説明

ニトリルゴムバインダーを基材とする耐環境性の弾道複合材料

海水等の液体、及びガソリンや他の石油系製品等の有機溶剤に曝露された後でも、優れた弾道抵抗性能を保持する弾道抵抗性布帛と弾道抵抗性物品。該布帛は、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有するニトリルゴムバインダーポリマーで被覆した高性能繊維から作製され、必要に応じて、ニトリルゴムとフッ素含有材料とのブレンドであるバインダーで被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体曝露による劣化に対して優れた抵抗性を有する弾道抵抗性物品に関する。さらに詳細には、本発明は、海水や有機溶剤(例えば、ガソリンや他の石油系製品)等の液体に曝露された後も優れた弾道抵抗性能を保持する弾道抵抗性布帛と弾道抵抗性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発射体に対して優れた特性を有する高強度繊維を含有する弾道抵抗性物品がよく知られている。軍用装備品である防弾ベスト、防弾ヘルメット、防弾車両パネル、及び防弾構造部材等の物品は一般に、高強度繊維を含む布帛から製造されている。従来から使用されている高強度繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリ(フェニレンジアミンテレフタルアミド)等のアラミド繊維、グラファイト繊維、ナイロン繊維、及びガラス繊維等がある。多くの用途(例えば、ベスト若しくはベストの一部)に対し、繊維は、織物若しくは編物の形で使用することができる。他の用途では、繊維は、剛性若しくは可撓性の織布又は不織布を形成するように、ポリマーマトリックス材料中にカプセル封入するか、又は埋め込むことができる。本発明の布帛を形成する個々の繊維のそれぞれを、バインダー(マトリックス)材料によって被覆若しくはカプセル封入するのが好ましい。
【0003】
ヘルメット、パネル、及びベスト等の硬質若しくは軟質の防護具を作製するのに有用な種々の弾道抵抗性構造物が知られている。例えば、米国特許第4,403,012号、第4,457,985号、第4,613,535号、第4,623,574号、第4,650,710号、第4,737,402号、第4,748,064号、第5,552,208号、第5,587,230号、第6,642,159号、第6,841,492号、第6,846,758号(これら全ての特許を参照により本明細書中に援用するものとする)は、伸び切り鎖超高分子量ポリエチレン等の材料から造られる高強度繊維を含む弾道抵抗性複合材料を開示している。これらの複合材料は、発射体(例えば、銃弾、砲弾、及び爆弾の破片等)からの高速度衝撃による貫入に対して種々の抵抗度を示す。
【0004】
例えば、米国特許第4,623,574号と第4,748,064号は、エラストマーマトリックス中に埋め込まれた高強度繊維を含む単純な複合構造物を開示している。米国特許第4,650,710号は、高強度の伸び切り鎖ポリオレフィン(ECP)繊維で構成される複数の可撓性層を含む可撓性製品を開示している。網状組織の繊維が低モジュラスのエラストマー材料で被覆されている。米国特許第5,552,208号と第5,587,230号は、少なくとも1種の高強度繊維からなる網状組織と、ビニルエステルとジアリルフタレートを含むマトリックス組成物とを含んでなる物品、及び該物品の製造方法を開示している。米国特許第6,642,159号は、マトリックス中に配列されたフィラメントのネットワークを含む複数の繊維層、及び、該繊維層間に配置されたエラストマー層を有する、耐衝撃性の剛性複合材料を開示している。徹甲発射体に対する防御を強化するために、該複合材料が硬質プレートに接着されている。
【0005】
堅牢又は硬質な身体防護具は、良好な弾道抵抗性を示すものの、ひどくこわばってかさばることがある。したがって、弾道抵抗性ベスト等の身体防護具衣料品は、柔軟若しくは軟質な防護具材料から製造するのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,403,012号明細書
【特許文献2】米国特許第4,457,985号明細書
【特許文献3】米国特許第4,613,535号明細書
【特許文献4】米国特許第4,623,574号明細書
【特許文献5】米国特許第4,650,710号明細書
【特許文献6】米国特許第4,737,402号明細書
【特許文献7】米国特許第4,748,064号明細書
【特許文献8】米国特許第5,552,208号明細書
【特許文献9】米国特許第5,587,230号明細書
【特許文献10】米国特許第6,642,159号明細書
【特許文献11】米国特許第6,841,492号明細書
【特許文献12】米国特許第6,846,758号明細書
【特許文献13】米国特許第4,623,574号明細書
【特許文献14】米国特許第4,748,064号明細書
【特許文献15】米国特許第4,650,710号明細書
【特許文献16】米国特許第5,552,208号明細書
【特許文献17】米国特許第5,587,230号明細書
【特許文献18】米国特許第6,642,159号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような柔軟性若しくは軟質の材料は、優れた弾道抵抗性を示すけれども、一般的には、液体〔淡水、海水、及び有機溶剤(例えば、石油、ガソリン、銃用潤滑油、及び石油から誘導される他の溶剤)を含む〕に対する抵抗性の点で劣っている。このような材料が液体にさらされたり、液体中に浸漬されたりすると、該材料の弾道抵抗性能が低下することが一般的に知られているため、このことが問題となっている。さらに、布帛の耐久性や耐摩耗性のほかに、耐水性や耐薬品性も高めるために、布帛表面に保護フィルムを付与することが知られているけれども、こうしたフィルムのために布帛の重量が増加する。したがって当業界においては、種々の液体と接触した後に、あるいは種々の液体中に浸漬された後に許容可能な弾道抵抗性基準で機能し、そしてさらに、ポリマーバインダー被膜のほかに保護表面フィルムを使用しなくても優れた耐久性を有する、軟質で柔軟性の弾道抵抗性材料を提供するのが望ましい。本発明は、こうした要求に対する解決策を提供する。
【0008】
従来のバインダー材料(当業界では一般的にポリマー「マトリックス」材料と呼ばれている)で、本明細書に記載の望ましい特性を全て提供できるものはほとんどない。ニトリルゴムポリマーは、他の業界では、海水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有することから、そして1種以上の有機溶剤(例えば、ディーゼルガソリン、非ディーゼルガソリン、銃用潤滑油、石油、及び石油からつくられる有機溶剤)による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有することから望ましい材料である。ニトリルゴム被膜又はニトリルゴム含有被膜は、潜在的に有害な液体への長期間曝露した後も、弾道抵抗性布帛の弾道抵抗特性を保持する上で有利に寄与し、したがって良好な柔軟性を保持しつつ、保護表面フィルムを必要とせずに上記の恩恵をもたらすことが見出された。優れた弾道特性と環境特性はさらに、ニトリルゴムポリマー若しくはニトリルゴム含有ポリマーとフッ素含有ポリマー(フッ素含有オリゴマーとフッ素含有樹脂を含む)とのブレンドを含んでなる組成物を含む弾道抵抗性布帛材料を被覆したときに達成された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、整列状態に配置された複数の繊維を含む弾道抵抗性不織布であって、ここで該繊維は一体化されていて布帛を形成しており、該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、該繊維は、ニトリルゴムポリマーを含んでなるポリマーバインダー材料を繊維上に有し、該バインダーは、海水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、ポリマーバインダー材料が布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する、前記弾道抵抗性不織布を提供する。
【0010】
本発明はさらに、弾道抵抗性布帛の製造方法であって、
I)複数の繊維上にポリマーバインダー材料を塗布し、次いで該繊維から不織布を作製する工程、ここで該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、該ポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムポリマーを含んでいて、海水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、ポリマーバインダー材料は、布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する;又は
II)複数の繊維を1つ以上の繊維層中に組織化し、次いで1つ以上の繊維層とポリマーバインダー材料とを結合して不織布を作製する工程、ここで該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、前記ポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムポリマーを含んでいて、海水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、ポリマーバインダー材料が布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する;を含む、弾道抵抗性布帛の製造方法を提供する。
【0011】
本発明はさらに、1種以上のフッ素含有物質と1種以上のニトリルゴムターポリマーとのブレンドを含むポリマー組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の弾道抵抗性材料と弾道抵抗性物品は、水(特に海水)や有機溶剤〔特に、石油から誘導される溶剤(例えばガソリン)〕への曝露後でも優れた弾道貫通抵抗性を保持することを特徴とする。本発明の弾道抵抗性布帛と弾道抵抗性物品は、ニトリルゴムポリマーを含むポリマーバインダー材料で被覆された高強度繊維から作製され、水(例えば海水)による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有して、1種以上の有機溶剤(例えば、ディーゼルガソリン、非ディーゼルガソリン、銃用潤滑油、石油、及び石油から誘導される有機溶剤)による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有する。
【0013】
本発明の目的に関して、優れた弾道貫通抵抗性を有する物品とは、変形可能な発射体に対して、また爆弾の破片等のフラグメントの貫通に対して優れた特性を有する物品を表わす。本発明の物品は、液体に曝露された後でも、フラグメント〔特に、16‐レイン直円柱(RCC)フラグメント〕に対する弾道性能の保持が著しく高い。本発明の目的に関して、「繊維」とは、その長さが幅と厚さの横断寸法よりはるかに大きい細長い物体を表わす。本発明において使用される繊維の断面は大きく異なってよい。断面は、円形であっても、扁平であっても、あるいは楕円形であってもよい。したがって繊維という用語は、規則的若しくは不規則な断面を有するフィラメント、リボン、及びストリップ等を含む。断面はさらに、繊維の長さ軸すなわち縦軸から突き出た1つ以上の規則的若しくは不規則なローブを有する、規則的若しくは不規則なマルチローバル(multi−lobal)断面であってもよい。繊維は、ローブが単一であって、実質的に円形の断面を有することが好ましい。
【0014】
本発明の好ましい実施態様では、本発明の弾道抵抗性布帛は、単一層のモノリシック部材に圧密された複数の重なり合った不織繊維プライを含む不織布である。この実施態様では、各プライが、一方向の実質的に平行な配列(array)に整列した、非重なり繊維の配列体(arrangement)を含む。このタイプの繊維配列体は、当業界においては「ユニテープ」(一方向テープ)として知られており、ここでは「単一プライ」と呼ぶ。本明細書で使用している「配列」とは、繊維又はヤーンの規則正しい配列体を表わし、「平行な配列」とは、繊維又はヤーンの規則正しい平行配列体を表わす。繊維「層」とは、1つ以上のプライを含む、織られた繊維若しくはヤーン、又は不織の繊維若しくはヤーンの平面配列体を表わす。本明細書で使用している「単一層」構造物とは、単一の一体構造物に圧密されている、1つ以上の個別の繊維プライで構成されるモノリシック構造物を表わす。「圧密する」とは、ポリマーバインダー材料と各繊維プライとを一緒に結合して単一の一体層にする、ということを意味している。圧密は、乾燥、冷却、加熱、加圧、又はこれらの組み合わせによって行うことができる。「複合材料」とは、繊維とポリマーバインダー材料との圧密された結合体を表わす。
【0015】
本発明の好ましい不織布は、積み重ねて重ね合わせた複数のプライを含み、ここで各単一プライ(ユニテープ)の平行繊維は、各単一プライの縦繊維方向に関して、隣接したそれぞれの単一プライの平行繊維に対して直角に(0°/90°)配置されている。重ね合わせた不織繊維プライのスタックは、加熱及び加圧下で、あるいは個々の繊維プライにポリマー樹脂組成物の被膜を接着させて、単一層のモノリシック部材〔当業界では、単一層の圧密化網状組織とも呼ばれる[本明細書中、「圧密化網状組織」とは、繊維プライとポリマーバインダー材料との圧密された(併合された)結合体を表わす]を形成させることによって圧密化が行われる。本明細書で使用しているポリマーバインダー材料は、当業界ではポリマーマトリックス組成物とも呼ばれる。「ポリマーバインダー材料」と「ポリマーマトリックス組成物」という用語は、本明細書中では同義語として使用されており、その接着特性によって、あるいはよく知られている加熱及び/又は加圧条件にかけた後に繊維を結合する材料を表わす。
【0016】
当業界において従来から知られているように、優れた弾道抵抗性は、ある1つのプライの繊維整列方向が、他のプライの繊維整列方向に対してある角度で回転されるように、個別の繊維プライがクロスプライされるときに実現される。繊維プライは、0°と90°の角度で直角にクロスプライするのが最も好ましいが、隣接したプライは、他のプライの縦繊維方向に関して、約0°と約90度の間の実質的にいかなる角度で整列させてよい。例えば、5プライの不織構造物は、0°/45°/90°/45°/0°の角度で、あるいは他の角度で配向したプライを有する。このような回転した一方向整列については、例えば、米国特許第4,457,985号;4,748,064号;第4,916,000号;第4,403,012号;第4,623,573号;及び第4,737,402号に説明されている。
【0017】
不織布は1〜約6プライを含むのが最も一般的であるが、種々の用途に対する必要に応じて約10〜約20プライという多くのプライを含んでよい。プライの数が多くなるほど弾道抵抗性は高くなるが、重量も増加する。したがって、本発明の布帛又は物品を構成する繊維プライの数は、布帛又は物品の最終用途に応じて変動する。例えば、軍用防弾チョッキの場合、所望の1.0ポンド/ft(4.9kg/m)の面密度を達成する複合物品を作製するために、合計で約20〜約60の個別プライ(又は層)が必要とされることがあり、ここでプライ/層は、本明細書に記載の高強度繊維から作製される織布、編み上げ布帛、フェルト状布帛、又は不織布(平行に配向した繊維又は他の配列体を含む)であってよい。他の実施態様では、法執行任務用防弾チョッキは、国立司法研究所(NIJ)の脅威レベルに基づいて多数のプライ/層を有してよい。例えば、NIJ脅威レベルがIIIAの防弾チョッキに対しては、合計で22のプライ/層が存在してよい。より低いNIJ脅威レベルに対しては、より少ないプライ/層を使用することができる。
【0018】
圧密した不織布は、よく知られている方法〔例えば、米国特許第6,642,159号(該特許の開示内容を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載の方法〕を使用して製造することができる。さらに、本発明の繊維プライは、繊維よりむしろヤーンを代わりに含んでよい。ここで「ヤーン」は、多様なフィラメントからなるストランドである。不織の繊維プライは、従来から公知の方法を使用して作製されるフェルト状構造物(繊維を、平行配列ではなくランダム配向にて含む)を代わりに含んでよい。本発明の物品はさらに、織布、一方向の繊維プライから作製される不織布、及び不織のフェルト布帛の中からの組み合わせを含んでよい。
【0019】
本発明の他の実施態様では、本発明の弾道抵抗性布帛が織布を含む。織布は、任意の布地の織り方〔例えば、平織り、クローフット織り、バスケット織り、サテン織り、及びトゥイル織り等〕を用いて、当業界によく知られている技術を使用して作製することができる。平織りが最も一般的であり、この場合は繊維が直交配向(0°/90°)になるように織り上げられる。他の実施態様では、織布と不織布とを組み合わせて相互連結させる(例えば圧密によって)という、ハイブリッド構造物を作ることができる。製織前に、各織布材料の個別繊維は、本発明のポリマーバインダー材料で、不織布の場合と同様の仕方で被覆されていても、あるいは被覆されていなくてもよい。
【0020】
本発明の布帛を構成する繊維は、高強度で高引張モジュラスの繊維を含む。本明細書中に使用している「高強度で高引張モジュラスの繊維」は、約7g/デニール以上の好ましいテナシティ、約150g/デニール以上の好ましい引張モジュラス、及び好ましくは約8J/g以上の破断エネルギー(いずれもASTM D2256に従って測定)を有する繊維を表わしている。本明細書で使用している「デニール」は線密度の単位を表わしており、繊維又はヤーンの9000メートル当たりの質量(グラム)に等しい。本明細書中に使用している「テナシティ」は、応力を受けていない試験片の単位線密度(デニール)当たりの力(グラム)として表示される引張応力を表わしている。繊維の「初期モジュラス」は、変形に対する抵抗性を示す材料の特性を表わしている。「引張モジュラス」は、テナシティの変化〔1デニール当たりの重量グラム(g/d)として表示〕と歪の変化〔最初の繊維長の割合(in/in)として表示〕との比を表わしている。
【0021】
特に好適な高強度で高引張モジュラスの繊維材料としては、高配向で高分子量のポリエチレン繊維(特に超高分子量ポリエチレン繊維と超高分子量ポリプロピレン繊維)等のポリオレフィン繊維(特に伸び切り鎖ポリオレフィン繊維)がある。さらに、アラミド繊維(特にパラ−アラミド繊維)、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、伸び切り鎖ポリビニルアルコール繊維、伸び切り鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンザソール繊維〔例えば、ポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維やポリベンゾチアゾール(PBT)繊維〕、及び液晶コポリエステル繊維も適している。これらの繊維タイプはいずれも、当業界では従来から知られている。
【0022】
ポリエチレンの場合、好ましい繊維は、500,000以上(好ましくは100万以上、さらに好ましくは200万〜500万)の分子量を有する伸び切り鎖ポリエチレンである。このような伸び切り鎖ポリエチレン(ECPE)繊維は、溶液紡糸法にて成長させることもできるし〔例えば、米国特許第4,137,394号や第4,356,138号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載されている〕、あるいはゲル構造物を形成するよう溶液から紡糸することもできる〔例えば、米国特許第4,551,296号や第5,006,390号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載されている〕。本発明において使用するための特に好ましい繊維タイプは、ハネウェル・インターナショナル社からスペクトラ(SPECTRA)(登録商標)の商品名で商業的に入手可能なポリエチレン繊維である。スペクトラ繊維は、当業界においてよく知られており、例えば米国特許第4,623,547号や第4,748,064号に記載されている。
【0023】
さらに、特に好ましいのはアラミド(芳香族ポリアミド)繊維すなわちパラ−アラミド繊維である。これらは商業的に入手可能であり、例えば米国特許第3,671,542号に記載されている。例えば、有用なポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントが、デュポン社からケブラー(KEVLAR)(登録商標)の商品名で商業的に製造されている。本発明を実施する上で有用なのはさらに、デュポン社からノメックス(NOMEX)(登録商標)の商品名で商業的に製造されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維、帝人(株)からツワロン(TWARON)(登録商標)の商品名で工業的に製造されている繊維、韓国のコロンインダストリーズからヘラクロン(Heracron)(登録商標)の商品名で商業的に製造されているアラミド繊維、ロシアのカメンスク・ヴォロクノJSCから商業的に製造されているp−アラミド繊維のSVM(商標)とルサール(Rusar)(商標)、及びロシアのJSCChim Voloknoから商業的に製造されているアルモス(Armos)(商標)p−アラミド繊維である。
【0024】
本発明を実施する上で適切なポリベンザゾール繊維は商業的に入手可能であり、例えば米国特許第5,286,833号、第5,296,185号、第5,356,584号、第5,534,205号、及び第6,040,050号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示されている。本発明を実施する上で適切な液晶コポリエステル繊維は商業的に入手可能であり、例えば米国特許第3,975,487号、第4,118,372号、及び第4,161,470号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示されている。
【0025】
適切なポリプロピレン繊維としては、米国特許第4,413,110号(該特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示の高配向伸び切り鎖ポリプロピレン(ECPP)繊維がある。適切なポリビニルアルコール(PV−OH)繊維は、例えば米国特許第4,440,711号と第4,599,267号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示されている。適切なポリアクリロニトリル(PAN)繊維は、例えば米国特許第4,535,027号(該特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示されている。これらの種類の繊維はいずれも従来から公知であって、広く商業的に入手可能である。
【0026】
本発明において使用するための他の適切な種類の繊維としては、ガラス繊維、炭素から作られた繊維、玄武岩又は他の鉱物から作られた繊維、M5(登録商標)繊維等の剛性ロッド繊維、及びこれら物質(全て商業的に入手可能である)を組み合わせたものがある。例えば、繊維プライは、スペクトラ繊維とケブラー繊維との結合物から製造ることができる。M5繊維は、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)を含む剛性ロッド繊維であり、バージニア州リッチモンドのマゼラン・システムズ・インターナショナル社により製造されていて、例えば米国特許第5,674,969号、第5,939,553号、第5,945,537号、及び第6,040,478号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載されている。特に好ましい繊維としては、M5繊維、ポリエチレンスペクトラ繊維、ケブラー(アラミド繊維)、及びツワロン(アラミド繊維)がある。繊維は、いずれかの適切なデニールをとることができる(例えば、好ましくは約50〜3000デニール、さらに好ましくは約200〜3000デニール、さらに好ましくは約650〜1500デニール)。
【0027】
本発明の目的のために最も好ましい繊維は、高強度で高引張モジュラスの伸び切り鎖ポリエチレン繊維、又は高強度で高引張モジュラスのパラ−アラミド繊維である。前述したとおり、高強度で高引張モジュラスの繊維は、約7g/デニール以上の好ましいテナシティ、約150g/デニール以上の好ましい引張モジュラス、及び約8J/g以上の好ましい破断エネルギー(いずれもASTM D2256に従って測定)を有する繊維である。本発明の好ましい実施態様においては、繊維のテナシティは、約15g/デニール以上、好ましくは約20g/デニール以上、さらに好ましくは約25g/デニール以上で、そして最も好ましくは約30g/デニール以上でなければならない。本発明の繊維はさらに、約300g/デニール以上の引張モジュラスを有するのが好ましく、約400g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、約500g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、約1,000g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、そして約1,500g/デニール以上の引張モジュラスを有するのが最も好ましい。本発明の繊維はさらに、約15J/g以上の破断エネルギーを有するのが好ましく、約25J/g以上の破断エネルギーを有するのがさらに好ましく、約30J/g以上の破断エネルギーを有するのがさらに好ましく、そして約40J/g以上の破断エネルギーを有するのが最も好ましい。
【0028】
これらの組み合わさった高強度特性は、よく知られている方法を使用することによって得られる。米国特許第4,413,110号、第4,440,711号、第4,535,027号、第4,457,985号、第4,623,547号、第4,650,710号、及び第4,748,064号は、本発明に使用される好ましい高強度伸び切り鎖ポリエチレン繊維の形成製造について一般的に説明している。溶液成長法やゲルファイバー法を含むこのような方法は、当業界においてよく知られている。パラ−アラミド繊維を含めた他の好ましい種類の繊維のそれぞれを形成製造する方法も、従来から当業界に公知であり、これらの繊維は商業的に入手可能である。
【0029】
本発明によれば、本発明の織布又は不織布中に存在する繊維のそれぞれが1つ以上の表面を有し、海水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解に対して抵抗性を有するポリマーバインダー材料で繊維の表面が部分的に被覆される。一般的に、ポリマーバインダー材料の被覆は、複数の繊維プライを効率的に合一化する(すなわち圧密する)必要がある。各繊維の外側表面が、海水と有機溶剤に対して抵抗性を有するポリマーバインダー材料で、それぞれ個々の繊維の表面積の好ましくは100%が前記ポリマーバインダー材料によって被覆されるように、実質的に被覆されることが最も好ましい。布帛が複数のヤーンを含む場合、単一のストランド又はヤーンを形成する各繊維をポリマーバインダー材料で被覆するのが好ましい。
【0030】
前述したとおり、弾道抵抗性布帛を構成する繊維が、ポリマーバインダー材料(当業界ではポリマーマトリックス材料とも呼ばれる)で被覆される。ポリマーバインダー材料は、1種以上の成分を含み、繊維及び繊維プライの圧密すなわち合一化を容易にする。前記繊維層を構成する各繊維の表面をポリマーマトリックス材料で少なくとも部分的に被覆し、本発明の布帛を構成する各繊維をバインダー材料によって実質的に被覆するのが好ましい。
【0031】
本発明の繊維が、ニトリルゴムポリマー〔好ましくは未硬化の(非架橋の)ニトリルゴム〕を含むバインダー材料で被覆される。硬化若しくは架橋したニトリルゴムは、未硬化のニトリルゴムより高いモジュラスを有し、したがって未硬化品より剛性が高く、この点がいくらか軟質の防弾チョッキに使用する上で問題となる。ニトリルゴムポリマーは、布帛に良好な剥離強度と柔軟性(どちらも優れた耐久性の表われである)を付与しつつ、水(例えば海水)や有機溶剤(例えばガソリン)に対する所望の抵抗性をもたらするので、特に望ましい。ニトリルゴムポリマーは、アクリロニトリルとブタジエンとの不飽和コポリマーの分類に属しており、種々の特性を有する多くの異なったタイプが入手可能である。例えば、オイルやガソリン等の有機溶剤に対する所望の抵抗性は、ニトリルゴム中のアクリロニトリル含量対ブタジエン含量を調整することによって、他の特性(例えば、極端な温度に対する抵抗性)と釣り合わせることができる。アクリロニトリル含量がより高いニトリルゴムは、その極性のために、アクリロニトリル含量が低めのニトリルゴムよりもオイルやガソリンに対する抵抗性は高く、そしてさらに引張強度も増加させる。アクリロニトリル含量がり低めのニトリルゴムも、オイルやガソリンに対する抵抗性は良好である(高アクリロニトリル含量のポリマーほど良好ではないけれども)が、高アクリロニトリル含量のポリマーが、高めの剛性と低めの柔軟性を示すのに対して、優れた柔軟性とレジリエンスを示す。本発明の場合、所望する弾道抵抗性布帛の種類に応じて、アクリロニトリルとブタジエンのバランスをとることが重要である。
【0032】
一般的には、ニトリルゴムバインダー(又はバインダーのニトリルゴム成分)は、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有する。軟質防護具向けの用途では、ニトリルゴムは、約15重量%〜約30重量%のアクリロニトリル含量を有するのが好ましく、約20重量%〜約30重量%のアクリロニトリル含量を有するのがさらに好ましい。柔軟性を有する軟質の防護具を形成する場合、ニトリルゴムは、低い引張モジュラス〔特に、ASTM638試験法に従って、約6,000psi(41.4MPa)以下で37℃で測定して得られる初期引張モジュラス〕を有することが好ましい。柔軟性を有する軟質の防護具に対するニトリルゴムの初期引張モジュラスは、約4,000psi(27.6MPa)以下であるのが好ましく、約2400psi(16.5MPa)以下であるのがさらに好ましく、約1200psi(8.23MPa)以下であるのがさらに好ましく、約500psi(3.45MPa)以下であるのが最も好ましい。ニトリルゴムのガラス転移温度(Tg)は、約0℃未満であるのが好ましく、約−40℃未満であるのがさらに好ましく、約−50℃未満であるのが最も好ましい。ニトリルゴムはさらに、約50%以上の破断点伸びを有するのが好ましく、約100%以上の破断点伸びを有するのがさらに好ましく、約300%以上の破断点伸びを有するのが最も好ましい。
【0033】
硬質防具向けの用途では、ニトリルゴムは、約31重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有するのが好ましく、約40重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有するのがさらに好ましい。高アクリロニトリル含量のニトリルゴムバインダーは一般に、低アクリロニトリル含量の材料より引張モジュラスが高く、したがって剛性の防護具向け用途に特に適している。さらに、架橋ニトリルゴムは、非架橋ニトリルゴムより高い引張モジュラスを有する。特にニトリルゴムに関しては、3つ以上の別個の架橋メカニズムがあり、そのうちの1つは硬質防護具向けに適しており(ZnO)、2つは軟質防護具向けに適している(イオウと過酸化物)。これらの別個のメカニズムはさらに、必要に応じて組み合わせることもできるし、あるいはうまく操作したりすることもできる。低モジュラスのニトリルゴムベース複合材料が、より広い範囲の用途に適しているのに対して、高モジュラスの材料は、剛性で硬質の防護具を製造するのにより適している。本明細書全体を通して使用している「引張モジュラス」という用語は、繊維に対してはASTM2256に従って、そしてポリマー組成物材料に対してはASTM D638に従って測定して得られる弾性率を意味している。
【0034】
本発明の好ましい実施態様では、ニトリルゴムポリマーは、アクリロニトリルモノマー、ブタジエンモノマー、及び他のモノマー成分〔例えば、N−メチロールアクリルアミド又はカルボン酸(例えばメタクリル酸)〕を含むニトリルゴムターポリマーを含む。ニトリルゴムは、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)ターポリマーを含むことが好ましい。XNBRターポリマーは、約0.1重量%〜約20重量%のカルボン酸モノマーを含むのが好ましく、約1重量%〜約10重量%のカルボン酸モノマーを含むのがさらに好ましく、約1重量%〜約5重量%のカルボン酸モノマーを含むのが最も好ましい。これらの量は、限定的なものと挙げているわけではない。カルボキシル化ニトリルゴムを含むバインダー材料が好ましい。なぜなら卓越した耐摩耗性と優れた強度を有する布帛をもたらすからである。このようなターポリマーは当業界でよく知られており、例えばノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークのダウ・ライヒホールド・スペシャルティ・ラテックスLLCからタイラック(TYLAC)(登録商標)の商品名で商業的に入手可能である。さらに、有用なカルボキシル化ニトリルゴムターポリマーが、例えば、米国特許第6,127,469号、第6,548,604号、及び第7,030,193号(これらの特許を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載されている。他の好ましいターポリマーは、アクリロニトリルモノマー、ブタジエンモノマー、及びN−メチロールアクリルアミド(NMA)を含む。このタイプのターポリマーの1つの例が、オハイオ州アクロンのエメラルド・パフォーマンス・マテリアルズ社から商業的に入手可能なハイカー(HYCAR)(登録商標)1572X64である。
【0035】
このタイプの他の有用なターポリマーが、例えば、米国特許第5,783,625号とカナダ特許第1190343号(これらの特許の開示内容を参照により本明細書中に援用するものとする)に記載されている。アクリロニトリル/ブタジエン/NMAターポリマーは、約0.3重量%〜約10重量%のNMAモノマーを含むのが好ましく、約1重量%〜約10重量%のNMAモノマーを含むのがさらに好ましく、約2重量%〜約4重量%のNMAモノマーを含むのが最も好ましい。米国特許第5,783,625号は、自己架橋性NMAモノマーの有用な範囲が0.3%〜10%であることを説明している。カナダ特許第1190343号は、(A)共役ジオレフィン、α,β−不飽和ニトリル、及びα,β−不飽和カルボン酸エステルからなるターポリマーを10〜90重量%;(B)イオウ加硫可能なアクリルゴムを10〜90重量%;及び(C)共役ジオレフィンと、合計で10〜60重量%のα,β−不飽和ニトリル含量を有するα,β−不飽和ニトリルとからなるコポリマーを0〜40重量%;を含むゴム組成物を提供している。このゴム組成物は、優れた加工性、耐油性、及び耐熱性を有する。
【0036】
本発明のニトリルゴムは、耐久性と耐環境性を向上させるために、必要に応じて水素化することができる。特に、水素化ニトリルゴム(HNBR)は、優れた機械抵抗性、優れた熱酸化抵抗性、及び優れた耐薬品性、ならびに優れた操作温度範囲を有する。水素化ニトリルゴムは当業界によく知られている。
【0037】
本発明の他の実施態様では、ポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムと、フルオロポリマー及び/又はフルオロカーボン樹脂のブレンドを含んでよい。ニトリルゴム成分と1種以上のフッ素含有成分とのブレンドを含むポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムもフッ素含有材料も使用しないで形成された布帛と比較して、塩水又はガソリン中に浸漬した後でも大幅に改良されたV50保持率を有する(すなわち、本発明の実施例に示されているように、95%以上の保持率)、ということが見出されている。本明細書中に使用している「フッ素含有材料」は、フルオロポリマーとフルオロカーボン含有材料(すなわちフルオロカーボン樹脂)を含む。「フルオロカーボン樹脂」は一般に、フルオロカーボン基を含むポリマーを表わす。このようなブレンドを製造するとき、ニトリルゴムポリマーとフルオロポリマー/フルオロカーボン樹脂との間に反応は起こらない。コポリマーは形成されず、単なる物理的ブレンドである。フルオロポリマー/フルオロカーボン樹脂(通常はニトリルゴムより低い分子量を有する)は、外側布帛表面等の境界〔空気/バインダー界面(すなわち外側表面)、及び繊維/バインダー界面(すなわち内側表面)〕において、集積・団結する傾向がある、ということも確認されている。フルオロカーボン樹脂を表面に分散させると、複合材料の耐環境性(塩水やガソリン等)の向上に関して、フルオロカーボン樹脂の有効性が増加する。本実施態様では、ニトリルゴムの種類が限定されず、例えば、XNBR、HNBR、又は非水素化ニトリルゴムを含んでよい。
【0038】
フッ素含有材料(特に、フルオロポリマーやフルオロカーボン樹脂)は、その耐薬品性と防湿性が優れていることが一般的に知られている。本発明に有用なフルオロポリマー材料とフルオロカーボン樹脂材料は、当業界でよく知られていて、例えば、米国特許第4,510,301号、第4,544,721号、及び第5,139,878号に記載のフルオロポリマーホモポリマー、フルオロポリマーコポリマー、又はこれらのブレンドを含む。有用なフルオロポリマーの例としては、クロロトリフルオロエチレンのホモポリマーとコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化エチレン−プロピレンコポリマー、パーフルオロアルコキシエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、及びこれらのコポリマーとブレンドなどがあるが、これらに限定されない。
【0039】
好ましいフルオロポリマーは、ポリクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーとコポリマーを含む。特に好ましいのは、ニュージャージー州モリスタウンのハネウェル・インターナショナル社からアクロン(ACLON)の商標で商業的に入手可能なPCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレンホモポリマー)である。最も好ましいフルオロポリマー又はフルオロカーボン樹脂としては、フルオロカーボン変性ポリマー、特に、従来のポリエーテル(すなわちフルオロカーボン変性ポリエーテル)、ポリエステル(すなわちフルオロカーボン変性ポリエステル)、ポリアニオン(すなわちフルオロカーボン変性ポリアニオン)〔例えば、ポリアクリル酸(すなわちフルオロカーボン変性ポリアクリル酸)やポリアクリレート(すなわちフルオロカーボン変性ポリアクリレート)〕、及びポリウレタン(すなわちフルオロカーボン変性ポリウレタン)上にフルオロカーボン側鎖をグラフト、縮合、若しくは反応させることによって形成される、あるいは従来のポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、及びポリウレタン中にフルオロカーボン側鎖含有モノマー(例えばパーフルオロオクタンアクリレート(perfluorooctanoicacrylate))を共重合させることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマーがある。特に好ましいフルオロカーボン樹脂の1つがNUVA(登録商標)TTHU(スイスのクラリアント・インターナショナル社から商業的に入手可能なアクリル酸パーフルオロアルキル共重合体)である。これらのフルオロカーボン側鎖又はパーフルオロ化合物は、一般にはテロメリゼーション法によって製造され、Cフルオロカーボンと呼ばれる。例えば、フルオロポリマー又はフルオロカーボン樹脂を、不飽和フルオロ化合物のテロメリゼーションにより誘導することができ(フルオロテロマーが形成される)、ここで前記フルオロテロマーは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、又はポリウレタンとの反応が可能となるようにさらに変性され、次いでフルオロテロマーは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、又はポリウレタン上にグラフトされる。フルオロカーボン樹脂はさらに、例えば、フルオロカーボン側鎖含有モノマーと従来のモノマー(例えば、ブチルアクリート若しくはエチルアクリレートとパーフルオロオクタノイックアクリレートとの共重合によって形成されるオリゴマー)との共重合によって製造することができる。これらのフルオロカーボン含有ポリマーの好ましい代表的な例が、スイスのクラリアント・インターナショナル社から商業的に入手可能なNUVA(登録商標)フルオロポリマー製品である。パーフルオロ酸系の側鎖、パーフルオロアクリレート系の側鎖、又はパーフルオロアルコール系の側鎖を有する他のフルオロカーボン樹脂、フルオロオリゴマー、及びフルオロポリマーも極めて好ましい。短めの鎖長(例えばC、C、又はC)のフルオロカーボン側鎖を有するフルオロポリマーやフルオロカーボン樹脂〔例えば、オハイオ州フェアローンのオムノバ・ソリューションズ社から商業的に入手可能なポリフォックス(POLYFOX)(商標)フルオロケミカル〕も好適である。一般的に(常にというわけではないが)、フルオロカーボン含有成分とニトリルゴム成分は、混和とブレンドを容易にするために、ブレンドされるときにはどちらも湿潤状態(すなわち、溶融状態若しくは液体状態にて分散又は溶解される)であり、繊維に湿潤ブレンドとして塗布される。
【0040】
フルオロポリマーとフルオロカーボン樹脂は、環境障壁特性を高める一方で、最適な加工性や柔軟性のみならず、弾道抵抗性複合材料に一般的に有用であると見なされる他の物理的特性も十分でない傾向がある。これらの重要な特性が、ニトリルゴム成分によって与えられるとともに優れたバインダー材料もたらす。
【0041】
ブレンド中、フッ素含有成分に対するニトリルゴム成分の割合を、ブレンドしたマトリックス組成物の物理的特性がニトリルゴム成分の物理的特性によって支配されるように設定しなければならない。少なくとも、ニトリルゴム成分の量のほうが、フッ素含有成分の量より多くなければならない。フッ素含有成分の物理的特性の重要性は二次的である。フッ素含有成分は、水やガソリンをはじくことができるだけでなく、ニトリルゴム成分と安定若しくは有用なエマルジョン/分散液ブレンド物に配合できるという理由で選択される。
【0042】
本発明の好ましい実施態様では、フッ素含有成分は、ニトリルゴム含有ポリマーバインダー材料の約1重量%〜約50重量%を構成する。フッ素含有成分は、ニトリルゴム含有ポリマーバインダー材料の約3重量%〜約35重量%を構成するのがさらに好ましく、ニトリルゴム含有ポリマーバインダー材料の約5重量%〜約25重量%を構成するのがさらに好ましく、そしてニトリルゴム含有ポリマーバインダー材料の約5重量%〜約20重量%を構成するのがさらに好ましい。ポリマー組成物を製造するのに使用されるニトリルゴム分散液は、約30%〜約50%の固形分を有することが好ましいが、この範囲の外側の値も可能である。ポリマー組成物を製造するのに使用されるフルオロカーボン樹脂分散液は、約8%〜約30%の固形分を有することが好ましいが、この範囲の外側の値も可能である。フルオロポリマー/フルオロカーボン樹脂を含むドライバインダーは、約8%〜約12%のフルオロポリマー/フルオロカーボン樹脂固形分〔固形物対固形物(solids−on−solids)〕を含むのが最も好ましい。例えば、85重量%のニトリルゴム分散液(固形分40%)と15重量%のフルオロカーボン樹脂分散液(固形分25%)を含むブレンドは、ドライブレンドを形成するように乾燥すれば、9.93%の乾燥フルオロカーボン樹脂を含むことになる。
【0043】
1種以上のフッ素含有材料と1種以上のニトリルゴムターポリマーとのブレンドを含む新規のポリマー組成物は、本発明において特に有用である、ということが見出された。このようなブレンドを調製する場合、ニトリルゴムポリマーとフルオロポリマー/フルオロカーボン樹脂との間に反応は起こらず、コポリマーは形成されない。このブレンドは、単なる物理的なブレンドにすぎない。ニトリルゴムターポリマーは、3種のモノマー(すなわち、アクリロニトリルモノマー成分、ジエンモノマー成分、及び第3のモノマー成分)から造られるコポリマーである。ジエンモノマー成分は、ブタジエンを含むことが好ましい。第3のモノマー成分は自己架橋性モノマーであるのが好ましく、不飽和カルボン酸のエステル又はカルボン酸を含むことが好ましい。有用な自己架橋性モノマーが、例えば米国特許第5,783,625号(該特許の開示内容を参照により本明細書中に援用するものとする)に開示されている。さらに詳細には、第3のモノマー成分に対する有用な例としては、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N’−ジメチロールアクリルアミド、N,N’−ジメチロールメタクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N,N’−メチレン−ビスアクリルアミド、N−(アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(アニリノフェニル)クロトンアミド、N−(アニリノフェニル)アミノ−2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、N−(アニリノフェニル)アミノ−2−ヒドロキシプロピルメタリルエーテル、5−N−(4−アニリノフェニル)アミノ−2−ヒドロキシペンチルアクリレート、及び5−N−(4−アニリノフェニル)アミノ−2−ヒドロキシペンチルメタクリレートなどがあるが、これらに限定されない。さらに、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、トリフルオロプロピルアクリレート、トリフルオロプロピルメタクリレート、エチルイタコネート、ブチルフマレート、ブチルマレエート、メトキシメチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート、及びメトキシエトキシエチルメタクリレート;アクリル酸とメタクリル酸のシアノアルキルエステル(例えば、シアノメチルアクリレート、シアノメチルメタクリレート、2−シアノエチルアクリレート、2−シアノエチルメタクリレート、1−シアノプロピルアクリレート、1−シアノプロピルメタクリレート、2−エチル−6−シアノヘキシルアクリレート、2−エチル−6−シアノヘキシルメタクリレート、3−シアノプロピルアクリレート、及び3−シアノプロピルメタクリレート);フルオロアルキルビニルエーテル(例えばフルオロエチルビニルエーテル);ならびにビニルピリジン;も有用である。
【0044】
このユニークなニトリルゴム/フルオロポリマー(フルオロカーボンポリマー)組成物のニトリルゴムターポリマー成分は、アクリロニトリルを約15重量%〜約50重量%含むのが好ましく、約15重量%〜約40重量%含むのがさらに好ましく、約15重量%〜約30重量%の含むのが最も好ましい。この新規ポリマーのニトリルゴムターポリマー成分は、ブタジエンを約40重量%〜約84.9重量%含むのが好ましく、約55重量%〜約84.5重量%含むのがさらに好ましく、約66重量%〜約83重量%含むのが最も好ましい。この新規ポリマーのニトリルゴムターポリマー成分は、前記第3のモノマー成分を約0.1重量%〜約10重量%含むのが好ましく、約0.5重量%〜約5重量%含むのがさらに好ましく、約2重量%〜約4重量%含むのが最も好ましい。
【0045】
ニトリルゴムターポリマーは、アクリロニトリルモノマー成分と、ブタジエンモノマー成分と、N−メチロールアクリルアミド若しくはカルボン酸モノマー成分とから形成されるターポリマーを含むのが最も好ましい。最も好ましいニトリルゴムターポリマーはカルボキシル化ニトリルゴムを含む。この新規ポリマーのニトリルゴムターポリマー成分は、前記ポリマー組成物の約60重量%〜約99重量%を構成するのが好ましく、約75重量%〜約97重量%を構成するのがさらに好ましく、約85重量%〜約95重量%を構成するのが最も好ましい。したがって、この新規ポリマーのフッ素含有成分は、前記ポリマー組成物の約1重量%〜約40重量%を構成するのが好ましく、約3重量%〜約25重量%を構成するのがさらに好ましく、約5重量%〜約15重量%を構成するのが最も好ましい(固形物対固形物)。有用なフッ素含有材料は前述したとおりである。
【0046】
ポリマーバインダー材料は、1種以上の界面活性剤をさらに含むことが好ましい。予想外のことに、本発明のバインダーに界面活性剤を添加すると、個々の繊維に対するバインダー被膜の均一性向上が達成される、ということが見出された。さらに、界面活性剤を添加すると、ブレンドした分散液の安定性が増し、ニトリルゴム/フルオロカーボン樹脂ブレンドの空気/バインダー界面や繊維/バインダー界面において、フルオロカーボン樹脂(存在する場合)の分散の均一性が促進される、ということも見出された。界面活性剤は、フルオロポリマーが存在していても、していなくても組み込むことができる。適切な界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤があるが、これらに限定されない。一般的には、非イオン界面活性剤が好ましい。なぜなら非イオン界面活性剤は水に対する溶解性が最も低く、アニオン界面活性剤と塩を形成しないからである。さらに、ポリマーバインダー材料は、アニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤に対する感受性が高い。なぜなら電荷密度が高いために、分散液の凝固を引き起こすことがあるからである。非イオン界面活性剤は通常、分散ポリマー(ミセル含有固体)の性質を妨害しないか、あるいは妨害があってもごくわずかである。好ましい非イオン界面活性剤としては、脂肪酸と脂肪アルコールをベースとする非イオン界面活性剤〔特に、7〜10の親水性・親油性バランス(HLB)値を有するもの〕がある。特に好ましい界面活性剤は、非イオン性のポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル〔例えば、ミシガン州ミッドランドのダウケミカル社から商業的に入手可能なテルギトール(TERGITOL)(登録商標)TMN−3界面活性剤〕である。テルギトールTMN−3が好ましいのは、低濃度で低い表面張力をもたらすからである。分散液の十分な広がりを確保し、個々の繊維を覆うためには、表面張力が低いことが求められる。テルギトールTMN−3はHLB値が約8であり、炭素鎖が分岐していて、これが表面張力の低下に寄与している。さらに、非イオン性のフルオロ界面活性剤〔例えば、ドイツのクラリアントGmbHコーポレーションから商業的に入手可能なフルオウェット(Fluowet)(登録商標)フルオロ界面活性剤、特にフルオウェットOTN〕も有用である。しかしながらフルオロ界面活性剤は、環境への懸念から容認できない。さらに、シリコーン界面活性剤と、オレイン酸で部分的に末端キャップされているエトキシル化ヒマシ油との組み合わせ物も有用である。
【0047】
本発明の好ましい実施態様では、界面活性剤が存在し、界面活性剤がポリマーバインダー材料の約0.01重量%〜約10重量%を構成するのが好ましく、約0.05重量%〜約5重量%を構成するのがさらに好ましく、約0.1重量%〜約2.5重量%を構成するのが最も好ましい。ポリマー組成物はさらに、カーボンブラックやシリカ等の充填剤を含んでもよく、オイルで増量することもでき、あるいはイオウ、過酸化物、金属酸化物、若しくは当業界によく知られている放射線硬化システムによって加硫処理することもできる。
【0048】
十分な弾道抵抗特性を有する布帛物品を製造するために、布帛を形成する繊維は、繊維とポリマーバインダー材料との合計の約50重量%〜約98重量%を構成するのが好ましく、約70重量%〜約95重量%を構成するのがさらに好ましく、約78重量%〜約90重量%を構成するのが最も好ましい。したがってポリマーバインダー材料は、布帛の約2重量%〜約50重量%を構成するのが好ましく、約5重量%〜約30重量%を構成するのがさらに好ましく、約10重量%〜約22重量%を構成するのが最も好ましい(16%が最も好ましい)。
【0049】
ポリマーバインダー材料の塗布は、不織の繊維プライを圧密する前に行い、バインダー被膜は、あらかじめ存在する任意の繊維仕上げ物(例えばスピン仕上げ物)の表面に付与するか、あるいはあらかじめ存在する任意の繊維仕上げ物を部分的若しくは完全に除去した後に付与してもよい。本発明の繊維は、ポリマーバインダー材料を塗布し、次いでこの被覆された繊維を圧密して複合材料を形成することにより、ポリマーバインダー材料で被覆したり、ポリマーバインダー材料を含浸させたり、ポリマーバインダー材料中に埋め込んだり、さもなければポリマーバインダー材料を塗布することができる。最初にバインダー材料を複数の繊維上に塗布し、次いで前記繊維から1つ以上の繊維プライを形成し、このとき個々の繊維を逐次的にあるいは同時に被覆する。あるいは、これとは別に、最初に1つ以上の繊維プライを形成し、次いで前記1つ以上の繊維プライ上にポリマーバインダー材料を塗布することができる。
【0050】
本発明の目的のために、「被覆された」(“coated”)という用語は、ポリマーバインダー材料を繊維表面上に塗布する方法を限定するつもりではなく、ポリマー組成物を繊維表面上に塗布するのに適切ないずれの方法を使用してもよい。例えば、ポリマーバインダー材料は、組成物の溶液を繊維表面上に噴霧若しくはロール塗布し(このとき溶液の一部が、所望のポリマーを含み、溶液の一部が、ポリマーを溶解若しくは分散できる溶剤を含む)、次いで乾燥することにより、溶液の形態で塗布することができる。他の方法は、被覆材料のニートポリマーを、懸濁液における液体、懸濁液における粘着性固体、若しくは懸濁液における粒子として、あるいは流動床として繊維に塗布する方法である。あるいは、これとは別に、コーティングは、塗布温度にて繊維の特性に悪影響を及ぼさない適切な溶剤による溶液、エマルジョン、若しくは分散液として付与することもできる。例えば、繊維をポリマーバインダー材料の溶液中に通過させて、繊維を実質的に被覆し、次いで乾燥して被覆繊維を形成させることができる。次いで、こうして得られる被覆繊維を所望の配置構成に配列する。他の被覆方法においては、先ず繊維プライ又は織布を配列してから、ポリマーバインダー材料を適切な溶剤中に溶解して得られる溶液中に繊維プライ又は織布を浸漬し(個々の繊維が、ポリマーバインダー材料で少なくとも部分的に被覆されるようにする)、次いで溶剤を蒸発若しくは気化させて乾燥することができる。浸漬処理は、所望量のポリマーバインダー材料コーティングを繊維上に配置するという要求に応じて数回繰り返すことができ、個々の繊維のそれぞれがカプセル封入されるか、あるいは繊維表面積の全て若しくは実質的に全てがポリマーバインダー材料で覆われることが好ましい。
【0051】
ポリマーを溶解又は分散できる任意の液体を使用することができるが、好ましい溶剤としては、水、パラフィン油、及び芳香族溶剤若しくは炭化水素溶剤などがあり、具体的な溶剤としては、パラフィン油、キシレン、トルエン、オクタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン(MEK)、及びアセトンなどがある。コーティングポリマーを溶剤中に溶解若しくは分散するのに使用される方法は、種々の基材上への類似材料のコーティングに対して従来使用されている方法である。
【0052】
繊維に被覆を施すための他の方法も使用することができ、繊維を高温延伸操作によって処理する前に高モジュラス前駆体(ゲル繊維)を被覆する〔ゲル紡糸繊維形成法を使用する場合、繊維から溶剤を除去する前又は除去した後のいずれかの時点で〕、という方法もある。次いで、繊維を高温で延伸して被覆繊維を得る。ゲル繊維を、所望の被覆を達成する条件下にて適切なコーティングポリマーの溶液に通すことができる。繊維が溶液中に進む前に、ゲル繊維中において高分子量ポリマーの結晶化が起こることもあり、起こらないこともある。あるいは、これとは別に、繊維を、適切なポリマー粉末の流動床中に押出すこともできる。さらに、延伸操作又は他の巧みな処理(例えば、溶媒交換や乾燥等)を行えば、最終繊維の前駆体材料に被覆を付与することができる。本発明の最も好ましい実施態様では、最初に本発明の繊維をポリマーバインダー材料で被覆し、次いで複数の繊維を織布又は不織布中に配置する。このような方法は、当業界ではよく知られている。
【0053】
当業界でよく知られているように、圧密は、繊維プライを単一の布帛に結合させるのに十分な熱と圧力の条件下で、個々の繊維プライを互いに配置することに実施される。圧密は、約50℃〜約175℃(好ましくは約105℃〜約175℃)の範囲の温度で、約5psig(0.034MPa)〜約2500psig(17MPa)の範囲の圧力で、約0.01秒〜約24時間(好ましくは約0.02秒〜約2時間)行うことができる。加熱すると、ポリマーバインダー材料を、完全に融解させることなく貼り合わせたり流動させたりすることができる。しかしながら一般には、ポリマーバインダー材料を融解させれば、複合材料を調製するために比較的わずかな圧力しか必要とされないが、ポリマーバインダー材料を粘着温度まで加熱するだけならば、通常はより高い圧力が必要となる。圧密はさらに、熱及び/又は圧力を必要とせずに、第1の繊維ウェブの第2の繊維ウェブへの湿式ラミネーションによって果たすこともできる。当業界において従来から知られているように、圧密は、カレンダーセット、フラットベッドラミネーター、プレス、又はオートクレーブ中で行うことができる。
【0054】
あるいは、これとは別に、圧密は、適切な成形装置中で熱と圧力をかけて成形することによって果たすことができる。成形は、一般的には約50psi(344.7kPa)〜約5000psi(34470kPa)の圧力で、さらに好ましくは約100psi(689.5kPa)〜約1500psi(10340kPa)の圧力で、最も好ましくは約150psi(1034kPa)〜約1000psi(6895kPa)の圧力で行われる。あるいは、これとは別に、成形は、約500psi(3447kPa)〜約5000psiのより高い圧力で、さらに好ましくは約750psi(5171kPa)〜約5000psiのより高い圧力で、さらに好ましくは約1000psi〜約5000psiのより高い圧力で行うこともできる。成形工程は、約4秒〜約45分の時間を要する。好ましい成形温度は約200°F(〜93℃)〜約350°F(〜177℃)の範囲であり、さらに好ましい成形温度は約200°F(〜93℃)〜約300°F(〜149℃)の範囲であり、最も好ましい成形温度は約200°F(〜93℃)〜約280°F(〜121℃)の範囲である。本発明の布帛が成形される圧力は、得られる成形物の剛性や柔軟性に直接的な影響を及ぼす。特に、布帛が成形される圧力が高くなるほど剛性が高くなり、逆もまた同様である。成形圧力のほかに、繊維プライの量、厚さ、及び組成、ならびにポリマーバインダー材料の種類も、本発明の布帛から形成される物品の剛性に直接影響を及ぼす。
【0055】
本明細書に記載の成形方法と圧密方法は類似しているけれども、それぞれのプロセスは異なっている。特に、成形はバッチプロセスであり、圧密は連続プロセスである。さらに、成形は一般的に、フラットパネルを形成するときはモールド〔例えば、造形モールド(a shaped mold)やマッチ−ダイ・モールド型(amatch−die mold)〕を使用し、必ずしも平面状の物品が得られるわけではない。圧密は通常、軟質の身体防護具を製造するために、フラットベッドラミネーターやカレンダーニップセット中で、あるいは湿式ラミネーションとして行われる。成形は通常、硬質防護具(例えば剛性プレート)の製造にも対応できるようになっている。本発明に関しては、圧密法と軟質身体防護具の形成が好ましい。
【0056】
いずれか一方のプロセスにおいて、適切な温度、圧力、及び時間は一般的に、ポリマーバインダーコーティング材料の種類、(組み合わせコーティングの)ポリマーバインダー含量、使用されるプロセス、及び繊維の種類に依存する。ここで形成される布帛は、その表面を平滑にしたり、あるいは艶出しするために、必要に応じて熱と圧力の下でカレンダー処理することができる。カレンダー法は、当業界でよく知られている。
【0057】
個々の布帛の厚さは、個々の繊維の厚さに対応する。織布は、1層当たり約25μm〜約500μmの厚さを有するのが好ましく、1層当たり約50μm〜約385μmの厚さを有するのがさらに好ましく、1層当たり約75μm〜約255μmの厚さを有するのが最も好ましい。不織布(すなわち、不織で単一層の圧密化網状組織)は、約12μm〜約500μmの厚さを有するのが好ましく、約50μm〜約385μmの厚さを有するのがさらに好ましく、約75μm〜約255μmの厚さを有するのが最も好ましい。ここで単一層の圧密化網状組織は通常、2つの圧密プライ(すなわち、2つのユニテープ)を含み(但し、比較例において使用されている比較A複合材料を除く)、複合材料の単一層は4つのプライを含む。このような厚さが好ましいが、特定のニーズを満たすためには他の厚さでもよく、こうした厚さも本発明の範囲内に含まれる、という点を理解しておかなければならない。
【0058】
本発明の布帛は、約50グラム/m(gsm)(0.01ポンド/ft(psf))〜約1000gsm(0.2psf)の面密度を有することが好ましい。本発明の布帛に対するさらに好ましい面密度は、約70gsm(0.014psf)〜約500gsm(0.1psf)の範囲である。本発明の布帛に対する最も好ましい面密度は、約100gsm(0.02psf)〜約250gsm(0.05psf)の範囲である。本発明の物品(互いに積み重ねた布帛の複数の個別層からなる)はさらに、約1000gsm(0.2psf)〜約40,000gsm(8.0psf)の面密度を有するのが好ましく、約2000gsm(0.40psf)〜約30,000gsm(6.0psf)の面密度を有するのがさらに好ましく、約3000gsm(0.60psf)〜約20,000gsm(4.0psf)の面密度を有するのがさらに好ましく、約3750gsm(0.75psf)〜約10,000gsm(2.0psf)の面密度を有するのが最も好ましい。
【0059】
本発明の構造物を種々の用途に使用して、よく知られている方法によって様々な弾道抵抗性物品を製造することができる。弾道抵抗性物品を作製するための適切な方法は、例えば、米国特許第4,623,574号、第4,650,710号、第4,748,064号、第5,552,208号、第5,587,230号、第6,642,159号、第6,841,492号、及び第6,846,758号に記載されている。本発明の構造物は、柔軟性で軟質の防護具物品〔ベスト、パンツ、帽子、又は他の衣料品等の衣類;及び多くの弾道脅威(例えば、9mmのフルメタルジャケット(FMJ)弾丸、ならびに手榴弾、大砲の砲弾、簡易爆発物(IED)、及び軍事任務や平和維持任務において直面する他の同類の装置の爆発により生じる様々な破片)を克服するために兵士によって使用されるカバーやブランケット;を含む〕を製造するのに特に有用である。
【0060】
本明細書で使用している「軟質」又は「柔軟性」の防護具は、相当量の応力にさらされたときにその形状を保持しない防護具である。本発明の構造物はさらに、剛性で硬質の防護具物品を製造するのに有用である。「硬質」の防護具とは、ヘルメット、軍用車両用パネル、又は防護遮蔽体等の物品を意味しており、硬質防護具は、相当量の応力にさらされたときに構造剛性を維持するよう十分な機械的強度を有し、崩壊することなく自立することができる。本発明の構造物を複数の個別シートにカットし、これらを積み重ねて物品にすることもできるし、あるいは先ず前駆体を形成してから、該前駆体を使用して物品を製造することもできる。このような方法は、当業界においてよく知られている。
【0061】
本発明の衣類は、当業界において従来から知られている方法により製造することができる。衣類は、本発明の弾道抵抗性物品と衣料品とを接合させることによって製造することができる。例えば、ベストは、本発明の弾道抵抗性構造物と接合された一般的な布帛ベストを含んでよく、これにより戦略的に配置されたポケット中に本発明の構造物が挿入される。このことが、ベストの重量を最小に抑えつつ、弾道防御を最大に高めることを可能にする。本明細書中に使用される「接合している」又は「接合された」という用語は、取り付け(例えば、縫製や接着などによる)のみならず、他の布帛との非結合性のカップリングや並置(弾道抵抗性物品を、必要に応じて、ベストや他の衣料品から簡単に取り外しできる)を含むよう意図されている。柔軟性のシート、ベスト、及び他の衣類等の柔軟性構造物を製造する際に使用される物品は、低引張モジュラスのバインダー材料を使用して製造することが好ましい。ヘルメットや防護具等の硬質物品は、高引張モジュラスのバインダー材料を使用して製造することが好ましいが、これに限らない。
【0062】
弾道抵抗性は、当業界においてよく知られている標準的な試験手順を使用して測定される。特に、構造物の防御力や貫入抵抗性は通常、発射体の50%が複合材料に貫入し、50%が遮蔽体によって阻止される衝撃速度(V50値としても知られている)を挙げることによって表示される。本明細書中に使用されている物品の「貫入抵抗性」とは、指定された脅威(例えば、弾丸、破片、及び爆弾の破片等を含めた物理的物体、ならびに爆風等の非物理的物体)による貫入に対する抵抗性を表わしている。面密度(複合材料の重量をその面積で除して得られる)が等しい複合材料の場合、V50が高くなるほど、複合材料の弾道抵抗性が良好となる。本発明の物品の弾道抵抗性は、多くのファクター(具体的には、布帛を製造するのに使用される繊維の種類、複合材料における繊維の重量%、樹脂マトリックスの物理的特性の妥当性、複合材料を構成している布帛の層数、及び複合材料の全面密度)に応じて変わる。しかしながら、海水による溶解又は浸透に対して抵抗性の、そして1種以上の溶剤による溶解又は浸透に対して抵抗性のポリマーバインダー材料を使用しても、本発明の物品の弾道特性に悪影響を及ぼさない。本発明の布帛はさらに、実施例に説明されているとおり、布帛の良好な剥離強度と柔軟性によって示された優れた耐久性を有する。
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
【実施例】
【0064】
実施例
種々の布帛サンプルを、以下の例示のとおりに試験した。表1には、実施例と比較例において試験される布帛サンプルが記載されている。サンプルAについては、バインダーは、未変性で水性ポリウレタンポリマーである。サンプルBについては、バインダーは、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロックコポリマーのロジンエステル変性分散液であり、ドイツのデュッセルドルフを本拠地とするヘンケルテクノロジー社からPRINLIN(登録商標)として商業的に入手可能である。サンプルCについては、バインダーは、フルオロカーボン変性で水性アクリルポリマー〔オハイオ州クリーブランドのノベオン社からハイカー26−1199として商業的に入手可能なアクリルポリマーが84.5重量%;スイスのクラリアント・インターナショナル社から商業的に入手可能なNUVA(登録商標)NT X490フルオロカーボン樹脂が15重量%;及びミシガン州ミッドランドのダウケミカル社から商業的に入手可能なテルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5%〕である。サンプルDについては、バインダーは、フルオロカーボン変性ポリウレタンポリマー〔ノベオン社からサンキュアー(SANCURE)(登録商標)として商業的に入手可能なポリウレタンポリマーが84.5重量%;NUVA NT X490フルオロカーボン樹脂が15重量%;及びテルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5%〕である。サンプルEについては、バインダーは、本発明のフルオロポリマー/ニトリルゴムブレンド〔ノースカロライナ州のダウライヒホールド社からタイラック68073として商業的に入手可能なニトリルゴムポリマーが84.5重量%;NUVA TTHUフルオロカーボン樹脂が15重量%;及びテルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%〕である。布帛サンプルFとGは、バインダーを含まない織布である。
【0065】
布帛サンプルAとC〜Eは、2つの布帛(2つのユニテープ)(0°/90°構造)を含むアラミドベースの不織布であった。布帛は、1000デニールのツワロンタイプ2000〔45gsmの繊維面密度(FAD)を有するアラミド繊維〕から製造し、繊維の含量は85%であった。布帛サンプルBは類似しているが、0°/90°/0°/90°構造の4つのプライと、両方の外側プライに積層された厚さ0.25ミルのLDPEフィルム層とを有していた。各プライは繊維含量が85%であるが、LDPEフィルムを含んだ最終構造物の繊維含量は約80%であった。各プライ(ユニテープ)の繊維面密度(FAD)は45gsmであった。不織布を圧密して、一体化された布帛にした。布帛サンプルFは、28×28のピックカウント(a pick count)と100%の繊維含量を有する500デニールのツワロンタイプ2000アラミド繊維から製造したアラミドベースの織布であった。布帛サンプルGは、29×29のピックカウントと100%の繊維含量を有する600デニールのケブラーKM2アラミド繊維から製造したアラミドベースの織布であった。布帛サンプルが表1にまとめてある。
【0066】
【表1】

【0067】
弾道抵抗性防護具物品は、弾道抵抗性布帛の個別層を加えるか、又は取り去ることによって、所望のV50を達成するよう設計し、構築することができる。これらの実験の目的のために、物品の全面密度(TAD)(繊維とポリマーバインダー材料とを含む布帛の面密度)が1.00±0.02psfとなるように、十分な数の布帛層を積み重ねることによって物品の構造を標準化した。個々の布帛層のTADに応じて、物品が標的とするTADを0.98psf〜1.02psfに保持するのに必要とされる層の総数は、サンプルA、C、D、及びEについては44〜47の範囲であった。サンプルBについては、1.00PSFのTADを得るためには合計で21の層が必要とされる。サンプルF〔織り上げられたアラミド、スタイル(Style)#275580〕については、1.00PSFのTADを得るためには合計で39の層が必要とされる。サンプルG(織り上げられたアラミド、スタイル#751)に対しては、1.00PSFのTADを得るためには合計で32の層が必要とされる。次いで、これらの布帛スタックのそれぞれをナイロン布帛のリップストップキャリヤー中に配置し、それから縫い付けられた。この時点で、集成体は、試験を実施できる弾道物品サンプルであると見なされた。
【0068】
ポリマーバインダー材料も含めて、不織布の各単一ユニテーププライのTADは52.5gsm〜54.0gsmの範囲であった。サンプルA、C、D、及びEのための各布帛層のTAD(2プライ布帛に対する各単一プライのTADの2倍に等しい)は105gsm〜108gsmの範囲であった。サンプルBの場合、布帛層に対するTADは218gsm〜228gsmの範囲であった。各布帛層は、公称15”×15”の正方形であった。次いでこれらの布帛層を、前述のように物品に集成した。
【0069】
幾つかの異なった布帛試験パックのV50弾道抵抗性を、それぞれ塩水中に浸漬した後とガソリン中に浸漬した後に評価した。実施例5と12は、塩水浸漬後とガソリン浸漬後の、本発明の布帛サンプルEの性能を示している。比較例1〜4、6〜11、及び13〜14は、塩水浸漬後とガソリン浸漬後の、比較用布帛サンプルA〜DとF〜Gの性能を示している。前記試験に対する結果を表2と表3に示す。塩水浸漬やガソリン浸漬をせずにさらに試験を行い、得られた結果を表4〜7に示す。表4は、MIL−STD−662Fの標準化試験条件に従って行った、17グレインFSPフラグメント(フラグメントの確認:MIL−P−46593A)に対する前記布帛の弾道試験結果の概要を示している。表5は、MIL−STD−662Fの標準化試験条件に従って行った、9mmで124グレインのFMJ(フルメタルジャケット)弾丸に対する前記布帛の弾道試験結果の概要を示している。表6は、ASTM D4032のサーキュラー・ベンド(circular bend)試験法による、各サンプルの柔軟性を示している。表7は、ASTM D1876−01の試験法による、各不織サンプル(サンプルA〜E)の剥離強度/中間層結合強度を示している。
【0070】
塩水やガソリンに対する環境曝露後の弾道評価に対する手順、及び試験サンプルの調製に対する手順の概略を以下に記す:
A. 環境曝露後のポリマーバインダー材料を弾道評価するための手順
ハードウェア
1. 塩水浸漬トレー−平底で蓋なしのプラスチック製容器、幅18”×長さ24”×深さ6”
2. 乾燥フレームと乾燥クリップ
3. ガソリン浸漬チャンバー−ステンレス鋼製エンクロージャー、およその寸法は幅24インチ×深さ24インチ×高さ36インチ。該エンクロージャーは、フロントアクセスドア、トップアクセスリッド、及び左壁と右壁を橋架けしている幾つかの取り付けバー(壁の頂部から1インチ)を含む。
【0071】
4. ガソリン浸漬移送キャリヤー。
5. 計量用スケール。
6. 消せないマーカーペン。
【0072】
7. タイマー。
8. 弾道据え付けフレーム。
9. 発射して16グレインのRCCフラグメントの速度を測定できるバリスティクス・レンジ(ballistics range)。
【0073】
材料
1. 15インチ×15インチの正方形の、評価対象としての不織布。
2. 16インチ×16インチのナイロン製「リップストップ」キャリヤー。
【0074】
3. 脱イオン水。
4. 海塩(塩化ナトリウムと塩化マグネシウムとの混合物)。
5. 5ガロンの米国レギュラー・グレード(オクタン価87、無鉛)ガソリン。
【0075】
6. 16グレインのRCCフラグメント。
B. 試験パックを調製するための手順
1. 各布帛の15インチ×15インチ正方形サンプル10個を計量して、布帛サンプルの全面密度(TAD)を決定した。
【0076】
2. 1.00ポンド/ft(PSF)±0.02PSFのサンプルTADに等しくするのに必要とされるこれらサンプルの数を決定した。この数を「レイヤー・カウント」(“Layer Count”)と定義した。
【0077】
3. 各布帛について、15インチ×15インチ正方形の12スタックを作製した。各スタックにおける布帛の2−プライ層(サンプルBの布帛に対しては4−プライ)の数は「レイヤー・カウント」と同じであり、各サンプルにおいて繊維の均一な配向が保持された(すなわち、各サンプルにおける上部プライの繊維が全て同じ方向に向けられた)。
【0078】
4. 12のスタック全てが必要とされる「レイヤー・カウント」を有していたとき、各スタックを計量して、公称1.00PSFの試験パック〔シュートパック(shoot pack)〕を得るのに「レイヤー・カウント」の調整が必要であるかどうかを決定した。スタック間の層数に差異があれば調整して、1.00PSF布帛サンプルの同等なスタックを12個得た。
【0079】
5. 1.00ポンド布帛層の12個の同等なスタックが作製されたら、それぞれを16インチ×16インチのナイロン「リップストップ」キャリヤー中に挿入した。キャリヤーのオープンエンドを、試験パックを収容するように縫いつけた。各キャリヤー/試験パックを角縫いした。
【0080】
6. 消せないマーカーを使用して、各試験パックに関する詳細の全て(各試験パックに対するユニークな識別名を含めて)をキャリヤーの表面上に記録した。ナイロンキャリヤーを含めた試験パックの重量を再び計量した。
【0081】
7. 12個の試験パックを、3個試験パックの4グループに分けた。1つのグループは、塩水浸漬試験のための乾燥対照標準として使用し、別のグループは、塩水浸漬試験に使用し、さらに別のグループは、ガソリン浸漬試験のための乾燥対照標準として使用し、そして最後のグループは、ガソリン浸漬試験に使用した。
【0082】
C. 24時間の塩水浸漬
1. フル500グラム容器2つのモートンシーソルト(Morton Sea Salt)を、空の清浄な塩水浸漬トレー中注いだ。この塩を、清浄に流れている水道水7ガロンで覆った。トレーを、その深さ6インチの約3インチにまで満たし、塩が溶解するまでスパチュラで攪拌した。モートンシーソルトの代わりに、3.0%の塩化ナトリウムと0.5%の塩化マグネシウムを水道水中に溶解して得た溶液を使用することができる。
【0083】
2. 塩水浸漬試験用に指定されたグループからのサンプルの1つを選択し、その重量が、あらかじめ記録されている重量と一致することを確認した。
3. 塩水浸漬試験サンプルの最初の試験パックを塩水溶液中に完全に浸漬した。1時間の間隔をおいて、さらに1つの試験パックを塩水溶液中に浸漬した。
【0084】
4. 最初の試験パックが、いったん塩水溶液中に24時間浸漬されれば、サンプルはいつでも弾道試験を行える状態にある。
D. 塩水浸漬に対する弾道試験
1. 試験パックを塩水溶液から取り出し、乾燥フレームから1コーナー離して吊り下げ、絞らずに15分乾燥した。
【0085】
2. 絞らずに乾燥したサンプルをバリスティクス・レンジに移送し、計量してその重量を記録した。
3. サンプルを弾道据え付けフレーム中に挿入し、この集成体を発射レンジ中に配置した。
【0086】
4. MIL−STD−662E試験法に従って、一連の16グレインRCCフラグメントをサンプル中に発射した。サンプルの完全な貫通とサンプルの部分的な貫入の混ざった状態を実現するために、発射体の速度を調節した。各ショットの速度を測定し、一般に認められている統計分析ツールを使用してサンプルに対するV50を決定した。
【0087】
5. その後、比較のために、乾燥対照標準グループからのサンプルの1つをステップ3と4に従って試験した。
6. 上記のステップを、指定された全ての塩水浸漬試験サンプルと乾燥対照標準サンプルに対して続行し、それぞれに関してV50を決定した。
【0088】
E. 4時間のガソリン浸漬
1. 5ガロンの米国レギュラー・グレード(オクタン価87、無鉛)ガソリンを、ガソリン浸漬チャンバー中に注いだ。
【0089】
2. ガソリン浸漬試験用に指定されたグループからのサンプルの1つを選択し、その重量が、あらかじめ記録されている重量と一致することを確認した。
3. ガソリン浸漬試験サンプルの最初の試験パックをガソリン中に完全に浸漬した。1時間の間隔をおいて、さらに1つの試験パックをガソリン中に浸漬した。
【0090】
4. 最初の試験パックが、いったんガソリン浸漬チャンバー中に4時間浸漬されれば、最初のサンプルはいつでも弾道試験を行える状態にある。
F. ガソリン浸漬に対する弾道試験
1. 4時間後、最初のサンプルをガソリンから持ち上げ、チャンバーの上部を横切って、据え付けバーの1つにクリップ留めした。サンプルを、絞らずに15分乾燥した。
【0091】
2. 絞らずに15分乾燥した後、サンプルを据え付けバーから取り外してガソリン浸漬移送キャリヤー中に配置し、蓋を閉じた。
3. 次いでキャリヤーを弾道学実験室に移送し、サンプルを計量してその重量を記録した。
【0092】
4. サンプルを弾道据え付けフレーム中に挿入し、この集成体を発射レンジ中に配置した。
5. MIL−STD−662E試験法に従って、一連の16グレインRCCフラグメントをサンプル中に発射した。サンプルの完全な貫通とサンプルの部分的な貫入とが混ざった状態を実現するために、発射体の速度を調節した。各ショットの速度を測定し、一般に認められている統計分析ツールを使用してサンプルに対するV50を決定した。
【0093】
6. その後、比較のために、乾燥対照標準グループからのサンプルの1つをステップ3と4に従って試験した。
7. 上記のステップを、指定された全てのガソリン浸漬試験サンプルと乾燥対照標準サンプルに対して続行し、それぞれに関してV50を決定した。
【0094】
G. 結果
【0095】
【表2】

【0096】
この表は、乾燥状態でも24時間の塩水浸漬後でも、16グレインRCCフラグメントに対してサンプルEの性能が優れていることを示している。
【0097】
【表3】

【0098】
この表は、乾燥状態でも4時間のガソリン浸漬後でも、16グレインRCCフラグメントに対してサンプルEの性能が優れていることを示している。
【0099】
【表4】

【0100】
この表は、類似の物品及びアラミド織布に対してサンプルEのフラグメント性能が優れていることを示している。
【0101】
【表5】

【0102】
この表は、類似の物品及びアラミド織布に対してサンプルEの弾丸性能が優れていることを示している。
【0103】
【表6】

【0104】
この表は、類似の不織物品と比較したときに、サンプルEのフレキシビリティが高いことを示している。試験は、ASTM D4032サーキュラー・ベンド試験法に従って行った。
【0105】
【表7】

【0106】
この表は、サンプルEの中間層結合強度のレベルとコンシステンシーが高いことを示している。この試験は、アラミド織布には適用されない。
本発明を、好ましい実施態様に関して具体的に説明してきたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良や変更行ってよいことは当業者にとって当然である。特許請求の範囲は、開示されている実施態様、上記の代替態様、及びこれらに対する均等な態様を含むよう解釈すべきであることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整列して配置された複数の繊維を含む弾道抵抗性不織布であって、該繊維は一体化されていて布帛を形成しており、該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、該繊維は、ニトリルゴムポリマーを含んでなるポリマーバインダー材料を繊維上に有し、該バインダーは、水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、該ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、ポリマーバインダー材料が布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する、前記弾道抵抗性不織布。
【請求項2】
前記ニトリルゴムポリマーが未硬化である、請求項1に記載の弾道抵抗性不織布。
【請求項3】
前記ニトリルゴムポリマーがニトリルゴムターポリマーを含む、請求項1に記載の弾道抵抗性不織布。
【請求項4】
前記ポリマーバインダー材料が、ニトリルゴムポリマーとフッ素含有材料とのブレンドを含む、請求項1に記載の弾道抵抗性不織布。
【請求項5】
前記ポリマーバインダー材料が1種以上の界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の弾道抵抗性不織布。
【請求項6】
請求項1に記載の弾道抵抗性不織布から作製される弾道抵抗性物品。
【請求項7】
弾道抵抗性布帛の製造方法であって、以下の工程I)または工程II):
I)複数の繊維上にポリマーバインダー材料を塗布し、次いで該繊維から不織布を形成する工程、ここで該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、該ポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムポリマーを含んでいて、水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、該ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、該ポリマーバインダー材料は、布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する;又は
II)複数の繊維を1つ以上の繊維層中に組織化し、次いで該1つ以上の繊維層とポリマーバインダー材料とを結合して不織布を形成する工程、ここで該繊維は、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有し、該ポリマーバインダー材料は、ニトリルゴムポリマーを含んでいて、水による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、1種以上の有機溶剤による溶解、浸透、及び/又は蒸散に対して抵抗性を有し、該ニトリルゴムポリマーは、約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有し、該ポリマーバインダー材料が布帛の約2重量%〜約50重量%を構成する;
のいずれか一方を含む、前記製造方法。
【請求項8】
1種以上のフッ素含有材料と1種以上のニトリルゴムターポリマーとのブレンドを含むポリマー組成物。
【請求項9】
ニトリルゴムターポリマーが約15重量%〜約50重量%のアクリロニトリル含量を有する、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
フッ素含有材料が前記ポリマー組成物の約5重量%〜約20重量%を構成する、請求項8に記載のポリマー組成物。

【公表番号】特表2011−508096(P2011−508096A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539664(P2010−539664)
【出願日】平成20年12月13日(2008.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/086736
【国際公開番号】WO2009/085674
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】