説明

ニッケルまたはコバルトの回収方法

【課題】中和工程によって生成される固形物と液体との固液分離性を向上させる。
【解決手段】硫酸105を使用して、酸化鉱石102から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液108と、浸出残渣109と、を得る浸出工程と、浸出残渣109を含む硫酸浸出溶液108とマグネシウムとを反応させてpH調整し、ニッケルまたはコバルトを含む反応液110と、鉄を含む反応残渣111と、を得る反応工程と、前工程において得られた液を、中和剤112を使用して中和し、ニッケルまたはコバルトを含む第二中和液113と、鉄を含む第二中和残渣114と、を得る中和工程と、を含み、浸出工程と中和工程との間に、酸化鉱石300を用いて前工程で得られた液のpHを上昇させる予備中和工程をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを回収する技術としては、特許文献1に記載された技術等が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−75536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケルまたはコバルトを含む酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを回収する際に、CaCOあるいはCa(OH)のような形態のカルシウムを用いてニッケルまたはコバルトを含む液中の硫酸の中和を行った場合、以下の反応式(11)、(13)のように、CaSO(石膏)が生成される。また、液中のFeの反応を示す式である反応式(12)、(14)のようにFe(COあるいはFe(OH)の形態でFeを含む沈殿物が生成される。
【0005】
SO(フリー硫酸)+CaCO(固体)=CaSO(固体)+HO+CO (11)
【0006】
Fe(SO(液)+3CaCO(固体)=Fe(CO(固体)+3CaSO(固体) (12)
【0007】
SO(フリー硫酸)+Ca(OH)(固体)=CaSO(固体)+2HO (13)
【0008】
Fe(SO(液)+3Ca(OH)(固体)=2Fe(OH)(固体)+3CaSO(固体) (14)
【0009】
Fe(COあるいはFe(OH)のようなFeを含む沈殿物は沈殿反応が速いため微粒子状となっていた。また、Feを含む沈殿物が生成されると同時に多くのCaSO固形物が生成されるため、中和残渣が大量に生成されていた。そのため、固形物と中和後の液との固液分離性に課題を有しており、固形物である中和残渣のスラリー濃度が低く、多量の中和残渣が発生していた。したがって、中和残渣と中和後の液とを固液分離するために、大きな規模の固液分離設備が必要となり、固液分離後に中和残渣を堆積させる大型の設備を要することがあった。このため、コストの増大を招く要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、ニッケルまたはコバルトと鉄とを含む第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを回収する方法であって、硫酸を使用して、前記第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得る浸出工程と、前記浸出残渣を含む前記硫酸浸出溶液とマグネシウムとを反応させてpH調整し、ニッケルまたはコバルトを含む反応液と、鉄を含む反応残渣と、を得る反応工程と、前工程で得られた液を、中和剤を使用して中和し、ニッケルまたはコバルトを含む中和液と、鉄を含む中和残渣と、を得る中和工程と、を含み、前記浸出工程と前記中和工程との間に、マグネシウムを用いて前工程で得られた液のpHを上昇させる予備中和工程を含むことを特徴とする回収方法が提供される。
【0011】
この発明によれば、浸出工程と中和工程との間にマグネシウムを用いて前工程で得られた液のpHを上昇させる予備中和工程をさらに含むことによって、中和工程の前にマグネシウムを用いることで、結晶性がよく、粒子の径が大きい残渣を生成することができると推察される。また、マグネシウムとフリー硫酸との中和反応によって液体であるMgSOが生成されるため、固形物の生成を抑制することができる。そのため、中和工程において生成される固形物と液体との分離性を向上させることができる。したがって、中和残渣の発生量を低減することができる。
【0012】
本発明において、予備中和工程は、反応工程と中和工程との間に行われ、予備中和工程は、反応残渣を含む反応液を、マグネシウムとニッケルとを含む第二の酸化鉱石を用いて中和し、ニッケルまたはコバルトを含む液と、鉄を含む残渣と、を得る工程であってもよい。こうすることにより、第二の酸化鉱石中のマグネシウムを中和剤として利用することによって、反応液中のニッケルまたはコバルトを共沈させることなく、反応液中のフリー硫酸と鉄とを、より効率的に除去することができる。また、第二の酸化鉱石中のニッケルを硫酸ニッケルとして回収できるため、ニッケルの回収率を、より向上させることができる。
【0013】
また、浸出工程の前に、第一の酸化鉱石を、小粒径酸化鉱石と、マグネシウムを含む大粒径酸化鉱石とに分級する分級工程を含み、浸出工程において、小粒径酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを浸出するとともに、反応工程において、浸出残渣を含む硫酸浸出溶液と、大粒径酸化鉱石に含有されるマグネシウムとを反応させてpH調整し、第二の酸化鉱石のマグネシウム含有率は、大粒径酸化鉱石のマグネシウム含有率よりも高くてもよい。こうすることにより、少ない硫酸使用量で、ニッケルまたはコバルトの、より高い回収率を得つつ、鉄を除去するための処理コストを、より低減することができる。また、第二の酸化鉱石のニッケル含有率は、大粒径酸化鉱石のニッケル含有率よりも低くてもよい。
【0014】
また、浸出工程において、さらにナトリウム塩を用いて、第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得て、反応工程において、浸出残渣を含む硫酸浸出溶液をpH調整し、ニッケルまたはコバルトを含む反応液と、反応残渣と、を得てもよい。こうすることにより、浸出工程において、硫酸とナトリウム塩とを使用してナトロジャロサイトを生成し、反応工程においてマグネシウムを使用してpH調整することでナトロジャロサイトを沈殿させることにより、反応液中の鉄濃度をさらに減少させることができる。このため、中和工程において、反応液中の鉄濃度を減少させるために多量の中和剤を使用する必要がない。したがって、ニッケルまたはコバルトの回収工程において、鉄を除去するための処理コストの低減を、より図りつつ、ニッケルまたはコバルトの高い浸出率を得ることにより、より効率的にニッケルまたはコバルトを回収することができる。
【0015】
また、ナトリウム塩は、海水中に含まれるナトリウム塩であってもよい。こうすることにより、ニッケルまたはコバルトの高い回収率を得つつ、鉄を除去するための処理コストを低減することができる。また、ナトリウム塩の使用量は、第一の酸化鉱石の使用量の1重量%以上5重量%以下であってもよい。こうすることにより、ニッケルまたはコバルトの高い浸出率を得ることによって、ニッケルまたはコバルトの高い回収率を得つつ、酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを回収するコストの上昇を、より抑制することができる。また、ナトリウム塩は、濃縮された海水中に含まれるナトリウム塩であってもよく、その濃度は、4重量%以上5.3重量%以下であってもよい。
【0016】
また、浸出工程において、さらに還元剤を用いて、第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得てもよい。こうすることにより、コバルトの回収率をより向上させることができる。また、還元剤は鉄粉であってもよい。こうすることにより、回収コストの上昇を抑制しつつ、コバルトの浸出率を安定的に向上させることができる
【0017】
また、浸出工程と、反応工程とを、ともに90℃以上の温度下で行ってもよい。こうすることにより、ニッケルまたはコバルトの浸出率を、より向上させることができる。また、浸出工程と反応工程とを、ともに常圧下で行うことができる。こうすることにより、設備コストの上昇を抑制することができる。
【0018】
また、中和工程の後に、中和液と中和残渣とを、凝集剤を使用し、シックナーを用いて固液分離し、中和液と中和残渣とを分離する固液分離工程を、さらに含んでもよい。
【0019】
また、予備中和工程を、90℃以上の温度下で行ってもよい。こうすることにより、pHの上昇を、より効率的に行うことができる。
【0020】
また、中和剤が、マグネシウムを含むスラグであってもよい。こうすることにより、ニッケルまたはコバルトの高い回収率を得つつ、鉄を除去するための処理コストを、より低減することができる。
【0021】
また、浸出工程において、硫酸の使用量は、第一の酸化鉱石の使用量の50重量%以上80重量%以下であってもよい。こうすることにより、ニッケルまたはコバルトの高い浸出率を得つつ、ニッケルまたはコバルトの回収コストの上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、浸出工程と中和工程との間にマグネシウムを用いてpH調整する予備中和工程を含むことによって、固液分離の際の分離性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1および図2は工程フロー図である。
【0024】
以下に本発明における実施形態について、図面および表を用いて説明する。なお、以下の記載において、使用量および添加量は、各物質の重量を基準とした使用量および添加量である。
【0025】
一般的には、リモナイト鉱石とサプロライト鉱石についての明確な成分範囲の規定はないが、鉄が多くマグネシウムが少ない酸化鉱石をリモナイト鉱石、鉄が少なくマグネシウムが多い酸化鉱石をサプロライト鉱石と表現されることが多い。リモナイト鉱石と言われている酸化鉱石と、サプロライト鉱石と言われている酸化鉱石と、フェロニッケルスラグの成分を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
以下、本実施形態における用語を説明する。
【0028】
本実施形態において、低Ni高Mg酸化鉱石とは、ニッケルの含有率が2重量%以下、Feの含有率が20重量%以下、マグネシウムの含有率が15重量%以上で、乾式製錬によるFeNi(フェロニッケル)製造にはこれまで使用されることが少なかったもので、いわゆる低Ni品位サプロライト鉱石のことをいう。
【0029】
一方、乾式製錬に通常使用されている酸化鉱石は、一般にサプロライト鉱石と言われているものであり、その成分は、Ni:2重量%以上、Fe:20重量%以下、Mg:15重量%以上のものである。
【0030】
乾式製錬とは、電気エネルギーにより石炭等の還元剤とともにニッケルとFeの溶融還元を行い、ステンレスやニッケル合金鋼の原料となるFeNi(フェロニッケル)を製造する方法である。ここで、酸化鉱石中のニッケル品位が低く、Fe品位が高いと、乾式製錬により製造されたFeNi(フェロニッケル)のニッケル品位が低下する。そのため、ステンレスやニッケル合金鋼を製造する場合に、エネルギー原単位が上昇し、経済性の面で課題を有している。したがって、低Ni品位サプロライト鉱石は乾式製錬原料として使用することは難しいとされている。
【0031】
以下、リモナイト鉱石とサプロライト鉱石の成分範囲について説明する。
【0032】
図4を用いてニッケル酸化鉱石の鉱床における成分分布を説明する。
【0033】
ニッケル成分は、地表から深くなるにしたがって高くなる傾向にあるが、ベッドロック近傍で急激に低下する。オーバーサイズ(大粒径)の鉱石のニッケル成分は、アンダーサイズ(小粒径)鉱石のニッケル成分含有率と比較して、リモナイト鉱石層上層部で高くなり、リモナイト鉱石層下層部とサプロライト鉱石層で低くなる傾向にある。なお、図4においては、サプロライト鉱石層のニッケルの成分が2重量%以上である鉱床について説明したが、鉱床によってはニッケルの成分が2重量%以下、たとえば、1重量%以上1.4重量%以下である場合もある。
【0034】
コバルト成分は、地表から深くなるにしたがって高くなる傾向にあるが、サプロライト鉱石層付近から急激に低下する。大粒径の鉱石のコバルト成分は、ニッケル成分とほぼ同じ傾向である。
【0035】
Fe成分は、地表から深くなるにしたがって低くなる傾向にあるが、サプロライト鉱石層に近くなると急激に低下する。大粒径鉱石のFe成分は、小粒径鉱石のFe成分と比較すると低く、その傾向はリモナイト鉱石層において顕著である。
【0036】
マグネシウム成分は、地表から深くなるにしたがって高くなる傾向にあるが、サプロライト鉱石層に近くなると急激に高くなる。大粒径鉱石のマグネシウム成分は、小粒径鉱石のマグネシウム成分と比較すると高くなり、その傾向はリモナイト鉱石層において顕著である。
【0037】
ここで、サプロライト鉱石層は主に電気炉を用いた乾式製錬によりフェロニッケルを製造するために用いられる鉱石層であり、リモナイト鉱石層は主に湿式製錬に用いられる鉱石層である。
【0038】
(実施の形態)
図1および図2に、ニッケル、コバルトおよび鉄を含む酸化鉱石からニッケルおよびコバルトを回収するための工程図を示す。
【0039】
以下、本実施形態における工程のフローを説明する。
【0040】
はじめに、工程a(分級工程(S1))において、酸化鉱石102を、オーバーサイズとアンダーサイズに分級し、アンダーサイズは用水107によりスラリー鉱石104とし、オーバーサイズは粉砕して粉砕品103とする。
【0041】
次に、工程b(浸出工程(S2))において、スラリー鉱石104に硫酸105を添加することにより、硫酸105により浸出し、ニッケルおよびコバルトを含む硫酸浸出液108と浸出残渣109とを得る。ここで、浸出残渣109には、スラリー鉱石104から浸出された鉄と硫酸105とナトリウム塩106とが反応して生成されたナトロジャロサイトが含まれている。
【0042】
つづいて、工程c(反応工程(S3))において、浸出残渣109を含む硫酸浸出液108中のフリー硫酸と、分級工程で粉砕した粉砕品103に含有されるマグネシウムとを反応させることにより、フリー硫酸を消費しpHを調整し、反応液110と反応残渣111とを得る。このpH調整により、反応残渣111中にナトロジャロサイトを沈殿させることにより、反応液110中の鉄濃度を減少させることができる。
【0043】
次に、工程d(第一中和工程(S4))において、反応残渣111を含む反応液110に低Ni高Mg酸化鉱石300を添加することで、酸化鉱石300に含有されているマグネシウムと反応液110中のフリー硫酸との反応により、フリー硫酸がさらに消費された第一中和液302と鉄がナトロジャロサイトとして沈殿した第一中和残渣304とを得る。したがって、反応液110より、さらに第一中和液302中のフリー硫酸と鉄濃度とを減少させることができる。
【0044】
次に、工程e(第二中和工程(S5))において、第一中和残渣304を含む第一中和液302に中和剤112を添加することでpHを調整し、第二中和液113と第二中和残渣114とを得る。ここで、前工程の第一中和工程において、ナトロジャロサイトを沈殿させることで第一中和液302中の鉄濃度が減少し、さらにフリー硫酸量も減少しているので、中和剤112の添加量を低減することができる。
【0045】
次に、工程f(固液分離工程(S6))において、第二中和残渣114を含む第二中和液113に凝集剤115を添加し、シックナーを用いて固液分離することで、第二中和液113と第二中和残渣114とを分離する。ここで、第二中和残渣114の固液分離性に優れている。その理由としては、第二中和残渣114は結晶性が良く、粒子が大きいからであると推察される。
【0046】
次に、工程g(溶媒抽出工程(S7))において、抽出溶媒である有機溶媒134を用いて、第二中和液113に含まれるニッケルとコバルトとを、硫酸ニッケル溶液130と硫酸コバルト溶液132とに分離して、それぞれ固形化工程(工程h)に送る。ここで、有機溶媒134としてモノチオホスフィン酸基を有する有機溶媒を用いることにより、マグネシウム、マンガンやカルシウムをほとんど含まない硫酸コバルト溶液132を得ることができる。
【0047】
次に、工程h(固形化工程(S8))において、硫酸ニッケル溶液130および硫酸コバルト溶液132に、それぞれアルカリ化合物136を混合させることにより、ニッケル水酸化物138およびコバルト水酸化物140を得る。アルカリ化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0048】
次に、工程i(硫黄・塩素除去工程(S9))において、用水205と、スラリー状にしたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202と、水酸化ナトリウム203とを、混合・攪拌し、濾過・水洗することで、硫黄または塩素が除去されたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206と溶液208とを得る。
【0049】
次に、工程j(フェロニッケル製造工程(S10))において、金属水酸化物206と、酸化鉱石218と、石炭210とを混合して、ロータリーキルンなどで還元(カ焼)する。次に、還元された混合物を電気炉に装入し、溶融することによって、フェロニッケル212を得る。
【0050】
以下、各工程について詳細を説明する。
【0051】
工程a:分級工程
ニッケル、コバルト、マグネシウムおよび鉄を含有する、たとえば、産地が異なる鉱山から入手したNo1、No2の2種類の酸化鉱石102を、例えば振動振るいのような簡単な装置で、オーバーサイズとアンダーサイズとに分級し、アンダーサイズは用水107を用いてスラリー鉱石104とし、オーバーサイズは、例えばボールミルなどのような装置により粉砕品103とする。振動ふるいなどによる分級のサイズは、特にこだわらないが、工程安定性向上の観点から、たとえば、0.5mm以上2mm以下の振るい目などを用いることができる。
【0052】
また、この酸化鉱石を0.5mm以上2mm以下程度のふるいで分級すると、アンダーサイズでは鉄含有量が高くなり、マグネシウム含有量が低くなる傾向を示し、反対にオーバーサイズでは鉄含有量が低くなり、マグネシウム含有量が高くなる傾向を示す。
【0053】
用水107としては、通常用いられる、河川水、地下水の使用はもちろんのこと、海水を使用することができる。また、海水を淡水化する装置により得られた高濃度の海水を使用することもできる。海水中の塩化ナトリウムの濃度は3.5重量%程度であり、上記の濃縮された高濃度海水中の塩化ナトリウムの濃度は、たとえば、4重量%以上5.3重量%以下であり、また、5重量%以上5.3重量%以下とすることができる。ここで、本実施形態に係る方法を採用するにあたり、コストなどの経済性を考慮すると、鉱山元で実施する場合があり得る。ここで、鉱山がある地域の地域性を考慮すると、必ずしも河川水、地下水等の用水を十分確保することが容易ではない場合もあり得るからである。また、用水107として海水を使用することにより、海水中に含まれるナトリウム塩を用いて、後工程である浸出工程および反応工程において、酸化鉱石から浸出された鉄の、浸出液中や反応液中における残存量を制御することができるという効果を得ることができる。また、淡水化装置を用いた場合には、得られた淡水を飲料水等の生活用水やニッケルおよびコバルトの製造プロセスに用いる工業用水等に用いることができるという効果を得ることができる。
【0054】
工程b:浸出工程
工程aで得られたスラリー鉱石104は、たとえば、常圧のもと、90℃以上100℃以下の温度で、硫酸105を加えて浸出されることにより、ニッケル、コバルト、マグネシウムおよび鉄を含む硫酸浸出液108と浸出残渣109が得られる。
【0055】
浸出温度を90℃以上とすることにより、スラリー鉱石104中のニッケルおよびコバルトの浸出速度を向上させることができる。これにより、スラリー鉱石104中に含まれるニッケルおよびコバルトの浸出時間を短縮することができる。あわせて、ニッケルおよびコバルトの浸出率を上昇させることができる。また、100℃以下の温度でスラリー鉱石104に含まれるニッケルおよびコバルトを浸出することにより、水の沸点以下の温度でニッケルおよびコバルトの浸出を行うことができる。そのため、ニッケルおよびコバルトの浸出に用いる装置の浸出容器を加圧しなくてよい。したがって、設備コストの上昇を抑制することができる。
【0056】
なお、浸出温度は90℃以上としたが、たとえば70℃以上の範囲で適宜温度を選択してもよい。また、100℃超過のもとでスラリー鉱石104中のニッケルおよびコバルトを浸出させてもよい。また、常圧以外の圧力条件のもとで、スラリー鉱石104中のニッケルおよびコバルトを浸出させてもよい。
【0057】
硫酸添加量は、酸化鉱石102の使用量に対して、0.5倍重量以上0.8倍重量以下(50重量%以上80重量%以下)とすることができる。硫酸を0.5倍重量(50重量%)以上添加することにより、ニッケルおよびコバルトの浸出を十分に行うことができる。また、硫酸の添加量が0.8倍重量(80重量%)付近において、ニッケルおよびコバルトの浸出率が平衡状態となる。このため、硫酸の添加量を0.8倍重量(80重量%)以下とすることにより、過剰な硫酸(フリー硫酸)の発生量を抑制することができる。したがって、酸化鉱石からのニッケルおよびコバルトの浸出率を維持しつつ、ニッケルおよびコバルトの回収コストの上昇を抑制することができる。
【0058】
また、工程bにおいて、分級工程において分級したアンダーサイズの鉱石を使用する理由は以下のとおりである。すなわち、アンダーサイズの鉱石は、オーバーサイズ鉱石の粉砕品103に比べて、酸化鉱石中のニッケルおよびコバルトが浸出されにくい。また、オーバーサイズ鉱石の粉砕品103は、アンダーサイズの鉱石と比較して、マグネシウムの含有率が高いため、浸出に用いるフリー硫酸を消費してしまう可能性がある。そのため、まず過剰な硫酸を用いることにより、酸化鉱石中のニッケルおよびコバルトを、より多く浸出させることによって、ニッケルおよびコバルトの回収率の向上を図るためである。
【0059】
工程aで、用水107に河川水、地下水を使用する場合は、工程bにおいて、たとえば、硫酸ナトリウムや塩化ナトリウムなどのようなナトリウム塩106を加える。これにより、ナトリウム塩106によるナトリウムの添加量は、酸化鉱石102の使用量に対して、0.01倍重量以上0.05倍重量以下(1重量%以上5重量%以下)程度とすることができる。一方、用水107に海水を使用する場合は、海水中にナトリウムが10g/l程度含有されているため、ナトリウム塩を改めて加えなくてもよい。そのため、酸化鉱石からのニッケルおよびコバルトの浸出率を維持しつつ、ニッケルおよびコバルトの回収コストの上昇をさらに抑制することができる。
【0060】
ここで、ナトリウム添加量が、0.01倍重量(1重量%)以上であることにより、酸化鉱石から浸出された鉄が、硫酸浸出液108中の硫酸ナトリウムと反応することにより、硫酸浸出液108中の鉄の濃度を減少させることができる。
【0061】
ナトリウムにより、硫酸浸出液中の鉄の濃度が制御される理由は、下記化学反応式(1)〜(3)によるものと考えられる。
【0062】
FeO(OH)・(酸化鉱石)+3/2HSO = 1/2Fe(SO・(液)+2HO (1)
【0063】
Fe(SO・(液)+1/3NaSO+4HO=2/3NaFe(SO(OH)・(固体)+2HSO (2)
【0064】
Fe(SO・(液)+2/3NaCl+4HO=2/3NaFe(SO(OH)・(固体)+2/3HCl+5/3HSO (3)
【0065】
すなわち、酸化鉱石中の鉄は過剰な硫酸により浸出されるが、硫酸浸出液中のナトリウムと化合することによりナトロジャロサイトが生成され、浸出された鉄の一部が沈殿する。そのため、酸化鉱石から浸出された鉄が浸出液中に含まれることによって、次工程である反応工程に持ち込まれる量が低減される。ゆえに、反応工程において、ナトロジャロサイトとして十分に沈殿除去させることができる。したがって、反応工程の次工程である中和工程において、中和液中の鉄を沈殿させるコストの上昇を抑制することができる。この結果、酸化鉱石からニッケルおよびコバルトを回収するコストの上昇を抑制することができる。
【0066】
また、ナトリウム添加量が、0.05倍重量(5重量%)付近において、ナトロジャロサイトの生成率および沈殿率が平衡状態となる。このため、ナトリウムの添加量を0.05倍重量以下とすることにより、過剰なナトリウムの添加を抑制することができ、酸化鉱石から、ニッケルおよびコバルトを回収するコストの上昇を抑制することができる。
【0067】
浸出時間は、たとえば、1時間以上10時間以下とすることができ、好ましくは、3時間以上6時間以下とすることができる。ここで、浸出工程に必要な設備は、たとえば、一般的に使用されているような攪拌機付の容器などで十分であり、その材質も、たとえば、ステンレスあるいは鋼材にゴムライニングしたものなどが用いられる。そのため、高温高圧による加圧浸出で使用する、たとえば、チタンライニングのオートクレーブのような高価な設備を用いることなく、酸化鉱石102からニッケルおよびコバルトを浸出させることができる。したがって、ニッケルおよびコバルトの回収に要するコストの上昇を抑制することができる。
【0068】
工程c:反応工程
工程bで得られた硫酸浸出液108および浸出残渣109と、工程aで得られたオーバーサイズ鉱石の粉砕品103とを、たとえば、大気圧のもとで、90℃以上100℃以下の温度で、後述する式(4)〜(7)に基づいて反応させる。後述する反応式に基づき、ニッケル、コバルト、マグネシウムおよび少量の鉄を含む反応液110と反応残渣111とが得られる。
【0069】
粉砕品103の添加方法は、そのまま固体で加えてもよいし、用水を用いてスラリーとして加えてもよい。本工程の用水は、河川水、地下水または海水のいずれを使用してもよい。また、これらの用水に硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムのようなナトリウム塩106を加えて使用しても良い。また、淡水化装置により得られた高濃度海水を使用してもよい。高濃度海水中の塩化ナトリウムの濃度は、たとえば、4重量%以上5.3重量%以下であり、また、5重量%以上5.3重量%以下とすることができる。
【0070】
ここで、反応温度が90℃以上であることにより、粉砕品103に含有されるニッケルおよびコバルトの浸出率を向上させることができる。また、工程bで浸出させた鉄をナトロジャロサイトとして沈殿除去する効率を向上させることができる。また、100℃以下の温度で反応させることにより、水の沸点以下の温度で、後述する化学式に基づく反応をさせることができる。このため、上記反応に用いる装置の反応容器を加圧しなくてもよい。したがって、設備コストの上昇を抑制することができる。
【0071】
ここで、反応温度が90℃未満または100℃超過のもとで後述する化学式に基づく反応をさせてもよい。また、大気圧以外の圧力条件のもとで、後述する化学式に基づく反応をさせてもよい。
【0072】
本実施形態においては、工程bにおける硫酸浸出液108の鉄濃度は30g/l〜90g/lであり、フリー硫酸は30g/l以上含有されているが、フリー硫酸と粉砕品103に含まれるマグネシウムとが反応することにより、反応前の硫酸浸出液108と比較して、鉄濃度は1/10以下、フリー硫酸も1/3以下に低下する。
【0073】
この理由は、以下の化学反応式(4)〜(7)によるものと考えられる。
【0074】
SO(フリー硫酸)+MgO(酸化鉱石)=MgSO(液)+HO (4)
【0075】
Fe(SO・(液)+1/3NaSO+4HO=2/3NaFe(SO(OH)・(固体)+2HSO (5)
【0076】
Fe(SO・(液)+2/3NaCl+4HO=2/3NaFe(SO(OH)・(固体)+2/3HCl+5/3HSO (6)
【0077】
Fe(SO・(液)+4HO = 2FeO(OH)・(固体)+3HSO (7)
【0078】
すなわち、式(4)によって、硫酸浸出液108中のフリー硫酸と粉砕品103に含まれるマグネシウムとが反応し、フリー硫酸の量が減少することによって、液中のpHが上昇する。このため、液中のpHの上昇にともない、式(5)〜(7)により、ナトロジャロサイトとゲーサイトが生成し、鉄が沈殿する。
【0079】
酸化鉱石102に鉄とマグネシウムが含まれていることにより、より効率良く上記反応を起こさせることができる。たとえば、マグネシウム/鉄の成分比が0.125以上においては、酸化鉱石102に含有される鉄の量が比較的少ないため、式(1)により、浸出工程において酸化鉱石から浸出される鉄の量が比較的少なくなる。そのため、反応液中の鉄濃度も低くさせることができる。また、酸化鉱石102に含有されるマグネシウムの量が比較的多いため、硫酸浸出液108から反応工程に持ち込まれるフリー硫酸と反応するマグネシウムの量が比較的多くなる。このため、式(4)の反応により、マグネシウムを用いて、硫酸浸出液108中のフリー硫酸を十分に消費することができる。
【0080】
上述したように、酸化鉱石102中に鉄とマグネシウムが含有されることにより、式(5)〜(7)による鉄の沈殿を十分に行うことができ、反応液110中に残存する鉄の濃度を減少させることができる。このため、反応液110中に残存し、中和工程に持ち込まれる鉄の量が減少する。したがって、中和工程において、鉄を沈殿させるために要するコストの上昇を抑制することができる。この結果、ニッケルおよびコバルトの回収に要するコストの上昇を抑制することができる。
【0081】
なお、マグネシウム/鉄の成分比には上限はなく、たとえば、0.75以上であっても問題ない。なお、本実施形態において使用する酸化鉱石102は、鉄を20重量%以上50重量%以下、マグネシウムを2.5重量%以上15重量%以下含有するリモナイト鉱石であることから、マグネシウム/鉄の成分比は0.75以上とはならない。
【0082】
また、工程cでオーバーサイズの粉砕品103を使用する理由は、オーバーサイズの粉砕品103は、アンダーサイズよりもマグネシウムの含有量が高いため、式(4)〜(7)の反応が、より効果的に進むからである。反応時間は、たとえば、3時間以上10時間以下とすることができ、好ましくは、4時間以上6時間以下とすることができ、分級前の酸化鉱石を用いた場合よりも短い時間で式(4)〜(7)の反応を終了させることができる。ここで、オーバーサイズの粉砕品103には、ニッケルおよびコバルトが含有されているので、フリー硫酸をマグネシウムと反応させてpHを調整しつつ、粉砕品103中のニッケルおよびコバルトを浸出することによって、ニッケルおよびコバルトの回収率の更なる向上を図ることができる。したがって、ニッケルおよびコバルトの回収に要するコストの上昇を抑制しつつ、ニッケルおよびコバルトの回収率の更なる向上を図ることができる。なお、マグネシウムを用いたフリー硫酸の消費は、後述する工程dでも行われるが、工程cで行うことも有意義である。
【0083】
ここで、反応工程に必要な設備は、たとえば、一般的に使用されているような攪拌機付の容器などで十分であり、その材質も、たとえば、ステンレスあるいは鋼材にゴムライニングしたものなどで十分である。そのため、高温高圧による反応で使用する、たとえば、チタンライニングのオートクレーブのような高価な設備を用いることなく、本工程の反応をさせることができる。したがって、ニッケルおよびコバルトの回収に要するコストの上昇を抑制することができる。
【0084】
さらに、本工程で、オーバーサイズの粉砕品103と同時に、中和工程で使用するフェロニッケルスラグのうち、比較的ニッケル含有率の高いものを同時に使用してもよい。この場合、反応時の最終pHは3未満となる範囲で用いることができる。pHが3未満であることにより、液中にフリー硫酸が存在することによって、酸化鉱石からのニッケルの浸出効率低下を抑制することができるからである。
【0085】
工程d:第一中和工程(予備中和工程)
低Ni高Mg酸化鉱石として乾式製錬に使用することが難しい低Ni品位サプロライト鉱石である酸化鉱石300(表1)を使用して予備中和する。本実施形態においては、酸化鉱石300の使用に際し、全量を粉砕した。粉砕の際の径は2mm以下であることが望ましい。
【0086】
酸化鉱石300の添加は、そのまま固体で加えてもよいし、用水を用いてスラリーとして加えてもよい。用水は、河川水、地下水または海水のいずれでもよい。また、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムのようなナトリウム塩を加えてもよい。また、淡水化装置により得られた高濃度の海水を使用してもよい。高濃度海水中の塩化ナトリウムの濃度は、たとえば、4重量%以上5.3重量%以下であり、また、5重量%以上5.3重量%以下とすることができる。
【0087】
たとえば、大気圧(常圧)のもとで、90℃以上100℃以下の温度で、後述する式(4)、(8)〜(10)に基づいて反応させる。後述する反応式に基づき、ニッケル、コバルト、マグネシウムおよび少量の鉄を含む第一中和液302と第一中和残渣304とが得られる。
【0088】
ここで、中和温度が90℃以上であることにより、酸化鉱石300に含まれるマグネシウムと反応液中のフリー硫酸との反応速度を早めることができる。また、有効に中和反応を発生させることができる。また、100℃以下の温度で中和させることにより、水の沸点以下の温度で、後述する化学式に基づく中和反応をさせることができる。このため、上記中和反応に用いる装置の反応容器を加圧しなくてもよい。したがって、設備コストの上昇を抑制することができる。
【0089】
ここで、浸出温度が90℃未満または100℃超過のもとで後述する化学式に基づく反応をさせてもよい。また、大気圧以外の圧力条件のもとで、後述する化学式に基づく反応をさせてもよい。
【0090】
第一中和工程における中和反応時間は、たとえば、1時間以上8時間以下とすることができ、好ましくは、2時間以上4時間以下とすることができる。こうすることにより、中和反応が平衡状態となる。
【0091】
第一中和工程ではpH調整は実施しなくてもよい。本工程は、低Ni品位サプロライト鉱石中のマグネシウムと液中のフリー硫酸との反応であり、ニッケルが共沈する範囲のpHまでは上昇しないからである。
【0092】
本工程の反応は以下の反応式(4)、(8)〜(10)による。
【0093】
SO(フリー硫酸)+MgO(酸化鉱石)=MgSO(液)+HO (4)
【0094】
2HSO(フリー硫酸)+NiO(酸化鉱石)+MgO(酸化鉱石)= NiSO(液)+MgSO(液)+2HO (8)
【0095】
Fe(SO(液)+3MgO(酸化鉱石)+HO=2FeO(OH)(固体)+3MgSO(固体) (9)
【0096】
Fe(SO(液)+2/3NaCl+7/3MgO(酸化鉱石)+2HO=2/3NaFe(SO(OH)(固体)+2/3MgCl(液)+5/3MgSO(液)+1/6O (10)
【0097】
反応式(4)、(8)に示すように、反応工程においてまだ多く存在するフリー硫酸と酸化鉱石300中のMgOおよびNiOとが反応し、フリー硫酸を消費すると同時にNiO中のニッケルが硫酸Niとして回収される。この場合、反応物としてMgSO、NiSOはともに液体であり、固形物を生成しない。
【0098】
反応式(4)の中和反応は酸化鉱石300を構成する複合酸化物が有する結晶構造によって、反応が穏やかに進行するため、徐々にフリー硫酸が消費される。酸化鉱石300を構成する複合酸化物としては、たとえば、MgO・SiOとFeO(OH)の複合酸化物、MgO・SiOとFeの複合酸化物などが挙げられる。それに伴って反応式(9)、(10)によって、液中のFeがゲーサイトFeO(OH)あるいはナトロジャロサイトNaFe(SO(OH)として沈殿し、中和残渣物として除去され、後工程である固液分離工程(工程f)におけるシックナー等での第二中和液113と第二中和残渣114との分離性が改善される。その理由としては、反応が穏やかに進行した中和残渣物は結晶性がよく、粒子径が大きいと推察されるからである。なお、反応式(4)の中和反応は、工程cでも行うが、本工程でも行うことによって、第二中和液113と第二中和残渣114との分離性が、より向上する。
【0099】
また、上記の穏やかな反応条件のもとでは、固液分離性の向上を妨げるFe(OH)のような微細粒子またはゲル状物質の生成が抑制される。
【0100】
以上のように、本工程では、酸化鉱石300(低Ni品位サプロライト鉱石)中のマグネシウムを中和剤として利用することにより、反応液110中のニッケルとコバルトとを共沈させることなく、反応液中のフリー硫酸と鉄とを中和除去することができる。このようにして得られた第一中和液302中のpHは、たとえば、1以上4以下の範囲となり、好ましくは1.5以上2.5以下の範囲となる。また、鉄濃度は5g/l以下となる。第一中和液302のpHを1以上4以下の範囲とすることによって、より効率的に分離性に優れた残渣を生成することができ、pHを1.5以上2.5以下の範囲とすることによって、より一層効率的に分離性に優れた残渣を生成することができる。したがって、次工程の第二中和工程(工程e)による中和操業負荷が低減し、中和剤112の使用量を減少させることができる。また、ニッケルとコバルトとの共沈率を減少させることができる。
【0101】
さらに、酸化鉱石300中のニッケルを中和液中のpH範囲において、硫酸ニッケルとして回収することができる。
【0102】
工程e: 第二中和工程
工程dで得られた第一中和液302と第一中和残渣304と中和剤112とを使用して中和反応させることによって、たとえば、pHを2以上6以下とすることができ、好ましくは、pHを2.5以上5以下の範囲とすることができる。このことにより、鉄濃度が1g/l以下であるニッケル、コバルト、マグネシウムを含む第二中和液113と第二中和残渣114とが得られる。ここで、pHが2以上であることにより、鉄の沈殿を十分にすることができ、pHが6以下であることにより、ニッケルおよびコバルトの共沈を抑制しつつ、鉄のほとんどが沈殿除去される。したがって、ニッケルおよびコバルトの回収率を向上させることができる。
【0103】
ここで、本工程における圧力には特に制限はなく、たとえば、大気圧のもとで、第一中和液302と第一中和残渣304と中和剤112を使用して中和反応をさせてもよいし、大気圧以外の圧力条件のもとで中和反応をさせることもできる。
【0104】
中和剤112としては、一般的によく使用されている、アルカリ金属の水酸化物である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、アルカリ金属の炭酸化物である炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど、アルカリ土類金属の水酸化物である水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど、アルカリ土類金属の酸化物である酸化カルシウム、酸化マグネシウムなど、アルカリ土類金属の炭酸化物である炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。また、表1に示すフェロニッケルスラグを使用することもできる。また、上記した中和剤を、1種類で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0105】
フェロニッケルスラグとは、ニッケルが2重量%以上含有されているマグネシウムを含む鉱石を用いて、乾式製錬法によりフェロニッケルを製造する際に発生するマグネシウムを含むスラグのことをさす。乾式製錬法におけるフェロニッケルスラグの発生量は、ニッケル1に対して、30倍重量〜35倍重量程度になるが、有効利用されているのはその一部である。
【0106】
中和剤112として、たとえば、マグネシウムを含むフェロニッケルスラグを用いることにより、フェロニッケルスラグに含まれるマグネシウムを中和剤として有効利用することができつつ、第一中和液302と第一中和残渣304とを中和することができる。したがって、資源を有効活用するとともに、ニッケルおよびコバルトの回収コストの上昇を抑制することができる。
【0107】
また、中和剤112としては、第一中和液302と第一中和残渣304を中和させることができれば、フェロニッケルスラグ以外の、たとえば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを用いてもよい。
【0108】
前工程である第一中和工程において低Ni品位サプロライト鉱石を用いて反応液110を中和していることによって、第一中和液302中のフリー硫酸と鉄濃度が十分に少ない。そのため、中和剤112によって沈殿するゲル状や微粒子状の形態となる鉄沈殿物量を減少させることができる。また、中和剤としてカルシウムを使用した場合に発生する石膏の量を減少させることができる。したがって、中和工程の操業において、中和残渣スラリーの粘性が増大に起因する攪拌トラブルの発生を抑制することができ、操業効率を向上させることができる。
【0109】
工程f:固液分離工程
工程eで得られた第二中和液113と第二中和残渣114は、凝集剤115が添加されることにより分離される。凝集剤115としては、たとえば、高分子凝集剤などが用いられる。
【0110】
この固液分離には、一般的に行われているシックナー方式が採用され、6段以上のシックナーによる向流洗浄方式を用いることができる。これにより、中和液中のニッケルおよびコバルトが、99重量%以上の高歩留まりで、かつ、鉄濃度が1g/l以下と鉄含有量の少ない、ニッケル、コバルト、マグネシウムを含む第二中和液113と第二中和残渣114とに容易に、効率よく固液分離される。
【0111】
凝集剤115は、高分子凝集剤以外であっても、第二中和液113と第二中和残渣114とに分離させることができる凝集剤であればよい。
【0112】
また、6段以上のシックナーによる向流洗浄方式以外の、他の固液分離装置を用いて、第二中和液113と第二中和残渣114とに固液分離してもよい。
【0113】
第一中和工程と第二中和工程において生成された中和残渣物の結晶性がよく、また、粒子径が大きいため固液分離が良好であるため、シックナー下部から排出される中和残渣のスラリー濃度が向上する。そのため、少ない洗浄水の量で、ニッケルおよびコバルトの高い歩留まりを実現することができる。また、シックナーのような固液分離設備の規模を小さくすることができ、設備投資の額を減少させることができる。さらに、中和残渣をスラリーのままテーリングポンドなどに堆積させる場合、中和残渣スラリーが高濃度となっているため、同じ重量の中和残渣スラリーを堆積する際に必要となるテーリングポンドの容積を減少させることができる。また、同じ容積の場合はその寿命を長くすることができる。そのため、設備投資の額を減少させることができる。
【0114】
また、中和残渣スラリーをフィルタープレスのようなろ過装置を用いて中和残渣物と液体とに分離する場合、固体中に含まれる含水率を少なくすることができる。そのため、中和残渣物のハンドリングが容易となり、たとえば鉱山の堀跡に埋め戻す場合、ショベルやトラック等による運搬が容易となり、作業性を向上させることができる。
【0115】
工程g:溶媒抽出工程
図3は、第二中和液113から、モノチオホスフィン酸基を含む有機溶媒134を用いて硫酸ニッケル溶液130と硫酸コバルト溶液132とに分離する溶媒抽出工程を説明するためのフロー図である。本実施形態においては、五段の抽出工程と、二段の逆抽出工程と、一段の洗浄工程とからなる溶媒抽出工程について説明する。ここで、モノチオホスフィン酸基を含む有機溶媒134の化学式を一般式(17)に示す。
【0116】
PSOH・・・(17)
【0117】
式(17)中、R、Rは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。また、炭化水素基は、より好ましくは炭素数3以上25以下であり、さらにより好ましくは炭素数5以上15以下である。また、炭化水素基は極性を有しなくてもよい。また、RとRは同じ炭化水素基であってもよいし、異なる炭化水素基であってもよい。置換基としては、たとえば、ハロゲン基、オキシ基、カルボニル基、アミド結合基などが挙げられる。R、Rの炭化水素基としては、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよく直鎖または側鎖を有するアラルキル基、直鎖または側鎖を有するアルキル基、および直鎖または側鎖を有するアルケニル基を用いることができる。
【0118】
ここで、有機溶媒134として用いられ得るのは、具体的には、ジ−(2,4,4−トリメチルペンチル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(2−エチルヘキシル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(n−オクチル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(2−メチル−5−ヘキセニル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(p−メチルシクロヘキシル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(シクロヘキシル)−モノチオホスフィン酸、ジフェニルモノチオホスフィン酸、ジ−(p−エチルフェニル)−モノチオホスフィン酸、ジ−(p−メチルフェニル)−モノチオホスフィン酸などである。
【0119】
本実施形態においては、ジ−(2,4,4−トリメチルペンチル)−モノチオホスフィン酸を主成分として有するCyanex(商標)302(サイアナミド社製)を有機溶媒134として用いた。Cyanex(商標)302(サイアナミド社製)の主成分を構成するジ−(2,4,4−トリメチルペンチル)−モノチオホスフィン酸の化学式を以下の式(15)、(16)に示す。
【0120】
RRPSOH・・・(15)
【0121】
R=CHC(CHCHCH(CH)CH− ・・・(16)
【0122】
本工程により、抽出5段に供給された第二中和液113のコバルト成分は、抽出溶媒であるCyanex(商標)302(サイアナミド社製)などの有機溶媒134がコバルト成分を抽出するために、移行するにつれてコバルト含有率が低くなり、抽出1段を通過した液はコバルトをほとんど含まない硫酸ニッケル溶液130となる。ここで、硫酸ニッケル溶液130には、第二中和液113中のマグネシウム成分なども含まれる。
【0123】
一方、抽出溶媒であるCyanex(商標)302(サイアナミド社製)などの有機溶媒134は抽出1段から5段において、第二中和液113からコバルトを抽出する。そのため、有機溶媒134が抽出各段を移行するにつれて有機溶媒134中のコバルト含有率が高くなる。次に、コバルト含有率が高い有機溶媒134が逆抽出1段、2段において、逆抽出2段に供給される硫酸と混合されることにより、硫酸中にコバルトが逆抽出され、逆抽出2段を通過した有機溶媒134はコバルトをほとんど含まない有機溶媒134となる。また、逆抽出1段を通過した硫酸にはコバルトが逆抽出されているので、マグネシウム成分などをほとんど含まない硫酸コバルト溶液132となる。
【0124】
本工程において、Cyanex(商標)302(サイアナミド社製)などのモノチオホスフィン酸基を有する有機溶媒134を用いることにより、効率よく、ニッケルとコバルトとを分離し、回収することができる。
【0125】
工程h:固形化工程
硫酸ニッケル溶液130および硫酸コバルト溶液132に、それぞれアルカリ化合物136を混合させることにより、ニッケル水酸化物138およびコバルト水酸化物140を得る。アルカリ化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0126】
工程i:硫黄・塩素除去工程
図2に示すように、工程hにおいて得られたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物202を用水205によりスラリー状とし、水酸化ナトリウム203と混合させて攪拌する(混合・攪拌工程(S91))。ここで、水酸化ナトリウム203の他に、炭酸ナトリウム、または水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物と混合させて攪拌してもよい。
【0127】
こうすることにより、金属水酸化物202に含まれる硫酸根および塩素根が除去され、金属水酸化物202に含まれる硫黄および塩素の含有率を低減することができる。
【0128】
水酸化ナトリウム203の使用量は、金属水酸化物202の乾重量に対し、0.05倍重量以上1倍重量以下であることが望ましく、0.1倍重量以上0.5倍重量以下であることが、より望ましい。つまり、水酸化ナトリウム203の使用量は、金属水酸化物202の乾重量の5重量%以上100重量%以下であることが望ましく、10重量%以上50重量%以下であることが、より望ましい。
【0129】
好ましくは0.05倍重量以上、より好ましくは0.1倍重量以上とすることにより、金属水酸化物202に含まれている硫黄、塩素の除去効果を向上させることができる。また、好ましくは1倍重量以下、より好ましくは0.5倍重量以下であることにより、硫黄、塩素の除去効果を維持しつつ、水酸化ナトリウム203の使用量を大きく増加させることなく、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0130】
混合・攪拌の温度としては、20℃以上100℃以下が望ましく、50℃以上100℃以下が、より望ましい。
【0131】
20℃以上、好ましくは50℃以上の温度で混合攪拌することにより、水酸化ナトリウム203の使用量を少なく抑えることができるうえ、たとえば、30分程度などの短い時間の混合攪拌で、金属水酸化物202からの硫黄、塩素の除去を効率よく実施することができる。100℃以下の温度で混合攪拌することにより、圧力容器を用いることなく硫黄、塩素を除去することが可能となり、設備に要するコストの上昇を抑制することができる。また、操業を安定的に行うことができる。
【0132】
このようにして得られたスラリー204をフィルタープレス等により濾過した後、河川水等の硫酸根や塩酸根を含まない用水で水洗することによって、ニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物206とナトリウムを含む溶液208とを得ることができる(濾過・水洗工程(S92))。
【0133】
水酸化ナトリウム溶液によるスラリー化により、水酸化ニッケルの結晶性が向上し、再結晶化が進む。また、結晶構造もNi(OH)・0.75HO→Ni(OH)に変化する。この結晶構造の変化は、水酸化ニッケルのニッケル含有率の上昇につながり、同じ重量の水和物を含まない水酸化ニッケルのニッケル含有率は、水和物を含む水酸化ニッケルのニッケル含有率と比較して増加する。
【0134】
用水205と水酸化ナトリウム203と金属水酸化物202とを混合させることによって、スラリーとして混合攪拌することによって、硫黄と塩素の除去だけでなく、金属水酸化物206のニッケル含有率の向上が可能となる。また、金属水酸化物206のコバルト含有率の向上も可能となる。
【0135】
工程j:フェロニッケル製造工程
図2に示すように、本工程においては、鉄とニッケルとを含有する酸化鉱石218、および金属水酸化物206、副原料として石炭210を使用する。また、キルンと電気炉などを用いて、ニッケルのほぼ全量と鉄の一部を還元することによる乾式製錬法によって、フェロニッケルを製造する。
【0136】
ここで、金属水酸化物206は、40重量%以上50重量%以下程度の付着水を含有しており、本実施形態においては、酸化鉱石218と混合されてキルンへ装入され、還元(カ焼)される。
【0137】
金属水酸化物206中に含まれる硫黄と塩素は、キルン内の最高温度が600℃〜1200℃の範囲では、ロータリーキルン内でほぼ全量が分解され、排ガス216中のSOガスとClガスとして放出される。そのため、上述の方法によって、あらかじめ硫黄と塩素とを除去したニッケルを含む金属水酸化物206を使用することにより、排ガス216中のSOとClガスの濃度を増大させることなく操業することができる。したがって排ガス処理設備を新たに設置する必要がなく、設備に投資する費用を低減することができる。
【0138】
次に、還元鉱を電気炉に装入することによって溶融し、還元鉱中に含まれるニッケルのほぼ全量と鉄の一部を還元する。こうすることによって、電気炉から精製されたフェロニッケル212を取り出すことができる。また、電気炉からはスラグ214および排ガス216が排出される。
【0139】
電気炉から取り出されたフェロニッケル212はステンレス鋼の原料として用いられる。また、スラグは、マグネシウムを多く含むため、工程dにおける中和剤として用いることもできる。
【0140】
以上述べたプロセスにより、ニッケル、コバルトおよび鉄を含む酸化鉱石からニッケルおよびコバルトが効率良く回収される。
【0141】
以下、本実施形態の効果について説明する。
【0142】
ニッケルまたはコバルトの回収方法において、ニッケル品位が低くマグネシウム品位が高い低Ni高Mg酸化鉱石を有効使用することにより、低Ni高Mg酸化鉱石中のニッケルを回収しつつ、反応工程においてまだ多く存在するフリー硫酸を低Ni高Mg酸化鉱石のマグネシウムと第一中和反応を行い、フリー硫酸を消費することにより中和液のpHを上げ、Feを沈殿除去しFeを少量しか含まない液を得ることにより、Feを除去するための処理コストを低減すると同時に、これまで以上にニッケルの生産性を高めることである。
【0143】
第一中和反応は酸化鉱石中のマグネシウムとフリー硫酸との中和反応であるためMgSO液となり、カルシウムとフリー硫酸とによる中和反応のようにCaSOの固形物を生成せず、さらにFeの沈殿除去において沈殿反応が緩やかであり、結晶性が良好で粒子径が大きいFe沈殿物が得られる。そのため、次工程の固液分離工程において固液分離性が改善され、操業性(ハンドリング性)を向上させることができる。
【0144】
第一中和反応において、反応式(4)、(8)のように、反応工程においてまだ多く存在するフリー硫酸と酸化鉱石中のMgO(酸化マグネシウム)およびNiO(酸化ニッケル)とが反応し、フリー硫酸を消費すると同時にニッケルも硫酸ニッケルとして回収される。この場合、反応物としてMgSO、NiSOはともに液体であり、固形物を生成しない。また、反応式(4)の中和反応は複合酸化物からなる酸化鉱石の結晶構造により反応が穏やかに進行するため徐々にフリー硫酸が消費され、それに伴って反応式(9)、(10)によって、液中のFeがゲーサイトFeO(OH)あるいはナトロジャロサイトNaFe(SO(OH)として沈殿し、中和残渣物として除去される。反応が穏やかに進行した中和残渣物は結晶性がよく、粒子径が大きいため、第二中和工程の後の固液分離工程において、例えばシックナーを用いた場合、固液分離性が向上するばかりか、下部に沈降する残渣のスラリー濃度を高くすることができ、シックナー容量を小さくできると同時に、操業性(ハンドリング性)を向上させることができる。
【0145】
また、中和残渣のスラリー濃度が高くなるとそこから持ち去る液に含まれるニッケル量も少なくなり、少ない洗浄水でニッケルの回収率を向上することができる。
【0146】
また、従来、ニッケル成分が2重量%以下のサプロライト鉱石層は採掘せずに鉱床に残されたり、最初から鉱山開発の対象外とする場合もあり、有効に利用されていないことが多かった。本実施形態においては、これまで利用されないことが多かった低品位Niサプロライト鉱石を湿式製錬プロセスにおける液の中和に使用することによって、ニッケル酸化鉱石の鉱床の全てのニッケル酸化鉱石を使用可能とすることができる。
【0147】
以上、発明の好適な実施の形態を説明した。しかし、本発明は上述の実施の形態に限定されず、当業者が本発明の範囲内で上述の実施形態を変形可能なことはもちろんである。
【0148】
たとえば、本実施形態においては、ニッケル、コバルトおよび鉄を含む酸化鉱石102を分級する工程aを設ける形態について説明したが、この工程を省略してもよい。
【0149】
また、本実施形態においては、第一中和工程(工程d)を、反応工程(工程c)と第二中和工程(工程e)との間に設けたが、浸出工程(工程b)と反応工程(工程c)との間に設けてもよい。
【0150】
また、本実施形態においては、工程aにより分級したオーバーサイズのマグネシウムを含む酸化鉱石を用いて、工程cによりpH調整を行う形態について説明したが、たとえば、ニッケルの含有率が1重量%以下、マグネシウムの含有率が15重量%以上であって、通常はニッケルおよびコバルトの回収に用いられない、比較的ニッケル品位が低く、マグネシウム品位が高い酸化鉱石などを用いてもよい。なお、こういった酸化鉱石は、たとえば、ニッケルおよびコバルト鉱山の深い層などに存在することが多く、鉄の含有率が比較的低いという特徴を有する。したがって、上記酸化鉱石を工程cに用いることにより、ニッケルおよびコバルトを硫酸液中に浸出させつつ、マグネシウムでpH調整を行い、鉄の浸出量が増大するのを抑制することができる。この結果、ニッケルおよびコバルトの回収率の減少を抑制しつつ、ニッケルおよびコバルトの回収コストの低減を図ることができる。また、酸化鉱石以外であってもマグネシウムを含むものを用いてもよい。
【0151】
また、上記実施形態においては、ニッケル、コバルトおよび鉄を含む酸化鉱石102からニッケルおよびコバルトを回収する形態について説明したが、ニッケルと鉄とを含む酸化鉱石からニッケルを回収してもよいし、コバルトと鉄とを含む酸化鉱石からコバルトを回収してもよい。
【0152】
また、工程cによりpH調整を行う際に、工程aにより分級したオーバーサイズのマグネシウムを含む酸化鉱石とともに、上記ニッケル品位が低く、マグネシウム品位が高い酸化鉱石を用いてもよい。
【0153】
また、工程cによりpH調整を行う際に、工程aにより分級したオーバーサイズのマグネシウムを含む酸化鉱石とともに、酸化鉱石以外のマグネシウムを含むものを用いてもよい。
【0154】
また、工程cによりpH調整を行う際に、上記ニッケル品位が低く、マグネシウム品位が高い酸化鉱石を用いるとともに、酸化鉱石以外のマグネシウムを含むものを用いてもよい。
【0155】
また、工程cによりpH調整を行う際に、工程aにより分級したオーバーサイズのマグネシウムを含む酸化鉱石と、上記ニッケル品位が低く、マグネシウム品位が高い酸化鉱石と、酸化鉱石以外のマグネシウムを含むものを合わせて用いてもよい。
【0156】
また、ナトリウムを含む溶液208を工程b(浸出工程)に再使用し、酸化鉱石102と硫酸105と溶液208とを用いて酸化鉱石102からニッケルおよびコバルトを浸出してもよい。こうすることにより、浸出工程における酸化鉱石102からの鉄の浸出率が、より制御され、硫酸浸出液108中の鉄濃度の減少と、ニッケルおよびコバルトの浸出率を、より向上させることが可能となる。
【0157】
また、工程bまたは工程cにおいて、鉄や亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を用いることによって、ニッケルおよびコバルトの浸出率をさらに向上させてもよい。
【0158】
ここで、還元剤としては、たとえば、鉄粉、亜硫酸ナトリウム、あるいはこれらを混合したものなどが用いられる。鉄粉を用いる場合は、酸化鉱石102の使用量に対して0.1重量%以上1重量%以下、特に0.2重量%以上0.5重量%以下の範囲で添加することができる。ここで、鉄粉の粒径としては、直径1mm程度のものを用いることができ、また、表面が酸化していないものを用いることができる。また、亜硫酸ナトリウムを使用する場合は、酸化鉱石102の使用量に対して1重量%以上10重量%以下、特に5重量%以上8重量%以下の範囲とすることができる。
【0159】
還元剤を上記範囲で添加することにより、還元剤の効果を十分に発揮することが可能となり、他工程における鉄濃度の制御などとの相乗効果により、ニッケルおよびコバルトの浸出率、特にコバルトの浸出率を効率的にさらに向上させることができる。したがって、鉄を除去するコストの低減を図りつつ、ニッケルおよびコバルトの回収率の更なる向上を図ることができる。
【0160】
還元剤を加えることにより、ニッケルおよびコバルトの浸出率、特にコバルトの浸出率の向上に効果がある理由は、以下のように考えられる。
【0161】
すなわち、酸化鉱石102中のコバルトは2価の酸化物(CoO)と3価の酸化物(Co)の形態で存在し、その存在比率は鉱石の産地によって異なっていると推定される。このようなコバルトと酸素との結合状態は、CoのほうがCoOより強く安定であり、硫酸105によって、スラリー鉱石104に含有される3価のコバルト酸化物におけるコバルトと酸素との結合を壊すことは容易ではない。そこで、硫酸105に加えて還元剤を添加することにより、3価のコバルト酸化物におけるコバルトと酸素の結合力を弱め、コバルトの価数が3価から2価に還元され、硫酸105によるコバルトの浸出が、より容易となったことによるものと推測される。
【実施例】
【0162】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。ここで、実験例A−1、実験例B−1は比較例であり、実験例A−2、実験例A−3、実験例B−2、実験例B−3は実施例である。
【0163】
表2〜表5に実験例A−1〜実験例A−3、実験例B−1〜実験例B−3の実験条件と実験結果を示す。
【0164】
【表2】

【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

【0167】
【表5】

【0168】
(実験例A−1)
本実験例においては、Ni:1.58重量%、Co:0.078重量%、Fe:24.5重量%、Mg:9.5重量%の成分を含有し、Mg/Fe比:0.39の酸化鉱石を使用した。この酸化鉱石を2mmのふるいで分級し、72.5重量%の−2mm酸化鉱石と27.5重量%の+2mm酸化鉱石を得た。+2mm酸化鉱石は、粉砕して全量を−2mmの鉱石とした。−2mmの酸化鉱石は海水を加えることにより、28重量%濃度のスラリー鉱石とし、98重量%濃度の硫酸を分級前の全酸化鉱石量に対して0.73倍重量(73重量%)加え、95℃の温度、大気圧のもとで6時間攪拌し浸出した。
【0169】
このようにして得られた硫酸浸出液および浸出残渣に、+2mm酸化鉱石の粉砕品に海水を加えることにより40重量%濃度のスラリー鉱石とした酸化鉱石を加え、95℃の温度、大気圧のもとで5時間攪拌し反応した。この常圧反応後の浸出率を調べたところ、Ni:89重量%、Co:60重量%、Fe:14.9重量%、Mg:71.6重量%であり、また、常圧反応のFe濃度:12.51g/l、Fe/Ni濃度比:2.49、フリー硫酸量:35g/lであり、ニッケルおよびコバルトの浸出率は良好であったが、鉄とフリー硫酸は常圧反応液中に多くの量が残存した。このようにして得られた反応液および反応残渣に90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持した。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0170】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.18倍重量(18重量%)を使用した。石灰石による中和後の中和残渣量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.3倍重量(130重量%)であった。
【0171】
次に、中和液および中和残渣に高分子凝集剤を加え、中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて中和液と中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー中和残渣濃度を調べたところ、29.5重量%濃度であった。さらに、この濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、中和残渣物の含水率は47.8重量%であった。
【0172】
次に、抽出溶媒である有機溶媒を用いて、中和液に含まれるニッケルとコバルトとを、硫酸ニッケル溶液と硫酸コバルト溶液とに分離した(溶媒抽出工程)。次に、硫酸ニッケル溶液および硫酸コバルト溶液に、水酸化マグネシウムを混合させることにより、ニッケル水酸化物およびコバルト水酸化物を得た(固形化工程)。次に、用水と、スラリー状にしたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と、水酸化ナトリウムとを、混合・攪拌し、濾過・水洗することで、硫黄または塩素が除去されたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と溶液とを得た(硫黄・塩素除去工程)。次に、金属水酸化物と、ニッケルを含むサプロライト鉱石と、石炭とを混合して、ロータリーキルンで還元(カ焼)した。次に、還元された混合物を電気炉に装入し、溶融することによって、フェロニッケルを得た(フェロニッケル製造工程)。
【0173】
(実験例A−2)
常圧浸出と常圧反応を実験例A−1と同じ条件で行った後、予備中和工程として、石灰石中和に先だって、Ni:1.25重量%、Co:0.012重量%、Fe:5.9重量%、Mg:16.9重量%、Mg/Fe:2.86のニッケル品位が低くマグネシウム品位が高い酸化鉱石(低Ni品位サプロライト鉱石)を−2mm以下に粉砕し、海水を加えて40重量%濃度のスラリー鉱石とし、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して0.2倍重量(20重量%)加え、95℃の温度で3時間攪拌した(第一中和工程)。ここで、本実施例において用いられた低Ni品位サプロライト鉱石は、MgO・SiOとFeO(OH)を成分として有する複合酸化物である。
【0174】
第一中和液のFe濃度は1.84g/lであり、Fe/Ni濃度比は0.36、液のpHは1.77であった。第一中和液中のニッケル量と反応液中のニッケル量との差と、第一中和工程に使用した低Ni高Mg酸化鉱石のニッケル量とから計算したニッケルの浸出率は80.6重量%であり、同様に計算したマグネシウムの浸出率は58.6重量%であった。
【0175】
また、第一中和液中のFe量と反応液中のFe量の差から計算した脱Fe率は84重量%であり、第一中和工程により、低Ni高Mg酸化鉱石のニッケルの回収と反応液中のFeの沈殿が効率よく行われることがわかった。
【0176】
また、第一中和残渣をX線回折により調べたところ、Feの沈殿物としてナトロジャロサイトNaFe(SO(OH)の結晶構造が同定された。その結晶強度から非常に良好な結晶であることがわかった。(図5参照)
【0177】
このようにして得られた第一中和液および第一中和残渣に、90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持し、第二中和工程を実施した。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0178】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.07倍重量(7重量%)の使用となり、実験例A−1と比較して石灰石使用量は大幅に低減した。
【0179】
石灰石による中和をした後の第二中和残渣の量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.27倍重量であった。次に、第二中和液および第二中和残渣に高分子凝集剤を加え、第二中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて第二中和液と第二中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー状の第二中和残渣の濃度を調べたところ、41.9重量%濃度となり、実験例A−1と比較してスラリー濃度が大きく上昇した。さらに、濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、第二中和残渣物の含水率は28.5重量%となり、実験例A−1と比較して含水率が大幅に低減された。また、固液分離の際のシックナーでの沈降時間を短縮することができた。
【0180】
次に、抽出溶媒である有機溶媒を用いて、第二中和液に含まれるニッケルとコバルトとを、硫酸ニッケル溶液と硫酸コバルト溶液とに分離した(溶媒抽出工程)。次に、硫酸ニッケル溶液および硫酸コバルト溶液に、水酸化マグネシウムを混合させることにより、ニッケル水酸化物およびコバルト水酸化物を得た(固形化工程)。次に、用水と、スラリー状にしたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と、水酸化ナトリウムとを、混合・攪拌し、濾過・水洗することで、硫黄または塩素が除去されたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と溶液とを得た(硫黄・塩素除去工程)。次に、金属水酸化物と、ニッケルを含むサプロライト鉱石と、石炭とを混合して、ロータリーキルンで還元(カ焼)した。次に、還元された混合物を電気炉に装入し、溶融することによって、フェロニッケルを得た(フェロニッケル製造工程)。
【0181】
(実験例A−3)
ニッケル品位が低くマグネシウム品位が高い酸化鉱石(低Ni品位サプロライト鉱石)を常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して0.3倍重量(30重量%)加えて第一中和工程を行った以外は、実験例A−2と同じ条件で実施した。第一中和液のFe濃度は0.45g/lであり、Fe/Ni濃度比は0.09、液のpHは2.12であった。第一中和液中のニッケル量と反応液中のニッケル量との差と、第一中和工程に使用した低Ni高Mg酸化鉱石のニッケル量とから計算したニッケルの浸出率は78.1重量%であり、同様に計算したマグネシウム浸出率は48.1重量%であった。また、第一中和液中のFe量と反応液中のFe量との差から計算した脱Fe率は96重量%であり、第一中和工程により、低Ni高Mg酸化鉱石のニッケルの回収と反応液中のFe沈殿が効率よく行われていることがわかった。
【0182】
このようにして得られた第一中和液および第一中和残渣に90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持し第二中和工程をおこなった。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0183】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.04倍重量(4重量%)の使用となり、実験例A−1と比較して石灰石使用量は大幅に低減した。
【0184】
石灰石中和後の第二中和残渣の量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.3倍重量であった。
【0185】
次に、第二中和液および第二中和残渣に高分子凝集剤を加え、第二中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて第二中和液と第二中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー状の第二中和残渣の濃度を調べたところ、42.3重量%濃度となり、実験例A−1と比較してスラリー濃度の大幅な改善がなされた。さらに、この濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、第二中和残渣の含水率は27.1重量%となり、実験例A−1と比較して含水率が大幅に低減された。また、固液分離の際のシックナーでの沈降時間を短縮することができた。
【0186】
(実験例B−1)
本実験例においては、Ni:1.98重量%、Co:0.063重量%、Fe:23.1重量%、Mg:9.2重量%の成分を含有し、Mg/Fe比:0.40の酸化鉱石を使用した以外は、実験例A−1と同じ条件で実施した。
【0187】
常圧反応後の浸出率を調べたところ、Ni:90.1重量%、Co:77.6重量%、Fe:11.8重量%、Mg:80.9重量%であり、また常圧反応後のFe濃度:9.52g/l、Fe/Ni濃度比:1.61、フリー硫酸量:30g/lであり、ニッケルおよびコバルトの浸出率は良好であったが、鉄とフリー硫酸は常圧液中に多くの量が残存した。
【0188】
このようにして得られた反応液および反応残渣に90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持した。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0189】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.15倍重量(15重量%)を使用した。石灰石による中和後の残渣量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.24倍重量であった。
【0190】
次に、中和液および中和残渣に高分子凝集剤を加え、中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて中和液と中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー中和残渣濃度を調べたところ、32.1重量%濃度であった。さらに、この濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、中和残渣物の含水率は45.1重量%であった。
【0191】
(実験例B−2)
常圧浸出と常圧反応は実験例B−1と同じ条件で行った後、石灰石中和に先立って、Ni:1.43重量%、Co:0.011重量%、Fe:7.8重量%、Mg:18.1重量%、Mg/Fe:2.32のニッケル品位が低くマグネシウム品位が高い酸化鉱石(低Ni品位サプロライト鉱石)を−2mm以下に粉砕し、海水を加えて40重量%濃度のスラリー鉱石とし、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して0.2倍重量(20重量%)加え、95℃の温度で3時間攪拌し、第一中和工程を行った。
【0192】
第一中和液のFe濃度は2.88g/lであり、Fe/Ni濃度比は0.47、液のpHは1.85であった。第一中和液中のニッケル量と反応液中のニッケル量との差と、第一中和工程に使用した低Ni高Mg酸化鉱石のニッケル量とから計算したニッケルの浸出率は78.2重量%であり、同様に計算したマグネシウムの浸出率は56.1重量%であった。
【0193】
第一中和液中のFe量と反応液中のFe量の差から計算した脱Fe率は70.1重量%であり、第一中和工程により、低Ni高Mg酸化鉱石のニッケルの回収と反応液中のFe沈殿が効率よく行われていることがわかった。
【0194】
また、第一中和残渣をX線回折により調べたところ、Feの沈殿物としてナトロジャロサイトNaFe(SO(OH)の結晶構造が同定された。その結晶強度から非常に良好な結晶であることがわかった。
【0195】
このようにして得られた第一中和液および第一中和残渣に90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持し、第二中和工程をおこなった。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0196】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.07倍重量(7重量%)の使用量となり、実験例B−1と比較して石灰石使用量は大幅に減少した。
【0197】
石灰石中和後の第二中和残渣の量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.21倍重量であった。
【0198】
次に、第二中和液および第二中和残渣に高分子凝集剤を加え、第二中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて第二中和液と第二中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー状の第二中和残渣の濃度を調べたところ、43.9重量%濃度となり、実験例B−1と比較してスラリー濃度が大幅に増加した。さらに、濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、第二中和残渣の含水率は27重量%となり、実験例B−1と比較して含水率が大幅に低減された。また、固液分離の際のシックナーでの沈降時間を短縮することができた。
【0199】
次に、抽出溶媒である有機溶媒を用いて、第二中和液に含まれるニッケルとコバルトとを、硫酸ニッケル溶液と硫酸コバルト溶液とに分離した(溶媒抽出工程)。次に、硫酸ニッケル溶液および硫酸コバルト溶液に、水酸化マグネシウムを混合させることにより、ニッケル水酸化物およびコバルト水酸化物を得た(固形化工程)。次に、用水と、スラリー状にしたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と、水酸化ナトリウムとを、混合・攪拌し、濾過・水洗することで、硫黄または塩素が除去されたニッケルまたはコバルトを含む金属水酸化物と溶液とを得た(硫黄・塩素除去工程)。次に、金属水酸化物と、ニッケルを含むサプロライト鉱石と、石炭とを混合して、ロータリーキルンで還元(カ焼)した。次に、還元された混合物を電気炉に装入し、溶融することによって、フェロニッケルを得た(フェロニッケル製造工程)。
【0200】
(実験例B−3)
ニッケル品位が低くマグネシウム品位が高い酸化鉱石(低Ni品位サプロライト鉱石)を常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して0.3倍重量(30重量%)加えて第一中和工程を行った以外は、実験例B−2と同じ条件で実施した。
【0201】
第一中和液のFe濃度は0.48g/lであり、Fe/Ni濃度比は0.08、液のpHは2.35であった。第一中和液中のニッケル量と反応液中のニッケル量との差と、第一中和工程に使用した低Ni高Mg酸化鉱石のニッケル量とから計算したニッケルの浸出率は72.5重量%であり、同様に計算したマグネシウムの浸出率は45.9重量%であった。また、第一中和液中のFe量と反応液中のFe量との差から計算した脱Fe率は93.4重量%であり、第一中和工程により、低Ni高Mg酸化鉱石のニッケルの回収と、反応液中のFe沈殿とが効率よく行われていることがわかった。
【0202】
このようにして得られた第一中和液および第一中和残渣に90℃の温度において、中和剤として石灰石をpHが3.3となるまで添加した後、攪拌保持し、第二中和工程をおこなった。添加から攪拌保持までの時間は2時間とした。
【0203】
石灰石使用量は、分級前の全酸化鉱石量に対して0.04倍重量(4重量%)の使用となり、実験例B−1と比較して石灰石使用量は大幅に低減した。
【0204】
石灰石中和後の第二中和残渣の量は、常圧浸出と常圧反応に使用した分級前の全酸化鉱石量に対して1.23倍重量であった。
【0205】
次に、第二中和液および第二中和残渣に高分子凝集剤を加え、第二中和残渣を凝集させ自然沈降させた後、向流洗浄方式の6段シックナーを用いて第二中和液と第二中和残渣とに固液分離した。下部に沈降した濃縮スラリー状の第二中和残渣の濃度を調べたところ、43.5重量%濃度となり、実験例B−1と比較してスラリー濃度が大幅に増加した。さらに、濃縮スラリーを真空ろ過装置によりろ過したところ、第二中和残渣の含水率は26.3重量%となり、実験例B−1と比較して含水率が大幅に低減された。また、固液分離の際のシックナーでの沈降時間を短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図2】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図3】実施の形態に係る製造工程を説明するためのフロー図である。
【図4】実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の鉱床分布の概略図である。
【図5】実験例に係る試料のX線回折結果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0207】
102 酸化鉱石
103 粉砕品
104 スラリー鉱石
105 硫酸
106 ナトリウム塩
107 用水
108 硫酸浸出液
109 浸出残渣
110 反応液
111 反応残渣
112 中和剤
113 第二中和液
114 第二中和残渣
115 凝集剤
130 硫酸ニッケル溶液
132 硫酸コバルト溶液
134 有機溶媒
136 アルカリ化合物
138 ニッケル水酸化物
140 コバルト水酸化物
202 金属水酸化物
203 水酸化ナトリウム
205 用水
206 金属水酸化物
208 溶液
210 石炭
212 フェロニッケル
214 スラグ
216 排ガス
218 酸化鉱石
300 酸化鉱石
302 第一中和液
304 第一中和残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルまたはコバルトと鉄とを含む第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを回収する方法であって、
硫酸を使用して、前記第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得る浸出工程と、
前記浸出残渣を含む前記硫酸浸出溶液とマグネシウムとを反応させてpH調整し、ニッケルまたはコバルトを含む反応液と、鉄を含む反応残渣と、を得る反応工程と、
前工程で得られた液を、中和剤を使用して中和し、ニッケルまたはコバルトを含む中和液と、鉄を含む中和残渣と、を得る中和工程と、
を含み、
前記浸出工程と前記中和工程との間に、マグネシウムを用いて前工程で得られた液のpHを上昇させる予備中和工程を含むことを特徴とする回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回収方法において、
前記予備中和工程は、前記反応工程と前記中和工程との間に行われ、
前記予備中和工程は、前記反応残渣を含む前記反応液を、マグネシウムとニッケルとを含む第二の酸化鉱石を用いて中和し、ニッケルまたはコバルトを含む液と、鉄を含む残渣と、を得る工程であることを特徴とする回収方法。
【請求項3】
請求項2に記載の回収方法において、
前記浸出工程の前に、
前記第一の酸化鉱石を、小粒径酸化鉱石と、マグネシウムを含む大粒径酸化鉱石とに分級する分級工程を含み、
前記浸出工程において、前記小粒径酸化鉱石からニッケルまたはコバルトを浸出するとともに、
前記反応工程において、前記浸出残渣を含む前記硫酸浸出溶液と、前記大粒径酸化鉱石に含有されるマグネシウムとを反応させてpH調整し、
前記第二の酸化鉱石のマグネシウム含有率は、前記大粒径酸化鉱石のマグネシウム含有率よりも高いことを特徴とする回収方法。
【請求項4】
請求項3に記載の回収方法において、
前記第二の酸化鉱石のニッケル含有率は、前記大粒径酸化鉱石のニッケル含有率よりも低いことを特徴とする回収方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の回収方法において、
前記浸出工程において、さらにナトリウム塩を用いて、前記第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得て、
前記反応工程において、前記浸出残渣を含む前記硫酸浸出溶液をpH調整し、ニッケルまたはコバルトを含む反応液と、反応残渣と、を得ることを特徴とする回収方法。
【請求項6】
請求項5に記載の回収方法において、
前記ナトリウム塩が、海水中に含まれるナトリウム塩であることを特徴とする回収方法。
【請求項7】
請求項5に記載の回収方法において、
前記ナトリウム塩が、濃縮された海水中に含まれるナトリウム塩であることを特徴とする回収方法。
【請求項8】
請求項7に記載の回収方法において、
前記濃縮された海水中に含まれるナトリウム塩の濃度は、4重量%以上5.3重量%以下であることを特徴とする回収方法。
【請求項9】
請求項5乃至8いずれかに記載の回収方法において、
前記ナトリウム塩の使用量は、前記第一の酸化鉱石の使用量の1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする回収方法。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の回収方法において、
前記浸出工程において、さらに還元剤を用いて、前記第一の酸化鉱石から、ニッケルまたはコバルトを浸出し、ニッケルまたはコバルトを含む硫酸浸出溶液と、浸出残渣と、を得ることを特徴とする回収方法。
【請求項11】
請求項10に記載の回収方法において、
前記還元剤は鉄粉であることを特徴とする回収方法。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれかに記載の回収方法において、
前記浸出工程と、前記反応工程とを、ともに90℃以上の温度下で行うことを特徴とする回収方法。
【請求項13】
請求項1乃至12いずれかに記載の回収方法において、
前記浸出工程と、前記反応工程とを、ともに常圧下で行うことを特徴とする回収方法。
【請求項14】
請求項1乃至13いずれかに記載の回収方法において、
前記中和工程の後に、前記中和液と前記中和残渣とを、凝集剤を使用し、シックナーを用いて固液分離し、前記中和液と前記中和残渣とを分離する固液分離工程を、さらに含むことを特徴とする回収方法。
【請求項15】
請求項1乃至14いずれかに記載の回収方法において、
前記予備中和工程を、90℃以上の温度下で行うことを特徴とする回収方法。
【請求項16】
請求項1乃至15いずれかに記載の回収方法において、
前記中和剤が、マグネシウムを含むスラグであることを特徴とする回収方法。
【請求項17】
請求項1乃至16いずれかに記載の回収方法において、
前記浸出工程において、前記硫酸の使用量は、前記第一の酸化鉱石の使用量の50重量%以上80重量%以下であることを特徴とする回収方法。
【請求項18】
請求項1乃至17いずれかに記載の回収方法において、
前記予備中和工程において、前記液のpHを1以上4以下に調整することを特徴とする回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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