説明

ニコチン酸アミドを含有するゲムシタビン凍結乾燥製剤

【課題】
注射用水に短時間で溶解しやすく、さらに、長期間の保存においてもゲムシタビンの類縁物質の生成が抑えられ、経時安定性に優れた、非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌等の疾患の治療に有用な、用時溶解型のゲムシタビン凍結乾燥製剤を提供すること。
【解決手段】
1)ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩、2)ニコチン酸アミド、及び、必要に応じて、医薬用添加剤を含むゲムシタビン凍結乾燥製剤とすることにより、上記の目的を達成するものであり、好ましい該医薬用添加剤としては、(1)有機酸塩、(2)pH調整剤及び(3)糖類及び糖アルコール類から選択される1種以上の賦形剤等を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩(以下、単に「ゲムシタビン又はその塩」と記載する。)を有効成分とし、更にニコチン酸アミドを含有するゲムシタビン凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲムシタビンは、抗腫瘍活性を有するヌクレオシド系の代謝拮抗剤に分類されるデオキシシチリジン誘導体であり、強力で特異性の高い代謝拮抗作用を有していることが知られている。ゲムシタビンは、4−アミノ−1−(2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−β−D−リボフラノシル)−ピリミジン−2(1H)−オンまたは2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジン(β異性体)と記述され、下記の構造を有する。
【0003】

【0004】
ゲムシタビンは、核酸の合成を妨げることによって細胞のDNAおよびRNA合成を阻止し、これにより、癌細胞の増殖を停止させ、その死滅を引き起こす。わが国においては、非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌を適応として既に上市されている。重篤な副作用が少ないことも特徴とされる。
【0005】
ゲムシタビンは凍結乾燥製剤として市販されている。溶液の場合、それらは長時間にわたって非常に安定というわけではないため、凍結乾燥製剤が用いられている。市販品に用いられている添加物には、D−マンニトール、無水酢酸ナトリウム、pH調節剤が用いられている。ゲムシタビンは、滅菌形態の塩酸塩としてバイアルで、静脈注射用にのみ提供され、ゲムシタビンを含有し、マンニトールおよび酢酸ナトリウムと共に滅菌凍結乾燥粉末として処方されている。
【0006】
ゲムシタビンの塩は、水系溶媒に対してやや溶けやすい程度の溶解性を示す。例えばゲムシタビン塩酸塩1gを水に溶解するには、14.7mLの水が必要であることが知られている(非特許文献1)。
上記の市販されている凍結乾燥製剤は水にやや溶けやすいものの、薬剤の投与の際に完全に溶解するまでには時間がかかっていた。このように溶解に長時間を要する場合、患者への注射投与に時間を要するため、医療上問題であり、溶解時間を短縮できる凍結乾燥製剤が望まれていた。さらに、注射剤とする場合に残渣が存在することは、薬剤の有効利用の観点からみると致命的な欠点となる。したがって、凍結乾燥製剤における添加物を含めたすべての成分が、短時間で溶解することが必要である。
【0007】
また、凍結乾燥製剤について、製造中或いは保存中における有効成分の安定性も、確保されていなければならない。しかし、従来の凍結乾燥製剤については、加熱等の苛酷条件等において経時的にゲムシタビンの類縁物質が増加する傾向にあるという問題点があった(非特許文献1)。この類縁物質は、主に5’−O−アセチル体とβ−ウリジンであると考えられているが、これら類縁物質の保存中の増加は、長期間保存する可能性がある医薬品としては、好ましいものではない。
以上より、ゲムシタビンを有効成分とする凍結乾燥製剤であって、注射用水等に短時間で溶解しやすく、さらに、安定性に優れた凍結乾燥製剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】化学療法の領域,Vol.15,No.12,75-78頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全で、なおかつ、使用しやすいゲムシタビン凍結乾燥製剤を提供することにある。
医療現場では、即時使用可能な注射溶液が迅速に調製されることが望ましいことは明らかであり、注射投与処置をする者の負担をできるだけ少なくするためにも、できるだけ短時間かつ少ない操作で、使用可能な注射溶液を調製できる凍結乾燥製剤が望まれている。また、長期間の保存においても類縁物質が増加することの無い、安定性に優れた凍結乾燥製剤が望まれていた。
すなわち、本発明の具体的な課題は、注射用水等に短時間で溶解しやすく、さらに、長期保存安定性に優れたゲムシタビン凍結乾燥製剤を提供することにより、安全で、なおかつ、使用しやすいゲムシタビン凍結乾燥製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、ゲムシタビン又はその塩と共に、ニコチン酸アミドを含有するゲムシタビン凍結乾燥製剤は注射用水に短時間で溶解し、かつ、溶解状態が安定した均一な注射溶液が得られることを見出した。これは、ゲムシタビン塩酸塩の注射用溶液への溶解性がニコチン酸アミドにより高められると共に、凍結乾燥製剤の溶解後の溶液粘度が低められるためと思われる。また、該凍結乾燥製剤はニコチン酸アミドを含有することにより、加熱等の苛酷条件下においても、経時的にゲムシタビンの類縁物質が増加せず、該凍結乾燥製剤の長期保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記(1)〜(9)の発明に関する。
(1)ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩及びニコチン酸アミドを含有するゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(2)ニコチン酸アミドをゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩に対して1質量%〜20質量%含有する上記(1)に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(3)ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩及びニコチン酸アミドを含有し、pHが2〜4である水溶液を凍結乾燥して得られる上記(1)又は(2)に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(4)ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩がゲムシタビン塩酸塩である上記(1)〜(3)のいずれか一に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(5)さらにC2〜C6有機酸塩を含有する上記(1)〜(4)のいずれか一に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(6)該有機酸塩として少なくとも酢酸ナトリウムを含む上記(5)に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(7)さらに糖類及び糖アルコール類から選択される少なくとも1種の賦形剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれか一に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(8)該賦形剤がD−マンニトールである上記(7)に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
(9)ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩を、製剤総量に対して、30〜70質量%、ニコチン酸アミドを2〜14質量%の割合で含み、残部に医薬用添加剤を含有する上記(1)〜(8)のいずれか一に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤は、再溶解時の溶解性に優れ、注射用水に短時間で溶解し、安定な均一の溶液を形成する。さらに、該凍結乾燥製剤では苛酷試験でのゲムシタビン類縁物質の増加が抑えられ、製剤中におけるゲムシタビン又はその塩が安定に保持される結果、該凍結乾燥製剤は経時的な安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、上記した如く、その基本的態様として、ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩、好ましくはゲムシタビン塩酸塩を活性成分として含有する凍結乾燥製剤であって、ニコチン酸アミドを含有することを特徴とする凍結乾燥製剤である。通常、上記活性成分およびニコチン酸アミド以外に、残部として任意の医薬用添加剤を含むことができる。
本発明の凍結乾燥製剤中におけるゲムシタビン又はその塩の含量は、有効投与量であれば良いが、通常は凍結乾燥製剤の総量に対して、30〜70質量%、好ましくは、40〜60質量%であり、より好ましくは45〜55質量%である。
任意の医薬用添加剤として好ましいものとしては、後記する有機酸塩、賦形剤、pH調整剤などを挙げることができる。
【0014】
本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤に用いられるゲムシタビンは、例えば特公平5−42438号に記載の方法等により、製造することができる。
ゲムシタビンの薬理学的に許容される塩は、ゲムシタビンと無機酸または有機酸とを適当な溶媒中で処理することにより、調製することができる。そのような無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過ヨウ素酸等が挙げられる。また有機酸としては、ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、プロピオン酸、吉草酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等を挙げることができる。ゲムシタビンの薬理学的に許容される塩としては、ゲムシタビン塩酸塩が特に好ましい。
【0015】
本発明に用いられるニコチン酸アミドは、ナイアシンアミド(niacine amide)ともいわれ、分子式CO、分子量122.13である。ニコチン酸アミドは、植物界ではニコチン酸と共存して広く分布し、哺乳類では肝臓に多く存在する。ニコチン酸アミドは、ニコチン酸と同様に水溶性のビタミンB複合体の一つであって、ヒトの抗ペラグラ因子である。本発明に用いられるニコチン酸アミドは、医療用に用いることができるニコチン酸アミドであれば良いが、注射剤に用いられるグレードのものがより好ましい。
本発明の凍結乾燥製剤に含有されるニコチン酸アミドの含量割合は本発明製剤の特徴が発揮される限り、特に制限はないが、ゲムシタビン又はその塩に対して、通常1〜20質量%であり、5〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、10〜15質量%がさらに好ましい。本発明の凍結乾燥製剤の総量に対するニコチン酸アミド含量割合は、通常2〜14質量%程度であり、好ましくは3〜14質量%程度であり、より好ましくは3〜12質量%程度であり、更に好ましくは4〜10質量%程度である。
【0016】
また、本発明の凍結乾燥製剤は、必要に応じて、医薬用添加剤の一つとして、酢酸ナトリウム等の有機酸塩、好ましくはC2〜C6有機酸塩(好ましくはアルカリ金属塩)を含有しても良い。C2〜C6有機酸塩としてはクエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム又は酢酸ナトリウム等を挙げることができる。より好ましいものは酢酸のアルカリ金属塩であり、酢酸ナトリウムが更に好ましく、その無水物が通常使用される。これは、製剤中のpHを安定に保持し、ゲムシタビン又はその塩、好ましくはゲムシタビン塩酸塩の安定性に寄与するものと思われ、通常含むのが好ましい。該有機酸塩の含量割合は、ゲムシタビン又はその塩100質量部に対して、通常0〜20質量部程度、好ましくは2〜10質量部程度、更に、好ましくは3〜8質量部程度の割合である。
また、本発明の凍結乾燥製剤の総量に対する、該有機酸塩の含量割合は、0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%程度である。
【0017】
本発明の凍結乾燥製剤の製造には、必要に応じてpH調整剤を用いることができる。
pH調整剤としては、医薬製剤において一般的に使用されているものであり、本発明の凍結乾燥製剤に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、塩酸及びリン酸等の無機酸;クエン酸、酒石酸、炭酸、乳酸及び酢酸等の有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸のアルカリ金属塩;等を挙げることができる。
本発明の凍結乾燥製剤に使用するpH調整剤として好ましくは、塩酸、リン酸もしくはその塩(リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素ナトリウム等)及び水酸化ナトリウムが挙げられる。より好ましくは、塩酸及び水酸化ナトリウムである。pH調整剤は、凍結乾燥製剤を製造する際に、溶液のpHを目的のpHに調整することができればよく、適量で使用される。
【0018】
これらのpH調整剤は単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、必要に応じて上記pH調整剤を使用することにより、凍結乾燥に供する溶液のpHを2〜4の範囲に調整するのが好ましく、pH2.0〜3.5の範囲に調整するのがより好ましく、pH2.5〜3.5の範囲に調整するのが更に好ましく、pH2.9〜3.1の範囲に調整するのが特に好ましい。
本発明の凍結乾燥製剤の製造に使用されるpH調整剤の配合量は、pHを上記の範囲に調整できれば特に限定されない。通常、pH調整剤は、pHを目的の範囲に調整できるように適量使用される。
【0019】
本発明の凍結乾燥製剤には、必要に応じて、糖類及び糖アルコール類から選択される少なくとも1種類以上の賦形剤を用いることができる。
糖類としては、凍結乾燥製剤の賦形剤として使用されている糖であれば特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース等の単糖類、及び、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等の二糖類等を挙げることができる。糖アルコール類としては、凍結乾燥製剤の賦形剤として使用されている糖アルコールであれば特に限定されないが、例えば、マンニトール、エリスリトール、イノシトール及びソルビトール等を挙げることができる。本発明の凍結乾燥製剤に使用する糖類及び糖アルコール類から選択される賦形剤としては、グルコース及びD−マンニトールが好ましく、D−マンニトールがより好ましい。
本発明の凍結乾燥製剤中の、糖類及び糖アルコール類から選択される1種以上の賦形剤の配合量は、ゲムシタビン又はその塩1質量部に対して、通常0.01〜100質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。本発明の凍結乾燥製剤の総量に対する該賦形剤の含量割合は、10〜70質量%程度、好ましくは20〜60質量%程度、より好ましくは30〜55質量%程度、最も好ましくは35〜50質量%程度である。
【0020】
本発明の好ましい凍結乾燥製剤は、1)ゲムシタビン又はその塩、2)ニコチン酸アミド、及び、必要に応じて、医薬用添加剤として、3)有機酸塩、4)pH調整剤及び5)糖類及び糖アルコール類から選択される少なくとも一種の賦形剤からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
本発明の好ましい凍結乾燥製剤として、例えば、1)ゲムシタビン又はその塩、好ましくはゲムシタビン塩酸塩を、製剤の総量に対して30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%、2)ニコチン酸アミドを、製剤の総量に対して2〜14質量%含有し、残部が賦形剤等の任意の医薬添加剤である凍結乾燥製剤を挙げることができる。
本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤における上記成分の配合比を、好ましい場合も含めて例示すれば、下記の通りである。但し、pH調整剤は必要に応じて使用される。
ゲムシタビン又はその塩(好ましくはゲムシタビン塩酸塩)100質量部に対して、
ニコチン酸アミド:1〜20質量部、好ましくは5〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部、さらに好ましくは10〜15質量部、
有機酸塩:0〜20質量部、好ましくは2〜10質量部、更に好ましくは3〜8質量部、
pH調整剤:適量(例えば0〜20質量部)
糖類及び糖アルコール類から選択される1種以上の賦形剤:1〜10000質量部、好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは50〜500質量部。
【0021】
本発明の凍結乾燥製剤は、さらに、医薬用添加剤の一つとして、界面活性剤、浸透圧調整剤、防腐剤、安定化剤及び抗酸化剤等の、その他の添加物を含有していてもよい。
上記界面活性剤としては、ポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレン硬化ヒマシ油及びセスキオレイン酸ソルビタンなどが挙げられ、上記浸透圧調整剤としては、ブドウ糖、キシリトール及びソルビトールなどが挙げられ、防腐剤としては、安息香酸及びアスコルビン酸などが挙げられる。しかし、これらに限定されるわけではない。
上記のその他の添加物を本発明の凍結乾燥製剤に使用する場合、その配合量は、ゲムシタビン又はその塩1質量部に対して、0.001〜1質量部である。
なお、上記浸透圧調整剤のうち賦形剤としても使用可能なものについては、浸透圧調整剤と賦形剤の区別無く本発明の凍結乾燥製剤に使用することができ、その配合量も上記のその他の添加物の配合量に限定されない。
【0022】
本発明の凍結乾燥製剤の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下の方法により製造することができる。
まずは、1)ゲムシタビン又はその塩、2)ニコチン酸アミド、及び必要に応じて、医薬用添加剤、例えば、3)有機酸塩、4)pH調整剤、5)糖類及び糖アルコール類から選択される1種以上の賦形剤、さらに、必要に応じて、安定化剤及び抗酸化剤等のその他の添加物を、水又は適当な水性溶媒(水及び水と混和可能な有機溶媒の混合物、たとえば、水とアルコールの混合物)に溶解させる。上記各成分を水又は水性溶媒に溶解させる順序は、成分の種類に特に依存することなく、任意の順序で溶解させることができる。上記各成分を溶解させる水又は水性溶媒としては、注射用蒸留水を使用するのが好ましい。
このときの水性溶液中のゲムシタビン又はその塩の濃度(ゲムシタビン相当量)は、通常0.1mg/mL〜10mg/mLであり、好ましくは0.5mg/mL〜5mg/mLであり、より好ましくは0.5mg/mL〜2mg/mLである。
得られた水性溶液につき、所望により、メンブレンフィルタなどを用いて濾過滅菌を行う。次いで、得られた無菌溶液をバイアル又はトレーなどの容器に分注し、通常の凍結乾燥方法により、本発明の凍結乾燥製剤とすることができる。
【0023】
凍結乾燥方法としては、通常の凍結乾燥方法であれば、いずれも支障は無い。
本発明の凍結乾燥製剤は、凍結乾燥工程の乾燥時間及び乾燥温度を調節することにより、その製造初期水分量をコントロールすることが可能である。本凍結乾燥製剤の製造初期水分量は、通常0.5質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以下である。
【0024】
上記で得られた凍結乾燥製剤が充填した容器、又は必要に応じて、上記で得られた凍結乾燥製剤を別の容器に移した後、容器内のヘッドスペースを窒素等の不活性ガスで置換し、次いで通常の打栓又は熔閉等の方法で密封することにより、本発明の保存用凍結乾燥製剤が得られる。凍結乾燥製剤を封入する容器としては、打栓又は熔閉等により密封することができるものであれば特に限定されないが、外部からの水分を完全に遮断できるとの観点から、バイアルやアンプルが好ましい。
このようにして得られる本凍結乾燥製剤は、賦形剤が非晶質粉体として存在するため、長期間に渡る経時的安定性を保つことができる。本発明の凍結乾燥製剤は、固体粉末状であるものが好ましい。
【0025】
本発明の凍結乾燥製剤の再溶解液の調製に使用する溶媒としては、通常、注射剤に使用される溶剤であれば、いずれも使用でき、具体例として、用時注射用蒸留水、生理食塩水、及び、その他一般的輸液(たとえば、5%ブドウ糖輸液、アミノ酸輸液など)が挙げられる。本発明の凍結乾燥製剤を上記溶媒に溶解させて得られる再溶解液は、静脈注射剤、皮下注射剤、筋肉注射剤又は点滴注射剤などの注射剤(注射液)として、非経口投与することができる。本発明の凍結乾燥製剤を、上記の注射用蒸留水、生理食塩水、又は輸液等の溶媒で溶解した液は、十分に安定である。
本発明の凍結乾燥製剤の復水・希釈時におけるゲムシタビンの濃度(ゲムシタビン相当量)は、通常、0.001mg/mL〜100mg/mLであり、好ましくは、0.005mg/mL〜50mg/mLである。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例等に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0027】
実施例1
注射用蒸留水に、ゲムシタビン塩酸塩228mg、D−マンニトール200mg、無水酢酸ナトリウム12.5mg及びニコチン酸アミド29mgを溶解し、10%塩酸を用いて、pHを3.0±0.1に調整し、全量を5gとなるように調製した。次に、得られた水性溶液をフィルター(日本ポール株式会社製、商品名フロロダイン、孔径0.2μm)を用いてろ過し、得られたろ液の全量をバイアル(容量15ml)に充填した。
得られたバイアルを凍結乾燥装置により、通常の方法で凍結乾燥した。凍結乾燥時間は約71時間であった。得られた凍結乾燥製剤の水分量は、0.19質量%であった。
上記の凍結乾燥工程により得られた凍結乾燥製剤入りバイアルのヘッドスペースを窒素置換し、次いで、バイアル内圧を約70kPaとしてゴム栓で減圧打栓した後、アルミキャップで巻き締め、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。
【0028】
実施例2
実施例1と同様に、注射用蒸留水、ゲムシタビン塩酸塩1140mg、D−マンニトール1000mg、無水酢酸ナトリウム62.5mg、ニコチン酸アミド145mgを用いて、全量を25gとした水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次いで実施例1と同様の手順で、この水性溶液をろ過してバイアル(容量50ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程により、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。
【0029】
比較例1
実施例1と同様に、注射用蒸留水、ゲムシタビン塩酸塩228mg、D−マンニトール200mg、無水酢酸ナトリウム12.5mgを用いて、全量を5gとした水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次いで実施例1と同様の手順で、この水性溶液をろ過してバイアル(容量15ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程により、ニコチン酸アミドを含有しない、比較用凍結乾燥製剤を得た。
【0030】
比較例2
実施例1と同様に、注射用蒸留水、ゲムシタビン塩酸塩1140mg、D−マンニトール1000mg、無水酢酸ナトリウム62.5mgを用いて、全量を25gとした水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次いで実施例1と同様の手順で、この水性溶液をろ過してバイアル(容量50ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程により、ニコチン酸アミドを含有しない、比較用凍結乾燥製剤を得た。
【0031】
試験例1(溶解性試験)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られた凍結乾燥製剤を用いて、溶解性試験を行った。
実施例1および比較例1については、生理食塩水5mLをバイアルに加え、激しく振り混ぜ、完全に溶解するまでの時間を測定した。実施例2および比較例2については、生理食塩水25mLを用いて同様に試験を行った。
溶解性試験の結果を下記表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
ゲムシタビン塩酸塩228mg及びニコチン酸アミド29mgを含有する実施例1の凍結乾燥製剤は、ニコチン酸アミドを含有しない比較例1の凍結乾燥製剤と比べて、溶解時間が25秒短縮した。また、ゲムシタビン塩酸塩1140mg及びニコチン酸アミド145mgを含有する実施例2の凍結乾燥製剤は、ニコチン酸アミドを含有しない比較例2の凍結乾燥製剤と比べて、溶解時間が50秒短縮した。
この試験結果より、ニコチン酸アミドの添加による、ゲムシタビン凍結乾燥製剤の再溶解時間の短縮が認められた。
【0034】
試験例2(安定性試験)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2について苛酷試験を行い、苛酷試験後の各凍結乾燥製剤について純度試験を行った。
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られた凍結乾燥製剤のバイアルを恒温槽に入れ、70℃の条件下で1週間及び2週間保存した。製造直後(イニシャル)、70℃1週間放置後、70℃2週間放置後の各サンプルについて、下記の純度試験を行った。
各凍結乾燥製剤につき、製剤時の組成に従いゲムシタビンとして0.2gに相当する量をとり、これを精製水5mLに溶かした。この溶液1mLに精製水を加えて20mLとし、試料溶液とした。試料溶液とは別に、ゲムシタビン塩酸塩標準品23mg及びシトシン20mgを正確に量り、精製水に溶かして10mLの溶液とした。この溶液1mLを量り、精製水を加えて100mLとした。この液1mLを量り、精製水を加えて10mLとし、標準溶液とした。各試料溶液及び標準溶液20μLにつき、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーにより定量分析を行った。それぞれの試料溶液及び標準溶液につき、ゲムシタビン由来のピーク面積、及び、各類縁物質由来のピーク面積を、自動積分法により測定した。
【0035】
高速液体クロマトグラフィーの測定条件:
検出器:紫外吸光光度計、波長275nm。
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管にオクチルシリル化シリカゲル(5μm)を充填したカラム。
カラム温度:25℃。
移動相A:リン酸二水素ナトリウム二水和物15.6gを精製水に溶かし、さらにそこにリン酸を加えて、pHが2.5で総量が1000mLとなるように調製した溶液。
移動相B:メタノール
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を下記表Aのように変えて濃度勾配を制御した。
【0036】
表A
注入後の時間 移動相A 移動相B
(分) (vol%) (vol%)
0〜8 97 3
8〜13 97→50 3→50
13〜20 50 50
20〜25 50→97 50→3
流量:毎分1.2mL
面積測定範囲:ゲムシタビンの保持時間の4倍の範囲
純度試験の結果を下記表2に示した。下記表2の値は、各保存条件における、類縁物質由来の各ピーク面積の総和/ゲムシタビン由来のピーク面積×100(%)を表す。
【0037】
【表2】

【0038】
この試験結果より、ニコチン酸アミドを添加していない比較例1及び比較例2の製剤では類縁物質の増加が認められたが、ニコチン酸アミドを添加した製剤では殆ど類縁物質は増加しなかった。イニシャルと70℃2週間放置後を比較すると、比較例1及び比較例2の製剤ではそれぞれ、類縁物質が4倍及び9.5倍増加したのに対し、実施例1及び実施例2では1.5倍の増加にとどまった。これはニコチン酸アミドの添加により、類縁物質の中でもとくにゲムシタビンの5’−O−アセチル体の副生が抑制されたためと考えられる。
【0039】
実施例3
ニコチン酸アミドを40mg使用すること以外は実施例1と同様にして、ゲムシタビン塩酸塩を含有する全量5gの水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次に、実施例1と同様の方法により、得られた水性溶液をろ過し、得られたろ液の全量をバイアル(容量15ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程、減圧打栓工程及びアルミキャップの巻き締め工程を経て、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。得られた凍結乾燥製剤の水分量は0.19質量%であった。
【0040】
実施例4
ニコチン酸アミドを25mg使用すること、及び、10%塩酸を用いて溶液のpHを2.0±0.1に調整すること以外は実施例1と同様にして、ゲムシタビン塩酸塩を含有する全量5gの水性溶液を調製した。次に、実施例1と同様の方法により、得られた水性溶液をろ過し、得られたろ液の全量をバイアル(容量15ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程、減圧打栓工程及びアルミキャップの巻き締め工程を経て、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。得られた凍結乾燥製剤の水分量は0.19質量%であった。
【0041】
実施例5
ゲムシタビン塩酸塩を139.65mg、D−マンニトールを288.35mg、ニコチン酸アミドを25mg使用すること以外は実施例1と同様にして、ゲムシタビン塩酸塩を含有する全量5gの水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次に、実施例1と同様の方法により、得られた水性溶液をろ過し、得られたろ液の全量をバイアル(容量15ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程、減圧打栓工程及びアルミキャップの巻き締め工程を経て、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。得られた凍結乾燥製剤の水分量は0.19質量%であった。
【0042】
実施例6
D−マンニトール200mgの代わりにブドウ糖(グルコース)水和物200mgを使用すること、及び、ニコチン酸アミドを25mg使用すること以外は実施例1と同様にして、ゲムシタビン塩酸塩を含有する全量5gの水性溶液を調製した。得られた水性溶液のpHは3.0±0.1であった。次に、実施例1と同様の方法により、得られた水性溶液をろ過し、得られたろ液の全量をバイアル(容量15ml)に充填した後、実施例1と同じ凍結乾燥工程、減圧打栓工程及びアルミキャップの巻き締め工程を経て、本発明のゲムシタビン凍結乾燥製剤を得た。得られた凍結乾燥製剤の水分量は0.19質量%であった。
【0043】
試験例3(溶解性試験)
実施例3〜6で得られた凍結乾燥製剤を用いて、生理食塩水5mLを4秒でバイアルに注入し、バイアルを1秒間に3〜4回横回転させて撹拌し、完全に溶解するまでの時間を測定した。生理食塩水の注入には容量50mLのシリンジ及び21ゲージの注射針を使用した。
実施例3〜6の凍結乾燥製剤における溶解性試験の結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
試験例4(安定性試験)
実施例4及び5で得られた凍結乾燥製剤について苛酷試験を行い、苛酷試験後の各凍結乾燥製剤について純度試験を行った。
実施例4及び5で得られた凍結乾燥製剤のバイアルを恒温槽に入れ、70℃の条件下で1週間保存した。熱処理前(イニシャル)及び70℃1週間放置後の各サンプルについて、試験例2と同様に純度試験を行った。
純度試験の結果を下記表4に示した。下記表4の値は、熱処理前及び熱処理後の凍結乾燥製剤における、類縁物質由来の各ピーク面積の総和/ゲムシタビン由来のピーク面積×100(%)を表す。
【0046】
【表4】

【0047】
ニコチン酸アミドを添加して得られる本発明の凍結乾燥製剤のうち、実施例4では過酷試験前後の類縁物質の増加がイニシャルの1.33倍にとどまり、実施例5では類縁物質は3分の2に減少した。これはニコチン酸アミドの添加により、類縁物質の中でもとくにゲムシタビンの5’−O−アセチル体の副生が抑制されたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、注射用水に短時間で溶解して安定な均一の溶液を形成するという再溶解時の溶解性に優れ、さらに、苛酷試験でのゲムシタビン類縁物質の増加が抑えられ、製剤中におけるゲムシタビン又はその塩が安定に保持される結果、経時的な安定性に優れたゲムシタビン凍結乾燥製剤が提供される。ゲムシタビンは良好な非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌等に対する治療作用を有することから、本発明により、用時調製型の製剤として、これら疾患の治療に極めて有効な製剤を提供できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩及びニコチン酸アミドを含有するゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項2】
ニコチン酸アミドをゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩に対して1質量%〜20質量%含有する請求項1に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項3】
ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩及びニコチン酸アミドを含有し、pHが2〜4である水溶液を凍結乾燥して得られる請求項1又は2に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項4】
ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩がゲムシタビン塩酸塩である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項5】
さらにC2〜C6有機酸塩を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項6】
該有機酸塩として少なくとも酢酸ナトリウムを含む請求項5に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項7】
さらに糖類及び糖アルコール類から選択される少なくとも1種の賦形剤を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項8】
該賦形剤がD−マンニトールである請求項7に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。
【請求項9】
ゲムシタビン又はその薬理学的に許容される塩を、製剤総量に対して、30〜70質量%、ニコチン酸アミドを2〜14質量%の割合で含み、残部に医薬用添加剤を含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のゲムシタビン凍結乾燥製剤。

【公開番号】特開2012−31151(P2012−31151A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141594(P2011−141594)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】