説明

ニッケル粉およびその製造方法

【課題】積層セラミックコンデンサ用ニッケル粉に好適な導電性ペースト中で経時的な粘度安定性が高いニッケル粉、およびこのニッケル粉を大量に、かつ低コストで製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元してニッケル粉を形成するニッケル粉の製造方法において、この酸化ニッケル粉の還元により形成される還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄した後、120〜180℃の温度で乾燥することを特徴とするニッケル粉の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉およびその製造方法に関する。より詳しくは、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用導電ペーストのフィラー材料として好適に用いられるニッケル粉およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極を交互に積層させた構造を有し、小型高容量のコンデンサーである。誘電体としては、チタン酸バリウムに代表されるセラミックス系材料が用いられ、内部電極にはニッケル系材料を用いることが主流となっている。
【0003】
ニッケル粉を内部電極形成用材料として用いる積層セラミックコンデンサは次のように製造される。
誘電体のグリーンシートに、ニッケル粉、バインダーと有機溶剤を種々の添加剤とともに混練して製造した導電ペーストを印刷し、乾燥させる。次いで、これを所望数積層し、圧着した後にチップ形状に切断する。切断後、300℃程度の温度で脱バインダーを行った後、内部電極と誘電体グリーンシートを千数百度の温度で焼結する。その後、ニッケルなどによる外部電極を形成する。
【0004】
脱バインダー工程は、酸化雰囲気中での熱処理によりバインダーを燃焼させる方法が行われている。誘電体グリーンシートのバインダーには、ポリビニルアルコール系の物質が用いられることが多く、内部電極形成用の導電ペーストのバインダーにはエチルセルロース系の物質が用いられることが多い。両者の燃焼タイミング、発生ガス量を制御する形で、脱バインダー工程での雰囲気、温度が調整されている。焼成工程は還元雰囲気中での熱処理により焼結させる方法が行われている。
【0005】
このような製造方法により作られる積層セラミックコンデンサは、現在更なる小型化、高容量化を目指し、電極および誘電体厚みの薄層化、高積層化が進められてきている。
【0006】
ところで薄層化された電極には、膜表面粗さが小さく、膜密度の高い乾燥膜が得られる導電ペーストが求められている。
従来ニッケル粉は、ヒドラジンなどの還元剤で水溶性ニッケル溶液を還元して得る方法、ニッケルの水酸化物や炭酸塩を水素などの還元剤で乾式還元する方法など、種々の方法で製造されている。ニッケル粉においても、上記積層セラミックコンデンサ内部電極および誘電体厚みの薄層化、高積層化に伴い、さらに微細な平均粒径であり、粗大粒子、微細粒子が含まれないものが求められ、さまざまな平均粒径やその分布の提案およびその製造方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、塩化ニッケル蒸気の気相水素還元法によって製造され、平均粒径が0.2〜0.6μmで、平均粒径の2.5倍以上の素粒子の存在率が個数基準で0.1%以下であるニッケル粉が提案されている。
【0008】
特許文献2では、ニッケル塩水溶液を湿式還元して得られた凝集体を含むニッケル粉を解粒処理して得られ、レーザー回折散乱式粒度分布測定による平均粒子径の1.5倍以上の粒子径を持つ粒子個数が全粒子個数の20%以下であり、平均粒子径の0.5倍以下の粒子径を持つ粒子個数が全粒子個数の5%以下であり、SEM観察による平均一次粒子径が0.1〜2μmのニッケル粉が提案されており、製造技術の開示がある。
【0009】
また、特許文献3には、40〜80℃の範囲で可能な限り一定温度に保持された反応槽内のスラリーに、含ニッケル溶液を連続的に添加しつつ、該スラリーが所定のpH値を8.0〜9.5の範囲で可能な限り一定に保持するように、アルカリ溶液を添加して水酸化ニッケルを生成させ、該水酸化ニッケルを含むスラリーを連続的に槽外に払い出し、濾過し、水洗し、乾燥して水酸化ニッケルを得、これを水素を用いて400〜550℃の温度で加熱還元するニッケル粉の製造方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、当然、このようなニッケル粉でも導電ペースト化時の分散性が悪ければ、また導電ペースト化後の粘度が安定していなければ導電ペーストとして意味を成さず、ペースト組成物である溶剤との親和性が高いことなどが重要となっている。
一般に、導電ペーストにおいては溶剤には石油系炭化水素が用いられることが多いことから、これにあわせたニッケル粉表面の調整や添加剤の選定がなされている。また、ニッケル粉には、脱バインダー工程や焼成工程などにて意図しないガス発生を生じさせたり、酸化、還元による顕著な体積変化が生じたりしないようにすることが求められ、ニッケル粉製造工程にて純度を厳密に制御したり、表面状態を調整したりすることが求められている。
【0011】
例えば、特許文献4では、ニッケル粉末を酸素含有量が1.5%以下となるように乾燥を実施して、弱還元性雰囲気下においてニッケル粉末を焼結する際の高温領域での収縮を抑制する方法が提案されている。これは、湿式還元によって得られるニッケル粉について、湿式還元後の乾燥工程において、50〜150℃で、およそ12時間に亘る乾燥条件で十分な乾燥を行うか、真空乾燥によってニッケル粉末の酸素含有量を1.5%以下となるよう低減することで、昇温・焼成過程においてニッケル粉間にネットワーク構造を形成させ、高温状態における体積の収縮を抑制するものである。
この提案よれば、焼成工程における焼結性改善の効果は報告されているものの、焼結性とともに重要な特性である導電ペーストにおける分散性や安定性については何ら報告されていない。また、対象としているニッケル粉は湿式還元法によるものであるが、湿式還元法は生産性が高くないため、コスト的に不利である。
【0012】
さらに、特許文献5では、ニッケル粉末を水素気流中で加熱し、ニッケル粒子表面の酸化物あるいは水酸化物を還元した後、ニッケル粉末を水中に浸漬し、空気をバブリングすることにより、ニッケル粉末の表面に、酸化ニッケルもしくは水酸化ニッケルを生成させるニッケル粉末の製造方法が提案されている。
【0013】
この提案では、ニッケル粉末表面に酸化ニッケルもしくは水酸化ニッケルを生成させることで、インク成分、すなわち溶剤との親和性を高めてインク、すなわち導電ペースト中での分散性を向上させるものである。
しかしながら、この提案においても、導電ペースト中での分散性の向上は報告されているものの、導電ペーストにおける安定性は報告されていない。また、ニッケル粉末表面に生成させる水酸化ニッケルの量については言及されておらず、十分にその生成を制御しているとは言えるものではない。
【0014】
以上のように、積層セラミックコンデンサ用ニッケル粉に対しては、微細な平均粒径であり、粗大粒子、微細粒子が含まれないものが求められるとともに、導電ペーストにおける分散性や安定性も求められており、ニッケル粉の表面状態の調整が重要な要求特性となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−189801号公報
【特許文献2】特開2001−247903公報
【特許文献3】特開2003−213310号公報
【特許文献4】特開2000−169904号公報
【特許文献5】特開2003−129103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされたもので、導電性ペースト中で経時的な粘度安定性が高いニッケル粉と大量に低コストで製造することが可能なその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記問題点を解決するため、大量、かつ低コストに製造できる水酸化ニッケル粉を加熱還元することで得られるニッケル粉について鋭意研究を行なったところ、ニッケル粉表面に存在する水酸化ニッケルを特定量に制御することで導電性ペースト中で経時的な粘度安定性が高いニッケル粉が得られること、および大量かつ低コストに製造可能な酸化ニッケルを、加熱還元することで得られるニッケル粉を特定条件で洗浄、乾燥させることにより、そのようなニッケル粉が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明に係るニッケル粉の製造方法は、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元してニッケル粉を形成するニッケル粉の製造方法において、酸化ニッケル粉を還元して形成した還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄した後、120〜180℃の温度で乾燥するもので、その乾燥は大気雰囲気中で行われる。
【0019】
また、使用する水酸化ニッケル粉は、マグネシウムを0.002〜1質量%含有する水酸化ニッケル粉である。
【0020】
本発明に係るニッケル粉は、ニッケル粉表面に存在する水酸基の真空拡散反射法における吸光度が、その吸光度をニッケル粉の比表面積で規格化した値を用い、その値が0.020〜0.028であるニッケル粉である。
【0021】
このニッケル粉は、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、その酸化ニッケル粉を還元したものから得られるニッケル粉で、マグネシウムを0.003〜1.6質量%を含有するニッケル粉である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により得られるニッケル粉は、導電性ペースト中で経時的な粘度安定性が高く、積層セラミックコンデンサの電極形成ペースト用材料として好適なものである。
また、本発明のニッケル粉の製造方法は、酸化ニッケルを加熱還元することで得られるニッケル粉を用いて容易に製造できるものであり、大量に低コストで製造するが可能であることから、工業的価値が極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のニッケル粉の要件とその効果を説明し、次にそのニッケル粉の製造方法について説明する。
【0024】
[ニッケル粉]
本発明のニッケル粉は、ニッケル粉表面に存在する水酸基の真空拡散反射法における吸光度が、その吸光度をニッケル粉の比表面積で規格化した値を用い、その値が0.020〜0.028であるものである。
ここで、この吸光度を比表面積で規格化した値とは、比表面積に対する水酸基の真空拡散反射法における吸光度の比(吸光度/比表面積)を表わすもので、その意味するところは、ニッケル粉表面の単位面積あたりの水酸基量を示すものである。
【0025】
ニッケル粉表面に存在する水酸基の量をニッケル粉の比表面積で規格化した値(以下、単に水酸基量と称す)が高い場合、ニッケル粉の粒子は、導電ペーストの溶剤として用いられる石油系炭化水素との親和性が低くなる。
【0026】
また、水酸基が多いと表面に不均一な酸化被膜が形成された状態となっているため、表面の石油系炭化水素との親和性も不均一な状態となり、粒子の親和性の低い部分同士が接触して凝集体を形成してしまう。したがって、水酸基量が0.028を超えると、ニッケル粉をペーストとした場合、分散性が悪化してニッケル粉が凝集する。一方、水酸基量が0.020未満または0.028を超えると、ニッケル粒子表面の水酸基と導電ペースト組成物、特に溶剤との相互作用が変化し、ペーストの粘度が経時的に変化するもの考えられ、この粘度が経時的に変化したニッケル粉を積層セラミックコンデンサの内部電極形成用に用いた場合、ニッケル粉の焼結特性が安定せず、結果としてクラックやデラミネーションといった問題が生じる。
【0027】
そこで、ニッケル粉表面の水酸基量を0.020〜0.028とすることで、導電性ペースト中でニッケル粒子の凝集を抑制して分散性を良好なものとするとともに、経時的な粘度安定性が高いニッケル粉とすることを可能とする。経時的な粘度安定性をより高めるためには、ニッケル粉表面の水酸基量を0.020〜0.026とすることがより好ましい。
【0028】
ここで、水酸基の量の規格化は、比表面積を基準にする必要がある。ニッケル粉の粒子の分散性あるいは粘度安定性は、ニッケル粉の粒子表面と溶剤との相互作用によるものであるため、表面あたりの水酸基の量に大きく影響される。したがって、例えば、質量比などのように比表面積を考慮していない値をもって制御しても、上記分散性あるいは粘度安定性を良好なものに維持することは困難である。
なお、水酸基の吸光度を測定する装置は、通常に用いられる分光器(例えば、日本分光社製FT/IR680Plus[V]など)でよく、真空拡散反射法による測定条件も通常の測定で推奨される条件でよい。
【0029】
本発明のニッケル粉は、表面の水酸基量が本発明の範囲内であれば特に限定されるものではないが、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、その酸化ニッケル粉を還元したものから得られるニッケル粉であることが好ましい。この水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元してニッケル粉を形成する製造方法は、微細なニッケル粉を大量に低コストで得ることができる製造方法である。したがって、本発明のニッケル粉は、低コストで大量生産が可能である。また、比表面積も適度な大きさのものとなるため、好ましい。
【0030】
また、本発明のニッケル粉は、マグネシウムを0.003〜1.6質量%含有することが好ましい。マグネシウムを0.003〜1.6質量%含有することで、粒径が微細で表面が平滑なニッケル粉となる。マグネシウムの含有量が0.003質量%未満では、粒径が微細で表面が平滑なニッケル粉とならない。また、マグネシウムの含有量が1.6質量%を超えると、ニッケル粉のニッケル品位の低下により、積層セラミックコンデンサの内部電極として用いられた場合に、電極の電気抵抗値が大きくなり過ぎ、コンデンサーの損失係数の悪化を招いてしまう。
【0031】
本発明のニッケル粉において、その平均粒径は0.2〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.4μmであることがより好ましい。すなわち、平均粒径が0.2μm未満であると、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストとして用いたとき、ニッケル粉の焼結温度が低いため、誘電体セラミックスとの焼結挙動の差が大きく、電極の途切れや剥離が起こることがあり、他方、平均粒径が1.0μmを超えると、薄層化された内部電極では、焼結後の電極に穴開きや途切れが発生することがあり好ましくない。
【0032】
さらに、その比表面積は、1〜5m/gであることが好ましい。比表面積が1m/g未満になると、粒径が大きくなり過ぎ、焼結後の電極の穴開きや途切れが発生する。また、比表面積が5m/gを超えると、溶剤との相互作用が変化して、ニッケル粉の凝集やペースト粘度の経時的な変化が発生することがある。より好ましくは比表面積が2〜4m/gの範囲であれば、このような問題は発生せずに安定して用いることができる。
【0033】
次に、本発明のニッケル粉の製造法について説明する。
[ニッケル粉の製造方法]
本発明のニッケル粉の製造方法(以下、本発明の製造方法と称す。)は、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元してニッケル粉を形成するニッケル粉の製造方法において、酸化ニッケル粉を還元して得られた還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄した後、120〜180℃の温度で乾燥することを特徴とするものである。
【0034】
すなわち、本発明の製造方法は、
(1)水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉を得る酸化焙焼工程、
(2)酸化ニッケル粉を還元して還元ニッケル粉を得る還元工程、
(3)還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄する洗浄工程、
(4)洗浄した還元ニッケル粉を、120〜180℃の温度で乾燥してニッケル粉を得る乾燥工程
を含むものである。
以下、工程毎に説明する。
【0035】
[酸化焙焼工程]
この酸化焙焼工程は、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉を得る工程であり、水酸化ニッケル1gに対して0.002〜0.005リットル/分の窒素ガスを流すとともに350〜700℃の温度で酸化焙焼するものである。
【0036】
この酸化焙焼時に流す窒素ガス量が、水酸化ニッケル1gに対して0.002リットル/分未満であると、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの転換が徐々に進むために、得られる酸化ニッケルの結晶が成長する。また、700℃を超える温度で焙焼すると、酸化焙焼中に焼結が進み粗大な酸化ニッケル粉となってしまう。
このように流す窒素ガス量が少ない場合、あるいは高い焙焼温度により得られた酸化ニッケルは、結晶が成長しているか粗大な粒径となっているため、還元するためには高温で、かつ長時間還元させる必要が生じてしまい、したがって高温かつ長時間の還元を行なった場合に、ニッケル粉の粒成長が進み、粗大で粒径が不均一なものとなってしまうことがあることから、次工程における還元ニッケル粉の還元を考慮すると、その焙焼温度は460℃以下が、より好ましい。
【0037】
一方、酸化焙焼時に流す窒素ガス量が、上限を超えても均一微細なニッケル粉を得られるが、コスト増となる。また、多量の窒素ガスを流すと微細な酸化ニッケル粉が飛散して歩留まりも低下するため、好ましくない。
【0038】
また、酸化焙焼する温度が250℃未満では、酸化焙焼に長時間要するのみならず水酸化ニッケルから酸化ニッケルへの転換が十分に進まず、還元時に還元が不均一に進むため、ニッケル粉の粒成長が起こることがある。
【0039】
本発明の製造方法において、酸化焙焼の雰囲気を窒素雰囲気とすることが好ましく、窒素雰囲気とすることによって、酸化ニッケルの形態が安定し、後工程での製造条件に幅を持たせることができる。
【0040】
この酸化焙焼の時間は、特に限定されるものではなく、酸化焙焼時に流す窒素ガス量、焙焼温度、処理する水酸化ニッケル粉の量により、全ての水酸化ニッケルが酸化ニッケルに転換されるのに必要な時間とすればよいが、望ましくは、結晶性を低くするために、その焙焼時間は可能な限り短時間とする。
【0041】
本発明の製造方法において用いられる水酸化ニッケル粉は、公知の方法により得ることができる。
例えば、塩化ニッケルや硫酸ニッケルなどの水溶性ニッケル塩の水溶液を、pH制御して中和沈殿させることで得られる水酸化ニッケル粉を用いることができる。この水酸化ニッケル粉には、アルカリ土類金属、特にマグネシウムを0.002〜1質量%含有する水酸化ニッケル粉を用いることが好ましい。この水酸化ニッケル粉に含有されるアルカリ土類金属は、水溶性塩などの水溶性物質としてニッケル塩水溶液に混合しておき、水酸化ニッケルの生成時に共沈させてやればよい。水酸化ニッケル粉を製造する反応設備に特に制限はなく、通常用いられる設備でよく、例えば攪拌機を有する貯槽でpH管理が行なえるものであればよい。
【0042】
この水酸化ニッケル粉に含有されるマグネシウム量を0.002〜1質量%とすることで、最終的に得られるニッケル粉に含有されるマグネシウム量を0.003〜1.5質量%とすることができ、粒径が微細で表面が平滑なニッケル粉が得られる。
このマグネシウムは、還元時におけるニッケル粒子生成時の粒子の微細化および球状化、粒子表面の平滑性改善、表面の酸化被膜形成に効果がある。水酸化ニッケル粉に含有されるマグネシウム量が0.002質量%未満の場合には、微細化および平滑性改善の効果が得られないことがある。水酸化ニッケル粉に含有されるマグネシウムが1質量%を超えた場合には、得られるニッケル粉のマグネシウム含有される量が1.5質量%を超え、上記コンデンサーの損失係数の悪化を招くことがある。
【0043】
[還元工程]
還元工程は、酸化焙焼工程で得られた酸化ニッケル粉を還元して還元ニッケル粉を得る工程である。
この還元工程では、酸化ニッケル粉1gに対して0.003〜0.02リットル/分の水素ガスを流すとともに、300〜550℃の温度で還元することが好ましい。このとき、水素を含む雰囲気とすればよく、水素ガスのみを流してもよく、水素ガスと窒素ガスなどの不活性ガスとの混合ガスを流してもよい。
【0044】
還元時に流す水素ガス量が酸化ニッケル1gに対して0.003リットル/分未満の場合は、還元が徐々に進むためにニッケル粉の粒成長が起こり、所望の粒径で均一な還元ニッケル粉が得られない場合がある。対して水素ガス量が、酸化ニッケル1gに対して0.02リットル/分を超えても還元反応を短時間化するなどの効果がなく、コスト増となるのみである。
【0045】
また、還元温度が550℃を超えると、還元された還元ニッケル粉が還元中に焼結し、結果として所望の粒径を精度良く得ることができない場合がある。対して300℃未満の温度では、酸化ニッケル粉から還元ニッケル粉への還元が十分に進まないことがある。
還元時間は特に限定されるものではなく、還元時に流す水素量、還元温度、投入する酸化ニッケル粉の量により、全ての酸化ニッケル粉が還元ニッケル粉に還元されるのに必要な時間とすればよく、所望の粒径が得られるように時間を制御することが好ましい。
【0046】
焙焼および還元に用いる設備は、雰囲気を制御できれば特に制限はなく、例えば、バッチ式雰囲気炉、連続式ローラーハースキルン、連続式プッシャー炉などを用いることができる。
【0047】
[洗浄工程]
洗浄工程は、還元工程で得られた還元ニッケル粉を還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄する工程である。洗浄時の水量が還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル未満の場合、還元ニッケル粉表面にある不純物イオンを十分に除去できず、また、還元ニッケル粉表面を充分に濡らすことができないために、水酸基量が0.020未満となってしまう。一方、洗浄時の水量の上限は、還元ニッケル粉1gに対して0.1リットル以下とすることが好ましい。洗浄時の水量が0.1リットルを超えても洗浄効果に改善は無く、コスト増となるのみである。
【0048】
洗浄方法は、特に限定されるものではないが、例えば、規定量の水と還元ニッケル粉を混合してスラリー化し撹拌すればよい。ここで、洗浄に用いる水は、不純物混入の虞がないものがよく、純水が好ましい。また、洗浄に用いる設備は、ニッケル粉をスラリー化して攪拌できれば特に制限されるものではなく、攪拌機のついた槽や、それに類似した構造を持つ設備を用いることが出来る。水洗の条件も、粉体の水洗等で通常行なわれる条件に設定すればよい。還元ニッケル粉をスラリー化し撹拌した後は、ろ過などの通常の方法で、固液分離される。
【0049】
[乾燥工程]
乾燥工程は、洗浄した還元ニッケル粉を120〜180℃の温度で乾燥してニッケル粉を得る工程である。本発明の製造方法においては、洗浄工程における水量とともに、この乾燥温度が水酸基量を制御するために重要である。
【0050】
すなわち、乾燥温度が120℃未満であると、乾燥が進まず、ニッケル粉表面の水酸基が増えて、水酸基量が0.028を超えてしまう。その乾燥温度が180℃以上では、ニッケル粉表面の水酸化物が分解するとともに酸素量が増加してニッケル粉表面の水酸基が減り、水酸基量が0.020未満となる。
この乾燥温度を120〜180℃とすることで、水酸基量を0.020〜0.028に制御することができ、ペーストに用いた場合の粘度の安定性が良好なニッケル粉が得られる。
【0051】
乾燥の雰囲気は、特に制限されるものではないが、表面の水酸基量の制御およびコスト面を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。還元雰囲気で乾燥させると、表面の水酸基量が過度に減少することがあるため、好ましくない。
【0052】
乾燥する時間は、特に制限されるものではなく、得られるニッケル粉の含有水分が十分に減少し、表面の水酸基量が所望の値となるように、乾燥温度、投入する酸化ニッケル粉の量により、調整すればよい。また、乾燥に用いる設備は、所望の温度で乾燥できれば特に制限は無く、静置式箱型乾燥器、流動層乾燥器、ミキサー型乾燥器、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、プッシャー炉などを用いることが出来る。
【0053】
各工程中に生成した凝集粉の解砕あるいは工程中に混入した異物を除去する目的から、各工程中で乾式または湿式による遠心力やフィルターを用いた解砕や分級を行なってもよい。用いられる装置は特に限定されるものではなく、通常のニッケル粉の製造に用いられるジェットミルやサイクロン形式の装置が使用される。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を用いて詳細に説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。
【0055】
なお、ニッケル粉の評価は以下のようにして行なった。
(a)比表面積
比表面積計(ユアサアイオニクス社製マルチソーブ16)によるBET1点法で測定した。
【0056】
(b)水酸基の吸光度
分光計(日本分光社製FT/IR680Plus(V))による真空拡散反射法でピーク高さを測定した。
【0057】
(c)粘度比
ターピネオールに対し20質量%のエチルセルロースをに投入し、撹拌しながら80℃に加熱して溶解液を作製し、この溶液を、ニッケル粉に対し18質量%、またターピネオール29質量%を混合し、3本ロールミルにて混練することで、導電ペーストとした。これを粘度計(BROOKFIELD社製HAT)で1rpmの時の粘度および100rpmの時の粘度を測定し、その比を算出した。
粘度比維持率は、導電ペースト製造して密閉容器に室温保管した1日後の値で30日後の値を除することにより算出した。
【0058】
(d)平均粒径
走査型電子顕微鏡(JSM−5510、日本電子製)を用いて、10,000倍の写真を撮影し、写真一視野で確認できる全ての粒子の粒径を測定して、個数平均で求めた。
【実施例1】
【0059】
100gの塩化ニッケル6水和物(試薬1級、和光純薬製)と塩化マグネシウム6水和物(試薬1級、和光純薬製)0.2g(これは、水酸化ニッケル中Mg含有量0.06質量%に相当する)を純水250mlに溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。次いで、水酸化ナトリウム(試薬1級、和光純薬製)35.5gを純水250mlに溶解した溶液を前記塩化ニッケル水溶液に添加し、生成した水酸化物をろ過した。さらに、これを1リットルの純水で水洗し、再びろ過した(以下、本操作を「ろ過水洗」と呼ぶ)。同様にろ過水洗を4回繰り返した後に、箱型大気乾燥機(DX601、ヤマト科学製)で150℃、48時間の乾燥を行い、水酸化ニッケル粉を得た。
【0060】
得られた水酸化ニッケル粉を解砕した後、バッチ式雰囲気炉(管状炉、入江製作所製)を用いて乾燥水酸化ニッケル粉1gあたり窒素ガス流量を0.003リットル/分とし、450℃で1時間保持して酸化焙焼して酸化ニッケル粉を得た。
さらに、前記バッチ式雰囲気炉を用いて、酸化ニッケル粉を、酸化ニッケル粉1gあたり0.003リットル/分の水素ガスと同量の窒素ガスを混合して流した雰囲気炉中に450℃で2時間保持して還元ニッケル粉を得た。
【0061】
得られた還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gあたり0.03リットルの純水と混合してスラリーとし、30分間撹拌して洗浄後、ろ過した。洗浄後の還元ニッケル粉を箱型大気乾燥機(DX601、ヤマト科学製)を用いて乾燥温度120℃、48時間の条件で乾燥した。乾燥後解砕して、100メッシュの篩にかけてニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【実施例2】
【0062】
還元ニッケル粉1gあたり0.1リットルの純水と混合してスラリーとしたこと、乾燥温度を180℃としたこと以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【実施例3】
【0063】
還元ニッケル粉1gあたり0.06リットルの純水と混合してスラリーとしたこと、乾燥温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【実施例4】
【0064】
還元ニッケル粉1gあたり0.05リットルの純水と混合してスラリーとしたこと、乾燥温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【実施例5】
【0065】
乾燥水酸化ニッケル粉1gあたり窒素ガス流量を0.005リットル/分とし、470℃で酸化焙焼したこと、酸化ニッケル粉1gあたり0.02リットル/分の水素ガスと同量の窒素ガスを混合して流し、470℃で保持したこと、還元ニッケル粉1gあたり0.1リットルの純水と混合してスラリーとしたこと以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【0066】
(比較例1)
洗浄工程において、還元ニッケル粉1gあたり0.01リットルの純水と混合してスラリーとしたこと、および乾燥工程の乾燥温度を150℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【0067】
(比較例2)
乾燥工程の乾燥温度を100℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【0068】
(比較例3)
洗浄工程において、還元ニッケル粉1gあたり0.2リットルの純水と混合してスラリーとしたこと、および乾燥工程の乾燥温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。表1に酸化焙焼工程以後の製造条件を示し、表2に得られたニッケル粉の評価結果を示す。
【0069】
【表1】


【0070】
【表2】


【0071】
表1、表2の実施例から明らかなように、本発明のニッケル粉は、ペーストの粘度維持率が高く、したがって粘度安定性が高いことがわかる。また、実施例5は、酸化焙焼時の焙焼温度が470℃と高めであることから、次工程の還元温度も高くなるため、実施例1から4に比べて粘度維持率が少し低下しているが、本発明の洗浄条件および乾燥条件による洗浄、乾燥を施すことにより、比較例に比して良好な粘度維持率が得られることが伺える。
【0072】
これに対して、還元ニッケル粉を洗浄する水量が少ない比較例1、乾燥温度が低い比較例2、乾燥温度が高い比較例3のニッケル粉では、ペーストの粘度維持率が低く、粘度安定性が劣っていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元してニッケル粉を形成するニッケル粉の製造方法において、
前記酸化ニッケル粉の還元により形成される還元ニッケル粉を、還元ニッケル粉1gに対して0.03リットル以上の水量で洗浄した後、120〜180℃の温度で乾燥することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
還元ニッケル粉の洗浄後の前記乾燥が、大気雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化ニッケル粉が、マグネシウムを0.002〜1質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
ニッケル粉の表面に存在する水酸基の真空拡散反射法における吸光度が、前記吸光度を前記ニッケル粉の比表面積で規格化した値において、0.020〜0.028の範囲であることを特徴とするニッケル粉。
【請求項5】
前記ニッケル粉が、水酸化ニッケル粉を酸化焙焼して酸化ニッケル粉とし、得られた酸化ニッケル粉を還元した後、洗浄、乾燥を経て形成されるニッケル粉であることを特徴とする請求項4に記載のニッケル粉。
【請求項6】
前記ニッケル粉が、マグネシウムを0.003〜1.6質量%含有することを特徴とする請求項4または5に記載のニッケル粉。

【公開番号】特開2011−84762(P2011−84762A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236539(P2009−236539)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】