説明

ニッケル基超合金から成る単結晶部品の製造方法

【課題】公知のニッケル基超合金からの比較的大型の単結晶部品もしくは一方向凝固された組織を有する部品の、熱処理を含んだ、適した製造法を生み出すことであり、該方法により、γ'相のラフト形成が生じる傾向がなく、それゆえ該部品の低い応力サイクル数(LCF)での改善された機械的特性、殊に改善された疲労強度をもたらす組織を確立する。
【解決手段】請求項1の上位概念に従った方法にて、A)〜E)の工程を、従来技術に従って行われる部品の鋳造後に実施することによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料工学の分野に関連する。本発明は、ニッケル基超合金から成る単結晶部品の製造方法又は比較的大きい寸法を有する一方向凝固された部品(gerichtet erstarrte Komponente)に関する。本発明による方法を用いて、該部品の低サイクル荷重に際して、特に良好な特性、殊に非常に良好な疲労強度が達成される。
【背景技術】
【0002】
ニッケル基超合金からの単結晶部品は、高い負荷温度で、なかでも非常に良好な材料強度を有するが、しかし、良好な耐蝕性及び耐酸化性並びに良好なクリープ強度も有する。これらの特性に基づき、この種の材料が、例えばガスタービンにおいて使用される場合、ガスタービンの吸気温度を高めることができ、それによってガスタービン装置の効率が上昇する。
【0003】
端的に言えば、2つのタイプの単結晶ニッケル基超合金が存在する。
【0004】
本発明に関連する第1のタイプは、完全に溶体化焼鈍されることができ、全体のγ'相は溶液状態で存在する。これは、例えば、以下の化学組成(質量%で記載)を有する公知の合金CMSX4の場合:Al 5.6、Co 9.0、Cr 6.5、Hf 0.1、Mo 0.6、Re 3、Ta 6.5、Ti 1.0、W 6.0、残部のNi又は以下の化学組成(質量%で記載)を有する合金PWA1484の場合:Cr 5、Co 10、W 6、Mo 2、Re 3、Ta 8.7、Al 5.6、Hf 0.1並びに前述の合金と違いレニウムで合金化されておらず、かつ以下の化学組成(質量%で記載)を有する公知の合金MC2の場合:Co 5、Cr 8、Mo 2、W 8、Al 5、Ti 1.5、Ta 6、残部のニッケルについて言える。
【0005】
CMSX4のための典型的な標準熱処理は、例えば以下のものである:1320℃/2時間/保護ガス下での溶体化焼鈍、換気装置を用いた急速冷却。
【0006】
単結晶ニッケル基超合金の第2のタイプは、完全には熱処理可能でなく、即ちこの場合はγ'相の全ての割合が溶体化焼鈍に際して溶解するのではなく、一定の部分のみが溶解する。これは、例えば、以下の化学組成(質量%で記載)を有する公知の超合金CMSX186:C 0.07、Cr 6、Co 9、Mo 0.5、W 8、Ta 3、Re 3、Al 5.7、Ti 0.7、Hf 1.4、B 0.015、Zr 0.005、残部のNi及び以下の化学組成(質量%で記載)を有する合金CMSX486:C 0.07、B 0.015、Al 5.7、Co 9.3、Cr 5、Hf 1.2、Mo 0.7、Re 3、Ta 4.5、Ti 0.7、W 8.6、Zr 0.005、残部のNiの場合について言える。
【0007】
第2のタイプのニッケル基超合金は、多くの場合に2段階の熱処理(より低い温度での老化処理)に晒される。それというのも、第1のタイプの合金の場合に溶体化焼鈍のために一般に使用されるような、より高い温度の場合、既に融点の開始温度に達し、それゆえ該合金は不所望にも溶融し始めるからである。
【0008】
合金CMSX186の典型的な2段階の熱処理は、例えば以下の通りである:
1.第1の段階:1080℃/4時間/送風
2.第2の段階:870℃/20時間/送風。
【0009】
ニッケル基超合金の第1のタイプのクリープ強度は、通常、該合金が同じ世代の合金に属するという前提で、第2のタイプのクリープ強度よりも高い。これは、なかでも、溶解したγ'が達成されうる強度の主源であるという事実に拠る。
【0010】
例えばUS4,643,782、EP0208645、US5,270,123及びUS7,115,175B2から公知であるような単結晶部品のためのニッケル基超合金は、混晶硬化合金元素、例えばRe、W、Mo、Co、Cr、並びにγ'相を形成する元素、例えばAl、Ta及びTiを含有する。基本マトリックス(オーステナイトγ相)中の高融点の合金元素(W、Mo、Re)の含量は、合金の負荷温度の上昇とともに連続的に上昇する。そのため、例えば、単結晶のための通例のニッケル基超合金は、W6〜8%、Re6%まで及びMo2%まで(質量%での記載)を含有する。さらに、C、B、Hf及びZrが僅かな割合でしばしば存在する。上述の文献に開示されている合金は、高いクリープ強度、比較的良好なLCF(低サイクル疲労)特性及びHCF(高サイクル疲労)特性並びに高い酸化抵抗を有する。
【0011】
これらの公知の合金は、航空機タービン用に開発されたものであり、従って、短期使用及び中期使用に最適化されており、即ち負荷期間は20000時間までに合わせて設計されている。それとは対照的に、工業用のガスタービン部品は、75000時間までの又はそれを上回る時間の負荷期間に合わせて設計されなければならない。
【0012】
300時間の負荷期間後、例えば、US4,643,782からの合金CMSX−4は、1000℃より高い温度でのガスタービンにおける試験的な使用に際して、不都合にも合金のクリープ速度の上昇を伴うγ'相の強い粗大化を示す。
【0013】
この種の超合金を鋳造プロセス後に熱処理に供することは公知の先行技術であり、その際、第1の溶体化焼鈍工程では、該鋳造プロセスの間に不均一に析出したγ'相が組織内で完全に又は部分的に溶解される。第2の熱処理工程では、この相が再び制御されて析出される。最適な特性を達成するために、この析出熱処理は、可能な限り微細な均一に分布したγ'相の粒子がγ相(=マトリックス)中で生ずるように実施される。
【0014】
しかしながら、長期の高温負荷(クリープ負荷)下での機械的負荷の影響に際して又は室温での材料の塑性変形(それに続けて材料の熱処理(高温焼鈍)が行われる)後に、この種の合金の組織内でγ'粒子の方向性粗大化、いわゆるラフト形成(Flossbildung)(英語:rafting)が生じることが確認された。高いγ'含有率(即ち少なくとも50%のγ'体積割合の場合)の場合、これは微細構造の転位につながり、即ちγ'は、先のγマトリックスが埋設されている連続相となる。
【0015】
金属間化合物γ'相は環境脆化(英語:environmental embrittlement)する傾向にあるので、これは後に特定の負荷条件下で、前もってこのようなクリープ負荷に晒されなかった試験体と比較して室温(25℃)で機械的特性−なかでも降伏点−の大幅な低下が生じる。降伏点のこの悪化は、特性の"劣化"との用語で記載される(Pessah−Simonetti,P.Caron and T.Khan:Effect of long−term prior aging on tensil behaviour of high−performance single crystal superalloy,Journal de Physique IV,Colloque C7,Volume 3,November 1993)。
【0016】
γ'相のラフト形成をもたらす類似の作用は、デンドライト偏析に基づくニッケル基超合金の凝固に際しても生じる。特に、例えばレニウムといった、ゆっくりと拡散する元素の割合が高い超合金において、これらの元素の偏析は、許容される均質化時間内で完全には除去することができない。冷却の間に析出するγ'相は、γマトリックスより小さい格子定数を有するが、しかし、デンドライトにおけるγ/γ'格子歪みは、デンドライト間領域中での歪みより大きいので、熱処理の間に、殊に冷却の間に内部応力が形成される。これにより、最初は立方晶のγ'が伸長型のγ'に変化することで、γ'微細構造における変化がもたらされる。これは、機械的特性の悪化、例えば低い応力サイクル数での疲労強度の悪化を伴う。
【0017】
広く知られたニッケル基超合金、例えば、US5,435,861から公知の合金のさらなる問題は、大きな部品の場合、例えば80mmを上回る長さのガスタービン翼の場合の鋳造性に改善の余地が残されていることである。
【0018】
完全な、比較的大型の一方向凝固されたニッケル基超合金からの単結晶部品の鋳造は極めて難しい。これらの部品のほとんどが、欠陥、例えば小傾角粒界、"斑点"、即ち高含量の共晶を有する同じ方向を向いた一連の粒子によって引き起こされた欠陥部分、等軸結晶粒の散らばった境界(aequiaxiale Streugrenzen)、ミクロポロシティ等を有する。これらの欠陥は、高い温度の場合に部品を弱体化させるので、タービンの望ましい寿命もしくは運転温度は達成されない。
【0019】
しかし、完全に鋳造された単結晶部品は極めて高価であるので、産業界は、寿命又は運転温度を損なわずに、可能な限り多くの欠点を容認する傾向にある。
【0020】
他の可能性は、US7,115,175B2に提案されている:単結晶部品の鋳造後に、鋳造の際に生じて存在するミクロポロシティが閉じられ、かつマトリックス内の共晶γ/γ'相の島が部分的に溶解され、そのためにHIP法(熱間等方圧プレス、英語:hot isostatic pressing)が適用され、その後、溶体化焼鈍が、共晶γ/γ'相の完全な溶解と、均一に分布した大きなγ'粒子("octet shaped"と称される)の析出のために行われ、そして引き続き、第2のかつ均一に分布した微細な立方体様のγ'粒子を得るために析出熱処理が行われる。それにより、超合金の強度が高められることになる。
【0021】
文献US7,115,175B2に記載されたプロセスによれば、鋳造の工程に直接続けて行われるHIP法は、鋳造された物体の2段階のゆっくりとした加熱後に1174℃(2145゜F)〜1440℃(2625゜F)の範囲におけるHIP最終温度で実施され、その際、保持時間は3.5〜4.5時間であり、圧力は89.6MPa(13ksi)〜113MPa(16.5ksi)であり、つまり、圧力は比較的低い。
【0022】
これをもって、この公知の方法により、一方では、好ましくはポアを含まず、かつ共晶γ/γ'相を有さず、そして他方では、バイモーダルなγ'分布を備えたγ'形態を有するニッケル基超合金からの単結晶部品が製造される。
【0023】
上記の望ましくないラフト形成に関して組織に良い影響を及ぼすことは、文献US7,115,175B2に開示された方法を用いて可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】US4,643,782
【特許文献2】EP0208645
【特許文献3】US5,270,123
【特許文献4】US7,115,175B2
【特許文献5】US5,435,861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、先行技術の上記の欠点を回避することである。本発明の基礎をなしている課題は、公知のニッケル基超合金からの比較的大型の単結晶部品もしくは一方向凝固された組織を有する部品の、熱処理を含んだ、適した製造法を生み出すことであり、該方法により、γ'相のラフト形成が生じる傾向がなく、それゆえ該部品の低い応力サイクル数(LCF)での改善された機械的特性、殊に改善された疲労強度をもたらす組織を確立することができる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明により、これは、請求項1の上位概念に従った方法にて、以下の工程が、従来技術に従って行われる部品の鋳造後に実施されることによって達成される:
A)鋳造された部品の様々な領域でのデンドライトアーム間隔(λ)の測定、
B)拡散係数(D)を調べるための、そのつどのニッケル基超合金の組成物中で最も低速な拡散元素の同定、
C)この最も低速な拡散元素の偏析率を、一方では開始溶融温度(Tmi)より低く、他方では、必要な熱処理窓にあるために十分高い、溶体化焼鈍温度(T1)にて5%以下に減らすために必要とされる所要時間(t)の計算、
D)溶体化焼鈍温度(T1)までの部品の加熱、工程C)で計算された時間(t)によるこの温度での保持及び50℃/分以上の速度による溶体化焼鈍温度(T1)から室温(RT)までの急冷を包含する、鋳造された部品の溶体化焼鈍、
E)工程D)に続けて、そのつどより低い温度(T2)及び(T3)でγ'相を析出するための2段階の析出処理の実施、その際、析出処理の第1の段階では、160MPaより大きい圧力(p)でのHIP法が、保持温度(T2)及び引き続く50℃/分以上の冷却速度(v2)による室温(RT)までの冷却下で実施され、かつ析出処理の第2の段階では、該部品の熱処理が、保持温度(T3)及び引き続く10〜50℃/分の冷却速度(v3)による室温(RT)までの冷却下で実施される。
【0027】
本発明による方法により、一方ではポアを含まず、他方ではγ'相のラフト形成が回避される微細構造を有する、ニッケル基超合金からの大型の単結晶部品もしくは一方向凝固された組織を有する部品を製造することが可能である。それゆえ、そのようにして製造された部品は、改善された機械的特性、低い応力サイクル数(LCF)での改善された疲労強度を有する。この方法は、比較的容易に行えるという利点を有する。
【0028】
工程A)に従ったデンドライトアーム間隔(X)の測定が金属組織試験により行われる場合に好ましい。これは比較的容易に実現され、例えば、相応する試験体を手がかりにして方法の前段階ですでに行うことができる。
【0029】
さらに、溶体化焼鈍温度(T1)から室温への急冷速度(v1)が70℃/分より大きい場合には、極めて微細な均一に分布したγ'粒子がγマトリックス中で得られるので好ましい。
【0030】
結論として、以下の化学組成(質量%で記載):Al 5.6、Co 9.0、Cr 6.5、Hf 0.1、Mo 0.6、Re 3、Ta 6.5、Ti 1.0、W 6.0、残部のNi、を有するニッケル基超合金からの部品を製造するための本発明による方法が、以下の処理パラメータで実施される場合に好ましい:
− 1290〜1310℃/4〜6時間/急速冷却(v1は50℃/分以上)での溶体化焼鈍、
− 1150℃/4〜8時間/急速冷却(v2は50℃/分以上)での加熱及び焼鈍によるHIPプロセス(等方圧160MPa超え)、
− 870℃/16〜20時間/冷却(10〜20℃/分の範囲のv3)での焼鈍。
【0031】
図面には、本発明の実施例が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】単結晶部品を製造するための、鋳造プロセスに続く処理法の時間−温度図を示す
【図2】図1に属する3つの組織(<001>配向)を示す図
【図3】3つの可能な変形法におけるHIPプロセスの時間−温度図もしくは圧力−温度図を示す
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、本発明を、実施例及び図面を手がかりにして詳説する。
【0034】
大型の単結晶部品/一方向凝固された部品の製造のために、以下の化学組成(質量%で記載):Al 5.6、Co 9.0、Cr 6.5、Hf 0.1、Mo 0.6、Re 3、Ta 6.5、Ti 1.0、W 6.0、残部のNi、を有する従来技術から公知のニッケル基超合金CMSX4を用いた。
【0035】
まず部品である、例えばガスタービン翼をその形状に鋳造した。この鋳造された合金の凝固に際して、組成、殊に比較的高いRe割合に基づきデンドライト偏析が生じる。
【0036】
レニウムは非常にゆっくりと拡散する元素であり、それゆえ、これらの偏析は、後に続く溶体化焼鈍プロセスに際して、許容される均質化時間内に完全には除去することができない。冷却の間に析出するγ'相は、γマトリックスより小さい格子定数を有するが、しかし、デンドライトにおけるγ/γ'格子歪みは、デンドライト間領域中での歪みより大きいので、熱処理の間に、殊に冷却の間に内部応力が形成される。これにより、最初は立方晶のγ'が伸長型のγ'に変化することで、γ'微細構造における変化がもたらされる。これは、機械的特性の悪化、例えば低サイクル疲労強度の悪化を伴う。
【0037】
それゆえ、これを回避するために、まずデンドライトアーム間隔λが、鋳造された部品の様々な領域、例えば重要な領域において調べられる。これは、例えば金属組織法により行うことができ、その際、場合によっては、すでに方法の前段階において、相当する予め鋳造された試験体を手がかりにしてこの間隔が調べられる。
【0038】
さらに、そのつどのニッケル基超合金の組成物中で最も拡散の遅い元素が、拡散係数Dを突きとめるために割り出される。"背景技術"の箇所での上記ニッケル基超合金MC2の場合、この元素はMoである。
【0039】
ここで公知のデータ、即ちD及びλから、一方では開始溶融温度Tmiより低く、しかし、他方では、必要な熱処理窓にあるために十分高い、溶体化焼鈍温度T1にて部品が保持されなければならない所要時間tが計算され、それにともなって、この最も拡散の遅い元素のミクロ偏析が5%以下に減少される。
【0040】
この計算された時間tは、本実施例において1290〜1310℃の溶体化焼鈍温度T1にて4〜6時間である。時間tは、以下の式により算出することができる:

式中、
λ=デンドライトアーム間隔
D=拡散係数(本実施例におけるNi中へのRhの拡散係数)
δ=ミクロ偏析の大きさ(ここでは:5%の残留偏析率において0.05)
【0041】
図1には、上記の超合金からの単結晶部品を製造するための、鋳造プロセスに続く処理法の時間−温度図が概略的に示されている。
【0042】
それにより、鋳造された部品の溶体化焼鈍(方法工程D))は、本実施例において、1290〜1310℃の上記した溶体化焼鈍温度T1への部品の加熱、この温度での上で計算された時間t(4〜6時間)(t)による保持及び50℃/分以上の速度v1による溶体化焼鈍温度T1から室温への迅速な急冷を包含し、該急冷後に、非常に微細な均一に分布したγ'粒子がγマトリックス中で得られる(この組織の概略図は図2を参照されたい)。有利なのは、70℃/分より大きい急冷速度であり、なぜなら、その時にγマトリックス中で極めて微細な均一に分布したγ'粒子を有する組織が得られるからである。
【0043】
本発明により、溶体化焼鈍後に、T1と比較してそのつどより低い温度T2及びT3でγ'相を析出するための2段階の析出処理が実施され(方法工程E))、その際、析出処理の第1の段階では、160MPaより大きい圧力p及び50℃/分以上の冷却速度v2によるHIP法が適用される。HIP法の最終温度は、本実施例において、1150℃であり、保持時間は4〜6時間である。HIPプロセスの間にかけられた最終圧力は比較的高く、それは組織の中の不均質性によって引き起こされる内部応力より高い。好ましくは、この方法工程によって、一方では、組織中に場合によっては存在するミクロポロシティが閉じられ、他方では、溶体化焼鈍T1から室温への急激な冷却によって、もしくは組織中に場合によっては存在する残留不均質性によって引き起こされる応力が除去される。それによって、すでに言及した立方晶γ'粒子がγマトリックス中で形成されることで、γ'相の一方向ラフト形成が防止される。HIP処理工程後に存在する組織は、γマトリックス中での微細な均一に分布した立方晶γ'粒子から成り、概略的に<001>配向において図2bに示されている。
【0044】
方法工程D)の第1の段階の実現は、複数の変形法において可能である。HIPプロセスのための相応する時間−温度図もしくは圧力−時間図は、図3a〜3cに略図されている。
【0045】
第1の、図3aで示される変形法の場合、温度及び圧力は時間に依存してほぼ一致しており、即ち、温度T2及び等方圧p160MPa超え、つまり最終的な等方圧に達するまで、加熱段階の間に、部品に作用する等方圧pのみならず温度Tも時間とともに直線的に上昇する。特定の時間にわたってこれらのパラメータで保持した後に、再び2つのパラメータにて時間に依存して値は直線的に減少する。
【0046】
図3aと比較して、図3bで示される変形法の場合、段階をずらして方法工程D)の第1の段階の開始時に直ちに最終的な等方圧が突如かけられ、かつ加熱段階の間も一定に保たれる。この場合、他の全てのパラメータは図3aと同じである。
【0047】
結論として、さらなる変形法において、方法工程D)の第1の段階、即ち、図3cに示されているようなHIPプロセスを実施することも可能である。この場合、最終的な等方圧pが、再び加熱段階の開始時に突如かけられ、全体の加熱段階、T2での保持段階及び付加的に全体の冷却段階にわたっても一定に保たれる。部品が室温をとった時に初めて、等方圧負荷が突如取り去られる。
【0048】
3つの全ての変形法により、好ましくはラフト形成が防止される。
【0049】
引き続き、該方法の最後の工程として、部品の析出熱処理のさらなる段階が実施される。本実施例により、その際、単結晶部品/一方向凝固部品は870℃の温度T3に加熱され、この温度T3で16〜20時間のあいだ保たれ、その後、約50℃/分の冷却速度v3で室温に冷却される。
【0050】
この最後の処理工程後に形成された本発明による最終的な組織は、概略的に図2cで<001>配向で示されている。
【0051】
本発明による方法により、なかでも、該組織におけるデンドライト領域とデンドライト間領域との間の化学的な不均質性が除去され、それによってγ'相の局所的なラフト形成の傾向が減少するかもしくは防止され(本実施例では、ガスタービン翼の冷却ダクト内でγ'相のラフト形成を防止することができた)、ひいては部品の特性、殊に低サイクル疲労特性が改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基超合金から成る単結晶部品又は一方向凝固された部品の製造法であって、その際、該部品をまず、公知の方法で、デンドライトを有する組織の形成下で鋳造して形状をつくり、続けて該部品の鋳物組織を均質化するための溶体化焼鈍並びに2段階の析出熱処理を実施する方法において、以下の工程:
A)鋳造された部品の様々な領域中でデンドライトアーム間隔(λ)を測定する工程、
B)拡散係数(D)を調べるために、そのつどのニッケル基超合金の組成物中で最も低速な拡散元素を同定する工程、
C)この最も低速な拡散元素の偏析率を、一方では開始溶融温度(Tmi)より低く、他方では、必要な熱処理窓にあるために十分高い、溶体化焼鈍温度(T1)にて5%以下に減らすために必要とされる所要時間(t)を計算する工程、
D)溶体化焼鈍温度(T1)まで部品を加熱し、工程C)で計算された時間(t)によりこの温度(T1)で保持し、そして50℃/分以上の速度(v1)で該温度(T1)から室温(RT)まで急冷することを包含する、鋳造された部品を溶体化焼鈍する工程、
E)工程D)に続けて、そのつどより低い温度(T2)及び(T3)でγ'相を析出するための2段階の析出処理を実施する工程、その際、析出処理の第1の段階では、160MPaより大きい圧力(p)によるHIP法を、保持温度(T2)及び引き続く50℃/分以上の冷却速度(v2)で該温度(T2)から室温(RT)までの冷却下で実施し、かつ析出処理の第2の段階では、該部品の熱処理を、保持温度(T3)及び引き続く10〜50℃/分の冷却速度(v3)による該温度(T3)から室温(RT)までの冷却下で実施する、ことを特徴とするニッケル基超合金から成る単結晶部品又は一方向凝固された部品の製造法。
【請求項2】
工程A)に従ったデンドライトアーム間隔(λ)の測定を、金属組織学的に行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程D)に従った急冷速度(v1)が70℃/分超えであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
以下の化学組成(質量%で記載):Al 5.6、Co 9.0、Cr 6.5、Hf 0.1、Mo 0.6、Re 3、Ta 6.5、Ti 1.0、W 6.0、残部がNi、を有するニッケル基超合金の場合に、溶体化焼鈍の工程を、以下のパラメータ:1290〜1310℃/4〜6時間/速度(v1)50℃/分以上の急速冷却にて実施し、γ'析出処理の第1の段階の工程は、1150℃の保持温度(T2)及び4〜8時間の保持時間での等方圧(p)160MPa超えによるHIPプロセスを包含し、かつ速度(v2)50℃/分以上の急速冷却を行い、そしてγ'析出処理の第2の段階は、870℃/16〜20時間での加熱及び保持並びに10〜50℃/分の速度(v3)による冷却を包含することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12705(P2012−12705A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−145691(P2011−145691)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】