説明

ニコランジル分解抑制剤、経皮吸収製剤及び貼付剤

【課題】
ニコランジルの分解を、溶解状態であっても抑制することが可能な、ニコランジル分解抑制剤を提供すること。
【解決手段】
多価金属の塩化物からなる、ニコランジル分解抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコランジル分解抑制剤、経皮吸収製剤及び貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコランジルは、下記式で表されるニコチン酸誘導体である。
【0003】
【化1】

【0004】
ニコランジルは、狭心症、不安定狭心症、急性心不全に用いられる冠血管拡張薬であって、特許文献1〜3に、その化合物、製法、薬剤等が記載されている。
【0005】
ニコランジル製剤としては、錠剤、注射剤(凍結乾燥製剤)がすでに市販されており、ニコランジルを含有する経皮吸収製剤に関しては、特許文献4〜11に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−122373号公報
【特許文献2】特開昭53−9323号公報
【特許文献3】特開昭53−9775号公報
【特許文献4】特開昭59−10513号公報
【特許文献5】特開昭61−78720号公報
【特許文献6】特開昭62−36316号公報
【特許文献7】特開昭62−103018号公報
【特許文献8】特開昭62−36317号公報
【特許文献9】特開昭63−51326号公報
【特許文献10】特開昭63−152315号公報
【特許文献11】特開平3−261722号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】医薬品研究14(6),968−979(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ニコランジルは非特許文献1に記載の分解機序等により分解し得る不安定な薬物であるため、従来、保存安定性に優れるニコランジル薬剤を得ることは困難であった。
【0009】
特許文献11には、ニコランジルを製剤中に安定に保つ方法として、ニコランジルを平均粒径2μm以上の微細結晶状で均一に分散させ、且つ、ニコランジルを製剤中に安定に保つための安定剤として有機酸金属塩を用いる方法が記載されている。しかしながら、このような方法では、ニコランジルを非溶解状態でしか含有させることができず、十分な薬物の経皮送達を達成することが困難である。
【0010】
そこで本発明は、ニコランジルの分解を、溶解状態であっても抑制することが可能な、ニコランジル分解抑制剤を提供することを目的とする。また、本発明は、ニコランジルとニコランジル分解抑制剤とを含有し、保存安定性に優れる経皮吸収製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、多価金属の塩化物からなる、ニコランジル分解抑制剤を提供する。
【0012】
本発明のニコランジル分解抑制剤は、ニコランジルの分解を、溶解状態であっても抑制することができる。そのため、ニコランジルを含有する経皮吸収製剤に、本発明のニコランジル分解抑制剤をさらに含有させることで、ニコランジルの分解を抑制し、経皮吸収製剤の保存安定性を向上させることができる。
【0013】
上記多価金属の塩化物が、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。このような多価金属の塩化物からなるニコランジル分解抑制剤は、ニコランジル分解抑制効果に一層優れる。
【0014】
本発明はまた、ニコランジル又はその薬学的に許容される塩、並びに、上記ニコランジル分解抑制剤を含有する、経皮吸収製剤を提供する。
【0015】
本発明に係る経皮吸収製剤は、ニコランジル分解抑制剤を含有するため、ニコランジル(又はその薬学的に許容される塩)の分解が抑制される。そのため、本発明に係る経皮吸収製剤は、保存安定性に優れたものとなる。
【0016】
本発明はさらに、支持体と、該支持体上に積層された粘着剤層とを備える貼付剤であって、上記粘着剤層がニコランジル又はその薬学的に許容される塩、並びに、上記ニコランジル分解抑制剤を含有する、貼付剤を提供する。
【0017】
本発明に係る貼付剤は、粘着剤層がニコランジル分解抑制剤を含有するため、粘着剤層中のニコランジル(又はその薬学的に許容される塩)の分解が抑制される。そのため、本発明に係る貼付剤は、保存安定性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニコランジルの分解を、溶解状態であっても抑制することが可能な、ニコランジル分解抑制剤が提供される。また、本発明によれば、ニコランジルとニコランジル分解抑制剤とを含有し、保存安定性に優れる経皮吸収製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1〜3及び比較例1におけるニコランジルの保存安定性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のニコランジル分解抑制剤の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中でいうニコランジルとは、下記式で表される化合物である。
【0021】
【化2】

【0022】
本実施形態に係るニコランジル分解抑制剤は、多価金属の塩化物からなる。
ニコランジルは非特許文献1に記載の分解機序等により分解し得る不安定な薬物であるが、本実施形態に係るニコランジル分解抑制剤によれば、その分解が抑制され、長期間にわたって経皮吸収製剤等の製剤中に保持することが可能となる。
【0023】
具体的には、例えばニコランジル分解抑制剤を、ニコランジルを含有する組成物中に含有させることで、当該組成物中のニコランジルの分解が抑制される。ニコランジル分解抑制剤は、ニコランジルが非溶解状態であっても溶解状態であっても、その分解を抑制することができる。すなわち、上記組成物中のニコランジルは、非溶解状態であっても溶解状態であってもよい。
【0024】
ニコランジル分解抑制剤は、上記組成物中で非溶解状態であっても溶解状態であってもよい。非溶解状態のニコランジル分解抑制剤は、粒子状であることが好ましく、上記組成物中に分散して存在していることが好ましい。粒子状のニコランジル分解抑制剤は、粒径が100μm以下であることが好ましい。
【0025】
上記組成物は、水を実質的に含有しないことが好ましい。このような組成物中では、ニコランジル分解抑制剤による薬物の分解抑制効果が、より良好に得られる。ここで「実質的に水を含有しない」とは、意図して水分を配合されていないこと、又は、水の含有量が、組成物の全量基準で10質量%未満であることを意味する。
【0026】
また、本実施形態に係るニコランジル分解抑制剤は、ニコランジルの薬学的に許容される塩に対しても、保存安定性を向上させる効果を有する。このような効果が生じる一因としては、例えば、以下の要因が考えられる。
すなわち、ニコランジルの薬学的に許容される塩は、当該塩から遊離したニコランジルが非特許文献1に記載の分解機序等により分解されると考えられる。そして、本実施形態に係るニコランジル分解抑制剤によれば、上記塩から遊離したニコランジルの分解を抑制できるため、上記塩の保存安定性を向上させることができると考えられる。
【0027】
多価金属としては、アルミニウム等の元素周期表第III族の金属;カルシウム、マグネシウム等の第IIa族の金属;亜鉛等の第IIb族の金属;等が挙げられる。すなわち、多価金属の塩化物としては、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛等が挙げられる。これらのうち、ニコランジルの分解抑制効果に一層優れることから、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
これらの金属の塩化物が、ニコランジルの分解を抑制する機序については必ずしも明らかではないが、金属の塩化物が、ニコランジルの極性官能基部分に配位することによって安定化し、ニコランジルが分解する反応を抑制することが一因であると考えられる。
【0029】
次に、本発明の経皮吸収製剤の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0030】
本実施形態に係る経皮吸収製剤は、基剤と、ニコランジル又はその薬学的に許容される塩(以下、「薬物」と称する場合がある。)と、ニコランジル分解抑制剤とを含有する。
【0031】
本実施形態に係る経皮吸収製剤は、ニコランジル分解抑制剤を含有するため、薬物の分解が抑制され、保存安定性に優れたものとなる。
【0032】
本実施形態に係る経皮吸収製剤は、薬物が基剤中に溶解していることが好ましい。薬物が溶解状態であると、経皮吸収製剤が薬物の経皮送達性に一層優れたものとなる。
【0033】
特許文献11に記載の経皮吸収製剤は、ニコランジルを製剤中に安定に保つため、ニコランジルを平均粒径2μm以上の微細結晶状で均一に分散させ、且つ、ニコランジルを製剤中に安定に保つための安定剤として有機酸金属塩を用いている。しかし、このような方法では、ニコランジルを非溶解状態でしか含有させることができず、十分な薬物の経皮送達を達成することが難しい。
【0034】
これに対して、本実施形態に係る経皮吸収製剤は、溶解状態のニコランジルの分解を抑制可能なニコランジル分解抑制剤を含有しているため、ニコランジルを溶解状態で含有させた場合でも保存安定性に優れたものとなる。すなわち、本実施形態に係る経皮吸収製剤によれば、薬物の経皮送達性と製剤の保存安定性との両立が可能となる。
【0035】
基剤としては、特に限定されず、一般に医薬組成物において使用される基剤を使用することができ、一般に医薬組成物において使用される添加剤を含有していてもよい。基剤としては、実質的に水を含有しない非水系基剤が好ましい。このような基剤によれば、ニコランジル分解抑制剤により薬物の分解抑制効果を、より良好に得ることができる。ここで「実質的に水を含有しない」とは、意図して水分を配合されていないこと、又は、水の含有量が、基剤の全量基準で10質量%未満であることを意味する。
【0036】
本実施形態に係る経皮吸収製剤は、例えば、経皮吸収製剤1個あたりの薬物の含有量を、30〜300mgとすることができる。
【0037】
本実施形態に係る経皮吸収製剤としては、貼付剤等の外用製剤が挙げられる。以下、貼付剤を例として、本実施形態に係る経皮吸収製剤をより詳細に説明する。
【0038】
貼付剤は、支持体上に、粘着剤層を備えるものであり、粘着剤層は支持体の主面の両面に形成されていても、片面に形成されていてもよい。粘着剤層は、粘着基剤と、薬物と、ニコランジル分解抑制剤とを少なくとも含有している。薬物は、ニコランジル又はその薬学的に許容される塩であり、ニコランジル分解抑制剤は、上記の実施形態に係るニコランジル分解抑制剤である。
【0039】
薬物としては、ニコランジル(すなわち、ニコランジルの遊離塩基体)、ニコランジルの無機酸付加塩、ニコランジルの有機酸付加塩が挙げられ、好ましくはニコランジルの遊離塩基体を用いることができる。無機酸及び有機塩としては、ニコランジルと薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定はなく、塩酸、硝酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、マレイン酸が例示される。薬物は単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0040】
薬物の配合量は、粘着剤層の総量基準で、3〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。薬物の配合量が少なすぎると、薬物の経皮送達量が必要量に満たない場合があり、薬物の配合量が多すぎると、感圧接着性が低下する場合がある。薬物の配合量を上記範囲内とすることで、より優れた薬物の経皮送達性と感圧接着性とが両立される。
【0041】
粘着剤層に含有されるニコランジル分解抑制剤としては、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種からなるニコランジル分解抑制剤が好ましい。粘着剤層にこのようなニコランジル分解抑制剤を含有させることで、薬物の経皮送達量が、長期間にわたり一定に保たれる。このような効果が生じる機序は必ずしも明らかではないが、その一因は、ニコランジル分解抑制剤が、ニコランジルの分解を抑制する点にあると考えられる。
【0042】
ニコランジル分解抑制剤の配合量は、粘着剤層の総量基準で、3〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。ニコランジル分解抑制剤の配合量を上記範囲内とすることにより、貼付剤が、より優れた薬物の経皮送達性と保存安定性とを有するものとなる。なお、ニコランジル分解抑制剤の配合量が多すぎると、粘着剤層の粘着特性が悪化する場合がある。
【0043】
また、ニコランジル分解抑制剤の配合量は、薬物の配合量1質量部に対して、0.2〜5質量部とすることが好ましく、0.5〜3質量部とすることがより好ましい。ニコランジル分解抑制剤の配合量を上記範囲内とすることにより、薬物の分解抑制効果がより良好に奏され、貼付剤の保存安定性が一層向上する。
【0044】
粘着基剤としては、天然ゴム、合成ゴム、ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤、ポリシロキサン感圧接着剤等を使用することができる。
【0045】
合成ゴムとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、などが挙げられる。
【0046】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤は、ニコランジルとの相溶性に優れ、薬物の経皮送達性がより良好となる点で優れる。
【0047】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤としては、(メタ)アルキルアクリレート由来のモノマー単位を主モノマー単位として含む共重合体が挙げられ、これらのうち(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマー単位を主モノマー単位として含む重合体(以下、場合により「(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体」と称する。)が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが有するアルキル基としては、炭素数が4〜13のアルキル基が好ましい。
【0048】
なお、主モノマー単位とは、重合体を主に構成するモノマー単位を示し、具体的には、例えば、重合体全体の40〜100質量%を占めるモノマー単位を示す。
【0049】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、アクリル酸又はメタクリル酸の、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル等が例示され、これらが有するアルキル基は、直鎖状でも分枝状であってもよい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0050】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤は、上記の主モノマー単位以外のモノマー単位を含有していてもよく、このようなモノマー単位としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等のモノマー由来のモノマー単位が挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、炭素数が4〜13の範囲であるものが好ましい。具体的には、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0052】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤における、主モノマー単位以外のモノマー単位の含有量は、ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤の総量基準で、0〜40質量%の範囲とすることが好ましい。言い換えると、ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤としては、上記主モノマー単位の含有量が、60〜100質量%である重合体が好ましい。
【0053】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤中にカルボキシル基が存在すると、薬物の経皮送達性が低下する場合があるため、ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤としてはカルボキシルを有しない重合体が好ましい。具体的には、例えば、重合体全体に占める(メタ)アクリル酸由来のモノマー単位が、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
ポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤としては、市販のものを用いることができ、例えば、水酸基を有するものとしては、Duro−Tak 87−2287(ヘンケル社製)が例示できる。また、カルボキシル基のような極性官能基を有しないものとしては、Duro−Tak 87−900A(ヘンケル社製)、MAS811(積水化学工業社製)が例示できる。これらのポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤を用いることで、より優れた薬物の経皮送達性と保存安定性とを備える製剤が提供される。
【0055】
ポリシロキサン感圧接着剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンを使用することができる。
【0056】
粘着基剤としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリジメチルシロキサン、ポリイソブチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体及びポリイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらのうち、より好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体である。
【0057】
粘着剤層は、必要に応じて、例えば、粘着付与剤、軟化剤、安定化剤、吸収促進剤等の添加剤成分をさらに含有することができる。
【0058】
粘着付与剤としては、脂環族飽和炭化水素樹脂;ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル、ロジンのペンタエリスリトールエステル、マレイン化ロジン等のロジン誘導体;テルペン樹脂;石油樹脂;などが例示される。これらの粘着付与剤は1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
軟化剤としては、流動パラフィン等のパラフィン油;スクワラン、スクワレン等の動物油;アーモンド油、オリブ油、ツバキ油、ヒマシ油、トール油、ラッカセイ油等の植物油;シリコーン油;ポリブテン、ポリイソプレン等の液状ゴム;などが例示される。これらの軟化剤は1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
安定化剤としては、トコフェロール及びそのエステル誘導体、アスコルビン酸及びそのエステル誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が好適に使用できる。これらの安定化剤は1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
吸収促進剤としては、イソステアリルアルコール等の脂肪族アルコール;カプリン酸等の脂肪酸;プロピレングリコールモノラウレート、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸誘導体;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類;などが好適に使用できる。これらの吸収促進剤は1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。吸収促進剤の配合量は、粘着剤層全体に対して2〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0062】
粘着剤層は、実質的に水を含有しないことが好ましい。このような粘着剤層を用いることで、ニコランジル分解抑制剤による薬物の分解抑制効果がより良好に得られ、貼付剤の保存安定性がより向上する。ここで「実質的に水を含有しない」とは、意図して水分を配合されていないこと、又は、水の含有量が、粘着剤層の全量基準で10質量%未満であることを意味する。
【0063】
粘着剤層が形成される支持体は、粘着剤層を物理的に保持し、外的な環境から粘着剤層を保護するシート状の物質である。支持体は、貼付剤を手で扱ったり、皮膚に貼ったりするために、物理的な支持機能を有する必要があり、粘着剤層中の成分が浸透せず、皮膚から貼付剤を剥離するときに破れないものが好ましい。また、支持体としては、皮膚の伸縮に追随するような伸縮性を有するものが好ましい。
【0064】
支持体を形成する成分としては、合成樹脂、綿等が挙げられ、合成樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリブタジエン;エチレン酢酸ビニル共重合体;ポリ塩化ビニル;ナイロン;ポリウレタン;セルロース誘導体;ポリアクリロニトリル;などが例示できる。
【0065】
また、支持体としては、上記の成分で主に形成された、フィルム;織布、不織布等の布帛;多孔質膜;発泡体;等が例示され、これらを適宜積層したものを用いることもできる。
【0066】
貼付剤は、保管中の粘着剤層の保護等のために、粘着剤層上に保護フィルムを備えるものであってもよい。保護フィルムは粘着剤層を被覆し、貼付剤を使用する際には剥離される。
【0067】
保護フィルムとしては、樹脂フィルム、紙等を用いることが可能であり、樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアクリロニトリル;等からなる樹脂フィルムが例示できる。これらの保護フィルムは、粘着剤層からの剥離を容易にするために、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン等による離型処理を表面に施すことが好ましい
【0068】
貼付剤は、例えば、薬物、ニコランジル分解抑制剤、粘着基剤及び溶媒(さらに、必要に応じてその他の添加剤)を含有する組成物を、保護フィルム上に塗布し、溶媒を乾燥させ除去して粘着剤層を形成した後、支持体を貼り合わせ、所定の形状に裁断することにより製造することができる。溶媒としては、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る経皮吸収製剤は、含有される薬物が冠血管拡張作用を有することから、狭心症、不安定狭心症、急性心不全などの予防または治療において有用である。
【0070】
また、本実施形態に係る経皮吸収製剤としては、上記の貼付剤としての態様以外に、軟膏剤、エアゾール剤などの一般的な外用製剤としての態様も好適に実施できる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ニコランジル分解抑制剤又は経皮吸収製剤として説明したが、本発明は、ニコランジルを含有する製剤に多価金属の塩化物を含有させる、製剤の保存安定性の向上方法であってもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
エタノール中に、ニコランジル5質量%、塩化アルミニウム5質量%を添加し、ガラスバイアル中に封入した。これを40℃のインキュベーター中で保存し、7日経過後と14日経過後にサンプルを取り出した。取り出したサンプルについて、それぞれ高速液体クロマトグラフィー法によって、ニコランジルの含有量を定量した。ニコランジルの対初期残存比率(初めに添加したニコランジルの量を100%としたときの所定日経過後のサンプル中のニコランジルの量)は、表1に示す通りであった。
【0074】
(実施例2)
エタノール中に、ニコランジル5質量%、塩化マグネシウム5質量%を添加し、ガラスバイアル中に封入した。これを実施例1と同様の条件で保存し、7日経過後にサンプルを取り出した。取り出したサンプルについて、それぞれ高速液体クロマトグラフィー法によって、ニコランジルの含有量を定量した。ニコランジルの対初期残存比率は、表1に示す通りであった。
【0075】
(実施例3)
エタノール中に、ニコランジル5質量%、塩化カルシウム5質量%を添加し、ガラスバイアル中に封入した。これを実施例1と同様の条件で保存し、7日経過後にサンプルを取り出した。取り出したサンプルについて、それぞれ高速液体クロマトグラフィー法によって、ニコランジルの含有量を定量した。ニコランジルの対初期残存比率は、表1に示す通りであった。
【0076】
(比較例1)
エタノール中に、ニコランジル5質量%を添加し、ガラスバイアル中に封入した。これを実施例1と同様の条件で保存し、7日経過後と14日経過後にサンプルを取り出した。取り出したサンプルについて、それぞれ高速液体クロマトグラフィー法によって、ニコランジルの含有量を定量した。ニコランジルの対初期残存比率は、表1に示す通りであった。
【0077】
【表1】

【0078】
図1には、実施例1〜3及び比較例1における、初めに添加したニコランジルの量を100%としたときの7日経過後と14日経過後のサンプル中のニコランジルの量を、ニコランジルの残存量(%)として示した。すなわち、図1は、実施例1〜3及び比較例1におけるニコランジルの保存安定性を表すグラフである。表1及び図1に示すように、実施例1〜3では、比較例1と比較して、ニコランジルの分解が抑制され、ニコランジルの保存安定性が格段に向上した。
【0079】
(実施例4)
薬物としてニコランジルを5質量%、ニコランジル分解抑制剤として塩化アルミニウムを5質量%、粘着基剤としてDuro−Tak 387−2287(ヘンケル社製)の溶液を固形分として90質量%となるように秤取して、混合し、均一な分散溶液とした。この溶液を、主面の一方にシリコン処理が施されている厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(保護フィルム)の、シリコン処理が施されている主面上に、一定の厚みで塗布し、乾燥させて粘着剤層を形成した。乾燥後の粘着剤層の厚みは、100μmであった。次いで、粘着剤層上に、厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)を積層して、経皮吸収製剤を得た。この経皮吸収製剤を適宜裁断して、アルミラミネートプラスチックフィルムで包装し、包装体とした。この包装体を、後述する保存安定性の試験に用いた。
なお、Duro−Tak 387−2287(ヘンケル社製)は、水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート感圧接着剤である。
【0080】
(実施例5)
薬物としてニコランジルを5質量%、ニコランジル分解抑制剤として塩化マグネシウムを5質量%、溶解剤として乳酸を15質量%、粘着基剤としてDuro−Tak 387−2287(ヘンケル社製)の溶液を固形分として75質量%となるように秤取して、混合し、均一な分散溶液とした。この溶液を用いて、実施例4と同様にして経皮吸収製剤を得た。また、この経皮吸収製剤から実施例4と同様にして包装体を得て、後述する保存安定性の試験に用いた。
【0081】
(実施例6)
薬物としてニコランジルを5質量%、ニコランジル分解抑制剤として塩化カルシウムを5質量%、溶解剤として乳酸を15質量%、粘着基剤としてDuro−Tak 387−2287(ヘンケル社製)の溶液を固形分として75質量%となるように秤取して、混合し、均一な分散溶液とした。この溶液を用いて、実施例4と同様にして経皮吸収製剤を得た。また、この経皮吸収製剤から実施例4と同様にして包装体を得て、後述する保存安定性の試験に用いた。
【0082】
(比較例2)
薬物としてニコランジルを5質量%、粘着基剤としてDuro−Tak 387−2287(ヘンケル社製)の溶液を固形分として95質量%となるように秤取して、混合し、均一な分散溶液とした。この溶液を用いて、実施例4と同様にして経皮吸収製剤を得た。また、この経皮吸収製剤から実施例4と同様にして包装体を得て、後述する保存安定性の試験に用いた。
【0083】
(比較例3〜22)
ニコランジル分解抑制剤にかえて、表2に記載の添加剤5質量%を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、経皮吸収製剤を得た。また、この経皮吸収製剤から実施例4と同様にして包装体を得て、後述する保存安定性の試験に用いた。
【0084】
(比較例23〜27)
ニコランジル分解抑制剤にかえて、表2に記載の添加剤5質量%を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、経皮吸収製剤を得た。また、この経皮吸収製剤から実施例4と同様にして包装体を得て、後述する保存安定性の試験に用いた。
【0085】
(保存安定性の試験)
実施例4〜6、比較例2〜28で得られた包装体を、40℃のインキュベーターで2週間保存した後、これを取り出し、高速液体クロマトグラフィー法によって製剤中のニコランジルの残存量を定量し、当初配合量(5質量%)に対する残存比率を%で求めた。結果は表1に示す通りであった。
【0086】
【表2】

【0087】
表2に示す通り、実施例4〜6では、比較例2〜27と比較してニコランジルの残存比率が高く、優れた保存安定性を示した。なお、実施例4〜6、比較例2〜27の全ての薬剤において、ニコランジルは溶解状態で含有されていた。すなわち、実施例4〜6では、ニコランジルを溶解状態で含有し、且つ保存安定性に優れる製剤が得られた。なお、表2中、「EDTA2ナトリウム」は、エチレンジアミン四酢酸のジナトリウム塩を示す。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、ニコランジルの分解を、溶解状態であっても抑制することが可能な、ニコランジル分解抑制剤が提供され、また、ニコランジルとニコランジル分解抑制剤とを含有し、保存安定性に優れる経皮吸収製剤が提供されるため、医療産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価金属の塩化物からなる、ニコランジル分解抑制剤。
【請求項2】
前記多価金属の塩化物は、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のニコランジル分解抑制剤。
【請求項3】
ニコランジル又はその薬学的に許容される塩と、請求項1又は2に記載のニコランジル分解抑制剤を含有する、経皮吸収製剤。
【請求項4】
支持体と、該支持体上に積層された粘着剤層とを備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、ニコランジル又はその薬学的に許容される塩、並びに、請求項1又は2に記載のニコランジル分解抑制剤を含有する、貼付剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−173832(P2011−173832A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39321(P2010−39321)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】