透過量[Q]を下記の式に拠って算出した。
累積透過量[Q](μg/cm
=[薬物濃度(μg/mL)×流出した液の量(mL)]/製剤の適用面積(cm
また、ニコチンの皮膚透過速度[flux]は、単位時間当たりの透過量の変化量として定義され、時間tにより、flux(μg/cm/hr)=ΔQ(μg/cm)/Δt(hr)と表される。Flux値が長時間にわたって高く維持される製剤は、ニコチンの徐放性に優れた製剤であると認められる。測定結果を図1〜4に示す。
【0044】
ポリアルキレングリコールを含む実施例3の製剤と、これを含まない比較例1の製剤とを比較した図1の結果から、ポリアルキレングリコールを配合することにより顕著なニコチン徐放効果が得られることが分かる。また、ポリアルキレングリコールを含む実施例4の製剤と、ポリアルキレングリコールの代わりに同量のミリスチン酸イソプロピルを含む比較例2の製剤とを比較した図2の結果から、ポリアルキレングリコールがミリスチン酸イソプロピルよりもはるかに高い徐放効果をもたらすことが明らかとなった。さらに、図3の結果から、徐放効果がポリアルキレングリコールの配合量に比例して高まることが分かる。なお、図4の結果から、低分子量ポリアルキレングリコールと高分子量ポリアルキレングリコールの相対的な配合割合を変えても、同等の徐放効果が得られることが判明した。
【0045】
試験例2
プローブタック試験
各貼付剤の粘着性を下記の試験によって評価した。
ASTM-D2979のプローブタック試験に準拠し、下記の試験条件で製剤からプローブを剥離するのに要する力(タック)を5回測定し、平均値を算出した。この値は粘着性の強度の指標となる。
装置 プローブタックテスター(理学工業)
プローブ ベークライト製、φ5mm
接着荷重 20g
プローブ上昇速度 10mm/秒
プローブ接着時間 1秒
プローブ下降速度 1mm/秒
結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
試験例3
180°剥離試験
各貼付剤の接着性を下記の試験によって評価した。
日本薬局方「絆創膏」に準拠し、下記の試験条件で、まず試験板に検体を接着ローラーで接着させ、次にこれをインストロン型引張試験機に装着し、試験板から製剤を剥離するのに要する力を10回測定し、平均値を算出した。この値は粘着性の指標となる。
剥離紙試験装置 インストロン型引張試験機(オートグラフ、島津製作所)
試験検体 幅20mm×長50mm
試験板 ベークライト製
剥離角度 180°
剥離速度 300mm/分
接着ローラー 800g
接着ローラー速度 300mm/分
結果を表3〜4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
試験例4
ずり応力試験
試験製剤を幅12〜18mm、長さ12〜50mm以上の四角形に裁断し、ライナーを剥ぎ、幅約20mm、長さ70mmの短冊状の上質紙の端から10mmの位置に直径10mmの穴を開け、その穴を完全に覆うようにはり合わせる。あらかじめ25±2℃にて30分間放置した幅約26mm、長さ77mm、厚さ8mmのフェノール樹脂製の試験板に短冊状の上質紙の穴の部分を幅12mm、長さ20.5mmに速やかにはり付け、直ちに質量800gのゴムローラーを1分間300mmの速さで本品の上を2回通過させる。これを25±2℃にて30分間放置した後、インストロン型引張り試験機を用いて短冊状の上質紙は上部に、試験板は下部に留金で堅くはさみ、1分間50mmの速さで連続して引きはがした。この操作を3回実施し荷重の最大値の平均値を求めた(図5参照)。この値は凝集性および粘着性の指標となる。
結果を表3〜4に示す。試験例2〜4の結果から、ニコチンとポリアルキレングリコールとの配合比率が所定の範囲にある場合に、良好な凝集性及び粘着性が得られることが分かる。
【0050】
試験例5
テープ製剤の経時着色変化
製造後の製剤を色差基準色として各経時品の色差を測定し、その程度を評価した。
白色校正板により校正した色彩色差計(ミノルタカメラ株式会社製、型式:CT−210)を用いて製造後の製剤を測定し色差基準色のデータ(Lt,at,bt)を求める。同様に各経時品の色差を測定し測定値のデータ(L,a,b)を求め、以下の式からΔEabを算出した。
【0051】
すなわち、色差基準色のデータを(Lt,at,bt)、測定値のデータを(L,a,b)とすると以下の計算式でそれぞれの色差データが得られる。
ΔL=L−Lt
Δa=a−at
Δb=b−bt
これをもとに、L空間における上の二つのデータ間の色差ΔEabは、以下の式で得られる。
【数1】

結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

上表から分かるとおり、窒素置換して保存した製剤の数値は、各温度において置換していない製剤の約50%の値となっており、窒素置換することで製剤の経時着色を顕著に抑えることができた。このことはまた、ニコチンの含量および分解物の経時安定性についても窒素置換して保存した製剤の方が安定であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したとおり、本発明によれば、簡略な構成を有する、ニコチンを長時間徐放できる低価格の貼付剤の提供が可能になり、これによってタバコ依存症患者による製剤交換の手間や経済的負担が軽減されるため、禁煙を補助する製剤として幅広い応用を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例3および比較例1の製剤のニコチン皮膚透過速度を比較したグラフである。
【図2】実施例4および比較例2の製剤のニコチン皮膚透過速度を比較したグラフである。
【図3】実施例6〜8の製剤のニコチン皮膚透過速度を比較したグラフである。
【図4】実施例10および11の製剤のニコチン皮膚透過速度を比較したグラフである。
【図5】ずり応力試験の概要を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキング層と、その片面に積層された粘着マトリクス層とを含み、該粘着マトリクス層がニコチンおよび/またはその塩、粘着基剤、ポリアルキレングリコールを少なくとも含有し、該ニコチンと該ポリアルキレングリコールの配合比率が1:10〜15:1の範囲にある、ニコチン徐放化作用を有する貼付剤。
【請求項2】
ポリアルキレングリコールが、平均分子量200〜1000の低分子ポリエチレングリコールと平均分子量1000〜6000の高分子ポリエチレングリコールの少なくとも一方を含む、請求項1の貼付剤。
【請求項3】
粘着マトリクス層が、さらにアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有する、請求項1〜2に記載の貼付剤。
【請求項4】
粘着マトリクス層の粘着基剤が、(メタ)アクリレート系粘着剤である、請求項1〜3に記載の貼付剤。
【請求項5】
粘着マトリクス層の粘着基剤が、水酸基を有する(メタ)アクリレート系粘着剤である、請求項4に記載の貼付剤。
【請求項6】
粘着マトリクス層の厚みが100〜500g/mの範囲である、請求項1〜5に記載の貼付剤。
【請求項7】
窒素ガスで置換した包材内に密封された、請求項1〜6に記載の貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−208084(P2008−208084A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47791(P2007−47791)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】