説明

ネオジムの回収方法

【課題】ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを低コストで回収することのできる方法を提供する。
【解決方法】本発明は、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを回収する方法であって、前記製品を破砕する破砕工程と、酸及び塩化第二鉄のうち少なくとも一方を含む溶解液中に前記破砕工程で得られた破砕物を浸漬させる浸漬工程と、を有することを特徴とする。前記溶解液は、塩酸を含むことが好ましい。前記製品は、パソコンのハードディスクであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石は、鉄、ネオジム、及びホウ素を主成分とする希土類磁石の一つであり、永久磁石のうちでは最も強力とされている。ネオジム磁石は、その特性ゆえに、様々な製品、例えば、パソコンのハードディスク、CDプレーヤー、携帯電話、冷蔵庫、エアコン、ハイブリッドカー、NMR、MRI等に使用され、今後の更なる需要増加が見込まれている。しかし、ネオジムは産出地が特定の地域や国に偏在していることから供給リスクが高く、製品からの低コストでの回収・リサイクル技術の確立が強く望まれている。
【0003】
製品にはネオジム磁石以外の金属材料、特に鉄を主成分とする材料も多く組み込まれている。リサイクルのトータルコストを低く抑えるためには、製品からネオジム磁石に含まれる鉄(以下、「ネオジム磁石含有鉄」と略す)以外の鉄を極力回収しないことが重要であるが、ネオジム合金と鉄を主成分とする材料は比重などの性質が類似している事から、ネオジム磁石含有鉄とそれ以外の鉄との分離は困難とされている。
【0004】
製品からネオジムを回収・リサイクルする方法として、特許文献1には、使用済み製品を加熱してネオジム磁石の脱磁を行う加熱脱磁工程と、加熱脱磁後、製品を破砕してネオジム磁石を微細化する破砕工程と、破砕後、磁着物と非磁着物とに分離する磁選工程と、磁選後、磁着物を粗粒子群と微粒子群とに篩分けし、前記破砕工程により微細化したネオジム磁石を微粒子群として選別する第1の篩分工程と、第1の篩分工程の後、微粒子群を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程により粉砕されたものを、粗粒子群と微粒子群とに篩分けし、粉砕により微細化したネオジム磁石を微粒子群として選別してネオジム合金を回収する第2の篩分工程と、を備えたネオジム磁石のリサイクル方法が開示されている。
ネオジム磁石含有鉄以外の鉄を極力回収しないためには上記のような方法が必要とされる。また、ここで回収されたネオジム合金からネオジムを抽出するためには、酸で溶解した後に溶媒抽出などによる精製が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−192575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献1に開示された方法では、加熱脱磁工程、破砕工程、磁選工程、第1の篩分工程、粉砕工程、及び第2の篩分工程という多数の工程を経なければならない。このように、従来のネオジムの回収方法は、多数の工程が必要であり、コストが高くなってしまうという実用上の課題をかかえていた。
【0007】
そこで本発明は、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを低コストで回収できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なったところ、製品を破砕するとその中に組み込まれているネオジム磁石にも同時に破砕が起こり、このネオジム磁石破砕物は製品に含まれる他の金属材料、特に鉄を主成分とする材料(例えば炭素鋼製のヨークなど)と比べて、酸や塩化第二鉄水溶液に対する溶解速度が極めて速いこと、即ち溶解時間を調整すればネオジム磁石含有鉄以外の鉄を極力回収せずにネオジムを回収できることを発見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを回収する方法であって、前記製品を破砕する破砕工程と、酸及び塩化第二鉄のうち少なくとも一方を含む溶解液中に前記破砕工程で得られた破砕物を浸漬させる浸漬工程と、を有することを特徴とするネオジムの回収方法である。
【0010】
前記溶解液は、塩酸、硫酸、及び硝酸のうち少なくとも1つを含むことが好ましく、塩酸を含むことが最も好ましい。酸濃度は低いほど溶解速度が低下することから、工業的には1質量%以上の酸であることが好ましい。
前記製品は、パソコンのハードディスクであることが好ましい。
溶解時間は、溶解液中の鉄とネオジムの濃度を測定しネオジム溶解量が一定となった時間により設定すれば良い。溶解時間に達した後に固液分離を行えばネオジム磁石含有鉄以外の鉄を極力回収せずにネオジムを回収することが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを低コストで回収できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態ついて詳細に説明する。
本発明は、ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを回収する方法であって、前記製品を破砕する破砕工程と、酸及び塩化第二鉄のうち少なくとも一方を含む溶解液中に前記破砕工程で得られた破砕物を浸漬させる浸漬工程を有することを特徴とするネオジムの回収方法である。
【0014】
本発明における「製品」とは、ネオジム磁石が組み込まれている製品全般のことを意味する。その具体例として、パソコンのハードディスク、CDプレーヤー、携帯電話、冷蔵庫・エアコンなどの家電製品、ハイブリッドカー、NMR、MRI等を挙げることができる。本発明における「製品」は、使用済みの製品であってもよいし、使用可能な状態の製品であってもよい。
【0015】
本発明における「製品」は、ネオジム磁石が組み込まれている製品の全部であってもよいし、その一部であってもよい。例えば、「製品」は、ネオジム磁石が組み込まれている冷蔵庫であってもよいし、その冷蔵庫に使用されているモータ等の部品であってもよい。要するに、ネオジム磁石が組み込まれている物品であれば、本発明の「製品」に該当しうる。
【0016】
例えばパソコンのハードディスクには、ヘッドを駆動するためのアクチュエータにネオジム磁石が用いられており、ヨーク等には、炭素鋼などのネオジム合金以外の金属材料が用いられている。
【0017】
従来の方法では、使用済みのハードディスクからネオジムを回収するためには、ネオジム合金と、それ以外の金属材料、特に鉄を主成分とする材料とを予め手作業によって分別する必要があった。あるいは、加熱による消磁、磁選、篩い分け等の多数の工程によって、ネオジム磁石とそれ以外の金属材料とを分別する必要があった。
【0018】
本発明の方法では、ネオジム磁石が組み込まれている製品(例えばハードディスク)を破砕した後、得られた破砕物を酸及び塩化第二鉄(FeCl)のうち少なくとも一方を含む溶解液中に浸漬させることでネオジム磁石含有鉄以外の鉄を極力溶出させずにネオジムを溶出させることが出来る。溶出したネオジムは公知の方法、例えば水酸化ナトリウムを加えて鉄を水酸化鉄として分離した後、更に水酸化ナトリウムを加えてネオジムを水酸化ネオジムとして回収し、溶媒抽出及び電解によりネオジム金属を得ることができる。
【0019】
本発明の方法は、製品を破砕する破砕工程を含む。
製品を破砕するための手段は特に制限するものはなく、一軸破砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の公知の破砕手段を用いて破砕することができる。
【0020】
また、本発明の方法は、酸及び塩化第二鉄のうち少なくとも一方を含む溶解液中に破砕工程で得られた破砕物を浸漬させる浸漬工程を含む。
溶解液は、塩酸、硫酸、及び硝酸のうち少なくとも1つを含むことが好ましく、塩酸を含むことが最も好ましい。酸濃度は低いほど溶解速度が低下することから、工業的には1質量%以上の酸(例えば塩酸)であることが好ましい。
溶解液の温度は高い方が好ましいが、特に制限するものではなく、例えば10〜20℃の低温の溶解液を用いることもできる。
【0021】
本発明によれば、加熱消磁、磁選、篩い分け等の多数の工程を経ることなく、ネオジム磁石が組み込まれている製品からネオジムを回収することが可能である。すなわち、ネオジム磁石含有鉄とそれ以外の鉄とを分離するための工程を経ることなく、ネオジム磁石が組み込まれている製品からネオジムを回収することが可能である。したがって、従来よりも低コストで製品からネオジムを回収することが可能である。
【0022】
上記のような方法によってネオジムを回収することのできる理由は、以下の通りである。
塩酸を含む溶解液中にネオジム合金または鉄材料を浸漬させた場合、以下の式(1)及び(2)の反応が発生する。
Fe + 2HCl → FeCl + H↑ …(1)
Nd + 3HCl → NdCl + 3/2H↑ …(2)
【0023】
塩化第二鉄を含む溶解液中にネオジム合金または鉄材料を浸漬させた場合、以下の式(3)及び(4)の反応が発生する。
Fe + 2FeCl → 3FeCl …(3)
Nd + 3FeCl → 3FeCl + NdCl …(4)
【0024】
製品を破砕するとその中に組み込まれているネオジム磁石(ネオジム合金) は焼結金属であるため、ネオジム磁石も同時に破砕が起こったが、それ以外の金属材料、特に鉄を主成分とする材料は変形するのみで破砕は起こらなかった。ネオジム合金は破砕と同時に粉化し、その後に自らの磁力により塊化した。破砕前に加熱消磁を行った場合には塊化が起きないため破砕時にネオジム合金粉の飛散が生じ、ネオジムの回収率が低下する問題が起こった。また、破砕後に行った溶解での現象より、破砕による温度上昇などによりネオジム磁石破砕物(合金粉)の表面には酸化が起こり破砕前の状態とは大きく異なっていると考えられた。
このネオジム磁石破砕物は、製品に含まれる他の金属材料(例えば炭素鋼製のヨークなど)と比べて、酸や塩化第二鉄水溶液に対する溶解速度が極めて速い、即ち溶解時間等の条件を調整すればネオジム磁石含有鉄以外の鉄を極力回収せずにネオジムを回収することが出来ると分かった。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1について説明する。
実施例1では、まず、パソコンのハードディスク破砕物(鉄、ケイ素が主成分であり次いでネオジムを6.8%含むもの)100gを、液温50℃の20%塩酸(%は「質量%」である。以下同じ。)1000gに4時間浸漬させた後、吸引ろ過により溶解後液と残渣を分離した。破砕物中のネオジム磁石以外の金属材料(ヨーク等)はその形状を維持したまま残渣となっていた。また、残渣を分析した結果、鉄、ケイ素が主成分であり、ネオジムは0.1%以下となっていた。
【0026】
溶解後液の分析により、溶解後液中の鉄濃度は2.7%、ネオジム濃度は0.80%であり、ネオジムと鉄の溶解量比は0.30であった。一般的に、ネオジム磁石中の鉄濃度は約70%、ネオジム濃度は20〜30%であり、ネオジムと鉄の比は0.29〜0.43である。つまり、溶解後液中のネオジムと鉄の比は、ネオジム磁石中のそれとほぼ同じであった。ネオジム磁石含有鉄以外の鉄をほぼ溶解していないと考えられる。
また、同条件にて試験を行い同様の結果を得た。
【0027】
以上の結果より、ハードディスク破砕物中に含まれるネオジム合金を塩酸によって選択的に溶解させることができると確認できた。
【0028】
(実施例2)
以下、本発明の実施例2について説明する。
実施例2では、パソコンのハードディスク破砕物(鉄、ケイ素が主成分であり次いでネオジムを6.8%含むもの)100gを、液温50℃の38%塩化第二鉄水溶液1000gに4時間浸漬させた後、吸引ろ過により溶解後液と残渣を分離した。破砕物中のネオジム磁石以外の金属材料(ヨーク等)はその形状をほぼ維持したまま残渣となっていた。残渣を分析した結果、鉄、ケイ素が主成分であり、ネオジムは2.0%となっていた。
【0029】
溶解後液の分析により、ネオジムと鉄の溶解量比は0.25と分かりネオジム合金含有鉄以外の鉄を僅かに溶解したが、ネオジム合金を塩化第二鉄水溶液によって選択的に溶解させることができたと考えられる。
また、同条件にて試験を行い同様の結果を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果を見れば分かる通り、溶解液として塩酸を用いた場合の方が、塩化第二鉄水溶液を用いた場合よりもネオジムの溶解速度が速いことがわかった。また、塩化第二鉄液では酸化物を溶解出来ないことより、ハードディスク破砕物中のネオジム磁石合金粉の表面は酸化していると考えられる。
【0032】
ハードディスク破砕物に含まれるネオジム磁石のほぼ全量を溶解させるためには、溶解液は塩酸を含む方が好ましいことが分かった。
【0033】
(実施例3)
以下、本発明の実施例3について説明する。
実施例3では、パソコンのハードディスク破砕物100gを、液温50℃の20%塩酸1000gに浸漬させ、所定時間毎に液量を測定すると共に、液の一部を採取・固液分離した。そして、液中の鉄とネオジム濃度を分析し溶解量を算出した。結果を図1に示す。
【0034】
ネオジムの溶解量は3時間経過まで増加したが以降は一定となった。鉄の溶解量は3時間経過まで増加の傾きは大きかったが以降の増加は緩やかになった。以上の結果、ネオジム溶解量と鉄溶解量の比より、ネオジム磁石破砕物の溶解が3時間経過までに終了し、以降はネオジム磁石以外の材料からの鉄の溶解のみが緩やかに起こっていると考えられる。即ち、ネオジム合金含有鉄以外の鉄を極力回収せずにネオジムを回収出来ると分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム磁石が組み込まれた製品からネオジムを回収する方法であって、
前記製品を破砕する破砕工程と、
酸及び塩化第二鉄のうち少なくとも一方を含む溶解液中に、前記破砕工程で得られた破砕物を浸漬させる浸漬工程と、を有することを特徴とする、ネオジムの回収方法。
【請求項2】
前記溶解液は塩酸を含む、請求項1に記載のネオジムの回収方法。
【請求項3】
前記製品は、パソコンのハードディスクである、請求項1または請求項2に記載のネオジムの回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224938(P2012−224938A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96407(P2011−96407)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】