説明

ニッケル微粒子の製造方法

【課題】高温での焼成において、急激な収縮が始まる温度の高いニッケル微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、塩基性炭酸ニッケルのようなニッケル化合物を出発物質として用い、これと硫黄化合物とを炭酸アンモニウムとアンモニアの水溶液に溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、この液滴中からアンモニアを含む気化性成分を除いて、液滴中で炭酸ニッケル粒子を沈殿させ、かくして、炭酸ニッケル粒子を得、次いで、この炭酸ニッケル粒子を水素雰囲気下に加熱して、0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄分を含有するニッケル微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの内部電極、二次電池や燃料電池の電極等に好適に用いることができる、高温での焼成に際して収縮開始温度の高いニッケル微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル微粒子は、積層セラミックコンデンサの内部電極、水素ニッケル二次電池の多孔性電極、燃料電池の中空多孔質電極をはじめ、種々の電極を形成するための材料として注目されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウム等のセラミック誘電体粉末とポリビニルブチラールやセルロース系樹脂等のバインダーとからなる誘電体グリーンシートにパラジウム、白金等のような内部電極のための貴金属粉末を含むペーストを印刷し、乾燥して、内部電極が交互に重なるように積層し、熱圧着し、次いで、これを適宜の寸法に裁断した後、約1300℃の温度で焼成して、脱バインダーしつつ、内部電極とセラミック誘電体とを焼結させ、この後、銀等の外部電極を形成して、製造される。
【0004】
このような積層セラミックコンデンサは、最近の電子部品の高性能化に伴って、小型化と高容量化が進んでおり、そのために、セラミック誘電体と内部電極の薄膜化と多層化が一層求められている。他方、コストや環境への配慮から、電極のための材料は、従来のパラジウム、白金等の貴金属から、より低廉で、しかも、環境への負荷も小さいニッケル等の卑金属が多く用いられるようになってきている。
【0005】
しかし、ニッケル微粒子を含め、一般に、金属からなる内部電極材料は、セラミック誘電体よりも焼結開始温度が低く、しかも、熱収縮が大きい。従って、セラミック誘電体と内部電極とは熱収縮の程度が異なるので、積層セラミックコンデンサの製造において、上述したように、導電性ペーストを印刷したセラミック誘電体グリーンシートを積層し、これを焼成する際に、その間に剥離やクラック等の構造欠陥が発生しやすいという問題がある。このような構造欠陥は、特に、近年の積層セラミックコンデンサの小型化と高容量化と共に顕著に発生する傾向がある。
【0006】
そこで、積層セラミックコンデンサの更なる薄層化を実現するには、内部電極に用いるニッケル微粒子として、高温での焼成において、焼結挙動をセラミック誘電体に近づけて、急激な収縮が始まる温度(以下、単に収縮開始温度という。)の高いものが強く求められており、例えば、ニッケル微粒子を硫黄を含むガス、例えば、硫化水素に接触させ、ニッケル微粒子の表面を硫黄換算で0.02〜0.20重量%の範囲の硫黄又は硫酸基で被覆し、ニッケル微粒子の表面に硫化ニッケル又は硫酸ニッケルからなる被覆膜を形成して、高温での焼成に際して、ニッケル粒子間でのニッケルの固相拡散を阻害し、かくして、ニッケル微粒子の焼結の進行を抑制したニッケル微粒子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この方法は、ニッケル微粒子を気相処理にて、その表面に硫化ニッケル又は硫酸ニッケルの被覆膜を形成して、高温での焼成において、ニッケル微粒子の焼結の進行を抑制しようとしたものであるが、上記被覆膜の形成のために気相処理を行うので、生産性や生産時の安全性等に問題があるうえに、上記被覆膜の形成が不均一となりやすく、高温での焼成に際して、収縮開始温度が十分に高温側に移動しない場合がある。
【0008】
また、積層セラミックコンデンサの小型化と高容量化のためには、内部電極に用いるニッケル粒子は、平均粒径が0.1〜1.0μm程度であることが望ましいので、従来、例えば、塩化ニッケルの分圧を低くし、気相にて水素で還元することによって、微細で球状の金属ニッケルを製造する方法も提案されているが(特許文献2参照)、製造費用が著しく高い。
【0009】
そこで、炭酸水素アンモニウムを含むアンモニア水溶液にニッケル原料、例えば、塩基性炭酸ニッケルを溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、この液滴中からアンモニアを含む気化性成分を除いて、液滴中で炭酸ニッケルを沈殿させ、かくして、微細で球状の炭酸ニッケル粒子を得、次いで、この炭酸ニッケル粒子をシリカのような融着防止剤の存在下に水素雰囲気下に加熱して、上記炭酸ニッケル粒子を還元することによって、平均粒径が0.1〜1μmの範囲にあり、粒度分布が狭く、球状のニッケル微粒子を得ることができるエマルション法が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−244654号公報
【特許文献2】特開平04−365806号公報
【特許文献1】特開2001−152214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記エマルション法によって得られるニッケル微粒子のすぐれた特性を活かしながら、更に、その高温での焼結特性を改善するために、研究した結果、上記エマルション法によるニッケル微粒子の製造において、例えば、塩基性炭酸ニッケルをアンモニア水溶液に溶解させて、ニッケル塩の水溶液を調製する際に、併せて、硫黄化合物を上記アンモニア水溶液に溶解させておくことによって、上記エマルション法によるニッケル微粒子のすぐれた特性をそのままとして、高温での焼成に際して、収縮開始温度が高いニッケル微粒子を得ることができることを見出して、本発明に至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、高温での焼成における焼結挙動をセラミック誘電体に近づけて、収縮開始温度が高く、微細で球状のニッケル微粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般式(I)
Ni(CO3)x・(OH)y
(式中、x及びyはそれぞれ、2≦x+y≦3、0≦x≦1.5及び0≦y≦3を満たす数である。)
で表される炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと硫黄化合物とをアンモニア水溶液か、又は炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属の炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも1種を含むアンモニアの水溶液に溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、この液滴中からアンモニアを含む気化性成分を除いて、液滴中で炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、かくして、微細で球状の炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を得る第1の段階と、このようにして得た炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を酸化物換算にて0.01〜30重量%のアルカリ土類元素、アルミニウム、ケイ素及び希土類元素から選ばれる少なくとも1 種の元素の化合物からなる融着防止剤の存在下に水素雰囲気下に加熱して、上記炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を還元して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄を含有するニッケル微粒子を得る第2の段階とを有することを特徴とするニッケル微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
このような本発明の方法によって得られるニッケル微粒子は、微細で球状であるうえに、高温での焼成に際して、収縮開始温度が高く、かくして、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極として好適に用いることができる。しかも、本発明の方法によれば、エマルション反応場の特質から、ニッケル微粒子1つずつが硫黄を含むように極めて均質性高く処理されており、効果の均質性にすぐれるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明によるニッケル微粒子の製造方法は、所謂エマルション法によって硫黄を含有する微細で球状の炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を製造する第1の段階と、この炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を必要に応じて酸化性雰囲気下に加熱し、熱分解して、酸化ニッケル微粉末とした後、これを還元して、硫黄を含有する微細で球状のニッケル微粒子とする第2の段階とからなる。先ず、第1の段階について説明する。
【0015】
(第1の段階)
本発明においては、出発物質、即ち、原料として、上記一般式(I)で表される炭酸ニッケル、水酸化ニッケル又はこれらの混合物が用いられる。ここに、上記炭酸ニッケルとは、正炭酸塩と塩基性炭酸塩をいうものとし、これら炭酸塩は、水酸化物を含んでいてもよい。また、上記一般式(I)で表される炭酸ニッケル又は水酸化ニッケル又はこれらの混合物において、ニッケルの価数は、2価でもよく、3価でもよく、また、2価と3価との中間の値でもよい。
【0016】
このような上記一般式(I)で表される出発物質、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル又はそれらの混合物は、どのような手段や方法で製造されてもよい。例えば、炭酸ニッケルは、例えば、ニッケルの塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の無機酸塩や有機酸塩を炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸イオンを含む炭酸アルカリで中和して得ることができる。また、上記出発物質は、ニッケル以外の元素のイオン、例えば、鉄、銅、コバルト、マンガン、カルシウム、セリウム、イットリウム等のイオンを不純物として含んでいてもよい。以下、本発明においては、出発物質として用いる前記一般式(I)で表される炭酸ニッケル、水酸化ニッケル又はこれらの混合物を、単に、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルという。
【0017】
更に、本発明によれば、上記炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルをアンモニア水溶液に溶解させて、ニッケル塩水溶液を調製するに際して、ニッケルの塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の無機酸塩や有機酸塩をアンモニア水溶液に溶解させ、場合によっては、反応させてもよい。
【0018】
また、このように、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルをアンモニア水溶液に溶解させて、ニッケル塩水溶液を調製する際に、このアンモニア水溶液は、好ましくは、アンモニアと共に炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属の炭酸塩若しくは炭酸水素塩(以下、これらを単に炭酸(水素)塩ということがある。)を含む水溶液であることが好ましい。
【0019】
上記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、カリウム又はナトリウムが好ましい。従って、アルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。本発明においては、このような炭酸(水素)塩のなかでは、特に、炭酸水素アンモニウムが好ましく用いられる。
【0020】
本発明の方法に従って、高温での焼成に際して収縮開始温度の高いニッケル微粒子を得るには、上述したように、ニッケル塩の水溶液を調製する際に、このニッケル塩と硫黄化合物をアンモニア水溶液か、又は炭酸(水素)塩を含むアンモニア水溶液に溶解させて、ニッケル塩の水溶液を調製する。本発明において、上記硫黄化合物は、水溶性であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、硫酸塩が用いられる。この硫酸塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等が好ましく用いられる。
【0021】
本発明によれば、このようにして、ニッケル塩の水溶液に溶解させる硫黄化合物が最終的に得られるニッケル微粒子にほぼ定量的に含有されるので、上述したように、ニッケル塩の水溶液に、得られるニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%程度の硫黄化合物を溶解させることによって、最終的に得られるニッケル微粒子に硫黄化合物を硫黄換算にてほぼ0.05〜1.0重量%の範囲で含有させることができる。
【0022】
本発明によれば、このように、ニッケル塩の水溶液に硫黄化合物を溶解させた後、以下に述べるように処理することによって、得られるニッケル微粒子の一つ一つに硫黄化合物を含有させることができる。例えば、硫黄化合物として、硫酸アンモニウムを用いたときは、ニッケル微粒子は、硫酸基として硫黄化合物を含有しているものとみられるが、しかし、用いた硫黄化合物は、どのような化合物としてニッケル微粒子に含有されていてもよい。本発明においては、このように、ニッケル微粒子に硫黄化合物を硫黄換算にて0.05〜1.0重量%の範囲で含有させることが重要である。
【0023】
得られるニッケル微粒子において、硫黄の含有量が0.05重量%よりも少ないときは、高温での焼成に際して、収縮開始温度を十分に高くすることが困難であり、他方、1.0重量%を超えても、収縮開始温度について、更なる改善がみられず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いた際に、却って、不具合を生じるおそれがある。
【0024】
このようにして、本発明によれば、アンモニアと共に好ましくは炭酸(水素)塩を含む水溶液に炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと上記硫黄化合物を溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記ニッケル塩の水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、上記エマルションの液滴中からアンモニアを含む気化性成分を蒸発させることによって、上記エマルション中の液滴中で炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させる。
【0025】
従って、本発明によれば、一つの態様として、アンモニアと共に好ましくは炭酸(水素)塩を含む水溶液に炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記ニッケル塩の水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、この液滴からアンモニアを含む気化性成分(主としてアンモニアと炭酸ガス)を蒸発させることによって、エマルションの液滴中に炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、必要に応じて、エマルションの液滴から主として水からなる気化性成分を更に蒸発させて、液滴中の炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを油中乾燥し、かくして得られた炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを、例えば、遠心分離し、洗浄し、乾燥すれば、硫黄を含有する炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの微細な球状の粒子を得ることができる。
【0026】
特に、本発明によれば、種々の態様のなかでも、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと硫黄化合物とをアンモニアと共にpHが8.0〜11.5の範囲内で炭酸水素アンモニウム又は炭酸アンモニウムの水溶液に溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体と混合してエマルションとし、次いで、このエマルションを減圧下に吸引して、上記ニッケル塩の水溶液からアンモニアを含む気化性成分(例えば、アンモニアと炭酸ガスや水)を蒸発させて、エマルションの液滴中で炭酸ニッケルを沈殿させて、これを回収することによって、硫黄を含有する微細な球状の炭酸ニッケル粒子を得ることができ、この態様が最も好ましいものである。
【0027】
本発明において、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと硫黄化合物をアンモニア水溶液に溶解させる際の水溶液のpHは、特に限定されるものではないが、pHが8.0〜11.5の範囲にあることが好ましい。ここに、アンモニアと共に前記炭酸(水素)塩を用いることによって、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを溶解させる水溶液のpHを容易に調節することができ、また、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを容易に溶解させることができる。
【0028】
本発明において、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルをアンモニア水溶液に溶解させて得られるニッケル塩水溶液の濃度は、特に、限定されるものではないが、通常、ニッケル金属として、0.1モル/Lから飽和濃度の範囲であり、特に、0.3〜1.2モル/Lの範囲が好ましい。
【0029】
本発明によれば、前述したようにして得られたニッケル塩水溶液を界面活性剤の存在下に非水媒体と共に混合攪拌して、常法に従って、エマルションを調製する。より詳しく説明すれば、好ましくは、ニッケル塩水溶液により親水性の強いノニオン系界面活性剤を加え、必要に応じて、アンモニアが蒸発揮散しないように、50℃以下の温度に加熱して、溶解させる。非水媒体には、より親油性の強いノニオン系界面活性剤を加え、必要に応じて、加熱して、溶解させる。通常、分散機を用いて、非水媒体を攪拌しながら、これに上記ニッケル塩水溶液を徐々に加え、ニッケル塩水溶液の液滴を微細に分散させることによって、W/O型エマルションを調製することができる。
【0030】
最終的に得られる微細で球状の炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子の平均粒径や粒度分布は、エマルションにおける水相(液滴)の大きさ(平均粒径)、粒度分布、更には、ニッケル塩水溶液の濃度等によって適宜に調節することができ、エマルションにおける液滴の大きさ(平均粒径)や粒度分布は、用いる界面活性剤の組合わせとそれぞれの量、分散機の種類、分散機による攪拌速度等によって調節することができる。このようにして、本発明によれば、得られる炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの粒子の平均粒径を0.05〜100μm、好ましくは、0.1〜100μm、より好ましくは、0.1〜50μmの範囲で任意に調節することができる。
【0031】
特に、本発明の好ましい態様によれば、エマルションにおける液滴の大きさ(平均粒径)や粒度分布を調節することによって、得られる炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの均一微細な球状の粒子を得ることができる。
【0032】
エマルションを調製するための非水媒体は、水不溶性で、後述する減圧下や常圧下での処理において蒸発し難く、安定であるものが好ましく、従って、水に対する溶解度が5%以下で、水よりも沸点の高いものが好ましく用いられる。
【0033】
このような非水媒体として、例えば、n−オクテン、イソオクテン、スクワラン、灯油等の脂肪族炭化水素類、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等の脂環式炭化水素類、トルエン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素類、ブチルエーテル、イソブチルエーテル等のエーテル類、ジクロルペンタン等のハロゲン化炭化水素類、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸イソブチル、酪酸エチル、酪酸ブチル等の脂肪酸エステル類、これらの混合物等を挙げることができる。上記以外にも、鉱油、動植物油等の天然油、炭化水素油、エステル油、エーテル油、含フッ素潤滑油、含リン潤滑油、含ケイ素潤滑油等の合成油も、非水媒体の具体例として例示することができる。
【0034】
特に、本発明においては、このように、エマルション中の液滴中からアンモニアを含む気化性成分を蒸発させて、液滴中に炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させる場合には、上記非水媒体として、水不溶性で蒸気圧が小さい炭化水素系有機溶媒が好ましく、具体的には、常圧で沸点が100℃以上の脂肪族炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。
【0035】
エマルションを調製するために用いる界面活性剤は、用いる非水媒体に応じて、適宜に選ばれる。限定されるものではないが、特に、安定なエマルションを得るには、前記ニッケル塩の水溶液(水相)に予めHLB値が10以上の親水性の強い界面活性剤を溶解させ、他方、非水媒体相(油相)には予めHLB値が10以下の親油性の強い界面活性剤を溶解させて、このような水相と油相を混合するのがよい。
【0036】
これら界面活性剤の使用量は、エマルションにおけるW/O比や所要の粒径等によって適宜に選べばよく、特に、限定されるものではないが、通常、エマルションに対して20重量%以下であり、好ましくは、0.5〜15重量%の範囲である。後述するように、水相と油相の両方に界面活性剤を溶解させる場合には、界面活性剤の使用量は、通常、水又は非水媒体に対して、それぞれ20重量%以下であり、好ましくは、0.5〜10重量%の範囲である。
【0037】
更に、エマルションにおけるW/O比は、用いる非水媒体の量や性質、特に、粘度や、用いる界面活性剤の性質、特に、HLB値にもよるが、安定なエマルションを得るには、通常、3/2〜1/10の範囲であり、好ましくは、1/1〜1/5、特に、好ましくは、1/3〜1/5の範囲である。しかし、これに限定されるものではない。
【0038】
上記エマルションの調製に用いるノニオン系界面活性剤として、HLB値が10以上のものとして、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルキルアリールエーテル類等を挙げることができる。
【0039】
また、HLB値が10以下のものとして、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等のグリセリン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。
【0040】
このようにして、特に、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを硫黄化合物と共に、好ましくは炭酸(水素)塩を含むアンモニア水溶液に溶解させ、このようにして得られたニッケル塩の水溶液の液滴を非水溶媒中に微細に分散させたW/O型エマルションとした後、必要に応じて、加熱しながら、常圧下に攪拌又は曝気するか、又は減圧下に吸引するかして、主としてアンモニアと炭酸ガスからなる気化性成分を蒸発させることによって、エマルション中のニッケル塩水溶液の液滴中で炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、必要に応じて、エマルション中の液滴から更に主として水からなる気化性成分を蒸発させて、その液滴中の炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを油中乾燥し、かくして得られた炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを、例えば、遠心分離し、洗浄し、乾燥すれば、硫黄を含有する炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの微細な球状の粒子を得ることができる。
【0041】
別の態様として、特に、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと硫黄化合物を、好ましくは炭酸(水素)塩を含むアンモニア水溶液に溶解させ、このようにして得られたニッケル塩の水溶液の液滴を非水溶媒中に微細に分散させたW/O型エマルションとした後、必要に応じて、加熱しながら、常圧下に攪拌又は曝気するか、又は減圧下に吸引するかして、主としてアンモニアと炭酸ガスと水とからなる気化性成分を蒸発させることによって、エマルション中のニッケル塩水溶液の液滴中で炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、次いで、球状の沈殿を適宜の手段、例えば、遠心分離や濾過等によって回収し、洗浄し、乾燥することによって、硫黄を含有する炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの微細な球状の粒子を得ることができる。
【0042】
本発明によれば、上記エマルションからアンモニアを含む気化性成分を蒸発させるためには、通常、100℃以下の温度で常圧下に曝気するか、又は減圧下に吸引すればよいが、特に、エマルションを加熱しながら、減圧下に吸引することが好ましい。
【0043】
本発明によれば、このように、エマルションを減圧下に吸引する場合、温度及び圧力条件は、特に、限定されるものではないが、通常、大気圧以下、好ましくは、400mmHg以下の減圧(真空)下であればよく、他方、減圧(真空)の上限は、主として、経済性によるが、通常、5mmHg程度である。また、温度は、0〜90℃の範囲にわたってよいが、好ましくは、10〜80℃の範囲であり、最も好ましくは、20〜70℃の範囲である。
【0044】
本発明においては、エマルションを20〜70℃の範囲の温度に加熱しつつ、アスピレーターを用いる減圧下、従って、10〜50mmHg程度の減圧下にエマルションからアンモニアや、その他の気化性成分を蒸発させることによって、よい結果を得ることができる。
【0045】
しかし、本発明によれば、ニッケル塩の水溶液の液滴を含む上記エマルションからアンモニアを含む気化性成分を蒸発させるために、別の方法として、常圧下、エマルションを単に攪拌してもよい。また、別の方法として、常圧下、必要に応じて、加熱しつつ、エマルション中に空気を吹き込む、即ち、曝気してもよい。
【0046】
(第2の段階)
次に、このようにして第1の段階にて得た硫黄を含有する微細で球状の炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子を原料として、目的とする硫黄を含有する微細で球状のニッケル微粒子を製造する第2の段階について説明する。
【0047】
第2の段階においては、硫黄を含有する炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子を、必要に応じて、酸化性雰囲気下に加熱、熱分解して、微細で球状の酸化ニッケル粒子とした後(炭酸ニッケルの熱分解工程)、上記炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル又はこの酸化ニッケルの粒子(以下、原料ニッケル化合物粒子ということがある。)をアルカリ土類元素、アルミニウム、ケイ素及び希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の水不溶性化合物からなる融着防止剤の存在下に水素雰囲気下に加熱し、上記原料ニッケル化合物粒子を還元して、金属ニッケル粒子とし(還元工程)、必要に応じて、その後、上記金属ニッケル粒子を非酸化性雰囲気下に加熱し(金属ニッケル粉末の非酸化性雰囲気下での加熱工程)、更に、必要に応じて、上記金属ニッケル粒子から上記融着防止剤を分離、除去し(融着防止剤の除去工程)、かくして、目的とする微細で球状の硫黄を含有するニッケル微粒子を得る。以下、第2の段階における上記各工程について説明する。
【0048】
(炭酸ニッケルの熱分解工程)
第1の段階にて得た硫黄を含有する微細で球状の炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子は、これを還元する前に、必要に応じて、酸化性雰囲気下、空気中にて加熱して、酸化ニッケル粒子に熱分解してもよい。第1の段階で得られた炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子には、そのエマルション法による製造に用いた非水媒体や界面活性剤に由来する炭素物質が付着しているおそれがあるところ、このような炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子の熱分解によれば、上記炭素物質を除去することができると共に、いわば、粒子を焼き締めることができ、かくして、より微細で球状の酸化ニッケル粒子を得ることができる。
【0049】
本発明によれば、このような炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子の熱分解は、空気のような酸化性雰囲気下、炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子を5〜50℃/時の割合で、通常、400〜1000℃、好ましくは、400〜800℃の範囲の温度まで加熱し、その温度で数時間、通常、1〜10時間、加熱して行う。炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子の熱分解の後、得られた酸化ニッケル粒子は、必要に応じて、乾式、湿式又はこれらの組合わせによって粉砕し、これを次の還元工程に供する。
【0050】
(原料ニッケル化合物粒子の還元工程)
本発明によれば、アルカリ土類元素、アルミニウム、ケイ素及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物からなる融着防止剤の存在下に上記原料ニッケル化合物粒子を水素雰囲気下に加熱し、還元し、かくして、硫黄を含有する微細で球状のニッケル微粒子を得る。
【0051】
本発明によれば、原料ニッケル化合物粒子を水スラリーとし、ここで、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤とを混合して、均一な混合物を得ることができるように、融着防止剤は、上記元素の水不溶性の化合物であることが好ましい。
【0052】
特に、本発明によれば、上記融着防止剤は、好ましくは、上記元素の水不溶性の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩又はこれらの2種以上の混合物である。上記元素のすべてについて、水酸化物又は酸化物は、本発明において、有用な融着防止剤である。しかし、水不溶性であれば、上記元素の炭酸塩や硫酸塩も、融着防止剤として用いることができる。また、酸化物は無水物でもよく、含水物でもよい。
【0053】
上記融着防止剤を構成する元素のうち、アルカリ土類元素としては、例えば、Mg、Ca、Sr又はBaを挙げることができ、特に、Mg又はCaが好ましい。また、希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuを挙げることができる。これらのなかでは、融着防止の効果にすぐれるところから、特に、Y、Sm又はPrの化合物や、これらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。本発明においては、アルカリ土類元素、アルミニウム、ケイ素及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物からなるこれら融着防止剤は、単独で、又は2種以上の組合わせとして用いることができる。
【0054】
特に、本発明によれば、融着防止剤として、アルカリ土類元素の化合物としては、例えば、酸化カルシウムや酸化マグネシウムを好ましい具体例として挙げることができ、これ以外にも、炭酸カルシウムや硫酸バリウムを挙げることができる。ケイ素やアルミニウムの化合物としては、それぞれ酸化物や水酸化物が好ましい。また、希土類元素の化合物としては、例えば、水酸化物や酸化物が好ましい。
【0055】
本発明によれば、このような融着防止剤は、原料ニッケル化合物粒子の還元とその後の非酸化性雰囲気下での加熱の間、固体として存在して、原料ニッケル化合物粒子の還元によって生成した金属ニッケル粒子相互の焼結や融着を防止し、かくして、金属ニッケル粒子が粗大化するのを防止する効果を有する。このような融着防止剤は、原料ニッケル化合物粒子に対して、酸化物換算にて、通常、0.01〜30重量%、好ましくは、1〜25重量%の範囲で用いられる。
【0056】
本発明においては、原料ニッケル化合物粒子の還元に際して、融着防止剤は、原料ニッケル化合物粒子と共に存在すればよく、従って、原料ニッケル化合物粒子の還元に際して、融着防止剤をどのような手段、方法によって、原料ニッケル化合物粒子と共に存在させてもよい。即ち、融着防止剤の由来は特に制限されない。
【0057】
従って、例えば、原料ニッケル化合物粒子に直接に上記融着防止剤を加えて、乾式法にて混合してもよく、また、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤とを湿式法にて混合してもよい。後者の方法は、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との均一な混合物を得ることができるので好ましい。
【0058】
ここで、湿式法にて原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を調製する場合、例えば、シリカやアルミナのように、それ自体、水不溶性である酸化物を融着防止剤として用いる場合には、これらをそのまま、原料ニッケル化合物粒子の水スラリーに加えて混合、粉砕してもよい。即ち、シリカやアルミナを原料ニッケル化合物粒子と共に水に分散させ、撹拌混合するか、又はボールミル、ビーズミル中で粉砕混合する。また、シリカ、アルミナ等を水に分散させ、別に、原料ニッケル化合物粒子を水に分散させ、それぞれをボールミル、ビーズミル等を用いて粉砕した後、引き続き、両者を軽く混合し、粉砕する。
【0059】
しかし、本発明によれば、原料ニッケル化合物粒子のスラリーを調製し、このような原料ニッケル化合物粒子の存在下に、酸又はアルカリによって酸化物又は水酸化物を与える水溶性塩に酸又はアルカリを作用させ、いわば、その場で融着防止剤を生成させて、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を得ることが好ましい。
【0060】
例えば、ケイ素やアルミニウム、アルカリ土類元素や希土類元素の適宜の水溶性塩を水に溶解させて水溶液を得、これを原料ニッケル化合物粒子の水スラリーと混合し、用いた元素の水溶性塩に応じて、酸又はアルカリを沈殿剤として上記水スラリーに加えて、上記元素の水酸化物や酸化物を沈殿させ、混合、攪拌して、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を得ることができる。沈殿剤としては、通常、塩酸のような酸や、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等のようなアルカリが好ましく用いられる。
【0061】
アルカリ土類元素の水酸化物又は酸化物の前駆体としては、限定されるものではないか、通常、例えば、硝酸塩が好ましく用いられる。必要に応じて、塩化物も用いられる。ケイ素やアルミニウムの水酸化物又は酸化物の前駆体としては、例えば、オルトケイ酸、メタケイ酸、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が用いられる。また、希土類元素の水酸化物又は酸化物の前駆体としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物等の水溶性塩が適宜に用いられる。しかし、融着防止剤の前駆体は、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明によれば、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との均一な混合物を得るために、特に、次のような方法が好ましく用いられる。例えば、原料ニッケル化合物粒子をボールミル又はビーズミル等を用いて水に十分に分散させ、得られたスラリーに融着防止剤を与える前駆体としての水溶性塩、例えば、メタケイ酸ナトリウムや硝酸アルミニウム等を加えた後、スラリーに酸又はアルカリ水溶液を加えて、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを沈殿させて、原料ニッケル化合物粒子と混合する。
【0063】
また、例えば、原料ニッケル化合物粒子をボールミル又はビーズミル等を用いて水に十分に分散させ、得られたスラリーに酸又はアルカリ水溶液を加えた後、これに融着防止剤を与える前駆体としての水溶性塩の水溶液を加えて、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを沈殿させて、原料ニッケル化合物粒子と混合する。また、原料粒子をボールミル又はビーズミル等を用いて水に十分に分散させ、得られたスラリーに、融着防止剤を与える前駆体としての水溶性塩の水溶液と酸又はアルカリ水溶液とを同時に加えて、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを沈殿させて、原料ニッケル化合物粒子と混合する。
【0064】
上述した方法は、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを融着防止剤として用いる場合を例にとって説明したが、しかし、アルカリ土類元素や希土類元素の水不溶性化合物からなる融着防止剤と原料ニッケル化合物粒子との混合物を得る場合にも、同様に、好適に採用することができる。
【0065】
本発明によれば、このようにして、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を原料ニッケル化合物粒子のスラリーを用いて湿式法にて調製したときには、上記スラリーを濾過、水洗し、乾燥、粉砕等を適宜に行なって、融着防止剤を含む原料ニッケル化合物粒子を得、これを次の還元工程に供する。
【0066】
また、原料ニッケル化合物粒子をボールミル又はビーズミル等を用いて水に十分に分散させ、得られたスラリーに融着防止剤を与える水溶性の前駆体の水溶液を加えた後、噴霧乾燥機を用いて、乾燥させ、原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を調製することもできる。このような混合物は、必要に応じて、適宜に粉砕した後、還元工程に供する。
【0067】
(還元工程)
次に、本発明によれば、上述した原料ニッケル化合物粒子と融着防止剤との混合物を水素雰囲気下、300〜900℃、好ましくは、300〜500℃の範囲の温度に加熱して、原料ニッケル化合物粒子を還元して、微細で球状の硫黄を含有するニッケル微粒子を得る。還元時の加熱温度が300℃よりも低いときは、原料ニッケル化合物粒子が十分に還元されず、未還元のニッケル化合物が残存する。他方、還元時の加熱温度が900℃を越えるときは、本来、六方晶であるニッケルの晶癖が支配的となり、得られる金属ニッケル粒子が球状性に著しく劣ることとなる。また、この還元工程は、水素ガスを用いるものであるので、金属ニッケル粒子の結晶性を向上させることを目的として高温域で還元を行おうとすれば、材質的にも構造的にも高価な装置が必要となって、好ましくない。
【0068】
(金属ニッケル粉末の非酸化雰囲気下における加熱工程)
そこで、上記還元工程において、原料ニッケル化合物粒子を水素雰囲気下、例えば、300〜500℃程度の比較的低い温度で長時間にわたって加熱して還元した後に、窒素ガス等の非酸化性雰囲気下で高温に加熱し、焼き締めて、金属ニッケル粒子の結晶性を更に向上させることもできる。このような非酸化雰囲気下の加熱温度は、300〜1200℃の範囲が好ましい。加熱温度が300℃よりも低いときは、得られる金属ニッケルの結晶性の向上が十分でなく、他方、加熱温度が1200℃を越えるときは、融着防止剤も相互に焼結したり、又は融着したりするため、ニッケル粒子の粗大化が進行し、また、球状性を維持することが困難となる。
【0069】
(融着防止剤の除去工程)
本発明によれば、このように、融着防止剤の存在下に、原料ニッケル化合物粒子を還元し、得られた金属ニッケル粒子を、必要に応じて、非酸化雰囲気下に加熱した後、必要に応じて、酸又はアルカリで洗浄して、上記融着防止剤を溶解させて、金属ニッケル粒子から分離、除去してもよい。ここに、用いる上記酸又はアルカリの種類や使用量は、特に、制限はないが、ニッケル粒子自身の溶出を極力抑制するようにしなければならない。
【0070】
例えば、融着防止剤として、二酸化ケイ素を用いた場合には、これらを金属ニッケル粉末から除くには、水酸化ナトリウムのようなアルカリが好ましく用いられる。他方、融着防止剤として、酸化アルミニウムを用いた場合には、これらを金属ニッケル粉末から除くには、水酸化ナトリウムのようなアルカリや、また塩酸のような酸が好ましく用いられる。また、アルカリ土類元素や希土類元素の水酸化物や酸化物からなる融着防止剤を金属ニッケル粉末から除くには、塩酸のほか、酢酸のような有機酸も好ましく用いられる。
【0071】
本発明の方法によれば、エマルション法によるニッケル微粒子の製造において、原料である炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを好ましくは炭酸(水素)塩を含むアンモニア水溶液にに溶解させる際に、硫黄化合物を併せて溶解させて、ニッケル塩の水溶液を得、これをW/O型エマルションとした後、この液滴中にて炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、かくして、微細で球状の硫黄を含有する炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子を得、次いで、この炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケル粒子を還元して、硫黄を含有するニッケル微粒子を得るものである。
【0072】
従って、このような方法によれば、ニッケル微粒子は、その製造の段階におけるエマルション反応場の特質から、それぞれの粒子が硫黄化合物による処理がなされており、このような硫黄化合物による処理は、前述したような硫黄を含むガスを用いてニッケル微粒子を気相処理する方法に比べて、格段に均質性の高いものである。
【0073】
かくして、本発明によって得られるニッケル微粒子においては、粒子の一つ一つが硫黄化含物を含有し、かくして、ニッケル微粒子の高温での焼成に際して、一つ一つのニッケル微粒子の含有する硫黄化合物物が分解等によって、ニッケル微粒子から脱離するまでの間、一つ一つのニッケル微粒子間での固相拡散を有効に阻害するので、高温での焼成において、焼結の進行が効果的に遅延され、その結果、収縮開始温度の高いニッケル微粒子を得ることができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、ニッケル微粒子の平均粒径、ニッケル微粒子中の硫黄量及びニッケル微粒子の焼結特性は次のようにして求めた。
【0075】
(ニッケル微粒子の平均粒径)
(株)堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置LA−500を用いて測定した。(ニッケル微粒子の結晶子)
理学電機(株)製X線回折装置RAD−IIC型を用い、Scherrer 法にて求めた。
(ニッケル微粒子の電子顕微鏡写真観察)
日本電子(株)製走査型電子顕微鏡JSM−840F型を用いた。
(ニッケル微粒子の含有する硫黄量とケイ素量)
誘導結合プラズマ分析(ICP)にて求めた。
【0076】
(ニッケル微粒子の焼結特性)
ターピネオールに溶解したエチルセルロースをバインダーとして用い、3本ロールを用いて分散、乾燥、粉砕し、500μmの篩を通した後、造粒して試料を調製した。この試料を直径5mmの円柱状ペレットに成形した。セイコー電子工業(株)製TMA320型熱機械式分析装置を用いて、2体積%水素−窒素ガス中、上記試料を5℃/分の速度で1200℃まで昇温し、温度に対する重量変化率を測定して、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を求めた。
【0077】
実施例1
市販の塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・Ni(OH)2・4H2O、以下、同じ。)141g、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3) 242g及び硫酸アンモニウム((NH4)2SO4) 0.5g(ニッケルに対して0.2重量%)を15%アンモニア水に加え、よく攪拌して、pHが9.5の塩基性炭酸ニッケルのアンモニア−炭酸水素アンモニウム水溶液(ニッケルとして1.1モル/L濃度) を調製した。
【0078】
このようにして得られたニッケル塩水溶液200gにHLB値15のノニオン系界面活性剤ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(花王(株)製レオドールTW−O120)30gを加え、50℃にて攪拌して、溶解させた。別に、非水媒体として、沸点約280℃のスーパースクワラン(スクアテック(株)製スクワラン)800gにHLB値4.3のノニオン系界面活性剤ソルビタンモノオレエート(花王(株)製レオドールSR−O10)50gを加え、80℃にて攪拌して、溶解させた。
【0079】
次に、上記界面活性剤を溶解させたニッケル塩水溶液と非水媒体とを混合し、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製) を用いて5000rpmで5分間攪拌し、これを2回繰り返して、W/O型のエマルションを調製した。
【0080】
温度50℃において、このエマルションを20〜30mmHgの減圧下に吸引して、アンモニアと炭酸ガスを主成分とする気化性成分を蒸発させて、エマルションの液滴中に塩基性炭酸ニッケルを沈殿させた。その後、更に、上記減圧下に上記エマルションを吸引し、水を主成分とする気化性成分を蒸発させて、エマルションの液滴中に生じた塩基性炭酸ニッケルの球状の粒子を油中乾燥した。
【0081】
この塩基性炭酸ニッケルの粒子を遠心分離し、ヘキサン、メタノール及び水の順序にて洗浄した後、温度100℃で2時間乾燥して、硫黄を含有する平均粒径0.45μmの塩基性炭酸ニッケル(ニッケル分43重量%)の球状粒子の粉末を得た。このようにして得られた塩基性炭酸ニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡写真によれば、球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。
【0082】
このようにして得られた球状の塩基性炭酸ニッケル粉末116gをイオン交換水200mLに分散させ、これに直径1mmのジルコニアビーズ500gを加え、遊星ミル用いて、100rpmで10分間粉砕した。得られたスラリーからジルコニアビーズを分離し、これを十分に洗浄し、塩基性炭酸ニッケルを全量回収して、塩基性炭酸ニッケルの水スラリーを得た。このスラリーにメタケイ酸ナトリウム水溶液(Na2SiO3、SiO2 として100g/L)0.5mLを加えて、よく攪拌した。このスラリーを攪拌しながら氷冷し、これに5%塩酸を徐々に滴下し、中和して、沈殿を生成させた。
【0083】
上記スラリーからこの沈殿を含む固形分を濾過し、洗浄し、110℃で一晩乾燥して、ニッケルに対して二酸化ケイ素(SiO2)0.1重量%を合む塩基性炭酸ニッケル粉末を得た。次に、この塩基性炭酸ニッケル粉末を瑪瑙製乳鉢を用いて粉砕し、水素気流中、400℃で3時間加熱し、上記塩基性炭酸ニッケルを還元した後、これを冷却し、次いで、5%の酸素を含む窒索ガスを50℃で1時間流通させ、得られた金属ニッケルの安定化処理を行った。
【0084】
このようにして得られたニッケル微粒子は、結晶子径530Åであり、平均粒径0.22μmであった。走査型電子顕微鏡写真によれば、粒子は球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。このニッケル微粒子の硫黄含有率は0.197重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0085】
実施例2
実施例1において、硫酸アンモニウムの添加量を2.0g(ニッケルに対して0.8重量%)とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル微粒子を得た。このニッケル微粒子の結晶子径は550Å、平均粒子径は0.19μmであり、走査型電子顕微鏡写真によれぱ、粒子は球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。このニッケル微粒子の硫黄含有率は0.792重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における熱収縮率を表1に示す。
【0086】
実施例3
実施例1 において、硫酸アンモニウムの添加量を0.2g(ニッケルに対して0.08重量%)とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル微粒子を得た。このニッケル微粒子の結晶子径は480Å、平均粒子径は0.20μmであり、走査型電子顕微鏡写真によれば、粒子は球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。このニッケル微粒子の硫黄含有率は0.078重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0087】
比較例1
実施例1において、硫酸アンモニウムを添加することなしに、塩基性炭酸ニッケルのアンモニア−炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した。これ以外は、実施例1と同様にして、ニッケル微粒子を得た。このニッケル微粒子の結晶子径は520Å、平均粒子径は0.20μmであり、走査型電子顕微鏡写真によれば、粒子は球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0088】
比較例2
突施例1において、硫酸アンモニウムの添加量を0.025g(ニッケルに対して0.01重量%)とした以外は、同様にして、塩基性炭酸ニッケルのアンモニア−炭酸水素アンモニウム水溶液を調製し、同様にして、ニッケル微粒子を得た。このニッケル微粒子の結晶子径は520Å、平均粒子径は0.22μmであり、走査型電子顕微鏡写真によれば、粒子は球状であり、且つ、よく分散していることが観察された。このニッケル微粒子の硫黄含有率は0.008重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
図1及び表1に示す結果から明らかなように、実施例1から3によるニッケル微粒子は、比較例1及び2によるニッケル微粒子に比べて、高温での焼成において、急激な収縮開始温度が高温側に移動しており、セラミック誘電体の焼結挙動に近い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明によるニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を比較例によるニッケル微粒子の温度に対する重量変化率と共に示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
Ni(CO3)x・(OH)y
(式中、x及びyはそれぞれ、2≦x+y≦3、0≦x≦1.5及び0≦y≦3を満たす数である。)
で表される炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルと硫黄化合物とをアンモニア水溶液か、又は炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属の炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも1種を含むアンモニアの水溶液に溶解させ、得られたニッケル塩の水溶液を非水媒体中にて上記水溶液の液滴を含むW/O型エマルションとした後、この液滴中からアンモニアを含む気化性成分を除いて、液滴中で炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルを沈殿させ、かくして、微細で球状の炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を得る第1の段階と、このようにして得た炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を酸化物換算にて0.01〜30重量%のアルカリ土類元素、アルミニウム、ケイ素及び希土類元素から選ばれる少なくとも1 種の元素の化合物からなる融着防止剤の存在下に水素雰囲気下に加熱して、上記炭酸ニッケル粒子及び/又は水酸化ニッケル粒子を還元して、ニッケル微粒子に対して0.05〜1.0重量%の範囲の硫黄を含有するニッケル微粒子を得る第2の段階とを有することを特徴とするニッケル微粒子の製造方法。
【請求項2】
硫黄化合物が硫酸塩である請求項1に記載のニッケル微粒子の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2007−191772(P2007−191772A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12894(P2006−12894)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】