説明

ヌクレオシド化合物を含んでいるRNA、当該RNAからのタンパク質の産生量を制御する方法、およびヌクレオシド化合物

【課題】空間および時期を選択して可逆的に、その翻訳によって産生されるタンパク質の量を制御可能なRNAを提供すること。
【解決手段】本発明のRNAは、5’キャップ構造、ならびに5’側の開始コドンおよび3’側の終止コドンを両端に有している翻訳領域を含んでいるRNAであって、
プリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I):
【化1】


(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、同一であるか、または異なる2つのXがCHまたは窒素原子を表し、ここでCHラジカルのHがアルキルによって置換され得る)
によって表される基が結合しているヌクレオシド化合物が、上記RNAの5’キャップ構造および5’末端から10塩基までの塩基から選択される位置に導入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヌクレオシド化合物を含んでいるRNA、当該RNAからのタンパク質の産生量を制御する方法、およびヌクレオシド化合物に関する。上記RNAは、上記ヌクレオシド化合物の光異性化によってその翻訳が制御され得る。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の発現を短い期間において厳密に制御するには、mRNAからタンパク質への翻訳過程を制御する必要がある。DNAからmRNAへの転写を制御した場合、転写を抑制しても、mRNAが分解を受けるまで翻訳が継続し続けるからである。
【0003】
細胞内に注入したmRNAの翻訳を、所定の波長を有している光の照射を当該mRNAが受けるまで、停止させる技術が存在する(非特許文献1)。この技術において、注入されるmRNAにあらかじめケージ化合物が結合しており、ケージ化合物によってリポソームのmRNA上の移動が妨げられている。上記ケージ化合物は、所定の波長を有している光の照射を受けると、mRNAから解離する。したがって、この技術を利用すれば、所望のタイミングにおいてmRNAの翻訳を開始させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2009−114171号公報」(2009年5月28日公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Ando, T. Furuta, R. Y. Tsien, H. Okamoto “Photo-mediated gene activation using caged RNA/DNA in zebrafish embryos” Nat. genetics. 2001, 28, 317-325.
【非特許文献2】S. Ogasawara, I. Saito, M. Maeda “Synthesis and reversible photoisomerization of photoswitchable nucleoside, 8-styryl-2’-deoxyguanosine" Tetrahedron Lett. 2008, 49, 2479-2482.
【非特許文献3】S. Ogasawara, M. Maeda “Straightforward and Reversible Photoregulation of Hybridization using Photochromic Nucleoside" Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 8839-8842.
【非特許文献4】S. Ogasawara, M. Maeda “Reversible Photoswitching of a G-Quadruplex" Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6671-6674.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の従来技術において、開始させた翻訳はmRNAが分解されるまで停止しない。解離したケージ化合物がmRNAに結合しないからである。このため、タンパク質の産生量は制御され得ない。また、ケージ化合物をmRNAから解離させる光を照射した後に、当該mRNAは、光照射された範囲から拡散する。拡散後のmRNAからのタンパク質への翻訳は停止しないため、所望のタンパク質を局所的に発現させることはできない。すなわち、当該従来技術によって細胞内における局所的なタンパク質発現を可逆的に制御することはできない。
【0007】
ここで、例えば、未分化の細胞では、特定の領域に特定のmRNAが局在し、当該領域においてタンパク質への翻訳が特定の時期に行われ得ることが知られている。この特定の領域におけるタンパク質の一時的な発現が、分化する細胞の種類を決定し得る。つまり、生命現象を精密に制御する必要がある再生医療技術などの開発、またはさらなる生命現象を解明する研究には、特定の領域において所望のタイミングから特定の期間にわたって、特定のmRNAのタンパク質への翻訳を起こさせ、かつ特定の期間の経過後に当該翻訳を停止させてタンパク質の産生量を制御し得る技術が必要になってくる。
【0008】
上述のような背景から鑑みて、本発明の目的は、特定の波長を有している光の照射によってタンパク質の産生量を自在に制御し得るRNAを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のRNAは、5’キャップ構造、ならびに5’側の開始コドンおよび3’側の終止コドンを両端に有している翻訳領域を含んでおり、
プリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、同一であるか、または異なる2つのXがCHまたは窒素原子を表し、ここでCHラジカルのHがアルキルによって置換され得る)
によって表される基が結合しているヌクレオシド化合物が、上記RNAの5’キャップ構造および5’末端から10塩基までの塩基から選択される位置に導入されている。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明のRNAからのタンパク質の産生量を制御する方法は、上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってトランス型からシス型にする波長を有している第1の光、および/または上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってシス型からトランス型にする波長を有している第2の光を、上記RNAに照射する工程を包含している。
【0013】
また、本発明のヌクレオシド化合物は、プリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I’):
【0014】
【化2】

【0015】
(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、2つのXが、同一であり、窒素原子を表す)
によって表される基が結合している。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、空間および時期を選択して可逆的に、その翻訳によって産生されるタンパク質の量を制御可能なRNAを提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に使用したRNAの概略の構造、ならびに当該RNAの翻訳レベルおよび翻訳の光制御の比較を示す図である。
【図2】GFPをコードしている本発明に係るRNAの翻訳のインビトロにおける制御を、異なる波長の光の照射およびGFPの蛍光強度によって証明している図である。
【図3】GFPをコードしている本発明に係るRNAの翻訳の細胞内における局所的な制御を、GFPの蛍光によって証明している図である。
【図4】420nm(上段)および550nm(下段)の光を照射したときの、実施例3において得られた化合物の吸収スペクトルの経時変化を示す図である。
【図5】420nmの光および550nmの光を交互に照射したときの、実施例4において得られた化合物の吸光度の変化を示す図である。
【図6】420nm(上段)および550nm(下段)の光を照射したときの、実施例4において得られた化合物の吸収スペクトルの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔本発明に係るRNA〕
(RNAの構造)
本発明に係るRNAは、5’キャップ構造、ならびに5’側の開始コドンおよび3’側の終止コドンを両端に有している翻訳領域を含んでいる。本発明に係るRNAは、さらにプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I):
【0019】
【化3】

【0020】
(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、同一であるか、または異なる2つのXがCHまたは窒素原子を表し、ここでCHラジカルのHがアルキルによって置換され得る)
によって表される基が結合しているヌクレオシド化合物が、上記RNAの5’キャップ構造および5’末端から10塩基までの塩基から選択される位置に導入されている。
【0021】
式(I)によって表されている基は、異なる2つの波長の光を受けて二重結合部分のシス−トランス異性化を可逆的に起こし得る。したがって、ヌクレシオドの塩基部分に当該基を導入することによって、光照射を受けて可逆的に構造変化し得るヌクレオシド化合物を得ることができる。このようにして得られたヌクレオシド化合物を上記RNAの上述の位置に導入することによって、翻訳の開始に関与する因子との結合の可否をヌクレオシド化合物の構造変化にしたがって決定し得るRNAを得ることができる。
【0022】
より詳細には、上記RNAがシス型であるとき、当該RNAは翻訳の開始に関与する因子との結合を生じ得、一方で、上記RNAがトランス型であるとき、当該RNAは翻訳の開始に関与する因子との結合を生じ得ない。つまり、本発明のRNAは、照射される光の波長に応じて翻訳の開始可能な構造から開始不可能な構造へ、そしてその逆へと可逆的に構造変化を起こして、当該RNAの翻訳によって産生されるタンパク質の量を制御し得る。
【0023】
上記ヌクレオシド化合物は、本発明に係るRNAにおいて、5’キャップ構造に導入されていることが好ましい。このような場合、本発明に係るRNAは、トランス型であるとき、翻訳の開始因子との結合を生じないため、より確実に翻訳の開始を阻害し得る。
【0024】
式(I)において、両方のXが窒素原子であることが好ましい。両方のXが窒素原子であれば、本発明に係るRNAは、可視光の照射によって可逆的に異性化し得る。この構成の利点は、生体内に本発明に係るRNAを導入して、当該RNAの翻訳によって産生されるタンパク質の量を制御する場合に、生体に有害な作用を及ぼす紫外光を用いる必要がないことである。
【0025】
式(I)において、XがCHである場合に、Hはアルキルによって置換されいてもよい。置換基であるアルキルは、上記ヌクレオシド化合物のシス−トランス異性化を妨げない大きさのアルキル、例えばC1−5アルキル、好ましくはC1−3アルキルである。
【0026】
本明細書において、ある官能基または原子が置換基を有し得る場合、置換基の種類、その数および置換位置は、特に限定されない。当該置換基の具体例として、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アリール基(好ましくは炭素数5〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基)、ヘテロアリール基(好ましくは5〜10員環のヘテロアリール基、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、テベニジニル基、10H−キンドリニル基)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20の置換または無置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基)が挙げられる。また、ある基に関する「炭素数」とは、置換基を有する基において、当該置換基に含まれる炭素を除いた炭素の数を指す。
【0027】
本発明において「ヌクレオシド化合物」は、「プリンヌクレオシド化合物」および「ピリミジンヌクレオシド化合物」を含んでいる。このうち「プリンヌクレオシド化合物」は、プリン塩基と糖の還元基とがグリコシド結合によって結合した、プリン核を含む配糖体化合物である。本発明のプリンヌクレオシド化合物において、上記プリン核の8位の炭素原子が上記式(I)によって表される基に置換されている。二重結合部分の異性化によって下記のトランス異性体(左)またはシス異性体(右)のいずれかになる。
【0028】
【化4】

【0029】
(上記において、Zは存在しないか、水素原子または置換基を表し、Zは水素原子または置換基を表し、nは1〜4の範囲の整数を表し、実線および破線からなる二重線は単結合または二重結合を表し、#は糖との結合位置を表し、nが2以上の場合、複数存在するZは同じであるか、または異なる)。
【0030】
ここで、上記ヌクレオシド化合物が5’キャップ構造に導入されている場合には、プリン核の7位の置換基としては、例えばアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、またはアルキル基を介してアリール基もしくはヘテロアリール基が結合した置換基が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜30のアリール基であり、より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。ヘテロアリール基としては5員又は6員のヘテロアリール基であり、アルキル基としては炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。上記置換基は、より好ましくはメチル基であるが、上記置換基が存在しない態様があり得る。
【0031】
「化4」および式(I)において、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表す。アリール基は、例えば炭素数5〜30であり、単環または多環のいずれかであり得る。上記アリール基は置換基を有し得る。上記アリール基として、例えば、置換または無置換のフェニル基ならびにナフチル基が挙げられる。また、上記アリール基として、フェニル基;ナフチル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、アセナフチレニル基、9H−フルオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基およびペリレニル基など環を構成する原子数が10〜20のアリール基;ピセニル基、ペンタフェニル基およびペンタセニル基など環を構成する原子数21〜30のアリール基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
これらの中でも、環を構成する原子数が6〜13のアリール基が好ましく、置換もしくは無置換のナフチル基が特に好ましい。例えば、Aがこのような基であれば、後述のように本発明に係るRNAを転写反応によって合成する場合に、(1)転写産物(本発明に係るRNA)の収量が多く、かつ(2)本発明に係るRNAからタンパク質への翻訳の開始および開始の阻害が光照射にしたがってより適切に制御され得る。(1)の観点から単環式または二環式のアリール基が好ましく、(2)の観点から二環式のアリール基または3つ以上の環構造を有しているアリール基が好ましい。したがって、Aは、生成されるRNAの収量およびタンパク質の産生量の制御の容易さに合わせて、適宜選択され得る。
【0033】
Aによって表されるヘテロアリール基としては、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる1または2以上のヘテロ原子を環構成原子として含む、5〜10員環のヘテロアリール基が挙げられ、単環または多環のいずれかであり得る。より好ましくは窒素原子を環構成原子として、1個または2個含む5員環または6員環のヘテロアリール基が挙げられ、さらに好ましくは窒素原子を環構成原子として1個含む5員環または6員環のヘテロアリール基が挙げられる。上記ヘテロアリール基は置換基を有し得る。ヘテロアリール基の具体例として、置換または無置換のピロリル基、イミダゾリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環を構成する原子数が5または6の単環式ヘテロアリール基;インドリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環を構成する原子数が7〜9の縮合環式ヘテロアリール基;キノリニル基、2,7−ナフチリジニル基、2,6−ナフチリジニル基、1,6−ナフチリジニル基、1,5−ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、9H−カルバゾリル基、9H−β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、1H−ペリミジニル基、4,7−フェナントロリニル基、3,8−フェナントロリニル基および2,9−フェナントロリニル基などのフェナントロリニル基、フェナジニル基、テベニジニル基ならびに10H−キンドリニル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環構成原子10〜20のヘテロアリール基などが挙げられる。中でも、環を構成する原子数が5〜10のヘテロアリール基が好ましい。
【0034】
本発明のプリンヌクレオシド化合物の好ましい態様としては、プリン核の8位の炭素原子に上記式(I)によって表される基が結合している、以下の式によって表されるグアノシン誘導体およびアデノシン誘導体が挙げられる。
【0035】
【化5】

【0036】
「化5」において、AおよびZの定義およびその詳細は上述の通りである。また、「化5」おいて、Yは水酸基または−HPO−であり、Yは−HPO−であり、Yは、水素原子、または置換もしくは無置換のアミノ基もしくはその保護基を表す。上記保護基としては、イソブチル基およびジメチルホルムアミジン(DMF)基などが挙げられる。
【0037】
本発明のアゾ骨格を有しているプリンヌクレオシド化合物の合成方法は、後述の(プリンヌクレオシド化合物)の項を参照すればよい。また、オレフィン骨格を有しているプリンヌクレオシドの合成方法は、S. Ogasawara, M. Maeda “Straightforward and Reversible Photoregulation of Hybridization using Photochromic Nucleoside" Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 8839-8842.およびS. Ogasawara, M. Maeda “Reversible Photoswitching of a G-Quadruplex" Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6671-6674.を参照すればよい。
【0038】
また、例えば8位がハロゲン化されたプリンヌクレオシド誘導体(以下、「ハロゲン化ヌクレオシド誘導体」ともいう)の8位ハロゲン原子を、式(I)で表される基と置換することによって、式(I)によって表されるプリンヌクレオシド化合物を得ることができる。例えば、E体の合成には、鈴木‐宮浦カップリングを用いることができる。具体的には、8位をハロゲン化したプリン核および(E)−アルケニルホウ素化合物をパラジウム等の触媒存在下において数時間にわたって加熱還流し、反応後、エバポレーターによって溶媒を除去し、カラム精製、再結晶、洗浄などの方法を用いて精製を行なうことによって目的物を得ることができる。上記反応の詳細については、N. Miyaura et al., Chem. Rev., 1995, 95, 2457-2483; N. Amann et al., Synlett, 2002, 5, 687-691.を参照できる。一方、Z体は、例えば8‐アリールエチニルプリンの接触水素還元により得ることができる。上記接触水素還元について、より具体的に説明する。まず薗頭カップリングを用い、8位をハロゲン化したプリン核と末端アルキンを有している原子団をパラジウム等の触媒に加えヨウ化銅、アミン塩基などを同時に加えて数時間にわたって加熱還流し、反応後、エバポレーターで溶媒を除去し、カラム精製、再結晶、洗浄などの方法で精製する。得られた8‐アリールエチニルプリンをエタノール、メタノールなど適当な溶媒に溶かし、パラジウム等の触媒下、系内を水素を用いて置換し常圧もしくは加圧下で接触水素還元する。
【0039】
本発明のプリンヌクレオシド化合物の合成反応の詳細は、後述の実施例に説明されている。また、反応に使用する原料および試薬は、公知の方法によって合成可能であるか、または市販品を用いることができる。合成反応後、必要に応じて公知の方法を用いて精製することによって、目的物質を得ることができる。目的物質が得られたことは、NMRまたは質量分析などの同定方法によって確認できる。なお、式(I)によって表されるプリンヌクレオシド化合物は、官能基や置換基の種類によっては塩を形成する場合があり、遊離の状態または塩の状態において水和物または溶媒和物を形成することもあるが、これらの状態も本発明の範囲に含まれる。
【0040】
本発明に係るRNAは、上述のように5’キャップ構造、ならびに5’側の開始コドンおよび3’側の終止コドンを両端に有している翻訳領域を含んでいる。すなわち、本発明に係るRNAは、インビトロまたはインビボにおける翻訳に必要な構造および領域を含んでいる。
【0041】
5’キャップ構造として上記ヌクレオシド化合物が導入されている本発明に係るRNAは、例えば、上記ヌクレオシド化合物の5’炭素に三リン酸架橋を介して任意のヌクレオシドを結合させ、この生成物を転写プライマーとして転写反応を経ることによって合成され得るが、この方法に制限されない。また、5’末端から10塩基までに上記ヌクレオシド化合物が導入されている本発明に係るRNAは、例えば、上記ヌクレオシド化合物を含んでいる人工オリゴヌクレオチドの5’末端に5’キャップ構造を結合させ、この生成物を転写プライマーとして用いる転写反応を経ることによって合成され得る。
【0042】
5’キャップ構造は、公知の酵素(例えば、RNAポリホスファターゼ、RNAグアニルトランスフェラーゼ、およびグアニン−7−メチルトランスフェラーゼなど)を用いて上記ヌクレオシド化合物または任意のオリゴヌクレオチドに付与され得る。また、転写反応は、所望の翻訳領域をコードしているDNAを鋳型として、公知のRNAポリメラーゼを用いて実施され得る。
【0043】
本発明に係るRNAの5’側の開始コドンは、RNAからタンパク質への転写を開始させるためのコドンであり、好ましくはAUGであるが、本発明に係るRNAを真正細菌において翻訳する場合を考慮して、例外的にCUG、AUAまたはUUGなどであり得る。また、本発明に係るRNAの3’側の終止コドンは、RNAからタンパク質への転写を終結させるためのコドンであり、UAA、UAGおよびUGAから適宜、選択され得る。
【0044】
本発明に係るRNAの翻訳領域は、翻訳によって産生される量の制御を所望される任意のタンパク質をコードし得る。
【0045】
本発明に係るRNAは、5’非翻訳領域および/または3’非翻訳領域をさらに含んでいてもよい。5’非翻訳領域は、5’キャップ構造と翻訳の開始コドンとの間に適切な距離を設けることを目的として挿入され、10塩基以上の長さがある限りにおいて、特に制限されない。5’非翻訳領域は、好ましくは1000塩基以下、より好ましくは900塩基以下、より好ましくは800塩基以下、より好ましくは700塩基以下、より好ましくは600塩基以下、より好ましくは500塩基以下である。但し、コザック配列等の5’キャップ構造非依存型の翻訳開始シグナル配列が存在する場合、5’キャップ構造の有無に関わらず翻訳が始まるため、上記ヌクレオシド化合物が5’キャップ構造に導入された場合にはこのような配列は除かれる。上記ヌクレオシド化合物が5’末端から10塩基までの塩基から選択される位置に導入された場合においては、光照射による翻訳開始の制御の妨げにならない範囲においてのみ、このような配列は含まれ得る。また、5’非翻訳領域には、RNAと開始因子またはリボソーム複合体との結合にとって必須の配列、または翻訳効率を上げる配列の少なくともどちらか一方が含まれていることが好ましい。
【0046】
3’非翻訳領域は、10塩基以上の長さがある限りにおいて、特に制限されない。また、3’非翻訳領域には、そのさらに3’末端にポリA配列が付加され得るための配列(ポリA付加シグナル)が含まれていることが好ましい。ポリA付加シグナルとしては、AAUAAAからなる塩基配列、2 つのAAUAAA配列を含んでいるSV40 early polyA signal、またはSV40 early polyA signalがタンデムに並んでいる配列などが挙げられるがこれらに制限されることはない。
【0047】
また、本発明に係るRNAは、3’末端にポリA配列が含まれ得る。3’末端にポリA配列が含んでいるRNAは、翻訳領域の翻訳効率およびRNA自身の安定性に優れている。
【0048】
本発明において「ヌクレオシド化合物」は、上述のように「ピリミジンヌクレオシド化合物」を含んでいる。「ピリミジンヌクレオシド化合物」は、ピリミジン核の5位または6位の炭素原子が上記「化1」の式(I)によって表される基に置換されたピリミジンヌクレオシド化合物である。
【0049】
式(I)によって表される基は、異なる2つの波長を有している光を受けて二重結合部分のシス−トランス異性化を可逆的に起こし得るため、ヌクレシオドの塩基部分に当該基を導入することによって、光照射を受けて可逆的に構造変化し得るヌクレオシドを得ることができる。
【0050】
ピリミジンヌクレオシド化合物が上述のプリンヌクレオシド化合物と異なる点は、塩基部分がピリミジン塩基であることである。よって、ピリミジンヌクレオシド化合物は、ピリミジン塩基と糖の環元基とがグリコシド結合によって結合した、ピリミジン核を含んでいる配糖体化合物である。「ピリミジン核」は、例えば、チミン核、シトシン核またはウラシル核である。ピリミジン核は、1位の窒素原子において糖と結合している。
【0051】
ピリミジン核がチミン核である場合、上記式(I)の基は、ピリミジン核の6位の炭素原子と結合している。また、ピリミジン核がウラシル核である場合、上記式(I)の基は、ピリミジン核の5位の炭素原子と結合していることが好ましい。
【0052】
上述のように、ピリミジンヌクレオシド化合物は、塩基部分のみを除いて上述のプリンヌクレオシド化合物と同様の構成を有している。したがって、上記式(I)における記号Aの定義、ピリミジン核が結合し得る糖部分の構造、用語の定義、合成方法、その用途および利点などは、プリンヌクレオシド化合物における記載を適宜参照すればよい。
【0053】
〔RNAからのタンパク質の産生量を制御する方法〕
また、本発明は、〔本発明に係るRNA〕の項に記載のRNAからのタンパク質の産生量を制御する方法に関する。当該方法は、上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってトランス型からシス型にする波長を有している第1の光、および/または上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってシス型からトランス型にする波長を有している、第1の光の波長と異なる第2の光を、上記RNAに照射する工程を包含している。
【0054】
この方法によれば、インビボまたはインビトロにおいて、第1および/または第2の光の照射によってRNAの転写を開始させるか、および/または停止させ得る。つまり、第1の光は、トランス型からシス型に異性化してRNAの翻訳を開始させる波長を有している光であり、第2の光は、シス型からトランス型に異性化してRNAの翻訳の開始を阻害させる波長を有している光である。
【0055】
上記方法は、上記RNAを細胞に導入する工程をさらに包含しており、照射する上記工程が、上記第1の光および/または上記第2の光を、上記RNAが導入されている当該細胞に照射する工程であることが好ましい。これによって細胞内におけるRNAからのタンパク質の産生量を制御し得る。
【0056】
また、上記方法は、照射する上記工程において、上記第1の光、上記第2の光の順に照射するか、または上記第2の光、上記第1の光の順に照射することが好ましい。これによって、翻訳の開始および開始の阻害を可逆的に制御し得る。
【0057】
また、上記方法において、照射する上記工程が、上記RNAが導入された当該細胞の局所に、上記第1の光を照射する工程であることが好ましい。さらに、上記方法において、光を照射する上記工程が、上記第1の光の照射と同時に、上記局所以外の領域に上記第2の光をさらに照射する工程であることが好ましい。これらによれば、第1の光の照射を受けた局所にあるRNAは、時間の経過とともに局所の外側に拡散すると、第2の光の照射を受ける。つまり、局所の外側に拡散したRNAは翻訳の開始を阻害される。したがって、局所に存在するRNAのみからタンパク質に翻訳され得る。
【0058】
局所とは、細胞の一部分(例えば、吸着細胞を上面視したときの面積の約5〜10%)を意味しており、より詳細には、直径約1〜5μmの大きさの領域を指す。
【0059】
また、上記方法において、上記第1の光の照射後に、上記局所を含んでいる領域に上記第2の光を照射する工程をさらに包含していることが好ましい。これによれば、局所における可逆的な翻訳制御が可能である。
【0060】
また、上記方法において上記第1の光および/または上記第2の光が可視光であることが好ましい。生細胞または生体にとって紫外線は有害であるため、生細胞または生体として本発明に係る方法を実施する場合、照射される光は可視光であることが好ましい。インビトロにおいて本発明に係る方法を実施する場合には、照射される光は可視光または紫外光で有り得る。
【0061】
上記式(I)において2つのXが窒素原子である場合に、第1の光が有している波長は400nm〜500nmであり、第2の光が有している波長は450nm〜600nmである。このとき、第1の光は常に、第2の光よりも短い波長の光である。一方で、上記式(I)において2つのXがCHである場合に、第1の光が有している波長は300nm〜500nmであり、第2の光が有している波長は240nm〜400nmである。このとき、2つのXが窒素原子である場合とは逆に、第1の光は常に、第2の光よりも長い波長の光である。また、上記式(I)において一方のXがNであり、他方のXがCHである場合に、第1の光が有している波長は300nm〜500nmであり、第2の光が有している波長は240nm〜450nmである。このとき、2つのXがCHである場合と同様に、第1の光は常に、第2の光よりも長い波長の光である。
【0062】
また、上記方法は、二光子励起を利用してRNAを異性体化し得る。二光子励起は、焦点面における物質のみに生じるため、三次元的な局所におけるRNAの異性体化、すなわち翻訳の開始および開始の阻害の制御を可能にする。
【0063】
〔本発明に係るヌクレオシド化合物〕
(プリンヌクレオシド化合物)
本発明のプリンヌクレオシド化合物は、プリン核の8位の炭素原子が下記式(I’)によって表される基に置換されたプリンヌクレオシド化合物である。
【0064】
【化6】

【0065】
(ここで、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表し、2つのXは窒素原子であり、#はプリン核の8位炭素原子との結合位置を表す)。
【0066】
式(I’)によって表される基は、異なる2つの波長の可視光を受けてジアゾ部分のシス−トランス異性化を可逆的に起こし得るため、ヌクレシオドの塩基部分に当該基を導入することによって、可視光照射を受けて可逆的に構造変化し得るヌクレオシドを得ることができる。可視光によって構造変化し得るために、当該ヌクレオシドを生細胞に導入した場合に、生体分子(例えば、タンパク質およびDNAなど)を損傷するおそれがない。当該塩基が比較的に小さいため、当該ヌクレオシドを導入したヌクレオチド鎖は、当該ヌクレオシドが一方の異性体に構造変化しているときに正常な構造を形成し得る。
【0067】
以下に、本発明のプリンヌクレオシド化合物について、さらに詳細に説明する。
【0068】
本明細書において、ある官能基または原子が置換基を有し得る場合、置換基の種類、その数および置換位置は、特に限定されない。当該置換基の具体例として、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アリール基(好ましくは炭素数5〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基)、ヘテロアリール基(好ましくは5〜10員環のヘテロアリール基、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、テベニジニル基、10H−キンドリニル基)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20の置換または無置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基)が挙げられる。また、ある基に関する「炭素数」とは、置換基を有する基において、当該置換基に含まれる炭素を除いた炭素の数を指す。この点については、後述の(ピリミジンヌクレオシド化合物)にも該当する。
【0069】
本発明において「プリンヌクレオシド化合物」は、プリン塩基と糖の還元基とがグリコシド結合によって結合した、プリン核を含む配糖体化合物である。また、本発明における「プリン核」は、下記構造を有する。
【0070】
【化7】

【0071】
(上記において、ZおよびZは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、n1は1または2を表し、n2は1〜4の範囲の整数を表し、実線および破線からなる二重線は単結合または二重結合を表し、#は糖との結合位置を表す。n1およびn2が2以上の場合、複数存在するZおよびZは同じか、または異なる)。
【0072】
本発明のプリンヌクレオシド化合物において、上記プリン核の8位の炭素原子が上記式(I’)によって表される基に置換されている。ジアゾ部分の異性化によって下記のトランス体(E−isomer)またはシス体(Z−isomer)のいずれかになる。
【0073】
【化8】

【0074】
(上記において、Z、Z、n1、n2、#、ならびに実線および破線からなる二重線は上述したものと同義である)。
【0075】
「化7」および式(I’)において、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0076】
アリール基は、例えば炭素数5〜30であり、単環または多環のいずれかであり得る。上記アリール基は置換基を有し得る。上記アリール基として、例えば、置換または無置換のフェニル基ならびにナフチル基が挙げられる。また、上記アリール基として、フェニル基;ナフチル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、アセナフチレニル基、9H−フルオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基およびペリレニル基など環を構成する原子数が10〜20のアリール基;ピセニル基、ペンタフェニル基およびペンタセニル基など環を構成する原子数21〜30のアリール基などが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、環を構成する原子数が6〜10のアリール基、および置換もしくは無置換のフェニル基であることが好ましい。置換のフェニル基として、ニトロ基、ジエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、カルボニル基もしくはハロゲンなどの電子供与基または電子吸引基を置換基として有しているフェニル基が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、環を構成する原子数が6〜10のアリール基ならびに置換または無置換のフェニル基が好ましく、2個の環が縮合してなる置換または無置換のアリール基ならびに置換または無置換のフェニル基がより好ましく、メチル置換または無置換のフェニル基が特に好ましい。
【0078】
Aによって表されるヘテロアリール基としては、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる1または2以上のヘテロ原子を環構成原子として含む、5〜10員環のヘテロアリール基が挙げられ、単環または多環のいずれかであり得る。より好ましくは窒素原子を環構成原子として、1個または2個含む5員環または6員環のヘテロアリール基が挙げられ、さらに好ましくは窒素原子を環構成原子として1個含む5員環または6員環のヘテロアリール基が挙げられる。上記ヘテロアリール基は置換基を有し得る。ヘテロアリール基の具体例として、置換または無置換のピロリル基、イミダゾリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環を構成する原子数が5または6の単環式ヘテロアリール基;インドリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環を構成する原子数が7〜9の縮合環式ヘテロアリール基;キノリニル基、2,7−ナフチリジニル基、2,6−ナフチリジニル基、1,6−ナフチリジニル基、1,5−ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、9H−カルバゾリル基、9H−β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、1H−ペリミジニル基、4,7−フェナントロリニル基、3,8−フェナントロリニル基および2,9−フェナントロリニル基などのフェナントロリニル基、フェナジニル基、テベニジニル基ならびに10H−キンドリニル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環構成原子10〜20のヘテロアリール基などが挙げられる。中でも、環を構成する原子数が5〜10のヘテロアリール基が好ましい。ヘテロアリール基の好ましい例としては、ピロリル基およびキノリニル基が挙げられる。
【0079】
また、アリール基およびヘテロアリール基におけるジアゾ結合部分との結合位置は、特に限定されず、使用する基および合成方法などにしたがって適宜選択すればよい。
【0080】
式(I’)によって表される基は、式(I’)中の#によって表される位置においてプリン核の8位の炭素原子と結合している。式(I’)によって表される基に置換されたプリン核がグリコシド結合する糖部分の構造として、特に限定されるものではなく、公知のヌクレオシド化合物に含まれる糖部分が挙げられ、より詳細には、後述する式(II)または(III)に含まれる糖部分が挙げられる。
【0081】
本発明のプリンヌクレオシド化合物の好ましい態様としては、プリン核の8位の炭素原子が上記式(I’)によって表される基に置換された、下記式(II)によって表されるグアノシン誘導体および下記式(III)によって表されるアデノシン誘導体が挙げられる。
【0082】
なお、下記式(II)および(III)にトランス体を示しているが、本発明のプリンヌクレオシド化合物は、トランス体だけではなくシス体であり得る。
【0083】
【化9】

【0084】
式(II)および(III)におけるAの定義およびその詳細は、上述の通りである。
【0085】
式(II)および(III)中、RおよびRは互いに独立して、水酸基もしくはその保護基、オリゴヌクレオチドの製造のために導入され得る反応性基、またはヌクレオシド誘導体の自己組織化を利用する際に導入され得る原子団を表す。
【0086】
は、水素原子、水酸基もしくはその保護基、オリゴヌクレオチドの製造のために導入され得る反応性基、またはヌクレオシド誘導体の自己組織化を利用する際に導入され得る原子団を表す。
【0087】
上記保護基としては、イソブチル、tert−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、ジメトキシトリチル(DMTr)などが挙げられ、上記反応性基としては、2−シアノエチル−N,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホロアミダイト、一リン酸、二リン酸および三リン酸などが挙げられる。また、上記原子団の詳細は、Isao Yoshikawa, et al., Tetrahedron 63 (2007) 7474-7481、Jeffery T. Davis, et al Chem. Soc. Rev., 2007, 36, 296-313、Gian Piero Spada, et al., SYNLETT 2004, No.4, pp 0596-0602に記載されている。上記原子団の具体例としては、−OR(Rはアルキルシリル基(例えばSi(iPr)17など)およびエステル基が挙げられる。また、R〜Rは、これらのうちの2つ以上が連結して環を形成し得る。
【0088】
式(II)および(III)中、Rは、水素原子、または置換もしくは無置換のアミノ基もしくはその保護基を表す。上記保護基としては、イソブチル基およびジメチルホルムアミジン(DMF)基などが挙げられる。
【0089】
式(II)によって表されるグアノシン誘導体のさらに具体的な態様としては、下記式(II)−1および式(II)−2によって表される化合物が挙げられ、式(III)によって表されるアデノシン誘導体のさらに具体的な態様としては、下記式(III)−1および式(III)−2によって表される化合物が挙げられる。
【0090】
【化10】

【0091】
(Aは上述したものと同義である)。
【0092】
本発明のプリンヌクレオシド化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、アニリン、プリンヌクレオシド誘導体および亜硝酸塩を用いてアゾカップリングさせることによって、プリンヌクレオシドの8位の炭素に式(I’)によって表される基を導入して、式(I’)によって表される基を有するプリンヌクレオシド化合物を得ることができる。例えば、アニリン、プリン核および亜硝酸塩の混合液を数時間にわたって加熱還流し、反応後にエバポレーターを用いて溶媒を除去し、カラム精製、再結晶、洗浄などの方法を用いて精製することによって目的物を得ることができる。
【0093】
本発明のプリンヌクレオシド化合物の合成反応の詳細は、後述の実施例に説明されている。また、反応に使用する原料および試薬は、公知の方法によって合成可能でありか、または市販品を用いることができる。合成反応後、必要に応じて公知の方法を用いて精製することによって、目的物質を得ることができる。目的物質が得られたことは、NMRまたは質量分析などの同定方法によって確認できる。なお、式(I’)によって表されるプリンヌクレオシド化合物は、官能基や置換基の種類によっては塩を形成する場合があり、遊離の状態または塩の状態において水和物または溶媒和物を形成することもあるが、これらの状態も本発明の範囲に含まれる。
【0094】
本発明のプリンヌクレオシド化合物は、構造変化(異性化)を可逆的に制御することができる。また、本発明のプリンヌクレオシド化合物は、光源のON/OFFという簡便な方法によって構造が変化するので、構造制御が容易である。
【0095】
また、適当なポリメラーゼの使用により核酸合成にも利用可能と期待される。特に、プリン環の7位の窒素原子は、核酸における相互作用(水素結合および金属イオンへの配位結合など)に関与することが知られている。本発明のプリンヌクレオシド化合物を含有する核酸では、プリン環の8位の炭素原子に置換した式(I’)によって表される基のトランス→シス異性化によって、上記相互作用の阻害を制御可能と考えられ、より正確な活性制御が可能になるものと期待される。特に、塩基部分に光応答性基を導入することは、分子構造全体への影響が少ないため、核酸の機能を維持しつつ活性を制御することができると考えられる。また、本発明のプリンヌクレオシド化合物を含有する核酸は、必要最小限の修飾を受けているため、DNAおよびRNAの二重螺らせん構造、リボザイム、デオキシリボザイムならびにアプタマーなどの高次構造の形成を、上記修飾の影響を受けることなく良好に行なうことができる。また、本発明のプリンヌクレオシド化合物は、同様の理由によりPCR法またはRCA法などの核酸増幅技術によって簡便に核酸に導入することができる。
【0096】
(ピリミジンヌクレオシド化合物)
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、ピリミジン核の5位または6位の炭素原子が上記「化6」の式(I’)によって表される基に置換されたピリミジンヌクレオシド化合物である。
【0097】
式(I’)によって表される基は、異なる2つの波長の可視光を受けてジアゾ部分のシス−トランス異性化を可逆的に起こし得るため、ヌクレシオドの塩基部分に当該基を導入することによって、可視光照射を受けて可逆的に構造変化し得るヌクレオシドを得ることができる。可視光によって構造変化し得るために、当該ヌクレオシドを生細胞に導入した場合に、生体分子(例えば、タンパク質およびDNAなど)を損傷するおそれがない。当該塩基が比較的に小さいため、当該ヌクレオシドを導入したヌクレオチド鎖は、当該ヌクレオシドが一方の異性体に構造変化しているときに正常な構造を形成し得る。
【0098】
ピリミジンヌクレオシド化合物が上述のプリンヌクレオシド化合物と異なる点は、塩基部分がピリミジン塩基であることである。よって、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、ピリミジン塩基と糖の環元基とがグリコシド結合によって結合した、ピリミジン核を含む配糖体化合物である。本発明の「ピリミジン核」は、例えば、チミン核、シトシン核またはウラシル核である。本発明のピリミジン核は、1位の窒素原子において糖と結合している。
【0099】
ピリミジン核がチミン核である場合、上記式(I’)の基は、ピリミジン核の6位の炭素原子と結合している。また、ピリミジン核がシトシン核またはウラシル核である場合、上記式(I’)の基は、ピリミジン核の5位の炭素原子と結合していることが好ましい。
【0100】
上述のように、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、塩基部分のみを除いて上述のプリンヌクレオシド化合物と同様の構成を有している。したがって、上記式(I’)における記号Aの定義、ピリミジン核が結合し得る糖部分の構造、用語の定義、合成方法、その用途および利点などは、(プリンヌクレオシド化合物)における記載を適宜参照すればよい。
【0101】
〔異性化方法および光特性を変化させる方法〕
さらに本発明は、本発明のヌクレオシド化合物に可視光を照射することによって、当該ヌクレオシド化合物を異性化する方法、および本発明のヌクレオシド化合物に可視光を照射することによって、当該ヌクレオシド化合物の光特性を変化させる方法に関する。
【0102】
上述したように、本発明のヌクレオシド化合物は、一般式(I)によって表される基におけるジアゾ部分のシス−トランス異性化を可逆的に起こすことができる。本発明のヌクレオシド化合物は、トランス体およびシス体いずれも高い安定性を有している。このため、本発明のヌクレオシド化合物は、光照射しない限り異性化が進行せず、光照射によって異性化(トランス→シス異性化およびシス→トランス異性化)を制御することができる。トランス→シス異性化は、トランス体に対して中程度の波長の可視光(例えば400〜500nmの波長)を照射することによって起こすことができる。シス→トランス異性化は、シス体に対して、トランス→シス異性化に使用する光より長波長の可視光(例えば450〜600nmの波長)を照射することにより起こすことができる。また、例えば、上記一般式(I)におけるAがフェニル基または置換基を有するフェニル基である場合、トランス→シス異性化は400〜450nmの可視光の照射によって起こり、シス→トランス異性化は500〜600nmの可視光の照射によって起こる。トランス→シス光異性化およびシス→トランス光異性化とも、室温において容易に進行し得る。また、異性化のための光照射時間、使用する光源および照射光の強度などの異性化条件は、適宜設定すればよい。異性化条件については、後述の実施例もあわせて参照すればよい。
【0103】
本発明のヌクレオシド化合物は、トランス体とシス体との間において吸収スペクトルおよび量子収率などの光特性が異なる。したがって、可視光照射による異性化によって、本発明のヌクレオシド化合物の光物性を変化させることができる。さらに、上記光異性化を可逆的に起こすことができるため、本発明のヌクレオシド化合物に異なる波長の可視光を繰り返し照射することによって、化合物の光特性を可逆的に変化させることができる。光特性を変化させるための光照射条件については、上述の通りである。
【0104】
〔光スイッチング型デバイス材料〕
さらに本発明は、本発明のヌクレオシド化合物を含有する核酸、または本発明のヌクレオシド化合物を含む光スイッチング型デバイス材料に関する。本発明の光スイッチング型デバイス材料は、上記ヌクレオシド化合物または上記核酸の1種またはそれ以上から構成され得るか、またはエレクトロニックデバイスに通常に使用される他の成分を含み得る。
【0105】
本発明において「光スイッチング型」とは、可視光照射によって機能および構造をスイッチングされ得る性質をいう。上述のように、本発明のヌクレオシド化合物は、可視光照射によって可逆的に異性化して構造を変化させることができ、それに伴い光特性を変えることができる。この性質を利用して、例えばトランス体の状態をオンまたはデジタル信号におけるビットの1とし、シス体の状態をオフまたはデジタル信号におけるビットの0とすることによって、スイッチング素子または記憶素子などのエレクトロニックデバイスを形成可能である。特に、本発明の光スイッチング型デバイス材料は、光駆動型ナノデバイスの光スイッチとして好適である。
【0106】
〔機能性核酸の機能を可逆的に光制御する方法〕
DNA/RNA自動合成機またはポリメラーゼなどの酵素を用いて、本発明のヌクレオシド化合物を任意のDNAまたはRNAに導入することによって、アンチセンス、アプタマー、およびリボザイムなどの機能性核酸の機能を可逆的に光制御し得る。例えば、20塩基程度のオリゴヌクレオチドに本発明のヌクレオシド化合物を導入し、標的RNAとの二重螺旋の形成を制御することによって、RNA干渉(RNAi)を可逆的に光制御することができる。
【実施例】
【0107】
〔実施例1〕
(1−1)オレフィン骨格を有しているヌクレオシド化合物の合成
【0108】
【化11】

【0109】
(1−1−1)8−スチリルグアノシン(化11の6a)の合成
10gのグアノシン(化11の1)、7.54gのN−ブロモスクシンイミド、500mLの水をナス型フラスコに入れ室温で2時間撹拌した。反応後、析出物をろ過し9.03gの8−ブロモグアノシン(化11の2)を得た。
【0110】
9.03gの8−ブロモグアノシン(化11の2)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。100mLのアセトニトリル、76mgのジメチルアミノピリジン、9.46mLの無水酢酸、および13.9mLのトリエチルアミンを加えて室温において1.5時間にわたって攪拌した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、水で再結晶させ10.3gの8−ブロモ−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の3)を得た。
【0111】
2.5gの8−ブロモ−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の3)10mLのN−メチルピロリドンを2口ナス口型フラスコに入れ、溶液をアルゴンガスによって10分間にわたってバブリングした。次いで、593mgのテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム、2.99mLのトリブチルビニルすずを加え、系内をアルゴン置換した後に110℃において1時間にわたって加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、それからシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、1.71gの8−ビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の4)を得た。
【0112】
257mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのジオキサン、88mgのパラジウム(II)アセテート、0.812mLのトリエチルアミンを加え60℃において10分間にわたって攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、0.614mLのブロモベンゼン、20mLのDMFに溶解させた1.7gの8−ビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の4)を順に加え、115℃において1時間にわたって加熱還流した。触媒をろ過によって除去し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去してからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、1.51gの8−スチリル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5a)を得た。
【0113】
1.51gの8−スチリル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5a)を2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。25mLのメタノール、25mLの2Mアンモニア(メタノール溶液)を加え60℃において4時間にわたって攪拌した。析出物を回収し、830mgの8−スチリルグアノシン(化11の6a)を得た。
【0114】
(1−1−2)8−ナフチルビニルグアノシン(化11の6b)の合成
257mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのジオキサン、88mgのパラジウム(II)アセテート、および0.812mLのトリエチルアミンを加え、60℃において10分間にわたって攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、10mLのDMFに溶解させた1.21gのブロモナフタレン、10mLのDMFに溶解させた1.7gの8−ビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の4)を順に加え、115℃において1時間にわたって加熱還流した。触媒をろ過によって除去し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去してからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、1.37gの8−ナフチルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5b)を得た。
【0115】
1.36gの8−ナフチルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5b)を2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのメタノール、20mLの2Mのアンモニア(メタノール溶液)を加え、60℃において4時間にわたって攪拌した。析出物を回収し、710mgの8−ナフチルビニルグアノシン(化11の6b)を得た。
【0116】
(1−1−3)8−フルオレニルビニルグアノシン(化11の6c)の合成
257mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのジオキサン、88mgのパラジウム(II)アセテート、および0.812mLのトリエチルアミンを加え、60℃において10分間にわたって攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、10mLのDMFに溶解させた1.44gのブロモフルオレン、10mLのDMFに溶解させた1.7gの8−ビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の4)を順に加え、115℃において1時間にわたって加熱還流した。触媒をろ過によって除去し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去してからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、1.23gの8−フルオレニルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5c)を得た。
【0117】
1.22gの8−フルオレニルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5c)を2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのメタノール、20mLの2Mのアンモニア(メタノール溶液)を加え60℃において4時間にわたって攪拌した。析出物を回収し、590mgの8−フルオレニルビニルグアノシン(化11の6c)を得た。
【0118】
(1−1−4)8−ピレニルビニルグアノシン(化11の6d)の合成
257mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのジオキサン、88mgのパラジウム(II)アセテート、0.812mLのトリエチルアミンを加え、60℃において10分間にわたって攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、15mLのDMFに溶解させた1.65gのブロモピレン、10mLのDMFに溶解させた1.7gの8−ビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の4)を順に加え、115℃において1時間にわたって加熱還流した。触媒をろ過によって除去し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去してからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、1.76gの8−ピレニルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5d)を得た。
【0119】
1.76gの8−ピレニルビニル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルグアノシン(化11の5d)を2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。25mLのメタノール、25mLの2Mアンモニア(メタノール溶液)を加え60℃において4時間にわたって攪拌した。析出物を回収し、962mgの8−ピレニルビニルグアノシン(化11の6d)を得た。
【0120】
(1−1−5)8−スチリルグアノシン三リン酸の合成
【0121】
【化12】

【0122】
109mgの8−スチリルグアノシン(化11の6a)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。1mLのリン酸トリメチル、91mgのプロトンスポンジを加えた後、系を0℃に冷却した。次いで、31μLの塩化ホスホリルを加え、0℃において攪拌した。6時間後、269μLのトリブチルアミン、250mgのピロリン酸トリブチルアンモニウムを加え、さらに1分間にわたって撹拌した。37mLの1MのTEAB緩衝液を加えて反応を停止させた後、DEAEセファデックス(0〜1MのTEAB)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去した後に、得られた8−スチリルグアノシン三リン酸(TEA塩)を弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)を用いて遊離酸に変換し、目的の化合物である7.2mgの8−スチリルグアノシン三リン酸(化12)を得た。
1H NMR (D2O, 400 MHz) δ:7.31-7.22 (m, 6H), 6.83 (d, J = 16.1, 1H), 5.93 (d, J = 6.4, 1H), 5.17 (t, J = 5.8, 1H), 4.51 (s, 1H), 4.24-4.14 (m, 3H); 31P NMR (D2O, 400 MHz) δ: -16.5 (2P), -28.4 (1P); ESI-TOF MS (M-H)- for C18H22N5O14P3, Calculated: 624.0298; Found: 624.0070。
【0123】
(1−2)オレフィン骨格を有している5’キャップ構造を備えている5’ヌクレオシドの合成
【0124】
【化13】

【0125】
(2−1)8−スチリルビニルグアノシンを5’キャップ構造として備えている5’ヌクレオシド(8ST−cap、化13の2a)の合成
870mgの8−スチリルビニルグアノシン(化13の1a)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。13mLのリン酸トリメチルおよび0.412mLの塩化ホスホリルを2口ナス口型フラスコへさらに加え、20時間にわたって2℃において攪拌した。その後、20mLの水をさらに加え、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。析出物を回収して水を用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。25mLのDMSOおよび2mLのヨウ化メチルをさらに加え、一晩にわたって室温において攪拌した。100mLの冷水を反応溶液に加え、析出物を回収し、メタノールを用いて洗浄した。7位がメチル化されている得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。10mLのDMF、340mgのイミダゾール、524mgのトリフェニルホスフィン、440mgのアルドリチオール、および0.554mLのトリエチルアミンをさらに加えて、一晩にわたって室温において攪拌した。450mgの過塩素酸ナトリウムが溶解しているアセトン溶液に反応溶液を注ぎ、2時間にわたって4℃において攪拌した。析出物を回収し、冷却したアセトンを用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られた化合物、および268mgのGDPを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのDMFおよび308mgの塩化亜鉛をさらに加え、60時間にわたって室温において攪拌した。1.48gのEDTAが溶解している水溶液に反応溶液を注ぎ、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。そして、DEAEセファデックス(0〜1MのTAEB緩衝液)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去した後に、得られた8ST−cap(TEA塩)を弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)を用いて遊離酸に変換し、目的の化合物である103mgの8ST−cap(化13の2a)を得た。
【0126】
【表1】

【0127】
(1−2−2)8−ナフチルビニルグアノシンを5’キャップ構造として備えている5’ヌクレオシド(8NV−cap、化13の2b)の合成
700mgの8−スチリルビニルグアノシン(化13の1b)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。9mLのリン酸トリメチルおよび0.294mLの塩化ホスホリルを2口ナス口型フラスコへさらに加え、20時間にわたって2℃において攪拌した。その後、20mLの水をさらに加え、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。析出物を回収して水を用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。25mLのジメチルスルフォキシド(DMSO)および1.74mLのヨウ化メチルをさらに加え、一晩にわたって室温において攪拌した。100mLの冷水を反応溶液に加え、析出物を回収し、メタノールを用いて洗浄した。7位がメチル化されている得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。10mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、308mgのイミダゾール、476mgのトリフェニルホスフィン、401mgのアルドリチオール、および0.501mLのトリエチルアミンをさらに加えて、一晩にわたって室温において攪拌した。401mgの過塩素酸ナトリウムが溶解しているアセトン溶液に反応溶液を注ぎ、2時間にわたって4℃において攪拌した。析出物を回収し、冷却したアセトンを用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られた化合物、および715mgのGDPを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。25mLのDMFおよび455mgの塩化亜鉛をさらに加え、60時間にわたって室温において攪拌した。2.19gのEDTAが溶解している水溶液に反応溶液を注ぎ、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。そして、DEAEセファデックス(0〜1MのTAEB緩衝液)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去した後に、得られた8NV−cap(TEA塩)を弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)を用いて遊離酸に変換し、目的の化合物である92mgの8NV−cap(化13の2b)を得た。
【0128】
【表2】

【0129】
(1−2−3)8−フルオレニルビニルグアノシンを5’キャップ構造として備えている5’ヌクレオシド(8FV−cap、化13の2c)の合成
580mgの8−フルオレニルビニルグアノシン(化13の1b)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。13mLのリン酸トリメチルおよび0.224mLの塩化ホスホリルを2口ナス口型フラスコへさらに加え、20時間にわたって2℃において攪拌した。その後、10mLの水をさらに加え、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。析出物を回収して水を用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのDMSOおよび0.9mLのヨウ化メチルをさらに加え、一晩にわたって室温において攪拌した。100mLの冷水を反応溶液に加え、析出物を回収し、メタノールを用いて洗浄した。7位がメチル化されている得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。5mLのDMF、120mgのイミダゾール、185mgのトリフェニルホスフィン、155mgのアルドリチオール、および0.196mLのトリエチルアミンをさらに加えて、一晩にわたって室温において攪拌した。150mgの過塩素酸ナトリウムが溶解しているアセトン溶液に反応溶液を注ぎ、2時間にわたって4℃において攪拌した。析出物を回収し、冷却したアセトンを用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られた化合物、および395mgのGDPを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。15mLのDMFおよび250mgの塩化亜鉛をさらに加え、60時間にわたって室温において攪拌した。1.23gのEDTAが溶解している水溶液に反応溶液を注ぎ、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。そして、DEAEセファデックス(0〜1MのTAEB緩衝液)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去した後に、得られた8FV−cap(TEA塩)を弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)を用いて遊離酸に変換し、目的の化合物である85mgの8FV−cap(化13の2c)を得た。
【0130】
【表3】

【0131】
(1−2−4)8−フルオレビニルグアノシンを5’キャップ構造として備えている5’ヌクレオシド(8PV−cap、化13の2d)の合成
900mgの8−ピレニルビニルグアノシン(化13の1b)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。10mLのリン酸トリメチルおよび0.194mLの塩化ホスホリルを2口ナス口型フラスコへさらに加え、20時間にわたって2℃において攪拌した。その後、20mLの水をさらに加え、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。析出物を回収して水を用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。40mLのDMSOおよび2.96mLのヨウ化メチルをさらに加え、一晩にわたって室温において攪拌した。100mLの冷水を反応溶液に加え、析出物を回収し、メタノールを用いて洗浄した。7位がメチル化されている得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。20mLのDMF、575mgのイミダゾール、887mgのトリフェニルホスフィン、745mgのアルドリチオール、および0.936mLのトリエチルアミンをさらに加えて、一晩にわたって室温において攪拌した。750mgの過塩素酸ナトリウムが溶解しているアセトン溶液に反応溶液を注ぎ、2時間にわたって4℃において攪拌した。析出物を回収し、冷却したアセトンを用いて洗浄した後に、デシケーター内において十分に乾燥させた。得られた化合物、および760mgのGDPを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。45mLのDMFおよび876mgの塩化亜鉛をさらに加え、60時間にわたって室温において攪拌した。4.21gのEDTAが溶解している水溶液に反応溶液を注ぎ、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。そして、DEAEセファデックス(0〜1MのTAEB緩衝液)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去した後に、得られた8PV−cap(TEA塩)を弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)を用いて遊離酸に変換し、目的の化合物である87mgの8PT−cap(化13の2d)を得た。
【0132】
【表4】

【0133】
(1−3)光応答性の5’capを含んでいるRNAのタンパク質への翻訳
(1−2)において合成した光応答性の5’capを含んでいる、GFPをコードしているRNA(4種類)のそれぞれを無細胞転写キット(MEGAscript、Ambion Co.)を用いて合成した。無細胞タンパク質翻訳系(Transdirect dinsect cell、SIGMA Co.)を用いて、上記RNAのそれぞれからGFPを合成した。比較対照として、上記RNA以外にGFPをコードしているmRNA(キャップ構造のあり、またはなし)をさらに使用した。各RNAからのGFPの発現量を、GFPの蛍光強度を介して比較した。光応答性の5’capを含んでいるRNAについては、シス型とトランス型と(図1の上段)の間における発現量も比較した。この結果を図1に示す。図1において、no−capはキャップ構造なしのmRNAであり、normal−capは通常のキャップ構造ありのmRNAである。
【0134】
図1(下段)に示されるように、光応答性の5’capを含んでいるRNAは、シス型のときにトランス型と比べて発現量が高かった。なかでも8NV−capを含んでいるRNAは、トランス型のときにほとんどタンパク質を発現せず、シス型のときにnormal−capと同等の発現量を示した。よって、光応答性の5’capとしては8NV−capが良好な性質を示したと言える。なお、8PV−capを含んでいるRNAに関するデータを図示していない。8PV−capは、高い疎水性を有しており、このためmRNAに導入されていない可能性が高い。よって、8PV−capを含んでいるRNAに関する翻訳制御試験の結果が、本発明に係るヌクレオシド化合物の作用によるものか判断し得なかった。
【0135】
(1−4)光応答性の5’capを含んでいるRNAのタンパク質への翻訳の可逆的な光制御
無細胞タンパク質翻訳系(Transdirect dinsect cell、SIGMA Co.)を用いた8NV−capを含んでいるRNAからのタンパク質への翻訳を、以下のように可逆的に光制御した。比較対照として、上記normal−capを使用した。まず反応溶液系のそれぞれに310nmの光を2分間にわたって照射した(8NV−capをトランス型にした)。その60分後に、反応溶液系のそれぞれに410nmの光を2分間にわたって照射した(8NV−capをシス型にした)。さらにその60分後に、反応溶液系のそれぞれに310nmの光を2分間にわたって照射した(8NV−capをトランス型にした)。このときのGFPの蛍光強度の推移(下段)および8NV−capを含んでいるRNAの構造(上段)を図2に示す。
【0136】
図2(下段)に示されるように、最初の60分間において、GFPの蛍光強度は一定であり、8NV−capを含んでいるRNAからのGFPの発現は認められなかった(下側のグラフ)。次の期間において、GFPの蛍光強度の増強が認められ、8NV−capを含んでいるRNAからのGFPの発現が認められた。さらに次の期間において、GFPの蛍光強度の増強が徐々に緩やかになり、やがて一定の強度に留まっており、8NV−capを含んでいるRNAからのGFPの発現が停止させられていることが認められた。一方で、normal−capからは、GFPの発現を示す、GFPの蛍光強度の増加が常に認められた。以上のように、本実施例に係るRNA(8NV−cap)からのタンパク質への翻は、異なる波長を有している2つの光の、交互の照射によって、可逆的に停止と開始とを繰り返した。
【0137】
〔実施例2〕
(2−1)アゾ骨格を有しているヌクレオシド化合物の合成
(2−1−1)8−(4−メトキシフェニル)アゾグアノシン(化14の5)の合成
【0138】
【化14】

【0139】
37重量%の塩酸(12mL)および1.48gのp−アニシジンを、60mLの水に冷却しながら加えて溶液1を調製した。3.0gのグアノシンを、1.5重量%のNaOH水溶液(600mL)に溶解させ、アイスバスにおいて冷却した。これにNaNO(828mg)水溶液および溶液1を加え、30分間にわたって0℃において攪拌した。反応後に、酢酸を加えて反応物を析出させ、2時間にわたって静置した。析出した沈殿物をろ過によって回収し、3.73gの8−(4−メトキシフェニル)アゾグアニン(化14の2)を得た。
【0140】
3.73gの8−(4−メトキシフェニル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。60mLのDMAおよび2.47mLの無水酢酸を2口ナス型フラスコへさらに加え、2時間にわたって160℃において加熱還流した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、2.88gの2−N−アセチル−8−(4−メトキシフェニル)アゾグアニン(化14の3)を得た。
【0141】
2.30gの2−N−アセチル−8−(4−メトキシフェニル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。70mLのジクロロエタンおよび12.4mLのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを2口ナス型フラスコへさらに加え、1時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物が入っているフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。70mLのトルエン、1.53mLのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、および2.69gのβ−D−リボフラノース1,2,3,5−テトラアセテートをフラスコへさらに加え、2時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、それからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、804mgの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(4−メトキシフェニル)アゾグアノシン(化14の4)を得た。
【0142】
800mgの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(4−メトキシフェニル)アゾグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。12mLのメタノールおよび15mLのアンモニア(メタノール溶液)を2口ナス型フラスコへさらに加え、6時間にわたって60℃において攪拌した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、462mgの8−(4−メトキシフェニル)アゾグアノシン(化14の5)を得た。
【0143】
(2−1−2)8−(4−アミノキノリル)アゾグアノシン(化15の5)の合成
【0144】
【化15】

【0145】
37重量%の塩酸(6mL)および1.00gのアミノキノリンを、30mLの水に冷却しながら加えて溶液2を調製した。1.74gのグアノシンを、1.5重量%のNaOH水溶液(300mL)に溶解させ、アイスバスにおいて冷却した。これにNaNO(479mg)水溶液および溶液2を加え、30分間にわたって0℃において攪拌した。反応後に、酢酸を加えて反応物を析出させ、2時間にわたって静置した。析出した沈殿物をろ過によって回収し、2.23gの8−(6−アミノキノリル)アゾグアニン(化15の2)を得た。
【0146】
2.15gの8−(6−アミノキノリル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。50mLのDMAおよび1.79mLの無水酢酸を2口ナス型フラスコへさらに加え、2時間にわたって160℃において加熱還流した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、1.85gの2−N−アセチル−8−(6−アミノキノリル)アゾグアニン(化15の3)を得た。
【0147】
1.85gの2−N−アセチル−8−(6−アミノキノリル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。70mLのジクロロエタンおよび9.6mLのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを2口ナス型フラスコへさらに加え、1時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物が入っているフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。70mLのトルエン、1.19mLのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、および2.10gのβ−D−リボフラノース1,2,3,5−テトラアセテートをフラスコへさらに加え、2時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、それからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、300mgの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(6−アミノキノリル)アゾグアノシン(化15の4)を得た。
【0148】
300mgの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(6−アミノキノリル)アゾグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。4mLのメタノールおよび6mLのアンモニア(メタノール溶液)を2口ナス型フラスコへさらに加え、6時間にわたって60℃において攪拌した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、186mgの8−(6−アミノキノリル)アゾグアノシン(化15の5)を得た。
【0149】
(2−1−3)8−(4−エチルフェニル)アゾグアノシン(化16の5)の合成
【0150】
【化16】

【0151】
37重量%の塩酸(12mL)および1.50mLの4−エチルアニリンを、60mLの水に冷却しながら加えて溶液3を調製した。3.00gのグアノシンを、1.5重量%のNaOH水溶液(600mL)に溶解させ、アイスバスにおいて冷却した。これにNaNO(828mg)水溶液および溶液3を加え、30分間にわたって0℃において攪拌した。反応後に、酢酸を加えて反応物を析出させ、2時間にわたって静置した。析出した沈殿物をろ過によって回収し、3.84gの8−(4−エチルフェニル)アゾグアニン(化16の2)を得た。
【0152】
3.84gの8−(4−エチルフェニル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。60mLのDMAおよび2.56mLの無水酢酸を2口ナス型フラスコへさらに加え、2時間にわたって160℃において加熱還流した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、2.82gの2−N−アセチル−8−(4−エチルフェニル)アゾグアニン(化16の3)を得た。
【0153】
2.38gの2−N−アセチル−8−(4−エチルフェニル)アゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。65mLのジクロロエタンおよび13.1mLのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを2口ナス型フラスコへさらに加え、30分間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物が入っているフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。60mLのトルエン、1.59mLのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、および2.79gのβ−D−リボフラノース1,2,3,5−テトラアセテートをフラスコへさらに加え、2時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、それからシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、展開溶媒を除去し、2.79gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(4−エチルフェニル)アゾグアノシン(化16の4)を得た。
【0154】
2.79gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(4−エチルフェニル)アゾグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。30mLのメタノールおよび30mLのアンモニア(メタノール溶液)を2口ナス型フラスコへさらに加え、6時間にわたって60℃において攪拌した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノールを用いて洗浄し、1.57gの8−(4−エチルフェニル)アゾグアノシン(化16の5)を得た。
【0155】
(2−2)アゾ骨格を有している5’キャップ構造を備えている5’ヌクレオシド(8EPA−cap)の合成
【0156】
【化17】

【0157】
3gの8−(4−エチルフェニル)アゾグアニン(化17の1)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。100mLのリン酸トリメチルおよび1.17mLの塩化ホスホリルを2口ナス口型フラスコへさらに加え、20時間にわたって4℃において攪拌した。その後、20mLの水をさらに加え、1MのTEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。反応溶液をDEAEセファデックス(0〜1MのTEAB)を用いて精製し、目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去して、8−(4−エチルフェニル)アゾグアノシンモノホスフェート(化17の2)を得た。
【0158】
【表5】

【0159】
1.37gの得られたモノホスフェートを2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。70mLのDMSOおよび4.74mLのヨウ化メチルをさらに加え、1時間にわたって室温において攪拌した。100mLの冷水を反応溶液に加え、300mLのジエチルエーテルを用いて3回にわたって洗浄した。1Mの炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて水層をpH5.5に調整し、DEAEセファデックス(0〜1MのTEAB)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去し、HPLC(0.1MのTEAB/アセトニトリル)によってさらに精製した。これによって、7位がメチル化されている8−(4−エチルフェニル)グアノシンモノホスフェート(化17の3)を得た。
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ: 7.84 (d, J = 8.3, 2H), 7.47 (d, J = 8.3, 2H), 7.24 (s, 2H), 6.37 (d, J = 6.3, 1H), 7.43 (s, 2H), 5.10 (t, J = 5.8, 1H), 4.33-4.31 (m, 1H), 4.18-4.12 (m, 1H), 4.06-4.02 (m, 1H), 3.95-3.89 (m, 1H), 2.72 (dd, J = 15.1, 7.3, 2H), 2.11 (s, 3H), 1.24 (t, J = 7.3, 3H); 31P NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ: -6.74 (m, 1P); FAB MS (M-H)- for C19H24N7O8P, Calculated: 508.13; Found: 507.77。
【0160】
193mgの得られた化合物(化17の3)を2口ナス口型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換を3回にわたって繰り返して系内を十分に窒素置換した。14DMFおよび258mgの塩化亜鉛を2口ナス口型フラスコへさらに加え、60時間にわたって室温において攪拌した。1.24gのEDTAが溶解している水溶液に反応溶液を注ぎ、TEAB緩衝液を加えて反応溶液のpHを5.5に調整した。その後に、DEAEセファデックス(0〜1MのTEAB)を用いて精製した。目的物を含んでいるフラクションを回収し、溶媒を除去して、8EPA−cap(TEA塩)を得た。得られた8EPA−capを弱陰イオン交換カラム(Strata−X−AW、SHIGMA Co.)によって遊離酸に変換し、目的の化合物である85mgの8EPA−cap(化17の4)を得た。
【0161】
(2−3)光応答性の5’capを含んでいるRNAからタンパク質への、細胞内における翻訳の可逆的な光制御
(2−2)において合成した光応答性の5’capを含んでいる、GFPをコードしているRNAを無細胞転写キット(MEGAscript、Ambion Co.)を用いて合成した。合成反応後にmRNAキットMEGAclear(Ambion Co.)を用いて5’capを含んでいるRNAを精製した。ヌクレアーゼを含んでいない水を用いて得られたRNAを2μMに希釈し、マイクロインジェクションによってHeLa細胞に注入した。注入後に、共焦点レーザ顕微鏡を用いて同時に、細胞の特定の領域のみに対する458nmの光の照射、それ以外の領域に対する543nmの光の照射を30分間にわたって行った。このときのGFPからの蛍光を観察した結果(下段)および使用したRNAの構造(上段)を図3に示す。
【0162】
図3(下段)に示すように、458nmの光を照射した特定の領域(下段−左側の丸囲みに対応する左側の領域)に集中して、GFPの強い緑色蛍光が観察された。つまり、458nmの光の照射を受けてシス型になっているRNAのみからタンパク質が発現し、543nmの光の照射を受けてトランス型になっているRNAからタンパク質が発現していないことが明かであった。
【0163】
なお、本実施例のRNAは、熱(例えば、室温)を与えることによって、500nm〜600nmの光を照射しなくともシス体からトランス体には異性体化し得る。図3の上段に示されている「500〜600nm or Δ」のうち「Δ」は、熱によるRNAの異性体化(シス体からトランス体への)を意味している。すなわち、本実施例のRNAは、暗所において翻訳を開始させたい細胞の領域に対して例えば458nmの光を照射し、室温において当該光の照射を中断すれば、翻訳の開始を抑制してそれ以降のタンパク質の発現を止めることができる。後ほど記載する「化19」および「化21」においても「Δ」は、同じことを意味している。
【0164】
〔実施例3〕
(3−1)トランス−8−フェニルアゾグアノシンの合成
【0165】
【化18】

【0166】
化18におけるaの反応:
37重量%の塩酸(6ml)およびアニリン(549ml)を冷却しながら42mlの水に加えて、溶液Aを調製した。1.5gのグアノシンを1.5重量%のNaOH水溶液(300ml)に溶解させてアイスバスにおいて冷却した。このアイスバスにNaNO水溶液(414mg)および溶液Aを加えて、30分にわたって0℃において攪拌した。反応後に、酢酸を加えて反応物を析出、沈殿させて、2時間にわたって静置した。沈殿物をろ過によって回収して、1.61gの8−フェニルアゾグアニン(化18の2)を得た。
【0167】
化18におけるbの反応:
5.0gの8−フェニルアゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに75mlのDMAおよび8.2mlのイソ酪酸無水物を加えて、1時間にわたって150℃において加熱還流した。反応後に沈殿物をろ過によって回収し、メタノール洗浄して4.14gの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアニン(化18の3)を得た。
【0168】
化18におけるcの反応:
3.58gの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに100mlのジクロロエタンおよび19.3mlのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを加えて、1時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物の入ったフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。100mlのトルエン、2.39mlのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、4.20gのβ−D−リボフラノース1,2,3,5−テトラアセテートをこのフラスコに加えて、1.5時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、4.21gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアノシン(化18の4)を得た。
【0169】
化18におけるdの反応:
1.14gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに25mlのメタノールおよび25mlのアンモニアのメタノール溶液を加えて、4時間にわたって60℃において攪拌した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノール洗浄して634mgのトランス−8−フェニルアゾグアノシン(化18の5)を得た。
【0170】
(3−2)8−フェニルアゾグアノシンの可逆的な光異性化反応
【0171】
【化19】

【0172】
(3−2−1)トランス体(trans−isomer)からシス体(cis−isomer)への光異性化反応
(3−1)において得られたトランス−8−フェニルアゾグアノシンの濃度が25μMになるようにメタノールに溶解させて、ストック溶液を調製した。ストック溶液のうち200μlを1cm角の石英セルに移し、暗所において420nmの波長の可視光を照射して、吸収スペクトルの経時変化を測定することによってトランス−8−フェニルアゾグアノシンの光異性化を評価した。ここでは、光源として(株)朝日分光のMAX−301を使用し、フィルタとして同社のM.C.420/10nmを使用した。この結果を図1に示す。図4(上段)に示すように、トランス−8−フェニルアゾグアノシンのシス体への光異性化にともなって、420nmの吸光度のピークが減少し、500〜600nmの吸光度が増加した。すなわち、可視光照射前にトランス体であったトランス−8−フェニルアゾグアノシンが、ほぼ完全にシス体に光異性化したことがわかった。
【0173】
(3−2−2)シス体からトランス体への光異性化反応
(3−2−1)のストック溶液のうちの200μlを上述のようにシス体に異性化させてから、1cm角の石英セルに移し、暗所において550nmの波長の可視光を照射して、吸収スペクトルの経時変化を測定することによってシス−8−フェニルアゾグアノシンの光異性化を評価した。ここでは、光源として(株)朝日分光のMAX−301を使用し、フィルタとして同社のM.C.550/10nmを使用した。この結果を図4(下段)に示す。図4(下段)に示すように、シス−8−フェニルアゾグアノシンのトランス体への光異性化にともなって、420nmの吸光度のピークが増加し、500〜600nmの吸光度が減少した。すなわち、可視光照射前にシス体であったシス−8−フェニルアゾグアノシンが、ほぼ完全にトランス体に光異性化したことがわかった。
【0174】
(3−4)8−フェニルアゾグアノシンのシス−トランス光異性化の繰返し反応
(3−1)において得られたトランス−8−フェニルアゾグアノシンの濃度が25μMになるようにメタノールに溶解させて、ストック溶液を調製した。ストック溶液のうち200μlを1cm角の石英セルに移し、暗所において420nmおよび550nmの波長の可視光を交互に20秒間ずつ30回繰り返し照射しながら、吸光度(420nm)を測定した。この測定結果から、可逆的な光異性化による化合物の耐久性を評価した。光源として(株)朝日分光のMAX−301を使用し、フィルタとして同社のM.C.420/10nmおよびM.C.550/10nmを使用した。この結果を図5に示す。図5に示すように、8−フェニルアゾグアノシンは、トランス体→シス体およびシス体→トランス体へと適切に繰り返し光異性化された。30サイクルの繰返しの後においても化合物の分解および副反応は見られなかった。
【0175】
〔実施例4〕
(4−1)トランス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンの合成
【0176】
【化20】

【0177】
化20における1→2の反応:
37重量%の塩酸(4ml)および428mgのp−トルイジンを28mlの水に加えて溶液Bを調製した。1.0gのグアノシン1.5重量%のNaOH水溶液(200ml)に溶解させてアイスバスにおいて冷却した。このアイスバスにNaNO水溶液(275mg)および溶液Aを加えて、30分にわたって0℃において攪拌した。反応後に、酢酸を加えて反応物を析出、沈殿させて、2時間にわたって静置した。沈殿物をろ過によって回収して、1.17gの8−(p−トルイルアゾ)グアニン(化20の2)を得た。
【0178】
化20における2→3の反応:
1.0gの8−(p−トルイルアゾ)グアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに15mlのDMAおよび0.7mlの無水酢酸を加えて、3.5時間にわたって160℃において加熱還流した。反応後に沈殿物をろ過によって回収し、メタノール洗浄して845mgの2−N−アセチル−8−(p−トルイルアゾ)グアニン(化20の3)を得た。
【0179】
化20おける3→4の反応:
777mgの2−N−アセチル−8−(p−トルイルアゾ)グアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに30mlのジクロロエタンおよび4.38mlのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを加えて、1時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物の入ったフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。30mlのトルエン、0.55mlのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、954mgのβ−D−リボフラノース1,2,3,5−テトラアセテートをこのフラスコに加えて、1.5時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、1.07gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(p−トルイルアゾ)グアノシン(化20の4)を得た。
【0180】
化20における4→5の反応:
1.07gの2’,3’,5’−O−アセチル−2−N−アセチル−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに15mlのメタノールおよび15mlのアンモニアのメタノール溶液を加えて、4時間にわたって60℃において攪拌した。反応後に、沈殿物をろ過によって回収し、メタノール洗浄して572mgのシス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシン(化20の5)を得た。
【0181】
(4−2)8−(p−トルイルアゾ)グアノシンの可逆的な光異性化反応
【0182】
【化21】

【0183】
(4−2−1)トランス体からシス体への光異性化反応
(4−1)において得られたトランス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンの濃度が25μMになるようにメタノールに溶解させて、ストック溶液を調製した。ストック溶液のうち200μlを1cm角の石英セルに移し、暗所において420nmの波長の可視光を照射して、吸収スペクトルの経時変化を測定することによってトランス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンの光異性化を評価した。ここでは、光源として(株)朝日分光のMAX−301を使用し、フィルタとして同社のM.C.420/10nmを使用した。この結果を図6(上段)に示す。図6(上段)に示すように、トランス−8−(p−トルイルアゾ)ゾグアノシンのシス体への光異性化にともなって、420nmの吸光度のピークが減少し、500〜600nmの吸光度が増加した。すなわち、可視光照射前にトランス体であったトランス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンが、ほぼ完全にシス体に光異性化したことがわかった。
【0184】
(4−2−2)シス体からトランス体への光異性化反応
(4−2−1)のストック溶液のうちの200μlを上述のようにシス体に異性化させてから、1cm角の石英セルに移し、暗所において550nmの波長の可視光を照射して、吸収スペクトルの経時変化を測定することによってシス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンの光異性化を評価した。ここでは、光源として(株)朝日分光のMAX−301を使用し、フィルタとして同社のM.C.550/10nmを使用した。この結果を図6(下段)に示す。図6(下段)に示すように、シス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンのトランス体への光異性化にともなって、420nmの吸光度のピークが増加し、500〜600nmの吸光度が減少した。すなわち、可視光照射前にシス体であったシス−8−(p−トルイルアゾ)グアノシンが、ほぼ完全にトランス体に光異性化したことがわかった。
【0185】
〔実施例5〕
(5−1)8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシンの合成およびそのDNAへの導入
【0186】
【化22】

【0187】
化22における1→2までの反応を、(3−1)における「化18におけるaの反応」に記載の通りに行って、1.61gの8−フェニルアゾグアニン(化22の2)を得た。
【0188】
化22における2→3の反応:
5.0gの8−フェニルアゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに75mlのDMAおよび8.2mlのイソ酪酸無水物を加えて、1時間にわたって150℃において加熱還流した。反応後に沈殿物をろ過によって回収し、メタノール洗浄して4.14gの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアニン(化22の3)を得た。
【0189】
化22における3→4の反応:
300mgの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾグアニンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに10mlのジクロロエタンおよび1.62mlのN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを加えて、1時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。反応物の入ったフラスコを減圧下における窒素置換を3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。10mlのトルエン、0.21mlのトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、358mgの25−デオキシ3,5−ジ−O−(p−トルオール)−D−リボフラノシルクロライドをこのフラスコに加えて、1.5時間にわたって80℃において加熱還流した。反応後に、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=97:3)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、342mgの3’,5’−O−トルオール−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’デオキシグアノシン(化22の4)を得た。
【0190】
化22における4→5の反応:
164mgの3’,5’−O−トルオール−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’デオキシグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに3.5mlのメタノール、6.5mlのピリジンおよび39.2mgのナトリウムメトキシドを加えて、アイスバスを用いて冷却しながら2時間にわたって攪拌し、その後に30分にわたって室温において攪拌した。反応後に、反応溶液を1Mの酢酸を用いて中和し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、61mgの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシン(化22の5)を得た。
【0191】
化22における5→6の反応:
61mgの2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに1.5mlのピリジン、3.4mgのジメチルピリミジンおよび4,4’−ジメトキシトリチルクロライド(46.8mg)のピリジン溶液を加えて、2時間にわたって室温において攪拌した。反応後にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、44mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシン(化22の6)を得た。
【0192】
化22の6→7の反応:
44mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧下における窒素置換3回にわたって繰返して系内を十分に窒素に置換した。この2口ナス型フラスコに0.5mlのピリジン、1mlのアセトニトリルおよび0.021mlの2−シアノエチル−N,N,N’,N’−テトライソプロピルフォスフォロジアミダイトのピリジン溶液を加えて、1.5時間にわたって室温において攪拌した。反応後にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=95:5)によって精製した。目的物を含むフラクションを回収し、展開溶媒を除去して、37mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−[2−シアノエチル(N,N−ジイソプロピルアミノ)フォスフィノ]2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシン(化22の7)を得た。
【0193】
フォトクロミック塩基のDNAへの導入:
5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−[2−シアノエチル(N,N−ジイソプロピルアミノ)フォスフィノ]2−N−イソブチル−8−フェニルアゾ−2’−デオキシグアノシンをDNA自動合成機にセットしてオリゴマーを合成した。当該オリゴマーは、5’−TCAGTTXCGACA−3’の配列によって表され、当該配列のXの部分に人工塩基が導入されている。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明は、生物学的分野および医学分野、特に再生医療技術などへの応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’キャップ構造、ならびに5’側の開始コドンおよび3’側の終止コドンを両端に有している翻訳領域を含んでいるRNAであって、
プリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I):
【化1】

(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、同一であるか、または異なる2つのXがCHまたは窒素原子を表し、ここでCHラジカルのHがアルキルによって置換され得る)
によって表される基が結合しているヌクレオシド化合物が、上記RNAの5’キャップ構造および5’末端から10塩基までの塩基から選択される位置に導入されている、RNA。
【請求項2】
上記式(I)におけるXが窒素原子である、請求項1に記載のRNA。
【請求項3】
上記式(I)におけるAがアリール基またはヘテロアリール基であり、当該基に含まれている環が5〜30の原子数を有している、請求項1または2に記載のRNA。
【請求項4】
上記式(I)におけるAが置換または非置換のナフチル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のRNA。
【請求項5】
上記ヌクレオシド化合物が、グアノシン誘導体、アデノシン誘導体、シトシン誘導体およびウラシル誘導体からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のRNA。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のRNAからのタンパク質の産生量を制御する方法であって、
上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってトランス型からシス型にする波長を有している第1の光、および/または上記ヌクレオシド化合物の構造を、その照射によってシス型からトランス型にする、第1の光の波長と異なる波長を有している第2の光を、上記RNAに照射する工程を包含している、方法。
【請求項7】
上記RNAを細胞に導入する工程をさらに包含しており、
照射する上記工程が、上記第1の光および/または上記第2の光を、上記RNAが導入されている当該細胞に照射する工程である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
照射する上記工程において、上記第1の光、上記第2の光の順に照射するか、または上記第2の光、上記第1の光の順に照射する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
照射する上記工程が、上記RNAが導入された当該細胞の局所に、上記第1の光を照射する工程である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
光を照射する上記工程が、上記第1の光の照射と同時に、上記局所以外の領域に上記第2の光をさらに照射する工程である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記第1の光の照射後に、上記局所を含んでいる領域に上記第2の光を照射する工程をさらに包含している、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
上記第1の光および/または上記第2の光が可視光である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記局所の大きさが直径約1〜5μmである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
プリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子に、式(I’):
【化2】

(ここで、Aがアリール基またはヘテロアリール基を表し、#がプリン核の8位またはピリミジン核の5位もしくは6位の炭素原子との結合位置を表し、2つのXが、同一であり、窒素原子を表す)
によって表される基が結合している、ヌクレオシド化合物。
【請求項15】
グアノシン誘導体、アデノシン誘導体、シトシン誘導体およびウラシル誘導体からなる群から選択される、請求項14に記載のヌクレオシド化合物。
【請求項16】
式(I’)におけるAは、アリール基またはヘテロアリール基であり、当該基に含まれている環が5〜30の原子数を有している、請求項14または15に記載のヌクレオシド化合物。
【請求項17】
式(I’)におけるAは、置換または無置換のフェニル基である、請求項14〜16のいずれかに記載のヌクレオシド化合物。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207863(P2011−207863A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33996(P2011−33996)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構「光応答性核酸による単一細胞内での光遺伝子制御」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】