説明

ニッケル粉末およびその製造方法

【課題】ニッケル粉末の平均粒径が小さく、かつニッケル粉末の粒径が均一で、さらに焼結開始温度が高く、導電ペーストにおける分散性および内部電極とした場合の平坦性に優れたニッケル粉末を提供すること。
【解決手段】酸化クロムおよび/または水酸化クロムを含有するニッケル粉末であって、該ニッケル粉末を用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でスクリーン印刷し、焼成して、ニッケル塗膜を形成した場合に、該ニッケル塗膜の緻密率が50%以上となるニッケル粉末である。このニッケル粉末は、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該溶液と還元剤とアルカリ性物質とを混合してアルカリ性コロイド溶液を作製し、該溶液にクロム塩とニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ペーストの材料として用いられるニッケル粉末およびその製造方法に関する。該導電ペーストは、積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitors;「MLCC」とも称される)、多層セラミック基板などの積層部品における内部電極用、その他の電子回路形成用の厚膜導電体として用いられる。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、電子回路に用いられており、積層セラミックコンデンサの構造は、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なり、両端に外部電極が設けられた構造となっている。積層セラミックコンデンサの内部電極層の材料として、従来、銀やパラジウムなどの貴金属が用いられてきたが、現在では、低価格なニッケルへの転換が進んでいる。
【0003】
この積層セラミックコンデンサは、一般的には微細なニッケル粉末を含む導電ペーストを、アルミナ基板あるいはグリーンシートなどからなる誘電体層の上にスクリーン印刷し、複数層積層した後、還元性雰囲気下で焼成し、所定サイズに切断し、外部電極を設けることによって、製造されている。なお、導電ペーストは、微細なニッケル粉末とエチルセルロース等の樹脂とターピネオール等とを有機溶剤等に混練して製造される。
【0004】
ところで、電子機器においては、高性能化、小型化、高容量化、高周波化が進んでいる。このため、電子回路の設計においては、多層化、薄層化が進むとともに、異種材料による高積層化も進んでおり、上記積層セラミックコンデンサにおいても、これに対応した薄層化が進められている。よって、これを構成する誘電体層および内部電極層についても薄層化を図ることが必要となってくる。具体的に示すと、積層セラミックコンデンサの誘電体層の薄層化に伴い、焼成後の積層セラミックコンデンサの内部電極の厚さは、現在1〜3μm程度にまで薄くなってきており、さらに1μm以下の厚さのものまでも提供され始めている。
【0005】
特に、誘電体上にスクリーン印刷される内部電極の薄層化を図るためには、内部電極となるニッケル塗膜の印刷用導電ペーストに含まれるニッケル粉末の粒径を小さくする必要がある。このため、積層セラミックコンデンサの内部電極用導電ペーストに用いられるニッケル粉末として、平均粒径が0.2〜0.4μmの球状のニッケル粉末が用いられている。
【0006】
しかし、このように粒径が小さいニッケル粉末を用いると、以下のような問題が生ずる。
【0007】
薄層の内部電極を作製する際には、上記の通り還元性雰囲気下における焼成工程が不可欠であるが、平均粒径が0.4μmより小さいニッケル粉末の焼結開始温度は500℃程度である。これは、誘電体材料の焼結開始温度が1000℃程度に対して、非常に低い温度である。従って、誘電体層の焼結のために加熱を行うと、ニッケル粉末の焼結が必要以上に進行してしまう。この結果、ニッケル塗膜は分断され、島状になるという問題が生じる。この傾向は、電極のニッケル塗膜の厚さが薄くなるほど、また、使用する粉末の粒径が小さくなるほど、顕著となる。このように電極が島状に途切れた場合は、内部電極として機能しない。
【0008】
そこで、かかる問題を解決する方法として、以下の提案がなされている。
【0009】
例えば、特許文献1では、複合酸化物を形成することができる熱分解性化合物とニッケル原料とを含む溶液を、高温加熱されたセラミック管中に噴霧し、加熱分解させて表面が複合酸化物でコーティングされたニッケル粉末を得ることにより、ニッケル粉末の焼結開始温度を誘電体層の焼結温度にできる限り近づけ、その収縮挙動を誘電体層のセラミックと近似させることを可能としている。しかし、この方法では複合酸化物の被覆状態を均一にすることが難しく、またペースト化の過程で、表面の複合酸化物層が剥離するなどし、焼結の抑制効果が満足に得られないことが多い。
【0010】
特許文献2では、原子番号が12〜56、82の範囲内で周期表の2〜14族に属する金属元素の少なくとも1種類を含む酸化物および複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種類がその表面に固着している複合ニッケル微粉末およびその製造方法が開示されている。これによれば、ニッケル微粉末の急激な熱収縮開始温度をより高温側へシフトさせることにより、ニッケル粉末の島状焼結を抑えることができるとされている。しかし、ニッケル粉末の表面に均一に酸化物層を形成させることは非常に難しく、またペースト化工程で、表面の酸化物や複合酸化物が剥がれてしまい、焼成時に、酸化物層の破壊が起こった箇所から焼結が始まるため、焼結温度を十分高温側へシフトさせることができない。
【0011】
特許文献3には、ニッケル電極と誘電体の大幅な焼結温度差、焼成工程での電極の割れや剥離、あるいは誘電体の焼成不良などの問題を解消するために、クロムなどの金属塩をニッケル塩化物とともに揮発させ、気中還元することにより粒度の揃った球状のニッケル合金粉末を得て導電ペーストを製造することが開示されている。この製造方法では、ニッケル粉末自身の焼結開始温度を高温側にシフトさせることができるが、それでも収縮の開始する温度は540℃程度であり、それ以上の温度域においては合金化されていないニッケル粉末と同等の収縮率を示している。
【0012】
また、より一層薄い内部電極を製造する場合、以下のような問題がある。
【0013】
良好な薄い内部電極を得るための条件として、ニッケル粉末の焼結開始温度だけでなく、ニッケル粉末の分散性や内部電極表面の平坦性なども重要な要素となる。平坦性が重要な要素となるのは、内部電極層が薄い積層セラミックコンデンサは、誘電体層も非常に薄い場合が多く、内部電極の表面に凹凸があると、積層セラミックコンデンサ製造時の積層工程から圧着工程において、内部電極表面の凸部がその上に積層された誘電体層を突き抜けてしまい、内部電極のショート不良が発生しやすくなるからである。
【0014】
この内部電極表面の平坦性は、電極作製に用いる粉末が有する分散性や粒径の均一性に非常に大きく影響を受ける。分散性の悪い粉末や粒径の揃っていない粉末を用いると、粉末の凝集により、内部電極表面に凹凸が形成されやすく、かかる平坦性が悪化するおそれがある。
【0015】
従って、上記したような平均粒径の小さいニッケル粉末を用いたとしても、ニッケル粉末の分散性が悪かったり、粒径が均一でなかったりする場合には、粉末が凝集してしまい、ニッケル塗膜の厚さが不均一になり、塗膜表面に凸部ができてしまうなど、薄層の積層セラミックコンデンサの製造に支障を来たす場合がある。
【0016】
ちなみに、従来より小粒径のニッケル粉末は、乾燥凝集などにより分散性が悪化したり、粒径が不均一となったりする傾向がある。これらを起因として、内部電極表面に凹凸が形成されたり、内部電極に粗大粒子が存在していたりすると、積層時に凸部や粗大粒子が誘電体層にめり込み、最悪の場合、誘電体層を突き抜けるなどの現象が発生し、ショート不良の発生などの原因となる。
【0017】
よって、このようなニッケル粉末を用いる場合には、内部電極の平坦性に対する配慮が重要となる。
【0018】
このような課題を解決するため、特許文献4に、所定濃度の塩化ニッケル水溶液に所定量のヒドラジンを還元剤として加えて反応させることにより、小粒径で分散性の良いニッケル粉末を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、分散性の良いニッケル粉末を得るために、液中のニッケル濃度を低くする、あるいはヒドラジン濃度を著しく高めるなど、還元条件の調整が必要であり、また、平均粒径が0.3μmよりも小さいものを安定して製造することは、還元条件を最適化しても、困難である。
【特許文献1】特開平11−124602号公報
【特許文献2】特開2000−282102号公報
【特許文献3】特開2002−60877号公報
【特許文献4】特開平06−336601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、焼結開始温度を高温側にシフトさせて、焼成に際して電極途切れを防止でき、かつ、導電ペーストにおける分散性および内部電極とした場合の平坦性に優れた導電ペースト用にニッケル粉末は、未だ提案されていない。
【0020】
上記現状に鑑みて、本発明は、積層セラミックコンデンサの薄層化を可能とするニッケル粉末含有の導電ペーストを提供することを目的とし、具体的には、ニッケル粉末の平均粒径が小さく、かつニッケル粉末の粒径が均一で、さらに焼結開始温度が高く、導電ペーストにおける分散性および内部電極とした場合の平坦性に優れたニッケル粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の導電ペーストは、酸化クロムおよび/または水酸化クロムを含有するニッケル粉末であって、該ニッケル粉末を用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でスクリーン印刷し、焼成して、ニッケル塗膜を形成した場合に、該ニッケル塗膜の緻密率が50%以上となることを特徴とする。
【0022】
該ニッケル粉末の平均粒径は、0.05〜0.4μmであることが好ましい。
【0023】
本発明の導電ペーストの製造方法は、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とニッケル塩水溶液を同時添加して、または、クロム塩を含有させたニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることが好ましい。
【0024】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記クロム塩の量を0.01〜5質量%とすることが好ましい。
【0025】
また、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記パラジウムの量を1〜5000質量ppmとすることが好ましい。
【0026】
さらに、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記銀の量を0.01〜50質量ppmとすることが好ましい。
【0027】
また、前記アルカリ性コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤を添加し、前記複合コロイド粒子を分散させることが好ましい。
【0028】
該保護コロイド剤の添加量は、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、1〜5000質量ppmとすることが好ましい。
【0029】
該保護コロイド剤としては、ゼラチンを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のニッケル粉末は、平均粒径が小さいにも拘わらず、焼結開始温度が高いため、焼成時における内部電極膜の焼結を抑制することができる。また、均一な粒径を有し、導電ペースト内において良好な分散性を備える。
【0031】
よって、かかるニッケル粉末を含む導電ペーストを用いれば、積層セラミックコンデンサ製造時においてニッケル塗膜が島状に途切れることがない高い緻密率を有し、かつ、平坦性を備え、内部電極の作製不良によるショート等の障害が生じないため、高品質の内部電極を歩留まりよく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明に係るニッケル粉末は、酸化クロムおよび/または水酸化クロムが含有されており、かつ、該ニッケル粉末を、アルミナ基板上に0.45mg/cm2の塗布重量でスクリーン印刷し、ニッケル塗膜を形成した場合に、該ニッケル塗膜の緻密率が50%以上となることを特徴とする。
【0033】
ここで、緻密率とは、以下のように算出されるものである。
【0034】
まず、エチルセルロース(20質量%)をターピネオール(80質量%)に投入し撹拌しながら80℃に加熱してエチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作製する。続いて、この溶液45質量%と、本発明のニッケル粉末40質量%と、ターピネオール15質量%とを、3本ロールミルにて混練し、導電ペーストを作製する。
【0035】
2.54cm(1インチ)角のアルミナ基板上に0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でニッケル塗膜をスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させる。このアルミナ基板について弱還元性(N2/H2)雰囲気中にて、10℃/minの昇温速度で1250℃まで昇温して焼成を行う。焼成後のニッケル塗膜が形成されたアルミナ基板に対して、その印刷面の背面側よりライト照明光を照射して、光学顕微鏡で印刷面の光の透過状況を倍率400倍、縦160μm×横230μmで撮影し(図2参照)、撮影した個々の画像において、透過光の占有面積をそれぞれ測定して、以下の式に従い緻密率を算出する。
【0036】
緻密率(%)=(全撮影面積−透過光面積)/(全撮影面積)×100
【0037】
なお、ニッケル塗布重量は、緻密率測定後にアルミナ基板上のニッケル塗膜を酸溶解させた後、アルミナ基板を乾燥させ、ニッケル塗膜の酸溶解前後のアルミナ基板の重量差から算出する。
【0038】
また、上記のように、緻密率は測定した透過光面積に基づいて算出されるものであるが、かかる透過光面積は、透過光の有無によってアルミナ基板上のニッケル粉末の存在箇所を確認することにより得られる。すなわち、透過光のない部分は、ライト照明光がニッケル粉末に阻まれて透過できない状態であり、当該箇所にニッケル粉末が存在していることを示しており、逆に、透過光のある部分は、ライト照明光がニッケル粉末に阻まずに透過している状況であり、当該箇所にニッケル粉末が存在していないことを示しているので、ニッケル粉末の存在箇所を確認することができる。
【0039】
以下、本発明の導電ペーストに用いるニッケル粉末について、詳細に説明する。
【0040】
本発明のニッケル粉末は、上記アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とニッケル塩水溶液とを同時に添加、または、アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩を含有させたニッケル塩水溶液を添加することにより製造されるものであるが、クロムは水酸化クロムや酸化クロムとして析出し、ニッケル粒子生成時にその内部に取り込まれていくと考えられる。
【0041】
このように、水酸化クロムや酸化クロムは、ニッケル粉末の内部に取り込まれ、そのまま粉末内部に留まって含有されるため、ペースト化工程において、水酸化クロムや酸化クロムがニッケル粉末から剥がれたり欠落したりすることはない。さらに、焼結時においても、これらの水酸化クロムや酸化クロムは、ニッケル粉末の内部に存在しているため、ニッケルの焼結に伴ってニッケル粉末の界面に濃縮することがほとんどなく、ニッケル塗膜中に留まり続ける。
【0042】
このようにニッケル塗膜中に存在し続けることにより、水酸化クロムや酸化クロムは、ニッケル粉末内のニッケル微粒子同士の接触箇所を減少させる共に、ニッケル原子の動きを妨げ、物理的にニッケルの焼結を阻害して、焼結開始温度を高温側にシフトさせる。その結果として、ニッケル粉末からなる該内部電極膜の焼結が高温になるまで抑制され、該内部電極膜が島状に孤立する(途切れる)現象が抑制されると考えられる。
【0043】
しかし、ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、クロム塩の添加量が0.01質量%未満では、電極が島状になるのを抑制する効果がほとんど現れない。また、添加量が5質量%を超えるとその効果が頭打ちとなり、含有量の増加に伴う大きな効果は得られないため、費用対効果の面から、その添加量の上限を5質量%とする。従って、クロム塩の添加量としては、0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
【0044】
なお、粉末中に含まれるクロム量は、反応時に添加するクロム塩量と比例関係にあり、粉末製造後におけるクロム含有量は、クロム塩の添加量に対して4〜6割程度である。従って、粉末中へのクロム量を多くしたい場合には、その反応時に添加するクロム塩量を多くすればよい。
【0045】
上記見解を検証すべく、クロム塩の添加を行わずに得られ、従来用いられてきた0.4μmのニッケル粉末を用いて、塗布重量0.45mg/cm2のニッケル塗膜を形成したところ、該ニッケル塗膜の緻密率は約30%程度であった。この0.45mg/cm2はニッケル塗膜の厚さで0.5μmに相当する塗布重量であるが、前述したように、この塗布重量ではニッケル塗膜の島状途切れが発生し、内部電極が導通しなくなるため、積層セラミックコンデンサは静電容量を得ることができなかった。
【0046】
本発明のニッケル粉末の平均粒径は、0.05〜0.4μmの範囲内にあることが好ましい。かかる平均粒径が、0.4μmを超えると、かかる粉末を用いて作製した内部電極の厚さを1μm程度まで薄くすることが不可能となる。内部電極の一層の薄膜化を達成するためには、かかる平均粒径を小さくすることが好ましいが、0.05μm未満となると、粉末が有する凝集力が大きくなり過ぎ、ペースト化することが非常に困難となるという問題が生じ、好ましくない。なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において、所定範囲内にあるニッケル粒子のすべての粒径を測定することにより、求めることができる。
【0047】
かかる平均粒径は、後述の通り、ニッケル粉末の各粒子における核を、ニッケルではなく、パラジウムにより形成し、該パラジウムの核にニッケルが析出して、粒子を形成することにより達成される。
【0048】
また、本発明におけるニッケル粉末の粒径のばらつき(均一性)は、画像処理によって粒子一つ一つについてその粒径を測定し、その測定結果に基づいて全ての粒径について頻度を集計して、測定された一つ一つの粒径について、粒径をX軸、頻度をY軸にとった場合の粒径分布グラフを作成することにより求めた。このグラフの最小粒径と最大粒径との間において最小粒径から10%の位置の頻度の粒径(d10)および90%の位置の頻度の粒径(d90)を算出し、その比率(d10/d90)を算出することにより粒径のばらつき(均一性)を求めることができる。かかる算出により得られた比率は、0.3以上であることが望ましい。比率(d10/d90)が0.3以上であることは、粒径頻度分布において、粒子サイズのばらつきが小さく、均一粒子径からなる粉末であることを意味する。
【0049】
粒径の均一性については、後述の製造方法によって、ニッケル粉末の粒径を微細化し、分散性を向上させることにより、粗大粒子および連結粒子の生成を抑制することで、達成される。
【0050】
次に、本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造方法について、詳細に説明する。
【0051】
本発明では、まずパラジウムと銀からなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製する。該コロイド溶液は、パラジウム塩水溶液と銀塩水溶液を所定量混合して作製する。
【0052】
パラジウム量は、後にニッケル塩水溶液として添加するニッケル量に対して質量比で1〜5000質量ppmとすることが好ましい。パラジウム量が1質量ppm未満では、核となるコロイド粒子の数が少なくなり、得られるニッケル粒子の粒径が大きくなってしまう場合がある。一方、パラジウム量を5000質量ppmよりも多くしても、得られるニッケル粒子の微細化に対するさらなる効果が殆ど見られず、さらに高価な貴金属を大量に使用することとなるため、コストパフォーマンスが悪くなる。また、平均粒径が小さくなり過ぎると凝集力が大きくなるために、ペースト中に分散させることが難しくなり、その結果、凝集した状態での積層セラミックコンデンサを製造することとなり、誘電体層への突き抜けなどにより、ショート不良などが発生する原因となる。
【0053】
また、銀量は、後に添加するニッケル量に対して0.01〜50質量ppmとすることが好ましい。パラジウムと銀を複合させてコロイド粒子とした場合、銀は少量で、ニッケル粒子の粗大粒子および連結粒子の生成を抑制する効果を発揮する。これは、銀が入ることによってパラジウムが微細化し、核として作用するコロイド粒子の数が増加するためであると考えられる。銀量が0.01質量ppm未満では、上記効果が殆ど得られない場合があり、50質量ppmより多くしても、得られるニッケル粒子の微細化に対するさらなる効果が殆ど見られない。
【0054】
ここで、パラジウム塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウムまたは硫酸パラジウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液をパラジウム塩水溶液として用いればよく、これらの中では、液調整が容易な塩化パラジウムを含む水溶液を用いるのが最も好ましい。
【0055】
一方、銀塩水溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液を用いることができる。
【0056】
次に、該コロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製する。アルカリ性コロイド溶液の作製方法、すなわち、アルカリ性の還元剤溶液中にパラジウムと銀の複合コロイド粒子を分散させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、パラジウムと銀の複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製した後に、該コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を加えたり、あるいは、コロイド溶液とアルカリ性物質を加えた還元剤溶液を個別に作製し、これらの溶液を混合したりする方法などが挙げられる。一般的には、コロイド溶液をアルカリ性の還元剤溶液に滴下することにより行う。
【0057】
また、コロイド溶液を還元剤溶液を混合する際に、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子をより分散させるため、例えば還元剤溶液に保護コロイド剤を添加しておくことが好ましい。
【0058】
該保護コロイド剤としては、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子を取り囲み、保護コロイドの形成に寄与するものであればよく、ゼラチンが最も好ましいが、その他、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール等を保護コロイド剤として用いることもできる。
【0059】
なお、前記ゼラチン等の保護コロイド剤の添加量は、ニッケル塩水溶液として添加されるニッケル量に対して、1〜5000質量ppmとすることが好ましい。保護コロイド剤の添加量が1質量ppm未満であると、保護コロイドの形成が不十分となり、コロイド粒子が凝集してしまうことがあり、還元したニッケル粉末中に粗大粒子や連結粒子が発生するおそれがある。また、該添加量が5000質量ppmよりも多くなると、保護コロイドが多くなりすぎ、未還元のニッケルが残留するおそれがある。
【0060】
本発明において用いる還元剤は、特に限定されるものではなく、前述のように、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン化合物および水素化ホウ素ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶性ヒドラジン化合物を用いて作製したヒドラジン水溶液等を用いることが好ましい。これらの還元剤の中では、特に成分に不純物が少ない点で、ヒドラジン(N24)が最も好ましい。
【0061】
また、コロイド溶液と混合する前記アルカリ性物質も、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニア等の水溶性アルカリ性物質であればよい。本発明においては、これらの水溶性アルカリ性物質と、ヒドラジン、ヒドラジン水和物等の水溶性ヒドラジン化合物とを純水中で混合して、アルカリ性のヒドラジン水溶液を作製し、アルカリ性還元溶液として用いることができる。
【0062】
なお、前記アルカリ性の還元剤溶液としては、水酸化ナトリウムとヒドラジン水和物との混合溶液が好ましいが、該混合水溶液のpHが10未満では、反応速度が遅くなり、ニッケルの還元析出が起こりにくくなってしまうため、pHが10以上に調整された該混合水溶液を用いるのが特に好ましい。
【0063】
本発明は、上述のようにアルカリ性コロイド溶液にクロム塩とニッケル塩水溶液とを同時に添加、またはアルカリ性コロイド溶液にクロム塩を含有させたニッケル塩水溶液を添加することにより製造されるニッケル粉末であり、その製造における特徴としては、ニッケル塩水溶液を添加する前に、予めアルカリ性コロイド溶液中に、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子を分散させておくことであるが、該アルカリ性コロイド溶液を用いることによって、還元生成するニッケル粒子の粒径が均一化し、微細化する機構については、詳細は不明である。しかし、該機構は以下のように推測される。
【0064】
パラジウムと銀は、ニッケルよりも酸化還元電位が高いため、ニッケル粒子析出の際に核となり、この核にニッケルが析出し、成長して、ニッケル粒子になると考えられ、従ってニッケル核は生成せずに、ニッケル粒子が生成していると推測される。
【0065】
また、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が、均一に単分散状態のままアルカリ性コロイド溶液中で存在しているために、ニッケル塩水溶液を添加すると、上記のように核となるコロイド粒子に対してニッケルは均等に核成長を起こしやすいと考えられる。
【0066】
さらに、パラジウムのみならず、銀を添加することにより、パラジウムの凝集が抑制されるため、粗大粒子や連結粒子の形成が抑制され、パラジウムと銀の添加量を所定の範囲内に制御することによって、粒径がより均一で、単分散状態のパラジウムと銀からなる複合コロイド粒子が生成される。
【0067】
加えて、所定範囲内の量の保護コロイド剤を添加して保護コロイドを形成することにより、複合コロイド粒子の凝集が一層抑制され、単分散状態が促進される。
【0068】
このため、生成したニッケル粒子は、均一な粒径で、単分散状態になり、粗大粒子や連結粒子となるニッケル粒子が形成されにくくなると考えられる。
【0069】
また、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子は、上述のようにニッケル析出の際にニッケル粒子の核となるため、複合コロイド粒子数の多少に伴いニッケル粒子の核の数も変化することとなる。従って、アルカリ性コロイド溶液中に多くの複合コロイド粒子が存在する場合には、多数の核に分散してニッケルが析出しニッケル粒子となるため、それぞれの核に析出するニッケルはあまり成長せず、個々のニッケル粒子の粒径は微細化しやすい。逆に、アルカリ性コロイド溶液中に存在する複合コロイド粒子の数が少ない場合は、核の数も少数となるため、それぞれの核に析出するニッケルが多くなり、核成長が進んでしまい、個々のニッケル粒子の粒径は粗大化しやすくなると考えられる。
【0070】
このように、ニッケル塩水溶液からニッケルを還元析出するに際して、ニッケルの還元析出の核となり、かつ、ニッケル粒子の核成長を促進する還元助剤として、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子を用い、さらにこの複合コロイド粒子の数を制御することによって、生成されるニッケル粒子の粒径を均一化および微細化することができると考えられる。
【0071】
本発明に用いるニッケル塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケルおよび硫酸ニッケル等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液を用いることができる。ただし、これらの水溶液の中では、特に廃液処理が簡易にできる塩化ニッケル水溶液が好ましい。
【0072】
本発明に使用するクロム塩は、その反応工程から水溶性であることが望ましく、硝酸クロム、硫酸クロム、硫化クロム、酸化クロムを用いることもできるが、特に塩化クロムが好適である。
【0073】
なお、該クロム塩は、ニッケル粒子生成反応時において、ニッケル塩水溶液と同時にアルカリ性コロイド溶液に添加してもよいし、アルカリ性コロイド溶液に添加するニッケル塩水溶液に予め添加してもよい。
【0074】
本発明のニッケル粉末は、上記特性を備えることによって、平均粒径が小さいにも拘わらず、焼結開始温度が高いため、焼成時における内部電極膜の焼結を抑制することができる。また、均一な粒径を有し、導電ペースト内において良好な分散性を備える。
【0075】
よって、かかるニッケル粉末を含む導電ペーストを用いれば、積層セラミックコンデンサ製造時においてニッケル塗膜が島状に途切れることがなく、内部電極の作製不良によるショート等の障害が生じない。緻密率の高い高品質の内部電極を歩留まりよく作製することができる。また、ニッケル塗膜の平坦性も良好である。
【実施例】
【0076】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0077】
本発明の実施例および比較例の評価は以下のように行った。
【0078】
(平均粒径)
平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察に基づいて粒径を測定して得たものである。具体的には、以下の通りである。20,000倍のSEM写真(縦4.5μm×横6.5μm)に対角線を引く。その対角線の両側にその対角線から0.5μm離れた位置にその対角線と平行に2本の線を引く。引かれた2本の線の間隔は1μmとなる。そして、引かれた2本の線の間に全体が含まれているニッケル粉末粒子の全ての粒径を測定し、それらに基づいて平均粒径を求めた。
【0079】
(粒径のばらつき(均一性))
粒径のばらつきの測定は、画像処理によって行った。まず、SEMにて1万倍にて観察したSEM画像を画像処理により粒子一つ一つについてその粒径を測定した。次に、測定された一つ一つの粒径について、粒径の頻度分布のグラフにおいて最も小さい粒子サイズから10%の位置にあたる頻度の粒径(d10)および90%の位置にあたる頻度の粒径(d90)を算出し、その比率d10/d90を算出した。
【0080】
(緻密率)
緻密率の算出は、以下のように行った。
【0081】
まず、エチルセルロース(20質量%)をターピネオール(80質量%)に投入し撹拌しながら80℃に加熱してエチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作製した。続いて、この溶液45質量%と、得られたニッケル粉末40質量%と、ターピネオール15質量%とを、3本ロールミルにて混練し、導電ペーストを作製した。
【0082】
該導電ペーストを用いて、2.54cm(1インチ)角のアルミナ基板上に0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でニッケル塗膜をスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させた。このアルミナ基板について、弱還元性(N2/H2)雰囲気中にて、10℃/minの昇温速度で1250℃まで昇温して焼成を行った。焼成後のニッケル塗膜が形成されたアルミナ基板に対して、その印刷面の背面側よりライト照明光を照射して、光学顕微鏡で印刷面の光の透過状況を倍率400倍、縦160μm×横230μmで撮影し(図2参照)、撮影した個々の画像における透過光の占有面積をそれぞれ測定して、以下の式に従い、緻密率を算出した。
【0083】
緻密率(%)=(全撮影面積−透過光面積)/(全撮影面積)×100
【0084】
また、ニッケル塗布重量を、緻密率測定後にアルミナ基板上のニッケル塗膜を酸溶解させた後、アルミナ基板を乾燥させ、ニッケル塗膜の酸溶解前後のアルミナ基板の重量差から算出した。
【0085】
(算術平均表面粗さ)
前記ニッケルインクを用いて2.54cm(1インチ)角のアルミナ基板上にニッケル塗膜をスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させ、10mm角、膜厚1μmの乾燥膜を作製した。この乾燥膜について算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。
【0086】
なお、該算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−1994の規格に基づいて測定したものである。合否の判定は、通常用いられている0.4μmのニッケル粉末の算術平均表面粗さ(Ra):0.12μmを基準として行い、測定の結果0.12μm以下であるものを合格とすることとした。
【0087】
(実施例1〜11)
パラジウムと微量の銀からなる複合コロイド溶液に、保護コロイド剤であるゼラチンとアルカリ性物質とヒドラジンとを混合し、ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液を作製した。
【0088】
ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液の作製は、具体的には次のようにした。まず、6Lの純水にゼラチンを溶解させた後、ヒドラジンの濃度が0.02g/Lとなるようにヒドラジンを混合した。次に、パラジウムと微量の銀の混合溶液を作製し、ゼラチンと還元剤であるヒドラジンが含まれる前記溶液に滴下して、コロイド溶液とした。このコロイド溶液にアルカリ性物質である水酸化ナトリウムを加え、pHを10以上とした後、さらにヒドラジンの濃度が26g/Lとなるまでヒドラジンを加え、パラジウムと微量の銀からなるコロイドが混合されたアルカリ性コロイド溶液を作製し、ニッケルを還元するための溶液とした。
【0089】
上記アルカリ性コロイド溶液におけるパラジウム、銀、ゼラチンの含有量は、ニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム:1〜5000質量ppm、銀:0.01〜50質量ppm、ゼラチン:1〜5000質量ppmの範囲内でそれぞれ変化させた。なお、溶液中のパラジウムおよび銀の含有量は、ICP発光分光分析法より計測した。これらの添加量を表1にそれぞれ示す。
【0090】
さらに、塩化ニッケルを予め溶解させニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液に塩化クロムを溶解させて作製した溶液を、上記アルカリ性コロイド溶液に0.5L滴下してニッケルの還元を行い、ニッケル粉末を得た。なお、塩化クロムの含有量は、塩化ニッケル水溶液中のニッケルの全質量に対して、クロム:0.01〜5質量%の範囲内で変化させた。
【0091】
続いて、還元処理にて得られた上記ニッケル粉末を、さらに150℃にて12時間真空乾燥させ、乾燥したニッケル粉末を得た。
【0092】
得られたニッケル粉末の平均粒径、算術平均表面粗さ(Ra)、d10/d90、および緻密率について表1に示す。
【0093】
また、図1および2に、本発明の実施例2、実施例7として得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真(倍率20000倍、縦4.5μm×横6.5μm)をそれぞれ示す。また図4および5に、本発明の実施例5(緻密率51%)、実施例6(緻密率72%)として得られたニッケル粉末に基づくニッケルインクを用いてアルミナ基板上にスクリーン印刷されたニッケル塗膜の緻密率測定での光学顕微鏡バックライト観察像写真(倍率400倍、縦160μm×横230μm)をそれぞれ示す。
【0094】
(比較例1、2)
銀の添加量が、本発明における好ましい範囲(0.01〜50質量ppm)を外れている(比較例1:0.005質量ppm、比較例2:60質量ppm)以外は、実施例1〜3と同様にして、ニッケル粉末を得た。
【0095】
得られたニッケル粉末の平均粒径、算術平均表面粗さ(Ra)、d10/d90、および緻密率を表2に示す。
【0096】
(比較例3、4)
パラジウムの添加量が、本発明における好ましい範囲(1〜5000質量ppm)を外れている(比較例3:0.05質量ppm、比較例4:6000質量ppm)以外は、実施例4、5と同様にして、ニッケル粉末を得た。
【0097】
得られたニッケル粉末の平均粒径、算術平均表面粗さ(Ra)、d10/d90、および緻密率について表2に示す。
【0098】
(比較例5、6)
保護コロイド剤であるゼラチンの添加量が、本発明における好ましい範囲(1〜5000質量ppm)を外れている(比較例5:0.05質量ppm、比較例6:7500質量ppm)以外は、実施例6、7と同様にして、ニッケル粉末を得た。
【0099】
得られたニッケル粉末の平均粒径、算術平均表面粗さ(Ra)、d10/d90、および緻密率について表2に示す。
【0100】
また、図3に、比較例6として得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真(倍率20000倍、縦4.5μm×横6.5μm)を示す。
【0101】
(比較例7、8)
クロムの添加量が、本発明における好ましい範囲(0.01〜5質量%)を外れている(比較例7:0.005質量%、比較例8:添加なし)以外は、実施例8〜11と同様にして、ニッケル粉末を得た。
【0102】
得られたニッケル粉末の平均粒径、算術平均表面粗さ(Ra)、d10/d90、および緻密率について表2に示す。
【0103】
また、図6に、比較例8(緻密率32%)として得られたニッケル粉末に基づくニッケルインクを用いてアルミナ基板上にスクリーン印刷されたニッケル塗膜の緻密率測定での光学顕微鏡バックライト観察像写真(倍率400倍、縦160μm×横230μm)を示す。
【0104】
(比較例9)
従来使用されている0.4μmのニッケル粉末である住友金属鉱山株式会社製YH−6を比較例9として採用し、当該ニッケル粉末の平均粒径、緻密率および算術平均表面粗さについて実施例と同様に評価を行った。評価した結果を表2に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
実施例1〜11は、パラジウム、銀、ゼラチンおよびクロムの添加量が、本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造における好ましい範囲内にある例である。
【0108】
表1から明らかなように、実施例1〜11に係るニッケル粉末の平均粒径は、0.05〜0.4μmの範囲内にある。また、ニッケル粉末の粒径頻度の比率(d10/d90)は0.8以下であり、粒度に均一性がある。
【0109】
また、算術平均表面粗さ(Ra)の値も、基準値である0.12μmを下回っており、いずれも良好な分散状態を示している。
【0110】
さらに、緻密率が、いずれも50%以上であるので、焼結時に生じるニッケル塗膜における島状途切れを防止し得る。
【0111】
比較例1では、銀の添加量が、本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造における好ましい範囲から外れており、そのため平均粒径(0.41μm)と緻密率(40%)の値が本発明の要件(50%以上)を満たしていない。
【0112】
また、ニッケル粉末の粒径頻度の比率(d10/d90)は0.85であり、好ましい値である0.8を超えている。
【0113】
一方、比較例2は、銀の添加量が、本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造における好ましい範囲の上限を超えているが、その平均粒径(0.15μm)、算術平均表面粗さ(Ra)(0.04μm)、緻密率(65%)は、実施例2と同様の値を示している。このことから、本発明においては、銀の添加量を50質量ppm超としても、上記各評価値の向上を期待することはできないことが分かる。
【0114】
また、比較例3は、パラジウムの添加量が本発明のニッケル粉末含有の導電ペーストの製造における好ましい範囲(1〜5000質量%)から外れているため、比較例1同様平均粒径の値(0.44μm)が本発明の好ましい範囲(0.05〜0.40μm)から外れている。
【0115】
また、ニッケル粉末の粒径頻度の比率(d10/d90)は0.85であり、好ましい値である0.8を超えている。
【0116】
比率(d10/d90)が0.8以下であるということは、粒径頻度分布において、粒径の大きい側の粒子が多く、粒径の小さい側の粒子が少なくなっていることを意味し、すなわち、ニッケル粒子が、粒径の比較的大きな粒子を中心に構成され、かつ、粒径にばらつきが小さいことを意味する。
【0117】
比較例4は、パラジウムを6000質量ppm添加しており、算術平均表面粗さ(Ra)および緻密率特性への効果という点では5000質量ppm添加した場合(実施例5)とあまり変わらないが、高価な貴金属をより多く使うという点で難があり、さらに平均粒径特性への効果という点では問題がある。
【0118】
比較例5は0.05質量ppm、比較例6では7500質量ppmゼラチンを添加し、その添加量が本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造における好ましい範囲(1〜5000質量%)を外れているため、双方とも反応がきちんと進行せず、平均粒径が本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末における好ましい範囲(0.05〜0.4μm)の上限である0.4μmを超えている。また特に、比較例6はゼラチンの添加量が多量であったため、平均粒径が1.12μmとなり、また、粒径頻度の比率(d10/d90)が1.01であり、粒径のばらつきが大きく、巨大な粒子が存在するニッケル粉末となり、算術平均表面粗さ(Ra)の値も0.18μmと基準値である0.12μmを上回った。
【0119】
比較例5、6において、ニッケル粉末の粒径頻度の比率(d10/d90)は、それぞれ0.85と1.01であり、好ましい値である0.8を超えている。
【0120】
比較例7は、クロム添加量が0.005質量%と本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末の製造における好ましい範囲(0.01〜5質量%)を下回っており、比較例8に至っては、全くクロムが添加されていないため、緻密率がそれぞれ34%、32%と本発明の導電ペーストに係るニッケル粉末における範囲である50%を下回っている。
【0121】
また、比較例9は、上述したように、従来品である住友金属鉱山株式会社製YH−6ニッケル粉末を本発明に対する比較例とし、他の例と同様に評価したものである。従って粉末生成時には全くクロムが添加されておらず、緻密率は30%と低い値を示している。
【0122】
上記のように、比較例7〜9は、クロムの添加が微量もしく無添加の例であり、これらの緻密率は30〜34%とかなり低い値となっている。これに対し、適量のクロム添加がなされ、該比較例と同等の平均粒径の値を持つ実施例1、2および10は、75〜64%と高い緻密率を示している。これらの実施例から、クロム添加よって高い緻密率が得られることが明らかである。
【0123】
以上のように、本発明の導電ペーストは、ニッケル粉末の分散性が良好でニッケル焼結膜の島状化現象を効率的に抑制することができる。また、従来使用されている0.4μmのニッケル粉末においても、本発明では緻密率を向上させる効果が十分に現れており、現状の積層セラミックコンデンサに対しても、従来よりも薄いニッケル塗膜を形成して、積層セラミックコンデンサの内部電極層の薄層化を実現させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】実施例2のニッケル粉末の各状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察比較写真(倍率20000倍、縦4.5μm×横6.5μm)である。
【図2】実施例7のニッケル粉末の各状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察比較写真(倍率20000倍、縦4.5μm×横6.5μm)である。
【図3】比較例6のニッケル粉末の各状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察比較写真(倍率20000倍、縦4.5μm×横6.5μm)である。
【図4】実施例5のニッケル粉末を用いてアルミナ基板上にスクリーン印刷したニッケル塗膜の各緻密状態を示す光学顕微鏡バックライト観察像比較写真(倍率400倍、縦160μm×横230μm)である。
【図5】実施例6のニッケル粉末を用いてアルミナ基板上にスクリーン印刷したニッケル塗膜の各緻密状態を示す光学顕微鏡バックライト観察像比較写真(倍率400倍、縦160μm×横230μm)である。
【図6】比較例8のニッケル粉末を用いてアルミナ基板上にスクリーン印刷したニッケル塗膜の各緻密状態を示す光学顕微鏡バックライト観察像比較写真(倍率400倍、縦160μm×横230μm)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化クロムおよび/または水酸化クロムを含有するニッケル粉末であって、
該ニッケル粉末を用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でスクリーン印刷し、焼成して、ニッケル塗膜を形成した場合に、該ニッケル塗膜の緻密率が50%以上となることを特徴とするニッケル粉末。
【請求項2】
平均粒径が0.05〜0.4μmであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項3】
パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とニッケル塩水溶液を同時添加して、または、クロム塩を含有させたニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記クロム塩の量を0.01〜5質量%とすることを特徴とする請求項3に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記パラジウムの量を1〜5000質量ppmとすることを特徴とする請求項3または4に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記銀の量を0.01〜50質量ppmとすることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ性コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤を添加し、前記複合コロイド粒子を分散させることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記保護コロイド剤の添加量を1〜5000質量ppmとすることを特徴とする請求項7に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項9】
前記保護コロイド剤としてゼラチンを用いることを特徴とする請求項7または8に記載のニッケル粉末の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13490(P2009−13490A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179662(P2007−179662)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】