説明

ニトロプロパンの製造プロセス

希硝酸によるプロパンのニトロ化による2−ニトロプロパン及び/又は2,2−ジニトロプロパンの生成プロセスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行特許出願に対するクロスリファレンス
本件特許出願は、2008年4月16日出願の米国仮特許出願第61/045,378号の利益を請求する。
本発明は、ニトロプロパン、例えば2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンの製造プロセスに関する。更に詳しくは、このプロセスは、水性硝酸(aqueous nitric acid)をプロパンと、特定の反応条件下で、反応させることを含んでなる。
【背景技術】
【0002】
炭化水素のニトロ化によって、一般的に、反応条件及び供給原料構造に依存して、種々の生成物が製造される。例えば、プロパンニトロ化のための商業的蒸気相プロセスは、本質的に固定された相対濃度で、4種のニトロパラフィン生成物(ニトロメタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン及びニトロエタン)の混合物を生ずる。
【0003】
しかしながら、或る種の生成物は他のものよりも一層望ましく、一層有用なニトロ化化合物を、有用性の低い化合物を犠牲にして、選択的に製造することが、長い間の目標であった。商業的蒸気相ニトロ化とは反対に、プロパンの混合蒸気−液体相又は高圧ニトロ化は、これまで、一層望ましいニトロパラフィンである2−ニトロプロパンを、蒸気相ニトロ化の間に典型的に生成される他のニトロ化合物を製造することなく、潜在的に製造することができる技術であることを要求されてきた。例えば特許文献1及び非特許文献1参照。
【0004】
混合蒸気−液体相でプロパンをニトロ化する先行技術は、硝酸の転化率が低いこと、硝酸を容易に除去できないこと、硝酸による反応器腐食の問題及び反応発熱の制御の困難さを含む多数の理由のために、決して実用的ではなかった。
【0005】
選択的にニトロ化された炭化水素の高収率を得ることは、低い収率はより多くの供給物を必要とし、従ってより高いコストになるので、考慮すべき重大な経済的要因である。更に、ニトロ化剤として硝酸を使用するとき、未反応の硝酸は廃液生成物になり、廃液生成物を適切に処理するための費用が嵩む。反応剤炭化水素の高い転化率は、未反応の反応剤の精製及び循環に伴う資本及びエネルギー支出を最小にするために、経済的にも重大である。従って、選択的にニトロ化されたニトロパラフィンの製造のための、一層経済的で、選択的で、環境的に優しいプロセスについてのニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2,489,320号明細書(Nygaard他)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Albright,L.F.、“Nitration of Paraffins”、Chem.Engr.、(1966年)第149−156頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの面に於いて、本発明は、プロパンの選択的ニトロ化プロセスを提供する。本発明のプロセスは、これまでに遭遇した実用的な問題点、例えば低収率、低転化率及び過剰の廃液生成を回避する。このプロセスは、プロパンを水性硝酸と、少なくとも約1000psiの圧力及び約215〜約325℃(degrees Celsius)の温度で反応させ、そして生成されたニトロ化化合物を回収することを含んでなり、ここで、水性硝酸は、20〜40重量%溶液である。
【0009】
別の面に於いて、本発明は、少なくとも約15:1の2−ニトロプロパン対2,2−ジニトロプロパン重量比を含有する、ニトロパラフィンニトロ化プロセスからの生成物流を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記のように、一つの面に於いて、本発明は、硝酸によるプロパンのニトロ化プロセスを提供する。特に、反応温度及び酸水溶液中の硝酸の濃度を含む、本明細書に記載された反応条件の使用によって、先行技術プロセスを越えて著しく改良されたニトロ化プロセスが提供される。
【0011】
本発明のプロセスの一つの重要な利点は、それが、所望の生成物への硝酸の増加した転化率を提供することである。従って、幾つかの態様に於いて、本発明は、硝酸の少なくとも15モル%、好ましくは少なくとも20モル%、更に好ましくは少なくとも25モル%、なお更に好ましくは少なくとも30モル%を、2−ニトロプロパン及び/又は2,2−ジニトロプロパンに転化することができる(生成された2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンの合計モル数によって割った、供給された硝酸のモル数として計算する)。対照的に、例えば特許文献1の先行技術プロセスに於いて記載された2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンへの硝酸の最高転化率は、12%である(その実施例1参照)。
【0012】
所望の生成物へのこの改良された転化率に加えて、幾つかの態様に於いて、本発明は、硝酸の少なくとも95%が消費される((流入硝酸−排出硝酸)/流入硝酸のようにして決定する)ことも可能にする。ニトロパラフィンにならない、転化された硝酸は、酸化窒素(NO)の容易に回収される形になっている。
【0013】
本発明のプロセスの別の重要な利点は、本発明プロセスが、先行技術のシステムによって得ることができるものよりも、所望の生成物への炭化水素供給原料の転化率を増大させることである。従って、幾つかの態様に於いて、本発明は、出発プロパンの少なくとも約10モル%、好ましくは少なくとも約15モル%、更に好ましくは少なくとも約20モル%を、2−ニトロプロパン及び/又は2,2−ジニトロプロパン生成物に転化させることができる(生成された2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンのモル数は、反応に供給されたプロパンのモル数によって割ることによって、決定する)。対照的に、例えば特許文献1の先行技術プロセスの実施例1に於いて、2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンへのプロパンの転化率は、僅かに6.2モル%である。
【0014】
商業的に実施されているプロセスに比較して、本発明のプロセスの更に重要な面は、副生物として発生するニトロメタンの量の減少である。ニトロメタンは、安全な取扱いのための追加の設備を必要とする、爆発性の液体化合物である。従って、その減少は、任意の商業的ニトロ化プロセスの非常に望ましい特徴である。幾つかの態様に於いて、本発明のプロセスは、3重量%又はそれ以下、更に好ましくは1.5重量%又はそれ以下の、副生物としてのニトロメタンを含有する、所望のニトロ化生成物を提供することができる。本発明によるニトロメタンの低レベルは、ニトロメタンを、特別の処理及び装置を必要とすることなく、廃液流の一部として除去できることを意味する。対照的に、プロパンのニトロ化の商業的プロセスに於けるニトロメタン濃度は、(商業的プロセスの4種の主な生成物である、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン及び2−ニトロプロパンの合計重量に対して、ニトロメタンの重量%に基づいて)約25重量%で有り得る。
【0015】
アルデヒドはニトロ化プロセスに於ける別の副生物である。十分な量で存在するとき、アルデヒドは、水性廃液生成物を生物処理技術(biotreatment)によって処理できなくし、その代わりに、アルデヒド減少装置の使用を必要とする。このような装置は、ニトロ化プロセスの複雑性及び費用に加わり得る。従って、廃液流中のアルデヒドの濃度を減少させることが非常に望ましい。実施例3によって示されるように、本発明のプロセスの廃液流は、生物処理が実用的な処理選択である、十分に低いレベルのアルデヒドを含有することができる。対照的に、生物処理は、一般的に、代わりに有害な廃棄物の深井戸処分(hazardous-waste deep well disposal)を必要とする商業的プロセスでの選択ではない。
【0016】
本発明の第一の面に従って、プロパンは、本明細書中に記載された特別のプロセス条件下で、水性硝酸によってニトロ化されて、2−ニトロプロパン及びその他のニトロ化パラフィンを生成する。有利には、硝酸とのプロパンの反応は、耐蝕性反応器、例えばチタン製反応器内で実施される。この反応器は、任意的に、熱伝達流体を反応器に供給する入口部及び出口部を有するシェルによって取り囲まれている。例えば、油であってよい熱伝達流体によって、反応温度を、所望のパラメーター内に制御することが可能になる。
【0017】
しかしながら、硝酸とプロパンとの間の反応は発熱であるので、シェル及び熱伝達流体の使用は必要でないことに注目するべきである。反応温度は、反応剤の添加速度及び/又は濃度を単純に調節することによって、所望のパラメーター内に制御することができる。
【0018】
本発明の好ましい態様に於いて、反応器は下降流方式(downflow mode)で運転される。即ち好ましくは細長い、線状形状、例えば管型形状の反応器を、反応剤が、反応器の頂部又はその付近に存在する入口部を通して添加され、次いで、反応が起こり、所望の生成物の生成が可能となるのに充分な滞留時間の間、反応器の下方に流れるように配置する。生成物混合物は、反応器の底部又はその付近に存在する出口部を通して集められる。
【0019】
下降流配置の反応器の運転によって、一般的に、水平型、上昇流型(upflow)、コイル型又は回分式オートクレーブ型装置を使用する先行技術システムを越えた、一定の利点がもたらされる。特に、本発明の下降流配置によって、このような先行技術システムに比較して、相対的に低いレベルの酸化副生物を含有するニトロ化化合物がもたらされる。
【0020】
如何なる特別の理論によっても結び付けられることを望まないで、下降流型反応器の利点は、主として、反応器内の液相の量及び滞留時間を最小にするためのその能力からもたらされると考えられる。この液相には、一般的に、炭化水素対硝酸の低いモル比が含まれる。この低いモル比は、ニトロ化及び酸化の負担なしで、酸化化学に有利であり、従って、主として液相で起こる。下降流型反応器(細流床反応器としても参照される)に於いて、気体は連続相であり、液体は、反応器壁又は充填物を下方に細流として流れる。従って、下降流配置反応器内の液相(群)の量は低いレベルに維持され、その結果、酸化化学は最小にされる。
【0021】
対照的に、気泡塔としても参照される、上昇流型反応器に於いては、液体は連続相である(そして、泡が、連続液相を通過して迅速に上昇する)。従って、上昇流型反応器は、液体ホールドアップを最大にする。前記のように、酸化は、主として液相中で起こるので、上昇流型反応器は、酸化副生物の形成を最大にする。同様に、コイル型及び水平型反応器配置も、下降流型反応器と比較したとき、液体滞留時間を延長し、従って酸化化学を増加させる。コイル型反応器の更なる欠点は、これらが、この形状で大規模反応器を製作することの困難さのために、工業的規模製造のために十分に適合していないことである。
【0022】
この反応器には、任意的に、反応剤混合及び熱伝達を改良するために、そして/又は反応器体積を変化させるために、充填材が充填されている。反応器の充填は、生成物流中の2,2−ジニトロプロパンの濃度を増加させることが望まれる場合に、特に好ましい。適切な充填材には、例えばガラスビーズ、ランダム充填物(random packing)又は構造化充填物(structured packing)、例えば蒸留装置内で典型的に使用されるものが含まれる。他の充填材が当該技術分野で公知であり、使用することができる。
【0023】
プロパン及び硝酸は、反応器の中に入れる前に、混合することができ若しくは部分的に混合することができ又は、その代わりに、これらは、反応器内で混合を起こさせながら、個別に添加することができる。更に、一緒に添加しようと個別に添加しようと、反応剤を、反応器の中に入れる前に予熱することができる。
【0024】
硝酸は、反応器に、少なくとも約10重量%、好ましくは少なくとも約15重量%、更に好ましくは少なくとも約20重量%の酸を含有する水溶液の形で供給される。更に、この溶液は約50重量%以下、好ましくは約40重量%以下、更に好ましくは約35重量%以下の酸を含有する。更なる態様に於いて、この硝酸溶液は約15〜約40重量%の酸を含有する。他の態様に於いて、この硝酸溶液は約18〜約35重量%の酸を含有する。
【0025】
プロパン対硝酸のモル比は少なくとも約1:1、更に好ましくは少なくとも約1.2:1にすべきである。
【0026】
反応器内の反応温度は、一般的に、(例えば前記のように、熱交換流体により又は反応から発生する熱を使用して)少なくとも約215℃で約325℃以下に制御される。幾つかの態様に於いて、この温度は、少なくとも約220℃、少なくとも約230℃又は少なくとも約240℃である。更なる態様に於いて、この温度は、約290℃以下、約280℃以下又は約270℃以下である。他の態様に於いて、この温度は、約215〜280℃又は約220〜270℃である。
【0027】
反応器内の圧力は、少なくとも約1000psi(68atm)、好ましくは少なくとも約1200psi(82atm)に維持すべきである。更に好ましくは、この圧力は、約1600psi(109atm)又はそれ以下、好ましくは約1500psi(102atm)又はそれ以下、更に好ましくは約1400psi(95atm)又はそれ以下である。更なる態様に於いて、この圧力は、約1200psi(82atm)〜1400psi(95atm)である。この圧力を所望の範囲内に維持するために、例えば背圧調節器の使用によることを含む、当該技術分野で公知の種々の方法を使用することができる。
【0028】
反応器内の反応剤の滞留時間は、好ましくは少なくとも約30秒間、更に好ましくは少なくとも約90秒間である。滞留時間は、例えば反応器の長さ及び/若しくは幅による又は充填材の使用によることを含む、種々の方法で制御することができる。滞留時間は反応器の体積を入口流量で割ることによって決定する。
【0029】
充分な滞留時間に続いて、ニトロ化生成物を、反応器の出口部を通して反応器から集める。特別に所望される物質、例えば2−ニトロプロパン及び/又は2,2−ジニトロプロパンを単離又は精製するために、更なる処理、例えば蒸留を、ニトロ化生成物に実施することができる。
【0030】
2,2−ジニトロプロパンは、本発明のニトロ化反応の有用な生成物であるが、幾つかの態様に於いて、2−ニトロプロパンに富んでいるニトロパラフィン流を製造することが望ましい。従って、更なる面に於いて、本発明は、特にその有機部分に於いて、ニトロ化プロセスの直接生成物(即ち特定のニトロパラフィン成分を富化するための更なる精製が無い)である生成物流を提供する。この生成物流は2−ニトロプロパン、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンを含む。この生成物流中の2−ニトロプロパン対2,2−ジニトロプロパンの重量比は、少なくとも約15:1、好ましくは少なくとも約30:1、更に好ましくは少なくとも約40:1、更に好ましくは少なくとも約50:1、なお更に好ましくは少なくとも約60:1である。
【0031】
本発明に従って製造された2−ニトロプロパンは、例えば2−ニトロ−2−メチル−1−プロパノール(NMP)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール(DMAMP)、N−イソプロピルヒドロキシルアミン(IPHA)及び4,4−ジメチル−1,3−オキサゾリジンを含む、種々の下流の工業的に有用な生成物を製造するために使用することができる。出発2−ニトロプロパンからのこれらの物質の製造は、当業者に公知である技術によって、達成される。
【0032】
例えば2−ニトロ−2−メチル−1−プロパノール(NMP)は、アルカリ性触媒、例えば水酸化ナトリウム又はトリメチルアミンの存在下での、2−ニトロプロパン(2−NP)及びホルムアルデヒドの付加反応によって得ることができる。例えば英国特許第1245469号明細書参照。典型的には、この反応には、2−ニトロプロパンをホルムアルデヒドの水溶液と、約1;1の2−NP対ホルムアルデヒドのモル比で、約70〜80℃の温度で、回分式で又は連続式で反応させることが含まれる。触媒は、反応混合物中に0.01〜0.05の規定度を与えるために十分な量で使用される。典型的には、この反応は溶媒無しで実施する。生成物は、典型的には、水溶液として直接的に使用することができ又は水溶液から結晶化させることができ又は真空下で溶媒をストリッピング除去し、パン若しくは他の容器内で液体NMPを凍結させることにより注型固体として回収することができる。
【0033】
NMPは、ラネーニッケルの存在下での水素化によって、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールに還元することができる(“Nitro Alcohols” Kirk-Othmer Concise Encyclopedia of Chemical Technology、1985年、第789−790頁及び米国特許第3,564,057号明細書(それぞれ参照して本明細書に含める)参照)。典型的には、この水素化は、メタノール又はエタノール水溶液中で、約70〜100℃の温度で、400〜600p.s.i.gの圧力で行う。ラネーニッケル触媒は、水素化されるべきNMPの約2〜10重量%の濃度で使用する。生成物は、触媒を濾過し、続いて、最初に溶媒の蒸留、続いてAMP生成物の蒸留によって、容易に回収することができる。
【0034】
N−イソプロピルヒドロキシルアミンは、例えば米国特許第5,288,907号明細書(参照して本明細書に含める)に従って、パラジウム触媒(例えばPd/Al23)の存在下での2−ニトロプロパンの水素化によって製造することができる。典型的には、この水素化は、水又はメタノール中で、50〜75℃及び30〜600p.s.i.g.H2で、4〜6時間、よく撹拌して行う。生成物は、典型的には、触媒を濾別し、次いで貯蔵することによって回収し、濃縮された遊離ヒドロキシルアミンの低い熱安定性のために、水溶液として直接使用する。
【0035】
2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノールは、AMPからホルムアルデヒドの存在下での水素化によって製造され、蒸留によって精製される(“Alkanolamines” Kirk-Othmer Concise Encyclopedia of Chemical Technology、1985年、第68−69頁(参照して本明細書に含める)参照)。典型的には、この反応は、メタノール溶媒中で、AMPの各モルについて、2〜3モル当量のホルムアルデヒドで実施する。反応剤を、良好な撹拌で、100〜160℃で4〜6時間、400〜700psigの水素圧力で加熱する。DMAMP生成物は、触媒を濾過し、続いて、最初に溶媒を留去し、続いて生成物自体を蒸留することによって、容易に回収することができる。
【0036】
4,4−ジメチルオキサゾリジンは、等モル量の、ホルムアルデヒドと2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールとの反応によって製造することができる(例えばBE第621923号明細書参照)。典型的には、この反応は、溶媒無しで、約50〜70℃の温度で、1〜2時間、実施する。生成物は、直接パッケージし、追加の処理をすることなく、縮合反応から得られた水溶液として使用することができる。
【0037】
下記の実施例は、本発明の例示であるが、その範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0038】
概要。本発明の種々の面を、研究所規模の反応器を使用して示す。この反応器は、反応器の長さに沿った温度プロフィールを決定するために、反応器の中心を軸的に下方に配置されたサーモウェルを有する、単一管シェル・アンド・チューブ型熱交換器である。この反応器は、長さが46インチで、1/2インチ外径(0.37インチ内径)2型チタンプロセスチューブ及び1/8インチ外径(0.093インチ内径)2型チタンサーモウェルを有する、1.25インチ外径304ステンレススチールであるシェルを有する。温度プロフィール測定のために、非常に微細な可動性サーモカップルを、サーモウェルの中に挿入する。このサーモウェルは取り除くことができ、反応器に充填物を充填することができる。この反応器を垂直に装着する。硝酸及びプロパン反応剤流を、Swagelok“T”内で室温で混合し、その後、反応器の中に入れる。使用する熱油を、反応剤に対して向流で、反応器シェルに供給する。反応器排出液を、冷却剤として水道水を使用してシェル・アンド・チューブ型熱交換器内で冷却する。次いで、この排出液を減圧し、気体及び液体を集め、測定し、分析する。
【0039】
下記の実施例に於いて、ニトロ化反応の物質収支を、気体、水溶液、ニトロパラフィン油及びスクラバー液体についてGC/MSにより、水含有量についてカールフィッシャー滴定により、強/弱酸定量について電位差滴定により、そして弱酸同定及び定量についてHPLCにより決定する。
【0040】
下記の表に示される計量値は、下記のようにして計算する。
消費された硝酸のグラム数は、供給物中の硝酸のモル数から、排出液中のNOのモル数を差し引き、次いで、このモル数を、硝酸の分子量を使用してグラム数に変換することによって計算する。これは、オフガス中のNOの回収を、硝酸として説明する。
【0041】
生成されたニトロパラフィンのグラム数=ニトロメタンのグラム数 + ニトロエタンのグラム数 + 1−ニトロプロパンのグラム数 + 2−ニトロプロパンのグラム数 + 2,2−ジニトロプロパンのグラム数。
【0042】
硝酸収率=消費された硝酸のグラム数/生成されたニトロパラフィンのグラム数
プロパン収率=消費されたプロパンのグラム数/生成されたニトロパラフィンのグラム数。
【0043】
硝酸転化率(%)=100×(流入硝酸−排出硝酸)/流入硝酸。
【0044】
プロパン転化率(%)=100×(流入プロパン−排出プロパン)/流入プロパン。
【0045】
2−ニトロプロパン選択率(%)=100×2−ニトロプロパンのグラム数/生成されたニトロパラフィンのグラム数。
【0046】
2,2−ジニトロプロパン選択率(%)=100×2,2−ジニトロプロパンのグラム数/生成されたニトロパラフィンのグラム数。
【0047】
生成された酢酸:生成された酢酸のグラム数/生成されたニトロパラフィンのグラム数。
【0048】
実施例1
希硝酸によるプロパンのニトロ化;熱油温度255℃
プロパンを、ニトロ化剤として希硝酸水溶液を使用して、前記の反応器で、下記のプロセス条件、即ち反応器圧力1400psi、熱油温度255℃、プロパン対硝酸モル比1.4:1、硝酸強度(水中)25.5重量%及び滞留時間120秒間(室温及び1400psiで、供給物の流速によって割った反応器の体積を基にする)でニトロ化する。反応器には充填しなかった。物質収支の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
反応の重要な性能計量値を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
これらの結果は、反応剤の、所望の生成物である2−ニトロプロパンへの高い転化率及び収率を示している。これらの結果は、1回通過反応器についてのものであることが理解されるべきである。フルスケールプロセスに於いては、未反応の硝酸の大部分は、新しい硝酸を希釈するために循環し、約99%の総硝酸転化率に至るであろう。
【0053】
所望の生成物への効率のよい原料転化率は、ニトロプロパンの商業的規模製造のための極めて重要な必要条件であり、本発明の顕著な利点である。転化率は、転化率と原料収率との組合せの項目で測定する。このデータを表3に示す。判るように、本発明の実施例からの結果は、特許文献1に於いて報告されたものよりも約3倍高い。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例2
プロパンのニトロ化;熱油温度235℃
プロパンを、ニトロ化剤として希硝酸水溶液を使用して、前記の反応器で、下記のプロセス条件、即ち反応器圧力1400psi、熱油温度235℃、プロパン対硝酸モル比1.35:1、硝酸強度(水中)29.8重量%及び滞留時間120秒間(室温及び1400psiで、供給物の流速によって割った反応器の体積を基にする)でニトロ化する。反応器には充填しなかった。物質収支の結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
反応の重要な性能計量値を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
これらの結果は、反応剤の、所望の生成物である2−ニトロプロパンへの高い転化率及び収率を示している。
【0060】
所望の生成物への効率のよい原料転化率は、ニトロプロパンの商業的規模製造のための極めて重要な必要条件であり、本発明の顕著な利点である。転化率は、転化率と原料収率との組合せの項目で測定する。このデータを表6に示す。判るように、本発明の実施例からの結果は特許文献1に於いて報告されたものよりも約3倍高い。
【0061】
【表6】

【0062】
実施例3
プロパンのニトロ化;熱油温度285℃
プロパンを、ニトロ化剤として希硝酸水溶液を使用して、前記の反応器で、下記のプロセス条件、即ち反応器圧力1400psi、熱油温度285℃、プロパン対硝酸モル比1.21:1、硝酸強度(水中)20.0重量%及び滞留時間75秒間(室温及び1400psiで、供給物の流速によって割った反応器の体積を基にする)でニトロ化する。反応器には充填しなかった。物質収支の結果を表7に示す。
【0063】
【表7】

【0064】
反応の重要な性能計量値を表8に示す。
【0065】
【表8】

【0066】
これらの結果は、反応剤の、所望の生成物である2−ニトロプロパンへの高い転化率及び収率を示している。
【0067】
所望の生成物への効率のよい原料転化率は、ニトロプロパンの商業的規模製造のための極めて重要な必要条件であり、本発明の顕著な利点である。転化率は、転化率と原料収率との組合せの項目で測定する。このデータを表9に示す。判るように、本発明の実施例からの結果は、特許文献1に於いて報告されたものよりも約3倍高い。
【0068】
【表9】

【0069】
実施例4
廃水の生物処理性の比較
可溶性ニトロパラフィンを除去するために蒸留した、実施例2からの生成物流の49日間の連続生物処理試験(2段式無酸素性/好気性反応器システムとして設定)を実施する。生物処理試験は、硝酸塩除去99.7%及びCOD(化学的酸素要求量)除去99.4%を示し、優れた処理性を示す。毒性の表示は、炭素質生物学的変換又は脱窒素/硝化反応に於いて認められない。
【0070】
生物処理は、主として大量のアルデヒドの存在のために、商業的プロセスからの廃液流で実用的ではない。深井戸処分(deep well disposal)が商業的プロセスには使用される。
【0071】
実施例5
ニトロメタン濃度への内部反応器温度の影響
表10に示される4回の運転を、下記のプロセス条件、即ち1400psi、106〜121秒の範囲内の滞留時間、3:1〜4:1の範囲内のプロパン対硝酸モル比で、研究所反応器を使用して完結する。(注、プロパン対硝酸モル比は、より高い強度の硝酸を使用したとき、ヒートシンクとして未反応のプロパンを試行し、使用するために、最適なものよりも高い−これは、ほんのわずかだけ影響があった)。
【0072】
【表10】

【0073】
より高い硝酸強度は、反応器内のより大きい熱スポットに至る。より熱い最高内部反応器温度は、ニトロメタン生成の増加に影響する。
【0074】
実施例6
充填物を使用する2,2−DNP製造の制御
本件特許出願に於ける実施例1は、反応器排出液中の2,2−DNPの低いレベルを示した。2,2−DNPの量は、反応器に充填物を添加することによって増加させることができる。
【0075】
プロパンを、ニトロ化剤として希硝酸水溶液を使用し、前記の反応器を使用して、下記のプロセス条件、即ち反応器圧力1400psi、熱油温度235℃、プロパン対硝酸モル比1.8:1、硝酸強度(水中)30.9重量%及び滞留時間120秒間(室温及び1400psiで、供給物の流速によって割った反応器の体積を基にする)でニトロ化する。この場合に、実験を行う前に、反応器に、3mmのホウケイ酸塩ガラスボールを充填する。この実施例についての物質収支の結果を、表11に示す。
【0076】
【表11】

【0077】
重要な性能計量値を表12に示す。
【0078】
【表12】

【0079】
実施例1と本実施例との間の2,2−DNP選択率の比較を表13に示す。
【0080】
【表13】

【0081】
これらの結果は、2,2−DNP選択率が反応器を充填することによって影響を受け得ることを示している。更に、副生物である酢酸の量も増加する。
【0082】
本発明を、その好ましい態様に従って上に説明したが、これは、この開示の精神及び範囲内で修正することができる。従って、本件特許出願は、本明細書中に開示された一般的原理を使用して、本発明の任意の変形、使用又は適合をカバーすることを意図している。更に、本件特許出願は、本発明が関係しており、下記の特許請求の範囲の限定内に入る、当該技術分野で公知である又は慣習的実施内に入るような、本発明の開示からの逸脱をカバーすることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンの選択的生成プロセスであって、前記プロセスが、
プロパンを水性硝酸と、少なくとも約1000psiの圧力及び約215〜約325℃の温度で反応させ、そして
生成したニトロ化化合物を回収する
ことを含んでなり、水性硝酸が10〜50重量%溶液であるプロセス。
【請求項2】
前記水性硝酸が15〜40重量%溶液である請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記水性硝酸が18〜35重量%溶液である請求項1〜2に記載のプロセス。
【請求項4】
プロパン対硝酸のモル比が少なくとも約1.2:1である請求項1〜3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記温度が230℃よりも高い請求項1〜4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記温度が290℃又はそれ以下である請求項1〜5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応を下降流配置反応器内で実施する請求項1〜6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応器が反応器の外側表面に熱交換流体を供給するためのシェルによって取り囲まれている請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応を充填反応器内で実施する請求項1〜8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応を非充填反応器内で実施する請求項1〜8に記載のプロセス。
【請求項11】
2−ニトロプロパン対2,2−ジニトロプロパンの重量比が少なくとも約15:1である請求項1〜10に記載のプロセス。
【請求項12】
2−ニトロプロパン、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン及び2,2−ジニトロプロパンを含んでなる、プロパンニトロ化反応から直接的に得られる油性生成物流であって、前記2−ニトロプロパン対2,2−ジニトロプロパンの重量比が少なくとも約15:1である生成物流。
【請求項13】
前記生成物流中の2−ニトロプロパン対2,2−ジニトロプロパンの重量比が少なくとも約30:1である請求項12に記載の生成物流。
【請求項14】
2−ニトロ−2−メチル−1−プロパノールの製造プロセスであって、前記プロセスが、
請求項1〜11に従って生成された2−ニトロプロパンを用意し、
前記2−ニトロプロパンをホルムアルデヒドと、アルカリ性触媒の存在下で縮合させ、そして
前記2−ニトロ−2−メチル−1−プロパノール生成物を回収する
ことを含んでなる製造プロセス。
【請求項15】
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの製造プロセスであって、前記プロセスが、
請求項14に従って生成された2−ニトロ−2−メチル−1−プロパノールを、ラネーニッケルの存在下で水素化し、そして
前記2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを回収する
ことを含んでなる製造プロセス。
【請求項16】
2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノールの製造プロセスであって、前記プロセスが、
請求項15に従って生成された2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを、ホルムアルデヒドの存在下で水素化し、
2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール生成物を回収する
ことを含んでなる製造プロセス。
【請求項17】
N−イソプロピルヒドロキシルアミンの製造プロセスであって、前記プロセスが、
請求項1〜11に従って生成された2−ニトロプロパンを、パラジウム触媒の存在下で水素化し、そして
N−イソプロピルヒドロキシルアミン生成物を回収する
ことを含んでなる製造プロセス。
【請求項18】
4,4−ジメチル−1,3−オキサゾリジンの製造プロセスであって、前記プロセスが、
ホルムアルデヒド及び請求項15に従って生成された2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの等モル量を反応させ、そして
4,4−ジメチル−1,3−オキサゾリジン生成物を回収する
ことを含んでなる製造プロセス。

【公表番号】特表2011−518162(P2011−518162A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505092(P2011−505092)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/039906
【国際公開番号】WO2009/129099
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(591252611)アンガス ケミカル カンパニー (32)
【Fターム(参考)】